児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

中学生同士の性交について、自己の性的好奇心を満たす目的で被告から準強姦行為をされ,その結果妊娠,出産を余儀なくされたと主張する原告が,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として,慰謝料等合計2236万1594円等の支払を求めた事案(請求棄却 東京地裁h30.1.30)

 結論は「本件性交渉は準強姦行為であって,これが原告の権利を侵害する不法行為であることを認めるに足りる証拠はないというべきである。本件性交渉は不法行為とはいえない。」ということでした。

裁判年月日 平成30年 1月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2018WLJPCA01308014
原告 
X 
同訴訟代理人弁護士 
大野康博 
被告 
Y 
法定代理人親権者 
A 
同訴訟代理人弁護士 
加藤俊子 

主文

 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 被告は,原告に対し,2236万1594円及びこれに対する平成26年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,被告から準強姦行為をされ,その結果妊娠,出産を余儀なくされたと主張する原告が,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として,慰謝料等合計2236万1594円及びこれに対する不法行為の日よりも後の日である平成26年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 1 前提事実((4)につき当裁判所に顕著な事実,その余につき当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 当事者等
 原告は,平成11年○月○日生まれの女性であり,被告は,同年○月○日生まれの男性であり,ともに同じ中学校に通っていた。(甲12,13)
  (2) 原告被告間の性交渉
 原告と被告は,中学2年生であった平成25年7月21日,B(以下「B」という。)やC(以下「C」という。)等の友人らとともに,a公園において飲酒をしながら花火を行うなどした。原告と被告は,他の友人らが帰宅した後,同所において性交渉を持った(以下「本件性交渉」という。)。
  (3) 原告による子の出産と被告による認知等
   ア 原告は,平成26年○月○日,その子であるD(以下「D」という。)を出産した。原告と被告は,Dの父親を確定するためのDNA鑑定を行ったところ,同年7月17日,Dは被告の子であることが判明した。そこで,原告と被告は,同月18日,それぞれの両親を交えて話合いを行った(以下「本件会談」という。)。(甲1,2,5の1)
   イ 被告は,平成27年6月22日,Dの認知をした。また,原告と被告との間で,平成28年2月9日,被告が,原告に対し,①平成28年2月からDが満20歳に達する日の属する月までDの養育費として月額3万円を,②平成28年1月までのDの未払養育費として66万円を,③Dの出産費用の一部として16万円を,それぞれ支払う旨の調停が成立した(東京家庭裁判所平成27年(家イ)第7323号養育費調停事件)。(甲4)
  (4) 被告による消滅時効の援用
 被告は,原告に対し,平成29年2月28日の第1回口頭弁論期日において,原告の被告に対する本件性交渉に係る不法行為に基づく損害賠償請求権について消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
 2 争点及びこれに対する当事者の主張
  (1) 本件性交渉は被告の不法行為といえるか(争点(1))
 (原告の主張)
 被告は,原告が飲酒により前後不覚であることに乗じて,原告の同意なしに本件性交渉を行ったものであるから,本件性交渉は準強姦行為であって不法行為である。このことは,①一緒に遊んでいた友人らが帰宅した時点では原告は酔って動けない状態であったところ,被告は原告を送っていくと申し出て,原告とあえて二人きりになったこと,②被告は,本件性交渉の直後,原告に対し,原告が酔って記憶を無くしていた様子である旨を認めるメールを送り,また,本件会談の際,本件性交渉が準強姦行為であることを認めていたこと,③被告は女友達に性行為を求める言動を繰り返すような,性欲を満たす行動にちゅうちょなく出る人物であるところ,被告は原告に好意を抱いていた一方で,原告は被告に嫌悪感を抱いていたこと等から明らかである。
 (被告の主張)
 本件性交渉は原告の同意に基づくものであって不法行為とはいえない。原告は,飲酒をしていたものの意識が無くなっていたわけではなく,芝生に座って携帯電話を操作するなどしていたし,本件性交渉は,むしろ原告が性体験のなかった被告を主導して行われた。現に,原告は,本件性交渉が終わった後,自ら身支度を整えた上で,自転車に乗って帰宅している。
