児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

CG事件の判決文(東京地裁H28.3.15被告人控訴)は ウエストローに掲載されました


 34画像中31画像が無罪になったことを確認してください。

裁判年月日  平成28年 3月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果  有罪  文献番号  2016WLJPCA03156003
出典
エストロー・ジャパン


....
第12  結論
 以上より,「○○2」画像番号2,15及び27(右側)の各画像データに係る記録媒体すなわち被告人のパーソナルコンピュータの外付けハードディスクは児童ポルノ法2条3項の「児童ポルノ」に該当し,同各画像データは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当すると認められる。
 よって,当裁判所は,関係各証拠から,判示第1の児童ポルノ製造罪及び判示第2の児童ポルノ提供罪がそれぞれ成立すると認定したものである(なお,購入者らが本件CG集をダウンロードした場所が購入者らの自宅であったことを認める明確な証拠は存在しない。)。
 (法令の適用)
 罰条
 判示第1の所為 平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項,同条4項,2条3項3号
 判示第2の所為 包括して同法7条4項後段,2条3項3号
 刑種の選択
 判示第1及び第2の各罪 いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
 併合罪の加重
 懲役刑につき 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
 罰金刑につき 刑法48条2項(判示第1及び第2の各罪の罰金の多額を合計した金額の範囲内)
 労役場留置 刑法18条(罰金刑につき金5000円を1日に換算)
 刑の執行猶予 刑法25条1項(懲役刑につき)
 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文

 製造罪も一罪、提供罪も一罪になってるので、一部無罪という宣告はなかったんです。

裁判年月日 平成28年 3月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(特わ)1027号
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 有罪(懲役1年及び罰金300万円、執行猶予3年(求刑 懲役2年及び罰金100万円)) 上訴等 控訴<破棄自判> 文献番号 2016WLJPCA03156003

判例アラート
ブックマーク

 

 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官鈴木望及び同田中隆士並びに私選弁護人山口貴士(主任),同壇俊光,同奥村徹,同野田隼人,同北周士,同北村岳士,同歌門彩,同村松謙及び同吉峯耕平各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 

主文

 被告人を懲役1年及び罰金30万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
 この裁判確定の日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。
 
 
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1 不特定又は多数の者に提供する目的で,平成21年12月13日頃,岐阜市〈以下省略〉被告人方において,衣服を付けない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材とし,画像編集ソフトフォトショップ等を使用して前記児童の姿態を描写した画像データ3点(「○○2_prt.pdf」というファイル中の番号2,15,27として表示される画像。なお,同ファイル中の番号1として表示される画像には○○2と記載されている。)を含む同ファイルを被告人のパーソナルコンピュータの外付けハードディスク内に記憶,蔵置させ,もって衣服の全部を着けない児童の姿態であって性欲を刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し
 第2 ○○2という名称のコンピュータグラフィックス集をインターネット通信販売サイトを運営する株式会社aに販売を委託して提供しようと企て,平成21年12月14日頃,前記被告人方において,インターネットに接続された被告人のパーソナルコンピュータから,前記株式会社aのデータ保管先であるb株式会社が管理する東京都新宿区〈以下省略〉に設置されたサーバコンピュータに前記「○○2_prt.pdf」と同一のファイルを送信して記憶,蔵置させるとともに,前記株式会社aにその販売を委託し,次表のとおり,平成24年4月20日から平成25年3月27日までの間,3回にわたり,同サイトを閲覧した不特定の者であるA1ほか2名に対し,前記コンピュータグラフィックス集を代金合計4410円で販売し,同人らに,インターネットに接続された同人らが使用するパーソナルコンピュータのハードディスク内に「○○2 第二版」というフォルダに含まれる前記「○○2_prt.pdf」と同一のファイル中の画像データ3点(同ファイル中の番号2,15,27として表示される画像。)をダウンロードさせ,もって不特定又は多数の者に児童ポルノを提供し 
番号 
提供年月日 
提供相手 
代金 
1 
平成24年4月20日 
A1 
1470円 
2 
平成24年12月1日 
A2 
1470円 
3 
平成25年3月27日 
A3 
1470円 
  
  
  
