児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

師弟関係の児童淫行罪(性交類似行為)1+児童ポルノ製造罪1で懲役3年執行猶予5年(岐阜地裁H30.7.5)

 師弟関係の児童淫行罪は、実刑の方がやや多くなっています。
 1件だけなのに「教師と生徒の関係にあることの影響力により性交類似行為の相手をさせ,その際に試験問題を事前に渡すという行動まで伴っていて,教師という児童を保護すべき立場にあることも勘案すると,本件は,児童福祉法違反の事案の中でも悪質な部類に属する。」という評価になっています。

裁判年月日 平成30年 7月 5日 裁判所名 岐阜地裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(わ)118号
事件名 児童福祉法違反、児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA07056005
主文
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
 【罪となるべき事実】
 被告人は,a高等学校に常勤講師として勤務していたものであるが,当時被告人が授業を担当していた生徒であるA(当時16歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,
 第1 教師としての立場を利用し,平成30年3月11日午前8時32分頃から同日午前8時49分頃までの間,岐阜県関市〈以下省略〉所在の株式会社bの経営するcホテル401号室において,同児童に被告人を相手に口淫等の性交類似行為の相手をさせ,もって児童に淫行をさせる行為をした。
 第2 前記日時場所において,同児童に,被告人の陰茎を口淫させる姿態,被告人の陰茎を触らせる姿態及び同児童の乳房を露出した姿態をとらせ,これを被告人が使用するカメラ機能付き携帯電話機で動画撮影し,同月18日午後零時50分頃,岐阜市〈以下省略〉所在のdアパート101号室の被告人方において,その動画データをパーソナルコンピュータに内蔵された記録装置に記録して保存し,もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態,児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。
 【証拠の標目】
 【法令の適用】
 1 罰条 判示第1の行為は児童福祉法60条1項,34条1項6号
 判示第2の行為は児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項1号,2号,3号
 2 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
 3 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
 4 執行猶予 刑法25条1項
 5 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
 【量刑の理由】
 児童福祉法違反の点は,教師と生徒の関係にあることの影響力により性交類似行為の相手をさせ,その際に試験問題を事前に渡すという行動まで伴っていて,教師という児童を保護すべき立場にあることも勘案すると,本件は,児童福祉法違反の事案の中でも悪質な部類に属する。児童ポルノ製造の点は,もとよりその動機にしん酌し得るものはなく,その後,児童から画像の消去を求められながら,なおもこれを保存する措置を講じた点もよくない。以上によれば被告人の刑事責任には重いものがある。
 他方,被告人は,両親の協力を得て,示談を成立させ,被害弁償をしていること,本件各犯行を反省し,今後,岐阜県を離れて居住し,教師等の職業に就かない旨を述べていること,被告人の更生を支えようとする家族がいること,前科前歴がないことなどの被告人のためにしん酌することのできる事情もある。
 そこで,以上の諸事情を勘案し,被告人を主文のとおりの刑に処するものの,その刑の執行を猶予するのを相当と判断した。
 (求刑 懲役3年)
 岐阜地方裁判所刑事部
 (裁判官 鈴木芳胤)

監護者性交罪について「被告人は、父親の援助の下、被害者の母親との合意に基づいて損害賠償金として300万円を支払っており、このことは、被告人に有利な事情として斟酌されるが、性犯罪の性質上、被害者の苦痛がどの程度和らいだといえるか、すなわち、宥恕の有無は重要な考慮要素になるところ、親権者である被害者の母親は宥恕の意思を表明しているわけではないから、この事情によっても、被告人の刑を大きく減じることはできない。」という判示(鹿児島地裁H30.8.7)

監護者性交罪について「被告人は、父親の援助の下、被害者の母親との合意に基づいて損害賠償金として300万円を支払っており、このことは、被告人に有利な事情として斟酌されるが、性犯罪の性質上、被害者の苦痛がどの程度和らいだといえるか、すなわち、宥恕の有無は重要な考慮要素になるところ、親権者である被害者の母親は宥恕の意思を表明しているわけではないから、この事情によっても、被告人の刑を大きく減じることはできない。」という判示(鹿児島地裁H30.8.7)
 児童淫行罪と同様、訴因外の過去の性交が考慮されています。そこなんとか防御できないかなあ。
 

判例ID】 28263953
【裁判年月日等】 平成30年8月7日/鹿児島地方裁判所刑事部/判決/平成30年(わ)75号
【事件名】 監護者性交等被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 岩田光生 恒光直樹 西木文香
【出典】 D1-Law.com判例体系
【重要度】 -


■28263953
鹿児島地方裁判所
平成30年(わ)第75号
平成30年08月07日
被告人 A
 上記の者に対する監護者性交等被告事件について、当裁判所は、検察官渡邉かおり及び弁護人寺田玲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役5年6月に処する。
未決勾留日数中20日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、当時の内縁の妻の娘である被害者B(当時15歳)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護していた者であるが、同人が18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交をしようと考え、平成29年11月5日頃、鹿児島県内において、前記被害者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をしたものである。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法179条2項、177条前段に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役5年6月に処し、刑法21条を適用して未決勾留日数中20日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 被告人は、かつての内妻及びその娘の被害者らと、被害者が小学校低学年の頃から同居し、生活費の一部を負担するなどして被害者の監護、養育を行っていたものである。こうした状況下において、被告人は被害者に対する性的欲求を募らせるようになり、他方、被害者は被告人に逆らえないと感じ、嫌われないよう振る舞っていた。被告人は、このような被害者の気持ちに配慮せず、明確に嫌がっていないから同意しているなどと安易に考えて本件犯行に及んだ。監護者としての影響力に乗じた卑劣な犯行であり、自己中心的な動機に酌量の余地はない。加えて、被告人は、被害者が小学6年生であった頃から被害者にわいせつな行為を行うようになり、被害者が中学1年生であった頃から3年以上にわたって被害者と性交を繰り返す中で本件犯行に及んでおり、本件犯行は、常習的犯行として態様悪質といえる。被害者の受けた精神的苦痛は甚だしく、その日常生活に今もなお深刻な影響を与えている。被害者や、その母親が被告人の厳重処罰を求めているのは十分理解できる。
 他方、被告人は、父親の援助の下、被害者の母親との合意に基づいて損害賠償金として300万円を支払っており、このことは、被告人に有利な事情として斟酌されるが、性犯罪の性質上、被害者の苦痛がどの程度和らいだといえるか、すなわち、宥恕の有無は重要な考慮要素になるところ、親権者である被害者の母親は宥恕の意思を表明しているわけではないから、この事情によっても、被告人の刑を大きく減じることはできない。
 以上によれば、被告人が本件犯行を認め、公判廷において被告人なりの反省の弁を口にしていること、被告人には罰金前科のほかに前科がないこと、被告人の父や妻が被告人を支援していく旨述べていることなど、その余の被告人に有利な事情を併せ考慮しても、被告人の刑事責任は非常に重く、酌量減軽をして法定刑の下限を下回る刑を言い渡すことは相当ではなく、主文の刑が相当と判断した。
(求刑 懲役6年)
刑事部
 (裁判長裁判官 岩田光生 裁判官 恒光直樹 裁判官 西木文香)

児童を使った美人局の被害に遭ったときは、まず、経験がある弁護士に相談して淫行について逮捕を回避してから、恐喝の被害申告をしないと、逮捕されてしまいます。

 真実児童であった場合、客は、青少年条例違反とか児童買春罪になって、相手は、恐喝とか児童淫行罪とかになります。
 児童でなかった場合は、客に罪はなく、相手は、恐喝とか売春周旋罪とかになります。
 当初は10万20万であっても、払うと思えばatmで引き出せとか、サラ金で借り来いとか言われて結構高額な被害になります。
 最初の要求を拒んで、弁護士に相談して、生活安全課に淫行について自首して逮捕を回避していて、あとは、お金の受け渡しについて刑事課と相談して張り込んでもらって、恐喝未遂の現行犯で逮捕してもらえば、恐喝は止むのです。
 切羽詰まってから「恐喝されてます」と警察署に行くと、刑事課が対応してくれますが、自首の機会を失い、逮捕されることがあるのです。
 黙って払い続けてた人もいますが、他の恐喝被害者が被害申告することで、芋づる式に児童買春罪等で逮捕されることもあります。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190208-00000582-san-soci
元教え子へのみだら行為ネタに男性恐喝 10代男女3人を容疑で逮捕
2/8(金) 17:48配信 産経新聞
 栃木県警少年課と那須塩原署は8日、男性を脅して現金数百万円を脅し取ったとして、恐喝の疑いで、宇都宮市の無職少年(19)と、鹿沼市の会社員の少年(19)、県内在住の10代の少女の計3人を逮捕、宇都宮地検に送検したと明らかにした。
 逮捕・送検容疑は、3人で共謀して1月中旬ごろ、那須塩原市の無職男性(26)=県青少年健全育成条例違反容疑で逮捕後、釈放=から現金数百万円を脅し取ったとしている。
 男性は臨時教員として那須塩原市の市立中学校に勤務していたが、元教え子の少女にみだらな行為をしたとして1月に逮捕され、その後、懲戒免職になった。
 同署によると、元教え子の少女が知人を通じて知り合った少年2人と共謀し、男性に現金を要求した。
 男性が逮捕後の取り調べで恐喝被害を受けたことを供述、県警が調べていた。