 被告が本件性交渉の直後に原告に対してメールを送ったのは,初めての性体験に興奮していただけであるし,原告からも,本件性交渉が準強姦行為であるなどと被告を非難するような返信はなかった。被告は,本件会談においても,本件性交渉が不適切であったことや被告が父親として責任を取るべきであることを認めたにすぎず,本件性交渉が準強姦行為に当たることを認めたわけではない。また,被告の女友達に対する行動も,異性に興味を持つ青少年期の男子として通常の行動にすぎない。よって,これらの行為は被告の準強姦行為を推認させるものではない。
  (2) 損害額(争点(2))
 (原告の主張)
 被告の不法行為により,原告には少なくとも以下のとおりの合計2236万1594円の損害が生じた。
   ア 妊娠,出産費用等 36万1594円
 (ア)から(エ)までの合計金額から(オ)の金額を控除した額である。
 (ア) DNA鑑定関連費用 5万2800円
 (イ) 出産費用 31万3180円(ただし,出産育児一時金を差し引いた後のもの)
 (ウ) 交通費 2万4400円
 (エ) 出産関係費用 15万7614円
 (オ) 被告による既払金 18万6400円
  ① DNA鑑定関連費用 2万6400円
  ② 出産費用 16万円
   イ 養育費 1000万円
 子供一人当たりの20歳までの養育費は約2500万円以上であるところ,仮に被告がDの養育費として月額3万円を20年分支払ったとしても,同人の養育費は約1800万円不足するから,原告には同額の損害が発生している。原告はこのうち1000万円について一部請求を行う。
   ウ 慰謝料 1000万円
 原告は,被告の準強姦行為の被害を受け,その結果Dを妊娠,出産し,養育していくことを余儀なくされた。その上,被告は,自らの準強姦行為を否認する虚偽の主張を行い,原告の心情を著しく傷つけていることも併せれば,原告の精神的苦痛に対する慰謝料は1000万円を下らない。
   エ 弁護士費用 200万円
 (被告の主張)
 否認し,争う。
  (3) 消滅時効の成否(争点(3))
 (被告の主張)
 仮に本件性交渉が不法行為であるとしても,本件性交渉は平成25年7月21日に行われたものであるから,消滅時効が完成しており,本訴請求に係る損害賠償請求権は,消滅時効の援用により消滅したことになる。
 (原告の主張)
 被告による不法行為の終期は,原告がDを出産した平成26年○月○日であるから,消滅時効の起算点は早くても同日である。また,DNA鑑定の結果が判明してDが被告の子であることが明らかとなった同年7月17日までは,原告が被告に対して権利行使をすることが現実には期待できなかったから,消滅時効の起算点は同日である。したがって,消滅時効は完成していない。
第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
 前記前提事実に加え,証拠(甲6,7の1,7の5,11,乙5,6,証人C,証人B,原告本人,被告本人のほか掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
  (1) 原告と被告の関係等
   ア 原告と被告は,同じ中学校に通っていた同級生(本件性交渉当時中学2年生)であり,平成24年4月に中学校に入学して間もなく,一時期交際したことがあったが,交際期間を含め,二人きりで外出して遊んだことはなかった。
 被告は,中学校の野球部やクラブチームに所属して野球に勤しみつつ学校に通っていたが,原告は,学校を休みがちであった。(乙1から4まで,8から10まで(枝番を含む。))
   イ 原告は,平成24年夏頃から平成25年6月頃まで,中学校の一学年上の男性と交際し,その間には同人と性交渉もあったが,本件性交渉当時は交際相手を有していなかった。一方で,被告は,本件性交渉当時はBと交際していたが,それまでに性交渉の経験はなかった。
   ウ 被告は,同じ中学校に通う女友達に対し,エッチしようなどと言うことはあったが,その体を無理に触ろうとしたことはなかった。また,被告は,原告やBと交際中も,同人らの体を無理に触ろうとしたことはなかった。
 なお,本件性交渉当時,原告は身長約170cm,体重約50Kgであったのに対し,被告は身長約165cm,体重約55Kgであった。
  (2) 平成25年7月21日の出来事について(本項は基本的に同日の出来事である。)
   ア 当日,原告は,Bら女性の同級生5人とともに,缶酎ハイ等のお酒やソフトドリンクを併せてスーパーのカゴ1個分購入した後,自転車でa公園に向かった。なお,Bは,原告の自転車に一緒に乗って同公園に向かった。