合計4410円 

 たものである。
 (証拠の標目)
 括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を,弁の番号は同カード記載の弁護人請求証拠の番号をそれぞれ示す。
 判示全部の事実について
 ・被告人の公判供述
 ・Cの公判供述
 ・第2回公判調書中の証人Dの供述部分
 ・被告人の検察官調書(乙2,9)及び警察官調書(乙3,5ないし7,14,15,19)
 ・端緒及び画像データ入手結果報告書(甲1)
 ・CG画像集プリントアウト報告書(甲3)
 ・CG画像構造確認結果報告書(甲9)
 ・児童ポルノ画像ファイル作成日確認結果報告書(甲10)
 ・児童認定書抄本(甲26)
 ・写真撮影結果報告書(甲41)
 ・画像抽出及び印刷報告書(甲62)
 ・画像ファイル作成報告書(弁14)及び訂正報告書(弁18)
 ・捜索差押調書(甲27)及び捜査報告書(甲47,48)
 ・写真集2冊(平成26年押第77号の5,13)
 ・DVD-R1枚(平成26年押第77号の17)
 判示第2の事実について
 ・被告人の警察官調書3通(乙10ないし12)
 ・A1(甲17),A2(甲19)及びA3(甲21)の各警察官調書抄本(いずれも検察官証拠請求撤回部分を除く。)
 ・履歴事項全部証明書(甲13,15)
 ・聴取結果報告書(甲16)
 ・同一性確認結果報告書(甲18,20,22)
 ・振込入金額確認結果報告書(甲24)
 ・聴取及び資料入手結果報告書(甲42)
 (事実認定の補足説明)
第1 争点等
 1 本件において,被告人がコンピュータグラフィックス(以下「CG」という。)集「○○ 第二版」(販売委託した際の名称は「○○」。以下単に「○○」という。)及び同「○○2 第二版」(販売委託した際の名称は「○○2」。以下単に「○○2」といい,「○○」と併せて「本件CG集」という。)の各画像データを作成したこと,被告人が,判示第2のサーバコンピュータに本件CG集の各画像を送信して,記憶,蔵置させるとともに,インターネット通信販売サイト運営会社に本件CG集の販売を委託したこと,同サイトを閲覧した者らが,本件CG集を購入し,インターネットを通じて同人ら使用のパーソナルコンピュータのハードディスク内に本件CG集をダウンロードしたことに争いはなく,証拠上も明らかである。
 2 本件の起訴対象となる画像データの特定について,検察官は,本件公訴事実第1(○○2)記載の「画像データ16点」は,甲第3号証添付資料2の番号(以下「『○○2』画像番号」という。)2ないし6,8,10,13,14(左側),15,17,21,23,25,26,27(右側)であり,訴因変更後の本件公訴事実第2(以下単に「本件公訴事実第2」という。)における,上記16点とは別の「画像データ18点」(○○)は,甲第2号証添付資料2の番号(以下「『○○』画像番号」という。)2ないし5,7ないし9,11ないし17,22,23,27(左側),28であることを第2回公判期日において釈明しており,また,審理の経過において,左側,右側とあるのは,女性が2人いる画像データにおいて,画像データを見る側からみて左側,右側をそれぞれ指していることが明らかとなっている(以下,前記のとおり女性が2人いる画像データについてそのうちの1人を特定する場合は,画像データを見る側からみて左右を記載するが,その他画像について左右を記載する場合(右手,左腕など)は,描かれた女性側からみた場合を意味するものとして統一表記する。なお,甲第1号証,甲第10号証及び甲第16号証等関係各証拠からすると,本件CG集の各画像データには,プリント用ファイルと表示用ファイルとがあり,また,被告人方から押収した外付けハードディスク内には,○○については,3か所(3つのフォルダ)に「○○_v02_print.pdf」と題するPDFファイル(プリント用ファイル)と「○○_v02_scr.pdf」と題するPDFファイル(表示用ファイル)とが一緒に保存されており,○○2においては,4か所(4つのフォルダ(甲第10号証5頁下から2行目の「3つ」とあるのは4つの誤りであると認められる。))に「○○2_prt.pdf」と題するPDFファイルと(プリント用ファイル)と「○○2_scr.pdf」と題するPDFファイル(表示用ファイル)とが一緒に保存されていたことが認められる。そうすると,同一といえる画像データが,○○では3×2=6点,○○2では4×2=8点が,それぞれ前記外付けハードディスク内に存在することとなる。そして,前記本件起訴に係る画像データの特定の基となった甲第2号証及び甲第3号証各記載のファイルはいずれもプリント用ファイルであり,かつ,本件公訴事実第2において,平成20年10月頃(○○。甲第10号証,甲第18号証及び甲第20号証の「○○_v02_print.pdf」,文書のプロパティ,作成日2008/10/8 12:24:07,更新日2008/10/11 5:09:35の各記載参照。)に記憶,蔵置させたファイル及び本件公訴事実第1,第2において,平成21年12月13日頃及び同月14日頃(○○2。甲第10号証,甲第18号証及び甲第20号証の「○○2_prt.pdf」,文書のプロパティ,作成日2009/12/13 16:22:15,更新日2009/12/14 3:07:26の各記載参照。)に,製造あるいは記憶,蔵置させたファイルは,各一つ(すなわち一つの「○○_v02_print.pdf」あるいは「○○2_prt.pdf」のファイル)と考えることができ,検察官が起訴対象としているのはそれらファイル内にある画像データ合計34点であると解される。以下,本件起訴対象となっている,本件CG集のうちの前記特定された合計34点のCG画像を「本件CG」といい,そのうちの○○に係る前記18点のCG画像を「本件18点」といい,○○2に係る前記16点のCG画像を「本件16点」という。)。
 そして,検察官は,第3回公判期日において,本件公訴事実第1につき,被告人が作成したとする児童ポルノは,本件CGの画像データが記録された被告人のハードディスク(被告人のパーソナルコンピュータの外付けハードディスクの意味と解される(以下単に「ハードディスク」という。)であると釈明している。また,本件公訴事実第2につき,平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条4項後段で起訴するものであると釈明している。
 その上で,検察官は,本件16点の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項柱書の「電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体」に当たり,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電気通信回線を通じて第2条第3項各号のいずれか(本件では3号)に掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録」に当たると主張し,弁護人ら(被告人には数名の弁護人があるが,以下単に「弁護人」と表記する。)はこれらを否定している。
 3 また,本件では,期日間整理手続が行われ,同手続において,①本件CGと検察官がその基となったと主張する写真とが同一であるか否か(同一性)及び本件CGの女性(以下「CG女性」という。また,本件CG集から更に個別に特定した上で「CG女性」と表記することがある。)が実在したか否か(実在性),②CG女性が18歳未満であるか否か(児童性),③本件CGが「性欲を興奮させ又は刺激する」ものか否か,④被告人は,株式会社a(以下「a社」という。)に本件CG集を販売委託し,客をして本件CG集をダウンロードさせているが,そのことは,被告人が同社(従業員)を利用した間接正犯として児童ポルノ法7条4項の「提供」を行ったと評価することができるのか否か(検察官はそのように評価することができると主張し,弁護人は,同社では適法と判断したもののみを販売する体制ができていたのであって,被告人の販売委託は「提供」ではなく,また,同社(従業員)は道具ではないから,間接正犯とはならず,同条項の児童ポルノ提供罪は成立しないと主張する。なお,弁護人は,「提供」を被告人が行っていないとして,a社との共犯の成否については論じてはいないが,被告人は無罪との主張であることからすれば,共犯も成立しないとの主張であると解される。),⑤本件において,児童ポルノ製造罪又は児童ポルノ提供罪が成立するには,本件CGの基となった写真の被写体の女性が,製造行為時あるいは提供行為時に18歳未満である必要があるか否か,⑥本件において,児童ポルノ製造罪又は児童ポルノ提供罪が成立するには,同被写体の女性が,児童ポルノ法施行日に18歳未満であったことを要するか否か,において,検察官と弁護人との間で争いがあることが確認され,弁護人は,上記①ないし⑥のいずれをも否定し,被告人は無罪であると主張している。
第2 検察官の立証構造(特に上記第1の3①ないし③について)
 1 検察官は,本件CGには,それらを描写する基となった写真(検察官が論告要旨添付の表において記載している「素材画像」)があり,その写真を収録した写真集等の存在から,同写真の被写体となっている女性が実在すること(実在性)を主張,立証しようとする。
 また,証人D医師(以下「D医師」という。)の証言をもって,同写真の被写体となっている女性が18歳未満であること(児童性)を主張,立証しようとする。
 そして,検察官は,本件CGの作成方法に関する被告人の捜査段階での供述(以下,被告人が捜査段階で捜査官に話したことについても「供述」として表記する。)が信用できることを前提として,「素材画像」すなわち18歳未満で実在している女性の写真と本件CGとがそれぞれ対応する画像番号ごとに同一(同一性)であり,したがって,結局において,本件CGは,18歳未満の実在する女性を描写したものであると主張し,これを立証しようとしている(以下検察官が立証構造の前提としている前記素材画像は「素材写真(検・素材画像)」と表記する。)。
 素材写真(検・素材画像)と本件CGとの対応関係を表にしたものが別紙1(論告要旨添付の表からパーツ画像欄を除き,「素材画像」を「素材写真(検・素材画像)」とし,また,素材写真(検・素材画像)のうち,国立国会図書館(以下「国会図書館」という。)所蔵の写真集あるいは警視庁所蔵の画像データによって実在性の立証がなされているもの(この点は後述する。)については,実在欄に「国会図書館」あるいは「警視庁データ」と付記するなど若干加工したもの。)である。
 2 本件において,被告人による本件CGの作成方法については,検察官の主張と弁護人の主張とが異なっているが,関係各証拠から,被告人が,パーソナルコンピュータ上で,フォトショップという画像編集ソフトを用い,レイヤーと呼ばれる仮想的な透明シートを複数作成し,それらを重ね合わせることなどにより本件CGを作成したことが認められ,そのこと自体に当事者間で争いはないものと解される。
 また,被告人が,一人のCG女性を描くにあたり,必ずしも一つの素材写真(検・素材画像)に基づいて作成されたレイヤーのみをCG女性の身体全体にわたって使用ないし利用しているわけではなく,相当数のCG女性の作成において,素材写真(検・素材画像)以外の写真を利用するなどして,本件CGを作成していることについては当事者に争いがなく,検察官も,別紙1の素材写真(検・素材画像)の各レイヤー欄記載のレイヤー(以下,別紙1の○○及び○○2の素材写真(検・素材画像)の各レイヤー欄記載のレイヤーを「検察官レイヤー」といい,同レイヤーの写真も「検察官レイヤー」ともいう。)を,それに対応する画像番号のCG女性のどの部分に使ったのかを論告要旨添付の表において特定している。これが別紙1の使用部位欄記載の部位である(もっとも,後述のとおり,本件CGの中には,検察官主張の使用部位のとおりに素材写真(検・素材画像)が用いられたと認められないものが存在する。)。
第3 本件16点の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか否か(本件公訴事実第1),また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」(本件公訴事実第2)に当たり得るか否か
 1 本件CGが児童ポルノ法2条3項3号の要件該当性を満たすものか否かは後に検討するが,そもそも写真ではなく,本件16点の画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項の「児童ポルノ」に当たるか否か,また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たるか否か,そして,それが,実在の児童を直接見ながら描かれたものではなく,写真を基に描かれたものであってもそれらに当たり得るか否かを検討する。
 2 児童ポルノ法は,18歳未満の者である「児童」に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み,あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに,これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護することを目的としている(同法1条)。そして,同法7条は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けるだけではなく,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノを製造,提供するなどの行為を処罰するものである。こうした目的や趣旨に照らせば,「適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」(同法3条)ものの,同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については,CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得,また,同画像データは同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るというべきである(なお,実在の児童を描写した絵であっても,同法2条3項柱書の「その他の物」として児童ポルノに当たり得るというべきである。)。そして,このような児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨に照らせば,同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい,実在しない児童の姿態は含まないものと解すべきであるが,被写体の全体的な構図,CGの作成経緯や動機,作成方法等を踏まえつつ,特に,被写体の顔立ちや,性器等(性器,肛門又は乳首),胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において,当該CGに記録された姿態が,一般人からみて,架空の児童の姿態ではなく,実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき,そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべきである。
