児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

製造罪・所持罪の出番が無くなる話。

 掲示板作って、陳列しようと児童ポルノ画像を製造とか所持していたら、公然陳列罪の着手もしていたことになるわけですから、製造も所持罪も陳列罪に吸収されますよね。

上告理由補充書

 本件原判決と矛盾する東京高裁H16.6.23を入手したので、罪数判断に関する上告趣意を補充する。

1 児童ポルノ各罪の構造
 児童ポルノ各罪の目的から分析すると、児童ポルノの罪は次のような構造である。
Ⅰ 製造目的人身売買等
  製造の前段階としての人身売買を処罰するもの

Ⅱ 頒布・販売・貸与・公然陳列目的製造・所持・運搬等
 頒布・販売・貸与・公然陳列の前段階としての製造・所持・運搬を処罰するもの

Ⅲ 頒布・販売・貸与・公然陳列
 目的を問わず、頒布・販売・貸与・公然陳列行為そのものを直接禁止するもの

 児童ポルノの流通過程に分けて、同種の行為類型として、禁止する行為をグループ分けしている。
 つまり、本法の究極の目的は、頒布・販売・貸与・公然陳列行為の禁止にあり、そのために、その前段階としての製造・所持・運搬が禁止され、さらに製造・所持・運搬の禁止をはかるためにその前段階の人身売買が禁止されていることは明白である。
 言い換えれば、法は頒布・販売・貸与・公然陳列行為による法益侵害(本丸格グループ)を最も重視し、その前段階・前々段階の行為(外堀)まで厳重に禁止しているのである。

 このことは改正刑法草案をみても明かである。
 実は、本法7条の規定は、改正刑法草案247条と酷似している。改正刑法草案の規定を先取りしたものであることはあきらかであるが、そこでも製造・運搬・輸入・輸出は、販売等の前段階の行為とされている。
改正刑法草案
第247条(わいせつ文書の頒布等−刑一七五)
(1)わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然展示した者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(2)前項の行為に供する目的で、わいせつな文書、図画その他の物を製造し、所持し、運搬し、輸入し、又は輸出した者も、前項と同じである。

 法制審議会「改正刑法草案の解説」P259
わいせつ物の頒布等について処罰規定を残す以上は、その内容を合理的なものとする必要があること、製造・運搬・輸入・輸出は、販売等の前段階の行為として所持と同等に評価することが出来る

 また、同じグループ分けの、
饒 製造目的人身売買等
饌 頒布・販売・貸与・公然陳列目的製造・所持・運搬等
饕 頒布・販売・貸与・公然陳列
は、児童ポルノの罪の中でも、特に類似の法的評価を受けるべき行為として、細分化されたものであるから、同じグループに属する行為は、同一の解釈を行うべきである。
 ここまでは刑事法の通説的理論であるから、法益の問題を抜きにして、異論はないであろう。
 このように、法は頒布・販売・貸与・公然陳列行為による法益侵害を最も重視し、その前段階の行為まで厳重に禁止しているとすれば、上記3罪の保護法益も共通である。
 つまり、
饒 製造目的人身売買等
饌 頒布・販売・貸与・公然陳列目的製造・所持・運搬等
饕 頒布・販売・貸与・公然陳列
の3罪は一体となって、本法の目的=法益保護を目指しているのである。まさに三位一体である。

 ちょうど、通貨偽造に関する罪の場合、行使の目的が構成要件とされていていることから、
     通貨偽造等準備(刑法153条)
     通貨偽造(刑法148条1項)
     偽造通貨等収得(刑法150条)
     偽造通貨行使(刑法148条2項)
行使を防止することが法の最終目的であり、そのために、その数段前段階の行為を禁止しており、それゆえ、行使罪も偽造罪も準備罪も同じ保護法益であるのと同様である。行使は対人的行為であるから、詐欺罪同様に個人的法益だと言う者はいない。この結論は各種偽造罪の場合でも共通である。
 しかも、刑法であれば、国家的法益・社会的法益・個人的法益について各種の罪が列挙されているからある罪が社会的法益か個人的法益か微妙な場合もあろうが、児童ポルノの罪は、児童買春・児童ポルノ法という特別法に、
第1条(目的)
この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。
という極めて限定された特別の目的を目指して、買春罪と並べて規定されているのであるから、製造・販売を問わず共通の保護法益であることは顕著である。

 さらに、同じグループ分けの、それぞれ
饒 製造目的人身売買等
饌 頒布・販売・貸与・公然陳列目的製造・所持・運搬等
饕 頒布・販売・貸与・公然陳列
は、児童ポルノの罪の中でも、特に類似の法的評価を受けるべき行為として、細分化されたものであるから、同じグループに属する行為は、保護法益についても同一の解釈を行うべきである。

2 東京高裁H16.6.23*1の理解
 公然陳列罪に関して東京高裁H16.6.23は、児童ポルノも存在しない時点の、掲示板開設行為に実行の着手時期があると判示した。
東京高裁H16.6.23
2当裁判所の基本的な判断
(1)本件で問題とされているのは,児童ポルノの陳列であるが,陳列行為の対象となるのは,前記のような児童ポルノ画像が記憶・蔵置された状態の本件ディスクアレイであると解される。
(2)原審以来被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり,不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら,これを放置して公然陳列したことである。そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーバーコンピュータによる本件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる。したがって,この陳列行為が作為犯であることは明らかである。そして,原判示の被告人の管理運営行為は,この陳列行為を開始させてそれを継続させる行為に当たり,これも陳列行為の一部を構成する行為と解される。この行為の主要部分が作為犯であることも明らかである。確かに,被告人が,本件児童ポルノ画像を削除するなど陳列行為を終了させる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解されるが,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される。なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に悠憑・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。
(3)被告人の故意は,前記認定から明らかなように未必的な故意であって,本件陳列行為開始時点からあったと認定でき,この点の原判決の判断は正当である。

 掲示板管理者自身は児童ポルノ画像を投稿も製造も所持もしていないから、児童ポルノ陳列目的の「製造」「所持」以前に陳列罪の実行行為が開始されたことになる。
 つまり、
  陳列目的製造→陳列目的所持→陳列
という一連の陳列行為への前提行為・準備行為よりも前に、陳列罪の着手があるのだから、
  陳列目的製造→陳列目的所持→陳列
という一連の陳列行為への前提行為・準備行為は、陳列罪が既遂となった時点で、陳列罪に吸収されることになる。

 ところで、本件の原審は、罪数や包括評価の可否についてこのように判示しており、東京高裁H16.6.23と矛盾する。
東京高裁H15.6.4
 まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この童法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。

 販売罪も陳列罪も本丸格の行為であるから、東京高裁H16がただしいとすれば、被告人が被害児童を誘いだした時点で販売罪の着手があり、販売罪は後に既遂となるから、製造罪・所持罪は、販売罪に吸収されて全体として販売罪1罪が成立することになる。
 原判決は罪数判断について判例違反があるから破棄を免れない。

 余談だが、これほど罪数判断にブレがある法律も珍しい。法文上からは「販売罪」は消滅し、公然陳列罪の実行行為も迷走を始めた。最高裁にはいい加減解釈を示さなければならない。
以上