行為者が刑務所にいると、判決取っても回収できないので、親も被告に加えたんでしょうが、親には責任がないということに。
刑事事件は、被害弁償しなくても、執行猶予になっているようです。
被害者は、強制わいせつの被害に加えて、弁護士費用・訴訟費用が持ち出しになってしまいますよね。
裁判年月日 平成29年 6月 1日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)16885号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2017WLJPCA06018003
判例アラート
ブックマーク
東京都江東区〈以下省略〉
原告
X
同法定代理人親権者
A
B
同訴訟代理人弁護士
三苫大介
埼玉県川越市〈以下省略〉川越少年刑務所収容中
被告
Y1
東京都江戸川区〈以下省略〉
被告
Y2
上記両名訴訟代理人弁護士
棚田章弘
主文
1 被告Y1は,原告に対し,198万円及びこれに対する平成25年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用のうち,原告と被告Y1との間に生じたものは,これを2分し,その1を原告の,その余を被告Y1の負担とし,原告と被告Y2との間に生じたものは,原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して,385万円及びこれに対する平成25年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告Y1(以下「被告Y1」という。)が原告にわいせつ行為をしたことについて,原告が,被告Y1及びその父である被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し,それぞれ,不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実
(1) 被告Y1(当時23歳)は,平成25年6月3日午後6時20分頃,東京都江東区〈以下省略〉所在のアパート(以下「本件アパート」という。)の1階の原告(当時9歳)が居住する居室に侵入し,その頃から同日午後6時25分頃までの間,同所において,原告の口を塞ぎ,「静かにしてな。」などと言い,原告に接吻をし,さらに,原告の着衣の中に左手を差し入れ,原告の陰部を弄ぶなどした(以下,このわいせつ行為を「本件わいせつ行為」という。)。
(2) 被告Y2は,被告Y1の父であり,本件わいせつ行為の当時,本件アパートの3階の居室において,被告Y1と同居していた。
(3) 被告Y1は,本件わいせつ行為の前に,わいせつ行為を行い(以下,このわいせつ行為を「別件わいせつ行為」という。),強制わいせつ等の罪で起訴され,平成25年3月8日,執行猶予付きの懲役刑の判決を受けた。
被告Y1の母は,上記事件の証人尋問(以下「別件証人尋問」という。)において,証人として,被告Y2と共に被告Y1と同居して被告Y1を監督する旨証言した。
(4) 被告Y1は,本件わいせつ行為の当時も,別件わいせつ行為の当時も,無職であった。
2 争点
(1) 被告Y2の不法行為責任
(原告の主張)
被告Y2が被告Y1を監督する意思がないのであれば,被告Y1の母が別件証人尋問において被告Y2と共に被告Y1と同居して被告Y1を監督する旨証言するはずはないから,被告Y2は,上記証言時に,被告Y1を監督する旨誓約したものである。また,被告Y1が別件わいせつ行為を行ったことから,被告Y2は,被告Y1が安易にわいせつ行為に及ぶ傾向があることを知っていた。そして,被告Y2は,実際に被告Y1と同居していたのであるから,被告Y1がわいせつ行為に及ばないよう監督すべき義務があった。
被告Y2は,上記義務に違反し,本件わいせつ行為による損害を生じさせたから,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。
(被告Y2の主張)
被告Y2は,被告Y1を監督する旨誓約していないし,被告Y1の監督義務を負わないから,民法709条に基づく損害賠償責任を負うことはない。
(2) 原告の損害
(原告の主張)
ア 慰謝料 350万円
原告は,安全な場所であるはずの自宅において本件わいせつ行為の被害に遭い,相当の恐怖,ショックを覚えた。原告は,その後も男性を見るだけで極度に恐れ,学校も休みがちであるなど,本件わいせつ行為によるショックを拭いきれていない。このような原告の精神的損害を慰謝するには,350万円は下らない。
イ 弁護士費用 35万円
(被告らの主張)
慰謝料の額は争う。その余は知らない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告Y2の不法行為責任)について
前記第2の1の事実関係に加え,証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1が,本件わいせつ行為の前に別件わいせつ行為を行ったこと,被告Y1の母が,別件証人尋問において,被告Y2と共に被告Y1と同居して被告Y1を監督する旨証言したこと,被告Y2も,その頃,別件わいせつ行為を踏まえ,被告Y1と同居して被告Y1を監督しなければならないと考え,その後,被告Y1と同居していたこと,被告Y1が本件わいせつ行為の当時も別件わいせつ行為の当時も無職であったことが認められる。
しかし,以上のような事情をもって,本件わいせつ行為の当時,被告Y2に被告Y1を監督すべき不法行為法上の義務があったということはできず,他にこれを左右する事情もうかがわれない。したがって,本件わいせつ行為によって生じた損害について,被告Y2に民法709条に基づく損害賠償責任を認めることはできない。
2 争点(2)(原告の損害)について
(1) 本件わいせつ行為の態様等に照らせば,原告が相当の精神的苦痛を受けたことは明らかである。このほか,本件に現れた一切の事情を勘案すれば,原告の慰謝料としては180万円の支払を命ずるのが相当である。
(2) 本件事案の内容等に照らすと,弁護士費用について,本件わいせつ行為と相当因果関係のあるものとしては,18万円の損害を認めるのが相当である。
3 結論
よって,原告の請求は,被告Y1に対して198万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその範囲で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第16部
(裁判官 安江一平)