児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「ホテルの女性従業員の「指」をなめて逮捕…「強制わいせつ」にあたるの?」という取材には、「強制わいせつ罪にならないんだから取材自体失当じゃないかと対応したんだがそれを説明してくれというので記事になりました・・。不起訴

https://www.bengo4.com/c_1009/n_6416/
 奥村がここ15年集めている強制わいせつ事件の裁判例に「手指を舐める」というのはありません。これは実務家の常識。
 「わいせつ行為に当たるかどうかは,社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであって,社会通念上わいせつ行為に当たらないものが,被告人の特別の内心の意図によってわいせつ行為となることはない」(東京高裁H22.3.1)というのは未公開判例

5月 犯行
7/20 逮捕
7/27 釈放
7/27 議員辞職
7/31 不起訴
 暴行罪でも起訴されなかったことからは、示談できたと推測します。

奥村の原稿
ホテルの女性従業員の「指」をなめて逮捕…「強制わいせつ」にあたるの?

▼本文
視察のために訪れた兵庫県姫路市のホテルで、フロントの女性従業員の手の指を無理やりなめたとして、静岡県焼津市市議会議員の男性(69)が7月20日、強制わいせつの疑いで兵庫県警に逮捕された。

報道によると、逮捕された男性は今年5月、姫路市内のホテルで、フロントにいた女性従業員に両手を出すよう求めたうえで、その指を無理やりなめた疑いが持たれている。男性は当時、酒に酔っていたとみられ、警察の取り調べに「まったく記憶にない」と否認しているという。

今回の逮捕容疑となった「強制わいせつ」といえば、胸を触ったりする行為が典型的だが、指をなめる行為はあてはまるのだろうか。どんな場合でも、指をなめれば「強制わいせつ」にあたるのだろうか。奥村徹弁護士に聞いた。

●コメント(計600字程度)
(1)強制わいせつにあたらないような気がするのですが、強制わいせつにあたる可能性はあるのでしょうか?
 強制わいせつ罪(刑法176条)の「わいせつ」とは、伝統的な判例では「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」と解されていて、「わいせつ行為に当たるかどうかは,社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであって,社会通念上わいせつ行為に当たらないものが,被告人の特別の内心の意図によってわいせつ行為となることはない」(東京高裁H22.3.1)とされていますので、結局「社会通念」で判断されることになります。
 何が「社会通念」かというのも難しいですが、参考として、「なめる行為」が起訴された強制わいせつ罪の裁判例を見ても、性器・臀部・乳房・乳首・首・唇・膝・足を舐めた事例はありますが、手の指を舐めた事例は見当たりませんので、一般には,手の指を舐める行為は、「いたずらに性欲を興奮,刺激させ,性的羞恥心を害して性的道義観念に反する」とはとらえられていない思います。
 なお、報道によれば、近々、最高裁においてわいせつの定義については「わいせつ行為=客観的に性的自由・性的羞恥心を害する行為」などとする方向への判例変更の可能性がありますが、その場合でも、被害者の主観のみによってわいせつ性が決まるわけではないので、結論は変わらないと思います。
(2)強制わいせつにあたらないとすれば、ほかにどんな罪が考えられますか?
 「従業員に「両手を出して」と声を掛け、従業員が手を前に伸ばしたところ、いきなり口元まで引っ張った」「なめた」というのは「人の身体に対する有形力の行使」となるので、暴行罪(刑法208条)に該当する恐れがあります。
 また、ホテルのフロントあたりは「公共の場所」ですし、いきなり指を舐める行為は「人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動」(兵庫県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例3条の2第1項1号)い該当する可能性があります。
 逮捕容疑は強制わいせつ罪でしたが、実際の処分はこの辺りの罪名に落ちると予想します。


参照条文
刑法
第二〇八条(暴行)
 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

兵庫県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
卑わいな行為等の禁止)
第3条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動
(2) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を撮影する目的で写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置する行為
2 何人も、集会所、事業所、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所(公共の場所を除く。)又は乗物(公共の乗物を除く。)において、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を写真機等を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向ける行為
(2) 前項第2号に掲げる行為
3 何人も、正当な理由がないのに、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる人を写真機等を用いて撮影し、撮影する目的で写真機等を向け、又は撮影する目的で写真機等を設置してはならない。
第15条 
1第3条の2第1項から第3項まで、第5条第1項若しくは第2項又は第10条の2第1項の規定に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 常習として前項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。


(3)その他オピニオンなど
 強制わいせつ罪の「わいせつ行為」の定義については、判例変更の可能性があり、着衣の上から胸や尻を触る行為など、わいせつ性が微妙で現時点では卑わいな言動(迷惑防止条例違反)とされている行為については影響を受ける可能性がありますので、判例の動向に注意して下さい。