被告人が内妻Bや内妻の娘C(16)らとホテルに宿泊した際,隣のベッドにBらが寝ているにもかかわらず,同じベッドに寝ていたCと性交するという態様の監護者性交罪について懲役5年(長崎地裁h30.5.16)

 「想定される監護者性交等の犯行態様の中で,本件をことさらに重く処罰すべき事情も存在しない。」ということで法定刑の下限

判例番号】 L07350443
       監護者性交等被告事件
【事件番号】 長崎地方裁判所判決
【判決日付】 平成30年5月16日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文
 被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
       理   由
(犯罪事実)
 被告人は,平成29年8月当時,内縁の妻Bの娘であるC(当時16歳)と同居してその寝食の世話をし,その指導・監督をするなどして,同人を現に監護していた者であるが,Cが18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交をしようと考え,平成29年8月25日から同月26日までの間に,福岡市博多区(以下略)□□603号室において,Cを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をした。
(証拠の標目)(各証拠書類等に付記した番号は,検察官請求の証拠番号である。)
 被告人の公判供述
 被告人の各警察官調書(乙2,3)
 Cの検察官調書抄本(甲1)
 Bの各警察官調書(甲6,7)及び検察官調書(甲9)
 捜査報告書(甲2)
 各写真撮影報告書(甲4,5)
 戸籍全部事項証明書(甲10)
(法令の適用)
 罰条
  被告人の判示行為は,刑法179条2項,177条前段に該当する。
 宣告刑の決定
  所定刑期の範囲内で,被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数の算入
  刑法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
 訴訟費用の処理
  訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
(量刑の理由)
 犯行態様は,被告人がBやCらとホテルに宿泊した際,隣のベッドにBらが寝ているにもかかわらず,同じベッドに寝ていたCと性交するというものであり,大胆かつ悪質である。しかも,被告人は避妊措置をとっておらず,その点でも非難は免れない。Cは,すぐ近くに実母であるBらが寝ている中で性交をするという異常な状況に置かれており,本件犯行により受けた精神的苦痛は非常に大きく,また,肉体的苦痛も軽視できない。犯行の動機も,自身の性欲を解消するとともに,Cの実母であるBらが横で寝ている状態でCと性行為に及ぶスリルを感じるためという身勝手極まりないもので,特に酌むべき事情はない。
 以上によれば,被告人の刑事責任は重く,酌量減軽を行うべき事情は見当たらないが,他方で,想定される監護者性交等の犯行態様の中で,本件をことさらに重く処罰すべき事情も存在しない。
 そして,被告人が公判廷において事実を認め,反省の弁を述べていること,Cとその家族に二度とかかわらない旨誓約していること,被告人に前科がないこと等の被告人に有利な事情が認められるので,それらの事情も考慮し,主文のとおりの刑に処するのが相当と判断した。
(検察官大西杏理,国選弁護人中田昌夫各出席)
(求刑-懲役6年)
  平成30年5月17日
    長崎地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官  小松本卓
           裁判官  堀田佐紀
           裁判官  佐野東吾

警察官による児童淫行事件につき、真剣交際を主張して懲役3年6月(長野地裁H31.1.30)

 児童淫行罪だと、師弟とか親族とかいうベースとなる影響関係があるので、多少、恋愛関係があっても、影響関係を払拭できない。
 最近のこういう判例で考慮要素が分析されていますが、児童と担当した警察官という関係もなかなか払拭できないでしょう。
 児童淫行罪については公開されているものも少ないし、売春事案以外の児童淫行罪は稀なので弁護士にも経験がないんですが、判例・裁判例をよく検討してから主張して下さい。

裁判年月日 平成28年 6月21日 裁判所名 最高裁第一小法廷 裁判区分 決定
事件番号 平26(あ)1546号
事件名 児童福祉法違反被告事件
裁判結果 上告棄却 文献番号 2016WLJPCA06219001
所論に鑑み,職権で判断する。
 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは,同法の趣旨(同法1条1項)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう「淫行」に含まれる。
 そして,同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。
 これを本件についてみると,原判決が是認する第1審判決が認定した事実によれば,同判示第1及び第2の各性交は,被害児童(当時16歳)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であり,同児童が通う高等学校の常勤講師である被告人は,校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し,ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んでいることが認められる。このような事実関係の下では,被告人は,単に同児童の淫行の相手方となったにとどまらず,同児童に対して事実上の影響力を及ぼして同児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたと認められる。したがって,被告人の行為は,同号にいう「児童に淫行をさせる行為」に当たり,同号違反の罪の成立を認めた原判断は,結論において正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 小池裕 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人) 

https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagano/20190130/1010007487.html
「卑劣な犯行」と元警察官に実刑
01月30日 18時21分

警察官の立場を利用して10代の少女にみだらな行為をしたとして児童福祉法違反の罪に問われた元巡査部長に対して、長野地方裁判所は「警察官としてあるまじき卑劣な犯行だ」などとして懲役3年6か月を言い渡しました。

松本警察署の生活安全第1課の元巡査部長、被告(44)は、平成28年からおととしにかけて、警察官の立場を利用して10代の少女に複数回、みだらな行為をしたとして児童福祉法違反の罪に問われました。
30日の判決で長野地方裁判所の室橋雅仁裁判長は「弁護側は『互いに恋い慕う関係に基づいたものだ』などと主張するが、少女に口止めしたり、家族にばれることを恐れていたととれる行動を取っていたりすることなどから、真剣に交際していたとは認められない」と指摘しました。
そのうえで「補導した少女が、その後、精神的に頼ってきたことに乗じて犯行に及んだもので、警察官としてあるまじき卑劣な犯行だ」などとして懲役3年6か月を言い渡しました。

https://www.fnn.jp/posts/2665NBS
元警察官に判決。10代の少女に複数回、みだらな行為をさせたとして児童福祉法違反の罪に問われた松本警察署の元巡査部長に対し、長野地裁は懲役3年6ヵ月の判決を言い渡した。

児童福祉法違反の罪に問われているのは、松本警察署の元巡査部長、。起訴状などによると被告は18歳未満と知りながら県内に住む10代の少女に県内のホテルで4回、みだらな行為をさせた罪に問われている。これまでの公判で検察は「警察官の立場を利用してみだらな行為をさせた」と指摘し、懲役4年を求刑。弁護側は「警察官の立場は利用しておらず、少女とは恋愛関係にあった」などとし、無罪を主張していた。30日の判決で長野地裁の室橋雅仁裁判長は、「相手は判断力の未熟な少女で、警察官としてあるまじき卑劣な犯行」などとして、懲役3年6ヵ月の判決を言い渡した。弁護側は控訴するか未定としている。

被告人が自宅で所持しているポータブルHDD内の児童ポルノ画像については、「保管罪」は成立しないこと

 児童ポルノ法では、手元にあるのが所持罪で、リモートストレージが保管罪(場所で区別)
 刑法175条では、電磁的記録になってると保管罪、物だと所持罪(媒体で区別)
というのです。
 電磁的記録は有体物なので、媒体では区別できず、所持罪と保管罪の区別がつきません。
 児童ポルノ法の区別の方が合理的だと思います。

