児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

刑法の性犯罪(176条3項、177条3項)は16~17歳の者を「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響につい

刑法の性犯罪(176条3項、177条3項)は16~17歳の者を「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない」ことはない者として扱うのだから、青少年条例違反(淫行)の関係においても、思慮浅薄はないから、青少年条例違反(淫行)の罰則は廃止されたという主張



1 はじめに~青少年条例の補充性
 A県の青少年淫行罪は、基本的には、当時の刑法の性犯罪規定(176条後段、177条後段)が「13歳未満の者」とされてきたことに対応して13歳~17歳への性行為を規制していた。
 青少年淫行罪の趣旨は、青少年が能力不足・思慮浅薄であることを前提にして、成人が思慮浅薄につけ込んで「青少年を性の欲望の対象として取扱う大人の背徳的な行為を処罰する規定」と説明される。
 刑法との関係は、刑法の保護が及ばない年齢を保護するという補充的性格である。

A県青少年健全育成条例の解説r03
【解説】
青少年に対し、青少年の健全な成長を阻害するようなみだらな性行為やわいせつな行為を行うことを禁止するものであり、この規定に違反すると、第×× 条の規定により、2 年以下の懲役又は100 万円以下の罰金に処せられる。この規定については、青少年を性の欲望の対象として取扱う大人の背徳的な行為を処罰する規定であり、実効性をより高めるため、平成20 年の改正で罰則を条例で定め得る上限まで強化を図った。
本条は青少年を対象とした性行為やわいせつな行為のうち、健全な成長を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべきものを対象としており、その適用にあたっては、動機、手段及び態様並びに当該行為が青少年に与えた影響等を勘案した上で、客観的、総合的に判断されるべきである。
しかし、刑法では、13 歳未満の者に性交等をした行為には強制性交等罪が、また、わいせつな行為には、強制わいせつ罪が暴行又は脅迫を用いなくとも適用されるが、13 歳以上の青少年に対しては、暴行又は脅迫を伴う場合に限り適用されるなど、本条が設定されるまでは、13 歳以上の青少年に対するみだらな性行為やわいせつな行為については、法律上の規制が及ばない。

 ところで現行刑法(令和5年法律66号)においては、16歳未満との性行為は、不同意性交罪・不同意わいせつ罪とされる(177条3項 176条3項)。
 従前は13歳だったところ、16歳が性的承諾能力を備えることとされた理由について法務省はこのように説明する。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省
各条の第3項
(1) 総説
自由意思決定を有効にすることができるための能力の内実は、
○ 行為の性的な意味を認識する能力(以下「意味認識能力」という。)
○ 相手方からの影響にかかわらず、性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処する能力(以下「性的理解・対処能力」という。)
と整理することができる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられるところ、子供の発達段階に関する調査・研究や若年者を対象とした意識調査の結果等を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、16歳未満の者は、これらの能力の全部又は一部が十分でなく、有効に自由意思決定をする能力が十分に備わっているとはいえないため、有効に自由意思決定をすることが困難な場合があり、そのような場合には、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じ得ると考えられる。
第3項は、そのような場合における性的行為を処罰することとするものである。
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合
を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない

 承諾能力を3つにわけて説明する考えを、深町教授は「能力三分説」と呼ぶ。

深町晋也「性交同意年齢の引上げを巡る諸問題」法律時報2023年10月号(95巻11号)77頁
第6回会議において、性的同意能力を
①行為の性的な意味を認識する能力、
②行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、及び
③性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力
という3つの能力に分析して検討する見解が主張されたことである(以下、この見解を「能力三分説」とする)16)。

結局、16~17歳の場合には、

(2) 13歳未満の者について
3歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という能力は備えていると刑法典で「みなされ」た。
 16歳以上は
  意味認識能力
  性的理解能力
  対処能力
は備えている。
 とすると、刑法で保護されない16~17歳については、性的判断能力未熟・思慮浅薄を理由にする刑罰法規は刑法に反して、合理性を失い、存在を許されない。

 条例の「青少年健全育成の趣旨」を加味しても、国法上

自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっている
他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができる

存在であるから、条例によっても、保護の必要はない。
2 青少年の性的行為の実情
 法務省の検討会の資料では、女子高校生が19.3%に性交経験があって、それは刑法上規制しないという方向であった。

法務省:性犯罪に関する刑事法検討会 第5回会議(令和2年8月27日)資料30
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00059.html
https://www.moj.go.jp/content/001327167.pdf

会議録p32
https://www.moj.go.jp/content/001331676.pdf
○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」に関する資料は,資料29から32までです。
次に,資料30は,日本性教育協会がほぼ6年おきに全国の中学生・高校生・大学生を対象に実施している性行動に関する調査の結果です。
調査の結果については,大学生及び高校生の性交の経験率は,男女ともに平成17年の調査時が最も高く,それ以降は減少傾向にあり,平成29年の調査では,男子大学生が47%,女子大学生が36.7%,男子高校生が13.6%,女子高校生が19.3%となっております。また,中学生の性交の経験率は,平成17年の調査時からほぼ横ばいであり,平成29年の調査では,男子中学生が3.7%,女子中学生が4.5%となっています。


3 最近の未成年者法の動き
成人年齢の引き下げ(20歳→18歳)

②婚姻適齢の引き上げ
 18歳になれば婚姻適齢とされ、父母の同意なく婚姻できるようになった。  
旧第七百三十一条
男は、十八歳に、女は、十六歳にならなければ、婚姻をすることができない。
(未成年者の婚姻についての父母の同意)
第七百三十七条
1 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。
2父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも、同様とする
     ↓↓
現行民法
第七三一条(婚姻適齢)
 婚姻は、十八歳にならなければ、することができない。
〔平一六法一四七・平三〇法五九本条改正〕