 そして,このことは,当該CGが,実在の児童を直接見ながら描かれたのでなく,実在の児童を写した写真を基に描かれた場合であっても,それが同写真(写真撮影時には,架空の児童でなく被写体の児童が存在していることが前提である。)を忠実に描き,上記の意味において同写真と同一と判断できる場合についても,同様と解すべきである。
 この点,弁護人は,①児童ポルノ法の「製造」とは,実在する児童が被写体となって,実際にポーズをとらせて写真,その他の物に直接記録することをいい,機械的な複写の場合を除いては,実在の児童を被写体として直接描写するものでない限り,同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当しない,②児童ポルノ法7条3項は,実在する児童が被写体となり,実際にポーズ等をとったものを描写することを予定しており,同条5項も,同条3項と同じく製造罪に関する条項であるが,両者で「製造」を区別するべき合理的な理由はなく,同条5項においても,実在する児童が被写体となって,実際に撮ったポーズを写真その他の物に直接記録することを意味すると主張する。
 しかしながら,実在の児童の姿態を撮影した写真を基に描かれた場合であっても,出来上がった画像が,一般人からみて実在の児童の姿態を描写したものと認められ,それがさらに不特定多数の者に提供されるなどして拡散する危険がある限り,前記児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨からそれを規制する必要があることは,実在の児童の姿態を直接見て描写する場合と異なるものとは解されない。このことは,児童ポルノ法は,児童ポルノを「児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの」と定義しており(同法2条3項),実在する児童の姿態を直接見て描写したものであることを要件としていないことや,同法7条3項と異なり,同条4項に掲げる行為の目的が存在することを要件としている同条5項においては,「製造」についてその方法を具体的に定めておらず,その手段は限定されていないこととも整合すると解される。
 前記弁護人の主張は採用できない。
 3 また,本件CGの中には,複数の写真を利用して作成したと認められるものが存在するところ,合成写真,疑似ポルノあるいはコラージュが児童ポルノに該当するかという問題がある。すなわち,例えば,Aという少女の裸体画像に,他の児童の写真を合成する,あるいは絵を描き加えた場合に,当該画像において描かれた人物が実在する児童といえるか否かという問題である。
 まず,Aという少女の顔の部分のみが写真で,首から下が絵である場合で,一般人からみて,現実の児童の姿態と認識できないような場合については,それを児童ポルノとしての規制対象とする必要性に乏しいと解される。しかしながら,他方で,合成写真であれば,およそ「児童ポルノ」には当たらないと解した場合,例えば,Aという児童の顔及び裸の身体の大部分が写されている写真に,他の者の手足の写真が合成されたものについても「児童ポルノ」に該当しないことになるが,そのようなものまで一律に実在の児童ではないとして児童ポルノ法の規制が及ばないと解するのは前記児童ポルノ法の目的や趣旨に照らして相当ではないというべきである。さらに,Aという児童の顔にBという児童の裸の身体の写真を合成したものであっても,Bという児童が実在する限り,当該画像は,Bという「実在の」児童の姿態を描写したものであって,「児童ポルノ」に該当すると解すべきである(この点,弁第4号証(同書証記載の資料9とあるのは資料6の誤記と認められる。)添付の資料6において,E参議院議員による「合成写真等を利用した疑似ポルノの中には,実在する児童の姿態を描写したものであると認定できるものもあると考えられ,このようなものについては,今回の法案の児童ポルノに当たり得ると考えます。」,「首から上と下が違う場合ですが,首から下のところが実在する児童の姿態であることが立証できれば,これは児童ポルノに当たり得る場合があるわけです。」との発言が平成11年5月14日の法務委員会の会議議事録に記載されていることが認められる。)。
 もっとも,CGや絵の場合には,モデルとした実在の児童を描く意図で描かれた場合であっても,それを描いた者の表現能力が稚拙なために,一般人からみて,当該CGや絵が同児童を描いたものとはおよそ認識できず,同児童とCGで描かれた者とが同一とは認められない場合や,一般人からみて顔や身体全体の輪郭等は同一であると認識できるものであっても,胸部や陰部に加工するなどしたために(一般人をして児童ではなく成人であると認識されるほどに加工する場合などは典型である。),同部位においてモデルの児童との同一性が認められない場合がある。また,昨今のカメラやコンピュータソフト等の技術向上に伴い,写真や画像データに改変を加えることが容易となっていることからすると,CGを描く基となった写真について改変が加えられている可能性にも留意する必要があり,特にCGの基となった写真の画像データのみが存在し,その出典が不明である場合には,出典となった写真集が存在する場合と比べて同画像データ作成の過程において改変が加えられている可能性が高いことになるが,同画像データのみからその可能性を判断することは相当に困難である。
 以上からすると,CGや絵について基となった写真との同一性等を判断するに際しては,上記の観点からの慎重な検討が必要となる。
第4 素材写真(検・素材画像)と本件CGに対応する甲第25号証及び甲第26号証の各添付写真とが一致しない場合
 1 前記のとおり,検察官は,D医師の証言をもって,本件CGを描写する基となった写真の被写体の女性の児童性を主張,立証することで,CG女性の児童性を立証しようとしている。
 そして,D医師は,本件CGあるいはCG女性を直接見て,18歳未満であるか否かを判断したわけではなく,甲第25号証及び甲第26号証の各別添資料の写真から18歳未満であるか否かを判断しているところ(その被写体が18歳未満であるか否かの判断において,同写真のみが判断資料であったのかについては後述する。),同判断においては,甲第25号証及び甲第26号証の各添付写真(そのうち,本件CGに対応する写真(甲第25号証の画像番号2ないし5,7ないし9,11(2枚),12ないし17,22・27,23,28及び甲第26号証の画像番号2ないし6,8,10,13ないし15,17,21,23,25ないし27の各写真。以下,甲第25号証あるいは甲第26号証別添資料の各写真は,対応する画像番号に即して,「甲第25号証画像番号○」あるいは「甲第26号証画像番号○」というように表記する。)を総称して「児童認定写真」といい,その中で更に個別に特定した上で「児童認定写真」と表記することがある。)1枚1枚の写真をタナー法という方法で判定しており,複数の写真の女性が同一と見えると判定した上で,同一女性と判定した人物の年齢については同一に判定するというようなことはしていない。
 そうすると,児童認定写真と素材写真(検・素材画像)とが一致しない場合,素材写真(検・素材画像)については,18歳未満であること(児童性)の立証がされていないことになるので,以下そのような場合があるかどうか検討する(なお,甲第25号証及び甲第26号証の各別添資料の「掲載雑誌・写真集」欄には雑誌あるいは写真集の名称が記載されているところ,一見すると,検察官の主張は,同欄記載の雑誌等収録の各別添資料の写真1枚を基にして対応する本件CGが作成されたとの主張であるようにも思われるが,そうではない。検察官の主張は,論告要旨添付の表のとおりであり,甲第25号証及び甲第26号証の各別添資料の「掲載雑誌・写真集」欄記載の雑誌等は,検察官が本件CGを描写する基となったと主張する素材写真(検・素材画像)の出典(別紙1の実在欄参照。)と必ずしも符合せず,期日間整理手続においても甲第25号証及び甲第26号証の各別添資料の「掲載雑誌・写真集」欄の記載は無視して考えてよいことが明らかになっている。)。
 2(1) 「○○」画像番号13,17,22,28,「○○2」画像番号14については,児童認定写真と素材写真(検・素材画像)とが一致しておらず,児童性の立証がされていないというべきである(同画像番号13は,検察官レイヤーは「1_13_0002_F_S19.jpg」と「1_13_0003_Pt2_29.jpg」と2つ存在しているが,弁第13号証(押収されている被告人のハードディスク内にあったものを弁護人側で整理したもの。)には,「1_13_0003_Pt2_29のコピー.jpg」が存在するものの,コピー元となった「1_13_0003_Pt2_29.jpg」は存在しない。しかし,同検察官レイヤー2つ及び「1_13_0003_Pt2_29のコピー.jpg」のいずれも同画像番号13の児童認定写真とは異なっている(なお,同写真と思われる写真は甲第28号証の書籍に収録されている。)。
  (2) 「○○」画像番号5は,検察官レイヤーが「1_05_0081_レイヤー1.jpg」と「1_05_0083_wm57のコピー2.jpg」と2つある。しかし,甲第25号証に対応する写真は後者であり,前者のレイヤーについては,D医師が児童認定をしておらず,その被写体について18歳未満であることの立証はされていない。
 「○○2」画像番号23は,検察官レイヤーが「2_23_0091_Miz14Ⅱ_11.jpg」と「2_23_0091_Miz14Ⅱ05.jpg」と2つある。しかし,甲第26号証画像番号23に対応する写真は前者であり,後者のレイヤーについては,D医師が児童認定をしておらず,その被写体について18歳未満であることの立証はされていない。なお,前者の「2_23_0091_Miz14Ⅱ_11.jpg」は弁第13号証に存在せず,甲第9号証のCG画像番号23の作成経過に照らすと「2_23_0093_Miz14Ⅱ_11.jpg」の誤記と認められる。
  (3) 以上,D医師が児童認定していないこととなる検察官レイヤーについては別紙1の黄色で塗りつぶした部分となる。
 3 他方,別紙1の黄色で塗りつぶした部分以外のCG女性(○○及び○○2)については,それに対応する児童認定写真と同一の被写体が同一の構図で写されていると認められるレイヤーが存在し(弁13),それらはそれぞれに対応する検察官レイヤーと同一である(なお,「○○」画像番号4についてのレイヤー「1_04_0010_scan.jpg」は,対応する甲第25号証の児童認定写真が左右反転していると認められ,「○○2」画像番号3についてのレイヤー「2_03_0004_レイヤー1.jpg」は,甲第26号証の対応する児童認定写真よりも高い解像度を保つもので,かつ,左右反転していると認められる。)
第5 実在性(後に検討する児童ポルノ法施行後に児童である必要があるかの点を除く。)
 1 前記検察官の立証構造からすれば,別紙1記載の実在欄にある写真集等の写真から検察官レイヤーの被写体の実在性(被写体が実在していたこと)が認められなければ,対応するCG女性の実在性の立証ができていないこととなる。
 そこで,以下,別紙1で既に黄色で塗りつぶしたもの(検察官レイヤーが2つある場合にはいずれも黄色で塗りつぶしたもの。すなわち「○○」画像番号13,17,22,28及び「○○2」画像番号14)を除いて,検察官レイヤーにつき,児童の実在性について検討する。
 結論としては,「○○」画像番号7ないし9並びに「○○2」画像番号6,13及び26については,それぞれに対応する検察官レイヤーの被写体が実在していたことを認めるに足りる証拠が認められない(別紙1の青色で塗りつぶした部分。)。
 2(1) まず,「○○」画像番号2,4,5,12,14ないし16,23,及び「○○2」画像番号2ないし5,10,17,21,23,25,27(右側)に対応する各検察官レイヤーについては,以下のとおり,それらのレイヤーと同一と認められる写真を収めた書籍が被告人方から押収されている。
   ア 「○○」画像番号2については,別紙1の対応する実在欄(別紙1・○○・画像番号2・実在欄。以下挙げる書籍についても,同様に対応する実在欄に記載されている。)記載の甲第34号証の書籍に(なお,同欄には甲36(「c誌PART-2」)が記載され,陳述書(弁15)にも同書籍が記載されているが,これは陰部の修正が施されていない別の写真である。),「○○」画像番号4については,甲第36号証の書籍に,それぞれ検察官レイヤーと同一の写真が収録されている。
 「○○」画像番号5の検察官レイヤーのうち「1_05_0083_wm57のコピー2.jpg」は,甲第28号証の書籍に検察官レイヤーと同一の写真が収録されている(なお,同検察官レイヤーのうち「1_05_0081_レイヤー1.jpg」については,前記のとおり,甲第25号証画像番号5の写真とは異なるが,実在性について付言すると,同様に甲第35号証の書籍に検察官レイヤーと同じ写真が収録されている(なお,別紙1の対応する実在欄に第28号証の書籍が記載されているが,そこにある同検察官レイヤーと同一の写真は印刷範囲が異なっている。)。)。
 「○○」画像番号12については,甲第35号証の書籍に(なお,別紙1の対応する実在欄には甲第34号証の記載があるが,これは,陰部が修正され反転している別の写真である。),「○○」画像番号14については,甲第35号証の書籍に,「○○」画像番号15,16については,甲第33号証の書籍に,「○○」画像番号23については,甲第28号証の書籍にそれぞれ検察官レイヤーと同一の写真が収録されている。
   イ 「○○2」画像番号2については,甲第40号証の書籍に,「○○2」画像番号3については,甲第37号証の書籍に,「○○2」画像番号4については,甲第30号証の書籍に,「○○2」画像番号5については,甲第49号証の書籍に,「○○2」画像番号10については,甲第33号証の書籍に,「○○2」画像番号17については,甲第40号証の書籍に,「○○2」画像番号21については,甲第34号証の書籍に(ただし,検察官レイヤーは同書籍の写真が反転されている。)それぞれ各検察官レイヤーと同一の写真が収録されている。
 「○○2」画像番号23の検察官レイヤーのうち「2_23_0093_Miz14Ⅱ_11.jpg」(前記のとおり0091は0093の誤記と認められる。)は,甲第39号証の書籍に検察官レイヤーと同一の写真が収録されている(なお,同検察官レイヤーのうち「2_23_0091_Miz14Ⅱ_05.jpg」については,前記のとおり,甲第26号証画像番号23の写真とは異なるが,実在性について付言すると,同じく甲第39号証の書籍に同じ写真が収録されている。)。
 「○○2」画像番号25については,甲第29号証の書籍に,「○○2」画像番号27については,甲第32号証の書籍(ただし,検察官レイヤーは同書籍の写真が反転されている。)にそれぞれ各検察官レイヤーと同一の写真が収録されている。
