児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

中学生が、ふんどし姿で乱舞しながら無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る画像は、「正当な理由」がなければ、「対象性的姿態等」(2条1項4号)だけど、16歳以上の場合は、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているもの」だから「対象性的姿態等」に該当しない(2条1項1号)

 中学生が、ふんどし姿で乱舞しながら無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る画像は、「正当な理由」がなければ、「対象性的姿態等」(2条1項4号)だけど、16歳以上の場合は、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているもの」だから「対象性的姿態等」に該当しない(2条1項1号)。

https://article.auone.jp/detail/1/2/2/101_2_r_20240111_1704939142069375
地元の中学生から34歳までの男性が、ふんどし姿で乱舞しながら無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る勇壮な祭りだ。

 ふんどしが下着だとすると、「人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」だから、無条件で「性的姿態等」ですね。法務省の説明では祭礼の上半身裸くらいであれば「正当理由あり」となりそうですが
 児童ポルノ法でいえば、2条3項3号(衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの)で、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」が要件になる。

(性的姿態等撮影)
第二条
1 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
2 前項の罪の未遂は、罰する。

 法務省の説明では、上半身裸であれば、正当理由とされる可能性があるようです。

法務省逐条説明
(4) 16歳未満の者を対象とする撮影行為(第4号)
刑法第176条第1項においては、16歳未満の者は、性的行為を行うかどうかについて有効に自由な意思決定をする能力が備わっているとはいえないことに着目し、
○ 13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者
○ 13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者がわいせつな行為をした者
について強制わいせつ罪が成立することとしている。
自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での撮影対象者の性的自由・性的自己決定権を保護法益とする性的姿態等撮影罪についても、16歳未満の者には、性的な姿態の撮影行為に応じるかどうかについて有効に自由な意思決定をする能力が備わっているとはいえないと考えられ、こうした者を対象とする撮影行為は、その者の自由な意思決定に基づくものとはいえず、保護法益を侵害すると考えられる。
そこで、本号においては、「16歳未満の者」を対象とする撮影行為を処罰することとしている。
なお、例えば、親が子供の成長の記録として、寝ている子供や水遊びをしている子供の上半身裸の姿を撮影する行為などが典型的に想定されるところであり、そのような行為が処罰対象とならないことを明示する必要があると考えられることから、「正当な理由がない」ことを要することとしている。

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html#Q4-2
Q4  性的姿態等撮影罪で処罰されないこととなる「正当な理由」とは、どのようなものですか。

A4 性的姿態等撮影罪においては、A3で述べたとおり、
 ○ ひそかに撮影する行為
 ○ 16歳未満の者に対する撮影行為
について、「正当な理由がないのに」そのような撮影行為をしたことが要件とされています。
 性的姿態等をひそかに撮影する行為について「正当な理由」がある場合としては、例えば、
 ○ 医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療行為上のルールに従って撮影する場合
などが考えられます。
 16歳未満の者に対する撮影行為について「正当な理由」がある場合としては、例えば、
 ○ 親が、子どもの成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で、水遊びをしている子どもの姿を撮影する場合
 ○ 地域の行事として開催される子ども相撲の大会において、上半身裸で行われる相撲の取組を撮影する場合
などが考えられます。

18歳未満の児童を対象としたいわゆる乱交パーティー等を主催する中で被害児童らを複数の顧客に繰り返し引き合わせるなどしており職業的犯行といえること、5名の児童に対する合計8回に渡る児童買春の周旋、2名の児童に対する多数の児童ポルノの製造に及ぶと共に3名の児童に対して自ら児童買春した事例(京都地裁r05.7.13)

18歳未満の児童を対象としたいわゆる乱交パーティー等を主催する中で被害児童らを複数の顧客に繰り返し引き合わせるなどしており職業的犯行といえること、5名の児童に対する合計8回に渡る児童買春の周旋、2名の児童に対する多数の児童ポルノの製造に及ぶと共に3名の児童に対して自ら児童買春した事例(京都地裁r05.7.13)
 児童買春周旋罪は引き合わせれば既遂。
 提供目的製造罪は、数回行われても児童ごとに一罪となっています。

京都地方裁判所
令和05年07月13日
主文
被告人を懲役2年及び罰金200万円に処する。
未決勾留日数中60日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは、1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は
第1 別紙記載の被害児童A及び別紙記載の被害児童Bが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年6月4日午前11時02分頃から午後0時34分頃までの間に、F市G区(以下略)H201号室において、被害児童A及びBに対し、それぞれ現金1万円の対償を供与する約束をして、被害児童A及びBと性交し(令和4年12月28日付け起訴状記載の公訴事実第1)、
第2 業として
 1 被害児童A及び被害児童Bが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年6月4日午後0時34分頃から午後0時39分頃までの間に、F市G区(以下略)H201号室において、I、J、K、L、M及びNから被害児童A及びBと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童A及びBをI、J、K、L、M及びNに引き合わせ、
 2 別紙記載の被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年7月1日午後1時41分頃から午後3時50分頃までの間に、F市O区(以下略)Q417号室において、L及びNから被害児童Cと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童CをL及びNに引き合わせ、
 3 別紙記載の被害児童Dが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年8月12日午後3時12分頃から午後5時12分頃までの間に、R市S区(以下略)Tにおいて、Mから被害児童Dと性交等をさせることの対償として現金約5万円を受ける約束の下、被害児童DをMに引き合わせ、
 4 被害児童C及び被害児童Dが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年8月15日午後3時09分頃から午後6時45頃までの間に、F市aa区(以下略)abビル403号において、ac、ad、J、K及びNから被害児童C及びDと性交等をさせることの対償として現金を受ける約束等の下、被害児童C及びDをac、ad、J、K及びNに引き合わせ、
 5 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年8月19日午後4時頃から午後7時頃までの間に、Q417号室において、ae、J、N及びMから被害児童Cと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童Cをae、J、N及びMに引き合わせ、
 6 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年9月4日午後2時11分頃から午後3時27分頃までの間に、Q内において、J及びNから被害児童Cと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童CをJ及びNに引き合わせ、
 7 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年9月21日午後2時24分頃から午後2時42分頃までの間に、Q301号室において、adから被害児童Cと性交等をさせることの対償として現金約2万4500円を受け、被害児童Cをadに引き合わせ、
 8 別紙記載の被害児童Eが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年9月24日午後7時30分頃から午後8時30分頃までの間に、R市af区(以下略)ag105号において、adから被害児童Eと性交等をさせることの対償として現金2万円を受け、被害児童Eをadに引き合わせ(令和5年5月1日付け訴因変更請求書により変更後の令和4年11月22日付け起訴状記載の公訴事実及び令和4年12月28日付け起訴状記載の公訴事実第2)、
第3 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年6月6日午前9時26分頃から午前11時27分頃までの間に、F市ah区(以下略)ai502号室において、被害児童Cに対し、現金2万円の対償を供与する約束をして、被害児童Cと性交し(令和5年2月20日付け起訴状記載の公訴事実第1)、
第4 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、他人に提供する目的で、別表1記載のとおり、令和4年6月6日午前10時05分頃から8月19日午後6時26分頃までの間に、ai502号室ほか2か所において、被害児童Cの性器が露出した姿態等を被告人が使用するスマートフォン2台で撮影し、その静止画データ12点及び動画データ8点をスマートフォン2台の内臓記録装置に記録させて保存し(令和5年2月20日付け起訴状記載の公訴事実第2)、
第5 被害児童Dが18歳に満たない児童であることを知りながら、他人に提供する目的で、別表2記載のとおり、令和4年8月16日午後1時57分頃から午後5時48分頃までの間に、abビル403号において、被害児童Dの乳房が露出した姿態等を被告人が使用するスマートフォン2台で撮影し、その静止画データ5点及び動画データ1点をスマートフォン2台の内臓記録装置に記録させて保存し(令和5年2月28日付け起訴状記載の公訴事実)
たものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
 第1、第3の各行為 いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条、2条2項1号
 第2の行為 同法5条2項、2条2項2号
 第4、第5の各行為 いずれも同法7条3項前段、2項前段、2条3項1号、2号、3号
刑種の選択
 第1、第3ないし第5の各罪につき いずれも懲役刑を選択
併合罪加重 懲役刑につき刑法45条前段、47条本文、10条(重い第2の罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
労役場留置 刑法18条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 被告人は、18歳未満の児童を対象としたいわゆる乱交パーティー等を主催する中で被害児童らを複数の顧客に繰り返し引き合わせるなどしており職業的犯行といえること、5名の児童に対する合計8回に渡る児童買春の周旋、2名の児童に対する多数の児童ポルノの製造に及ぶと共に3名の児童に対して自ら児童買春にも及んでおり、被害児童の数や頻度等からして性的搾取の程度が相当に大きいこと、被害児童らの心身の健全な成長に深刻な悪影響を与えると懸念されること等からすると、その刑事責任は軽くない。
 そうすると、各事実を認めて反省の態度を示していること、古い罰金前科以外に前科がないこと、父親が今後の監督を誓っていること、10万円の贖罪寄付をしたこと、二度と法を犯すようなことはしないと述べていること等の被告人に有利な事情を考慮しても、その被害の大きさ等からすると刑の執行を猶予するのは相当ではなく、主文の実刑はやむをえない。
(求刑 懲役4年及び罰金200万円)
第3刑事部
 (裁判官 村川主和)

常習性とは行為者の属性と捉えるべきであるから、行為者が当該地方公共団体の区域外であっても、罰則をもって禁止されている違法な行為を繰り返していたという事実があれば、行為者にこの種違法な行為を繰り返す習癖、すなわち常習性を認めることができる。(名古屋地豊橋支判令和5年8月25日)

常習性とは行為者の属性と捉えるべきであるから、行為者が当該地方公共団体の区域外であっても、罰則をもって禁止されている違法な行為を繰り返していたという事実があれば、行為者にこの種違法な行為を繰り返す習癖、すなわち常習性を認めることができる。(名古屋地豊橋支判令和5年8月25日)
 じゃあA県での卑わい行為とB県での卑わい行為を常習一罪にしてもよさそうですね。東京高裁h17はどうする

裁判年月日 平成17年 7月 7日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(う)619号
事件名 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)違反、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違反被告事件
 2005WLJPCA07070006
判決理由
 本件控訴の趣意は,弁護人作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
 論旨は,要するに,被告人が,原判示第1の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)違反の罪及び原判示第2の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違反の罪といずれも常習一罪の関係にあるその後に犯した公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(愛知県条例)違反の罪について略式命令を受け,それが確定しているから,原判示各条例違反の罪は刑訴法337条1号にいう確定判決を経たときに帰するのに,被告人を免訴することなく有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかし,地方公共団体に認められた自治立法権条例制定権)の趣旨等に照らすと,地域を異にする別個の地方公共団体(埼玉県,東京都及び愛知県)の条例に違反する各罪を常習一罪として問う余地はないというべきであり,被告人を有罪とした原判決に訴訟手続の法令違反があるとはいえない。

愛知県迷惑行為防止条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、静岡県迷惑行為等防止条例違反被告事件
名古屋地豊橋支判令和5年8月25日D1-Law.com判例体系〔28312832〕
■28312832
名古屋地方裁判所豊橋支部
令和05年08月25日
理由
(罪となるべき事実)
第1 令和5年7月10日付け訴因変更請求書記載の事実(同事実中1記載の事実を第1の1、同2記載の事実を第1の2とする。)を引用する。
第2 同日付け起訴状記載の公訴事実を引用する。
(事実認定の補足説明)
 弁護人は、判示第2の事実について、要するに、静岡県内での盗撮の事実が1回のみであるから、静岡県迷惑行為等防止条例における常習盗撮罪は成立しない旨主張する。
 この点、常習性とは行為者の属性と捉えるべきであるから、行為者が当該地方公共団体の区域外であっても、罰則をもって禁止されている違法な行為を繰り返していたという事実があれば、行為者にこの種違法な行為を繰り返す習癖、すなわち常習性を認めることができる。
 本件についてみるに、判示第1によれば、被告人は、令和2年11月から令和5年3月までの間、合計14回にわたって、愛知県迷惑行為防止条例により罰則をもって禁止されている盗撮行為を繰り返していたのであるから、被告人にはこの種違法な行為を繰り返す習癖があるものといえる。弁護人の主張は、行為者の属性としてとらえるべき常習性の概念に、別次元の問題である条例の効力の場所的な限界を混同して議論するものであって、失当である。
 よって、静岡県内において盗撮目的で写真機等を設置し、映像に記録したという事実も、被告人の常習性が発露したものということができるから、判示第2のとおり認定した。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
 判示第1の所為のうち
  常習として盗撮した点(1及び2の事実)
  愛知県迷惑行為防止条例15条2項、2条の2第3項1号
  児童ポルノ製造(2の事実)
  児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、同条2項、2条3項3号
 判示第2の所為 包括して静岡県迷惑行為等防止条例12条2項、1項1号、3条2項(常習盗撮の点は、同条例12条2項、1項1号、3条2項、映像記録の点は同条例12条3項、1項1号、3条2項に該当するところ、これらの行為については包括一罪として常習盗撮の罪が成立すると判断した。)
科刑上一罪の処理
 判示第1の事実 刑法54条1項前段、10条(2の児童ポルノ製造と1及び2の常習盗撮の罪のうち2の盗撮の部分とはそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、結局1及び2の罪を一罪として刑及び犯情の重い児童ポルノ製造の罪の刑で処断する。)
刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)
執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項本文(負担)

自撮りで自分の陰部画像を送信する行為は、 性的姿態等影像送信罪か

 これは法文から「人の」というのは「他人の」を意味しますので、 自分の陰部画像を撮影しても性的姿態等に該当しません。
 自分の陰部画像送信は、わいせつ電磁的記録頒布罪とか、児童ポルノ提供(提供目的製造)が検討されます。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和五年法律第六十七号)
(性的姿態等撮影)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分

法務省逐条説明
第2章前説
【説明】
第2条から第6条までの各罪は、人の意思に反して性的な姿態を撮影したり、これにより生成された性的な姿態の記録を提供するといった行為がなされれば、当該記録の存在・流通等により、性的な姿態が当該姿態をとった時以外の機会に他人に見られる危険が生じ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じる危険があることから、それらの行為を処罰するものであり、その保護法益は、
〇自己の性的な姿態を他の機会(すなわち、当該姿態をとった時以外の他の機会)に他人に見られるかどうか
という意味での被害者の性的自由・性的自己決定権である

https://legal.coconala.com/lawyer/bbses#/68236
弁護士
2024年1月8日 16:47
東京都
送信行為を求めていたツイートを読んだことが「正当な理由」に該当しなければ、性的姿態等影像送信罪に該当するかと思います。

児童に裸体画像を送信させる行為は、「わいせつ行為」ではない。(広島高裁岡山支部H22.12.15 東京高裁H27.12.22)

児童に裸体画像を送信させる行為は、「わいせつ行為」ではない。(広島高裁岡山支部H22.12.15 東京高裁H27.12.22)
 送信させる行為は、児童ポルノ製造罪で取り込むしかありません。
 弁護人はこういう高裁判例で切り込めばちょっと軽くなるでしょう。

東京高裁H27.12.22
(1)強要罪が成立しないとの主張について
記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。

札幌高裁令和5年1月19日
第4 法令適用の誤りの論旨について
 1 所論は、①被告人が遠隔地にいるAに裸体を撮影させた行為は、性的侵
襲が弱く、それだけでは被告人は全く性的興奮を得られないから、性的意味合
いは皆無か、極めて薄く、わいせつな行為に該当しない、あるいは、強制わい
せつ未遂罪が成立するにとどまる、②原判決は、罪数処理の記載で、被告人
が、Aに撮影させた動画データを被告人に送信させて、保存・記録させ、被告
人がその動画を見たことまでわいせつ行為と評価しているが、これらはわいせ
つ行為にならないし、Aに撮影させた行為までであればわいせつ行為となり得
るとしても、Aに動画データを送信記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点
を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなる、③接触を伴う強制わ
いせつ罪においては、犯人が被害者の面前にいることが前提とされているか
ら、非接触の強制わいせつ罪においても、犯人が規範的にみて被害者の目の前
にいるといえなければ、わいせつな行為に当たらないと解されるところ、本件
では、要求行為に遅れて撮影行為がされており、規範的にみて被告人がAの目
の前にいるとはいえず、わいせつな行為に当たらない、④本件は、Aを利用し
た間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないとこ
ろ、Aは道具化しておらず、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は
成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪が成立するにとどまる、⑤原判決は本件
の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としているが、両罪は包括
一罪である、などと指摘して、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令適用の誤りがある旨主張する。
 2 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、
これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味
合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用で
きる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人
や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動
画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる
行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧す
ることになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性
は大きく、また、本件が、当時○○歳の男性である被告人が、SNSを通じて知
り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にす
ぎない当時13歳未満の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッ
セージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされ
たものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるか
ら、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立する
と判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画デー
タ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・
保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認めら
れず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含
めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自
の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのよう
な趣旨を判示したものとは解されない。)。
 ③については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わ
いせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の
面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、
その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人
や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の
性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
 ④については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある
場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するとこ
ろ、本件において被告人が当時8歳のAに対して行った行為がわいせつな行為
に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具性が
要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。
 ⑤については、本件において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを
撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は、Aに陰部等を露出した姿態
をとらせてこれを撮影させた上、その動画データを被告人のスマートフォン
送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させるという児童ポルノ製造
罪に当たる行為に包摂されていること、被告人は当初から撮影後に動画データ
を送信することも要求しており、撮影から送信、保存・記録までがほぼ同時刻
に行われていること、一般に本件のような態様のわいせつ行為は、撮影された
画像の内容を行為者等が知り得る状態に置くことを意図して行われるものと考
えられることも踏まえると、両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で
社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競
合とした原判決に誤りがあるとはいえない(なお、所論指摘の裁判例は、いず
れも本件とは事案を異にするものである。)。

https://www.sanspo.com/article/20231228-4FMPDTIFWRLP5CKPDD5IUDTRGA/
10代の男子生徒に自身の性的な画像を送信させたとして、東京地検は28日、不同意わいせつと映像送信要求などの罪で容疑者を起訴した
・・・
地検によると起訴内容は、今月2日、交流サイト(SNS)を通じて、同校の男子生徒にわいせつ画像を送るよう求め、携帯電話で撮影、送信させたとしている。

児童に児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせた上,ひそかにその姿態を撮影するなどした行為と同法7条5項の罪の成否 東京高裁r5.6.16

 理屈としては4項が正解だと思います。間違って5項製造罪にしちゃったときにごまかせるかという問題。大阪高裁r5で原審がエライ怒られてしまいまして。

  大阪高裁H28.10.26 4項説 控訴審弁護人は奥村。
  大阪高裁r5.1.24 4項説 控訴審弁護人は奥村。
  東京高裁r5.3.30 5項説 控訴審弁護人は奥村。
  東京高裁r5.6.16 5項説
  大阪高裁r5.7.27 5項説 上告中
  大阪高裁R5.9.28 5項説 控訴審弁護人は奥村。上告中

 寝ている児童をスマホを構えて撮影するのは「ひそかに」とは言えないと思いますが。

強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件令和 5年 6月16日 裁判所名 東京高裁
事件名 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2023WLJPCA06169002
主文

理由
 1 本件は、被告人が、当時7歳から12歳までの20名を超える児童に対し、わいせつな行為を行い、その状況を撮影するなどして児童ポルノを製造した事案である。
 弁護人米村哲生の控訴趣意は、法令適用の誤り、理由齟齬及び量刑不当の主張である。
 2 法令適用の誤り及び理由齟齬の論旨は、原判決が認定した犯罪事実のうち、「ひそかに、被告人が被害者の陰茎を手で触るなどの姿態を動画撮影する」などした行為(原判示第2の2、4、5、21)及び「ひそかに、被告人が被害者の陰茎を手で触るなどの姿態をとらせ、これを動画撮影する」などした行為(原判示第2の7、9、11、13、15)については、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項の罪が成立するから、同条5項の罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤り又は理由齟齬があるというのである。すなわち、同条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要すると解すべきであるところ、被告人は、前記各事件において、被害者らに所定の姿態をとらせて撮影するなどしたものであり、いずれについても同条4項の罪が成立するから、同条5項の罪は成立しないというのである。
 しかしながら、原審記録によれば、前記各事件は、いずれも、被告人が、各児童に所定の姿態をとらせた上、ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところ、これらについて、訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し、被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず、原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり、同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはない。所論は、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが、同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であれば、そのように解すべき合理的理由はなく、賛同できない。
 なお、検察官は、原判示第2の7、9、11、13、15の各事件について、同条5項の罪により公訴提起しつつ、ひそかに所定の姿態を動画撮影するなどした事実のほか、被告人が児童にその姿態をとらせた事実を公訴事実に記載し、原判決も、同条5項の罪の成立を認めた上で、公訴事実と同一の事実を認定・記載したものである。検察官の公訴提起が同条5項の罪によるものであることは明白であり、被告人が所定の姿態をとらせた旨の記載は、余事記載に当たるが、その記載は裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのあるものとはいえないし、その記載によって被告人の防御に支障を生じさせるものともいえないから、公訴提起の手続に違法があるとはいえない。また、原判決の被告人が所定の姿態をとらせた旨の認定・記載は、同条5項の罪の犯罪事実の記載としては不必要かつ不適切というべきであるが、同条5項の罪の犯罪事実は漏れなく認定・記載されており、法令の適用の記載からも同条5項の罪の成立を認めたことが明らかであるから、原判決に理由齟齬の違法があるとはいえない。
 法令適用の誤り及び理由齟齬の論旨は理由がない。
 4 よって、刑訴法396条、181条1項ただし書、刑法21条により、主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第5刑事部
 (裁判長裁判官 伊藤雅人 裁判官 島戸純 裁判官 江見健一) 

p108 判例タイムズNo.1514 2024.1
児童に児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせた上,ひそかにその姿態を撮影するなどした行為と同法7条5項の罪の成否
東京高裁r5.6.16
しかしながら, 原審記録によれば前記各事件はいずれも被告人が各児章に所定の姿態をとらせた上ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところこれらについて訴追裁醤を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり同条5項の罪の成立を詔めた原判決の法令の適用に誤りはない所論は同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが,同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であればそのように解すべき合理的理由はなく, 賛同できない。


[解説]
l 事案の概要
本件は,被告人が, 20名を超える13歳未満の児童に対し,強いてわいせつな行為を27件した上,そのうち19件に際して,児童の姿態を動画撮影するなどして児童ポルノを製造した事案である。
本件の児童ポルノ製造の公訴事実は, ① 10件は,児童に,被告人が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児菫買春処罰法」という。)所定の姿態をとらせ,これを動画撮影するなどしたというもの, ②4件は,ひそかに, 所定の児童の姿態を動画撮影するなどしたというもの, ③5件は,ひそかに,被告人が児童に所定の姿態をとらせ,これを動画撮影するなどしたというものであり, ①は児童買春処罰法7条4項の罪により, ②及び③は同条5項の罪により公訴が提起された。
第1審判決は,公訴事実どおりの事実を認定し,各罪の成立を認めた。
②及び③ における証拠によって認定できる具体的事実関係は,いずれも,就寝中の児童に対し,被告人が児童の陰部を露出させる姿態をとらせて動画撮影したというものであり,就寝中の児童を撮影したことが「ひそかに」撮影したものとされたものである。
2 控訴趣意及び本判決の判断
(1) 弁護人の控訴趣意は, ②及び③について,児童買春処罰法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており,同項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要すると解すべきであり,本件各事件においては被告人が児童らに所定の姿態をとらせて撮影するなどしたものであって, 同条4項の罪が成立するから,同条5項の罪は成立せず,同条5項の罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤り又は理由鮒船があるというものである。
(2) 本判決は, 訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し,被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず, 原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり, 同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはないとした上, 「同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要する」という所論について,それが同条4項令5.1.24判夕1512号136頁(同条5項の罪を認めた原判決を破棄し,訴因変更の上,同条4項の罪の成立を誇めた。),大阪高判令5.7.27 (公刊物未登載。本件と同様の事案について, 本件控訴趣意と同旨の控訴趣意を排斥して, 同条5項の罪を認めた原判決を維持した。)がある。
4 児童買春処罰法7条4項の罪に該当する事実の記載がある場合について本件のうち③ の公訴事実は,「ひそかに,被告人が児童に所定の姿態をとらせ, これを動画撮影するなどした」というものであり,同条5項の事実のみならず同条4項の事実を含んでいることから,本判決は,その公訴提起及び公訴事実どおりの犯罪事実を認定した原判決について付言している。
すなわち,本判決は,起訴状の記載から本件公訴提起が同条5項の罪によるものであることは明白であり,被告人が姿態をとらせた旨の事実の記載は,裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある(刑事訴訟法256条6項)ものとはいえないし,その記載によって被告人の防御に支障を生じさせるものでもないとして,公訴提起の手続に違法があるとはいえないとした。
そして, 原判決が姿態をとらせた旨の事実を認定し,犯罪事実として記載したことについては,児童買春処罰法7条5項の罪の記載としては不必要かつ不適切としながらも, 同条5項に該当する事実が認定・記載されていることや,その法令の適用の記載から同条5項の罪の成立を認めたことが明らかであるとして,こうした余事記載によっても原判決に理由麒甑の違法があるとはいえないとした。
5 本判決の意義等本件は,以上述べた点について最高裁判例はなく,理論的に意義が認認められ, 実務的にも参照価値が大きいと考えられる。