1 原判決
 原判決は、被告人方におけるポータブルHDD内の児童ポルノ画像について児童ポルノ法7条7項後段の「電磁的記録保管罪」を適用した。

原判決
第2 不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成年月日,被告人方において,記録媒体である外付けハードディスクに,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データを記録した電磁的記録○点を保管したものである。
(法令の適用)
罰条
 判示第2の事実中
  児童ポルノ電磁的記録頒布目的保管の点につき
  児童ポルノ法7条7項後段,6項,2条3項3号
・・・
法文
第七条(児童ポルノ所持、提供等)
7前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

 しかし、被告人の実力支配下にあるHDDの画像については、有体物としての児童ポルノの提供目的所持罪が成立して、電磁的記録記録としての保管罪は成立しない。

 原判決にはこの点で、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 児童ポルノ法における「保管」とはリモートストレージ等被告人の現実支配が及ばない支配状態をいうこと
(1)児童ポルノ法H16改正時の解説
 目的保管罪というのは、H16改正で設けられた罪名なので、当時の解説を見ておく。
 刑法のわいせつ図画罪とは特別関係であるから、刑法の解釈の影響を受けない。

①森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」p98
 議員立法だが、担当した議員の解説である。
電磁的記録の「保管」とは、当該電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことをいいます。具体的には、当該電磁的記録をコンピュータのレンタル・サーバに保存したり、自己が自由にダウンロードすることができるリモート(プロパイダーのメールボックスに入れられたメールを閲覧できる機能)の記録媒体に保存する行為がこれに当たります。
なお、自己の所持する記憶媒体に電磁的記録を保存している場合は、当該記憶媒体の「所持」 罪が成立するため、記録媒体を所持していないが、前記の方法により電磁的記録を保管している場合にのみ本罪が成立することになります。



②島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08 p95
 島戸さんは裁判官である。
ウ 後段で規定する行為
電磁的記録の「保管」とは、当該電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことをいう。具体的には、当該電磁的記録をコンビュータのレンタル・サーバに保存する行為がこれに当たる。
前記のとおり 、記録媒体に記録されている電磁的記録については、当該 自己の所有する記憶媒体に電磁的記録を保存している場合は、当該記憶媒体の「所持」罪が成立するため、記録媒体を所持していないが、電磁的記録を保管している場合にのみ本罪が成立することになる。



③大橋充直検事「検証ハイテク犯罪の捜査 第41回特集 児童買春・児童ポルノ禁止法の改正」捜査研究 第640号


(2)児童ポルノ法H26改正時の解説
 単純所持罪(7条1項)が設けられた際に、再度、所持と保管の区別が再確認され、周知されている。
第七条(児童ポルノ所持、提供等)
1 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とする。
警察庁少年課課長補佐友永光則警察公論2014年10月号p12
イ「所持」及び「保管」の意義
児童ポルノの「所持」とは,有体物(写真, DVD,ハードディスク(記録媒体)等)である児童ポルノを,自己の事実上の支配下に置くことをいう。
これに対し電磁的記録の「保管」とは,電磁的記録を自己の実力支配内に置くことをいう。
具体的には,当該電磁的記録をコンピュータのレンタル・サーバに保存したり,自己が自由にダウンロードすることができるリモートの記録媒体に保存する行為が該当する。これに対し,自己の所持するパソコンのハードディスクに保存している場合は,ハードディスク(有体物)の所持罪に該当する。

②江口寛章ら「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部改正」警察学論集第67巻第10号p97.

③坪井麻友美検事「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」捜査研究 第63巻第9号(2014年9月号)
 坪井検事は、現行法の目的所持罪と保管罪の区別についても、リモートが保管罪と説明している。


3 本件の児童ポルノ画像は被告人方のポータブルHDD内にあって、有体物(写真, DVD,ハードディスク(記録媒体)等)である児童ポルノを,自己の事実上の支配下に置いた状況であったこと
 本件の各画像がHDDに保管されていたことは証拠上明らかである。
 被告人の手元にあるのであるから、所持であって保管ではない。


4 まとめ
 にもかかわらず、児童ポルノ保管罪を認めた原判決には、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。
 児童ポルノ法は刑法175条とは特別法の関係にあって、刑法と比較すると、児童ポルノの悪質性に鑑みて
①製造罪・運搬罪・特定少数への提供罪など刑法にはない罪があること
②刑法の「頒布罪」の類似行為として「児童ポルノ提供罪」があるが、提供罪は頒布罪に比べると既遂時期が早いこと
という特徴がある。
 手元に電磁的記録を持っている場合に、刑法が「保管」っていうんだから、児童ポルノ法も「保管」にしてしまうという解釈はとれない。

師弟関係の児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)の求刑と宣告刑

求刑から宣告刑を占いたいという質問が多いので、手元の裁判例から宣告刑と求刑を抽出しました。
求刑が明らかになったケースでは、実刑46執行猶予32になっています。
 

求刑 宣告刑
求刑1年6月 1年2月実刑
求刑7年 5年0月実刑
求刑3年6月 2年0月実刑
求刑2年6月 2年0月実刑
求刑2年 2年0月執行猶予4年
求刑6年 4年0月実刑
求刑7年 5年6月実刑
求刑2年 1年0月実刑
求刑2年6月 1年4月実刑
求刑2年 2年0月執行猶予4年
求刑4年 2年6月実刑
求刑2年6月 2年6月執行猶予4年
求刑2年6月 1年6月実刑
求刑2年6月 1年4月実刑
求刑2年 1年6月実刑
求刑4年 2年6月実刑
求刑1年6月 1年6月執行猶予5年
求刑1年 1年0月執行猶予5年
求刑1年6月 1年6月執行猶予3年
求刑3年 2年6月実刑
求刑4年 3年0月執行猶予5年
求刑2年 1年4月実刑
求刑2年 2年0月執行猶予5年
求刑3年 1年6月実刑
求刑3年 3年0月執行猶予4年保護観察
求刑2年 2年0月執行猶予4年
求刑2年6月 2年0月執行猶予5年保護観察
求刑3年6月 2年4月実刑
求刑6年 4年0月実刑
求刑2年 1年6月実刑
求刑5年 4年0月実刑
求刑5年 3年0月執行猶予5年保護観察
求刑2年 2年0月実刑
求刑2年6月 2年6月執行猶予5年
求刑5年 2年6月実刑
求刑2年6月 2年6月執行猶予5年
求刑13年  10年0月実刑
求刑 懲役4年 2年6月実刑
求刑2年  1年6月実刑
求刑2年 2年0月執行猶予4年
求刑 1年6月 1年6月執行猶予4年
求刑1年6月 1年6月執行猶予3年
求刑10年 9年0月実刑
求刑2年6月 2年6月実刑
求刑2年6月 2年6月執行猶予4年
求刑2年6月 2年0月執行猶予4年
求刑2年 2年0月執行猶予4年保護観察
求刑3年6月 2年6月実刑
求刑5年 4年6月実刑
求刑3年 1年10月実刑
求刑2年 2年0月執行猶予3年
求刑5年 3年6月実刑
求刑4年 2年6月実刑
求刑2年 2年0月執行猶予4年
求刑2年 2年0月執行猶予4年
求刑4年 2年6月実刑
求刑4年 2年0月実刑
求刑2年 2年0月実刑
求刑6年 4年0月実刑
求刑3年 3年0月執行猶予4年
求刑3年 1年10月実刑
求刑4年 2年6月実刑
求刑4年 2年2月実刑
求刑7年 4年6月実刑
求刑6月 0年4月実刑
求刑2年 2年0月執行猶予3年
求刑5年 3年6月実刑
求刑2年6月 2年6月執行猶予4年
求刑2年 2年0月執行猶予4年
求刑3年 3年0月執行猶予4年
求刑2年 2年0月執行猶予3年
求刑5年 3年0月実刑
求刑4年 3年6月実刑
求刑1年8月 1年8月執行猶予3年
求刑5年 5年0月実刑
求刑2年6月 2年6月執行猶予5年
求刑5年 3年0月実刑

監護者性交・児童淫行罪の無罪判決(郡山支部H30.9.20)

被告人のタイムラインの位置情報と被害者の供述が合わないということで、被害者供述の信用性を否定しています。被害者には「司法面接」が行われています。
 

■28264636
福島地方裁判所郡山支部
平成29年(わ)第182号
平成30年09月20日
 上記の者に対する監護者性交等、児童福祉法違反被告事件について、当裁判所は、検察官北迫恵子及び国選弁護人三上将史各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人は無罪。