  (2) また,「○○」画像番号3,11,27(左側)及び「○○2」画像番号8,15に対応する各検察官レイヤー(ただし,「○○」画像番号11については,別紙1・「○○」画像番号11・素材写真(検・素材画像)の左側のレイヤー)については,以下のとおり,それらのレイヤーと同一と認められる写真を収めた写真集が国会図書館に所蔵されている(甲41,61。なお,別紙1において,実在欄に甲第41号証のほかに写真集が挙げられているものについては,前記のとおり,写真集から実在性が認められればここで論ずる必要はないこととなる。)。
 すなわち,「○○」画像番号3については,国会図書館所蔵書籍(甲41,61)のうちの「d誌30」内の別紙1にも記載のある「別冊d誌2」等の広告欄と思われるところ(甲41写真番号21ないし24)に,「○○」画像番号11については,「d誌31」内(甲41写真番号27ないし30)に,「○○」画像番号27(左側)については,「d誌8」内(甲41写真番号15,16,甲61)に,「○○2」画像番号8については,「d誌14」内(甲41写真番号19,20)に,「○○2」画像番号15については,「d誌30」(甲41写真番号21,22,25)に,それぞれ対応する各検察官レイヤーと同一と認められる写真が収録されている(ただし,「○○」画像番号11については,別紙1・「○○」画像番号11・素材写真(検・素材画像)の左側のレイヤー。同右側の検察官レイヤーは,検察官が実在性の根拠とする甲第57号証は,検察官が証拠請求を撤回している。)。
 3 そして,上記各書籍の表紙,奥付等には,以下のような記載がある。
  (1) 「e誌」(甲28)の表紙には,「撮影●G」の記載が,奥付には「撮影―G」,「モデル―F」,「1982年9月20日 第一刷発行」及び「1991年9月17日 第十二刷発行」の記載がある。
  (2) 「f誌」(甲29)の表紙には「写真●G」の記載が,奥付には「写真 G」,「モデル F」,「昭和57年2月19日 初版第1刷」の記載がそれぞれある。
  (3) 「g誌」(甲30)の表紙には「H写真集」,「撮影/I」の記載が,奥付には「撮影・I」の記載が,カバーには「昭和59年10月20日初版発行」及び「昭和60年2月15日第4刷発行」の記載がそれぞれある。
  (4) 「h誌」(甲32)の表紙には「Gの少女写真術」の記載が,奥付には「著者 G」の記載が,カバーには「昭和56年10月15日 初版発行」及び「昭和57年4月1日 第4刷発行」の記載がそれぞれある。
  (5) 「d誌17」(甲33)の表紙には「G少女写真」の記載が,奥付には「写真&文 G」の記載が,カバーには「昭和59年4月15日初版発行」及び「昭和61年3月31日第5刷発行」の記載がそれぞれある。
  (6) 「i誌Vol.3」(甲34)の表紙には「G少女写真集」の記載が,奥付には「写真 G」の記載が,カバーには「昭和63年9月26日初版発行」の記載がそれぞれある。
  (7) 「別冊d誌2」(甲35)の表紙には「PHOTO BY G」の記載が,奥付には「写真 G」の記載が,カバーには「昭和60年6月30日初版発行」及び「昭和60年12月30日第2版発行」の記載がそれぞれある。
  (8) 「c誌PART-2」(甲36)の表紙には「G少女ヌード作品集」の記載が,奥付には「企画・構成―G」及び「発行―昭和57年1月6日・パート2第5刷」の記載がそれぞれある。
  (9) 「j誌」(甲37)の表紙には「J全撮影」の記載が,奥付には,「PHOTOGRAPHER J」,「MODEL K」及び「昭和59年8月10日発行」の記載がそれぞれある。
  (10) 「k誌」(甲39)の表紙には「全撮影/L」,奥付には「フォトグラファー L」,「昭和60年1月15日発行」の記載がそれぞれある。
  (11) 「G作品集」(甲40)の奥付には「写真…G」及び「1993年3月1日第1刷発行」の記載がある。
  (12) 「l誌」(甲49)の表紙には「Photographer」として「J」,「Model」として「M」の記載が,奥付には「1998年1月10日第1刷発行」の記載がそれぞれある。
  (13) 「d誌8」(甲41,甲61)の背表紙には,「G少女写真」の記載が,奥付には「写真&文 G」及び「Printed in Japan, 1983」の記載がそれぞれある。
  (14) 「d誌14」の背表紙(甲41の写真19)には「G少女写真」の記載がある。
  (15) 「d誌30」の表紙(甲41の写真21)には「G少女写真集」の記載がある。
  (16) 「d誌31」の表紙(甲41の写真27)には「G'S」,「G少女写真集」の記載がある。なお,表紙に「事故本」,「1991.8.7」との記載された紙片が貼付されていると認められる。
  (17) なお,前記のとおり,甲第38号証の書籍内には検察官の主張レイヤーが存在しないが,「m誌」(甲38)の表紙には「N」の記載があり,奥付には「カメラ N」,「モデル O P Q R S」,「昭和56年3月10日印刷」及び「昭和56年4月10日発行」の記載がそれぞれある。
 4 以上のように,検察官レイヤー等と同一と認められる写真を収めた書籍の表紙や奥付等には,撮影者の名前又はモデル名,あるいは「写真集」等の記載がある。そして,甲第41号証の国会図書館所蔵の写真集については,昭和58年発行を示すものを除いて,同書証の写真からは発行年が分からないものの,同書証の写真からしても,いずれも一見して古く,また,巻数の最も多い「d誌31」においても,裏表紙には「定価=1000円」と記載され,税込,税抜あるいは本体といった記載はない上,撮影者は共通(G)で,「d誌8」の発行が昭和58年であるところ(甲61),「d誌17」の初版が昭和59年4月であることからすれば,甲第41号証の国会図書館所蔵の写真集を含めて,前記(3(1)ないし(17))の各写真集はいずれも昭和56年頃から平成11年1月頃までの時期(児童ポルノ法の施行前である。)に初版が出版されたものと認められる。そして,現在ほどには写真加工の技術が進んでいなかった当時の技術からすると,当時においても写真に一定の加工を施すこと自体は可能であったとしても,実在する人物の写真を全く利用しないで写真を創作したとは考え難いこと,前記各写真集の写真は合成写真であるとすぐに判断できるような外観を有するものではないこと,当時において特定部位のみを加工する必要性は乏しかったと解されることからすると,これらの写真集に収録された各写真の被写体がその当時実在する人物であったこと,すなわち,写真集に収録された各写真と同一と認められる検察官レイヤー等の被写体についても実在していたことが強く推認される。
 5 これに対して,弁護人は,①検察官レイヤーの被写体の氏名,住所,生年月日等が明らかでないこと,②当時から写真加工の技術が相当あったことに鑑みると,写真集の存在をもって被写体の存在を証明したことにはならないなどと主張する。
 しかしながら,①については,被写体の氏名等が分からなければ,その実在性が証明できないわけではなく,②については,確かに陰部等に加工が施されている写真も少なくなく,当時においても加工技術はあったといえるが,前記のとおり,全くの架空人物を作り出すなどする技術や必要性があったとは考え難いこと等からすれば,いずれも前記の実在性を疑わせる事情とはいえない。
 6 警視庁生活安全部少年育成課に所蔵されている画像データ
 「○○」画像番号7ないし9並びに「○○2」画像番号6,13及び26については,それぞれに対応する各検察官レイヤーと同一と認められる写真を収めた写真集は,国会図書館も含め存在が確認されていないが,警視庁生活安全部少年育成課に各検察官レイヤーと同一と認められる写真ないし画像がデータとして保存されている(「○○」画像番号7については甲第64号証,同画像番号8及び同画像番号9については甲第65号証,「○○2」画像番号6については甲第66号証,同画像番号13については甲第67号証,同画像番号26については甲第68号証)。
 そして,警察官T(以下「T警察官」という。)は,前記少年育成課所蔵の画像データについて,児童ポルノ法違反に関する捜査の資料とするために,各捜査員が必要だと思ったものについて,過去に被疑者として取り扱った者のハードディスク内等から発見された画像データをデータとして収集したものであり,その収集の方法について内規はなく,甲第64号証ないし甲第68号証については平成21年以降に自らが収集したものと思われるが,写真集をスキャンしてデータ化したものはなく,収集したデータと同一の写真集が存在することを照合できるものはしているが,写真集自体がないものについては照合できていない旨述べる。
 上記T警察官の供述は,内容に不自然な点がなく,自己に不利益な点も率直に述べるなど信用できる。しかしながら,同供述によれば,前記少年育成課所蔵の画像データは,その画像データに係る写真集自体が存在するかどうかが必ずしも明らかとはいえない上,仮にそのような写真集が存在したとしても,同データの収集方法や,コンピュータ技術の発展及びその一般化の目覚ましい比較的最近に収集したという収集時期等に照らし,同画像データの中に,本来その写真集の中に含まれていなかった画像が混じったり,同一性を損なう程度にまで加工された画像が含まれたりしている可能性が否定できない。
 現に,前記少年育成課所蔵の画像データに係る各報告書をみると,各写真集の全ての頁が含まれているものとは認められない。すなわち,甲第64号証については,同書証の添付資料1頁左下の目次と思われる頁の中にある「U」,「V」等の頁が同添付資料7頁以下にあるべきはずであるのに見当たらず,また末尾の発行人等が記載された頁も見当たらない。甲第65号証については,同証拠末尾添付資料1頁の左下の目次と思われる頁の中にある「中3階級殺人事件」等の頁が見当たらない。甲第66号証については,「課外授業は殺人講座」等の頁が見当たらない。甲第67号証及び甲第68号証については,目次や末尾の発行人等が記載された頁が見当たらない。
 このように前記少年育成課所蔵の画像データが各写真集の全ての写真を含んでいるわけではないことからすると,同データが,一つの写真集のデータをまとめたものであるかどうかも明らかでないといわざるを得ず,他の写真集の写真や画像等が入っている可能性も十分考えられ,さらに,前記少年育成課に所蔵される前にデータが加工,修正されるなどし,実在する人物を撮影した写真そのものとは異なるものになっている可能性も否定できない。
 7 補足
 なお,「○○」画像番号13,17,22,28及び「○○2」画像番号14(左側)については,前記のとおり対応する検察官レイヤーにつきD医師による児童性の認定がなく,児童性の立証がなされていないが,これらの実在性についても念のため検討する。
 「○○」画像番号13については,検察官レイヤーは2つあるが,そのうちのレイヤー「1_13_0002_F_S19.jpg」については,別紙1の対応する実在欄左側記載の甲第29号証の書籍に検察官レイヤーとは反転しているが同じ写真が収録されている(なお,同欄左側には「甲第35号証」の記載があるが,そこにある同一と見受けられる写真は,検察官レイヤーとは反転している印刷範囲の異なる写真である。)。また,もう一つの「1_13_0003_Pt2_29.jpg」のレイヤーは,前記のとおり,弁第13号証になく,「1_13_0003_Pt2_29のコピー.jpg」があるが,それについては,別紙1の対応する実在欄右側の甲第35号証の書籍に反転している同じ写真が収録されている。
 「○○」画像番号17については,前記のとおり,検察官レイヤー「1_17_0001_F_H.jpg」は,甲第25号証画像番号17とは異なっている。そして,同検察官レイヤーと同一の写真は,別紙1の対応する実在欄記載の甲第29号証の書籍にも甲第41号証にも収録されていない。したがって,同画像番号に対応する検察官レイヤーにおいては,実在性が立証されていない。他方,甲第25号証画像番号17の写真と同一写真から作成したと思われる「1_17_0000_F_S61.jpg」及び「1_17_0090_a_0018_F_S61.jpg」の各レイヤーが弁第13号証にあり,これと同一といえる写真が甲第29号証の書籍内にある(なお,いずれの写真も印刷範囲が異なっている。)。
 「○○番号」画像番号22については,検察官レイヤーを作成したのと同一の写真が別紙1の対応する実在欄記載の甲第40号証の書籍に収録されている。
 「○○番号」画像番号28については,検察官レイヤーと同一の写真が別紙1の対応する実在欄記載の甲第28号証の書籍に収録されている(もっとも,印刷範囲が異なる。)。
 「○○2」画像番号14(左側)については,前記のとおり,検察官レイヤーと同一の写真は,別紙1の対応する実在欄記載の甲第33号証には収録されていない(なお,検察官レイヤーとは異なるが,甲第26号証画像番号14(左側)と同一の写真が甲第38号証に収録されている。)。したがって,同画像番号14(左側)に対応する検察官レイヤーにおいては実在性が立証されていない。
 以上,補足において検討した「○○」画像番号13,17,22,28及び「○○2」画像番号14(左側)の各画像のうち,それに対応する検察官レイヤーの実在性が立証されていないものは,別紙1の実在欄を桃色に塗りつぶした部分である。
 8 以上によれば,「○○」画像番号7ないし9並びに「○○2」画像番号6,13及び26については,それぞれに対応する検察官レイヤーの被写体が実在していたことを示す証拠が存在しない。
 他方,その余(ただし,既に児童性の認定がないとしたものは前記7記載のとおり。)については,それぞれに対応する検察官レイヤー等の被写体がその撮影当時に実在していたと認められる。
第6 児童認定写真の各被写体が18歳未満であると認められるか否か(以下,18歳未満と認められることを「児童性が認められる(否定の場合は「認められない」)とも表記する。)
 1 検察官の主張
 検察官は,①D医師が,児童認定写真の各被写体について,18歳未満であると認定していること,②児童認定写真と同一の写真が収録された写真集の中にその被写体が18歳未満であることをうかがわせる記載があることから,児童認定写真の被写体は,撮影当時,いずれも18歳未満であったと認められる旨主張する。
 2 D医師の供述に基づく児童性の認定について
  (1) D医師は,性発達を評価する学問的な方法として世界的によく用いられている手法としてタナー法があり,同法においては,乳房及び乳輪は乳房のふくらみと乳輪の隆起により,陰毛は濃さや範囲により,それぞれ1度から5度のステージで発達段階が定義され,それにより性発達の段階を評価することができること,そして,タナー法の分類と日本人女子の性発達との関係を調査した研究が複数なされており,同研究の結果に照らせば,乳房又は陰部につきタナー何度であれば年齢が何歳から何歳の範囲に入るかを推測できることから,児童認定写真の被写体については,いずれも18歳未満と認められる旨述べる。