刑法の性犯罪(176条3項、177条3項)は16~17歳の者を「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響につい

刑法の性犯罪(176条3項、177条3項)は16~17歳の者を「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない」ことはない者として扱うのだから、青少年条例違反(淫行)の関係においても、思慮浅薄はないから、青少年条例違反(淫行)の罰則は廃止されたという主張



1 はじめに~青少年条例の補充性
 A県の青少年淫行罪は、基本的には、当時の刑法の性犯罪規定(176条後段、177条後段)が「13歳未満の者」とされてきたことに対応して13歳~17歳への性行為を規制していた。
 青少年淫行罪の趣旨は、青少年が能力不足・思慮浅薄であることを前提にして、成人が思慮浅薄につけ込んで「青少年を性の欲望の対象として取扱う大人の背徳的な行為を処罰する規定」と説明される。
 刑法との関係は、刑法の保護が及ばない年齢を保護するという補充的性格である。

A県青少年健全育成条例の解説r03
【解説】
青少年に対し、青少年の健全な成長を阻害するようなみだらな性行為やわいせつな行為を行うことを禁止するものであり、この規定に違反すると、第×× 条の規定により、2 年以下の懲役又は100 万円以下の罰金に処せられる。この規定については、青少年を性の欲望の対象として取扱う大人の背徳的な行為を処罰する規定であり、実効性をより高めるため、平成20 年の改正で罰則を条例で定め得る上限まで強化を図った。
本条は青少年を対象とした性行為やわいせつな行為のうち、健全な成長を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべきものを対象としており、その適用にあたっては、動機、手段及び態様並びに当該行為が青少年に与えた影響等を勘案した上で、客観的、総合的に判断されるべきである。
しかし、刑法では、13 歳未満の者に性交等をした行為には強制性交等罪が、また、わいせつな行為には、強制わいせつ罪が暴行又は脅迫を用いなくとも適用されるが、13 歳以上の青少年に対しては、暴行又は脅迫を伴う場合に限り適用されるなど、本条が設定されるまでは、13 歳以上の青少年に対するみだらな性行為やわいせつな行為については、法律上の規制が及ばない。

 ところで現行刑法(令和5年法律66号)においては、16歳未満との性行為は、不同意性交罪・不同意わいせつ罪とされる(177条3項 176条3項)。
 従前は13歳だったところ、16歳が性的承諾能力を備えることとされた理由について法務省はこのように説明する。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省
各条の第3項
(1) 総説
自由意思決定を有効にすることができるための能力の内実は、
○ 行為の性的な意味を認識する能力(以下「意味認識能力」という。)
○ 相手方からの影響にかかわらず、性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処する能力(以下「性的理解・対処能力」という。)
と整理することができる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられるところ、子供の発達段階に関する調査・研究や若年者を対象とした意識調査の結果等を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、16歳未満の者は、これらの能力の全部又は一部が十分でなく、有効に自由意思決定をする能力が十分に備わっているとはいえないため、有効に自由意思決定をすることが困難な場合があり、そのような場合には、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じ得ると考えられる。
第3項は、そのような場合における性的行為を処罰することとするものである。
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合
を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない

 承諾能力を3つにわけて説明する考えを、深町教授は「能力三分説」と呼ぶ。

深町晋也「性交同意年齢の引上げを巡る諸問題」法律時報2023年10月号(95巻11号)77頁
第6回会議において、性的同意能力を
①行為の性的な意味を認識する能力、
②行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、及び
③性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力
という3つの能力に分析して検討する見解が主張されたことである(以下、この見解を「能力三分説」とする)16)。

結局、16~17歳の場合には、

(2) 13歳未満の者について
3歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という能力は備えていると刑法典で「みなされ」た。
 16歳以上は
  意味認識能力
  性的理解能力
  対処能力
は備えている。
 とすると、刑法で保護されない16~17歳については、性的判断能力未熟・思慮浅薄を理由にする刑罰法規は刑法に反して、合理性を失い、存在を許されない。

 条例の「青少年健全育成の趣旨」を加味しても、国法上

自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっている
他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができる

存在であるから、条例によっても、保護の必要はない。
2 青少年の性的行為の実情
 法務省の検討会の資料では、女子高校生が19.3%に性交経験があって、それは刑法上規制しないという方向であった。

法務省:性犯罪に関する刑事法検討会 第5回会議(令和2年8月27日)資料30
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00059.html
https://www.moj.go.jp/content/001327167.pdf

会議録p32
https://www.moj.go.jp/content/001331676.pdf
○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」に関する資料は,資料29から32までです。
次に,資料30は,日本性教育協会がほぼ6年おきに全国の中学生・高校生・大学生を対象に実施している性行動に関する調査の結果です。
調査の結果については,大学生及び高校生の性交の経験率は,男女ともに平成17年の調査時が最も高く,それ以降は減少傾向にあり,平成29年の調査では,男子大学生が47%,女子大学生が36.7%,男子高校生が13.6%,女子高校生が19.3%となっております。また,中学生の性交の経験率は,平成17年の調査時からほぼ横ばいであり,平成29年の調査では,男子中学生が3.7%,女子中学生が4.5%となっています。


3 最近の未成年者法の動き
成人年齢の引き下げ(20歳→18歳)

②婚姻適齢の引き上げ
 18歳になれば婚姻適齢とされ、父母の同意なく婚姻できるようになった。  
旧第七百三十一条
男は、十八歳に、女は、十六歳にならなければ、婚姻をすることができない。
(未成年者の婚姻についての父母の同意)
第七百三十七条
1 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。
2父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも、同様とする
     ↓↓
現行民法
第七三一条(婚姻適齢)
 婚姻は、十八歳にならなければ、することができない。
〔平一六法一四七・平三〇法五九本条改正〕

民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00218.html
 平成30年6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立し、令和4年4月1日から施行されました。
 民法の定める成年年齢は、単独で契約を締結することができる年齢という意味と、親権に服することがなくなる年齢という意味を持つものですが、この年齢は、明治29年(1896年)に民法が制定されて以来、20歳と定められてきました。これは、明治9年の太政官布告を引き継いだものといわれています。
 成年年齢の見直しは、明治9年の太政官布告以来、約140年ぶりであり、18歳、19歳の若者が自らの判断によって人生を選択することができる環境を整備するとともに、その積極的な社会参加を促し、社会を活力あるものにする意義を有するものと考えられます。
 また、女性の婚姻開始年齢は16歳と定められており、18歳とされる男性の婚姻開始年齢と異なっていましたが、今回の改正では、女性の婚姻年齢を18歳に引き上げ、男女の婚姻開始年齢を統一することとしています。

③未成年者誘拐の保護年齢を引き下げ(20歳→18歳)


④16歳で、完全な性的同意能力があるとされる(令和5年刑法改正)

4 福岡県青少年保護育成条例違反被告事件大法廷判決(最大判S60.10.23)の合憲理由の大半が失われたこと。
 最大判S60.10.23が理由としたのは、刑法での保護対象が13歳未満、婚姻適齢が18歳であったので、13歳という精神未熟な年齢層から18歳までの野放図な性行為を規制するという点にあった。

 最大判S60.10.23
そこで検討するのに、本条例は、青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的として定められ(一条一項)、他の法令により成年者と同一の能力を有する者を除き、小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を青少年と定義した(三条一項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」(一〇条一項)と規定し、その違反者に対しては二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科し(一六条一項)、違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない(一七条)こととしている。これらの条項の規定するところを総合すると、本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。このような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、すべて採用することができない。

 確かに13~17歳は年齢幅が広く、確かに13歳で性行為を許容するのは心許ない

 ところが、刑法での保護対象は16歳未満となり、16歳になれば、「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができる」能力も備えているとされる。
 16~17歳はつい数年前まで民法上、婚姻適齢とされていた程の成熟度である。

法務省逐条説明
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という同意能力は完全に備えていると刑法典で「みなされ」たわけだから16~17歳である場合には、未成熟性を規制理由にすることはできない。

 時系列的にみて、条例についてはs60ころに

最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、

とされてきたのを、r05ころになって国法である刑法について

逐条説明
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という趣旨で、16~17歳について、意味認識能も性的理解・対処能力も認めるに至ったわけだから、もはや、16~17歳については

最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、

という条例の規制理由は、失われたと理解すべきである。

 また、大法廷判決中「例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて」の点ついても、刑法が13未満から16歳未満を保護年齢を引き上げた結果、能力3分説のいすれをも充たすことになるし、青少年条例の対象年齢は義務教育を終えた者となりある程度の判断能力も期待できるし、婚姻適齢が18歳(父母の同意不要)となっている現時点においては、16~17歳の性的行為を規制することは、 まさに「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととな」るから、規制理由としては時代にそぐわないものとなった。

 かくして、少なくても16~17歳の青少年については、最大判S60.10.23の理由付けは現在では無効になった。罰則付きで禁止する「理由がない」。


6 刑の廃止
 A県条例の淫行処罰規定のうち、少なくても青少年が16歳~17歳の場合については、刑法改正により効力を失った。

 刑法との比較において、青少年条例の法定刑に懲役刑が設けられていることがバランスを欠くから、16~17歳だとせいぜい罰金が上限であろうから、条例の法定刑(条例××条1項)のうち懲役刑は効力を失ったという主張もしておく。

 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。(刑訴法337条2号)にほかならないから、本件は免訴になる。
第三三七条[免訴の判決]
 左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。
 法定刑の懲役刑が無効になったという主張の結末としては、懲役刑がないのだから、「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。」として免訴になると主張する。

 免訴にしなかった原判決には訴訟手続の法令違反があるから、原判決は破棄を免れない。

7 16~17歳の青少年との性行為を懲役刑を以て規制する青少年条例は「法律の範囲内」(憲法94条)に収まらないから無効である。
 こういう判例があるのだが、
 最大判S60.10.23

 ところが、刑法での保護対象は16歳未満となり、16歳になれば、「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができる」能力も備えているとされる。

法務省逐条説明
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という同意能力は完全に備えていると刑法典で「みなされ」たわけだから、16~17歳である場合には、未成熟性を規制理由にすることはできない。
 時系列的にみて、条例についてはs60ころに

最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、

とされてきたのを、r05ころになって国法である刑法について

逐条説明
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という趣旨で、16~17歳について、意味認識能も性的理解・対処能力も認めるに至ったわけだから、もはや、16~17歳については
最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、
という条例の規制理由は、上書き消去されたと理解すべきである。

 また、大法廷判決中「例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて」の点ついても、刑法が13未満から16歳未満を保護年齢を引き上げた結果、能力3分説のいすれをも充たすことになるし、青少年条例の対象年齢は義務教育を終えた者となりある程度の判断能力も期待できるし、婚姻適齢が18歳(父母の同意不要)となっている現時点においては、16~17歳の性的行為を規制することは、 まさに「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととな」るから、規制理由としては時代にそぐわないものとなった。

 刑法が
  16歳以上は
   意味認識能力
  性的理解能力
  対処能力
   は備えている。
と言ったとき、自治体が16~17歳はこのような能力に欠けると言う趣旨の条例を設けることを許さない趣旨である。

 かくして、少なくても16~17歳の青少年については、最大判S60.10.23の理由付けは現在では無効になった。罰則付きで禁止する「理由がない」。もはや「法律の範囲内」(憲法94条)に収まらないから条例は無効である。

刑法の性犯罪規定(176条3項、177条3項)で刑法の保護対象外となった16~17歳には、性的行為の自由があるかを検討する際の文献


刑法の性犯罪規定(176条3項、177条3項)で刑法の保護対象外となった16~17歳には、性的行為の自由があるかを検討する際の文献

2 青少年側の性的権利について 24
(1)未成年者の人権享有主体性 24
※佐藤幸司 日本国憲法論 第2版P155 25
(2)青少年側の性的権利について 27
憲法と青少年―未成年者の人権をめぐって2021 28
村西良太「刑罰法規の不明確性と広範性―福岡県青少年保護育成条例事件―」『憲法判例百選Ⅱ 第7 版』(別冊Jurist No.246)有斐閣, 2019, pp.240-241 29
(3) 現行刑法は、青少年側の決定権を重視して、13~16歳に対する性的行為を明文で許容したこと(5歳差ルール) 29
※【逐条説明】刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案 31
※ 梶検事の説明 32
※城祐一郎元検事も「対等性」を理由とする。 33
(4) 幸福追求権(13条)侵害 35
①文献 35
ア 最高裁判例解説s60 35
イ 安部哲夫「青少年の性的保護と刑事規制の限界「青少年保護育成条例」を中心に 37
ウ 米沢広一 子ども,親,政府--アメリカの憲法理論を素材として神戸学院法学15巻3号 39
オ 横田耕一:九州大学教授 ジュリスト853号 44頁 1986年2月1日発行 特集・青少年保護育成条例大法廷判決 青少年に対する淫行の条例による規制と憲法 42
カ 福岡 久美子「青少年保護条例による性的自由の制限」 44
キ 羽渕雅裕「親密な人間関係と憲法」 45
ク 竹中勲:京都産業大学教授法学教室176号 49頁 1995年5月1日発行 重点講座【現代人権展望】〔2〕親密な人的結合の自由(Ⅰ 自由と自己決定) 46
②裁判例では青少年側の性的行為の自由への言及はない 48
名古屋高裁s53.10.25*1 48
福岡高裁s55.10.30*2 48
(5) 家族生活における個人の尊厳と両性の平等(24条)侵害 48
①家族生活における個人の尊厳と両性の平等(24条) 48
松井茂記日本国憲法 第3 版』有斐閣, 2007, pp.549-550 48
(6)青少年のリプロダクティブ・ヘルス / ライツ(子どもの権利条約34条) 51
(7)青少年の性的自己決定権の限界 51
辻村みよ子 憲法第7版p107 52
佐藤幸治 人権の観念と主体 52

高裁判決が出ています。

阪高裁R05.12.26
第5法令適用の誤りの控訴趣意(主任弁護人奥村徹)に対する判断
1所論は、(1)本件条例は、17歳の青少年及びその相手方の性的自己決定権の侵害であり憲法13条及び24条に違反し、違憲無効である、(2)本件条例は、子どもの権利条約34条に違反し無効である、又はその適用は同条約に違反する、(3)本件条例59条は、「39条の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として52条の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。」と規定しており、行為者に相手方の年齢確認義務を課するものであるが、同規定は、児童買春罪については年齢確認義務がないことに照らすと、憲法94条の法律の範囲内の条例制定権を逸脱した違憲無効な条例であるのに、有罪を言い渡した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある旨主張する。
2しかし、(1)本件条例は、青少年の健全な育成のため、その健全な成長を阻害す庁る行為から青少年を保護することを目的とするものであって、18歳未満の青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として性的行為を行うことを禁止する本件条例52条の規定及びその適用は、青少年及びその相手方の自己決定権を何ら侵害するものではない。
(2)子どもの権利条約違反をいう点についても同様である。

16歳未満に、裸の画像を送信させた場合の罪名

16歳未満に、裸の画像を送信させた場合の罪名
  不同意わいせつ、性的姿態撮影等処罰法違反、わいせつ目的要求の各容疑
  「画像を送らせたことに間違いありません
と弁解してしまっているが、送信させたことは、わいせつ行為ではない。(東京高判平成28年2月19日(強要被告事件 判夕1432号134)

不同意わいせつ、性的姿態撮影等処罰法違反、わいせつ目的要求の各容疑で逮捕し、発表した。「画像を送らせたことに間違いありません。男同士のノリという感じでやっただけです」と供述しているという。捜査1課によると、容疑者は今年12月2日夜、生徒と教師の社会的な地位を利用し、同校の男子生徒に性的な画像を撮影するよう要求し、携帯電話で撮影させてSNSで送らせた疑いがある。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b06d474cd88bc31843996a13bebbb3dd518bc20f

(不同意わいせつ)
第百七十六条
1 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

 わいせつとされるのは東京高裁判例では、「撮影させ」まで。

 画像要求罪は不同意わいせつ(3項)に吸収される

十六歳未満の者に対する面会要求等)
第百八十二条 
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

逐条説明
4 第3項(遠隔型の処罰規定)について
対象者は、性的行為に関する判断能力を十分に備えていない者であるから、対象者に対して性的行為の要求をする行為は、そのことだけで、性的保護状態の危険を生じさせ得る行為といえる。
その上で、本条が対象者の性的自由・性的自己決定権の保護を図ろうとするものであることに鑑みれば、要求行為の対象となる行為については、当該行為が実現した場合に対象者の性的自由・性的自己決定権が侵害される行為とした上で、早期の処罰が特に要請される重大な性的自由・性的自己決定権の侵害を生じるものに限定することが相当であると考えられる。
そこで、本条第3項においては、現在の実務において強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例を踏まえ(注2 、要求した行為が実現した場合に強制わいせつ罪)の成立が認められると考えられる行為を要求行為の対象とする観点から、
〇性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信する行為
〇膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信する行為
の要求行為を処罰対象行為としている(注3)
(注2)アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影し被告人に送信するよう要求して、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせて撮影させた行為の「わいせつな行為」該当性が争われた事案(大阪高判令和3年7月14日・公刊物未登載)において大阪高裁は撮影させた部位のうち陰部性器自体は写っていないもののその周辺部であるは性的要素が強く乳房も性を象徴する典型的な部位であるまた衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は、裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって、単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし、続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も、自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を、さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり、それによって性的侵害性が強まるといえるから「わいせつな行為」にあたり、得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる」としている。。
このほか、強制わいせつ罪の成立が認められた事案として、例えば、
〇被害者(当時11歳)に対し、乳房や陰部を露出して自慰行為をする様子を動画で撮影
して被告人が使用する携帯電話機に送信するように要求し、被害者に衣服を脱がせ乳房、陰部等を露出させ陰部に指を挿入した姿態等をとらせた事案(東京地判令和4年3月10日・公刊物未登載)
がある。
(注3)遠隔型の処罰規定については、対面型の処罰規定とは異なり、加重処罰規定を設けることとしていないところ、これは、次の理由による。
すなわち、本条第3項の要求行為の対象は、前記4のとおり、現在の実務において強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例を踏まえて規定しており、要求行為の対象となる行為が実現した場合には、強制わいせつ罪が成立すると考えられる。
その上で、要求行為からその対象となる行為が実現するまで、すなわち、強制わいせつ罪が成立するに至るまでの過程において、一般的・類型的に同罪に至る危険性が高まり、加重処罰の対象とするに足りる新たな当罰性を有する行為があり得るかについては、
〇行為者からの要求を直ちに承諾して、そのまま要求された行為に及ぶ場合も、相当程度あり得ることを踏まえると、要求行為後の行為について、加重処罰の対象とするに足りるものを明確に捕捉することは困難である
と考えられる。
そのため、遠隔型の処罰規定については、加重処罰規定を設けることとはしていない。

 性的姿態撮影罪については、「撮影させる」とはなっていないので、間接正犯構成であれば可能か

(性的姿態等撮影)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為

仲道祐樹「児童ポルノ法の判例と理論的課題:自画撮りの問題をめぐって」警察学論集76巻12号

仲道祐樹「児童ポルノ法の判例と理論的課題:自画撮りの問題をめぐって」警察学論集76巻12号
 間接正犯構成は、未公開の高裁判決いくつかで否定されてます。鳥取県警の情報公開で出てきた。
 強制わいせつ罪・不同意わいせつとの関係については、観念的競合とする高裁判決が3件(大阪、大阪、札幌)出ている。
 わいせつ」とされる範囲は、東京高判平成28年2月19日(強要被告事件 判夕1432号134)が「撮影させ」までとしているのが効いていてだいたいそうなっているが、zoom生中継の準強制わいせつ事件が札幌高裁に係属した。

仲道祐樹「児童ポルノ法の判例と理論的課題:自画撮りの問題をめぐって」警察学論集
特別刑法解釈の現在と理論的課題(1) 43
Ⅵおわりに
以上をまとめると次の通りである。
まず、自画撮り送信による姿態をとらせ製造罪は、描写および製造の点について、間接正犯としての構造を有する。
刑法総論における間接正犯の一般理論からでは、背後者の正犯性を肯定することは困難であるが、姿態をとらせ製造罪の構成要件の特徴から、「姿態をとらせ」という要件を充足するような働きかけが存在する場合には、それが、児童ポルノ該当影像を送信しろという指示の性質、自画撮り行為自体の特性および児童の性的判断能力の未熟さとが相まって、被写体児童の行為が存在したとしても、これを背後者の行為と同視できるため、このような解釈から間接正犯としての姿態をとらせ製造罪を認めることが可能である。
もっとも、このような解釈による場合、「姿態をとらせ」に該当する事実として、行為者からの働きかけの存在を示すことが必要となる。
次に、被写体児童自身による提供目的製造罪や公然陳列(目的製造)罪、提供罪については、児童ポルノ法の趣旨である、児童の性的搾取・性的虐待からの保護という観点から、被写体児童自身には自身に対する性的搾取の契機を欠くため、児童ポルノ関連犯罪の主体ではないという帰結が導かれる。
最後に、罪数関係については、次のように整理される。
条例上の児童ポルノ提供要求罪は、姿態をとらせ製造罪が成立する場合には同罪に吸収され、同罪のみが成立する。
新設された映像送信要求罪と児童ポルノ提供要求罪とは観念的競合になる。
この場合において、姿態をとらせ製造罪が成立するときは、児童ポルノ提供要求罪が姿態をとらせ製造罪に吸収され、映像送信要求罪と姿態をとらせ製造罪の罪数関係のみが問題となる。
両者の関係は観念的競合になる。
自画撮り送信が不同意わいせつ罪の程度に至った場合は、姿態をとらせ製造罪と不同意わいせつ罪がともに成立し、 両者は観念的競合になる。

島本元気検事「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要

島本元気検事「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要
 1項2項で承諾のレベル下げたのに、13歳でも相手方と対等なら完全承諾可能としたのは矛盾しますよね。
 「なお、本稿中、意見にわたる部分は私見である。」とありますが、法務省の逐条説明のパクリです