理由
第1 本件公訴事実(以下、人名については別紙のとおり)
 本件公訴事実は、「被告人は、自己の養子であるA(当時13歳)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護する者であるが、同人が18歳未満の児童であることを知りながら、同人と性交しようと考え、平成29年10月24日頃、福島県G市又はその周辺に駐車中の自動車内において、同人と性交し、もって同人を監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交等をするとともに児童に淫行をさせる行為をした」というものである。
第2 本件の争点及び証拠構造等
 1 争点
  検察官は、公判廷において、公訴事実記載の「平成29年10月24日頃」とは平成29年10月23日から同月25日までの期間を指し、本件公訴事実にかかる性交は同期間のうち、Aが被害申告する前の最後の1度の性交のことである旨釈明している。これに対して、弁護人は、被告人がAの監護者であることは争わないものの、検察官の釈明により特定された期間内に限らず、被告人がAと性交した事実はないから無罪であると主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。したがって、本件の争点は、前記期間内に被告人がAと性交をしたと認められるか否かである。
 2 証拠構造等
  本件当時Aが通学していた中学校の教諭であるEの証言によれば、平成29年10月25日にAがEに対して前日の同月24日夜に被告人から性交された旨供述したことが認められるところ、検察官は、論告においてこのAのEに対する供述(以下、単に「Aの供述」などということがある。)を公訴事実立証の中核と位置付け、当該供述は十分信用できることから、被告人が本件公訴事実記載の犯行を行ったことは明らかであると主張している(なお、Aの供述に関するEの証言は、伝聞証言に当たるが、この点について弁護人は異議を申し立てておらず、Eの証言に至るまでの打合せの経過からしても、弁護人はEの伝聞証言に黙示の同意をしたものと認められるから、証拠能力に問題はない。)。
  しかし、当裁判所は、平成29年10月24日夜に被告人から性交されたとするAのEに対する供述の信用性には大きな疑問があり、他に検察官が主張する期間内に被告人がAと性交したと認めるに足りる証拠もないことから、同期間内に被告人が本件公訴事実記載の犯行を行ったと認めるには合理的な疑いが残ると判断した。
  以下、その理由を補足して説明する。
第3 判断
 1 前提事実
  以下の事実は、当事者も争っておらず、関係証拠により優に認定することができる。
  (1) 被告人は、平成24年9月10日、Aの母であるBと婚姻し、Aとも養子縁組をした。平成26年6月以降は現在の被告人の住居である●●●アパート(以下「●●●アパート」という。)に被告人、A及びBの3人で生活していた。
  (2) Aは、精神遅滞自閉症スペクトラム精神障害を有し、平成27年11月(小学校5年時)に実施された知能検査の結果はIQ53、MA(精神年齢)6歳0か月、SA(社会生活年齢)7歳5か月というもので(甲30)、本件当時、中学校の特別支援学級に通学するとともに軽度知的障害と判定されて療育手帳の交付を受けていた(甲9、10)。なお、Bも中度知的障害と判定されて療育手帳の交付を受けていた(甲9、10)。
  (3) 被告人は、平成29年8月に別件窃盗事件で逮捕され、その後勾留の上で起訴され、同年10月12日に執行猶予付き有罪判決を受けて釈放された。
  (4) Aは、平成29年10月25日、中学校から虐待通告を受けた児童相談所によって一時保護された(甲30)。
 2 A及び被告人の供述の概要(以下、特記なき限り日付は平成29年のものである。)
  (1) AのEに対する供述状況及びその内容
  Eの証言によれば、10月25日に前日夜の性交についてAがEに被害申告した状況及びその内容は、以下のとおりと認められる。
  社会科の授業の開始時に前日の生活状況をAに確認したところ、Aの方から、この間の月曜日(日付にすると10月23日)に、被告人と二人で温泉施設のHに行った帰りに車の中で胸とお尻と股間のあたりを触られたと打ち明けられた。Aから聞いた内容を担任のF等に報告した上で被害状況を更に確認していると、前日にも胸、お尻、股間のあたりを触られたとAが言ったので、性交までされたのか尋ねたところ、Aは肯定した(具体的なやりとりについては後記のとおり。)。性交された状況を詳しく聞くと、Aは、24日の夜9時頃に被告人から中古ゲーム販売店のIに行かないかと誘われ、Bは寝ていたので被告人と二人で車で出かけたが、Iには行かずに停車した車の中で性交されたと説明した。避妊具を装着したかどうかや射精の有無について確認すると、Aは、避妊具は装着せず、膣外に射精された旨答えた。
  (2) 10月24日夜の行動に関する被告人の公判供述
  これに対し、被告人は、10月24日夜の行動について、公判廷において、おおむね以下のとおり述べている。
  午後8時40分頃、Bと相談して、Bの母であるCからお金を借りようと思い、Bの携帯電話機及び自己の携帯電話機でC方に電話を掛けたところ、Bの兄のDに一方的に電話を切られたので、腹が立ったが、Cと直接会ってお金を借りるためにB及びAとともにC方に向かった。C方ではDと言い合いになったものの、最終的にCから1万円を借りることができた。その後、自宅に戻る途中で方向転換をしてIに寄り、Aをテレビゲームの太鼓の達人で遊ばせた後、スーパーのJで焼きそばを買って帰宅した。
 3 AのEに対する供述の信用性の検討
  (1) 他の証拠との整合性
  ア 客観的証拠から推認される10月24日の被告人とAの行動経過
  (ア) 携帯電話機の位置情報の履歴について
  関係証拠(甲12、弁3)によれば、被告人が本件当時使用していた携帯電話機には当該携帯電話機の位置情報を検索することができるアプリ(K)がインストールされ、同アプリに本件当時の被告人の携帯電話機の位置情報の履歴(以下「タイムライン履歴」という)が記録されていたことが明らかになっている。そして、被告人以外の人物がこの携帯電話機を使用していたことをうかがわせる証拠はないから、タイムライン履歴は被告人自身の行動経過を示す客観的証拠といえる。
  タイムライン履歴によると、10月24日午後5時35分から午後7時4分までの間に、L店、M店、J・N店にそれぞれ滞在した上で、●●●アパートに帰宅したこと、その後、午後9時3分まで●●●アパートに滞在し、午後9時15分から午後9時57分までC方(G市O町所在)の近くにある「P広場」(以下「P広場」という。)に、午後10時34分から午後10時55分までI店に、午後11時4分から午後11時17分までJ・Q店にそれぞれ滞在し、午後11時35分に●●●アパートに帰宅したことになっている。
  (イ) 被告人の携帯電話機の発着信記録
  被告人の携帯電話機の発着信履歴(甲11)によれば、10月24日午後8時43分に被告人の携帯電話機からC方の固定電話に発信し、5分27秒間通話した記録が残っているが、それ以降同日中は被告人の携帯電話機の発着信履歴(不在着信を含む)はない。
  (ウ) 生活日記の記載
  Aは、毎朝、中学校に登校した後に前日にあった出来事を担任教諭であるFに報告し、Fがこれを生活日記(甲30の別添資料6、弁4)と呼ばれる書面に記録していたものと認められるところ、10月24日の生活日記のメモ欄には、「〈1〉Iでたいこのたつじん、〈2〉M、〈3〉Q・J、わりばし、〈4〉R肉まん、〈5〉●●●のばあちゃん→でんわきられたのをおこりにいく、〈6〉LえいごのCD」との記載のほか、「11:00やきそば」などの記載がある。
  (エ) 上記の客観的証拠から推認できる行動経過
  10月24日にAが行ったと生活日記に記載されている場所は、その順序こそ異なっているものの、その大部分が被告人の携帯電話機のタイムライン履歴上の滞在先と一致していることからすると、実際に被告人がAを連れてこれらの場所を訪れたことが推認できる。
  この点、C方を訪れたことについてはタイムライン履歴に明確な記録がなく、その近く(直線距離にして約150m)にあるP広場に滞在したことを示す記録が残されているにとどまるが、生活日記にはC方を訪問したことがその理由と共に記載され、その内容は前記のとおり被告人が述べる理由ともおおむね合致し、その直前に被告人の携帯電話機からC方に電話が掛けられた記録も残されているのであるから、電話を切られたことをきっかけにC方を訪れたという生活日記の記載は、Aが創作したものではなく、実際に体験した出来事である可能性が高いといえる。加えて、P広場に滞在していたことを示すタイムライン履歴の画面表示(弁3の写真番号361)をより詳しく見ると、I店やJ・Q店に滞在したことを示すものとは異なる点が認められる。すなわち、上記の画面表示では位置情報の軌跡を示す青色の線は●●●アパート方面から来てC方の上で折れ曲がった後にI店方面に向かっており、P広場の上は通過しておらず、C方とP広場は青色の線ではなく灰色の線で結ばれている。しかも、P広場については「訪れた場所ですか?」と同所を実際に訪れたのか確認を求める表示がなされており、I店等に関する表示と異なり、P広場に滞在したことを断定的に示すものではない。こうした画面表示の相違からすると、弁護人が主張するとおり、携帯電話機のタイムライン履歴はC方の上に残されており、P広場に関する画面表示は、C方上の位置情報の記録を基にその付近にあり、名称や住所が登録されているP広場が滞在場所である可能性をアプリが推測して表示したにすぎないものと理解するのが合理的である。そうすると、被告人の携帯電話機のタイムライン履歴は、C方を訪れたという点を含めて生活日記の記載と整合するものといえる。
  このように被告人自身の行動の経過を示すタイムライン履歴、携帯電話機の通話履歴、Aの報告に基づいて作成される生活日記の記載が一致していることからすると、Aが被告人から性交されたと述べる10月24日夜の被告人とAの行動経過は、午後8時43分頃にC方に電話を掛けたが、その電話を切られたことをきっかけにして、午後9時頃に自宅を出てC方に行き、その後I店及びJ・Q店に行き、午後11時半頃に帰宅したというものと推認することができる。また、タイムライン履歴上の滞在地点間の移動時間について見ても、その行動経過に比して不自然に時間を要しているといえるような記録は残っていないため(甲22、23)、被告人とAが同日午後9時頃に自宅を出てから帰宅するまでの間にC方、I店及びJ・Q店以外の場所に滞在した可能性は乏しいといえる。
  イ 客観的証拠から推認できる行動経過と供述との整合性