 前記のD医師の供述については,同医師が,小児科学,小児内分泌学を専門にする医師として,専門的知見や過去の経験等に基づいて述べられたものであること,タナー法及び同法の度数と日本における女児の思春期の二次性徴の年齢に関するものとして,D医師が資料として引用したものを含め複数の研究がなされていること等からすると,女児の性発達の段階を評価する手法としてのタナー法の存在や,同法における度数の判定に用いる具体的な基準の定立,さらに,日本人女子について同法の各度数と年齢との間に有意な相関関係を示す医学的知見が存在する点については,十分な信用性が認められる。
 しかしながら,他方で,白木和夫ほか総編集「小児科学(第2版)」医学書院(弁1)に「二次性徴の出現時期が正常であるかどうかを評価するには,正常児の発現時期を知る必要がある。しかしわが国では包括的なデータはほとんどない。よく引用されるのはTannerらの英国人小児の二次性徴発現年齢のデータであるが,人種も年代も違うこのデータを,そのまま現代の日本人小児にあてはめるわけにはいかない。」との指摘にも留意する必要がある。この点は,同文献が出版された平成14年以降にD医師が証人尋問において引用した論文(弁2。以下「田中論文」という。)等が発表され,日本における正常児の二次性徴の発現時期に関する研究が進んだと認められるものの,そのことを踏まえても,タナー法による分類に基づく年齢の判定は,あくまで統計的数字による判定であって,全くの例外を許さないものとは解されない。その統計的数字も,例えば,現在のDNA型鑑定に比すればその正確さは及ばない。身長や肌の艶,顔つき,あるいは手の平のレントゲン写真などといった判断資料は一切捨象して,胸部及び陰毛のみに限定して判断するタナー法の分類に基づく年齢の判定は,あくまで,18歳未満の児童であるか否かを判断する際の間接事実ないし判断資料の一つとみるべきである。
  (2) さらに,本件においては,殊にD医師が児童認定写真の被写体の年齢を判定したことについては,以下のとおり,その信用性を慎重に判断すべき具体的な事情が複数存在する。
   ア 児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限られていること
 (ア) D医師は,甲第25号証及び甲第26号証の児童認定書2通を作成した際の状況について,弁護人の質問には,前記各児童認定書別添の紙質の紙にプリントアウトされたものを見て判断したと答え,さらに,この点を裁判官から尋ねられた際には,写真をよく見ることに集中していたので,どのように作成したのかはっきりした記憶がないが,写真を見ながら同書の「乳房」,「陰毛」の所にそれぞれ丸を付けた旨述べる。また,D医師は,甲第26号証画像番号14(児童10)について具体的に説明する中で,「元の写真を見」たかのような供述をしている。以上からすると,D医師は,基本的には,児童認定写真を見て写真の女性の年齢を判定しており,また少なくとも同画像番号14の児童性の判断においては,その写真と基になった写真を見て,前記各児童認定書を作成したものと考えられる。
 こうした画像又は写真に基づいてタナー法による度数の判定を行う場合,実際に対象者を診察して評価を行う場合と比べて,被写体の姿勢,光の当たり方,画質等様々な制約があるため,対象者に関して得られる情報が非常に限定されることから,その正確性についてはより慎重に検討する必要がある。D医師も,写真に基づく評価をする場合について,限られた情報から分かるところで慎重に判断するという立場である旨述べ,「情報が少なければ認定の精度は劣ってくるということになりますよね」との弁護人からの質問に対しても,「はい,そのとおりです。」と答えている。
 以上を前提に,本件においてD医師が前記各児童認定書を作成した際に参照した資料がどのようなものであったかについてみると,前記のとおり,その資料としては,児童認定写真及び更にその元になった写真が想定されるが,後者については,前記甲第26号証画像番号14(児童10)以外の前記各児童認定書別添の写真の児童性判断時に,実際に示されたかどうか,また,同画像番号14の場合を含めて,元の写真なるものが示されたとしてどのようなものが示されたのかは全く明らかでない。また,前記各児童認定書別添の写真は,いずれも画質が粗い上,明らかにピントが合っていないか印刷に問題があると思われるもの(甲第25号証画像番号3(児童2),14(児童11),甲第26号証画像番号3(児童2),14(左側)(児童10)等)や全体が白くなっていたり(甲第25号証画像番号5(児童4),甲第26号証画像番号6(児童5),17(児童13)等),暗くなっていたり(甲第25号証画像番号17(児童14),23(児童16)等)しているものが多くみられ,そこから得られる情報は非常に限定的なものにとどまる。
 (イ) そして,タナー法における乳房及び乳輪と陰毛の発達段階の評価基準が細かく定められているところ,前記のように情報が限定的であることは,その細かな判定にも影響を与えると解される。
 D医師は,タナー法における発達段階の分類について,乳房については,乳房が全く発達していない1度から,やや膨らむ,さらに大きく突出,乳房が肥大する,成人型になるまでの5ステージ,乳輪については,平坦な1度から,やや隆起する,隆起が目立たなくなる,隆起する,平坦になるまでの5ステージ,陰毛については,何もない1度から,僅かに陰毛が生えてくる状態,少し色が濃くなる状態,成人に近くなるが大腿部までは広がらない状態,大腿部まで広がった状態までの5ステージが,それぞれ定義されている旨述べる。
 このタナー法の分類についてみると,乳房については,児童認定写真の被写体の乳房の全体的な印象からその発達の状態を判断することは可能であるように思われるものの,乳輪については,その隆起の有無で発達の評価が分かれるところ,前記のとおり児童認定写真等の限られた情報しかない中で,乳輪の隆起があるかないかという微妙な判断を正確に行うことができるかどうかについては,殊に児童認定写真では多数ぼやけているなどして乳輪が不鮮明なものや被写体が正面から撮影されているため乳輪の隆起の有無が判別しづらいものが多いことからしても,疑問がある。
 D医師は,乳房の大きさと乳輪の隆起の有無から判断する旨を述べるが,他方,前記各児童認定書において乳房についてタナー3度と認定している者について,その認定の理由として,乳房の大きさが成人並みではないという点と併せて,乳輪が隆起していない又は乳腺の発達が不十分という点をいずれにおいても指摘しており,乳輪の隆起の有無が2度と3度又は3度と4度の区別において重要な基準になっているものと認められる。そして,D医師は,成人になっても胸が非常に小さい女性は多くいるように思われるが,その点はどのように考えればよいのかという裁判官の質問に対して,成人で小さいには程があるということに加え,乳房の発達段階については,その大きさというよりも乳輪やその隆起の有無で見ている旨述べており,その供述からも,乳輪の隆起の有無がタナー法における評価において重要な意義を有していることがうかがわれる。
 しかしながら,一方で,D医師は,甲第26号証画像番号2(児童1)は乳輪の隆起が明らかでないが2度,同画像番号14(左側)(児童10)は乳輪の隆起がはっきりしないが2度,同画像番号17(児童13)は乳輪の隆起が明らかではないが3度と,それぞれ判定し,その理由として,乳房の隆起がある,乳房の発達がある,4度とするには乳房の発達が非常に悪いなどと述べ,乳輪の隆起の有無の判断ができないときには,乳房の発達度合いを考慮して判定しているかのように述べている。しかし,そうなると,先の乳房が小さい女性もいると思わるが,との問いに対する答えとの整合性は必ずしも明らかではない。
 また,D医師は,胸だけが写っている場合は,判定は非常に難しく,体全体が写っている中で判断するという慎重さが必要だと思う(D医師証人尋問調書(以下「D調書」という。)37頁)旨述べるが,他方で,胸部と陰毛の片方が分からないと年齢を判断できないというものではない(同35頁)とも述べ,弁護人から,反対尋問でD医師に胸部のみが切り取られた写真の4枚目(D調書別紙15)を示された際,躊躇なく「2度というふうに判定できます。」と述べている。そして,D医師は,弁護人から当該写真の女性がアダルトビデオ女優であることから18歳以上であると聞いた後も,「この方は,18歳未満のときに撮影された可能性が極めて高い」などと述べて,自らの判定を再考したりする態度は示していない。この点,検察官は,弁護人が示した当該写真(D調書別紙15)は,アダルトビデオ販売サイト内のサンプル画像を加工したものであり,弁第11号証及び弁第12号証のタイトル等からすれば,当該アダルトビデオ女優の乳房が小さいことを殊更に強調するために加工されている可能性が否定できないと主張しており,確かに,写真データにそのような加工を施すことは容易で,その可能性は否定できない。しかしながら,写真データと比較し修整が困難と考えられる弁第12号証の動画からも,同女優の乳房は,D医師が「成人並みでない」と述べる乳房と比べても発達しているとは到底いえない(なお,幼いことを宣伝文句にした写真をそれらしく加工する可能性については,検察官が素材写真(検・素材画像)の実在欄で掲げる写真集等についても等しく当てはまる指摘というべきである。)。
 またD医師は,甲第25号証画像番号3(児童2),12ないし17(児童9ないし14),23(児童16),28(児童17)及び甲第26号証画像番号8(児童6),10(児童8),25(児童17)について,いずれも乳房は成人に達するほどではない,あるいは成人並みよりも小さいなどと述べているが,乳房部分だけを抜粋して写真から判断した場合,その大きさから,成人に達しない,あるいは成人並みでないと判断し得るとは解されない。
   イ 18歳以上の女性の中に,乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がいる可能性
 また,D医師は,タナー法の度数と日本人女子の性発達との関係を調査した研究によれば,同法の各度数に分類される年齢は正規分布すること,乳房についてタナー2度に達する平均年齢が9.7又は9.5歳で標準偏差が0.95,タナー3度に達する平均年齢が11.5歳で標準偏差が1.05,タナー4度に達する平均年齢が12.3歳で標準偏差が1.1であること等が分かっており,以上からすると,95.4%の女児が9.7又は9.5歳プラスマイナス1.9歳の間でタナー2度になり(D調書別紙6),15歳までにタナー2度に達しない者は計算上100万人に0.3人くらいということになり(D調書別紙7),18歳以上でタナー2度以下である場合は,1万人に1人を超えないと考えられる(D調書別紙10,11)旨述べる。
 しかしながら,D医師が証人尋問において引用した田中論文の中の日本人女子の乳房の性成熟段階の累積頻度(D調書別紙6)の図を見ると,タナー2度の線については累積頻度が100%のところにほぼ到達しているのに対して,タナー3度の線は93又は94%の辺りで切れており,タナー4度の線は,65%の辺りで切れている。また,田中論文は,その対象者について「東京の私立の女子校生の1983年4月から1986年3月までに生まれた女子で小学校1年(6歳)から中学3年(14歳時)まで経過観察できた226名を対象とし」た旨記載している。そうすると,D医師の述べるとおり,この論文において判明した範囲でタナー法の度数と年齢とがほぼ正規分布の関係にあることや,およそ自然界に存在する生物の特徴として発達度合い等の正規分布が想定されること等を前提に,18歳以上の女性の中で乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性が存在する可能性をそれぞれ理論的に計算することは可能であるとしても,実際に18歳以上の女性の中に乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がどの程度存在するかについては,前記論文からは実証的に明らかでない。
 また,D医師は,前記各児童認定書を作成するに際しては,日本人女性の中にはタナー4度のまま成人となりそれ以上発達しない人もいることから,4度の可能性がある場合には推定年齢が不明であると表現した旨述べている。前記の正規分布に基づく理論的な計算によれば,18歳以上でタナー4度と評価される者が現れる確率は相当程度低くなると思われるところ,D医師自身,前記の正規分布に基づく理論的な観点だけでなく,タナー4度のまま成人となる者もいるという実証的な観点も踏まえて,結論を出しているものといえる。
 そして,D医師は,乳房及び外陰部でみて,タナー2度以下で18歳以上である可能性については,極端な「おくて」言い換えれば,質性思春期遅発症の場合や,性腺機能低下症の場合であると思われるが,概ね1万人に1人未満であると述べる。
 田中論文で調査された年齢の範囲で,その調査対象となったほぼ100%の日本人女性がタナー2度に達したと認められるから,その指摘自体は実証的根拠があるというべきであり,その割合は相当に低いと考えられるが,例外が皆無とは解されず,また,D医師の供述からも,正規分布による理論上の計算以上の説明はされていない。そして,児童性が認められるかの判断にあたっては,そもそも,タナー2度と判断してよいのかという,実際の度数判定の適切さが前提となる。
 そうしてみると,先のアダルトビデオ女優のように,18歳以上と考えられるにもかかわらず,タナー2度と判定される程度にしか乳房が発達していない女性が実社会に存在することは否定できない。また,その事柄の性質上,乳房が十分発達していないことを殊更強調してアダルトビデオ女優になる女性よりも,それを明らかにせずに生活する女性の方が当然多いと考えられることからすると,18歳以上でありながら乳房についてタナー2度と判定されかねない一定数の女性が存在することも否定できないというべきである。
   ウ そして,本件では更に,児童認定写真が修整が加えられた写真である可能性があることも考慮する必要がある。
 D医師は,タナー法によって,陰毛についてもその度数を判定しているが,陰毛については,剃られている可能性があるほか,前記実在性で検討した書籍の発行年月に照らしても,撮影後に陰部付近の画像に修整を加えて出版等がされた可能性があることから,その度数判定については,より慎重な判断が必要である。この点,D医師は,剃毛すると皮膚に赤みや赤黒さを見ることができるので剃毛されたか否かは見分けることができるし,そのような皮膚の色等まで修整がなされるとは考えられない旨述べるが,前記のとおり児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料の画質が粗いこと等からすれば,上記の点を正確に判断することができるか否かには疑問の残るところであり,また,陰毛や陰部が露骨に表されないように修整が加えられることは十分考えられるところである。そして,甲第25号証画像番号2(児童1)は,陰部に修整が施されている可能性が高い(検察官レイヤー,甲第34号証及び甲第41号証写真番号3は甲第25号証画像番号2(児童1)と同一の写真に見えるが,甲第36号証及び甲第41号証写真番号36,37はこれらの写真よりも陰部付近が鮮明である。弁第13号証の「1_02_0003_wr2_19.jpg」のレイヤーも全体としては白くなって鮮明ではないものの陰毛部については甲第25号証画像番号2よりもはっきりしている。したがって,甲第25号証画像番号2(児童1)は,より鮮明な写真に修整が加えられた可能性が高いことが分かる。さらには,よりはっきりしている写真やレイヤーであってもなお,陰毛部に黒く写っているものが陰毛であると断定できるかについては疑問が残る。)。しかし,D医師は,陰毛がかろうじて写っている,修整された痕跡がないとして,タナー2度であると判定している。
