映像送信要求と不同意わいせつ罪と性的姿態撮影罪と児童ポルノ製造罪は観念的競合(高松高裁r7.2.13)
「原判示第1の不同意わいせつ罪における実行行為に当たる、Aに対し陰茎を露出した姿態をとってその写真を撮影して送信することを要求した被告人の行為と、16歳未満の者に対する映像送信要求罪の実行行為に当たる要求行為は、同時に行われ、重なり合うものであり、それぞれにおける被告人の動態は社会的見解上1個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁、最高裁平成19年(あ)第619号同21年10月21日第一小法廷決定・刑集63巻8号1070頁参照)、原判示第1の16歳未満の者に対する映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪及びこれと観念的競合の関係にある他の2罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである」ということで、要求行為がわいせつ行為だということです。
じゃあ、要求時点で、不同意わいせつ(176条3項)が既遂になるから、映像送信要求罪は要らないよね、
《書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25622376
【文献種別】 判決/松山地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 令和 6年 9月24日
【事件名】 不同意わいせつ、16歳未満の者に対する映像送信要求、性的姿態等撮影、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、不同意性交等被告事件
(罪となるべき事実)
被告人は、A(当時14歳。氏名は別紙記載のとおり。)が16歳未満の者であり、かつ、自らが前記Aの生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることを知りながら
第1 正当な理由がないのに、令和5年10月24日午後7時34分頃から同日午後7時41分頃までの間、愛媛県四国中央市α××番地の×被告人方において、前記Aに対し、自己が使用する携帯電話機のアプリケーションソフト「LINE」のメッセージ機能を利用し、「あそこの見せあいってできます?」「写真ですねー」などと記載したメッセージを送信し、その頃、同人にこれらを閲覧させ、もって性的な部位を露出した姿態をとってその映像を送信することを要求し、同日午後10時24分頃、同人に、その陰茎を露出した姿態をとらせ、これを同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、同日午後10時27分頃、その画像データ1点を同携帯電話機から前記「LINE」を利用して被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、同画像データ1点をb株式会社が管理する日本国内に設置されたサーバコンピュータ内に記録、保存させ、もって16歳未満の者に対し、わいせつな行為をし、13歳以上16歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影する行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為 不同意わいせつの点 刑法176条3項、1項(令和5年法律第66号附則3条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
16歳未満の者に対する映像送信要求の点 刑法182条3項2号(令和5年法律第66号附則3条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
性的姿態等撮影の点 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号(1号イ)(同法附則2条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項(2条3項3号)
判示第2の所為 刑法177条3項、1項(令和5年法律第66号附則3条前段により「有期拘禁刑」を「有期懲役」とする。)
判示第3の所為 性的姿態等撮影の点 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号(1号ロ)(同法附則2条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項(2条3項1号、2号)
科刑上一罪の処理
判示第1 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから、1罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断)
判示第3 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、1罪として犯情の重い児童ポルノ製造罪の刑で処断)
《書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25622377
【文献種別】 判決/高松高等裁判所(控訴審)
【裁判年月日】 令和 7年 2月13日
【事件番号】 令和6年(う)第126号
【事件名】 不同意わいせつ、16歳未満の者に対する映像送信要求、性的姿態等撮影、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、不同意性交等被告事件
【審級関係】 第一審 25622376
松山地方裁判所 令和6年(わ)第20号
令和 6年 9月24日 判決
第1 事案の概要及び本件控訴の趣意について(以下、略称は原判決の表記に従う。)
原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人は、Aが16歳未満の者であり、かつ、自らがAの生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることを知りながら、(1)令和5年10月24日、Aに対し、携帯電話機のアプリケーションを利用し、陰茎を露出した姿態をとってその写真を撮影して送信することを要求するメッセージを送り、Aに、陰茎を露出した姿態をとらせ、これを撮影させて、その画像データを被告人の使用する携帯電話機に送信させ、もって16歳未満の者に対しわいせつな行為をし、13歳以上16歳未満の者を対象としてその性的姿態等を撮影する行為をするとともに、児童ポルノを製造し(原判示第1)、(2)同月29日、松山市内のホテルにおいて、Aに対し口腔性交及び肛門性交をするなどし(原判示第2)、(3)原判示第2の日時場所において、Aに、被告人がAの性器等を触る姿態、被告人と口腔性交及び肛門性交する姿態等をとらせ、これらの姿態等を動画撮影してデータをSDカードに記録させて保存し、13歳以上16歳未満の者を対象としてその性的姿態等を撮影する行為をするとともに、児童ポルノを製造した(原判示第3)、というものである。