  (ア) 被告人からIに行くように誘われたが、Iに行かずに停車した車内で性交されたとのAの供述は、外出のきっかけや外出後の滞在先の点などで、前記のとおり客観的証拠から推認される行動経過と全体として整合しない。しかも、10月24日の午後9時頃以降に被告人が滞在した場所は、C方と商業施設のみであることからすると、タイムライン履歴に多少の誤差がある可能性を踏まえても、前記のとおり推認される行動の間に、被告人が停車中の車内でAと性交し、射精に至るなどといった機会があったとは考えにくい。
  (イ) 他方、被告人が供述する10月24日夜の行動経過は、かなり具体的である上、タイムライン履歴や生活日記の内容から推認される行動経過とも合致している。確かに、Aだけではなく、Bも行動を共にしていたという点については客観的証拠による裏付けはないものの、行き先が妻の実家で、しかもその目的が妻の母親であるCに対する借金の申入れであったことからすると、妻のBも同行していたと考えるのがより自然である。そうすると、同日夜の行動経過に関する被告人の公判供述は、Bも同行していたという点も含め、信用性に疑問を抱くべき点は見当たらない。被告人が供述するようにBも同行していたとすると、同日午後9時頃から帰宅するまでの間に被告人がAと性交することはほぼ不可能であり、犯行の機会がなかったことになる。
  なお、Bは、検察官からの尋問の際に、10月24日の夜にお金を借りるためにC方に電話を掛けたところ、Dから一方的に電話を切られ、その後、被告人とAはどこかに出かけてしまったが、自分は外出しなかったなどと被告人の公判供述に反する内容の供述をしている。
  しかし、Bは、弁護人からの反対尋問において、いったんは、Bが児童相談所に一時保護される前日の夜に被告人とAの3人でIに行き、Aが太鼓の達人で遊んだ後にJで焼きそばを買ったと被告人の公判供述に沿う内容の供述をしていた。その後これを翻してそうした出来事があったのは10月22日であったかのように供述したものの、同日の被告人の携帯電話機のタイムライン履歴にはIとJを訪れたことを示す記録がなく、客観的証拠と整合しない。加えて、Bは、10月24日夜にDに電話を切られた後自分は外出しなかったという話の流れの中で、被告人が外出した後に何度か電話を掛けてどこにいるのか聞いたなどとも供述しているが、前記のとおり、10月24日には、午後8時43分にC方に発信して以降、被告人の携帯電話機には発着信履歴がない。こうした供述の変遷状況や客観的証拠との整合性の問題に加え、Bが知的障害を抱えていることを勘案すると、Bが他の日の出来事と区別して10月24日の出来事を供述することができているのか疑問が残るのであって、そのまま信用することはできない。
  したがって、Bの供述は10月24日の行動経過に関する被告人の供述の信用性に対する前記判断を左右するものではない。
  ウ 10月24日以外の性的被害に関する供述と客観的証拠との整合性
  Aは、Eに対する被害申告の際に、10月24日に限らず日常的に被告人から性的被害を受けていた旨述べているところ、同月23日に被告人とHに行った帰りに車の中で体を触られたと述べる点は、被告人の携帯電話機のタイムライン履歴によれば、同日にH及びその周辺に滞在した記録は存在しないこと(甲12、弁3)と整合しない。
  また、Aは、前記の被害申告の際に、中学校に進学した後(年月で言うと、平成29年4月以降)に被告人と一緒にS温泉の近くにあるホテル(ホテルT)に何回か行ったとも述べているが、同ホテルが利用者の車両ナンバーにより特定して記録している利用記録(弁8)によれば、被告人車両は、平成29年以降に同ホテルに来ていないことが認められるのであって、Aの供述は、このこととも整合しない。
  これらの点も、AのEに対する供述全体の信用性に疑問を抱かせる事情である。
  なお、検察官は、タイムライン履歴上は自宅にいたものとされている10月23日午後3時7分に被告人の携帯電話機に自宅の固定電話からの不在着信があることからすると、同日にHへの滞在記録がないのは被告人が自宅に携帯電話機を忘れて外出したことが原因である可能性があるから、Aの供述の信用性を否定する事情にはならないと主張している。
  しかし、被告人は、自動車を運転する際に運転免許証の携帯を忘れることがないように携帯電話機のケースの中に運転免許証を入れて持ち歩くことにしていたため、携帯電話機を自宅に置いたまま自動車で外出することは絶対にないと供述している上、上記の不在着信の際に誰がどのような目的で電話を掛けたのかは一切立証がなされていないことを踏まえても、被告人が携帯電話機を忘れて外出したために自宅からの不在着信が残された具体的な可能性があるとはいえない。この点に関する検察官の主張は採用できない。
  エ 小括
  以上のとおり、10月24日夜に被告人に性交されたとするAのEに対する供述は、その内容が客観的証拠から推認される被告人とAの行動経過と整合しないため、被告人がそのような犯行が可能であったか疑問が残るだけでなく、被告人の公判供述の方が客観的証拠と整合的であり、これによると、被告人には犯行の機会がなかった可能性が高い。10月24日以外の性的被害に関する供述にも、客観的証拠と整合しない点が見られることからすると、これらの点だけからしても、AのEに対する供述の信用性には重大な疑問があるといわざるを得ない。
  (2) 供述経過について
  ア Eの証言によれば、10月24日に性交されたとAが最初に申告した際の具体的状況は以下のとおりと認めれる。
  10月23日に被告人にわいせつ行為をされたという申告を受けた後に被害の日付を確認しようとして「最近触られたのは23日でいいんだよね。」とEが尋ねると、Aが「昨日もやられたよ。」と同月24日にも被告人から体を触られた旨申告した。それ以上の被害を受けていないか確認するため、Eの方から、Aに対して、被告人の男性器をAの女性器に挿入されていないか、ジェスチャーも交えながら確認したところ、Aが「まあね。」という言葉でこれを肯定した。Eが性交までされたか尋ねるまで、Aはジェスチャー等も含め、性交に該当するような表現をしていなかった(E証人尋問調書10頁、11頁、30頁)。
  イ Aは、当時中学1年生であったが、知的障害を抱えており、年齢相応の知的能力は備わっていないため、年少者同様に、大人からの誘導等を受けて事実と異なる供述をしてしまうおそれが比較的高かったといえるのであって、信用性判断に当たってはこのことを踏まえる必要がある。
  そこで、Aの供述経過を改めて見ると、Aは、わいせつ被害の点については自発的に申告したと評価し得る一方で、性交に該当する事実についてはEから尋ねられるまで一切申告しておらず、Eから尋ねられた際も曖昧な表現でこれを肯定したにすぎない。
  しかも、Aが最初に被害申告したのは10月23日のわいせつ行為であり、より深刻で直前の被害に当たる同月24日の出来事についてはEが被害の日付を改めて確認するまでわいせつ行為をされたことさえ述べていなかった。
  このようなAの供述経過は、性交の被害まで直ちに申告することについて躊躇する気持ちがあった可能性を考慮しても、容易に理解し難いものであり、少なくとも10月24日夜の性交については、Eの質問の仕方等に影響を受けて事実と異なる供述をした可能性を疑わざるを得ない。
  ウ また、その後の供述経過をみても、Aは、捜査段階で司法面接の手法を用いた検察官による取調べを2回受けているところ(甲33)、11月3日に実施された初回の取調べの際にEに対して被害申告した日付について尋ねられると、10月25日と正確に答えることができていたが、同月24日に被告人から性交されたことは否定し、同月17日以降に被告人から性交されたのは同月20日と23日だけである旨述べている。Aは当時13歳の児童で知的障害もあるため日付に関する記憶が定着しにくいという指摘(aa証言)を十分考慮しても、検察官による初回の取調べの時点ではEに被害申告をした日付については記憶が正確に保たれていたのに、申告の前日にあったはずの被害の日付については、単に答えが曖昧になったのではなく、当初の説明を否定し、10月23日だと明確に異なる供述をしているのは不自然といわざるを得ず、年齢や知的障害の影響だけでは合理的な説明が困難である。
  エ 以上によれば、AのEに対する供述には、供述経過の観点からも看過できない問題があるといえる。
  (3) まとめ
  以上のとおり、10月24日夜に被告人から性交されたと述べるAのEに対する供述は、客観的証拠との整合性等の観点からして重大な疑問がある上、供述経過にも看過できない問題があるから、その信用性を肯定することは困難といわざるを得ない。
  これに対し、検察官は、〈1〉Aの性器に慢性的な性的接触の痕跡があったとの産婦人科医の診断(甲5)は、以前から繰り返し被告人に性交されていたとのAの供述と整合していること、〈2〉被告人車両の運転席座面部から被告人の精液が検出されていることは、自動車の中で性交されたというAの供述と整合していること、〈3〉Aの供述が被告人から性交される被害を受けたという根幹部分では一貫していること、〈4〉Aに虚偽供述の動機がないことなどを根拠として、Aの供述が信用できると主張する。
  しかし、〈1〉の点については、そもそもAの性器に見られた慢性的な性的接触の痕跡は、性交によるものと断定することはできない上、証拠(甲15ないし17、Aの供述等)によれば、被告人以外の複数の男性がAと性的接触を持っていたことが認められるのであって、性器にみられる性的接触の痕跡が、被告人以外の男性によるものである可能性を排斥することはできない。
  〈2〉の点についても、被告人は、自動車の運転席に座って成人向けDVDを見ながら自慰行為をしたことが複数回あると供述しており、現に車内から成人向けDVDが発見されていることからすると、そうした経緯で精液が付着した可能性も否定できないのであって、Aの供述の裏付けとしての価値はごく限られている。
  〈3〉、〈4〉の点については、供述が根幹部分で一貫しており、虚偽供述の具体的な動機が見当たらなかったとしても、それだけでは、客観的証拠との整合性や供述経過に大きな問題を含んだ供述の信用性を肯定する根拠としては不十分である。
  したがって、この点に関する検察官の主張は採用できない。
第4 結語
  以上のとおり、検察官の主張を十分踏まえて検討しても、10月24日夜に被告人から性交されたというAのEに対する供述を信用することは困難であり、それに基づき本件公訴事実を認定することはできない。また、その他の証拠を検討しても、同月23日から同月25日までの間に、被告人がAと性交したことを認めるに足りる証拠は見当たらない。
  したがって、本件公訴事実については、合理的な疑いを超えた証明がなされたとはいえず、犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条により、被告人に対して無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役8年)
 (裁判長裁判官 須田雄一 裁判官 佐藤傑 裁判官 米満祥人)

