こういう論告をいただき、判決でも採用されました。
大阪地検
本件の児童買春罪と3項製造罪は併合罪である
(1) 本件の児童買春と 3項製造罪が併合罪であるか,観念的競合であるかについては,刑法 54条 1項にいう「一個の行為とは,法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合」であるか否かによって決せられる(最大判昭和49年5月29日.参照)。
(2) 本件の場合,前記のとおり 「製造」とは,児童ポルノを作成することをいうのであるから 「姿態をとらせること」は「製造」とは別の行為であって, 3項製造罪の実行行為ととらえるべきではないこと(仮に「姿態をとらせること」を 3項製造罪の実行行為と解すると,姿態をとらせた時点で 3項製造罪の実行の着手があったことになるが,これでは実行の着手時期として早きに失することは明らかである。)からすれば,児童買春罪と 3項製造罪とはその実行行為が部分的にも重なり合う関係にはない。
さらに,本件の場合ハードディスクに編集して記録させた場面では,日時場所ともに異なる 。
なお,最高裁決定の原審である名古屋高裁金沢支部平成17年6月判決も,本件と同様の事例において,併合罪で処理し,最高裁決定はそれを是認している。
以上のことからすれば,本件においては,児童買春行為と 3項製造行為が自然的観察の下で,本件各行為が社会的見解上 1個の行為と評価することはできない。
したがって,本件各犯行は,概念的競合ではなく,併合罪である。
最高裁H18.2.20 も名古屋高裁金沢支部H17.6.9も、奥村が弁護人なのでよく覚えていますが、姿態をとらせを実行行為ではないとしているわけではない。
なるほど複製行為に製造罪が成立する理由においては「姿態をとらせて」の実行行為性に言及していない。
しかし、同判決は「姿態をとらせて」に該当する事実は、判示第1の児童買春罪の事実であってそこに記載されているから、実質的に問題がないとしているのであって、実行行為ではないから記載不要であるとはしていないのである。むしろ、実行行為であるから訴因や犯罪事実として記載することを勧めているのである。実行行為でないことを記載せよとか、別途記載されているから問題ないなどと判示するはずがない。
名古屋高裁金沢支部h17.6.9
1所論は,原判示第2の2の児童ポルノ製造罪について,
②公訴事実には,ミニディスク,メモリースティック,ハードディスクの作成につき,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,単に「法」という。)7条3項に規定する児童ポルノ製造罪の構成要件である「姿態をとらせ」に該当する事実が記載されていない,
・・・というのである。
2しかしながら,所論②については,確かに,公訴事実には,「姿態をとらせ」に当たる事実の記載がなく,それを明確に記載するのが望ましいとはいえるものの,平成16年10月20日付け起訴状では,第1で被害児童と性交するなどして児童買春をした旨の記載があり,それに引き続き第2の事実が記載されており,第2の罰条について法7条3項が挙げられていることからすると,被告人の言動等によって,当該児童が性交に伴う「姿態」等をとったことは,上記起訴状記載の公訴事実の記載から理解することができる。したがって,「姿態をとらせ」の文言が記載されず,それに該当する事実が明示されていなくても,訴因が特定されていないとはいえず,これをそのまま認定した原判決に違法な点があるとまではいえない。
結局、同判決は、「姿態をとらせて」は実行行為ではあるが、撮影者が複製する時点では改めて「姿態をとらせて」は必要ないという趣旨なのである。
そこへ東京高裁H17.12.26が出た。
端的に「姿態をとらせた」を「行為要素」だとする。これを実行行為として初めて、児童淫行罪と3項製造罪とは行為が重複して、観念的競合となりうるのである。
東京高裁H17.12.26
そこで原判決の説示内容を検討するに,原判決が,その「犯罪事実」の項において,「被告人は,別紙一覧表記載のとおり,・・・,携帯電話機附属のカメラを使用して,児童である・・を相手方とする性交に係る同児童の姿態等を撮影し,その姿態を視覚により認嘩することができる電磁的記録媒体であるフラッシュメモリ1個に描写し,もって,同児童に係る児童ポルノを製造した。」と認定し,その別紙一覧表において,児童ポルノの種類として法2条3項各号に該当する姿態の内容を明記し,「法令適用」の項においては,別紙一覧表の各行為について,法7条3項,1項及び2条3項各号を適用していることからすれば,原判決の判断は,被告人の各行為について法7条3項の児童ポルノ製造罪が成立するものと認定する趣旨ないし意図であることは明らかである。
しかしながら,法7条3項は,「児童に第2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に括写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造した者」とし,「児童に姿態をとらせ」という行為をその犯罪構成要件として規定していることは明らかである。児童に姿態をとらせる行為が他の不可罰的な行為とを画する重要な行為要素であることなどにかんがみれば,原判決には罪となるべき事実の記載に理由の不備があるというほかはない。訴因の記載上の不備と異なり,判決のこのような理由上の不備を見過ごすことはできない。
したがって,その余の控訴趣意に対して判断をするまでもなく,原判決はこの点において破棄を免れない。
さらに、札幌高裁H19.3.8は「児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせ」とは,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい,強制を要しないと解されるところ,関係証拠によれば,被告人は,児童と性交等を行っているが,これらの行為は通常当事者双方の言動により行為に至るものであって,本件においても,被告人が警察官に対し,「(ビデオに撮影した)これらの場面はセックスの一連の行為の一場面であります」と述べているように,被告人は,自ら積極的に児童に性交等の行為を行い,あるいは,児童の性交等の行為に応じる言動をしているのであって,この被告人の言動等により児童は性交等の姿態をとるに至ったと認められる。被告人が児童に「姿態をとらせ」たことは明らかである」というのだから、「姿態をとらせた」を「行為要素」だとしていることが明かである。札幌高等裁判所刑事判決速報(通巻第167号)で周知徹底されている。
さらに、札幌高裁H19.9.4は実行行為性を明確にしている。