児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

今井猛嘉「実体法の視点から」ジュリスト1431号66頁

 今井先生、児童ポルノじゃないわいせつ情報については、サイバー犯罪条約は全然関係無いですよ。「わいせつ」規制については加盟国の対応はバラバラで、厳しいのは日本政府の立法政策です。
 「「頒布」とは,この種の記録を不特定又は多数の人に対して拡散させ,その相手方をして,これをある程度継続的に保存させる行為を意味し,記録「物」の所有権の移転を伴わなくとも,頒布に該当することになる」といい今井説では、ファイル共有とかダウンロード販売は、「頒布罪」になります。

3(1) わいせつ物頒布等の罪の改正の背景
サイバー犯罪条約は,児童ポルノを含むサイパーポルノへの対策を要請している(同条9条)。児童ポルノへの対応は, 「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」(平成16年法律第106号)が,従前の「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(平成11年法律第52号)を,同条約9条の要請に沿う形で改正されることで,なされている15)。
そこで,サイバー・ポルノへの対策として残された課題は,わいせつな画像データ等をコンビュータ・ネットワークを通じて不特定又は多数の人に閲覧等させる行為への対応であった。
インターネットの普及とともに,我が国では,?わいせつな画像データ等を,サーバー
コンビュータに蔵置し,不特定又は多数の者にアクセスさせて当該データをダウンロードさせる行為や,?わいせつな画像データ等を,電子メールに添付して不特定又は多数の者に送信する行為がなされるに至り,これらが,わいせつ関連犯罪(とりわけ,わいせつ物頒布罪,ないし,わいせつ物公然陳列罪。刑175条)で処罰できるかが問題となった。
?の類型については,判例上,わいせつな画像データを蔵置したサーバーがわいせつ物であり,その内容を不特定又は多数の者に認識可能な状態に置くことで,わいせつ物公然陳列罪が成立するものとされ16),実質的には,決着をみていた。しかし?の類型については,情報としてのわいせつな画像データ自体がわいせつ物であるとして可罰性を肯定した下級審裁判例17)が存在するものの,これが刑法175条の「わいせつな図画その他の物」の解釈として可能か(無体のデータを有体「物」の中に読み込めるか)は争われていた。そこで,公然わいせつ罪(刑174条)に対してわいせつ物頒布等罪(同175条)が重く処罰されているのは,わいせつな図画・物に伝播可能な程度の固定性が認められるからだとし,わいせつ画像データも電子メール・システムとの関係では伝播可能な程度に固定されているとして,?の類型の行為の可罰性を肯定した下級審裁判例も現れるに至った18)。しかし,この論理は,学説の多くが支持するものとはならなかった。
この論理は,むしろ,わいせつ画像データ自体を刑法175条所定の「物」として把握することの困難さを,改めて示したと言えよう19)。
以上のように,サイバー・ポルノの状況に対して,刑法175条の解釈を通じて適切に対応するには, (特に?の類型との関係において)限界があったのである。そこで,これに対応すべく,本法により,同条の改正がなされた。
この改正は,サイバー犯罪条約9条の趣旨を踏まえ,日本固有の状況に対応するためになされた,必要な措置だと言うことができょう。
(2) 改正後の刑法175条
・・・
(ii)処罰対象行為の改正
次に,本法は,刑法175条所定の行為につき,次の3点で改正を加えた。
第1は,わいせつな電磁的記録等を,電気通信の送信により「頒布」する行為も,処罰するものとした点である(175条1項後段)。これは,同条1項前段において,本罪の対象として,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体が追加されたことをも考慮しつつ,現在も横行している不当な行為(特に,先の?類型)をも可罰的にするための措置である。
この立法趣旨を踏まえれは「電磁的記録その他の記録〔の〕頒布」とは,不特定文は多数の者の記録媒体にこれらの記録を存在するに至らしめる行為であると解される。すなわち「頒布」とは,この種の記録を不特定又は多数の人に対して拡散させ,その相手方をして,これをある程度継続的に保存させる行為を意味し,記録「物」の所有権の移転を伴わなくとも,頒布に該当することになる。従来,わいせつ物(有体物)の「頒布」とは,当該物を,不特定又は多数の者に,それと知りつつ渡すこと(少なくとも,その占有を移転すること)だと解されてきた。この伝統的な「頒布」概念は, (わいせつな有体物を対象とする)改正後の175条1項前段では維持されている。しかし,同条1項後段では,わいせつな電磁的記録という無体物を対象とするため,その「頒布」の意義は,前段のそれとは異なって理解されることになる。すなわち,わいせつな有体物については,その譲渡,賃貸等が「頒布」であり,電磁的記録等については,当該電磁的記録等を,相手方の記録媒体等に出現せしめることが「頒布」に該当することになる24)。
もっとも,電磁的記録の「頒布」においても,当該電磁的記録を不特定又は多数の者の下で記録させる意図で,これを送信等する必要がある。このような意図を欠く単純な送信25)は, 「頒布」に該当しないのである。また,わいせつな電磁的記録を電気送信するが,これが受信先の記録媒体において,ある程度永続的に記録ないし管理されない場合には,やはり「頒布」には該当しないことになる)。