「教諭、わいせつ行為」女児が賠償提訴へ 「PTSDで不登校に」 /千葉県 訴額1000万円

 刑事事件になる前に民事訴訟をするようです。

「教諭、わいせつ行為」女児が賠償提訴へ 「PTSDで不登校に」 /千葉県
2019.01.23 朝日新聞
 自身が通う小学校の30代の男性教諭から胸などを触るわいせつ行為を受け続け、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患って通学できなくなったとして、県内の公立小6年の女児と両親が、男性教諭と同校のある自治体と県を相手取り、計約1千万円の慰謝料や損害賠償を求めて今月中にも提訴することがわかった。

 女児と両親の代理人弁護士によると、女児は2017年9月ごろから、校内で男性教諭に脇やあごをくすぐられるようになった。昨年2月には1人で女子トイレを掃除中、男性教諭に複数回にわたって服の中に手を入れられ、胸をさわられたと訴えている。このころ、女児は両親を通じて学校や地元の警察署に被害を申告し、署は被害届を受理した。

 女児は昨年4月にPTSDと診断され、同6月には自治体の教育委員会が同校の校長と男性教諭を口頭で厳重注意した。
 女児と両親は同校や自治体教委が十分な対応をせず、通学できない期間が長期化したのは、教委や学校側の監督義務違反や調査義務違反などがあったためと訴えている。

 男性教諭は被害発覚後も同校に勤務していたが、昨年7月に教委へ異動した。教委の聞き取りに対し、女児のあごや肩を触ったり、脇をくすぐったりしたことは認めたが、胸を触ったことは否定しているという。

 女児の父親(56)と母親(47)は取材に「(娘は)活発な子だったのに、明るさがなくなった。学校も大好きだったのに通えていない。守ってくれるはずの学校がろくに対応してくれず、強い怒りを覚える」と話した。

 (松本江里加)

23歳による強制わいせつ行為について、行為者に198万円の損害賠償責任を認め、同居する父親の責任を否定した事例(東京地裁h29.6.1)

 行為者が刑務所にいると、判決取っても回収できないので、親も被告に加えたんでしょうが、親には責任がないということに。
 刑事事件は、被害弁償しなくても、執行猶予になっているようです。
 被害者は、強制わいせつの被害に加えて、弁護士費用・訴訟費用が持ち出しになってしまいますよね。

裁判年月日 平成29年 6月 1日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)16885号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2017WLJPCA06018003