 弁護人から陰裂が見えない不自然さを指摘されても,上記説明を維持しようとしているところ自体において,写真に撮影された陰毛から度数を判定することの限界がうかがわれる。
 こうしたことからすると,タナー法に基づく年齢判定においては,その限界ないし危うさがあるというほかなく,D医師が小児医療を専門とする医師であることから,その意見は尊重するとしても,児童性の認定においては成人女性の性発達等をも考慮する必要があるところ,その面からの統計資料等の証拠はなく,また,判定資料とした写真の不鮮明さや修整の可能性,殊に陰部付近の修整の可能性を考慮すると,少なくとも本件においては,D医師の供述を全面的に信用して,年齢を判断することはできないというほかない。
  (3) 以上のとおり,本件においてD医師が児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限定されたものであること,その上での判定内容の危うさ等からすれば,D医師による年齢判定についてもその信用性について慎重な検討が必要となる。
 そのようにしてみると,まず,前記のとおり資料が限定され,修整の可能性がある中で,D医師がどれにも3度以上と判定したものがない児童認定写真の陰毛については(本件CGでは問題とされていないが,D医師は,甲第26号証画像番号9(児童7)の写真において,陰毛を2ないし3として3度もあり得ると判定している。しかし,その写真を見ても陰毛が何度であるかが判定できる程鮮明とは解し難い。),タナー法の度数を判定することは不可能に近いというべきであり,D医師が陰毛に関する同度数によって判定した年齢については採用できない。
 また,D医師が18歳以上の可能性もあると述べる乳房のタナー4度とその可能性を否定するタナー3度とを判別する重要な基準となる乳輪の隆起の有無について,前記のとおり資料が限定されている中で正確な判断ができたかは疑問があり,タナー3度と評価された者の中には,実際は乳輪が隆起しておりタナー4度と評価されるべき者が含まれていた可能性が否定できないことなどからすれば,児童認定写真のうち,D医師が被写体の乳房がタナー3度と評価したものの各被写体が18歳未満である旨のD医師の判定についても,採用することができない(D医師自身,タナー3度を(判定基準に)用いてもいいが,誰が見ても必ずといっていいほどに,ほぼ例外なく18歳未満だと言えるということに関してはタナー2度を基準にしたほうが結論は誤らないという意味で言っている,それは乳房だけでなく,陰毛についても同じである旨述べ(D調書11頁),その供述は,タナー法による判定が3度であっても,それは絶対的なものである,あるいは,その判定に誤りが入り込む余地がないとは断定し切れないことを意味するものと解される。)。
 そうすると,D医師がタナー法で乳房を3度と判定した(なお,D医師が,本件CG集に関連する写真で,乳房につき,4度あるいは3度ないし4度であると判定したものはない。),甲第25号証画像番号2ないし5(児童1ないし4),8(児童6),9(児童7),11ないし17(児童8ないし14),22(児童15),23(児童16),27(左側)(児童17。画像番号22と共通。),28(児童18)及び甲第26号証画像番号3(児童2),5(児童4),6(児童5),8(児童6),10(児童7),13(児童8),17(児童11),21(児童12),23(児童13),25(児童14),26(児童15)の各写真については,各被写体が18歳未満である旨のD医師の認定は採用することができず,18歳以上である可能性に合理的な疑いが残る(別紙1で黄緑色で塗りつぶしたもの。ただし,既に検察官レイヤーと児童認定写真とが一致しないあるいは実在性がないとして黄色等で塗られていたものがあり,その場合には画像番号のみを黄緑色で塗りつぶしている。)。
 これに対し,別紙1の画像番号が黄緑色で塗られていないもの,すなわち,D医師がその被写体の乳房についてタナー1度又は2度と評価した各写真については,前記のとおり,D医師が,乳房についてタナー2度が18歳未満か否かという判断のポイントとなる旨述べているとおり,乳房についてタナー2度以下と判定されて18歳以上である女性が一定数存在することは否定できないとしても,それ自体がまれであるといえる上,これらの写真の被写体は,いずれも一見して顔立ちが幼く,乳房や肩幅,腰付近の骨格等の身体全体の発達も未成熟であること等からすれば,これらの被写体は撮影当時18歳未満であったことが強く推認される。
 3 児童認定写真と同一の写真が収録された写真集に被写体の年齢に関する記載があること
 なお,検察官は,児童認定写真と同一の写真が収録された写真集自体に「『F』13歳」,「K 1972年生まれ。」などと,被写体の年齢に関する記載が存在することからも,被写体が撮影当時18歳未満であったことが推認される旨主張するが,そもそも写真集に記載された年齢や生年月日が正確なものであるとする根拠がない上,児童認定写真に係る写真が収録された写真集には,その表紙や本文に「少女」などの記載があり,幼い女児の写真であることを強調する内容となっていることからすれば,そのような写真集に記載された被写体の年齢や生年月日が正確なものであるかは疑問であり,検察官の主張は採用できない。
 4 小括
 以上によれば,別紙1の黄緑色に塗られていない○○及び○○2の各画像に係る児童認定写真の被写体については,18歳未満であると認めるのが相当であるが,その余については,18歳未満であることについて合理的疑いが残り,18歳未満とは認められない。
第7 本件CG集のCG女性と検察官レイヤーの被写体との同一性(前記のとおり,以下の左右は,画像上の女性側からみた場合をいう。)
 1 前記のとおり,検察官の立証構造では,各検察官レイヤー及び児童認定写真とCG女性とが同一であることを前提として,検察官レイヤーと同一の写真を収録した写真集が存在することからCG女性の実在性を立証し,D医師による児童認定写真に基づく児童性認定等によって,CG女性の児童性を立証しようとしている。
 そこで,前記第2,第3で論じたところを踏まえて,検察官レイヤーの被写体とCG女性とが同一といえるか否かについて検討する(なお,前記第4ないし第6からすると,検察官レイヤーと児童認定写真とが一致し,かつ,検察官レイヤーの被写体の実在性及び児童性が認められるCG女性は,○○には存在せず,「○○2」画像番号2,4,15,27(右側)がそれに該当するため,以下,それらの画像の同一性を中心に検討するが,他のCG女性についても後述するように別紙2において検討している。)。
 2 本件CG集の作成経緯,作成動機
  (1) 被告人の捜査段階の供述
   ア まず,本件CG集の作成経緯,作成動機についてみると,被告人は,捜査段階において,「F」等の少女モデルのファンであったところ,少女のヌード写真が児童ポルノ法で規制されたことから,写真をCGで再現することにより復刻できないか,「F」等の姿をどれだけ忠実に再現できるか試したい,写真集に載っていない未発表の写真があるのではないかと想像し,それを再現したい,色を塗り直して実物に近づけてあげたいなどの思いから,平成18年頃以降「F」の写真を素材にしてCGを作成するようになり,同モデルの複数のポーズのヌード画像を作成して前記モデルのファンサイトに投稿していったところ,そのうち同サイト利用者からのリクエストに応じて前記モデル以外の少女モデルのCGも作るようになり,作品数が増えたので作品集ができると考え,○○を作り,その後,もっとリアルなものを描きたいと思い,また,同サイトの利用者から他の少女モデルの画像のリクエストが増えたことから,それに応じて他のモデルの写真などを素材にCGを作り続け,作品数が増えたので,○○2を作った,描いている途中からは,実物にいかに近づけるかという写真に対する挑戦という気持ちを以て描くようになっていった旨述べる(乙2,10,14)。
   イ CG女性と検察官レイヤー等の各被写体の顔立ちや姿勢,服装等が類似していること
 CG女性と弁第13号証の対応する画像番号のファイル内の検察官レイヤー等(検察官レイヤーと一致しないものから作成されたものと認められることから「等」としている。)を比較すると,その詳細な同一性については後記で検討するとおりであるが,被告人が独自に描いたと考えられる部分が一部あるものの,そのほとんどにおいて,姿勢や顔立ち,体付き等が類似している。また,○○では,「F」なるモデルのCGが多く存在していることや,ほくろとそばかす,乳房下のかぶれ,首のシワといった細部を表現するレイヤーが作成されていたことは,忠実に写真を再現しようとしたとの前記供述とよく符合する。これらのことからすれば,被告人は,捜査段階で述べていたとおり,検察官レイヤー等をCGで忠実に再現することなどを考え,検察官レイヤー等に存在しない部分等について加筆,修整を加えながら,本件CG集を作成したものとみるのが自然である。
   ウ 被告人が管理していたウェブサイトにおける本件CG集に関する記載
 被告人は,△△と題するウェブサイトを運営していたところ,同ウェブサイトの中の本件CG集を紹介するページにおいて,「『○○2』は,皆さんからいただいたリクエストを含めてすべて描き下ろしの新作で構成しました。総勢21人の聖少女たちが,まばゆい光に包まれていま甦ります。」,「1980年代の一時,まばゆい光彩を放ちながら儚く消えていった幾多の少女像。いま精緻な描写のイラストが,それら幻の少女像を鮮やかによみがえらせる―。」,「Q1.『○○』ってどういうものなんですか?CG集?ソフト? A1.カテゴリーとしては“CG集”です。内容は上記サンプルをご覧いただけばおわかりのように,かつての少女ヌードモデルを描いたイラスト集です。(中略)この作品集は,その写真が表現しきれない部分に挑戦したものです。」,「Q2.『○○』で取りあげてるモデルは誰と誰ですか? A2.モデル名を明示することはご容赦ください。ただ,取り上げているモデルは7人で,上記サンプル,及びバナー等で7人が誰かおわかりいただけると思います。」などという説明が記載されている(甲1)。
 上記のとおりの被告人が運営していたウェブサイト上の本件CG集に関する記載からすれば,本件CG集は,かつての少女ヌードモデルの写真をCGとして再現あるいは補完する意図で作成されたものであると考えるのが自然である。
   エ 以上のとおり,CG女性と検察官レイヤー等が極めて類似しているものが多いことや,被告人が管理していたウェブサイトで本件CG集を紹介している内容からすれば,前記の作成経緯や動機に関する被告人の捜査段階の供述は高い信用性が認められる。
  (2) 被告人の公判供述
 これに対し,被告人は,陳述書(弁15)(以下,被告人作成の陳述書(弁15)の記載を「供述」として表記することがある。)及び公判廷において,本件CG集を創作したのは,人の人体,特に成長過程の女性の微妙な肉体の美しさを写実的に描きたい,理想的な人体を描きたいという芸術的な試みからであって,特定の女性の肉体を再現しようとしたものではなく,顔が写真集の女性に似ている場合があるが,それは顔を一から作り出すのは難しかったからである旨述べる。
 しかしながら,純粋に理想的な人体を描きたいというのであれば,CGを描くに当たって検察官レイヤー等を参考にしたとしても,それと同じ構図の人物を描く必要はなく,顔立ちや体付き,さらには,日焼け具合等まで,それぞれの被写体に似せる必要はない。前記のとおり,CG女性と対応する検察官レイヤー等において類似しているものが多いことは,特定の人物ではない理想の人体を描く目的とは整合しないというべきである。また,CG女性は,体付きが様々であることからしても,理想の人体を描くというよりは,素材とした検察官レイヤー等に極力似せようとしたことが窺われる。
 よって,検察官レイヤー等を再現するなどの意図はなかったとする被告人の公判供述は信用できない。
  (3) 以上により,被告人は,基本的には検察官レイヤー等のレイヤーの被写体をCGで再現あるいは補完する意図で本件CGを作成したものと認められ,このことは本件CGと検察官レイヤー等の同一性を肯定する方向に働く一事情となる。
 3 更に個別にCG女性と検察官レイヤーの被写体との同一性を検討する。
  (1) 被告人は,捜査段階において,CG女性の作成方法について,パーソナルコンピュータ内に取り込むなどした写真の画像データを自分のイメージに合わせて切り貼りし,そうしてできた画像の上に,白いレイヤーを画像編集ソフトフォトショップの機能を使って半透明にしたものを重ね,その上にさらに透明なレイヤーを作るという流れで描く準備をし,写し絵の要領で,ペンタブレットを使い,写真の画像データの輪郭に沿ってなぞるように輪郭線を描いた上で,ペンツールで肌の色を塗りつぶして一気に着色し,ブラシツールを使って肌の陰影や髪の毛,目等を描き込み,また,できるだけ実物に近づけるために,血管や毛穴等に至るまで再現できるものは可能な限り描いて完成させていった旨述べる(乙3等)。
  (2) これに対して,被告人は,陳述書(弁15)及び公判廷において,CG女性の作成方法について,描こうとする人物等のイメージを固めてから,適当な素材写真を探し,それらを元に輪郭線の描画にとりかかるが,参考にした画像をそのまま貼り合わせたり,輪郭をなぞってそのまま使うようなことはせず,輪郭は一から自分で描き,光の当たり方や人体の部位の様々な質感等も工夫し,肌の質感を出すために毛細血管や静脈のレイヤー等の描き込みも行った旨述べる。
 そこで,以下,捜査官が弁第13号証内の各画像内の一部のレイヤーを重ね合わせて作成したと考えられる捜査報告書(甲8,9)や弁護人が弁論で指摘する点等を踏まえ,検討する。
  (3) まず,「○○2」画像番号4について検討すると,同画像番号4のCG女性と対応する検察官レイヤーの被写体とを比較すると,女性の両乳首,右腰の輪郭線及びこれらの位置については一致しているものの,胸の形,殊に左胸の形は異なっている上,両肩,両腕,両足の輪郭線及び各部位の位置は一致していない。
 したがって,「○○2」画像番号4については,一部の部位や輪郭線について検察官レイヤーの被写体とCG女性との間に一致が認められる部分はあるものの,下半身部分はもとよりそのほかの部位も異なっている上,後記のとおり複数のレイヤーを重ね合わせて作成されたと認められることからすれば,検察官レイヤーの被写体とCG女性との間に同一性は認められない(別紙1で橙色に塗りつぶした部分)。