島本元気検事「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(その1)警察公論2024.1月号
イいわゆる性交同意年齢の引上げ(改正後の刑法176条3項及び177条3項)
(ア)趣旨及び概要
改正前の刑法176条後段・177,条後段においては、13歳未満の者に対して性的行為をすること自体が処罰の対象とされていた。
これは、強制わいせつ罪・強制性交等罪が、性的自由・性的自己決定権を保護法益としており、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力がない場合には、暴行を受けるなどの意思決定に影響を及ぼすような状況がなかったとしても、性的行為をすること自体によって保護法益が侵害されると考えられるところ、13歳未満の者は、行為の性的な意味を認識する能力が欠け、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力がないとされたためであると考えられる。
もっとも、性的行為に関して有効に自由な意思決定をするための能力の内実としては、
○行為の性的な意味を認識する能力
だけでなく、
○行為の相手方との関係において、行為が自己に及ぼす影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手方に対処する能力
が必要であると考えられる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられ、心理学的・精神医学的知見を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、
○13歳未満の者については、前者の能力が備わっておらず、有効に自由な意思決定をする前提となる能力が一律に欠ける
○13歳以上16歳未満の者については、前者の能力が一律に欠けるわけではないものの、後者の能力が十分でなく、相手方との関係が対等でなければ、有効に自由な意思決定ができる前提となる能力に欠ける
と考えられる。
そこで、改正法においては、
○16歳未満の者については、性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分備わっているとはいえないことから、その者に対して性的行為をすること自体で処罰されることとなる年齢を「13歳未満」から「16歳未満」に引き上げつつ、
○13歳以上16歳未満の者に対する性的行為については、相手方との間に対等な関係がおよそあり得ず、有効に自由な意思決定をする前提となる能力に欠ける場合に限って処罰する観点から、当該13歳以上16歳未満の者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者を処罰対象とすることとされた(改正後の刑法176条3項・177条3項)。
なお、13歳以上16歳未満の者に対する性的行為についての改正後の刑法176条及び177条の適用に関しては、衆議院法務委員会及び参議院法務委員会において、附帯決議が付されている*5。
(イ) 「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る」の意義
「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」とは、13歳以上16歳未満の者の生年月日の前日から起算して5年以上前の日に生まれた者をいう。
13歳以上16歳未満の者において、行為者が「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」であることを認識していることは不要である。

「そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、5歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。」

「そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、5歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。」
 なぜ5歳差なのか、6歳差では絶対アウトなのか。

第一七七条(不同意性交等)
1 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

【逐条説明】刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でないと考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8 。)
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そしてそのような場合における5歳以上年長の者の行為については正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない。

 城さんの改正でも、橋爪先生の説明をそのまま紹介しているだけです。

性犯罪規定の大転換~令和5年における刑法および刑事訴訟法の改正の解説~(前)昭和大学医学部教授(薬学博士) ・警察大学校講師元最高検察庁検事 城祐一郎捜査研究876号
ただ、同年代で恋愛関係などからわいせつな行為に及ぶこともあり得ることを考慮し、被害者が13歳以上であれば(つまり、被害者が12歳以下であれば今までと同様)、その年齢差が5歳以上ある場合のみ、暴行等の前述した手段についての要件が求められるということである。
この点については、次のような説明がなされている。
すなわち、性的行為の意味を理解する能力と、状況に応じて対処する能力の区別に着目し、「13歳以上16歳未満の児童は、性的行為の意味を理解することは一応可能であるとしても、相手との関係においては、状況に応じ適切に対処し、自らの意思決定を貫徹する能力が十分ではないという理解」に基づき、「およそ誰に対しても性的同意ができないとまでは言えない、しかし、相手との関係によっては、相手の言動の影響を受けやすく、また、状況に流されてしまい、十分に考えて適当な判断をすることが困難な場合があり得る」と考えられることから、「13歳以上16歳未満の性行為を全面的に禁止、処罰するのではなく、非対等な関係に基づく性行為に限って、児童が適切に対処することが困難であり、それゆえ有効な性的同意が肯定できないとして、処罰範囲を拡張することが可能」86)と考えたからである。
そこで、その基準として、年齢差という形式的な基準を採用し、「年齢差という専ら形式的な観点から処罰の限界付けが提案されるに至ったわけです。
すなわち、実質的には、非対等であり、児童の主体的、自律的な判断が困難な関係性に基づいた性行為を処罰したいところ、それを個別に認定することが困難であるがために、非対等性の判断基準として年齢差に着目するというふうな発想です。」、「この点に関して御注意いただきたい点は、年齢差の要件を満たした場合、当事者の関係性を問わず、全ての性行為が処罰対象になる点です。
したがって、この年齢差であれば対等な関係に従って主体的な判断ができる場合もあればできない場合もあるという程度の年齢差では不十分であって、あくまでも、これだけの年齢差があれば、およそ対等な関係性はあり得ず、有効に自由な意思決定をすることは全く考えられないといった年齢差を設定しなければ、年齢差という観点だけで行為者を罰することは正当化できません。
このような前提からは、改正法案の5歳という年齢差要件には、処罰すべきでないものを処罰対象に含めないという意味において、十分な合理性があると考えておりますo」87)と述べられており、5歳差という基準に合理性があるものと説明されている。
ただ、5歳差が非対等性の関係にあるとしても、3歳差、4歳差でも非対等性の関係にある場合もあるのであって、そのような場合を除外するのは、被害者の保護に欠けるのではないかとも疑問があり得るかもしれないであろう。
しかし、この点については、例えば、18歳の成人男性と、14歳の女子中学生との間の性行為に関して、「14歳、18歳に関係があれば、対等か否かではなくて、仮にですよ、仮に全国の中に、99%の関係は非対等であるとしましても、日本中に1%でも対等な関係が仮にあった場合、それを刑法を使って罰せるかという問題だと思うんです。
つまり、年齢差要件は、例外なく全部の性行為を罰します。
ということは、極論しますと、日本中に年齢差が3歳、4歳で対等な関係性が1件もないということが明らかにならなければ、3歳、4歳の年齢差だけで処罰をすることは困難だろうというふうに考えています。」、「そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、5歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。」88)との説明が説得的であろう89)。
86) 衆議院法務委員会(令和5年5月16日)における橋爪隆参考人発言(同委員会議事録)87) 衆議院法務委員会(令和5年5月16日)における橋爪隆参考人発言(同委員会議事録)88) 衆議院法務委員会(令和5年5月16日)における橋爪隆参考人発言(同委員会議事録)89) ただ、この5歳差については、故意の内容となるため、相手方が自分より5歳以上若いという事実を認識していなければならず、検察官がその立証をしなければならないのは、従来からの13歳未満の者に対する強制わいせつにおける場合と同様である。
ただ、「行為者の故意が認められるためには、相手方の誕生日を具体的に認識していなくても、白分の年齢を基準として相手方が5歳以上年下であること、例えば18歳未満の者であれば、相手方が14歳になっていない者であること、これを未必的にでも認識していれば足りると解されます。」(第10回議事録34頁(浅沼幹事発言)) と説明されていることに留意しておくべきであろう。

第211回国会 衆議院 法務委員会 第16号 令和5年5月16日
006 橋爪隆
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121105206X01620230516/6
続きまして、二番に移りますが、いわゆる性交同意年齢の引上げについて意見を申し上げます。
 性交同意年齢とは、対象者の年齢だけを基準として、性的同意を無効とする制度です。もちろん児童の心身の発達には個人差がありますが、現行法は、少なくとも十三歳未満の者が有効な性的同意をすることはあり得ないという前提から、十三歳未満の者の性行為を一律に禁止し、処罰対象にしていると解されます。もっとも、十三歳以上十六歳未満の児童についても有効な同意がなし得るのか、むしろ、十六歳未満については有効な同意がなし得ないとして性交同意年齢を十六歳に引き上げるべきではないかということが問題とされています。
 この点に関して、法制審議会の議論では、性的行為の意味を理解する能力と、状況に応じて対処する能力の区別が重視されました。すなわち、十三歳以上十六歳未満の児童は、性的行為の意味を理解することは一応可能であるとしても、相手との関係においては、状況に応じ適切に対処し、自らの意思決定を貫徹する能力が十分ではないという理解が共有されました。つまり、およそ誰に対しても性的同意ができないとまでは言えない、しかし、相手との関係によっては、相手の言動の影響を受けやすく、また、状況に流されてしまい、十分に考えて適当な判断をすることが困難な場合があり得るということです。
 こういった理解からは、十三歳以上十六歳未満の性行為を全面的に禁止、処罰するのではなく、非対等な関係に基づく性行為に限って、児童が適切に対処することが困難であり、それゆえ有効な性的同意が肯定できないとして、処罰範囲を拡張することが可能です。十三歳以上十六歳未満の者に対しては、誰に対しても性的意思決定ができないわけではなく、相手との関係においては能力が十分に発揮できないという発想です。
 このように、非対等な関係性に基づいた性行為を罰すべきと解した場合、難しい問題は、非対等な関係性をどのような観点から法文上規定するかという点です。この点につきましては、実質的な判断をするか、形式的な判断をするか、それとも両者を併用するかという観点から、三つの選択肢があり得ました。
 すなわち、一番ですが、当事者の現実の関係性を個別具体的に評価した上で、対処能力が欠如するような非対等な関係性と言えるかを認定し、非対等な関係性が認定できる限度で処罰をするというふうな実質的な判断、これに対して、二番ですが、専ら年齢差という観点のみから処罰範囲を設定する形式的な要件、さらに、三番ですが、年齢差という形式的要件と現実的な関係性の実質的判断を共に要求する判断、これら三つの可能性があり得ました。
 本来、当事者が対等な関係を構築していたか、すなわち、お互いの意思を十分尊重し合う関係を有していたかということは、当事者ごとに個別に具体的に判断すべき問題でありますので、理想を言えば、一番あるいは三番の選択肢が適当であったのかもしれません。しかし、個別の関係性を実質的に判断することは、当然ながら判断のばらつきによる混乱が生じますし、また、当事者間の関係性や交際の状況について裁判で証明することは、被害者側に負担が生ずることも懸念されます。
 このような問題意識から、法制審の部会では、二番の方向、すなわち年齢差という専ら形式的な観点から処罰の限界づけが提案されるに至ったわけです。すなわち、実質的には、非対等であり、児童の主体的、自律的な判断が困難な関係性に基づいた性行為を処罰したいところ、それを個別に認定することが困難であるがために、非対等性の判断基準として年齢差に着目するというふうな発想です。
 この点に関して御注意いただきたい点は、年齢差の要件を満たした場合、当事者の関係性を問わず、全ての性行為が処罰対象になる点です。したがって、この年齢差であれば対等な関係に従って主体的な判断ができる場合もあればできない場合もあるという程度の年齢差では不十分であって、あくまでも、これだけの年齢差があれば、およそ対等な関係性はあり得ず、有効に自由な意思決定をすることは全く考えられないといった年齢差を設定しなければ、年齢差という観点だけで行為者を罰することは正当化できません。このような前提からは、改正法案の五歳という年齢差要件には、処罰すべきでないものを処罰対象に含めないという意味において、十分な合理性があると考えております。
 私の意見は以上でございます。御清聴、誠にありがとうございました。(拍手)
・・・
038 橋爪隆
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121105206X01620230516/38
○橋爪参考人 お答え申し上げます。
 確かに、議員おっしゃるとおり、十四歳の中学生から見れば、十七歳、十八歳はもう大人であって、容易には多分抵抗できないと思うんですね。
 ただ、ここで言いたいことは、十四歳、十八歳に関係があれば、対等か否かではなくて、仮にですよ、仮に全国の中に、九九%の関係は非対等であるとしましても、日本中に一%でも対等な関係が仮にあった場合、それを刑法を使って罰せるかという問題だと思うんです。
 つまり、年齢差要件は、例外なく全部の性行為を罰します。ということは、極論しますと、日本中に年齢差が三歳、四歳で対等な関係性が一件もないということが明らかにならなければ、三歳、四歳の年齢差だけで処罰をすることは困難だろうというふうに考えています。
 そういった意味では、もちろん議論はあり得ますが、五歳違う場合には、恐らく対等な関係性はおよそあり得ない、そう言えるからこそ、個別の関係性は一切考えなくて、年齢差の観点だけで処罰が正当化できるというふうに考えています。

・・・
047 橋爪隆
発言URLを表示
○橋爪参考人 お答え申し上げます。
 今回の改正法におきまして、構成要件の内容が具体化されております。そういった意味でも、願わくば氷山がもう溶けて解消することを期待しておりますが、多分、そのためには二つ大きなポイントがあると思うんですね。
 一つは、まずは、法律家全般に関する意識の改革です。
 つまり、やはり、私も含めてなんですが、法律の専門家ではあるんですけれども性被害の専門家ではないんです。ですから、被害者の方の心理状態というものを十分に把握できないんですね。そういった意味で、やはり今後、改正法の、同意しない意思の形成、表明、全うが困難かどうかを判断する際には、十分に被害者の心理や認識の問題について法律家が勉強した上で、そこをきちんと判断できるような取組といったものが必要だろうと。
 もう一点、やはり、意思に反する性行為は犯罪であるという意識を国民全般が共有した上で、被害を受けた方が自分の被害をちゅうちょなく申告できるような、そういった社会といったものをつくっていくということが性犯罪の対策においては重要であるというふうに考えております。

2023年改正の概要とその意義について佐藤陽子
法律時報 第95巻11号
(b) 改正の趣旨及び特徴
あらゆる性的行為から保護される年齢が13歳未満では低すぎるとの意見が審議会で大勢を占めたことから、このような引上げが行われた。
他方で、今回引上げられた領域である13歳以上16歳未満については、対等な関係である場合には行為者を処罰すべきでないとして、年齢差要件が付された。
本改正の特徴は、年齢の線引きとして審議会で支持を得ていた「義務教育年齢である16歳未満」が採用されたことであろう。審議会ではその実質的根拠として、16歳未満の心身の発達がなお十分ではないことや、学校で十分な性教育がなされていない(むしろ忌避されている) ことが指摘されている25)。
他方で、年齢差要件も特徴的であり、かかる要件は、同年代同士の行為を処罰しないためにとりわけ重要であると解された26)。
試案の段階でもっとも問題になったのは実質要件である「対処能力が不十分であることに乗じて」の採用の可否である27)。すなわち、年齢差がある場合でも真の恋愛関係など、不同意でない場合も想定されうるため、安全弁として実質要件が必要かが問題になった。この点、規定される年齢差は3歳差が適切である等の意見もあった中で、対等な関係となることがまず考えられない(パワーの差がある)程度の年齢差として5歳以上の年齢差が選択された28)以上、実質要件はつけるべきではないとの結論に至っている

26) 第3回議事録21頁以下、第6回議事録19頁以下などを参照。このような規定の形式は諸外国ではそう珍しくない(樋口=深町・前掲注20) IJEviii頁〔樋口亮介〕を参照)。
27) 第10回議事録26頁以下、第12回議事録20頁以下を参照。
28) 第9回議事録11頁〔小西聖子委員〕を参照。

29) 各都道府県の淫行処罰規定については、鎮目征樹「児童に対する性犯罪処罰規定の現状と課題について」刑ジヤ69号(2021年) 48頁以下で一覧することができる。
30) 法定刑を引下げるべきであるとの主張については、第10回議事録31頁〔金杉幹事〕などを参照。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1cbf2a77b1e523f73b485661b1baaffcee1584c0
逮捕容疑は11月30日夜から12月1日朝にかけて、女子生徒が16歳未満で、自分より5年以上年下と知りながら、大阪市内のラブホテルで性行為をした疑い。
調べに「5年離れているとは知らなかった」と容疑を一部否認しているという。