判例アラート
ブックマーク

 
東京都江東区〈以下省略〉 
原告 
X 
法定代理人親権者 
A 
B 
同訴訟代理人弁護士 
三苫大介 
埼玉県川越市〈以下省略〉川越少年刑務所収容中 
被告 
Y1 
東京都江戸川区〈以下省略〉 
被告 
Y2 
上記両名訴訟代理人弁護士 
棚田章弘 
主文
 1 被告Y1は,原告に対し,198万円及びこれに対する平成25年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用のうち,原告と被告Y1との間に生じたものは,これを2分し,その1を原告の,その余を被告Y1の負担とし,原告と被告Y2との間に生じたものは,原告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 被告らは,原告に対し,連帯して,385万円及びこれに対する平成25年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,被告Y1(以下「被告Y1」という。)が原告にわいせつ行為をしたことについて,原告が,被告Y1及びその父である被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し,それぞれ,不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
 1 争いのない事実
  (1) 被告Y1(当時23歳)は,平成25年6月3日午後6時20分頃,東京都江東区〈以下省略〉所在のアパート(以下「本件アパート」という。)の1階の原告(当時9歳)が居住する居室に侵入し,その頃から同日午後6時25分頃までの間,同所において,原告の口を塞ぎ,「静かにしてな。」などと言い,原告に接吻をし,さらに,原告の着衣の中に左手を差し入れ,原告の陰部を弄ぶなどした(以下,このわいせつ行為を「本件わいせつ行為」という。)。
  (2) 被告Y2は,被告Y1の父であり,本件わいせつ行為の当時,本件アパートの3階の居室において,被告Y1と同居していた。
  (3) 被告Y1は,本件わいせつ行為の前に,わいせつ行為を行い(以下,このわいせつ行為を「別件わいせつ行為」という。),強制わいせつ等の罪で起訴され,平成25年3月8日,執行猶予付きの懲役刑の判決を受けた。
 被告Y1の母は,上記事件の証人尋問(以下「別件証人尋問」という。)において,証人として,被告Y2と共に被告Y1と同居して被告Y1を監督する旨証言した。
  (4) 被告Y1は,本件わいせつ行為の当時も,別件わいせつ行為の当時も,無職であった。
 2 争点
  (1) 被告Y2の不法行為責任
 (原告の主張)
 被告Y2が被告Y1を監督する意思がないのであれば,被告Y1の母が別件証人尋問において被告Y2と共に被告Y1と同居して被告Y1を監督する旨証言するはずはないから,被告Y2は,上記証言時に,被告Y1を監督する旨誓約したものである。また,被告Y1が別件わいせつ行為を行ったことから,被告Y2は,被告Y1が安易にわいせつ行為に及ぶ傾向があることを知っていた。そして,被告Y2は,実際に被告Y1と同居していたのであるから,被告Y1がわいせつ行為に及ばないよう監督すべき義務があった。
 被告Y2は,上記義務に違反し,本件わいせつ行為による損害を生じさせたから,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。
 (被告Y2の主張)
 被告Y2は,被告Y1を監督する旨誓約していないし,被告Y1の監督義務を負わないから,民法709条に基づく損害賠償責任を負うことはない。
  (2) 原告の損害
 (原告の主張)
   ア 慰謝料 350万円
 原告は,安全な場所であるはずの自宅において本件わいせつ行為の被害に遭い,相当の恐怖,ショックを覚えた。原告は,その後も男性を見るだけで極度に恐れ,学校も休みがちであるなど,本件わいせつ行為によるショックを拭いきれていない。このような原告の精神的損害を慰謝するには,350万円は下らない。
   イ 弁護士費用 35万円
 (被告らの主張)
 慰謝料の額は争う。その余は知らない。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(被告Y2の不法行為責任)について
 前記第2の1の事実関係に加え,証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1が,本件わいせつ行為の前に別件わいせつ行為を行ったこと,被告Y1の母が,別件証人尋問において,被告Y2と共に被告Y1と同居して被告Y1を監督する旨証言したこと,被告Y2も,その頃,別件わいせつ行為を踏まえ,被告Y1と同居して被告Y1を監督しなければならないと考え,その後,被告Y1と同居していたこと,被告Y1が本件わいせつ行為の当時も別件わいせつ行為の当時も無職であったことが認められる。
 しかし,以上のような事情をもって,本件わいせつ行為の当時,被告Y2に被告Y1を監督すべき不法行為法上の義務があったということはできず,他にこれを左右する事情もうかがわれない。したがって,本件わいせつ行為によって生じた損害について,被告Y2に民法709条に基づく損害賠償責任を認めることはできない。
 2 争点(2)(原告の損害)について
  (1) 本件わいせつ行為の態様等に照らせば,原告が相当の精神的苦痛を受けたことは明らかである。このほか,本件に現れた一切の事情を勘案すれば,原告の慰謝料としては180万円の支払を命ずるのが相当である。
  (2) 本件事案の内容等に照らすと,弁護士費用について,本件わいせつ行為と相当因果関係のあるものとしては,18万円の損害を認めるのが相当である。
 3 結論
 よって,原告の請求は,被告Y1に対して198万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその範囲で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第16部
 (裁判官 安江一平)

兵庫県青少年愛護条例違反の無罪判決(神戸地裁尼崎支部h29.8.23)

 地検尼崎支部は「東京じゃないか」、東京地検は「尼崎だ」というのですが、金井検事と地裁尼崎支部に特定事項を聞いて、判決書を閲覧しました。
 真剣交際の弁解が通ったのは、愛知県青少年保護育成条例の無罪判決(名古屋簡裁H19.5.23)に続いて2件目かな。

捜査研究No.816 (2018.11.5)
【実例捜査セミナー】. □青少年保護育成条例違反事件について,みだらな性行為(淫行)の該当性が問題となった事例. 東京地方検察庁検事 金井 翔.
https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/201811/

 検察官は、日時場所をピンポイントに特定して、そこでsexしたのだから、専ら性的欲望だったと主張していた模様で、被告人・弁護人はそれに至る交際状況を主張・立証した模様です。

 検察官は「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような」事情として
   避妊具を付けることも無く性行為に及んだ点
  被告人と相手方との交際関係は結婚を前提としていなかったこと
  カラオケ店で性行為に及んだこと
などを指摘したようですが、判決で退けられています。
 捜査段階の被疑者調書では完全に自白していたようで、捜査段階で弁護人からこういう点について要領良く主張できれば、起訴されていなかったと思います。

金井翔 青少年保護育成条例違反事件について,みだらな性行為(淫行)の該当性が問題となった事例 捜査研究816号 p31
第2 事案の概要等
1 A及びVの身上関係等
Aは,本件当時38歳の男性であった。
Aに婚姻歴はなく,本件当時, V以外に交際している女性はいなかった。
Vは,本件当時17歳の女性であり,高校3年生であったが,約2か月後が18歳の誕生日であった。
Vは,本件以前にも男性と交際した経験はあったが,本件当時, A以外に交際している男性はいなかった。
2 A及びVが交際に至る経緯及び交際開始後の状況等A及びVは,本件性行為に及んだ当時,交際関係にあったところ,両名が交際に至った経緯及び交際開始後の状況等は以下のとおりである。
(1) Aは,平成27年5月頃から,警備員として働き始め,その勤務先でアルバイトをしていたVと知り合った。
Aは, Vと知り合って以降休憩時間等にVと話をするようになり, Vからは家庭内の事情や進学先等について相談を受けるなどしていた。
(2) Aは,平成28年5月末日に前記勤務先を退職することとなり,その旨をVに伝えていた。
Aは, 同日,仕事を終えると, Aの仕事が終わるのを待っていたVと合流し, 2人で飲食するなどしたが,その際Vから手紙とクッキーを渡され, さらに, Vと連絡先を交換した。
VがAに渡した手紙には, これまで相談に乗ってもらったことへの謝辞のほか, 「(Aのことが)大好きです。」などと書かれていた。
(3) Aは,連絡先を交換して以降, Vとの間で連絡を取り合っていたが, 同年6月上旬,再びVと2人で会うことになった。
Aは, 同日, Vと合流すると, インターネットカフェに入店し,その個室内でVに抱き付くなどした。
Aは, Vと同インターネットカフェを出たが, Vから「セフレ(セックスフレンド)の関係になりたくない。」などと言われたため,それだったら付き合おうなどと述べて交際を申し込み, vがこれを承諾したため,両名は交際することとなった。
④Aは, Vとの交際開始後,週2, 3回の頻度でVと会い, 同年6月下旬ないし同年7月上旬頃, ラブホテルにおいて初めて性行為に及び,以降,何度かVと性行為に及んだ。
Aは, Vとの交際開始後, Vを介して, Vの交際相手としてVの姉やVの友人に紹介されたことがあった。
他方で, Aは, Vといる際にVの実母と何度か会う機会があったが, 同人に挨拶をすることはなかった。
3 本件性行為時の状況等A及びVは,前記の経緯で交際を開始し,その後,本件性行為に及んだものであるが,その状況等は以下のとおりである。
(1) Aは,平成28年9月中旬, Vと会うと,一緒にカラオケ店に入店した。
A及びVは,前記カラオケ店の個室内でカラオケをしていたが, Aは,しばらくして, Vの胸を触るなどした上, Vと性交し,本件性行為に及んだ。
(2) 前記カラオケ店の店員は店内の巡回を行っていたところ, A及びVの個室内の歌詞等を表示するモニター画面の電源が切れていたことから不審に思い,個室内に立ち入った。
すると,前記店員は, Vが上半身裸の状態で座っている状況を認めたため,警察に通報した。
(3) Aは,本件発覚後もVとの交際を継続しており, Vの18歳の誕生日も2人で過ごすなどしたが,交際開始から約6か月後の同年12月頃, Vから交際解消を申し込まれたため, Vとの交際を解消した。

