児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

東京地方検察庁検事駒井彩「弁護人が公判で展開するケースセオリーを予測して捜査を行ったことで有罪判決が得られた事例」捜査研究804号

 どっかでみた事件だなあ

第1 はじめに
現在の刑事裁判においては,広く証拠開示が行われるようになり,捜査段階で作成された証拠の多くが開示の対象となっている。
そして,弁護人は,公判段階において, 開示を受けたあらゆる証拠を検討した上で,被告人にとって最も都合がよく,かつ証拠と矛盾しない主張(いわゆる「ケースセオリー」)を行う。そのため,捜査段階においては,証拠開示を受けた弁護人や被告人がどのような弁解や主張を行うのかあらかじめ想定しつつ捜査を行うことが必要となる。
さらに,弁護人は,被害者や目撃者等の検察側証人の供述についても,開示を受けたあらゆる証拠(供述調書に限らず,再現報告書や聴取結果報告書も含む。)を検討し,供述の変遷があれば,当該供述には変遷があり信用できないと主張するため,被害者供述や目撃者等の供述について変遷の有無,変遷があるとしてその変遷が合理的なのかどうかについてよく検討を行う必要がある。
本稿では,捜査段階において,上記のような点に留意し,十分な捜査や手当を行ったことで,適正な判決を得ることができた事例について紹介する。
なお,本稿において意見にわたる部分は,筆者の私見であり,全ての事件に妥当するものでもなく, あくまでも一例である。
そして,事案の内容等については,分かりやすさの観点から,一部省略している。
第2事案の概要
被告人と被害者(当時17歳)は, 出会い系サイトで知り合い,平成○年3月7日午前2時30分頃,被告人が被害者宅まで自動車(以下「車」という。)で迎えに行き,初めて面会し, ドライブに出掛けたが,その後被告人は,車を停止させ,被害者に対し, 「どつくぞ。」などと脅迫して,被害者に口淫をさせたり,被害者の胸をなめるなどした(以下「①事件」という。)。
被告人は,わいせつ行為後も,被害者が素直に口淫に応じなかったことに腹を立てていたことから,被害者に対し, 「その目,気に食わんから焼いてもたる。」などと言って,被害者の目に火のついたタバコを近づけた上, 「事務所連れて行く。」「おまえ一人殺したって,どうってことないねんぞ。」などと言って被害者を脅迫した(以下「②事件」という。)。
被害者は,車の中から母親に電話を掛けて助けを求めた上,車が信号待ちで停車した隙に車内から逃走し,走って近所のコンビニエンスストアに逃げ込み,同店店員に助けを求めた。
被害者は,同店員の110番通報により駆け付けた警察官に対し,①②事件の被害申告をした。
警察官は,被害申告直後の被害者の胸から微物を採取してDNA型鑑定等を行った上,事件発生から約lか月後に被告人を逮捕した。

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(1)本件の問題点
前記のような証拠関係からは,①②事件当時,被告人が被害者の胸をなめたこと(若しくは,胸に唾液が付着するような身体的接触があったこと)や,①②事件直後に被害者が恐慌状態に陥っていたことが明らかであり,被害者の供述の信用性に疑いを生じさせるような事情はなく,被害者の供述には信用性が認められるようにも思える。
しかし,本件は,出会い系サイトで知り合った男女が深夜に密会する中で発生した事件であり,被告人や弁護人からは, 「車内で同意の下(若しくは同意があると誤信した状況)でわいせつ行為を行い,その後トラブルになり,脅迫はしていないものの口論になった末,被害者が車を降りてどこかに行ってしまった。」などと弁解される可能性があった。このような弁解がなされた場合,前記各証拠は,被告人の弁解とも矛盾しないこととなり,問題となる。
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第5 おわりに
本件では,捜査段階で被告人の弁解を固定していたことにより,公判段階で証拠開示を受けた上で証拠とのつじつまを合わせてきた被告人と弁護人の主張を容易に排斥することができた。
また,被害者の供述の変遷についてもあらかじめ問題点を検討し,公判担当検察官に引継ぎを行い,公判担当検事が適切な対応をしたことから,被害者供述の信用性が問題なく認められた。
そして,本件では,逮捕直後から被告人が出房拒否となり,取調べが難航した上,前記で紹介した以外の問題点もあったが,捜査担当の警察官において,粘り強い取調べを実施するとともに,幅広い補充捜査を実施したことによって,被告人を起訴することができ,適切な判決を受けることができた。
捜査担当の警察官に対しては, この場を借りて感謝を申し上げたい。
(こまいあや)