児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「姿態をとらせ」が実行行為であって、撮影の際に必要となることは判例である(最高裁H20.5.30)

 こういう最近の判決があります。

最高裁H20.5.30
上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反・・・事件について, 平成19年9月4日札幌高等裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から上告の申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり決定する。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の規定について憲法21条,35条違反をいう点は,上記規定中の「姿態をとらせ」という文言が所論のように不明確であるとはいえず,上記規定が表現の自由に対する過度に広範な規制であるということもできないから,所論は前提を欠き(最高裁平成17年(あ)第1342号同18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号216頁参照),判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって,同法414条,386条1項3号,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
平成20年5月30日
最高裁判所第二小法廷

 原判決(札幌高裁H19.9.4)は、複製行為についても3項製造罪が成立するという判決です。

札幌高裁H19.9.4
 論旨は、要するに、本件児童ポルノ製造行為には、「携帯電話による撮影行為」と「携帯電話内蔵メモリからminiSDカードの複製」という2段階の製造行為があり、この携帯電話の内蔵メモリからminiSDカードの複製行為には、実行行為である姿態をとらせる行為が存在しないから、児童ポルノ法7条3項の構成要件を満たさないのに、原判決が電磁的記録に係る記録媒体1枚(miniSDカード)の児童ポルノ製造罪を認め、このminiSDカードを没収した原判決には、法令適用の誤りがある(控訴理由第3)、というのである。
 しかしながら、上記のとおり、本件のように、複数の製造行為が連なっていて、同一の者が犯意を継続してこれらの行為を行った場合には、包括一罪となるのであって、「児童に姿態をとらせ、これを携帯電話内蔵カメラで撮影した上、電磁的記録に係る記録媒体1枚(miniSDカード)に描写し」たことが一体として児童ポルノ製造罪の実行行為となる。したがって、「姿態をとらせ」る行為も存在し、児童ポルノ法7条3項の構成要件を満たすことは明らかであり、その姿態を描写したminiSDカードが児童ポルノであって犯罪組成物件となることも明らかである。これと同様の判断に基づいて、児童ポルノ製造罪の成立を認め、本件miniSDカードの没収をした原判決の判断に法令適用の誤りはない。所論は、弁護人独自の見解に基づき原判決を曲解したものであって、その前提を誤っており、採用できない。論旨は理由がない。

 「姿態をとらせて」実行行為説は判例(東京高裁H17.12.26、札幌高裁H19.3.8・・・これらは複製がない事案)で、判例によれば、複製行為は「姿態をとらせて」がないから、不可罰になるというのが判例違反の上告理由でした。

上告趣意書
上告理由第3 法令違反・判例違反〜携帯電話の内蔵メモリからminiSDへの複製行為は3項製造罪の構成要件をみたさない。 19
1 はじめに 19
2 本件の児童ポルノ製造の過程(携帯電話内蔵メモリも児童ポルノである) 19
3 本件の児童ポルノ製造過程の法的評価(中間媒体の生成行為や複製行為も製造罪である) 27
① 撮影行為とダビング行為は、別個の製造罪(大阪高裁 平成14年9月10日) 28
② 撮影行為とダビング行為は、別個の製造罪(東京高裁平成15年6月4日)(上告棄却) 30
③ 金沢地裁H17.1.11 32
4 「姿態をとらせ」る行為の実行行為性 33
(1)3項製造罪の趣旨 33
(2) 「姿態をとらせ」とは 35
(3) 新旧製造罪の比較 37
(4) 裁判例 39
①東京高裁H17.12.26*5 39
②札幌高裁H19.3.8*6 41
③大阪高裁H18.10.11*7(提供目的製造罪と児童淫行罪) 43
④原判決(札幌高裁H19.9.4) 44
判例にみる児童買春罪・児童淫行罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)の行為の重なり 45
5 A罪B罪を包括一罪とする場合、A罪の構成要件もB罪の構成要件も満たさなければならない。 47
6 最高裁h18.2.20*8との関係 49
7 立法者の見解=実行行為説 51
8 まとめ 55

 これに対する最高裁の判断が「判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく」ということなんです。
 とすると、「判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく」という「判例」というのは、「実行行為説の東京高裁H17.12.26、札幌高裁H19.3.8・・・これらは複製がない事案」のことで、札幌高裁H19.9.4で問題となっているのは複製行為なので、事案が違うというのです。
 また、最高裁h18.2.20は複製行為には「姿態をとらせ」不要説なんですが、最高裁は「姿態をとらせ」実行行為説の札幌高裁H19.9.4が上がってきても、「姿態をとらせ」非実行行為説が判例なんだという理由では排斥しないわけで、「姿態をとらせ」非実行行為説が判例というわけではないことも明らかになりました。