刑事法(性犯罪関係)部会第9回会議 議事録
第1 日 時 令和4年8月5日(金) 自 午前10時00分 至 午後 1時12分
第2 場 所 法務省大会議室
第3 議 題 1 第一の二(対象年齢の引上げ)について 2 その他
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第9回会議を開催いたします。
○井田部会長 本日は、御多忙のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。
本日は、今井委員、大賀委員、川出委員、北川委員、木村委員、田中委員、中川委員、吉崎委員、池田幹事、金杉幹事、くのぎ幹事、近藤幹事、井上関係官は、オンライン形式により出席されています。
また、中山幹事におかれては、所用のため欠席されています。
議事に入る前に、前回の会議以降、幹事の異動がありましたので、御紹介させていただきます。
市原志都氏が幹事を退任され、新たに近藤和久氏が幹事となられました。
初めて会議に御出席いただいた近藤幹事に自己紹介をお願いしたいと思います。
○近藤幹事 最高裁刑事局第二課の課長をしております近藤です。
よろしくお願いいたします。
○井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。
前回会議においては、今後の議論の進め方につきまして、事務当局にそれまでの当部会における議論を踏まえて諮問事項についての試案を作成してもらい、それに基づいて議論を行っていくということで、皆様の御了解を頂いたところですが、その後、事務当局から、試案を作成するに当たって、特に諮問事項「第一の二」の対象年齢の引上げについて、更に追加して議論する機会を設けて、委員・幹事の皆様の御意見を伺いたい旨の申出があったため、本日の会議では、「第一の二」についての御議論を行っていただくこととした次第です。
そこで、まず、事務当局から、本日の会議の趣旨について説明をお願いしたいと思います。
○吉田幹事 対象年齢を引き上げることについて、本日、更に追加して御議論をお願いすることとした趣旨等を御説明いたします。
前回の会議において、部会長から、これまでの当部会における議論を踏まえつつ、諮問事項についての試案を作成するようにとの御指示を頂いたことを受け、事務当局においては、試案の作成に向けた検討を行ってきました。
具体的には、これまで当部会において、対象年齢を引き上げる場合には、年齢が近い者同士で性的行為が行われた場合など一定の場合には処罰しないこととするべきであるとの御意見が多く述べられていたことから、そのような規定の在り方や理論的根拠についての検討を進めてきたところです。
もっとも、その過程において、例えば、若年者に対する性的行為について、実質的な要件で処罰するのではなく、対象年齢を引き上げて一律に処罰することとするのはなぜか、対象年齢を引き上げて処罰す
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]る根拠を、性的行為をするかどうかの判断能力を欠くことに求めることとした場合、対象年齢の者は、そのように判断能力を一律に欠く以上、年齢が近い者同士で性的行為が行われた場合などであっても、対象年齢の者の性的自由を侵害することとなるのに、なぜ処罰すべきでないことになるのか、他方、対象年齢の者の性的行為をするかどうかの判断能力は、性的行為の内容やそれが行われる状況などを問わず、常に欠けるといえるのか、処罰対象から除外し、あるいは限定するとすると、その根拠を踏まえ、具体的にどのような要件とすることが適当かなど、試案を作成する上で避けて通ることのできない理論的・法制的な検討課題がなお残されていると考えられたところであり、それらを解決して試案を作成するためには、更に深く掘り下げた議論を行っていただく必要があると思われました。
そこで、前回の会議ではこの項目について御議論いただく時間が十分でなかったように思われることも踏まえ、本日、改めて時間を設け、対象年齢を引き上げる理論的根拠、対象年齢を引き上げた場合に、一部を処罰対象から除外し又は処罰対象を限定することの要否及びその根拠などについて、取り分け、対象年齢を引き上げつつ処罰対象を除外・限定するとした場合に、これを整合的に理解できる理由や根拠について、皆様がどのようにお考えなのかを把握しておく必要があると考え、本日の御議論をお願いすることとした次第です。
○井田部会長 ただ今、事務当局から、本日の会議の趣旨について説明してもらいましたが、具体的にどのように議論を進めるかについて、事務当局から提案はありますか。
○浅沼幹事 本日の御議論の進め方について、事務当局から御提案をさせていただきます。
本日改めて御議論をお願いすることとした趣旨に鑑み、本日の御議論では、前回お配りした配布資料22を引き続き御覧いただきながら、「補足的検討課題」の「1 対象年齢を引き上げる理論的根拠」と「2 対象年齢を引き上げた場合に、一部を処罰対象から除外し又は処罰対象を限定することの要否及びその根拠」について、更に御議論いただければと考えています。
仮に、対象年齢を引き上げつつ処罰対象を除外・限定するとすると、「補足的検討課題」の「1」と「2」は、言わば表裏一体の課題であり、両者を整合的に理解できることが必要であると考えられます。
皆様には、あらかじめ、そのような観点から更に検討を要すると考えられる具体的な事項を問題意識としてお伝えしてありますが、それも踏まえ、「補足的検討課題」の「1」と「2」について、相互関係を意識しつつ、まとめて御意見を頂ければと思います。
そして、先ほど吉田から御説明したとおり、本日の御議論では、事務当局が試案を作成する上でなお残されている理論的・法制的な課題について、皆様のお考えをお聞きしたいと考えていることから、事務当局として皆様の御意見の趣旨を正確に理解するため、お一人が御意見を述べられましたら、その御意見に対して、まずは、その都度、事務当局から、御意見の趣旨などについて質問をさせていただき、その後、ほかの委員・幹事の皆様からもその御意見に対する御質問があれば、御質問をお願いすることとし、それらの質問とお答えが一通り終わったところで、ほかの方に御意見を述べていただくという進め方にすることが望ましいのではないかと考えております。
そのような質疑応答のやり取りが一通り終わった後に、最後に、御発言になりたいことがあれば、それを伺う機会を設けることとしてはいかがかと考えております。
○井田部会長 本日の議論の進め方について、事務当局から具体的な提案がございました。
私としても、本日の会議の趣旨に照らすと、今提案のあった進め方とするのが適当ではないかと考えますが、いかがでしょうか。
(一同異議なし)○井田部会長 ありがとうございます。
それでは、そのように進めさせていただきたいと思います。
委員・幹事の皆様には、積極的に、忌憚のない御意見を述べていただければと考えております。
本日は、途中、10分程度休憩を挟んで、諮問事項「第一の二」の検討課題につき、事務当局から提案があった形で議論を行っていきたいと思います。
それでは、御意見のある方は、挙手するなどした上で御発言をお願いします。
○齋藤委員 私自身は、性交同意年齢は16歳未満とするのがよいのではないかと思っておりまして、年齢差に関しては、3歳差、あるいは18歳以上の成人による16歳未満の者に対する性的行為は処罰すること、とするのがよいのではないかと考えています。
16歳未満の児童には、配布資料22の1ページ目の「性的行為をするかどうかに関する能力」の内容として挙げられている「①」から「③」までの能力のうち、「① 行為の性的な意味を認識する能力」がある程度身に付いている場合が多いとしても、「② 行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」は、まだ身に付いているとは言い難く、さらに、「③ 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」も不足していると考えられます。
配布資料22の2ページ目の「B案」で処罰範囲を除外・限定をする要件について、「相手方の脆弱性に乗じていない」とする例が挙げられていますが、そのような能力の不足している年齢の若年者と性的行為をすること自体が、既に年齢が低いことによる脆弱性に乗じているので、別途、「乗じている」と書く必要はないと考えています。
16歳未満という年齢設定については、原則義務教育年齢であるということが大きく、例えば、労働基準法では、「満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで」は原則労働者として使用してはならないということが規定されているかと思います。
基本的に、16歳未満の子供というのは、自分の自由裁量で稼いだり、自活したりということができず、世界はとても狭く、選べる選択肢も少ない
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]状態だと思います。
社会をまだ余り知らずに、自分の知っている世界の範囲でしか判断できない状況で、自分の未来にその行為がどのように影響を及ぼすかとか、自分にどういう選択肢があるのかということを考えた上で、年長者、特に成年者からの働きかけに対処することは、困難ではないかと思いますし、論理的に考える力や物事を俯瞰して考える力というのも、発達途上ということになります。
もちろん、16歳以上の者であれば的確に判断・行動できるのかというと、難しい場合もあり、心理学では、そもそも年齢で区切るということを、余りしないのですが、仮に年齢で区切るとするならば、16歳未満だと思います。
子供たちにとっての1歳差、2歳差というのは非常に大きく、中学生が高校生に逆らうというのは非常に難しいことです。
中学校の先輩に逆らうことも難しいかもしれないと思いますが、1歳差は同じ学年のこともあるので、それほど対等性も阻害されないかと思います。
また、2歳差もそれほど対等性は阻害されないかとも思いますが、3歳差、特に、中学生と高校生という場合には、大人と子供ぐらいの差が生じるかと思います。
こうした理由や、私自身がこれまで接してきた様々な子供の性暴力被害の内容から考えても、16歳未満の者に対する性的行為を原則として処罰し、年齢差が3歳未満の場合を除外するとか、あるいは、18歳以上の成人が16歳未満の者に対して性的行為に及んだときは処罰するとか、そうした年齢差を設けるのが妥当ではないかと思っています。
これは子供の健全育成の保護ということではなく、年齢差のある状態で16歳未満の子供たちに性的行為をするということが、自由な意思決定を侵害する暴力であって、子供の心と体の健全な成長を著しく阻害する、深刻な行為だと考えています。
同年齢の子供たちについては、もし、16歳未満の同年齢程度の子供たちの間に、対等な関係で何の強制力も働いていない状態が存在し得るのであれば、自由な意思決定が阻害されないこともあるかもしれません。
ただし、同年齢であっても、クラスの中で人気のある男子生徒からの要求に逆らえずレイプをされたという中学生もいますし、一学年上の不良グループに呼び出されて、やはり逆らえずに集団レイプをされたという中学生もいますし、デートDVに付随するようなレイプ被害も存在します。
なので、低年齢であっても、強制力が働く場合ということはあり、相手の同意形成を妨げるような意図的な手段を用いて性交に及んだ場合などについては、適切に対処される必要があると考えています。
以前の会議では、年齢差要件を設けないという立場もお伝えしていました。
今でも、14歳同士、15歳同士の性的行為というのは、背景に様々な問題が潜んだSOSという側面がある場合があり、それが教育場面や福祉でキャッチされ、何らかの支援につながる必要があるとは考えています。
境界線や性的同意、対等なパートナーシップについて、教育の場面などで話し合っていけるといいなと思うのですが、これは、刑罰ということではなく、教育や支援の話ですので、以上のような内容を考えました。
○井田部会長 今の齋藤委員の御意見に対して、事務当局から質問はありますか。
○浅沼幹事 例外を設ける場合の年齢差につきまして、3歳差という御意見を頂きましたが、その根拠としては、同じ中学校に在籍する可能性があるからという趣旨であったかと思います。
それを考えたときに、同じ中学校に在籍し得る方というのは、誕生日の先後も考えますと、1年生と3年生でも3歳差という場合があり得ます。
そうしますと、処罰すべき場合としては、4歳差以上という年齢差になるような気もするのですが、その点はいかがでしょうか。
○齋藤委員 在籍する学校が変わる年齢差について、3歳差なのか、4歳差なのかは少し混乱して分からないのですが、少なくとも18歳以上の成人による16歳未満に対する性的行為は処罰するということを考えていただきたいと思います。
そうすると、被害者が15歳の場合を考えますと、年齢差要件は3歳差になるように思います。
○浅沼幹事 そうすると、例えば、被害者が13歳の場合、3歳差となると、処罰対象になる行為者は16歳以上ということになりますけれども、その点は、どういった整理になりますか。
○齋藤委員 性交同意年齢は16歳未満に適用されるということで、16歳は、性交同意年齢の適用されない年齢になってくるので、13歳と16歳の間の性的行為というのは同意が成立しない場合に当てはまるかなと思っています。
○吉田幹事 まず、前提としてですが、本日、このような形で質問をさせていただく形を採っているのは、先ほど申し上げたとおりの趣旨によるものでありまして、いわゆる性交同意年齢の引上げによって対処すべき事例が実際にあると認識した上での話でございます。
その認識を否定するつもりで質問するわけではないということは、御理解いただければと思います。
その認識を前提としつつも、ここで検討しているのは、刑事罰則の新設や改正ですので、理論的に説明がつくものである必要があり、その検討を進めていく過程で、解決すべき問題に直面したため、御質問をさせていただくということであります。
本日いろいろな御質問をさせていただきますけれども、そのように御理解いただきたいと思っております。
  齋藤委員にお尋ねしたいこととして、まず一点目は、先ほど、心理学では年齢を区切って考えることはないというお話がありましたけれども、そうしますと、16歳未満という年齢の設定などについては、心理学的な見地からというよりも、社会学、あるいは、委員のこれまでの御経験を踏まえた実態認識に基づくものと理解すればよろしいのか、という点を教えていただければと思います。
  二点目は、先ほど委員が経験されたケースに言及する中で、若年層の中でもレイプが起こっているというお話があったかと思うのですけれども、そこでおっしゃったレイプというのは、例えば、現行法でいう暴行・脅迫のような手段が伴っているものなのかどうか、それとも、そういう手段はなく、現行
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]法上処罰の対象にできるような外形的な行為が何もないままに行われた性的な行為を指しておられるのか、つまり、この性交同意年齢を引き上げることでしか対処できないケースを指しておられるのか、ということを教えていただければと思います。
○齋藤委員 最初の御質問なのですけれども、心理学は、やはりいろいろ個人差などを考慮しますので、年齢で明確に何かが区切られるということではありません。
例えば、脳の成長もおおむね25歳ぐらいまでに終わるとは言われますが、おおむねであって、25歳で一律に成長が終わるということではなく、人によっては24歳のこともあれば、28歳のこともあるということがあり、それは心理学だけではなくて、身体的な成長もそのとおりかと思います。
  ただ、人の心理というのは、脳や心理機能の発達だけではなく、社会的な環境に大きく左右されます。
社会学的というか、社会の在り方が影響するということです。
人の心理というものが社会の状況に左右されるのだということと、16歳前後の成長を含めた心理学の知見、つまり、16歳前後の成長の在り方と社会の有様とを考えて、そのような社会の有様が心に与える影響を考えると、16歳未満で区切るということがいいのではないか、というのが一点目の質問に対する答えです。
  もう一つ、若年層でのレイプ事案ですが、いろいろな例がありまして、もちろん集団レイプは暴行・脅迫が用いられている場合もありますし、デートDVの場合は、それ以前に身体的暴力が見られる場合もあります。
ただ、クラスの優越的な地位にある中学生から、クラスのいわゆる周辺的な地位にある中学生に対するレイプ事例というのは、程度の軽い脅しはあるのですけれども、それが現行法の暴行・脅迫に当てはまるかというと、そうではない場合も割とあるという印象があります。
  ただ、そのような事例も、今話し合っている刑法177条、178条の改正によって、処罰対象に含まれてくるのではと思います。
同年齢同士の力関係を利用した性暴力について、脅迫の文言はあるにせよ、それをどう判断するかが警察によって分かれて、逮捕されたり逮捕されなかったりすることがあるので、そうした状況は、今回の改正である程度改善されるのではないかと思っています。
○浅沼幹事 13歳以上16歳未満の者について、性的行為の内容や種別によって、判断能力に違いがあるのかどうかという点は、どうお考えになりますか。
○齋藤委員 例えば、子供同士が頬にキスをするとか、親が子供の頬に親愛の情を示すためにキスをするといった、日常的に行われる行為ならば判断ができるかと思うのですけれども、わいせつな行為になってくると、判断はできないのではないかと思います。
わいせつな行為については、連続性もありますし、どこで線を引くかということが難しいということもあるので、そこに差は設けなくてもいいと思っています。
○保坂幹事 一点だけお伺いしたいのですが、16歳未満に引き上げて処罰する理由について、配布資料22に三つ示されている能力のうちの「②」と「③」の能力が十分でないのだということをおっしゃいました。
  他方で、3歳差未満というのですかね、同年代、1歳差、2歳差の者同士の性的行為を処罰しない理由については、強制力が働かない場合もあるということでおっしゃったのですが、処罰する理由を、能力が十分でないとか能力が欠けているということに求める以上は、その処罰しない理由も、その能力から説明するのが一貫するのかなと思いましたので、その強制力というと、その行為者側の威力みたいなものの相関関係のようにも聞こえたものですから、私の理解が正しくないのかもしれませんが、この能力が欠けるという場合の「②」と「③」の能力については、相手方が、例えば同年代、1歳差、2歳差ぐらいであれば、能力が発揮できるというか、能力を有するというか、そういう理解なのでしょうか。
○齋藤委員 学校教育で性交の教育をしていないのに、「①」の能力があると考えていいのかという疑問もあるのですが、それは置いておきまして、今のお話なのですけれども、強制力が働いているうんぬんというのは同意の定義の中にありまして、強制的ではないこととか、基本的に対等であって、ノーと言うことの自由がきちんと保障されていることを同意というのですが、対等性がない場合には、相手からの働きかけに対処する能力が失われてしまうことになります。
○保坂幹事 そうすると、確認ですけれども、例えば、3歳年長が相手であると、この三つの能力のうちの「③」の対処する能力が欠けるというか発揮できないと見ると、こういうことなのでしょうか。
○齋藤委員 「②」の能力も身に付いているとは言い難いので、「③」の能力が不足していることによって、「②」の「行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」も脅かされるのではないかと思っています。
○井田部会長 委員・幹事の皆様から、齋藤委員の御意見に対する御質問があれば、是非お出しいただければと思います。
○今井委員 齋藤委員、大変貴重な御意見いただきまして、勉強になりました。
  私からの質問は、先ほど保坂幹事が言われたのと非常に似ているかと思うのですけれども、対象者を13歳以上16歳未満にするということと、対象者の能力を三つに分けて考えるということ、それから最後に、クラスの中の力のある者が弱い者に対して性的行為に及ぶというような類型を挙げられたのですけれども、私も、最初の二つ、対象者を13歳以上16歳未満にするということと対象者の能力という話が同じグループに整理される問題で、クラスの中の強い者が弱い者に対して性的行為に及ぶという話は、優越的地位という御発言もありましたけれども、また違う流れの要件だろうと思いました。
それを前提にお話を伺っていて、13歳以上16歳未満と形式的に切ることも、実質的には、意味認識能力はあるけれども、対処能力あるいは抵抗力が限定されることが、言わば外形的な事実から推認される
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]という趣旨で御発言されたように思います。
そうであるならば、そのような外形的事実の内実をもう少しはっきり示すような理解がここで得られたならば、それを要件に入れるという書きぶりもあるだろうと思います。
  その上で、対処能力や抵抗力というものが、実は犯罪の成否を決める、あるいは不同意性を基礎付けるという可能性もありますけれども、そういう意味であるならば、優越的地位とか脅迫といった要件によらず、「乗じて」ということまでいかなくても、例えば「その能力不足を知りつつ性交に及んだものは、強制性交とする。
」という書き方もあるかと思いました。
  繰り返しになりますけれども、そのように申し上げているのは、16歳未満と形式的に切っても、その中身は、当該被害者とされる人の能力不足が具体的にあったかどうかという判断になろうと思いますので、その点について検討するのは、齋藤委員の御提案を踏まえた有意義な議論ではないかと思ったところです。
○齋藤委員 「能力の不足を知りつつ」という書き方に関してですが、今回法律を改正する上での大事なこととして、何歳差以上離れている場合は、関係性として対等ではなくて、相手の自由な意思決定を阻害するのだということをきちんと書くことで、被害を受けた側にも、加害する側にも、そのことが明確になるのではないかと思っております。
  また、優越的地位に関してなのですが、例えば、子供を相手にした成人など、年齢が上の人からの性的なグルーミングなどは、性的グルーミングの方法を熟知していないと、それが性的グルーミングかどうか、子供が誘導されているかどうかということについて非常に判断が難しくなるので、能力不足があったかどうかといった文言を入れることで、個別に判断する余地が生まれると、今も起きている判断のぶれが、また生じることになるのではないかという懸念を抱いています。
○今井委員 御趣旨は理解しているつもりなのですけれども、能力を三つに整理したとしても、一人の個人においても発達の度合いにはばらつきがあると思います。
それから、形式的に決めた対象年齢以上の範囲に入っている人にとっても、例えば、三つの能力のうち、どれかが飛び抜けて発達しているけれども、どれかが欠落しているような方もいると思います。
したがいまして、まず年齢差という形式的な要件で被害者層を決めたとしても、過剰処罰に至らないためには、一定の実質的な考慮が必要でありまして、そのことは、齋藤委員の御提案でも排除されているわけではないと思いますので、御提案を更に詰めて検討していくときには、そういうことも考慮した方がいいのではないかということで、申し上げた次第です。
○齋藤委員 一点補足なのですが、16歳未満という年齢設定は、17歳、18歳でも性的行為に関して、対等ではない相手からの働きかけに適切に対処ができず被害に遭っている事例はかなり多く発生しているけれども、16歳未満のように能力や社会的な立ち位置から一律適切な対処ができないと考えるということではなく、個別の事情が存在する場合もあると考え、16歳未満という年齢設定がよいのではないかという考えに基づいたものでした。
○橋爪委員 二点質問させてください。
  まず、一点目ですけれども、法律家の観点からすると、性的な判断や決定ができる能力があるかないかという問題と、同意があるかないかの問題は、別の次元の問題として扱っている気がします。
つまり、能力があるかという問題が先にあって、能力があると認められる者について、さらに同意があるかを検討し、同意があると認められる場合には、性的行為が正当化できると考えていると思うのです。
そうしますと、現実に同意があるかないかという問題と切り分けて、対象者に性的な判断ができる能力があるかを検討する必要があることになります。
したがって、仮に関係が対等であって、有効な同意が認められるとしても、同意の有無を判断する前提として、そもそも有効な意思決定ができるかを判断する必要があると考えるのですけれども、齋藤委員の御理解とはこの辺りの整理がやや異なるようにも思われましたので、まずはこの点につきまして確認させてください。
  もう一点です。
齋藤委員の御意見の中で、若年者については個人差が大きいという御指摘がございました。
個人差が大きいということを重視するのであるならば、一律に、年齢差という観点から形式的に判断するよりは、むしろ個人の成熟差に応じた上で、言わば非対等といいますか、対象者の未成熟を濫用・利用するような性的行為を個別に判断し、処罰対象にした方が、齋藤委員の御提案の趣旨に合致するような印象を持ちましたが、その点につきましても、御意見をお願いいたします。
○齋藤委員 一点目の質問について、能力が生かされるかどうかというのは、相手からの働きかけや相手との関係性にもよるのではないかと思いますので、それを別個に考えるというのは、考え方の違いではないかと思います。
  基本的に16歳未満というのは、性交が自分に及ぼす影響を理解する能力や、相手からの働きかけにきちんと対処する能力は欠けているのだけれども、ただ、本当に何の強制力もない対等な14歳同士などの場合には、お互いに、イエスやノーを言うことが可能な場合もあるのではないかと思います。
  また、二点目の個人差が大きいということに関する指摘ですが、個人差が大きいというのは、16歳未満であっても判断できる場合があるということではなくて、17歳、18歳でも判断できない場合があるという意味での個人差の大きさについて話しておりまして、16歳未満は、やはり能力的に、そして社会的な位置付け的に、判断できない年齢なのではないかと考えています。
  未成熟さを利用する、濫用する性的行為を個別に判断する方が私の提案の趣旨に合致するのではというお話については、16歳未満というのは、個人差を考慮しても、その子供たちと性的行為をするこ
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]と自体が既に年齢が低いことによる脆弱性に乗じているので、「乗じている」とか「未成熟さを利用した」ということを書く必要はないのではないかと考えております。
○橋爪委員 今の齋藤委員の御説明を伺っておりますと、16歳未満の若年者には、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力が一律に存在しないわけではなくて、「②」と「③」の能力は、潜在的には存在し得るところ、相手が誰かによって、その能力を十全に発揮できる場合とできない場合があるという理解に立っておられると感じました。
16歳未満の若年者であっても、対等な関係において十分に判断する余裕があれば、「②」及び「③」の能力についても有効に発揮できるケースがあり得ると考えてもよろしいでしょうか。
○齋藤委員 16歳未満の子供たちにとって対等である人というのは非常に限られているので、例えば、年齢が同じで、本当に強制力が何も働いていないような関係性であるなど、とても限定される印象は持っております。
○井田部会長 私も関心があるのですけれども、3歳や、それよりもう少し年上の者との関係においては、絶対に対等な関係ということはあり得ないと考えていいのでしょうか。
3歳以上離れてしまうと、もう対等ということはおよそあり得ないのか、あるいは、個人差によっては、対等になる場合もあり得ると考えられるのか。
○齋藤委員 対象者が16歳未満の場合は、年上の者と対等な関係になることは、基本的にはあり得ないと思います。
年齢差を3歳とすることが適当かということはありますけれども、基本的には、対等な関係になることはあり得ないのではないかと思います。
○長谷川幹事 配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力の内容に踏み込んで御質問をしたいと思います。
まず、「② 行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」に関して、私は、「自己に及ぼす影響」の理解には、将来的にどういうことがあり得るかということの理解も含まれると思っており、例えば、将来的な妊娠や感染症のリスクがあるというような知識も入ってくると思っています。
妊娠について、自分の人生に与える影響という意味では、10代の妊娠には40代以上の妊娠に次ぐぐらいのリスクがあって、例えば、亡くなるリスクや、子供の低体重のリスクがありますが、若年者にはそのような知識が不十分なのです。
また、若年で出産することで、学業ができなくなったり、貧困に陥る可能性があるとかいったことも含めて、「自己に及ぼす影響」なのだと考えると、相手が同年齢で、対等に同意ができるような関係であっても、「②」の能力が発揮できるということにはつながらないと思います。
  次に、「③ 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」ですけれども、性犯罪が、性的自由に対する法益侵害であり、有効な同意の存否が法益侵害の有無を基礎付けるという前提に立った上で、有効な同意ができるためには、「①」から「③」までの能力が必要であるといったときに、この「的確に対処する能力」とは、必ずしも強制的な働きかけに対して断れるかどうかということだけではなく、行為の性的な意味を認識したり、その行為が自分に及ぼす影響を理解したりした上で、どういう行動をするのかを決められるという能力を含んでいると考えるのが、法益侵害の観点から整理してきた場合の帰結のように思います。
そうすると、強制的要素だけではなくて、流されてしまうというようなことも含まれると考えると、同年齢だと、お互いに好きだとか、大事にしたいとかいった感情に、かえって流されてしまう場面もあると思うので、法的な引上げの根拠からすると、同年齢であれば「②」や「③」の能力が発揮されることもあるのではないかとか、対等な関係だから処罰しなくてよいということになるのだろうかという疑問があるのですが、いかがでしょうか。
○齋藤委員 まず、もちろん妊娠や感染症のリスクですとか、貧困になる可能性についての認識が不十分であるということはそのとおりだと思います。
どこの国だったか失念してしまいましたが、同年齢の若年者同士の性交渉について、それぞれがきちんと性教育を受けていて、それを理解した上で、さらに、対等な関係で、強制力がなく、対等なパートナーシップとは何かというのを認識できていたならば、合意があると考えてもいいとする国があった気がするのですけれども、基本的には、16歳未満同士でも対等な関係を認めることは非常に難しいと思っています。
ただ、仮に対等であることが成立し得るとしたら、同年齢同士はもしかしたら成立し得ることがあるかもしれないと思ったということです。
  私は、性交についてきちんとした認識がなく、きちんとした包括的な性教育を受けていない段階で性交を行うことに、積極的に賛成しているわけではないですけれども、性交すること自体を妨げたいわけではなくて、性的な意思決定がゆがめられているような、性的な意思決定を侵害されているような性交は、刑法できちんと処罰する必要があるのではないかと考えています。
そうしたときに、自由な性的な意思決定が侵害されているというのは、同年齢でも、流されるということもあるかもしれないですけれども、年齢差がある関係性というのは、明確に対等ではなくて、16歳未満の子供たちの自由な性的な意思決定を侵害するといえると思うので、対象年齢を16歳未満とした上で、例外として年齢差要件を設けるということを提案いたしました。
○長谷川幹事 先ほど私が言った、性的行為が自己に及ぼす影響を分からずに同意することは、有効な同意ではないのではないかという考えに対して、諸外国では、同年齢の若年者同士について、いろいろな条件があるけれども、理解をし合っていて、対等であり、強制ではなくて、パートナーシップも理解しているというものであれば、合意があると考える国があるとのことでした。
齋藤委員は、16歳未満同士であっても、対等である場合もあり得る可能性があるから、3歳未満の年齢差については不処罰にするという御意見と伺ったのですけれども、それが、性的同意に関する「①」から「③」までの能力の理
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]論的なところから帰結するかというと、諸外国のいろいろな条件というのは、「①」から「③」までの能力とは違う観点から設けられているように思うので、結局、例外として、一定の年齢差未満の場合は処罰しないようにすべきではないかという意見は、理論的な帰結というよりは、ほかの条文に該当するものは別として、立法の側とか国民の側とかが非難をしないという選択をして、そこは罰しないようにしようという刑事政策的な話のように思えました。
○小西委員 同年齢の場合のことをどう考えるかという点について発言したいと思いますが、その前に、心理学や精神医学は、発達にしても異常にしても、基本的には連続体として捉えるものです。
その内容については、もう皆様余り議論はないと思うのですけれども、法律の条文でどう捉えていくかというところが、今回問題になっていると思います。
  前提から聞いていただけると有り難いのですけれども、生物学的な問題、あるいは社会学的な問題として捉えても、性犯罪に関して、若年の子供に脆弱なところがあるということは共通の認識だと思いますので、そこが年齢引上げに関する出発点であるということは、間違いないと思います。
  私としては、性的行為をするかどうかに関する能力として、13歳未満までは、配布資料22に記載されている「①」、「②」、「③」の全部の能力が欠け、13歳から15歳までの人は「②」及び「③」の能力が欠けると考えていいのではないかと思うのですが、そういう発達に関する事柄をストレートに条文に表現するとなると、私は、実は、強制性交等の対象年齢の引上げではなくて、諮問事項「第一の三」の地位・関係性の利用を要件とする罪の新設の中にそういう脆弱性の視点も含めて考えた方がいいと、最初は思っていました。
こちらの方が子供をめぐる性犯罪の心理学的な実態に沿っていると思ったからです。
しかし、どうもそれは法的に実現するのが難しいらしいということを、お話を聞いていて思いまして、結局、年齢で捉えるというのは、実質的にとても脆弱な人たちを捉えていくために、形式的要件に置き換えるという形で、年齢という要件を出しているのだと考えて、年齢の引上げに賛成するようになりました。
  そういう観点から見ると、年齢で区切るというのは、一種の分かりやすくする代替策であって、例えば、16歳と15歳でどう違うかという質問は、心理学的・精神学的には非常にナンセンスな質問になってしまうのだけれども、代替策の中でどのように考えるかと思うと、やはりいろいろな濃さでそういう脆弱性なり社会的な問題なりがあるときに、どこかで区切るならば、そこから先は絶対に100%そういうことはあり得ないというところで区切るしかないのだろうというのは、法律としては納得するところです。
そのように考えますと、あえて分かりやすい指標としての年齢を挙げることで、大きな害を取り除こうということなので、0か100かで、被害そのものもきれいに分かれるものはないのだという前提に立ってやらないといけないのだと思います。
  では、そこで年齢ということをどう考えるかということなのですが、皆様の御発言にもありましたが、やはりパワーの差が明らかで、このパワーの差があれば、あるいはこの関係性であれば、平等ということはあり得ないという年齢で切るしかないのかなと思っています。
それは、被害を受けた人全員を救うことにならない可能性があるので、私としてはすごく残念だと思っているのですけれども、法律で実現するとすれば、それしかないのかなと思います。
  そう考えたら、例えば、13歳の子に、成人年齢である18歳の人が加害をするという場合には、ここには到底、対等な関係はあり得ないと考えていいと思います。
それは、加害者の能力から考えても、それから法的な扱いから考えても、当然そうなのではないかと思います。
そうすると、この場合の年齢差は、5歳差ということになりますが、例えば、それが15歳と20歳であっても、20歳もその年齢を境に、法的な成人としての扱いに差が認められる年齢です。
そこで切るというのも、比較的妥当な境界かと思います。
本当に全てが救えないということが残念であるのだけれども、やはり5歳差というのが、法的には、それ以上だったら関係性が平等であることはあり得ないということを保障するという点では、妥当なのかなと思うに至りました。
○井田部会長 小西委員の御意見に対して、事務当局としていかがですか。
○浅沼幹事 小西委員の御意見は、本来であれば、若年者に対する性的行為は、地位・関係性を利用する類型として整理する、あるいは実質的要件を設ける方が適切だろうけれども、明確に線を引くとすれば形式的要件を設けることになって、その場合の処罰対象から除外する年齢差は5歳差が妥当というものだと理解しました。
  今後の議論がどうなるかは分からないのですけれども、実質的要件を設けることができるのではないかという余地が仮に出てきた場合、委員としては、やはり実質的要件を支持されるのでしょうか。
それとも、いろいろお考えになった結果、実質的要件を設ける余地が出てきたとしても、明確に形式的要件で切った方がいいという結論にたどり着いていらっしゃるのか、教えていただければと思います。
○小西委員 まず、13歳未満というのは余りにも低すぎるという意見ですので、このままでいいとは思っていません。
たとえ地位・関係性を利用する類型の方で規定できたとしても、このままではよくないのではないかと思います。
ただ、実際に、例えば、15歳の子がSNSで誘い出されて、合意したと思ってセックスをしてしまうのだけれども、後で大変状況が悪くなるというようなケースはたくさんあるわけです。
そういうケースを考えるときには、やはり心理的に考えれば、それは地位・関係性や個人の脆弱性という、連続体で存在する要素の問題だろうと思うので、精神医学的に分析するのであればそちらの方が適切だと思っています。
ただ、それがなかなか法律に実現しないというか、法的には難しいことなのだとこれまでの議論から思ったということなので、理念的には実現できるのであれば、それで
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]もいいといえます。
○浅沼幹事 もう一点、先ほど齋藤委員にもお伺いしたのですけれども、対象年齢未満の者について、性的行為の種別や内容、例えば、強制わいせつに当たるような行為か強制性交等に当たるような行為かによって、判断する能力が変わってくるか、変わってこないかについては、どうお考えでしょうか。
○小西委員 変わらないと思っています。
基本的に、対象者を身体的に、それから心理的に侵害する性的行為の影響というのは、もちろんこれもスペクトラムですから、程度の差はありますけれども、それを言うなら、強制性交等の行為の中にも様々な行為があり、強制わいせつの中にも様々な行為があるわけです。
一つの言葉で区切れるわけではないので、本質的には一緒だというのが、私の意見です。
○吉田幹事 一点だけお伺いしたいのは、年齢差要件について、先ほど5歳という数字を出して御説明いただきましたけれども、13歳と18歳、14歳と19歳、15歳と20歳と、被害者になる側の年齢が1歳上がれば、相手側の年齢も1歳上がっていくという具合に、少しずつスライドする形になるわけです。
13歳と18歳の場合の5歳差が持つ意味と、このスライドしていったときの5歳差の持つ意味というのは、同じように捉えることができるのでしょうか。
心理学ではなかなか説明が難しいということかもしれないのですけれども、心理学以外に関する小西委員の御知見も含めて、御説明の仕方として何かあり得るのかを、もしお考えがあればお伺いしたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。
○小西委員 基本的には、性的行為の当事者間の関係性において、パワーの差が明らかであるか否かというところが一つの判断基準だと思うので、本当に個別のケースでそうかといわれたら、心理学的には答えにくい問題ですけれども、全体として、5歳差がある場合に、パワーの差が全くないということはあり得ないということはいえると考えます。
○保坂幹事 一点だけ御質問したいのですけれども、先ほど齋藤委員に聞いたのと同じような質問ですけれども、御発言の中で、16歳未満まで引き上げることを前提とした場合の13歳から16歳未満までの間は、能力でいうと、配布資料22に記載されている「②」と「③」が欠ける、あるいは不十分だと。
その上で、パワーの差が明らかな場合に限って、処罰の対象にする。
つまり、5歳未満の年齢差の場合には、それが明らかとはいえないという、こういう御趣旨だと思うのですが、処罰する根拠が、能力が欠けているから自由な意思決定ができないのだということにあるとすると、その能力は、5歳差なら全部できるわけではないけれども、5歳差を超えるとおよそ能力が発揮できないというか、つまり、「②」と「③」の能力というのは、ある程度相手による相対性があることを前提とされているのかどうかを確認したいと思いました。
○小西委員 先ほどから議論になっていますけれども、被害者の能力に関する問題と、関係性に関する問題というのが、二つ一緒に入ってきているので、混乱しているような気がするのです。
  関係性という点では、今お話ししたように5歳差だと思います。
「②」や「③」の能力がそれに影響されるものなのかといいますと、「②」の能力は違うと思います。
「行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」というのをそのまま読むならば、これは、個人がどう理解するかということなので、相手との年齢差によって変わるものではないと思います。
  ただ、「③」の「性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」は、働きかけというのが相手方からある以上、例えば、相手が狡猾になればなるほど、的確に対処することが非常に難しくなってくるということはあるわけで、そこは影響があるといえると思います。
○井田部会長 委員・幹事の皆様から、今の小西委員のお考えに対して御質問がございましたらどうぞ。
○北川委員 小西委員、そして齋藤委員も心理学的見地からいろいろ御教示いただき、ありがとうございました。
齋藤委員と小西委員の御意見を聞いていて、改正の趣旨に違いがあるのかと思った点に関して、確認の趣旨で質問させていただきます。
  小西委員の御発言からしますと、むしろ今回の対象年齢の引上げの根拠というのは、被害者の脆弱性及びその脆弱性に対して関係性を濫用して行われる性犯罪の類型化が、地位・関係性の利用の拡大によって実現できないのであれば、対象年齢の引上げと年齢差要件によって代替しようということであると理解しました。
その意味では、必ずしも先ほど齋藤委員がおっしゃったように、飽くまで16歳未満は性的判断能力を欠くということを理由に引き上げるのではなくて、能力うんぬんだけでなく、むしろ刑事政策的な判断、13歳から15歳までの者を大人の性的搾取から守るという観点から引き上げるということのようにも受け取れて、引上げの法的根拠が、齋藤委員と小西委員の間で異なるのではないかという点を、質問させていただきます。
○小西委員 法律的な議論なので、非常に難しいのですけれども、例えば、法律にいろいろな心理学の知見を反映していくときに、どう反映するかということで、そこは多少、齋藤委員と違ったところもあったかとは思います。
齋藤委員のお話では、地位・関係性やパワーの問題、脆弱性の問題から、代替策として年齢差を設けるというお話ではなかったように思いますけれども、それでお答えになりますか。
私の意見は、本当に、これは駄目だというものはせめて守っていただきたいと、そういうことです。
○齋藤委員 16歳未満が性的判断能力を欠くというのは、16歳未満は年上からの働きかけについて適切に対処することが難しいからであり、多分本質的に、小西委員がおっしゃっていることと違いはないのですけれども、理論の組み立て方は違ったのではないかと思います。
○金杉幹事 先ほど齋藤委員に御質問し損ねたのですけれども、よろしいでしょうか。
三点御質問します。
  一点目は、例えば、15歳の高校1年生の男子が、同じアルバイト先にいる18歳の高校3年生の
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]女子と恋愛関係になって性行為に及んだような場合、齋藤委員の御意見としては、女性の側に強制性交等罪が成立するということでしょうか。
  二点目、三点目につきましては、事案を変えまして、例えば、15歳の男子と18歳の女性が、出会い系、マッチングアプリ等で1回だけ会ったという場合を想定したいのですが、この場合に、明確な暴行という形ではなくて、多少脅迫的な言辞でもって、15歳の男子の方から18歳の女性に働きかけて性交等を行ったときに、この15歳男子については、仮にそれが強制性交等罪に該当し得るような脅迫行為だったとして、強制性交等罪として処罰されるというお考えでしょうか。
もし処罰されるというお考えなのであれば、16歳未満の者については、三つの能力のうち、少なくとも配布資料22に記載されている「②」や「③」の、自分の行為が自己に及ぼす影響を理解する能力とか、そういう性的自己決定に関する判断能力が欠ける、若しくは不十分だというお考えに立つにもかかわらず、行為者である15歳の男子が処罰されると考える根拠は何なのか、というのが二点目の御質問です。
  三点目は、同じ事案で、脅迫的な言動によって、15歳の男子と結果的に性交等に及んでしまった18歳の女性の側に、強制性交等罪が成立するのかしないのか。
もししないとお考えなのであれば、その根拠は何かという、この大きく分けて三つについて、お尋ねできればと思います。
○齋藤委員 先ほど例で、私も性別に言及しましたが、よく男子がとか女子がというような御発言があるのですけれども、それ自体が、様々なジェンダーのバイアスが掛かっているように思うことがよくございます。
それは置いておきまして、15歳の高校1年生の男子が、アルバイト先にいる18歳の高校3年生の女子と恋愛関係になって性行為に及んだ場合であっても、もし3歳差で区切るのであれば、18歳の高校3年生の女子は、15歳の男子のまだ判断が未熟なところを利用したと考えられるので、強制性交等罪が成立するということになると思います。
小西委員の5歳差だと、ここは入らないということになるかと思います。
  また、15歳の男子と18歳の女子がマッチングアプリで1回だけ会った場合、明確な暴行・脅迫があって、働きかけて性交等を行った場合ということですが、「③」の能力は働きかけへの対処であって、この場合、15歳の男子から働きかけて暴行・脅迫を行っているのであれば、それは別の処罰になる必要があるのではないかと思います。
また、18歳の女性の側が、もちろん明確な暴行とか脅迫、あるいは、明確でないけれども暴行・脅迫を用いて15歳の男子に性交した場合は、18歳の女性が強制性交の加害者ということになるのではないかと思います。
○井田部会長 金杉幹事、いかがですか。
○金杉幹事 少しかみ合っていない点があったかと思いますが、大体お考えは分かりましたので結構です。
○井田部会長 ほかに、小西委員に対する御質問はございますか。
○橋爪委員 一点確認させてください。
  小西委員の御意見の趣旨は、本来は実質的な関係性の有無によって処罰を図るのが妥当であるところ、法律家の議論では、それを実現することが難しいため、実質的要件を形式的要件に置き換えるということだと理解いたしました。
そうしますと、仮に実質的要件でこのような関係性を規律して罰則を設けられるならば、その方が優れているという御趣旨でしょうか。
あるいは、実質的要件と形式的要件を併用する形で、それによって処罰範囲を画すれば、その方がいいということでしょうか。
○小西委員 関係性について実質的に規定できるかどうかということは、ここまでの地位・関係性を利用する類型の議論の中で、例えば教員はどうなのか、クラブのコーチはどうなのか、先輩はどうなのかといういろいろな問題を話し合ってきました。
その中で、私は、どうも地位・関係性を利用する類型では、私が知っている実際の被害者に有効な形での処罰はできないのではないかという気がしたので、そうであれば形式的要件にと思っているわけです。
形式的要件と思った時点で、例えば、同年齢間におけるいじめとしての性的行為などを対象としないことになってしまうので、とても心苦しいです。
  しかし、絶対にあり得ないことだけはせめて罰してほしいという考え方をとると、例えば、先ほどの5歳差であれば、20歳と15歳では当然パワーということを、パワーという言葉ではなくても、加害者が意識すべきところだと思います。
そういう形で安全策を採った結果として、今の意見になったということです。
法律をどう作るかは、正直、私の力の及ぶところではないのですけれども、例えば5歳差で提案した時点で、救えるケースが全部救えて、かつ、もうちょっと年齢差が近いけれども、救えるケースがあるのであれば、それは考えてもいいのかなと思います。
○橋爪委員 小西委員の御趣旨には本当に共感しております。
個人的な感想になってしまいますが、形式的要件一本で切る場合には、これだけ年齢が離れていれば、絶対にもうレイプ以外の関係はあり得ないという規定にならざるを得ないと思うのです。
そうすると、一定の年齢差があれば8割の場合は対等とはいえないとしても、2割でも対等な関係が認められる可能性が残る場合については、その年齢差を基準とした処罰規定を設けることができないということになります。
形式的要件一本で規定する場合は、およそ例外がない場合しか処罰ができないので、そこに収まってこない場合を切り捨てざるを得ないところが本当に難しいという印象を改めて強く持ちました。
○井田部会長 それでは、ほかにどなたか御意見のある方はいらっしゃいますか。
○佐伯委員 私は、前回改正の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会では、性交同意年齢の引上げについて、児童福祉法や条例の罰則などの存在を理由に、消極的な意見を申し上げました。
しかし、今回の部会において、皆様の御意見・御議論を伺い、13歳以上であっても、一定の年齢以下の者については、
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]先ほどから御指摘がありますように、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、あるいは性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力が十分でないということから、そのような若年者を保護するために刑法に新たな規定を設けることに賛成したいと思うようになっています。
  その上で、どのような規定にするのが望ましいのかということについて、現在のところは、第1回会議の外国の法制度に関する配布資料6で紹介されました、ドイツ刑法182条3項のような規定、具体的には、同項は、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行い、その際に、行為者に対する被害者の性的自己決定能力の欠如を利用した場合に処罰すると規定しておりますけれども、このような規定の仕方が、基本的には適切ではないかと思うに至っております。
  この規定のように、年齢差を、行為者と被害者の年齢で定めるのか、それとも、端的に年齢差として規定するのか、あるいは、その年齢や年齢差を何歳にするのか、先ほどから、3歳あるいは5歳というような御意見が出ておりますが、それらの点については、更に検討が必要だと思いますけれども、基本的に、年齢差と被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用の両方を要件とすることが、望ましいのではないかということです。
  まず、年齢差要件を設ける理由については、若年者の判断能力、特に対処能力は、相手や状況に左右されるものであって、一定の年齢差がある場合には、先ほど来、小西委員が御指摘になっておられますように、対処能力に欠けると考えることができること、そして、これも小西委員が御指摘になられた点ですけれども、法律の安定的な適用を確保するためには、被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用を徴表する要件を規定し、一定の場合は、原則として犯罪が成立するということを示すのが、望ましいと思われるからです。
  次に、年齢差要件とともに、利用要件を設ける、この点が、小西委員と意見を異にする点なのですけれども、その理由というのは、年齢差要件だけで処罰範囲を適切に画することができるかについて、私は危惧を感じるからです。
例えば、先ほども御指摘がありましたけれども、年少者が年長者に対して暴行・脅迫を用いて性交等を行ったという場合は、年長者は被害者ですので、処罰されるべきではないということについては、恐らく異論はないのではないかと思います。
そのような場合は、違法性阻却等で処罰範囲から除外できるのかもしれませんが、やはり構成要件の段階で除外することが望ましいと思います。
  さらに、一定の年齢差がある場合、飽くまで例えばですけれども、ドイツ刑法の規定のように、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行った場合には一律に処罰する規定とすることについては、最高裁判例との関係も気になります。
御案内のように、最高裁昭和60年10月23日大法廷判決は、18歳未満の者との淫行を禁止・処罰する福岡県青少年保護育成条例について、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰の対象とすることは処罰の範囲が広きに失すると判示しています。
今回問題となっている一定の年齢未満、例えば、16歳未満の者との性的行為等の処罰について、この判例がそのまま当てはまるわけではありませんが、真摯な合意に基づく性的関係は処罰すべきではないというのが、この判例の基本的な考え方だとすると、私は、その考え方は尊重されるべきだと思います。
  一定の年齢差がある場合は、そのような真摯な合意に基づくものではないというのが通常でしょうし、その年齢差が更に大きくなれば、真摯な合意に基づくものとは到底いえないと判断されることになると思います。
しかし、一定の年齢差を少し超えただけで、常に真摯な合意に基づくものでないといえるのか、例えば、21歳の者と15歳の者との間には、真摯な合意に基づく性的関係はあり得ないと言い切ってよいのかについては、私はちゅうちょを覚えるところです。
  この最高裁判例が、法定刑が懲役2年以下又は10万円以下の罰金である条例の規定に関するものであるのに対して、現在議論されているのは、法定刑が、性交等の場合は5年以上の有期懲役の罪であることも、考慮に入れられるべきだろうと思います。
○井田部会長 事務当局から質問があればお願いします。
○浅沼幹事 既に委員の御発言の中で触れられているものと理解しておりますが、確認の意味で御質問いたします。
年齢差なりの形式的な要件と利用要件、つまり実質的な要件の組合せという御提案だったと思いますけれども、その両者の関係性について、どのようにお考えになりますか。
○佐伯委員 年齢差があることによって、対処能力の欠如が示されるということが第一点です。
それから小西委員が御指摘になった点と共通しますけれども、明確な基準があった方がいいということが二点目です。
小西委員は、5歳差があれば、パワーに差がないということはあり得ないとおっしゃいました。
確かに、力関係に差はあるのだろうとは思いますが、その差が、直ちに刑法で、例えば、性行為について懲役5年以上の刑罰を科すということをもたらすものなのかというと、パワーに差はあっても、そのような差に配慮しつつ、真摯に交際するということも、特に年齢差が少し超えているというような場合には、あり得るのではないかと思っております。
○浅沼幹事 実質的要件の軽重といいますか、表現が難しいのですけれども、年齢差を非常に大きく、例えば、10歳と定めて、それで残ってくる実質的要件で捉えられるべきものと、例えば、年齢差が3歳というような狭い場合に、残ってくる実質的要件で捉えられるべきものの重さの違いというか、年齢差要件と実質的要件の相関関係についてはどうお考えになりますか。
○佐伯委員 実質上変わってくると思います。
年齢差が大きくなればなるほど、その年齢差があれば、原則として処罰していいということになって、実質的要件である利用要件は余り働くことがない、本当に
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]例外的な場合に限られるということになると思いますし、年齢差が小さくなればなるほど、その年齢差だけで直ちに処罰を基礎付けることができなくて、より利用要件に実質的な役割が求められるということになるのではないかと思います。
○吉田幹事 今の点と関連して教えていただきたいのですが、今の御意見の趣旨は、年齢差という形式的な要件を設けることとした場合に、その年齢差の持つ意味が、その幅によって変わってくる、例えば、年齢差を10歳とか15歳と離しますと、基本的に対等な関係ではない、能力が発揮できないということになってきて、実質的要件で除くべき部分というのが、その分縮小するという関係に立つということであると思います。
そのときに、もちろん具体的な文言はまだこれから議論すべきことだろうとは思っておりますけれども、例えば、監護者性交等罪では「乗じて」という言葉が用いられていて、御案内のとおり、余り機能すべき領域が大きくない要件として設けられております。
そうしたことも踏まえ、例えば、実質的要件として、そういう「乗じて」というような言葉を用いることも視野に入ってくるのか、あるいは、それとは別の考慮があり得るのか、その辺りについて、現時点でのお考えがあれば、教えていただければと思います。
○佐伯委員 実質的要件として、「乗じて」という言葉を用いることも考えられると思います。
そこは正に、実質的要件にどのぐらい役割を持たせるかということにも関係するのですけれども、今、御指摘があったように、監護者性交等罪においては、「乗じて」という要件は非常に限定された機能しかないと理解されていますので、それよりはもう少し機能を持たせた文言として、ドイツ刑法で使われている「利用」という文言を御提案した次第です。
○保坂幹事 一点だけお伺いしたいのですけれども、年齢差のような形式的要件プラス、利用する、未熟さを利用するというような、利用要件というお話でございましたが、年齢差としてどれぐらいを設定するのかのところにも大きくよるのだと思いますけれども、その年齢差内にある者同士の中に、実質的要件を満たすような者はいないという設定なのか、それとも、いるだろうけれども、言わば同年代同士の場合には、利用があり得ないのか、あるいは利用したとしても、5年以上の懲役という法定刑で罰すべきでないというのか、同年代が処罰されない理由は、この要件との関係でどう理解すればいいのかというのを教えていただければと思いました。
○佐伯委員 対処能力も含めて、性的行為をするかどうかに関する三つの能力全てが0か100かではないと思うのですけれども、一定の年齢差がある場合には、類型的に対処能力が欠けると考えるということです。
そうすると、実質的には利用していて、可罰性がある場合も処罰から漏れてくるのではないかということについては、小西委員と同じ意見で、確かにそういう場合もあるかもしれないけれども、そのデメリットと、明確に処罰範囲を画するというメリットを勘案すると、メリットが上回るのではないかというのが、私の意見です。
○小西委員 佐伯委員の御意見は納得できるところもあるのですけれども、実質的には、多分、橋爪委員も佐伯委員も同じことをおっしゃっていて、要するに、年齢差要件だけでは処罰すべきでないものが処罰されてしまうケースもあるということをおっしゃっているのだと思います。
  ただ、私がどうして形式的要件にこだわっているかというと、「真摯な恋愛」とか、そういう心理学的な要素を含んだ言葉は、偏見がある社会の中ではきちんと使われない可能性が非常に高いからです。
今でも、多くのケースの中で、実際にはパワーのコントロールがあるにもかかわらず、そのことが明らかにならずに、例えば無罪になっているようなケースがあるわけです。
その中で、かなり心理学的な要件である、例えば、先ほどの「乗じて」のところに入ってくる文言が、余り規定されずに書かれてしまって、実質的には人の偏見に任せられるということになることに、私は非常に危惧を持っています。
だからこそ、代替の仕組みというか、本当に足りないところはあるのだけれども、形式的要件にこだわりたいと思っているということを、お話ししたいと思います。
○井田部会長 濫用されるおそれがない、救済すべき者が全て救済されるような文言というのはあり得ないのでしょうか。
○小西委員 今の真摯な恋愛は処罰すべきでないという点に納得された方もいるのかもしれませんけれども、そういうように見えながら、実際にはコントロールが非常になされているケースというのは、本当にあります。
そういうケースを発見するためには、その人が真摯であるかどうかということを、表面上、誰かが判定するわけですけれども、そういう判定では不十分だと思っています。
どのような言葉があるかというのは、今はお答えできません。
少し考えてみますけれども、ここまでの経過を踏まえて、到底無理だなと思ったので、この形式だけの要件を主張しているということです。
○井田部会長 ほかに、今の佐伯委員の御発言に対する御質問はございますか。
○齋藤委員 年齢差があっても、形式的要件のぎりぎりの年齢差で、相手のことを考えた真摯な関係性があって、同意を築く場合もあるのではないかというお話があったかと思うのですけれども、それは、16歳未満の若年者は性交が自分の心身にもたらす影響を十分に認識していない、ということを理解しているのに、16歳未満の若年者に対して性交を求めるということが、真摯な関係とか同意に基づく可能性があるということでよろしいのでしょうか。
○佐伯委員 道徳的にいえば、真摯に相手のことを思っているのであれば、16歳まで性的な関係を持つことを我慢すべきであるというのは、そのとおりかと思うのですけれども、刑罰、特に重い刑罰を科すということを考えた場合には、完全な配慮というものを刑法で求めるのは、やや行き過ぎではないかと思っております。