 (なお,検察官レイヤー以外のレイヤーとの一致についてみると,右肘を曲げて右手を顔に近づける姿勢,目,鼻,口,髪等の顔面及び頭部,右腕,右手等の輪郭線及び各部位の位置については,「2_04_0004_0060のコピー.jpg」(別紙1には記載していないが,検察官が論告において,パーツ画像と主張する(論告要旨添付の表)前記「g誌」に収録されている写真と同一の「2_04_0005_0060.jpg」の一部を消去したものと認められる。)のレイヤーと,腰,両足については,「2_04_0090_H 51r.jpg」(検察官がパーツ画像と主張する同写真集に収録されている写真と同一の「2_04_0089_H 51.jpg」を左右反転させたものと認められる。)のレイヤーと,左手については「2_04_0098_H 39.jpg」のレイヤー(検察官がパーツ画像と主張する同写真集に収録されている写真と同一のものと認められる。論告要旨添付の表に「2_04_0098_H 39.jpg」と「H」の後に「i」の記載がないのは誤記と認められる。)とそれぞれ一致している。複数の部分にまたがる輪郭線等がこれほどまでに一致することは,前記各レイヤーの輪郭と照らし合わせながら作成しない限り考え難く,同画像番号4の画像のうち前記各レイヤーと輪郭線等が一致している部分については,被告人の捜査段階の供述のとおり写真の画像データの輪郭に沿ってなぞるように輪郭線を描くか,少なくとも輪郭線が一致するよう強く意識しながら描くことにより作成したものと認められる。)
  (4) 次に,「○○2」画像番号2,15,27(右側)について検討すると,結論としては,以下述べるとおり,これらについてはCG女性と検察官レイヤーの被写体との同一性が認められる。
   ア 「○○2」画像番号2のCG女性と対応する検察官レイヤーの被写体とを比較すると,女性がやや左上に顔を向けているところが同一であり,目,鼻,口,髪等の顔面及び頭部,両肩,両腕,両胸,左乳首等の輪郭線及び各部位の位置が一致している。また,腰,陰部,大腿部,左前腕については,「2_02_0086_Pt06.jpg」のレイヤー(別紙1に記載はなく,検察官が論告においてパーツ画像と主張するものであるが,児童認定写真には含まれておらず,それと同一の写真が収録されている写真集等も明らかでない。)と一致している。また,右上腕部から右手首付近において,「2_02_0088_レイヤー1.jpg」のレイヤーと一致している(もっとも,検察官は,論告において,同レイヤーをパーツ画像と主張するものの,その使用部位は陰部付近としている。)。
 この点,被告人は,陳述書(弁15)において,「○○2」画像番号2のCG女性について,参考にした画像の線は同CG女性では使っていない,同CG女性の場合,参考にした画像には頭部及び胸部の一部だけが写っており,このように限られた部分しか見えない場合,さらに背景にこれといった特徴がない場合,写っているモデルが立っているのかどうかさえ分からない,そこで,想像力を駆使し,カメラマンの視線の高さや角度から全体のポーズが立ち姿だと決めて描いた,同CG女性の絵は,被告人が一から創作したものであるなどと記載している。
 しかしながら,複数の部分にまたがる輪郭線等が,前記で検討したほどまでに一致することは,前記各レイヤーの輪郭と照らし合わせながら作成しない限り考え難く,上記陳述書の記載は信用できない。前記被告人の本件CGの作成方法に関する捜査段階の供述は,本件CG全てにあてはまることなのかは留意する必要がある(また,被告人の捜査段階の調書には,「○○2」画像番号8の作成に関する説明のように,実在の写真集の中の写真からレイヤーとして作成したとの記載があるものの(乙16),当公判廷における証拠からはその写真(乙16で挙げられている2つの写真のうちの1枚)の存在が認められないものがある。)ものの,顔立ち,胸部及び陰部を含め,「○○2」画像番号2の画像のうち前記各レイヤーと輪郭線等が一致している部分については,捜査段階の供述のとおり,写真の画像データの輪郭に沿ってなぞるように輪郭線を描くか,少なくとも輪郭線が一致するよう強く意識しながら描くことにより作成したものと認められる。
 以上によれば,「○○2」画像番号2のCG女性は,対応する検察官レイヤーの被写体と,胸部付近から上の部位において同一と認められる。
   イ 「○○2」画像番号15のCG女性と対応する検察官レイヤーの被写体とを比較すると,女性が左腕を頭の下に敷いて横たわっている姿勢が同一であり,目,鼻,口,髪等の顔面及び頭部,両肩,両腕,両胸,両乳首,腰,陰部,左大腿,左肘付近に付着している砂等の輪郭線及びそれらの位置が一致し,やや同CG女性が筋肉質と見えるものの,そのほか一見して食い違っていると判断し得るところは見当たらない。
 この点,被告人は,陳述書(弁15)において,以下のようなことなどを記載している。
 参考にした画像(検察官レイヤーと同一と認められる。)を取り込んだものを元に,頁の構成上綴じ代で欠けた部分を加えて全体像を想像し,その上で全体の大まかな輪郭を描いているが,参考にした画像の線は使っていない。表情や髪の毛,体の細胞といった判然としない部分を想像して描きこんでいった。同CG女性の輪郭線は参考にした画面を参照しつつも,そのイメージを被告人なりに解釈して理想的な表情を線の形に表現したものである。同CG女性の絵を作成する際には,被告人が線画を一から創造し,血管を含む多数のレイヤーを想像力を駆使して作成し,元になった画像では分からない部分についても一から作成した上で,レイヤーをどのように重ねれば最も理想の状態に近づけることができるかについて試行錯誤を重ねた上で作成している。そのため同CG女性の絵は,参考にした画像を写したようなものではなく,被告人が一から作成したものである。
 確かに,同検察官レイヤーでは,前記のとおり,本の見開きのときに生じる写真と写真との間の隙間があることのほか,同CG女性の方がやや筋肉質的に見えることが認められる。
 しかしながら,複数の部分にまたがる輪郭線等が前記で検討したほどまでに一致することは,検察官レイヤーの輪郭と照らし合わせながら作成しない限り考え難く,上記陳述書の記載は信用できない。顔立ち,胸部及び陰部を含め,検察官レイヤーと輪郭線等が一致している部分については,捜査段階の供述のとおり写真の画像データの輪郭に沿ってなぞるように輪郭線を描くか,少なくとも輪郭線が一致するよう強く意識しながら描くことにより作成したものと認められる。検察官レイヤーには前記のとおり,頁の狭間にある白い部分があるが,その部分がないかのようにして忠実に被写体を描こうとしたものと十分評価し得るものである。児童の顔立ちや胸部及び陰部といった重要部分のほか,殊に左ひじについた砂の様子などは,CG女性と検察官レイヤーの被写体とで一見して違いが分からないほど一致しており,被告人が検察官レイヤーを忠実に再現しようとの意図が認められる。
 以上によれば,「○○2」画像番号15のCG女性は,対応する検察官レイヤーの被写体と,同一であると認められる。
   ウ 「○○2」画像番号27(右側)のCG女性と対応する検察官レイヤーの被写体とを比較すると,画像を見る側からみて右側の女性が同女性からみて右側の人物を見上げるようにして座っている姿勢が同一であり,目,鼻,口,耳,髪等の顔面及び頭部,両肩,左腕,両胸,両乳首,両足等の輪郭線及び各部位の位置が一致し,CG女性の方が胸部に微妙なふくらみが感じられなくもないが,その点を踏まえても両者は同一と評価し得るものといえる。
 この点,被告人は,陳述書(弁15)において,以下のようなことなどを記載している。
 被告人は,参考にした画像(検察官レイヤーと同一と認められる。)を取り込んだものを元にして,まず,左右逆向きの画像を正しい向きに直し,その上で全体の大まかな輪郭線を描いたが,参考にした画像の線は使っていない。被告人は,顔の表情や髪の毛,陰部等体の細部といった部分を自分で創作して描きこんでいった。参考画像を参照したが,被告人の中にあるイメージを実現するために納得がいく輪郭線を描けるまでの試行錯誤を繰り返し,線を創造していった。したがって,前記二人の輪郭線は参考にした画像を参照しつつも,そのイメージを被告人なりに解釈して線の形に表現したものである。乳房の形状については,コントラストが弱い画像であったので,乳房の作り出す曲線や立体感は,人体の構造から推測して描いた。線画を一から創造し,肌の質感を含む多数のレイヤーを想像力を駆使して作成し,元になった画像では分からない部分についても一から作成した上で,レイヤーをどのように重ねればもっとも理想の状態に近づけることができるかについて試行錯誤を重ねた上で作成している。「○○2」画像番号27(右側)の絵については,参考にした画像を写したようなものではなく,被告人が一から創作したものである。
 しかしながら,複数の部分にまたがる輪郭線等が前記で検討したほどまでに一致することは,検察官レイヤーの輪郭と照らし合わせながら作成しない限り考え難く,上記陳述書の記載は信用できない。顔立ち及び胸部を含め,同画像番号27(右側)の画像のうち検察官レイヤーと輪郭線等が一致している部分については,捜査段階の供述のとおり写真の画像データの輪郭に沿ってなぞるように輪郭線を描くか,少なくとも輪郭線が一致するよう強く意識しながら描くことにより作成したものと認められる。被告人は色彩の違いなどを強調するが,その点を考慮しても,前記のとおりの児童の顔立ち,胸部といった重要部分の一致の程度等からすれば,CG女性と対応する検察官レイヤーの被写体とは同一であると十分評価し得るものである。
 以上によれば,「○○2」画像番号27(右側)のCG女性は,対応する検察官レイヤーの被写体と,同一であると認められる。
  (5) このほか,CG女性と検察官レイヤーの被写体との同一性について検討したものが別紙2である(前記のとおり,当裁判所が対応する検察官レイヤーの被写体の児童性,実在性が認められると判断した画像は前記4点(「○○2」画像番号2,4,15,27(右側))のみであるため,その余の画像の同一性の判断については別紙2において記載した。)。
 そして,別紙2において検討したところからしても,本件CGの多くが,検察官レイヤー等のレイヤーの輪郭に沿ってなぞるように描かれたか,少なくとも輪郭線が一致するように強く意識しながら描くことにより作成されたものと認められるのであって,このことが,本件CGの作成経緯や作成動機,作成方法に関する被告人の捜査段階の供述と整合しており,その信用性を裏付けていることは前述のとおりである。
第8 「○○2」画像番号2,15,27(右側)が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たるか否か(なお,以下では前記のとおりCG女性の実在性,児童性が認められる上記3点の画像について検討するが,総論部分はほかの画像にも当てはまる。)。
 1 児童ポルノ法2条3項3号にいう「児童ポルノ」は,①「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」であって,②「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当する必要があり,本件各画像が①の要件を満たすことは明らかであるが,②「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たるかが争われている。そこで,まず,②「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の意味内容について検討する。
 児童ポルノ法は,前記の児童ポルノ製造・提供等児童ポルノに係る行為規制の趣旨と同様に,児童の権利を保護することの重要性に鑑みて,刑法におけるわいせつの定義,すなわち「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」(最高裁昭和32年3月13日大法廷判決・刑集11巻3号997頁参照)とは異なる観点から児童ポルノの範囲を定め,性欲を興奮させ又は刺激する点は必要であるが,「徒らに」ないし過度に興奮させ又は刺激することまでは不要とし,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害するものであることや,善良な性的道義観念に反するものであることも要しないとし,刑法におけるわいせつ物等よりも規制対象を広範にしたものと解される。
 そして,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であるか否かの判断においては,児童ポルノ法が,「この法律の適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」(同法3条)と規定しているとおり,表現の自由等との関係で,処罰範囲が不当に広範にならないように留意する必要があることをも踏まえつつ,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真等に同法2条2項にいう性器等,すなわち,性器,肛門,乳首が描写されているか否か,児童の裸体等の描写が当該写真やCG等あるいは写真集やCG集等の全体に占める割合,その描写方法(性器等の強調性の有無や児童の裸体等を描写する必要性や合理性等(医学図書に掲載するためや,裸の乳幼児が水遊びしている自然な姿を児童の発育過程の記録として写真等に収録する場合のように,児童の裸体等を撮影する必要性や合理性があるか等。))を,一般人を基準に,総合的に検討するのが相当である。そして,児童の裸体等を描写した写真を含む写真集あるいはCG集全体のモチーフ,学術性や芸術性,児童の裸体等をその中で用いる必要性や合理性等から判断して,性的刺激が相当程度緩和されている場合には,性欲を興奮させ又は刺激するものとは認められない場合があり得るものと解される。
 2 そこで,以下「○○2」画像番号2,15,27(右側)について検討すると,同画像番号27(右側)の隣に描写されている女性を含めて考察するに,上記画像番号2,15,27(右側)は,いずれも,1人又は2人の女性の姿を中心に描かれており,それらの女性は,いずれも衣服を全く身に着けていない状態で屋外等で立つ,座る,寝転ぶなどしており,特に扇情的なポーズはとっていないものの,検察官レイヤーには存在しなかった陰部を描き加えるなどしたものを含めて(同画像番号2),陰部が描かれているか,ひざ下付近までの下半身裸の状態が描かれている。衣服を身に着けるのが通常である屋外等において,特段このような姿をする必要性ないし合理性は認められない。
 そして,本件CG集に含まれる上記3点の画像以外の画像も,いずれも全裸又は上着をはおるなどして胸部や性器等を露出している女性1人又は2人をその中心に描いたものである。そして,a社のホームページ上において,本件CG集は,成人向けの「少女ヌード」と分類され,かつての少女ヌードモデルの写真を題材にした少女ヌードのCG集であるとして,明らかに性欲をかき立てる表現を盛り込んでいる他のアニメーション等の作品と同列に販売されることを前提に出品され現に販売されていたものであり,一般人から見ればそのように位置付けられていたものと認められる。加えて,被告人自身としても,本件CG集作成の動機は前記の検討したとおりと認められ,少女ヌードモデルの写真をCGで忠実に再現したものとして本件CG集を作成し,またそれを販売委託していたものであって,性的刺激を緩和するような思想性や芸術性等は認められない。