自画撮り要求行為の熊本県少年保護育成条例について、検事正から、「少年の年齢を知らないことを理由として」, 「処罰を免れることができない。」旨の規定を適用することは問題だという意見がでています。

 
 結局 国法の製造罪が故意犯なのに、その未遂・予備が過失でも処罰されるという条例になっています。

平成30年10月1 1日
熊本地方検察庁検事正様
熊本県知事
熊本県少年保護育成条例の一部改正に伴う意見について~ (協議)
日頃から、県政の推進について格別の御理解と御支援を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、本県では、熊本県少年保護育成条例において、少年に自画撮り画像を要求する行為の禁止規定を罰則付きで新設する予定でおり、今般この規定内容を明確にするため、条文を改める作業を進めております。
つきましては、当該条例の改正案に対する貴職の御意見を賜りたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。

熊本地検企第88号
平成30年11月5日
熊本県知事殿
熊本地方検察庁検事正
罰則のある条例の一部改正に伴う事前協議について(回答)
平成30年10月11日付けく安第268号をもって協議依頼のあった熊本県
年保護育成条例の一部改正案について,その内容の検討結果を下記のとおり回答します。

1 結論
本条例改正案は,以下の点を除き問題ない。
2 問題点
条例案第21条第6項は,少年に自分の裸体をスマートフオン等で撮影させ,その画像をメール等で送るよう要求する行為(以下, 「自画撮り要求行為」という。)について, 「少年の年齢を知らないことを理由として」, 「処罰を免れることができない。」旨の規定であるが
(1) 自画撮り要求行為については,相手が少年であることを認識できない場合も多いと考えられ,そのような場合にまで処罰をすることは過剰である
(2) 自画撮り要求行為がなされ,相手側が自己の裸体等の画像を送信した場合には,児童ポルノの製造又は単純所持として処罰されることとなるが,児童ポルノの製造については,児童の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない旨の規定が適用されるものの,児童ポルノの単純所持については,同規定は適用されておらず,児童ポルノの単純所持の前段階である自画撮り要求行為について,本規定を適用することは相当ではない
と思料される。

「包丁で脅され監禁された実際の被害に性犯罪の被害者というストーリーを加え、警察を動かした疑いがないと断定できない」として強制わいせつ罪を無罪にした事例(久留米支部h31.1.17)

 虚偽申告というのもあるようです。

強制わいせつ:被告に無罪 監禁罪などは実刑 地裁久留米判決 /福岡
2019.01.19 地方版/福岡 23頁 (全333字) 
 交際中の女性に対する監禁や強制わいせつなどの罪に問われた被告に対し、地裁久留米支部(西崎健児裁判官)は17日、監禁と覚せい剤取締法違反の罪は懲役3年(求刑・懲役5年)とし、強制わいせつ罪については「被害者の供述以外に証拠がなく、供述の信用性が高いとも言えない」として無罪とした。
 判決によると、被告は2017年7月5日夜、女性を乗用車に乗せ、包丁を突きつけて「男がおるやろ、名前を言え」などと脅し、女性が筑後市内で逃げ出すまでの約4時間、車内やホテルなどに監禁した。西崎裁判官は「包丁で脅され監禁された実際の被害に性犯罪の被害者というストーリーを加え、警察を動かした疑いがないと断定できない」とした。
筑後版〕
毎日新聞社

大法廷H29.11.29の評釈20個

 奥村のは議論の焚き付けみたいなもんですから、踏みつけて乗り越えていって下さい。

裁判年月日 平成29年11月29日 裁判所名 最高裁大法廷 裁判区分 判決

事件番号 平28(あ)1731号

事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件

裁判結果 上告棄却 文献番号 2017WLJPCA11299001
要旨
〔判示事項〕
◆強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
〔裁判要旨〕
◆刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが、行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではないとされた事例

判例タイムズ社(要旨)】
◆強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否

裁判経過
控訴審 平成28年10月27日 大阪高裁 判決 平28(う)493号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件

第一審 平成28年 3月18日 神戸地裁 判決 平27(わ)1051号・平27(わ)1177号・平27(わ)1264号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件

出典
裁時 1688号1頁
裁判所ウェブサイト
判タ 1452号57頁 
判時 2383号115頁

評釈
馬渡香津子・ジュリ 1517号78頁 
木村光江・ジュリ臨増 1518号156頁(平29重判解) 
高橋則夫・論究ジュリ 25号113頁 
佐藤拓磨・判時 2366号143頁
小林憲太郎・判時 2366号138頁
奥村徹・判時 2366号131頁
前田雅英・WLJ判例コラム 122号(2017WLJCC030)  
日和田哲史・上智法学論集 62巻1・2号177頁
園田寿・法セ増(新判例解説Watch) 23号167頁
石飛勝幸・警察公論 73巻8号88頁
塩見淳・刑事法ジャーナル 56号33頁
松宮孝明・季刊刑事弁護 94号74頁
曲田統・法教 450号51頁 
松木俊明=奥村徹園田寿・法セ 758号48頁
豊田兼彦・法セ 757号123頁
前田雅英・捜査研究 804号2頁
成瀬幸典・法教 449号129頁 
小棚木公貴・北大法学論集 69巻3号184頁
谷脇真渡・桐蔭法学 25巻1号75頁
江藤隆之・桃山法学 29号139頁

参照条文
刑法176条(平29法72改正前) ⇒ この法令を参照する判例

裁判官
寺田逸郎、 岡部喜代子、 小貫芳信、 鬼丸かおる、 木内道祥、 山本庸幸、 山崎敏充、 池上政幸、 大谷直人、 小池裕、 木澤克之、 菅野博之山口厚、 戸倉三郎、 林景一

引用判例
昭和45年 1月29日 最高裁第一小法廷 判決 昭43(あ)95号 強制わいせつ被告事件

関連判例
昭和45年 1月29日 最高裁第一小法廷 判決 昭43(あ)95号 強制わいせつ被告事件

昭和36年 5月 2日 名古屋高裁金沢支部 判決 昭35(う)304号 強制猥褻致傷事件

児童にライブで裸画像を送信させた行為について、録画した者を児童ポルノ製造罪の単独正犯、録画しなかった者を公然わいせつの教唆として検挙した事例(埼玉県警)

 オッサンに頼まれた児童が自由意思で裸画像を送信した場合には、児童が公然わいせつの正犯となって、頼んだ方が教唆犯になります。録画も承諾していた場合には、児童は、4項製造罪の共同正犯になります。児童を正犯にするという構成は被害児童を処罰することになるのであまりはやりません。
 製造被疑者の弁護人としては児童の正犯性を強調することになります。本件の場合は、警察も公然わいせつ罪では正犯になるという見解なので、説得的です。
 公然わいせつ構成よりも、青少年条例のわいせつ行為を取った方が、被害者性を強調できて、法定刑が重くなります。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/shutoken/20190117/1000024069.html
女子中学生に裸動画配信させたか
01月17日 11時43分
インターネットでリアルタイムで動画を配信できるサービスを利用していた女子中学生に服を脱ぐよう要求し裸の動画を配信させたなどとして、埼玉県警察本部は43歳の男を児童ポルノ禁止法違反などの疑いで逮捕しました。
逮捕されたのは、容疑者(43)です。
捜査関係者によりますと、容疑者は去年5月、インターネットでリアルタイムで動画を配信できるサービスを利用していた女子中学生に服を脱ぐよう要求し裸の動画を配信させたうえ、自分のパソコンに保存したとして、児童ポルノ禁止法違反などの疑いが持たれています。
調べに対し、容疑を認めているということです。このサービスはスマートフォンなどで撮影した動画をリアルタイムで配信し、視聴していた人からメッセージをもらうことができる仕組みで、若者を中心に人気が高まっているということです。
警察がサイバーパトロールで女子中学生の動画を見つけ、通信記録の解析などから容疑者が服を脱ぐよう要求するメッセージを送った疑いがあることがわかったということです。
また、警察は、容疑者と同じように女子中学生に服を脱ぐよう要求したとして、49歳と55歳の男2人も公然わいせつ教唆の疑いで書類送検しました。