https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]井田部会長 真摯という言葉自体が、倫理的意味合いを持ってしまっているので、例えば、対等性の保障されている関係とか、ほかに良い言葉はないでしょうかね。
○金杉幹事 児童福祉法の淫行をさせる行為の中に、佐伯委員が御提案になったような規定で捕捉される行為と被るものがあり得ると思うのですが、児童福祉法違反の場合、懲役10年以下の法定刑ということになります。
そちらと強制性交等罪との整合性についてどのようにお考えか、例えば、佐伯委員の御提案のような規定ぶりで、もう少し法定刑を下げた形で規定するということは考えられると思うのですが、これを強制性交等罪と同程度の罪だとお考えになる根拠を、お聞かせいただければと思います。
○佐伯委員 青少年保護の観点からの規定を刑法に新たに設けるということであれば、より軽い法定刑ということが考えられると思うのですけれども、同意能力に欠けるということを理由として新たに規定を設ける場合には、絶対にというわけではないのですけれども、現在の13歳未満に対する性的行為を処罰する規定と同じような規定になるのではないかと思っております。
○今井委員 年齢差に加えまして、被害者の未熟さを利用して、というような形で実質的要件を設けるという御提案で、私も似たような発想を持っているのですけれども、その未熟さを利用してということの実態が、被害者側の能力の不足ということに関連してということになりますと、実質的には、対処能力等が相手方に十分にないことを知りつつ行為を行ったという場合に、非常に近づいてくるような気もいたします。
  佐伯委員も、規定ぶりは今後検討すべきということをおっしゃっていたので、今すべき質問ではないかもしれないのですけれども、「利用して」という要件を狭く捉えると監護者性交等罪にいう「乗じて」に近づきますし、あるいは被害者の置かれている状況を認識しつつ、という意味に捉えますと、能力の一部の欠落を認識して、ということに近づいてきて、金杉幹事が言われたような質問も出てくるのかなと思っていたところです。
ですので、被害者の対処能力の重要性を確認した上で、実質的要件をどう書くかによって法定刑も差異はあり得るのかなと思っていたのですが、現状での御意見があれば教えていただきたいと思います。
○佐伯委員 特に、年齢差をどうするかというところは、大きいのかなと感じております。
○長谷川幹事 三点質問をさせていただきたいと思います。
  先ほど昭和60年の最高裁判例について御紹介いただいて、判決理由の中で、18歳未満に対する淫行の処罰について、結婚を前提とするような真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰対象とすると、処罰範囲が広汎になりすぎるという趣旨の判示部分を引用されたのですが、一点目は、女性の婚姻適齢が18歳に引き上げられたこととの関係で、今、この判決理由の判示はどのように整理されるのかということをお聞きしたいと思います。
それから、佐伯委員も、対象年齢を引き上げる根拠として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力に言及されつつ、真摯な恋愛、そういった一定程度本気の恋愛は処罰すべきではないのではないかという考えが背景にある御意見としてお聞きしたのですが、私は、先ほど言ったように、「②」の能力が不十分であることは、相手が誰であろうと、本気の恋愛であろうと、変わらないのではないかと思っておりまして、そこはどうお考えなのでしょうか。
それから、実質的要件について、これは、「乗じて」という言葉を使うのか、ほかの言葉を使うのか、まだ定まっていないところではあるのですけれども、こういった要件によって、年齢差があっても、一定の処罰すべきでないものを処罰対象から排除しようというお考えだと思うのですが、こういった要件があることによって、本来処罰すべきものが、行為者の認識や行為の立証の問題から処罰できなくなってしまう危険を多分にはらんでいるという点について、どうお考えなのかということを教えてください。
○佐伯委員 まず、最高裁判例が出たときと現在では、婚姻適齢が変わっているというのは、正に御指摘のとおりで、先ほども申し上げましたけれども、この最高裁判例が、そのまま直接、今議論している問題に当てはまるとは、私も思っておりません。
ただ、最高裁判例の基礎にある考え方からは、年齢差要件を設けても、その年齢差を少し超えるような場合に、常に処罰に値するといえるのかというと、やはり処罰すべきでない事例があるのではないかという発想に立つものです。
そして、これは先ほど御質問のあった立証の問題とも関連するのですけれども、刑罰を科すかどうかという問題ですので、少しでも処罰すべきでないものが入るおそれがあるのであれば、本来処罰すべきものが多少漏れたとしても、利用要件を設けることによって、言わば安全弁のようなものを残すべきではないかと思っている次第です。
○小島委員 この年齢差要件という形式的要件と実質的要件のハイブリッドを考える御意見だと思いますが,なぜ形式的要件と実質的要件のハイブリッドにするべきだと考えられたのか、ということを御質問させていただきたいと思います。
○佐伯委員 年齢差を何歳にするかということにもよるのですけれども、ある程度の年齢差が確保されれば、ほとんどの場合は処罰してもよい事例に当たるのだろうと、私も思っています。
ただ、それは、飽くまでほとんどの場合であって、やはり例外的に、たとえ年齢差を多少超えていても処罰すべきでないと多くの人が感じる事例もあるのではないかと思っており、そういう場合を処罰範囲から除外するためには、何らかの別の要件があることが望ましいのではないかというのが、私の意見です。
○山本委員 先ほどから繰り返しいろいろな方が質問しているのですけれども、対等に性的同意ができるということがどういうことか、という理解が共有されていないのではと思うので、説明をさせていただきます。