本件控訴の趣意は、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
第2 訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は、原判示第1の不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪及び児童ポルノ製造罪と16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、併合罪の関係にあるにもかかわらず、検察官は16歳未満の者に対する映像送信要求罪についても1個の公訴事実として起訴したのであるから、原審裁判所としては訴因の特定を欠くものとして公訴棄却の判決をすべきであるのに、これを看過した原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるというのである。
しかしながら、原判示第1の各罪について公訴を提起した令和6年2月15日付け起訴状記載の公訴事実第1は、前記各罪を構成する犯罪行為についてその犯行日時を明確にして他の犯罪事実と識別し得る程度に特定しており、訴因の特定を欠くものとはいえない。
訴訟手続の法令違反に関する論旨は理由がない。
第3 法令適用の誤りの主張について
1 原判示第1の事実について
論旨は、原判示第1の所為のうち、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、その他の不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪及び児童ポルノ製造罪と併合罪の関係にあるにもかかわらず、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、仮に併合罪関係にはないとしても、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、不同意わいせつを目的にその手段として行われたものであり、不同意わいせつ罪と牽連犯の関係にあるから、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
そこで検討すると、原判示第1の不同意わいせつ罪は、当時30歳の被告人が、SNS上に性交相手を募集する内容の投稿をしていた当時14歳のAに対し、ダイレクトメッセージを送って自らがその相手となることを持ち掛けて待合せ場所を決めるなどした後、Aの陰茎を露出して写真を撮影してその画像を被告人に送ることを要求するメッセージを送信し、Aにこれを了承させ、その約3時間後に、Aに陰茎を露出させてそれを撮影させ、画像データを被告人に送信させたことにより行われたものである。このように原判示第1は、刑法176条3項のわいせつな行為としてAの行為を利用したものであるが、被告人は、前記のような状況にあったAに対し、自らの勃起した陰茎の写真を送るなどしながらAにも勃起した陰茎の写真を撮影して送信するよう求めるなどの性的意味合いの強い具体的な要求をし、すぐさまAに了承させ、Aに要求どおりの行為をさせており、このような事実関係の下において、本件の被告人のAに対する要求行為は、Aの性的自由の侵害を生じさせる客観的な危険性が認められるものであり、不同意わいせつ罪の実行行為に当たるとみることができる。
そうすると、原判示第1の不同意わいせつ罪における実行行為に当たる、Aに対し陰茎を露出した姿態をとってその写真を撮影して送信することを要求した被告人の行為と、16歳未満の者に対する映像送信要求罪の実行行為に当たる要求行為は、同時に行われ、重なり合うものであり、それぞれにおける被告人の動態は社会的見解上1個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁、最高裁平成19年(あ)第619号同21年10月21日第一小法廷決定・刑集63巻8号1070頁参照)、原判示第1の16歳未満の者に対する映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪及びこれと観念的競合の関係にある他の2罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである。原判決第1の事実について法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。
2 原判示第2及び第3の事実について
論旨は,原判示第2の所為(不同意性交等)と原判示第3の所為(性的姿態等撮影及び児童ポルノ製造)は、Aに性交する姿態をとらせ、それを動画で撮影してデータを保存するという1個の社会的事象といえる行為であり、観念的競合の関係にあるから、これらを併合罪の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
しかしながら、原判示第2の所為と原判示第3の所為とは、通常伴う関係にあるとはいえないことや、両所為の性質等にかんがみると、それぞれにおける被告人の動態は社会的見解上別個のものといえるから、刑法54条1前段の観念的競合の関係にはなく、同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。この点に関する論旨は理由がない。
3 小括
したがって、法令適用の誤りに関する論旨は、いずれも理由がない。
追記 2025年8月22日
高裁判決のいう「被告人は、前記のような状況にあったAに対し、自らの勃起した陰茎の写真を送るなどしながらAにも勃起した陰茎の写真を撮影して送信するよう求めるなどの性的意味合いの強い具体的な要求をし、すぐさまAに了承させ、Aに要求どおりの行為をさせており、」という行為は原判決にも起訴状にも出てこない訴因外事実です。
被告人から陰茎画像を送ったという露骨かつわいせつ画像頒布(175条)の可能性がある行為を、訴因外から持って来ないと、本件の要求行為のわいせつ性を説明できないということは、原判決の罪となるべき事実だけでは要求行為にわいせつ性(不同意わいせつ罪(176条3項)の実行の着手)を認められないということでしょう。