児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ製造罪と強要罪は併合罪の関係にあるとして、両罪を観念的競合であるとした原判決に法令適用の誤りがあるとした事例(岡山支部H22.12.22 速報番号平成23年1号)

 「姿態をとらせ」非実行行為説を取って、3項製造罪の既遂時期を犯人が受信したときとして、強要の既遂時期は撮影時だとすれば、重ならないでしょ。

判示事項
児童ポルノ製造罪と強要罪併合罪の関係にあるとして、両罪を観念的競合であるとした原判決に法令適用の誤りがあるとした事例
判決要旨
(2)前記控訴理由第5,第2について
 原判決が,原判示第3の事実を認定判示した上,児童ポルノ製造の点が3項製造罪に該当し,強要の点が強要罪に該当するが観念的競合であるとして科刑上一罪の処理をするに当たり,犯情の重い3項製造罪の刑で処断する適条をしたことは所論が指摘するとおりである。
 そこで検討するに,強要罪は,脅迫し又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせる行為をしたことを構成要件とし,3項製造罪は,児童に児童ポルノ法2条3項3号に掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録にかかる記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童にかかる児童ポルノを製造したことを構成要件とするものであって,被害児童に衣服の全部又は一部を着けない姿態をとらせて撮影し,その画像データを送信させてハードディスクに記録して蔵置することをもって児童ポルノを製造した場合に,強要罪に該当する行為と3項製造罪に該当する行為とは,一部重なる点があるものの,3項製造罪において,上記のとおり姿態をとらせる際,脅迫又は暴行によることが要件となるものとは解されず,また,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるので,両罪は,観念的競合の関係にはなく,また,上記説示に照らせば,両罪は,通常手段結果の関係にあるともいえないから,牽連犯の関係にもないというべきである。
 また,強要罪は個人の行動の自由を保護法益とし,3項製造罪は,当該児童の人格権とともに抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,保護法益の一個性ないし同一性も認められないことをも考慮すれば,両罪は,混合的包括一罪ともいえず,最高裁判所平成19年(あ)第619号同21年10月21日第1小法廷決定・刑集63巻8号1070頁の趣旨に徴し,刑法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。
 そうすると,控訴理由第2の点について判断するまでもなく,両罪を観念的競合として処断刑を導いた原判決には法令適用の誤りがあるといわざるを得ない。
 しかし,正しい法令を適用して得られる処断刑のうち,懲役刑の範囲は同一であり,被害者Aにかかる3項製造罪について罰金刑を選択した場合にのみ,300万円以下の罰金を併科した処断刑が導かれることとなるが,被害者Aにかかる3項製造罪の犯情に照らすと,上記選択がなされるとは考え難く,結局,異なった量刑になる蓋然性があるとはいえず,上記法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすものとは認められない。
 したがって,原判決の適条について,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとは認められない。
(3)その他,所論が縷々主張する点を逐一検討しても,原判決に,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとは認められず,論旨は理由がない。


 観念的競合にならないというのは、職権判断じゃなく、弁護人の主張でした。

控訴理由第5 法令適用の誤り〜判示第3の強要罪と3項製造罪は牽連犯ないし混合的包括一罪となること
1 はじめに
 強要罪と3項製造罪という罪名を維持した場合の主張である。

 原判決は判示第3の両罪を観念的競合とする。

原判決
第3 包括して児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号 (児童ポルノ製造の点),
包括して刑法223条1項 (強要の点) 
科刑上―罪の処理 刑法54条1項前段,10条(第3につき犯情の重い児童ポルノ製造の罪の刑で1罪処断)

 しかし、両罪の実行行為の重なりを見ると、重なるのは、撮影させ送らせた点だけであり、他方、製造罪の核心は被告人が保存した点にあるのだから、両罪は観念的競合とはならない。
 むしろ、製造するために強要したのであるから牽連犯になると解すべきである。
 この点において原判決には法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 観念的競合説の裁判例
 観念的競合とする裁判例を目にすることがある。最高裁のサイトにも1件紹介されている。

神戸地裁H21.12.10
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100406170426.pdf
判年月日 平成21年12月10日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(わ)838号 ・ 平20(わ)1247号
事件名 強姦、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強要被告事件
第4 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の3関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年6月11日ころ,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,同児童に対し,電子メールにより,「何か挟んで撮れ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,これに応じなければ自己の自由,身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨さらに畏怖させ,よって,同児童をして,同日午後零時46分ころから同日午後5時35分ころまでの間,別表番号12ないし22のとおり,被告人方において,全裸で両乳房の間や陰部に物を挟んだ姿態等をとらせ,これを同児童の携帯電話機内蔵のデジタルカメラで撮影させ,そのころ,その画像を被告人の携帯電話機に送信させ,上記マイクロSDカードに上記画像データ11ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,

 他にも
札幌地裁H20.12.11
福井地裁H20.10.8
徳島地裁H20.2.13
大阪地裁H21.7.17
津地裁
青森地裁
が観念的競合で処理している。
3 両罪の実行行為
 本件の訴因を分析するとおおよそこのように分析できる。

 「姿態をとらせ」は3項製造罪の実行行為ではないので、重なり合いの検討対象とはならない。
 3項製造罪の実行の着手は、被害児童をして撮影させた時点である。既遂時期は、原判決も