https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]  例えば、22歳と15歳の間でも、真摯な同意の下に性的な交流ができる可能性があり得るかもしれず、それが一定の年齢差を超えたら、真摯な合意があり得ないと言い切っていいのかということが、この年齢差に関する皆様の懸念というか、疑問になっているのかなと思います。
私は看護師で、性的被害の支援をしている立場なので、お互いに対等な関係で同意のある性交というためには、性的同意と性的コミュニケーション、性行為と妊娠、出産の過程を学び、きちんとコンドームの使用方法を守って、性感染症の防止も行い、異性間の性交だったら妊娠がありますから、女子に関しては毎月三、四千円分のピルを買える経済的な力も必要になります。
それらがあった上で、毎回、性的行為のときに同意をお互いにかわすことができるというのが、対等な性的同意であると考えています。
  その上で、例えば、ピルを年長者が買って年少者に与えるということになると、それは性的搾取に入ってくると思うのですけれども、一定の年齢差があっても、なお、それが性的搾取に入ってこないと考えるのは、どういうことなのかなということを、もう一回お伺いできればと思いました。
○佐伯委員 私の理解が不十分なのかもしれないのですが、もちろん、例えば、22歳と15歳であれば完全に対等とはいえないでしょうし、知識にも格差があると思います。
しかし、そういう力の格差や、知識の格差に配慮しながら、例えば、避妊をきちんとする、あるいは、そういう格差を補う努力、真摯という言葉が適切かは分かりませんが、私の考える真摯というのは、単なる主観の問題ではなくて、具体的にどういうことを行っているのかという客観的な問題だろうと思うのですけれども、様々な配慮を行って、性的な関係を持っているという場合に、これを、強制性交等罪や強制わいせつ罪と同じように処罰するというのは、私にはやや行き過ぎのように思えまして、やはりそういう場合を除外できる要件を設けておくのが適切ではないか、それを実務の運用に任せてしまうというのは適切ではないのではないかと思っております。
○山本委員 年齢差があり、すごく配慮ができるというのは、とてもよくできた人みたいなイメージがあります。
22歳の人がそこまでの配慮をできるのだろうかと思います。
  人間は、いろいろ自分の都合とか目的とかもありますし、特に若年でもありますから、そこまで本当に真摯に相手のことを思って、対等性を補完できるようなことが常時できるのかというのが、まず一つ疑問です。
もっと年長になっていけば、例えば30歳と50歳であれば、もう少し理解力とか思いやりとか配慮もできてくるのかなと思うのですけれども、それも人によりますし、若年者同士の場合に、そこまで年長者に期待できるのかというところは、非常に疑問だなと思ったというのが、私の感想です。
  それと、やはり年齢差は設けてほしいとは思います。
今の社会で、年齢差が持つパワーというのが、なかなか認識されていないと思います。
それは、被害を受ける人も認識できていないということもあるし、加害する側も、相手がいいと言ったからいいのではないかという考えで、その中で、性暴力も含めた多様な傷つきが生じ、そして、多大な心身に対する影響を後々にも与えているということがあるので、年齢に対する意識を議論して深めていただければと思いました。
○井田部会長 それでは、ここで10分ほど休憩を入れたいと思います。
午前11時50分に再開したいと思います。

             (休     憩)
○井田部会長 会議を再開いたします。
  引き続き「第一の二」の対象年齢の引上げについて御議論を頂きたいと思います。
  御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いしたいと思います。
○山本委員 私は、対象年齢を16歳未満に引き上げて、3歳差の年齢差要件を設けた方がよいのではないかという、齋藤委員の御提案に賛成します。
まず、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力について、専門家によってもいろいろ意見の違いはあるかと思うのですけれども、私の考えを述べさせていただきます。
  まず、女子で月経が開始される年齢は大体10歳から12歳ぐらい、体格がいい人なら10歳から11歳ぐらいです。
男子が精通する年齢は13歳ぐらいです。
その頃から第二次性徴が始まり、性的な発達に伴い、マスターベーションとかも行われるようになり、いろいろな性にまつわる周辺情報を確認しながら、「① 行為の性的な意味を認識する能力」が段階的に備わっていくのではないかと考えます。
個体差もあると思いますけれども、それが大体13歳ぐらいから16歳ぐらいなのではと思います。
「② 行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」というのは、本当に教育の影響が大きいと思います。
日本でなかなか包括的な性教育が行われていない中で、単に性交するということだけではなくて、性感染症、妊娠、出産、その後の人生に与える影響、また、自分が恋愛関係と思っていたものが実はグルーミングで、後に性暴力だったということに気付くとか、そういうことになってくると、かなり高い認識と知識と理解力を要しますので、なかなかこれも難しいのかなとも思うのですけれども、そのような自己に及ぼす影響を理解する能力も、段階的に備わっていくことは、心身の性的な発達と社会性の発達とともに可能であると考えます。
  「③ 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」については、カナダでは、同意能力、つまり、性的な行為についての判断能力は16歳までに身に付くが、支配的な力に抵抗する能力が身に付くのは18歳で成人と同じレベルとされていて、2歳の年齢差を設けているということ
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]が、刑事法ジャーナル第45号に記載されていました。
カナダとは社会や文化の違いや包括的な性教育の有無など、日本とは違う点もありますが、このような法制度も参考になると思います。
カナダの例は、支配的な力に抵抗する能力ということなので、より強い、強度な関係性がある人とか、あと年齢差が大きい人とか、そういう人に抵抗する能力であると思います。
「③」の「相手方からの働きかけに的確に対処する能力」というのは、同意のある性交か、ない性交か、対等性があるのか、ないのかということを認識して、ない場合は、その場から去り、適切な信頼できる相手に相談し、その支援を求めることができるという能力なのかなと思うと、16歳の者には、そのように対処する能力が一定程度備わっていくと考えてもよいのではないかと思います。
  年齢差要件について、なぜ3歳差なのかといいますと、やはり今、成人年齢が18歳で、成人になるといろいろな権利を持つようになったり、権利を行使することができるようになる。
そういうことの認識の差が、10代に与える影響は大きいのではないかなと思います。
そうであるならば、16歳未満で対象年齢を区切り、15歳との関係で、18歳は大人としての権利を持ち、それならば、そういう脆弱性のある人に対して、そのことを認識した行動を取るべきであるということかと思います。
○井田部会長 事務当局から何か質問はありますか。
○浅沼幹事 今、年齢差要件を3歳差とすることの御説明として、成人年齢の18歳と15歳を比べて3歳という御提案を頂きました。
一方、先ほど小西委員からは、18歳というところは一緒なのですけれども、それを13歳と比べて5歳差という御提案を頂きました。
要は、その幅の捉え方なのですけれども、小西委員の発想は、どちらかといえば、年齢差内のところに、本当は対等ではないものがあったとしても、刑罰という観点から広めに幅をとったらどうかという、線引きとしてはそういうお考えだったと理解しているのですけれども、山本委員は、その点はどうお考えになりますか。
○山本委員 年齢差ということのパワーをどのように認識していくのかということと、処罰するものと処罰しないものの範囲ということだと思うのですけれども、18歳と13歳の間の性的行為が処罰するものの範囲に入るのは、もちろん当然のことだと思います。
18歳と15歳というのも、私としては、その年齢差が与えるパワーを考えると、社会人の経験があるような人、あるいは大学生かもしれませんけれども、そういう年齢の人が中学生に対して、その判断の未熟さとか脆弱性を利用すること自体があってはならないことだと思うので、3歳差以上は処罰していいのではないかと思っています。
○保坂幹事 皆さんに同じような質問をしているわけですけれども、16歳未満に引き上げるということの理由として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力、それぞれお考えがあるかもしれませんが、その三つの能力がまだ備わっていないという点で、16歳未満との性交を処罰するのだとした上で、3歳の年齢差というのを要件にするとした場合に、同年代というのか、1、2歳差の人との性的行為については、「②」や「③」の能力との関係では、その能力はある、あるいは発揮できるという理解なのか、それとはまた別の理由で、1、2歳差は処罰から除外するという趣旨なのか、そこをまず一点教えていただけますでしょうか。
○山本委員 そこの法的な理屈の理解が私にとっては非常に難しいのですけれども、多分、「性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」というものが16歳で備わるとした場合には、15歳と15歳では、お互いに対処できないような状態で性的行為が行われているのだと思います。
そうだとすれば、ほかの要素が対等であるのならば、それは一方的な関係ではないだろうと思います。
要するに、能力が低い人同士なので影響を与え合うような形ではないのではないかと考えます。
  少し話がずれるかもしれませんけれども、年齢差による支配やパワーがどうして問題なのかということは、年齢差があることで、一方的に、下の立場の人が嫌だと言えないことを読み取らなかったりとか、嫌だと言えないことを無視して性的行為をするということにつながり、それが、性暴力の被害の中核的な要素である無力感とか、自分は意思を無視される人間として扱われない存在なのだという感覚とつながっていくのではないかと思います。
そうしますと、やはり、まだ発達が未熟な人たち同士で性的行為を行う場合には、一方的ではないので、そこは処罰から除外されるのではないのかなと思います。
○保坂幹事 それに追加して、関連してなのですけれども、3歳差未満同士、1、2歳差同士ですかね、その中に、先ほどおっしゃったようなパワーを使うというような、要するに、1歳、2歳上の人が年齢の上下を利用するという場合も、実態としてはあり得るかと思うのですが、そこは、年齢差を設けると処罰されないことになるのですが、それはやはり、年齢差を設けないと罰してはいけないものが入るから、安全策を採っているという、そういうことなのでしょうか。
そのバランスで3歳というのが出てきているような感覚ですか。
○山本委員 その年齢差を設ける必要性は、やはり明確であるからということだと思います。
  そのぐらいの年齢差があれば、そこにはパワーが少ない、特に16歳未満のまだ性的な発達が未成熟な人の性的自由意思を侵害する要素があるということだと思います。
  一方、年齢差の範囲内であっても、その脆弱な要素の利用以外の暴行・脅迫があったりとか、不利益の憂慮をさせたりとか、そういった性的な加害もあります。
  それこそ性的いじめもありますし、おびき出したりとか、いろいろなことがありますけれども、そういう場合はまた別に刑法177条本体で処罰することができるのではないかと考えています。
○井田部会長 委員・幹事の皆様、山本委員に対する御質問はございますか。
○橋爪委員 二点質問させてください。
  まず一点目ですが、山本委員の御意見を伺っておりまして、恐らく、対等な関係ではなくて、一方
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]がパワーを行使するような性的行為は、自由で任意な行為とはいえないから、性犯罪を構成するという御趣旨かと理解しました。
このような観点を重視しますと、以前から気になっているのですが、対象年齢を16歳未満に限定する必然性がないような気もいたします。
例えば、18歳と28歳でも対等ではなく、当然、ここにはパワーの行使があるでしょうし、30歳と20歳でも同様かもしれません。
つまり、対象年齢を16歳未満に限定しなくても、非対等でパワーの関係がある性的行為については、より広い範囲で想定できるようにも思います。
このような意味で、なぜ、非対等な性的行為全てが処罰されていないのに、16歳未満に限って非対等でパワーを行使する性的行為が全て犯罪を構成するのかについて、御意見をお聞かせいただけますと幸いです。
  もう一点なのですけれども、成人年齢の引下げについて言及がございました。
18歳が成人である以上、責任を負うのだという観点からの御意見だったかと存じます。
そうしますと、仮定の話で恐縮なのですけれども、本年3月末までであれば、話は違ってくるのでしょうか。
つまり、成人年齢が20歳であれば、その場合には、年齢要件も異なって解する必要があるのでしょうか。
さらに、本年4月以降につきましても、やはり18歳や19歳は未成熟であって、特に民法の契約においては、十分に保護すべきという議論があるように理解しています。
また、少年法につきましても、御案内のとおり、少年法の適用年齢それ自体は引き下げられておりません。
このように18歳や19歳はなお未成熟であり、十分に責任を負えるわけではないという考え方もなおあり得るようにも思われます。
この点についても御意見をお願いいたします。
○山本委員 まず一つ目の、対象年齢を18歳未満に引き上げてもいいのではないかということは、カナダやアメリカのカリフォルニア州とかは18歳未満と伺っていますので、そのように引き上げるということも考えられるのではないかとは思います。
  ただ、今回の議論を聞いていると、この年齢差に対する認識の相違がかなりあり、理解を一致させるのが、非常に難しいのではないかということも思います。
  あと、性的な発達と性的な同意、そして性暴力・性犯罪ということを考えると、人間は成長するとともに第二次性徴段階に至り、性的な成熟を経て、性的行為をするようになるわけです。
高校生で性的行為をしている人は、実はそれほど多くないということでもあるのですけれども、性的な行為を、対等な関係で同意を持ってしていくことは、そこに包括的な性教育があり性感染症と妊娠の予防などが行えるのであれば自然な発達過程の範囲です。
しかし、なかなかまだそれができていないという現状があり、最低限中学生は守ってほしいというのが、私の認識です。
だから、対象年齢は16歳未満ということになります。
社会が性暴力について、そして、人間の性的発達と性的な同意というものがどれほど尊重されるべきであるのかということについて、もっと認識・理解するようになれば、対象年齢を18歳未満に引き上げる議論も進むのではないかなと思います。
性的発達過程にある人は、脆弱性があり侵害されやすいので考慮する必要があるというのが私の考えです。
  成人年齢に関しては、橋爪委員のおっしゃるように、やはり後からの理屈付けというか、成人だからみたいなところもあるかとは思います。
ただ、発達を考えると、男子だったら10センチずつぐらい毎年身長が伸びていき、一般的には18歳くらいの年齢で身体的な成長に至るというところがあり、性的行為に関しても、それぞれパワーを持つようになると思うのです。
性的発達とともに、自分も被害を受けるのだけれども、加害もできるようになっていくような状況があります。
そのときに、それを全く処罰しないでいいのかということに関しては、そうではないと思います。
年齢によって、やはり取るべき責任というのはあるのではないのかなということを考えています。
○井田部会長 山本委員に対する質問はこのぐらいということで、ほかの方いかがですか。
○小島委員 私は、形式的要件だけで切っていくべきではないかと考えています。
  実質的未熟さを個別具体的に問うことにしないと、不都合があるのではないかという御意見がありますが、性交同意年齢というのは、基本的には年齢だけで自己決定能力が低いといえるということを前提に考えていくべきだと思います。
13歳未満から16歳未満に引き上げるのは、法的には同じ構造の法律を作るということだと考えています。
  対象年齢を16歳未満に引き上げた場合に、実質的未熟さというのを個別具体的に問うということになりますと、個別具体的な判断をしないというのが、これまでの性交同意年齢の考え方だと思いますので、実質的要件を入れていくとなりますと、16歳未満と引き上げた意味がほとんどなくなるのではないかと思います。
16歳未満という形式的要件を作るメリットというのが失われていくと考えております。
  そこで、実質的要件というのは入れるべきではないと考えております。
刑法179条との関係で議論されていますけれども、刑法179条については、「現に監護する者である」として、主体を限定しているわけです。
ほぼ行為態様、これで充足しているということで、法の運用としては、「乗じて」に意味を持たせていないということだと思います。
16歳未満の者への性交について、「乗じて」という文言を主体の限定なく入れてしまいますと、例外が広がりすぎるおそれがあると思います。
未熟さに乗じるとか、年の上下関係に乗じると入れてしまいますと、どういう場合に要件を充足するのか、非常に不明確になってくるということで、問題があると思います。
  それから、実質的要件を入れることの実際上の問題として、結局、未熟さということになると、性的経歴を聞くことになると思います。
性的に未熟だったのかどうかということで、そこの部分が問題になり、そうすると、これまで被害者が、裁判とか警察で、いろいろ性的経歴を聞かれていたことによる
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]苦痛というのが、また繰り返されることになってしまうのではないかと思います。
  繰り返しになりますけれども、性交同意年齢というのは、実質的未熟さとか、そういうものを個別具体的に問う必要がない、問わないという前提で出来上がっていると思います。
未熟さや年の上下関係に乗じてということを、個別事案に沿って、実質的・積極的に認定することが、実質的要件を入れると必要になってきますけれども、そのような形で性交同意年齢を上げるということには反対です。
  個別事案で、実質的・積極的に認定しないまま処罰できるということに、この13歳未満の対象年齢を16歳未満に引き上げる意義があると思いますので、ここに、未熟さに乗じてだとか、そういう形での実質的要件を入れることについては問題があると思います。
○井田部会長 処罰対象の除外についての御意見はいかがですか。
○小島委員 例えば、年齢の低い者同士でも、本当に相手を求めるということはあると思いますので、そういう場合については例外がある場合もあるかもしれません。
先ほどから問題になっていますように、未熟さに乗じてだとか、年の上下関係に乗じてとか、そういう明確性を欠くような例外規定を設けることには反対です。
  中学生同士とか、そういう年齢が近い者での、真摯なというか、心の通い合いというのも一切駄目というのは、やりすぎだと思います。
○井田部会長 事務当局から質問はございますか。
○浅沼幹事 まず、確認ですが、対象年齢を引き上げる根拠として、これまでの御議論では、配布資料22に記載しております「①」、「②」、「③」といった能力との関係で、16歳未満には「②」ないし「③」がないという御意見が多かったわけですけれども、小島委員としてはそのようにお考えなのか、それとも違うのでしょうか。
○小島委員 要件としては、そういう部分もあると思います。
それから、政策的要素もあると思います。
一定年齢の子供たちについては、子供の保護が必要だという要素もあると思います。
ただ、基本的には、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの三つの能力を判断能力として考えると、これが16歳未満に引き上げた場合の重罰を根拠とする理由だと思います。
ただそれだけではないということですね。
○浅沼幹事 では、その上で、先ほど例外のところで、中学生同士の行為であれば処罰しなくてもいいのではないかというような御趣旨の御発言があったのですけれども、そこは、具体的にはどういったものを想定されていて、今、委員もお話しいただいたような判断能力との関係では、どのようにお考えになっているのでしょうか。
○小島委員 判断能力との関係ということではなくて、基本的に、中学生同士の場合には,青少年であっても、本当に相手を求めるということはあると思うので、その部分については除外しなければいけないと思います。
その例外については、子の保護を考えて、政策的判断から、そこまで処罰する必要はないという理由です。
○吉田幹事 今の御意見を前提としたときに、処罰対象から除かれるべき場合としては、同年代同士の行為というのがまず一つ挙がってくるのでしょうか。
○小島委員 年の近い者の行為ということです。
年の近い者同士ですと、ある程度対処ができるということがあるのではないかなと考えております。
○吉田幹事 これまで出ている三つの能力という観点からしますと、例えば、行為の性的な意味を認識する、あるいは行為の影響を理解するという能力は、相手方が誰であるかによって差が生じるような類いのものではないような気もいたしまして、そういう観点からすると、同年代同士で性的行為が行われた場合、お互いに相手は能力を欠いているということになるので、お互いに法益侵害行為をすることになるわけですけれども、その上で、なお処罰から外す刑事政策的な理由というのは、どのような内容のものになるのでしょうか。
○小島委員 先ほど申し上げましたように、例外というのは極めて限定的に解してもらいたいと思います。
近い年齢の者同士で、本当に相手を求めるということが全くないわけではないと思いますので、刑事事件の裁判所が、そこまで刑罰の範囲に入れるべきではない、そういう場合が例外的にあるのではないかという趣旨です。
  それから、相手という御質問がありましたけれども、これは、対象年齢の者については、どのような相手方であるかや、どのような状況であるか、脆弱性の有無を問わず、常に判断能力を欠くといえるのかという御質問と伺ってよろしいでしょうか。
  もし、この御質問に答えるとするのであれば、脆弱性を問題にするのなら、裁判所とか捜査機関に丸投げしないで、ある程度その脆弱性についてはきちんとした類型化を図って、明確にしていかなければいけないのではないかと思います。
  問いに合わせて答えるとすると、基本的には実質的要件を入れるのは反対なのですけれども、もしどうしても入れるのであれば、今、御提案になっているような「未熟さに乗じて」というような文言では、どういう場合に当たるのか不明確なので、かなり吟味して、どういう場合なのかという実質的理由と類型化の中身を相当詰めていただかないと、結局、対象年齢を16歳未満に上げたけれども、未熟さに乗じてという要件に当たるのか分からなくなってしまうことを危惧します。
○吉田幹事 先ほど、「未熟さに乗じて」というような要件を設けた場合の問題についての言及があったわけですけれども、小島委員は、恐らく、「16歳未満の者に対し、その未熟さに乗じて性交等をした
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]者は」というような構成要件をイメージしておられるのかなと感じました。
今日の議論でも、その点については、幾つかの選択肢が示されていて、例えば、行為者と対象者の年齢差という形式的な要件、その年齢差をどうするかという点については、幾つかの数字が提案されて、なお意見が複数あるように思われますけれども、そういう形式的な要件とする案がありました。
それから、そういう形式的な要件に加えて、ドイツ刑法で使われている能力の欠如を利用してというような、実質的な要件をプラスする案というものも示されているところであります。
どういう形で規定するにしても、元々の処罰根拠との関係で整理する必要はあり、処罰根拠として能力の欠如ということをいうのであれば、処罰の例外を考えるに当たっても、その能力の問題がどう整理されるのかということを考えないといけないのではないかと思って、御質問させていただいているわけですけれども、その辺りの例外を設ける理由についてはいかがでしょうか。
○小島委員 例外を設ける場合は、明確にしなくてはいけないと思っています。
例外を限定的にすると処罰範囲が広がってしまうのではないかという御意見があると思うのですけれども、そこは、子の保護をどこまで考えるのかという政策判断になると思います。
何歳にするのかということは議論しなければいけないと思いますけれども、明確な形で、何歳ならばどうなるのかという、誰でも分かる形で明確な要件を設けるべきであり、そこに、実質判断を入れるべきではないと思います。
もちろん形式的要件のみとすると不都合が当然出てくる場合があると思いますが、そこはある程度割り切ってやっていったらどうだろうかというのが私の意見です。
ただ、強制性交等に当たるような場合については、もちろんそれはそれで処罰すべきだという前提です。
いろいろ御意見はあるかもしれないけれども、例外は明確にしていった方が、捜査機関にも、それから、学校の先生にも説明しやすいのではないかと思います。
○吉田幹事 今おっしゃった割り切ってということが、処罰すべきでないものを処罰範囲に取り込んでも仕方がないという趣旨だとすると、やはり問題が出てくると思われますので、そこが恐らく委員の皆様の悩みどころなのかなと感じてまいりました。
  この対象年齢の引上げの問題は、16歳未満の者について、多少個人差があったり、あるいは状況いかんによって能力の発揮のされ方が違うということを前提としつつも、年齢という形式的な基準で処罰範囲を切り取ろうとすることに伴う問題にどう対処するかというのが、最大の問題なのだろうと思っておりまして、実質的に考えると処罰範囲から除かないといけないケースが含まれるかもしれないという点について、更に年齢差という形式的なもので対応しようとすると、なお救い切れないもの、除外し切れないものが出てくるのではないかという悩みから、実質的要件あるいは形式的要件と実質的要件のハイブリッドというような御意見が出てきたのかなと思っております。
この形式的要件と実質的要件のハイブリッドという発想、御意見について、もしお考えがあればお伺いできればと思います。
○小島委員 佐伯委員の御意見のように、ハイブリッドにして実質的要件も入れるという選択肢はあり得ると思うのですけれども、形式的要件で決めていかないと、結局、子供たちが被害者になったときに、その実質が問われていくわけです。
それはやはり、被害者側としては避けたい。
どうだったのとか、あなたは未熟だったの、未熟ではないのとか、性的経験はどのぐらいあったのかとか、捜査機関でもそういうことを聞かれてしまうので、そういう法律を作っていいのでしょうかという感覚です。
  16歳未満の被害者は、同意とか不同意とかを問わずに、保護するべきだと思います。
  そこに実質的要件を入れてしまうと、形式的にそこまで上げて保護しようということについて、ブレーキになってしまうのではないかと思います。
被害者である子供が、性的な事柄について、いろいろなことを聞かれることになってしまうのではないか、それでは、16歳未満まで思い切って上げた被害者側の気持ちというのに合わないのではないか、ということでございます。
○保坂幹事 今日の議論で、例外というか処罰から除外するやり方として、年齢差要件で5歳という案と、3歳という案がございまして、小島委員は、何歳ということをおっしゃらないので、何歳とおっしゃりたくないのかもしれませんが、非常に近い年齢というのを、議論の中で何をイメージされているのかが分からないので、ちょっとかみ合わないところがあるなと思いまして、先ほどの発言の中で、1歳差とか同年齢とか、非常に近いというのは、同い年か1歳上ぐらいという、そのような趣旨でおっしゃっているのかどうか。
同い年か1歳上以外の、例えば2歳上、3歳上、4歳上、5歳上の場合には、実質的に処罰から除外してはならないという理由は何があるのかということを、教えていただければと思います。
○小島委員 年齢を何歳にするかというのは、私の方では今詰まっていません。
もう少し検討してみたいと思いますが、中学生同士は除外するべきだと思います。
○井田部会長 委員・幹事の方、御意見・御質問はございますか。
○佐伯委員 小島委員の御懸念について、未熟さを利用するというような実質的要件を設けた場合に、どのぐらい未熟なのかということで、性的経験などが裁判で争われるというようなことがあってはならないというのは、私も全くそのとおりだと思います。
何歳にするかはともかく、一定の年齢以下の者は能力がないと法律で規定すれば、それはもう能力がないとみなされているわけで、それ以上に本当に未熟なのかどうかというようなことを裁判で審議するということは、私も全く考えておりません。
  私が問題にしているのは、そういう未熟さを前提とした上で、年齢差があれば、常にそれを利用したといえるのか、処罰に値するといえるのかということです。
年齢差を補うような関係性というのも、例外的ではあると思いますけれども、あり得るのではないかということで、専ら考えているのは、被害者の未熟さではなくて、行為者との関係性を念頭に置いた御提案でございます。