 3 以上より,「○○2」画像番号2,15,27(右側)は,いずれも「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当する。
第9 児童ポルノの製造罪が成立するには被写体が製造時及び児童ポルノ法施行日に18歳未満である必要があるか否か
 1 この点,弁護人は,①児童ポルノ法は,実在する児童に対する性的搾取や性的虐待を防止し,当該実在の児童を保護することを目的としており,製造時に児童でなければ,児童に対する性的搾取も性的虐待も存在しないことになるから,同法における「児童」は,製造時に被写体が18歳未満であることを要する,製造時に児童でなくてよいとするのであれば,大人の過去や名誉,プライバシー等を保護することにほかならず妥当でない,②児童ポルノ法施行日(平成11年11月1日)の時点で児童でない人物の姿態を描写したものは,「児童ポルノ」に該当しない,そうでなければ,かつて児童であった成人の過去が遡及的に保護されることになり,罪刑法定主義違反といわざるを得ないなどと主張する。
 2 しかしながら,①については,児童ポルノ法は,製造時に被写体が18歳未満であることを要すると明文で規定していない。また,仮に同法における「児童」は,製造時に被写体が18歳未満であることを要するとすれば,被写体が18歳未満の時点では児童ポルノに該当していた写真等について,被写体が18歳以上になれば直ちにその複写や第三者への提供が同法上何らの規制もされないことになるが,それでは,被写体となった児童の権利の擁護に反することになる上,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長し,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えることにもなりかねず,児童ポルノを製造等する行為を規制した同法の趣旨を没却することは明らかである。
 ②については,児童ポルノ法施行日の後に新たに行われた製造等の行為のみ処罰することが,事後的に制定された罰則を遡及して適用して処罰する場合には当たらず,罪刑法定主義に反しないことは明らかである。
 弁護人の主張はいずれも採用できない。
第10 故意
 弁護人は,本件16点の画像データが記録されたハードディスクが「児童ポルノ」に当たり,また,本件CGの画像データが児童ポルノ法7条4項後段の「電磁的記録」に当たるとしても,被告人には,そうした児童ポルノ等に該当する認識がなく,故意が存在しない旨主張し,被告人も公判廷においてこれに沿う供述をしている。
 しかしながら,被告人は,本件CG集について○○と「少女」という言葉を用い,前記△△においても「少女ヌード」と記載し,被告人が所有する写真集にはモデルとされた女性の年齢の記載があるものがあり,被告人自身,W,Fについては写真集でそれぞれ14歳,13歳という記載があったと述べるなどしている。以上の事実に加え,「○○2」画像番号2,15,27(右側)の各CG女性は,上記Fなるモデルなど,タナー法で乳房が3度と判定されたモデルに比べて一見して幼く見えることからすれば,被告人が,上記各CG女性が18歳以上であると確信していたなどとはおよそ解されない。そして,被告人は,本件CG集を作成した当人であって,児童ポルノ法の施行によって同法による規制の対象となった実在する児童の写真を基に,それと高い同一性を保つように意識しながら本件CGを描いたというのであるから,同CGが上記児童ポルノ等に該当し得ることに関する事実関係は十分に認識しており,さらに,後記のa社担当者とのやり取り等にも照らし,その違法性の可能性についても十分認識していたものと認められる。
 したがって,被告人において,「○○2」画像番号2,15,27(右側)が児童ポルノ等に該当することについての故意が認められることは明らかである。
第11 被告人の判示第2の事実につき間接正犯が成立するか否か
 1 前提となる事実
 甲第24号証,甲第42号証及び甲第43号証等関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
  (1) a社が運営する同人誌等のダウンロード販売サイト「a社DL」(DLはDown Loadの略。)に作品を出品して委託販売する場合,サークル(出品者の屋号のようなもの)という販売を可能とするための登録をした上で,a社DLのホームページからサークルとしてログインし,サークル管理画面において,販売開始希望日,作品タイトル,作家名及び販売価格等の項目を入力した後,各種画像アップロード画面においてパッケージ画像,サンプル画像を登録した上で,本体ファイルアップロード画面において作品本体のアップロードを行い,仮登録を完了させ,これを,a社側の管理画面においてa社の担当者が審査し終了時に「この内容に変更する」というボタンをクリックすることにより登録が完了し,販売開始希望日に自動的に出品されることとなる。そして,購入者は,a社DLの販売ページから好きな商品を選び,決済画面での操作をするなどして購入者の記録媒体にダウンロードして購入する。
  (2) ○○の管理画面には,出品者が作品を登録した日付である受付日付が平成20年8月19日,サークル名が△△,販売開始希望日が同月28日午前6時,管理者メモ欄には,「全編描き起こしたイラストレーション作品です。背景の一部を除き,写真画像を流用・使用することはしておりません。」とそれぞれ記載されている。
 ○○2の管理画面には,受付日付が,平成21年11月20日,サークル名が△△,販売開始希望日が同月27日午前0時,サイト管理者への連絡欄には,「全編描き起こしたイラストレーション作品です。背景の一部を除き,写真画像を流用・使用することはしておりません。背景に使用した写真画像も自身で撮影したものです。」とそれぞれ記載されている。
 サイト管理者への連絡欄は,出品者が自ら記載する欄である。そして,同月22日に,○○2の修正された作品(本体23頁目の画像を差し替えたもの。)が再アップロードされ,同年12月14日に,更に修正された作品(本体26頁と27頁を入れ替えたもの。)が再アップロードされた。
  (3) a社DLに出品した作品の売上金は,販売価格の30%がa社の作業手数料として引かれ,販売価格の70%が売上として出品者に支払われていた。
 2 証人C(以下「C」という。)の供述
  (1) 判示第2の犯行当時a社のアルバイト従業員として,作品の審査等を行っていたCは,公判廷において,同社の審査では,権利関係等について法律的な問題を審査する専門の部署はなく,従業員3名で,多い時で1日30~40件,少ないときで10件弱くらいの仮登録された作品について,性器の表現につき修正がかかっているか,権利関係につき盗作や模写等による著作権や肖像権の侵害がないか,児童ポルノ的な表現の有無につき作品内の人物が児童ポルノに該当する年齢であることを示す表現等がないかをそれぞれ審査していたこと,○○については,最初Cが確認し,作品が非常に写実的であったので,写真をスキャニングした上で画像を加工するなど著作権又は肖像権を侵害するのではないかスタッフ内で議論したが,性器の描写が明確ではなく,作品においてランドセル等人物の年齢を特定する物が描かれていなかったので,わいせつ性及び児童ポルノ性の関係ではいずれも問題ないと考え,最終的には,別の担当者がサークルに電子メール(以下単に「メール」という。)で連絡をして,その返信として模写やスキャニングして加工したものではない旨確認が取れたことから販売したこと,○○2については,出品者からの申し送りをする欄に,作品については自分で想像して描いた旨の記載があったこともあり,性器の修正,年齢を示唆する表現,模写していないという点は,いずれも問題ないと判断をして販売したことなどを述べる。
  (2) 前記のとおり,○○の管理画面中の管理者メモ欄に,「全編描き起こしたイラストレーション作品です。背景の一部を除き,写真画像を流用・使用することはしておりません。」と記載されているところ,その記載内容からすれば,前記管理者メモ欄の記載は,出品者が用いた表現をそのまま引用する形で管理者が記載したとみるのが自然であり,これは,Cと別の担当者がサークルにメールで連絡をして,その返信として模写やスキャニングして加工したものではない旨連絡があったと聞いたという上記Cの供述と整合している。また,○○2の管理画面中のサイト管理者への連絡欄に「全編描き起こしたイラストレーション作品です。背景の一部を除き,写真画像を流用・使用することはしておりません。背景に使用した写真画像も自身で撮影したものです。」と記載されており,同欄は出品者が自ら記載する欄であることからすれば,同記載は被告人自身が記載したものと考えられ,○○の販売前に被告人自身が同様の説明をしたことと整合する。
 以上のとおり,前記Cの供述は,客観的事実に整合しており,規約で権利侵害等がないことを確認の上登録してもらっていたので,権利侵害は基本的には起こらないという前提で審査を行っていたなどの当時の審査の実情にも照らせば,被告人の説明によって権利侵害等の違法の疑いが払拭されたとみて本件CG集を販売した旨の供述の信用性は高いと認められる。
  (3) これに対し,弁護人は,①販売する作品によってはa社に犯罪が成立する可能性があることからすれば,同社において何らの審査もせず,漫然と作品を販売することは考え難い,②Cは,被告人とのメールのやり取りで,模写や写真をスキャニングして加工したものでないことを確認した上で販売した旨を述べるが,そのようなメールは存在せず,そのメールの送信者や送信された時期,内容等が明らかではない,③本件CG集を販売したのはa社であるから,本件CG集の販売が違法ということになればC及びa社の代表者等が処罰され得る立場にあり,Cには虚偽供述をする動機があると主張する。
 確かに,③についていえば,Cが弁護人主張のとおりの立場にあること自体は否定できず,Cの供述の信用性について,慎重に判断する必要がある。しかしながら,本件CG集の販売が本件起訴から相当程度前のことであることからすれば前記のようなメールが削除されていたとしても不自然ではない(②)。そして,a社側で,専門性の高いものとはいえないとしても,権利関係等について一応の審査を行っていたと認められる上,その中で,1日の審査数の多さからしても,つぶさに写真集の存在等を確認せずに出品者を信用し,前記模写等がされていないかを同人に確認し,その上でそれらが行われていない作品であると判断して販売したというのも不自然,不合理ではない(①)。
 よって,③の点を考慮しても,Cの供述は信用でき,前記弁護人の主張は採用できない。
 3 そうすると,前記C供述等によれば,被告人は,情を知らないインターネット通信販売サイト運営会社の従業員を利用し,同サイトに販売を委託することによって,同サイトを通じて「○○2」画像番号2,15及び27(右側)の各画像を含む○○2を購入,ダウンロードさせたことが認められ,被告人には,児童ポルノ提供罪の間接正犯が成立する。
第12 結論
 以上より,「○○2」画像番号2,15及び27(右側)の各画像データに係る記録媒体すなわち被告人のパーソナルコンピュータの外付けハードディスクは児童ポルノ法2条3項の「児童ポルノ」に該当し,同各画像データは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当すると認められる。
 よって,当裁判所は,関係各証拠から,判示第1の児童ポルノ製造罪及び判示第2の児童ポルノ提供罪がそれぞれ成立すると認定したものである(なお,購入者らが本件CG集をダウンロードした場所が購入者らの自宅であったことを認める明確な証拠は存在しない。)。
 (法令の適用)
 罰条
 判示第1の所為 平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項,同条4項,2条3項3号
 判示第2の所為 包括して同法7条4項後段,2条3項3号
 刑種の選択
 判示第1及び第2の各罪 いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
 併合罪の加重
 懲役刑につき 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
 罰金刑につき 刑法48条2項(判示第1及び第2の各罪の罰金の多額を合計した金額の範囲内)
 労役場留置 刑法18条(罰金刑につき金5000円を1日に換算)
 刑の執行猶予 刑法25条1項(懲役刑につき)
 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
 (量刑の理由)
 本件は,①不特定又は多数の者に提供する目的で,児童ポルノ性の認められるCG画像3点(以下「本件3点」という。)を作成し,被告人のパーソナルコンピュータの外付けハードディスク内に記憶,蔵置させて,児童ポルノを製造し,②それらの画像をインターネット通信販売サイトを介して3名の者のパーソナルコンピュータのハードディスク内にダウンロードさせて販売(代金合計4410円)することにより,児童ポルノを提供したという事案である。
 本件3点は,被告人が,所持していた少女のヌード写真及びその画像データを用い,画像編集ソフトを使用して作成したものであり,判示認定のとおり写真との同一性が認められるほど精巧に作られたものであって,CG画像であるとはいえ,写真と比してその悪質性の程度が低いとはいえない。そのようにして作成されたCG画像が,インターネット通信販売サイトを介して,描かれたあるいは用いられた写真集のモデルとは何の接点もなく,居住地も遠く離れた3名に販売,提供されたというのであり,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるなど,法益侵害の程度は軽視できない。被告人の,少女モデルのヌードをCGで再現して不特定多数の者に見てもらいたい,また,金銭的利益を得ることも期待したといった動機は,身勝手というほかなく,そのような動機に酌むべき事情は認められない。加えて,被告人は,当公判廷において,捜査段階の供述を翻してるる不合理な弁解を述べ,本件による結果の大きさについて真摯に顧みようとする態度はみられない。
 しかしながら,被告人にはこれまでに前科前歴がないといった被告人にとって有利に斟酌することができる事情に加え,検察官の求刑は,児童ポルノ法2条3項3号に当たるCG画像が34点あることを前提としたものであることをも考慮すると,被告人に対しては,主文の懲役刑に処した上でその刑の執行を猶予し,他方でこの種事犯が経済的に引き合わないことを示すために主文の罰金刑を併せて科すのが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
 (求刑:懲役2年及び罰金100万円)
 (裁判長裁判官 三上孝浩 裁判官 西山志帆 裁判官 堀内健太郎)
 
 
 〈以下省略〉