児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

〔警察学論集第66巻第12号〕児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条第4項の「公然と陳列した」には当たらないとする反対意見が付された事例〔最高裁第三小法廷平成24年7月9日決定(判例時報2166号140頁、判例タイムズ1383号154頁)〕(担当)法務省刑事局参事官東山太郎

 奥村弁護士らの主張で、最高裁判事2名を説得したんですよ。惜しい事件。

〔警察学論集第66巻第12号〕
児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条第4項の「公然と陳列した」には当たらないとする反対意見が付された事例〔最高裁第三小法廷平成24年7月9日決定(判例時報2166号140頁、判例タイムズ1383号154頁)〕
(担当)法務省刑事局参事官東山太郎
I はじめに
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下、「児童ポルノ法」という。)第7条第4項は、児童ポルノを「公然と陳列した者」に対し罰則を設けているところ、本件は、第三者がホームページに掲載して公然陳列した児童ポルノのURLを、共犯者がインターネット上に開設したホームページに掲載した被告人の行為が「公然と陳列した」に当たるかどうかが争われた事案である。この点、本決定は、これを積極的に解した原判決を維持し、弁護人の上告を棄却したが、これには2名の裁判官による反対意見が付されたものであり、インターネットを利用したわいせつ犯罪における公然陳列罪成立の限界を探る上で捜査実務の参考となると考えられることから、本稿で紹介する。
なお、本稿中、意見にわたる部分は、もとより私見である。
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3 本決定の評価
本決定の評価については、「多数意見が原判決の法令適用の適否等については何ら判断を示さなかったものであって、法令適用等について原判決の判断を是認したと捉えることは相当ではない。
」(判時2166号141頁)との意見もあるが、誤解を恐れずに言うと、もし多数意見に立つ裁判官が反対意見と同様に公然陳列罪の正犯性を消極に解していたのであれば、原判決を破棄し得たわけであるから、本決定の多数意見はこれを積極的に解し3 本決定の評価本決定の評価については、「多数意見が原判決の法令適用の適否等については何ら判断を示さなかったものであって、法令適用等について原判決の判断を是認したと捉えることは相当ではない。
」(判時2166号141頁)との意見もあるが、誤解を恐れずに言うと、もし多数意見に立つ裁判官が反対意見と同様に公然陳列罪の正犯性を消極に解していたのであれば、原判決を破棄し得たわけであるから、本決定の多数意見はこれを積極的に解し158たものと評価する余地も十分にあり得るものと思われる。
もっとも、いずれにせよ、本決定は2名の裁判官の反対意見が付されているわけで、あるから、本決定の射程については慎重に検討する必要があるとともに、今後の判例の集積を待つ必要があろうが、少なくとも、本決定の事案よりも間接的な態様の事案、すなわち、他のホームページに記憶、蔵置されている児童ポルノ画像(ないしわいせつ画像)にたどり着くまでに、複数の操作を経る必要があるような事案においては公然陳列罪の正犯性が否定される可能性が高いといえよう。
なお、原判決は、括弧書きの中ではあるが、「「他人がウェブページに掲載した児童ポルノのURLを明らかにする情報」とは、その情報それ自体によって当該URLが明らかになるものを意味すると解すべきであり、例えば、その情報が「児童ポルノのURLは、・・という書籍の○○頁に掲載されている」などというものである場合には、「児童ポルノのURLを明らかにする情報」とはいえない。
一方、他人がウェブページに掲載した児童ポルノへのハイパーリンクを他のウェブページに設定する行為は、その行為又はそれに付随する行為が当該ウェブページの閲覧者に対し当該児童ポルノの閲覧を積極的に誘引するものである場合には、児童ポルノ公然陳列に該当する。」と述べており、参考になるものと思われる。
4 さらなる問題〜国外のサーバーに蔵置されたわいせつ画像と幇助犯
本決定の反対意見は、「被告人の行為については児童ポルノ公然陳列罪を助長するものとして帯助犯の成立が考えられる」と述べているが、仮に、同意見のようにURL掲載行為を詩助行為と捉えたとして、外国人が、外国で、我が国の基準における児童ポルノ画像(又は刑法第175条に該当するわいせつ画像)を外国に存在するサーバーに蔵置して、日本からもアクセス可能とし、行為者が我が固において、そのURLを自己のホームページに掲載したという事案では、当該行為者に我が国の児童ポルノ法違反の荷助犯(又は刑法第175条の罪の布助犯)が成立するのかという問題を考えてみたいヘこの問題では、まず、正犯である当該外国人に我が国の児童ポルノ法ないし刑法第175条の適用があるかを検討する必要がある。
山口教授は、「わいせつ画像を見る者が「被害者」であり、この意味で結果が日本で発生しているとすれば、外国において外国のサーバーにわいせつ情報を蔵置する行為も「国内犯として」可罰的となる。この点については、積極に解する余地があるように思われる。」(前掲山口論文76頁)とされ、川崎教授も「わいせつ物公然陳列罪の保護法益であるわが国の「善良な性風俗」が侵害される点では、日本国内からわいせつ画像データを海外のサーバーコンピュータにアップロードした場合と変わることはない。」(前記川崎論文17頁)とし、積極的に解しているが、塩見教授は、「わが国の法益の侵害・危殆化を理由に処罰を承認するのは保護主義の思想であって、そこから属地主義に基づく囲内犯処罰を導くことは「理論的困難」を伴うように思われる。」として消極的に解している(前掲塩見論文39頁)。
サーバーに画像を蔵置した当該外国人に我が国の児童ポルノ法ないし刑法第175条の適用があるとする積極説に立った場合には、基本的に、前記事例でURL掲載行為を行った者には、幇助犯が成立するとの見解に立つことになろう。
また、紙幅の関係で詳述を避けるが、サーバーに画像を蔵置した当該外国人に我が国の児童ポルノ法ないし刑法第175条の適用がないとする消極説に立ったとしても、国外犯処罰規定の性質につき、通説とされる実体法説中の処罰条件説を採用すれば、共犯の要素従属性につき、正犯の処罰条件が共犯に影響を及ぼすという意味での誇張従属性説を採用しない限り、日本国内でURL掲載行為をした者に方(う)所犯が成立すると考える余地はあろう。
もっとも、平野龍一教授は、「日本にいる者が教唆し、外国にいる者に犯罪を行わせた……場合は正犯者の行為が行為地法によっても犯罪であることが必要だとすべきであろう。」(平野・総論I440頁)とされており、この見解を敷桁すれば、前記事例でURL掲載行為を行った者に常助犯が成立するためには、正犯者の行為、すなわちサーバーに画像を蔵置する行為が当該外国の法によっても犯罪であることが必要となる。
この点、児童ポルノについては、世界的にこれを犯罪としている国が多数派であろうから、平野説に立っても布助行為を処罰できる場合が多いと言えようが、単なるわいせつ画像については、必ずしもそうとは言い切れないのではないだろうか。
おわりに
児童ポルノに対する処罰の国際的機運が高まる中、この種事案に対して厳格な態度をもって臨む必要があることは論を侠たないが、他方で、コンピュータ技術が発達し、手口が一層巧妙化していくことが予想されることから、いかなる行為に対していかなる処罰が可能かについて、今後の判例の動向を注視していく必要があるものと思われる。