民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00218.html
 平成30年6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立し、令和4年4月1日から施行されました。
 民法の定める成年年齢は、単独で契約を締結することができる年齢という意味と、親権に服することがなくなる年齢という意味を持つものですが、この年齢は、明治29年(1896年)に民法が制定されて以来、20歳と定められてきました。これは、明治9年の太政官布告を引き継いだものといわれています。
 成年年齢の見直しは、明治9年の太政官布告以来、約140年ぶりであり、18歳、19歳の若者が自らの判断によって人生を選択することができる環境を整備するとともに、その積極的な社会参加を促し、社会を活力あるものにする意義を有するものと考えられます。
 また、女性の婚姻開始年齢は16歳と定められており、18歳とされる男性の婚姻開始年齢と異なっていましたが、今回の改正では、女性の婚姻年齢を18歳に引き上げ、男女の婚姻開始年齢を統一することとしています。

③未成年者誘拐の保護年齢を引き下げ(20歳→18歳)


④16歳で、完全な性的同意能力があるとされる(令和5年刑法改正)

4 福岡県青少年保護育成条例違反被告事件大法廷判決(最大判S60.10.23)の合憲理由の大半が失われたこと。
 最大判S60.10.23が理由としたのは、刑法での保護対象が13歳未満、婚姻適齢が18歳であったので、13歳という精神未熟な年齢層から18歳までの野放図な性行為を規制するという点にあった。

 最大判S60.10.23
そこで検討するのに、本条例は、青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的として定められ(一条一項)、他の法令により成年者と同一の能力を有する者を除き、小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を青少年と定義した(三条一項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」(一〇条一項)と規定し、その違反者に対しては二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科し(一六条一項)、違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない(一七条)こととしている。これらの条項の規定するところを総合すると、本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。このような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、すべて採用することができない。

 確かに13~17歳は年齢幅が広く、確かに13歳で性行為を許容するのは心許ない

 ところが、刑法での保護対象は16歳未満となり、16歳になれば、「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができる」能力も備えているとされる。
 16~17歳はつい数年前まで民法上、婚姻適齢とされていた程の成熟度である。

法務省逐条説明
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という同意能力は完全に備えていると刑法典で「みなされ」たわけだから16~17歳である場合には、未成熟性を規制理由にすることはできない。

 時系列的にみて、条例についてはs60ころに

最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、

とされてきたのを、r05ころになって国法である刑法について

逐条説明
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という趣旨で、16~17歳について、意味認識能も性的理解・対処能力も認めるに至ったわけだから、もはや、16~17歳については

最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、

という条例の規制理由は、失われたと理解すべきである。

 また、大法廷判決中「例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて」の点ついても、刑法が13未満から16歳未満を保護年齢を引き上げた結果、能力3分説のいすれをも充たすことになるし、青少年条例の対象年齢は義務教育を終えた者となりある程度の判断能力も期待できるし、婚姻適齢が18歳(父母の同意不要)となっている現時点においては、16~17歳の性的行為を規制することは、 まさに「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととな」るから、規制理由としては時代にそぐわないものとなった。

 かくして、少なくても16~17歳の青少年については、最大判S60.10.23の理由付けは現在では無効になった。罰則付きで禁止する「理由がない」。


6 刑の廃止
 A県条例の淫行処罰規定のうち、少なくても青少年が16歳~17歳の場合については、刑法改正により効力を失った。

 刑法との比較において、青少年条例の法定刑に懲役刑が設けられていることがバランスを欠くから、16~17歳だとせいぜい罰金が上限であろうから、条例の法定刑(条例××条1項)のうち懲役刑は効力を失ったという主張もしておく。

 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。(刑訴法337条2号)にほかならないから、本件は免訴になる。
第三三七条[免訴の判決]
 左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。
 法定刑の懲役刑が無効になったという主張の結末としては、懲役刑がないのだから、「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。」として免訴になると主張する。

 免訴にしなかった原判決には訴訟手続の法令違反があるから、原判決は破棄を免れない。

7 16~17歳の青少年との性行為を懲役刑を以て規制する青少年条例は「法律の範囲内」(憲法94条)に収まらないから無効である。
 こういう判例があるのだが、
 最大判S60.10.23

 ところが、刑法での保護対象は16歳未満となり、16歳になれば、「自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができる」能力も備えているとされる。

法務省逐条説明
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という同意能力は完全に備えていると刑法典で「みなされ」たわけだから、16~17歳である場合には、未成熟性を規制理由にすることはできない。
 時系列的にみて、条例についてはs60ころに

最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、

とされてきたのを、r05ころになって国法である刑法について

逐条説明
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない

という趣旨で、16~17歳について、意味認識能も性的理解・対処能力も認めるに至ったわけだから、もはや、16~17歳については
最大判S60.10.23
趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、
という条例の規制理由は、上書き消去されたと理解すべきである。

 また、大法廷判決中「例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて」の点ついても、刑法が13未満から16歳未満を保護年齢を引き上げた結果、能力3分説のいすれをも充たすことになるし、青少年条例の対象年齢は義務教育を終えた者となりある程度の判断能力も期待できるし、婚姻適齢が18歳(父母の同意不要)となっている現時点においては、16~17歳の性的行為を規制することは、 まさに「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととな」るから、規制理由としては時代にそぐわないものとなった。

 刑法が
  16歳以上は
   意味認識能力
  性的理解能力
  対処能力
   は備えている。
と言ったとき、自治体が16~17歳はこのような能力に欠けると言う趣旨の条例を設けることを許さない趣旨である。

 かくして、少なくても16~17歳の青少年については、最大判S60.10.23の理由付けは現在では無効になった。罰則付きで禁止する「理由がない」。もはや「法律の範囲内」(憲法94条)に収まらないから条例は無効である。