https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]橋爪委員 念のため確認したいのですけれども、小島委員の御意見は、恐らく、実質的要件は判断基準が明確でなく、現場で混乱を生ずるおそれもあり、また、被害者に負担も掛かるだろうから、形式的に、言わば割り切って年齢要件で一律に判断すべきということだと理解いたしました。
  そこでいう、割り切るということなのですけれども、当然個人には個体差がありますし、関係性も多様です。
そうしますと、一定の年齢差がある当事者間の性的行為であっても、もちろん議論があり得るところですが、処罰すべき性的行為もあれば、処罰すべきでない性的行為もあると思います。
そのときに、小島委員が割り切って一律に考えるとおっしゃる趣旨なのですが、それは、処罰すべき行為が処罰されないことがあり得るけれども、それはやむを得ないというお考えなのか、逆に、本来罰すべきでない行為が規制対象に含まれても、それはやむを得ないというお考えなのか、確認させていただけますと幸いです。
○小島委員 年齢で切ってしまうと、罰すべき行為が除外されるということはあり得ると思います。
それは、取りあえずやむを得ないけれども、そういう行為については、刑法177条、178条で、今回処罰範囲を広げて、新しい法律ができるわけですから、そこで拾ってもらうということになるのではないかと思います。
  つまり、形式的要件でやるわけだから、そこは16歳未満に引き上げて、例外を設けないことの方が大事だと思っているということです。
○小西委員 私の意見は、先ほど申しましたように、せっかく形式的要件にするなら、そうするべきだというところなのですけれども、今の橋爪委員のお話に関連して、私がどのようなイメージで考えているか先にお話しします。
罰する、罰しないという次元と、実際に加害行為があった、行為がなかったという次元を考えたときに実際の一つ一つの出来事は二次元に分布します。
なるべく多くの罰すべき人を罰する、そこの象限を大きくして、罰すべきでない人を罰しないという象限の中に入る実際の例は0にすると考えると、連続体の中で考えるのであれば、罰されるべき人が罰されないということと、罰すべきでない人を罰しないということ、すなわちその象限の二つの基準をどこに置くかという問題だと思うのです。
そうだとすれば、やはり、この問題が今まで法的に扱われてこなかったために、たくさんの被害者を出しているという問題、10代の被害者は非常に多いわけですが、その人たちに対する性的行為が刑法で処罰対象になってこないという問題を変えるためには、今必ず基準を変える必要があって、それが形式的な基準なのだと思います。
そうだとすると、形式的な基準はなるべく大きくした方がいい。
  しかし、佐伯委員がおっしゃるように、それでも起こる例外が救えないと困るというのは、議論としては分かるところで、では、なるべく形式的な基準を大きくしながら、最終的に残る少数の処罰すべきでない例外をどうやって省くかということをおっしゃっているのだと理解しました。
そうだとしたら、具体的にどういう文言にすればいいと思っていらっしゃるのかを聞きたいと思います。
○佐伯委員 それは非常に難しくて、こういう場合、こういう場合、こういう場合というように書くのは難しいので、そこは、「乗じて」とか、あるいは「利用して」という文言にした上で、その趣旨はこういう意味であると説明するということでいくしかないのかなと思っております。
  また、今回、対象年齢を13歳未満から引き上げるというときに、実質的要件が入ると意味がなくなってしまうのではないかという御懸念もあるかと思いますが、それについても、改正した上で、実際の運用を見るということも考えられるのではないかと思っております。
  お答えとしては、なかなかうまい言葉はないというのが答えです。
○井田部会長 非常に大ざっぱに言うと、年齢差が2歳や3歳ぐらいだと、やはり相当重みのある実質的要件を加えないと怖い。
他方で、小西委員がおっしゃるように、5歳差だと、実質的要件がなくてもいいか、あるいは本当に薄い実質的要件だけを安全弁として残すかとか、そういう選択肢になるのではないかというのが御質問の趣旨だとお聞きしたのですが、そういう理解でよろしいですか。
○小西委員 そういう理解をしました。
  そうだとしたら、その薄い要件で、今、まだ社会に無理解があるところに、この法律を出すとき、そういう薄いことだけを扱っているのだということをはっきりさせるためには、どういう条文がいいのかというのが、お伺いしたいところです。
○井田部会長 ほかに御意見のある委員・幹事の方はいらっしゃいますか。
○長谷川幹事 私の意見は、従前から変わらず、例外は設けないという考え方です。
この議論の流れで、それが維持されていくかというところはあるのですが、やはり被害者側の立場としては、例外を設けることにちゅうちょがあるということは、この会議の中でも言っておかないといけないかと思って、意見を述べさせていただきます。
  まず、対象年齢を引き上げる根拠が配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力であるということは、共通認識だと思います。
この議論は、現行法上13歳以上の者についてはその者に対する性的行為は同意があれば他の条文で犯罪となる場合は別として犯罪にならないという意味で同意に法的意味を持たせているところ、それでよいのか、ということが出発点で、対象者の同意に法的意味を持たすことができるには、「①」から「③」までの能力が必要で、これらを全部、又は部分的に欠く者の同意に法的意味を持たすことはできないという帰結が共有されていると認識しています。
  そこで、例外を年齢差等で設けるかどうかということについて考えますと、先ほども述べましたように、「①」や「②」の能力は、相手方や状況によって変わりませんので、年齢が近い者同士であっても、「①」や「②」の能力が不十分ならば、その同意に意味を持たせることはできない、「①」や
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]「②」の能力が欠ける、又は不足する以上は、理論的なことを考えると処罰すべきで、例外は設けるべきでないということになると思います。
  その上で、例外の議論がされていますので、そこについて言及をすると、法的根拠の話からすれば、例外を設けるというのは、一定の年齢の者については処罰を差し控えようという刑事政策的な理由にならざるを得ないと思っています。
法益侵害があるけれども、刑事政策的な理由で一定程度処罰を差し控えようということであれば、その差し控える範囲は最小限にすべきだと思っていますので、5歳差では広すぎるだろうと思います。
被害者支援の関係者でも議論をしたのですが、もし処罰を差し控えるとしても、せいぜい同年齢同士や同じ学年にある者同士の場合であろうという意見がありました。
いろいろな事件を見ていましても、学校という社会の中で先輩には従うものだとか、そういう文化が醸成されていることに鑑みると、やはり一学年違いというのは、なかなか大きいのではないかという考えです。
  一定程度、政策的な理由で例外を設けるとして、形式的な要件のほかに実質的な要件を加えるかどうかという点についても、意見を述べたいと思います。
  そもそも、刑事政策的に処罰を差し控えましょうということなので、形式的な要件で十分だと考えています。
実質的要件を入れるべきではないという点については、先ほど小島委員からもお話があったように、実質的要件を入れると、その曖昧さゆえに、対象年齢を引き上げた意味が失われる危険性があると考えるからです。
未成熟だとか、そういった抽象的な要件になることと、未成熟を利用してとか認識してとすると、行為者の認識が問題となるのですが、未成熟などの、ここで問題となる要件というのは非常に評価的なもので、何を認識していれば行為者が未成熟を利用したとか、乗じたと評価できるのかというのが曖昧ですし、内心的なものを立証しなければいけないということになると、結局立証不可能というか、そもそも類型的に立証が不可能なことを要件とすることによって、その要件が満たされる可能性が少なくなり、処罰の範囲が不当に狭くなることになってしまって、そもそもの出発点から外れるのではないかと思います。
  それから、前回会議で、刑事責任能力についてどう考えるかということをお話ししたのですけれども、私の理解が誤っていたところがあったので、修正を含めてお話をしたいと思います。
  前回会議のときには、刑事責任年齢14歳というのは是非弁別能力の問題で、それと性的同意で問題となっている能力とは質が違うし方向性も違うので、これとの整合性を考える必要はないということを述べたと思います。
それはそれで当てはまるのですが、もう一つ、刑事責任能力との関係で言わなければいけないのは、元々刑事責任年齢が14歳となっているのは、14歳未満の者であれば、いわゆる刑事責任能力、つまり、是非弁別能力及び行為制御能力が欠けるからとされているというよりは、14歳未満の者に対しては、その特有の精神状況と可塑性に鑑み、刑事処罰という形で対処すべきではないという判断があるからです。
処罰の感銘力的な点に関する14歳未満の子供たちの精神的な特徴とともに、この年齢の子供たちには可塑性があるということから、14歳までは刑事処罰しないという刑事政策的な趣旨で、この14歳という年齢が決められているということが、コンメンタールや刑法総則の教科書などにも書かれています。
そうすると、この性交同意年齢を考えるに当たって、刑事責任能力との整合性を図ることは、理論的には必要ないということになりますので、前回会議で御説明した内容よりも、本日の説明の方が、刑事責任年齢14歳というところに合わせる必要性があるのではないかという疑問に対しては、答えになると思います。
○井田部会長 事務当局から、質問はありますか。
○浅沼幹事 二点お伺いいたします。
  長谷川幹事の御意見は、対象年齢を16歳未満に引き上げた上で例外は作るべきではないという前提で、ただ、例外を設ける御意見がいろいろ出ているので、仮に言うとすると、刑事政策的な観点から、非常に少ない年齢差にするべきであるということだと理解しました。
  その御意見の前提となる、例外を作るべきではないというところなのですけれども、そこについて、実態面からすると、現状として、やはり14歳や15歳の者たちが性的行為を行っているということは、実際あるわけです。
そこを例外なく全て処罰対象としていくということの、ある意味弊害といいますか、いわゆる家裁送致にはなりますので、その点はどうお考えになっているのかというのが、まず一点目の質問です。
○長谷川幹事 前にも述べたと思うのですが、14歳や15歳で性的行為を行っている子供たちの背景には、家庭に問題を抱えていたりする者も多いので、そういった子供たちを家庭裁判所に送致するということを、マイナス面として捉えるだけではなく、そこで適切な関与がなされて、家庭裁判所の判断で保護処分が不要だということであれば、保護処分はなしということになりますし、必要であれば、保護処分なり逆送なりになったりするわけですから、家庭裁判所の適切な関与にそこを委ねるということを考えています。
○浅沼幹事 今の点に関して、確かに家庭に問題がある者などもいるとは思うのですけれども、一方で、対象年齢の引上げは、強制わいせつ罪も含めてということだと思いますので、キスなどの行為を、特に家庭に問題がないような者同士がしているという場合でも、やはり処罰対象とし、家裁送致するのが適当だということになるのでしょうか。
○長谷川幹事 例示にキスを挙げられたのは、キスならば大したことないではないかというような考えを前提とすると思われますが、性的な行為というのは連続性があるものなので、キスだったらどうなの
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]か、性交だったらどうなのかで区別しきれるものではないと考えています。
ただ、14歳同士というところの議論は、同年齢同士、同学年同士ぐらいは、刑事政策的に例外を設けるのはあり得るかなという、それも仕方がないかなということは考えていますので、その答えで代えさせていただいてよろしいでしょうか。
○浅沼幹事 もう一点だけ、あらかじめお聞きしようと思っていた二点目ですけれども、長谷川幹事の例外なしというお考えですと、14歳同士や15歳同士といった、配布資料22に記載されている能力の少なくとも一部についての能力がない者同士の性的行為について、両者ともに処罰対象となり、家庭裁判所に送られるという理屈になりますけれども、そのような判断能力に欠ける者を処罰対象とすることに関しては、適切だというお考えになるのですか。
○長谷川幹事 判断能力がないというのは、性的同意能力のお話だと思うのですけれども、性的同意能力というのは、自分が性的行為をするかどうかを考える能力で、相手に対して、するべきか、するべきではないかということとは違います。
自分への影響とか、そういう話ですので、刑事責任年齢の文脈で家庭裁判所に送られることになるのは、理論的におかしいことではないと思いますし、その上で、その子たちの性的な行為をどう処分するのかということは、家庭裁判所が考えることになると思います。
○保坂幹事 一点お伺いしたいのですが、対象となる年齢を引き上げる理由として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力が欠けるのだということを前提として、かつ、処罰からおよそ除外しないのだとすると、16歳未満は、どんな場合でも全て「①」から「③」までの能力はないのだと言い切ることになるかと思うのですが、これは、「③」の能力、状況に応じて対処する能力というのを考えたときに、状況や相手にかかわらず対処する能力がないという方が、むしろ変な感じがするわけですが、対処する能力というのは、状況や相手に応じて対処する能力であって、それが、誰かれ構わずないと言い切るのかという、そういう質問なのですけれども。
○長谷川幹事 配布資料22に記載されている「③」の「働きかけに的確に対処する能力」の捉え方だと思います。
今の議論では、性的行為をするかどうかの判断能力を三段階に分析しているのですが、性的な意味が分かって、自分に与える影響を理解をした上で対処するというのは、性的行為をするかどうかだけではなくて、どういう性的行為をするかということも含めての対処だと思います。
性的行為をするかどうかの同意の対象にどのような性的行為をするか、どのような方法で行うかは入ってくると思います。
  「③」の能力について、年齢が上の者から言われて断ることができるかどうかということが、この能力の問題として出てきていますけれども、その子の同意に意味を持たせることができるのかというところからひもときますと、「的確に対処する能力」というところには、例えば、性的行為をするとしても、避妊はしてくださいということをきちんと言えるだとか、恋愛で流されそうになって、お互いに大好きで、何かそういう性的行為をしたいのだけれども、それでも、すべきでないと考えているときに断れるだろうかとかいうことも含まれており、「②」の能力があって、性的行為が自己に及ぼす影響を理解できたとしても、流されてしまうのでは、やはり対処する能力に欠けるということになると思います。
なので、皆様がおっしゃっているのは、年齢が近ければ強制的要素がないから、対処能力も変わってくるだろうというお考えだと思うのですが、年齢が近ければ近いで、流されたりとか、別の的確に対処をできない要因も出てきたりするわけで、やはり状況に応じて、的確な対処が違ってくるわけですので、対処する能力があったりなかったりということではないと考えます。
○保坂幹事 もう一点なのですけれども、実質的要件に関して、16歳未満で年齢差に加えて実質的要件とした場合の問題点として、未成熟を利用とか、未熟さを利用とか、あるいは未熟さに乗じということになると、その未熟さだとか未成熟かどうかというところで、認定が不安定になるのではないかと、こういう御趣旨の御発言があったと理解したのですけれども、監護者性交も、監護者であることによる影響力に乗じてという要件になっていて、その影響力というのは、監護者と被監護者の関係があれば、通常はあるだろうという前提に立っているわけで、いちいち影響力がどの程度あったのか、どのような影響力だったのかということが、別に審理されるものではないと理解されているのだと思うのです。
そうすると、16歳未満については、判断能力がないのだということが法的に言えるのであれば、それは、すなわち、未熟だったり未成熟だったりするわけで、先ほどの佐伯委員がおっしゃったのもそういう趣旨だと理解したのですが、その行為者の側が、未熟さ、あるいは未成熟であることを利用していない場合もあるだろうという、その場合を除外するということだとすると、その未成熟さとか未熟さ自体が、何か問題になるわけではないのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
○長谷川幹事 16歳未満に対する行為は原則処罰され、それの例外として、年齢差内にある場合は除き、未熟さを利用していない場合も除くという場合、「未熟さを利用したかどうか」の判断の対象は何になるのでしょうか。
○保坂幹事 先ほどの佐伯委員がおっしゃった意見というのは、形式的要件としての年齢差に加えて、実質的要件を満たす場合に可罰的にするということですので、その場合の形式的要件が、年齢差があって、かつ、16歳未満というのは判断能力がないのだということが決まっていれば、加えてそれを前提として利用したかどうかだけが問題であって、その未成熟さだとか未熟さ自体が、何か争いの対象になるわけではないという理解も可能ではないか。
なぜかというと、監護者であることによる影響力というのが、その影響力がいちいち争われていないだろうと思われることからすると、要は、利用したと言えるかどうかという、あるいは乗じたと言えるかどうかということの問題かなと理解をしたのですけれど
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]も、その点の質問です。
○長谷川幹事 先ほど小島委員がおっしゃったのと同じお答えになるのですけれども、監護者性交等罪の場合は、どういう関係性の人かが決まっていて、そうであれば影響力があるということが想定されているわけです。
監護関係にあれば、もう乗じたと言えるだろうということで運用されているのですが、対象年齢に実質的要件を入れると、行為者の範囲が定まっていないので、本人の未熟さを含めた実質的な判断になってしまう危険があるのではないかというのが、私の意見です。
だから、そういった危険のない、すごくしっかりした文言でできれば、もしかしたら懸念はないのかもしれないですけれども、まだ懸念を感じているということです。
具体的な文言も出ていませんし、やはり、実質的な、評価的な要素については、慎重に考えざるを得ないと思っています。
○井田部会長 委員・幹事の先生方、何か御質問はございますか。
○佐伯委員 私の意見ですけれども、16歳未満の者について、「行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」、あるいは「的確に対処する能力」が欠けているという判断をする以上は、自分に及ぼす影響を理解できないのと同様に、相手に及ぼす影響もやはり理解できないということになるのではないかと思います。
したがって、年齢差要件を設けるかどうかにかかわらず、16歳未満の者について能力がないという判断をするならば、行為の主体から16歳未満の者は除く必要があるように思います。
  なお、そのように考えると、強制性交等についても処罰できなくなるのではないかという疑問が生じるかもしれませんが、暴行・脅迫を用いて相手と性交等をする行為が、相手の性的な自由を侵害するということは、16歳未満であっても当然理解できると思います。
暴行・脅迫的な要素がなくても侵害性があるということを理解する能力があるということと、暴行・脅迫を用いた場合に侵害性があるということを理解する能力があるということとは違いますので、私のように考えたからといって、16歳未満の者について強制性交等罪で処罰できなくなるということはないと考えております。
○井田部会長 ほかに御意見・御質問はございますか。
○宮田委員 今までの議論を伺っていると、強制性交等と同じ懲役5年以上の法定刑とすることを前提に議論されてきたかと思います。
  先ほどの佐伯委員の御意見の中に、最高裁判例は、青少年保護育成条例違反の非常に軽い処罰のものであっても、慎重な判断をしているという御指摘がありました。
重い罪ならばなおさら慎重さが必要です。
  現在の強制性交等罪は、する行為だけではなく、させる行為も処罰の対象としています。
先ほど金杉幹事が例として述べたような、15歳の少年と18歳の女性がアルバイト先で知り合って、それで性交したとき、これも犯罪かという質問に対して、それは犯罪ですという齋藤委員のお答えがありましたが、仮に犯罪とするにしても、果たしてそれを懲役5年以上で処罰するのが妥当なのかという問題は残ると思います。
  また、真摯な恋愛だけを除外すれば足りるとも思えません。
このような例は非常に不適当かもしれませんけれども、中学校を卒業して、15歳で就職した男子が、職場で先輩から、お前はよく働くようになったな、御褒美だといって、本当は20歳でなければ飲めない酒を飲まされることは、しばしば見られるところです。
また、同じように、お前も大人になったのだからと、性風俗に連れて行かれる例もないわけではありません。
  そうすると、そうやって連れて行った先輩たちは強制性交等罪の教唆や共謀共同正犯で、まだ中学校を卒業したばかりの15歳だと分かって相手をした女性は、強制性交等罪になってしまうのでしょうか。
  もちろん、今言ったような例が、大人の行為として適当かといえば、そうではないでしょう。
性をお金で買うことを、15歳の子に教えてはいけないとはいえると思います。
しかしながら、15歳の男子が嫌がることなく、積極的にそのような所に行ったときに、関与した大人たちが刑法の強制性交等罪として処罰の対象になることが、果たして妥当なのでしょうか。
児童福祉法あるいは青少年保護育成条例であれば、罰金刑もあります。
  今までの議論を聞いていると、妊娠、出産、あるいは望まぬ妊娠をしてしまったときの掻把なども含めて、非常にリスキーな立場にある女性が被害者であることを前提とした議論が中心だったように思います。
もちろん男性が性的侵襲を受ける被害もあり、被害は甚大です。
しかし、若い男性の参加意思の下で性交をさせる行為についてまで、強制性交等罪の条文が適用になるという前提の下で、議論が続いていていいのか疑問に思います。
  少なくとも16歳未満の者が積極的に性交に参加した場合について、処罰の例外規定を設けることは必要だと思いますし、もしも例外にしないのであれば、刑罰について、このような場合についてまで、懲役5年以上という重い刑罰で対処することは問題だと思います。
  毎回、刑罰についての検討なく議論をしていることを、非常にむなしいと考えています。
○山本委員 この次は条文案が出てくると思いますので、お伝えしておきたいと思います。
私も、形式的要件で、処罰の例外については年齢差を設けて区切るのがいいのではないかと思います。
これに更に実質的要件を設けた場合、この実質的要件が何になるかが分からないので、どのような形で出てくるのかということに対して不安があるのと、それがどのように運用されるのかは、この部会で決まらないと、現場の判断にばらつきが生じて、とても混乱すると思います。
  あと、二つだけ伝えておきたいのですが、やはり16歳未満の人が対等性のある真の同意のある性
https://www.moj.go.jp/content/001381663.txt[2023/02/20 16:30:53]的行為をできるのかといえば、包括的な性教育がなく、若年者がコンドームやピルを常時入手する手段がない、諸外国では無料で配っているところもありますけれども、そういう環境整備がない時点で、安全に、お互いに配慮した性的行為ができるのかというのは、非常に疑問があります。
脆弱性のある子供や20代の若年者たちがどれだけ搾取されているのかという被害実態を鑑みて、子供や若年者を保護する議論と若年者の性的自由、性的自己決定権をどう守るかという議論が両立するように、法整備をしてほしいということを望みます。
  未来を担う子供たちは、社会にとって最も価値がある、しかし、最も脆弱な存在です。
今まで話されているように、低年齢であるほど、様々な能力が未発達で脆弱になり、そこに年齢差を利用して、大人の性的な略奪者や、18歳や19歳の者でも、SNSなどを通して年下の子供たちにアクセスをして、性的加害や搾取を行うということが、今の社会で頻繁に起こっているし、これからますます起こっていくのではないかと思います。
被害を受けた子供たちは、直ちに身体的・心理的に傷害を負い、成長後も良好な人間関係を築けず、虐待の再生産すら行われる可能性もあることを考えて、子供の保護と、その人たちの自由な意思決定が守られるような条文を作ってもらえればと思います。
○橋爪委員 先ほど議論のありました、処罰の例外について、これを形式的要件で定めるか、実質的要件で定めるかという点について、簡単に意見を申し上げます。
  この問題は、形式的要件の内容によって、かなり結論が変わってくるように思います。
つまり、形式的要件だけで十分な処罰の限定が図れるならば、実質的要件を更に重ねて限定する必然性は乏しいように思います。
例えば、極論になりますが、10歳とか8歳とか、大幅な年齢差を設けるならば、形式的要件だけで十分であって、あえて実質的要件を設ける必要はないという理解もあり得るところです。
  他方、仮に、例えば、2歳や3歳のように、小さい幅の年齢差要件を設ける場合には、高校1年生と高校3年生の間の性行為のように、少なくとも懲役5年以上の法定刑で罰すべきではない性行為までが含まれますので、年齢差や関係性を濫用する性行為といえるかという観点から、実質的要件を更に重ねて、処罰範囲を限定することが必要になってくると思います。
このような意味で、十分な幅を設けた形式的要件一本でいくのか、小さい幅の形式的要件に加えて実質的要件を併用するのかという観点から検討することが、今後の議論において有益であるように思います。
  もう一点申し上げますが、先ほどの宮田委員の問題意識ともある意味通じるところがあるのかもしれませんが、例えば、年少者の圧倒的なイニシアチブで、年長者がやむなく性交に応ずるケースがあり得ます。
例えば、15歳の少年が、19歳の少年に対して執拗に性交を迫った結果、初めは嫌がっていた19歳の方もやむなく、困惑しつつも最終的には性交に応ずるケースが考えられます。
  もちろん、こういった場合についても、19歳の者は応じるべきではないということが出発点になると思うのですが、仮にやむなく応じた場合に、全て例外なく強制性交等罪で処罰すべきかということが、更に検討課題になるように思います。
すなわち、何らかの形で関係性を利用する行為がある場合に限って処罰をするのか、それともおよそ一定の年齢差があれば、年長者からの何らかの働きかけやイニシアチブがない場合でも常に犯罪を構成するのかという観点からも、更に検討する必要があるように考えます。
○井田部会長 よろしいでしょうか。
本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。
  本日は、事務当局が試案を作成するに当たっての理論的・法制的な課題、具体的には、対象年齢を引き上げる根拠はどこに求めるべきか、対象年齢を引き上げた場合、一律に処罰することとするのか、あるいは実質的要件を設けて処罰することにするのか、あるいは形式的要件と実質的要件を併用するハイブリッド方式とするのか、さらに、対象年齢を引き上げつつ、処罰対象を除外・限定するときには、いかにそれを整合的に理解すればよいのか、そして、処罰対象を除外・限定することとした場合に、その根拠を踏まえて、具体的にどういう要件とすることが適当か、年齢差で考えるか、実質的要件で考えるか、それらを併用するか、こういった点について掘り下げた議論を行い、委員・幹事の皆様から様々な御意見を頂いたところであります。
いずれの御意見も、事務当局による試案の作成、さらには、当部会における今後の検討と意見の集約に大いに資するものであり、本日このような議論の機会を設けたことは、大変有益かつ有意義であったと考えております。
  今後の進め方ですけれども、事務当局に、本日の議論の内容も踏まえた上で、諮問事項についての試案を作成してもらうこととし、次回以降は、それに基づいて議論を行うこととしたいと思います。
  そのような形で、次回以降進めるということでよろしいでしょうか。
             (一同異議なし)○井田部会長 ありがとうございます。
それでは、そのようにさせていただきます。
  次回の予定については、事務当局の準備の状況を踏まえつつ、なるべく早く日程を確定させ、事務当局を通じて皆様にお知らせすることとさせていただきます。
  本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。
  本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いでよろしいでしょうか。
             (一同異議なし)○井田部会長 ありがとうございます。
そのようにさせていただきたいと思います。
  本日は、これにて閉会といたします