(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,判示第3の事実について,事実関係についてはこれを認めるとしつつ,罪名及び犯罪を構成する範囲等について,本件では,被害児童にカメラ機能付き携帯電話機で乳房等を露出した姿態を撮影させた時点で,児童ポルノ法7条2項の児童ポルノ製造罪が既遂となるなどとして,被告人には同法7条3項の児童ポルノ製造罪は成立しない旨の主張をしていると解される(平成22年5月21日付けの「公訴事実に対する弁護人の意見(H22.3.19付起訴状)」と題する書面第3項)。
 しかしながら,関係各証拠によれば判示第3の事実を優に認定できるところ,本件では,児童ポルノを自己の使用するパーソナルコンピューターに内蔵されたハードディスクに保存する意図を有する被告人が,被害児童に乳房等を露出した姿態等を携帯電話機で撮影させて,その画像データを被告人宛送信させ,さらに同データをパーソナルコンピューターで受信し,同データをハードディスクに記録するという方法でもって,最終的に被害児童の姿態を描写し,児童ポルノを製造する行為を完成させたというべきである。

というのだから被告人が受信して被告人のPCのHDDに記録蔵置した時点である。
 とすると両罪の実行行為が重なるのは、「被害児童に撮影・送信させた」部分だけである。

4 3項製造罪の核心は撮影行為ではなく媒体に記録することにある。
 判例によれば、福祉犯・性犯罪と3項製造罪の罪数が問われた場合には、最終媒体までの記録行為(通常、性犯罪より後に続く)を重視して、併合罪とする。
 たとえば、広島高裁H22.1.26はわいせつ行為との関係についてではあるが、撮影後に別の媒体に複製したことを重視して併合罪としている。
 大阪高裁H21.5.19も児童買春罪との関係についてではあるが、撮影後に別の媒体に複製したことを重視して併合罪としている。
 福岡高裁H21.9.16は青少年条例違反と3項製造罪の関係について「たしかに,被告人が被害児童の本件各姿態をデジタルカメラで撮影する行為は,3項製造罪における児童ポルノを製造するのに必要な行為に当たるとともに,本件条例違反のわいせつな行為にも当たるといえるが,本件条例違反のわいせつな行為の主要部分は,被告人が,被害児童の乳房をもんだり,同女に被告人の陰茎をロ淫させるという性的な接触行為であること,他方,原判示第2の3項製造罪においては,デジタルカメラの記録媒体に記録してあった本件画像をパーソナルコンピューターのハードディスクに記録する行為が主要部分に当たると解されることからすれば,原判示第1の罪と第2の罪における被告人の行為が,自然的観察の下で,社会的見解上1個のものと評価することはできない。」として最終媒体への記録行為を重視している。

 東京高裁H20.9.18も児童買春罪との関係について、「そのような姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為も,3項製造罪に当たると解する以上,上記性交等のなされた時間場所とは異なる時間場所においてなされる,別の記録媒体に記憶させる場合も処罰範囲に含まれることになるから,上記の自然的観察のもとにおいては,児童買春行為と3項製造罪に係る児童ポルノ製造行為とは,社会的見解上別個のものと評価すべきであって,これを1個の行為とみることはできない。」として最終媒体への記録行為を重視している。

 だとすれば、本件の製造罪の核心は、被告人の(受信行為+)パソコンのHDDへの蔵置であるから、両罪の重なり合いを見る場合にもその点を考慮すべきである。

 こう並べてみると、各高裁は臨機応変に製造罪の一罪の範囲を伸縮させて場当たり的に破棄を逃れているような感じで、弁護人もなにが判例なのか判らない。

5 観念的競合にはならないこと
 3項製造罪と他罪との関係については、最決H21.10.21が

児童福祉法34条1項6号違反の罪は,児童に淫行をさせる行為をしたことを構成要件とするものであり,他方,児童ポルノ法7条3項の罪は,児童に同法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造したことを構成要件とするものである。本件のように被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。

と判示しているところ、両罪の実行行為が重なるのは、「被害児童に撮影・送信させた」部分だけであることや、両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはないというべきである。

6 牽連犯・混合的包括一罪であること
 弁護人からは併合罪の主張はできないので、科刑上一罪を維持するために牽連犯ないし混合的包括一罪となると主張する。。

7 併合罪
 弁護人は併合罪の主張をしないが、職権判断もあり得るところであるので、職権判断の材料として併合罪説の裁判例を紹介しておく。
 弁論要旨でも紹介した倉敷支部H19.2.13は併合罪として処理されている。
岡山地裁倉敷支部H19.2.13
松山地裁西条支部H18.12.11

 なお、併合罪説を採ると、本件の訴因は1個の訴因で併合罪関係の2罪を記載したことになるから、訴因不特定となって、公訴棄却となるはずである。

8 まとめ
 強要罪と3項製造罪という罪名を維持した場合、両罪の実行行為の重なりを見ると、重なるのは、撮影させ送らせた点だけであり、他方、製造罪の核心は被告人が保存した点にあるのだから、両罪は観念的競合とはならない。
 むしろ、製造するために強要したのであるから牽連犯になると解すべきである。
 又は、一連の行為であるから混合的包括一罪と言うべきである。
 この点において原判決には法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。