わいせつ目的で誘拐した児童につき「就寝中のAの胸部が露出した姿態を被告人が使用する撮影機能付携帯電話機で撮影し」た行為を、ひそかに製造罪とし、誘拐罪と併合罪とした事例(横浜地裁r5.3.20)

 自ら乳房露出していない限りは、ひそかに製造罪ではなく姿態をとらせて製造罪です。
 撮影はわいせつ行為なので、わいせつ誘拐罪とは牽連犯ですよね。
 


横浜地裁令和 5年 3月20日
事件名 わいせつ誘拐(変更後の訴因 わいせつ誘拐、神奈川県青少年保護育成条例違反)、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2023WLJPCA03206013
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は
 第1 ソーシャルネットワーキングサービスであるツイッターを介して知り合ったA(当時15歳)が家出願望を有することに乗じて、わいせつな行為をする目的で、同人を誘拐しようと考え、令和4年7月28日午後0時54分頃から同月29日午前10時17分頃までの間、神奈川県内又はその周辺において、自己の携帯電話機を使用し、前記ツイッターのダイレクトメッセージ機能を利用して、Aに対し、「こんにちは 同じ横浜です」「今日は決まった?」「おいで ぎゅ~」「制服家出?不味くね」「着替ひっす」「可愛い」「傷、愛してやる」等のメッセージを送信し、同人に自己の下に来るように誘惑し、Aにその旨決意させ、同日午前10時23分頃、横浜市内のドラッグストアにおいて、同人と合流した上、同人を被告人方に連れ込み、その頃から同年8月12日午後2時52分頃までの間、Aを同所に寝泊まりさせるなどして自己の支配下に置き、もってわいせつの目的でAを誘拐した上、同月5日頃、被告人方において、Aが満18歳に達しない青少年であることを知りながら、同人の陰部を舐め、その陰部に自己の陰茎を直接押し付け、さらに、Aに自己の陰茎を口淫させるなどし、もって青少年に対し、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゅう恥けん悪の情を起こさせるわいせつな行為をした
 第2 A(当時15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、同月9日午後10時6分頃から同月10日午後6時53分頃までの間に、被告人方において、ひそかに、就寝中のAの胸部が露出した姿態を被告人が使用する撮影機能付携帯電話機で撮影し、その画像データ3点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録して保存し、もってひそかに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した
 
(法令の適用)
 罰条
 判示第1の行為
 わいせつ誘拐の点 刑法225条
 青少年に対するわいせつ行為の点 神奈川県青少年保護育成条例53条1項、31条1項
 判示第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
 科刑上一罪の処理(判示第1につき) 刑法54条1項後段、10条(わいせつ誘拐と青少年に対するわいせつ行為との間には手段結果の関係があるので、1罪として重いわいせつ誘拐罪の刑で処断)
 刑種の選択(判示第2の罪) 懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書

福祉犯を犯した医師・歯科医師の行政処分の厳罰化

児童ポルノ単純所持には影響なし
児童買春は倍くらいになっています。

罰金刑確定してからでは手が打てません。

製造罪とかで捜査受けて、捜査弁護の結果、単純所持に落ちると、戒告になったりします。起訴猶予になると、行政処分はありません。

>>
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34428.html

児童買春等を行った医師・歯科医師行政処分の量定の見直しについて
 児童買春等を行った医師・歯科医師行政処分の量定について、昨今の社会情勢も踏まえて次回の分科会から従前よりも処分を重くすることで合意した。

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罪名 司法処分 行政処分 司法処分 行政処分
公然わいせつ 10万円 3月 H31.2.14 R5.2.8
迷惑条例卑わい 30万円 3月 H30.12.17 R5.2.8
迷惑条例盗撮 30万円 3月 H30.4.11 R5.2.8
単純所持 20万円 戒告 H30.6.6 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.9.27 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.7.2 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.6.21 R5.2.8
単純所持 30万円 戒告 H30.3.8 R5.2.8
児童買春 30万円 3月 H30.8.6 R5.2.8
児童買春 50万円 3月 H30.5.18 R5.2.8
迷惑条例盗撮 30万円 3月 H31.3.22 R5.7.26
単純所持 30万円 戒告 H31.3.18 R5.7.26
単純所持 30万円 戒告 H30.12.19 R5.7.26
単純所持 30万円 戒告 H31.1.17 R5.7.26
         
単純所持 30万円 戒告 R1.6.5 R5.11.22
単純所持 30万円 戒告 H31.4.15 R5.11.22
児童買春1 50万 6月 H31.3.15 R5.11.22
児童買春2 70万 6月 R1.5.29 R5.11.22
児童買春2製造2 70万円 8月 R1.9.13 R5.11.22
児童買春2 50万円・30万円 1年 H31.2.1 R5.11.22
青少年条例違反・製造 80万円 1年4ヶ月 H31.3.13 R5.11.22
公然わいせつ 10万円 3月 R1.8.27 R5.11.22
迷惑条例盗撮 20万円 3月 R1.9.10 R5.11.22

 

性的同意能力三分説(176条3項、177条3項)

 こういう思想によるものです。裁判官も知らないと思うので、機会があれば「知ってたか?」って聞いてみます。
 13~15歳の不同意性交罪・不同意わいせつ罪については、被害者の承諾能力の程度によっては、量刑に影響がありうるでしょう。
 16~17歳の青少年淫行罪については、承諾能力は完全(権利侵害はない)という主張に使えそうです。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省
各条の第3項
(1) 総説
自由意思決定を有効にすることができるための能力の内実は、
○ 行為の性的な意味を認識する能力(以下「意味認識能力」という。)
○ 相手方からの影響にかかわらず、性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処する能力(以下「性的理解・対処能力」という。)
と整理することができる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられるところ、子供の発達段階に関する調査・研究や若年者を対象とした意識調査の結果等を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、16歳未満の者は、これらの能力の全部又は一部が十分でなく、有効に自由意思決定をする能力が十分に備わっているとはいえないため、有効に自由意思決定をすることが困難な場合があり、そのような場合には、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じ得ると考えられる。
第3項は、そのような場合における性的行為を処罰することとするものである。
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合
を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない

 深町論文に説明があります。

深町晋也「性交同意年齢の引上げを巡る諸問題」法律時報2023年10月号(95巻11号)77頁
第6回会議において、性的同意能力を
①行為の性的な意味を認識する能力、
②行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、及び
③性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力
という3つの能力に分析して検討する見解が主張されたことである(以下、この見解を「能力三分説」とする)16)。
同会議においては、この見解に依拠しつつ、①及び②のみでは性交同意年齢の引上げに同年代間の者同士の性交等についての例外を設ける理由を説明しがたい一方、③の能力を考慮することでそれが可能になる、との意見が主張された17)。
更に、第8回会議においては、能力三分説を前提に性交同意年齢の引上げが論じられるようになり18)、
13歳未満の者であれば①の能力を一律に欠くと言えても13歳以上の者についてはそうとは言い難いのに対して、②及び③の能力まで含めて十分に備わる年齢については、13歳よりは上であると言い得るとの見解が主張された19)。
なお、第12回会議においては、能力三分説を主唱する立場から、②の能力に関して、被害者に生じる
妊娠や性感染症のリスクといった短期的影響のみならず、その後の精神的な負荷といった長期的影響をも含めて理解する能力であるとされ、②の能力と③の能力とは不可分のものだとする見解が主張された20)。
以上の議論をまとめると、部会において示された能力三分説は、従来明確に区別されていなかった①~③の能力を区別しつつ、特に(②の理解能力及び③の対処能力を強調することで、一方では性交同意年齢の引上げを正当化しつつ、他方では、(年齢が引き上げられた範囲において)行為者と被害者との年齢差が5歳以上であれば両者の対等性が否定されて(②及び)③の能力が一律に否定されるという形で年齢差要件をも正当化するという機能を有するものと言えよう。
3 性交同意年齢を巡る議論の検討
(1) 比較法的観点からの分析22)
能力三分説は、日本においてこれまで明確な形で議論対象とされたことは殆どないものの、ドイツにおける被害者(本稿との関係では未成年者)の同意能力を巡る議論にほぼ対応するものと言って良い。
未成年者の同意能力に関するドイツの学説は、未成熟さを有する未成年者という人的グループに属する者が、その未成熟さにより法益処分に関して認識若しくは判断できず、又は認識・判断に従って行動を制御することができない場合には、同意能力を認めることができないとする点で概ね一致している。このうち、認識・判断・制御の各能力は、前述の⑪~③に対応するものと言える23)。また、①~③の各能力を判断する際に考慮される事情は、ドイツにおいて認識・判断・制御能力の有無を判断する際に考慮される事情と相当程度重なっている。
①については「行為の性的な意味」が問題となっているが、こうした意味が問題とされるのは、当該行為が性的自由・性的自己決定権を侵害する行為だからである。ドイツにおいては、いかなる保護法益を処分するのかに関する認識能力が問題とされており、①で問題とされているのはそうした保護法益に関連する認識能力と言える。
///////////

16) 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第6回会議(令和4 [2022]年3月29日)議事録24頁〔佐藤〔陽〕幹事〕
○佐藤(陽)幹事 先ほど小島委員と北川委員から年齢を引き上げる理論的根拠に関する御意見が述べられたかと思いますので、私の方からも、これについて幾つか述べさせていただければと思います。
現在の刑法176条後段及び177条後段に関する年齢を、例えば対象年齢と呼ぶとしますけれども、この対象年齢の引上げに関して理論的根拠を検討しようと思った場合には、まず、現行法の対象年齢の趣旨を整理する必要があるのではないかと思います。刑法176条前段及び177条前段の保護法益を、通説的に、性的自由、性的自己決定権であると解し、かつ、近年は児童の健全育成を併せて考慮に入れる見解もありますけれども、一応後段も同じ保護法益で自己決定権を保護しているのだということを前提に考えますと、強制わいせつ罪や強制性交等罪については、次のような説明ができるのではないかと思います。
つまり、13歳以上の者は、基本的には自由な意思決定をすることができるはずなのだけれども、何らかの理由で、それは内在的な理由だったり外在的な理由だったりするわけですが、それが困難な状況にあるときに、わいせつな行為又は性交等をされると法益が侵害されるのに対して、13歳未満の場合には、その年齢ゆえに一般に自由な意思決定をすることが困難だとみなされているため、それらの行為がなされると、すぐに、一律、法益が侵害されるという説明です。
確かに、13歳未満の者であっても、あるいは13歳以上の者であっても、人間は個性がありますから、それぞれ意思決定能力に差はあると思うのですけれども、ここでは、人が年齢を重ねるにつれて精神的に成熟していって、一定年齢以上になると有効な自由な意思決定をするための能力が備わるのだということを前提にして、刑事政策的に、その年齢が一律13歳に定められたと考えることができるのだと思われます。
この「13歳」という年齢を引き上げるとした場合の考え方としては、このような通説的な保護法益に基づく処罰根拠の説明をやめて、新たな処罰根拠に基づく説明を取り入れる方法、例えば、先ほど北川委員もおっしゃいましたけれども、健全育成の視点を取り入れた形で説明するというのが、一つあり得ると思います。ただ、この場合には、北川委員もおっしゃっていたとおり、今まで健全育成を保護する規定の場合には、いろいろな制約をした上で「10年以下の有期懲役」となっていたものが、いきなりそういう制約を取り払って、「5年以上の有期懲役」という重い処罰になることになりますので、この点で少し飛躍があるように思われます。そうだとすると、極力、これまでと同じように、性的自由や性的自己決定権という保護法益が侵害されるのだということを前提に説明をした方がいいのではないかと思います。
そこで、性的自己決定権を根拠にして年齢を引き上げることができるかについて考えますと、自由な意思決定をするのに必要な能力は、論理的に何歳だと定まるものではなくて、社会情勢も踏まえて刑事政策的に決するものだと思われますから、どのような能力が必要とされるべきかという、能力の内実を改めて整理し直した上で、一般に何歳に達すればその能力が備わると言えるかという観点から、検討することができるのではないかと思います。
では、その能力の内実は何かというのを更に考えますと、まず、性的な事項に関する認識や理解がなければ自由な意思決定をする前提を欠くのだという観点から、これまでの議論の中で指摘されているとおり、行為の性的な意味を認識する能力や行為が自己に及ぼす影響を理解する能力といったものがその内実になると思われます。
また、例えば、性的行為に向けた相手方からの働き掛けに対処することができなければ、相手方からの影響力の作用を適切に排除しながら自分で決定するということが難しくなると考えますので、性的行為に向けた相手方からの働き掛けに的確に対処する能力といったようなものもその内実として考えられるのではないかと、現在考えているところです。
そういった能力の内実を手掛かりにして、改めて年齢は何歳だろうかと考えていく作業を進めるというのが、一つの手段として有効ではないかと思うところです。では、一体何歳なのかと言われると、皆様の御意見を聴きたいと思っているところですので、よろしくお願いします。
・・

(19) 前掲・第8回会議議事録37頁以下〔佐藤〔拓〕幹事〕。
○佐藤(拓)幹事 対象年齢を引き上げる理論的根拠については、これまでの議論において、現行法上、13歳未満の者に対して性交等をすれば強制性交等罪を構成するとされているという根拠を、配布資料22に記載されているとおり、「性的行為をするかどうかに関する能力を欠くため、性的自由・性的自己決定権を侵害する」ことに求めた上で、その能力の内実を整理し直し、それを踏まえて検討するという視点が示されたと理解しております。そして、その能力の内実として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの三つの能力が検討対象となっていると考えております。このような検討の方向性は、現行法との関係でも、整合的な説明が可能ではないかと考えられます。能力の捉え方についても、これまでの議論において、異論はなかったように思われます。
そこで、このような考え方に沿って検討してみますと、
13歳未満の者は、おおむね小生の年次に当たり、一般的に性的な知識は乏しいと考えられますことから、「①」の能力を欠いていると見ることができる一方で、
13歳になると、中学生の年次に入ることから、恐らく「①」の能力を一律に欠くと評価することは困難ではないかと思われます。これに対して、「②」及び「③」の能力は、「①」の能力が備わったからといって直ちに備わるものではないと考えられ、これらを含めて三つの能力が全て十分に備わる年齢は、13歳よりは上だということができるのではないかと思われます。仮にこのような考え方が、実態としても裏付けられるのであれば、それを根拠として対象年齢を引き上げることは、理論的にあり得るように思われます。
これに対して、若年者の「健全な育成を害する」ことを根拠として対象年齢を引き上げることについては、更に検討すべき課題があるように思われます。すなわち、仮に、現行法上13歳未満の者に対して性交等をすれば強制性交等罪を構成するとされている根拠として、「健全な育成を害する」ことが含まれていると考える場合には、現在でも、これを考慮した上で、13歳未満が対象年齢として定められていることとなりますが、「健全な育成を害する」ことがなぜ対象年齢を引き上げる根拠になるのかを説明する必要が出てくるように思われます。他方、仮に、現行法上、「健全な育成を害する」ことは考慮されていないと考える場合には、なぜ新たにこれを加えることとするのかについて、その根拠とともに説明をする必要が生じてくるように思われます。
もっとも、いずれにしても、「健全な育成を害する」ことのみを根拠として5年以上の懲役という重い違法性を根拠付けることは困難であり、配布資料22は正にそのとおりの形になっていますけれども、対象年齢を引き上げる場合には、性的行為をするかどうかに関する自由な意思決定をするために必要な能力の不足という観点から説明するほかないのではないかと考えております。
・・・
法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会
第8回会議配布資料22
補足的検討課題②
(第1-2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること)
〔補足的検討課題〕
1 客体となる者の年齢(以下「対象年齢」という)を引き上げる理論的根拠。
○現行法上、対象年齢の者に対して性交等をすれば、強制性交等罪を構成して処罰するとされている理由をどのように考えるか。
・性的行為をするかどうかに関する能力を欠くため、性的自由・性的自己決定権を侵害する
・健全な育成を害する
○現行法上の処罰理由を踏まえ、対象年齢を引き上げる理論的根拠は何か。
・性的行為をするかどうかに関する能力として、
①行為の性的な意味を認識する能力
②行為が自己に及ぼす影響を理解する能力
③性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力を要し、これらの能力を一律に欠く年齢を対象年齢とする