 別紙1及び2は,a公園内の原告と被告が飲酒をしながら花火を行うなどした場所及びその付近を撮影した写真であるが,原告は,午後4時30頃,別紙1の道路沿いの柵の辺りに自転車を止め,上記同級生らとともに,別紙2の奥側の緑地(以下「本件現場」という。)まで前側の斜面を降りてビニールシートを敷き,その上に座って飲酒をしながら歓談するなどしていた。なお,当時は,別紙2に写されている金網の代わりに柵(道路沿いの柵と同種のもの。)が設置され,その柵と道路沿いの柵との間には,体を細めて横に出るようにすれば一応通行可能な程度の隙間があった。また,上記柵の高さは約110cmであった。(乙7(枝番を含む。))
   イ 被告は,Cら男性の同級生2人及びCの弟(小学生)とともに,花火を購入した上,午後7時頃までに原告らの集まりに参加した。参加した者は,花火をしたり,座って歓談したり,各自携帯電話で遊んだりするなどして過ごした。原告は,飲酒により酔っていたものの,少なくとも午後8時頃までは,花火や歓談に参加し,また,その頃,Bとの間で,午後10時頃には帰ろうといった会話をしていた。一方,被告は,一口程度しか飲酒をしなかった。
   ウ 原告らの集まりは,午後9時半頃には終了し,その時点において本件現場に残っていたのは,原告,被告,B,C及びその弟のみであった。そして,CがBを送っていくこととなり,C,その弟及びBは,午後9時45分頃,帰っていった。一方,被告は,Bらに対し,自らが原告を送っていく旨を申し出て,原告と被告は二人きりで本件現場に残った。
   エ 原告と被告は,その後,本件現場において,性交渉を持った(本件性交渉)。そして,原告と被告は,敷いていたビニールシートを片付けるなどした上,午後10時30分頃までに,道路沿いの柵の辺りに置いていたそれぞれの自転車に乗って一緒に帰路についた。本件現場からの帰宅経路は,原告が別紙3記載①から②まで,被告が同記載①から③までであり,本件現場から原告の自宅までの帰宅経路の距離は約2.4kmである。
   オ 原告は,午後10時50分頃までに帰宅した。その際,原告に下着や洋服の乱れはなかった。(甲9)
   カ 被告は,帰宅後,原告に対し,「お前俺とやったんだけど覚えている?」という趣旨のメール(以下「本件メール」という。)を送信した。もっとも,原告は,その後,本件メールに返信するなどして,事実関係を確認したり,被告を非難することをしなかった。
  (3) 本件会談について
 原告は,平成26年○月○日,Dを出産した。原告は,当初,Dの父は前記(1)イの交際相手ではないかと考えていたが,DNA鑑定の結果,同人がDの父親ではないことが分かった。そこで,原告は,被告に対し,DNA鑑定に応じるよう求め,その結果,被告がDの父である旨の検査結果が出たことから,原告と被告及び双方の両親は,同年7月18日,本件会談を行った。本件会談においては,以下のような内容を含むやりとりがあった。(甲1,2)
   ア 被告は,原告の母から,被告が原告とともに本件現場に残った理由を問われ,原告が寝そうだから1人にしては駄目かと思ったと返答した。
   イ 被告は,原告の母から,本件性交渉がどのような経緯で行われたのか問われ,本件性交渉はその場の空気で,原告との合意に基づいて行われたと返答した。しかし,被告は,原告の母から,本件メールを原告に送った理由を問われると,酔っていたから記憶にないのかと思ったと返答し,原告の母からそれは合意ではないと指摘を受けると,これを肯定した。もっとも,被告の父から,被告が原告を襲ったのかと問われると,襲っていないと返答した。
   ウ 被告は,原告の母に対し,原告と二人きりになる時点で性交渉をするつもりがあったのではないかと問われ,原告が眠そうであったから,他の女友達も含めて帰ろうよと言っても,完全に横になって帰ろうとしなかったため,自分が送っていく旨申し出たにすぎないと返答した。
 2 争点(1)(本件性交渉は被告の不法行為といえるか)について
  (1) 原告は,本件性交渉は酒に酔った原告が前後不覚の状態にあることに乗じて行われた被告による準強姦行為であって,不法行為に当たると主張する。
 しかしながら,原告は,本件性交渉当日である平成25年7月21日,飲酒をしていたものの,少なくとも午後8時頃までは,花火や歓談に参加することはできていた。そして,本件性交渉は,午後9時45分頃から午後10時30分頃までの間に行われたが,原告は,その後間もない午後10時50分頃までに,まず,本件現場の片付けを行った上で,本件現場から徒歩で海辺から土手上の道路までそれなりに勾配がある斜面を上り,約110cmの高さの道路沿いの柵を乗り越えるか,柵と柵との間にあるわずかな隙間を通過した後,本件現場から約2.4km離れた原告の自宅に自ら自転車に乗って帰宅している。そうすると,原告は,本件性交渉当時も,相当程度の運動能力,判断能力を維持していたものというべきである。
 そして,原告は,本件性交渉直後,途中まで被告とともに帰宅していること,原告は帰宅時着衣や下着の乱れが特段なかったことに加え,被告が原告に対して送信した本件メールは,本件性交渉があったことを示すものであるのにもかかわらず,原告が被告に対して何ら事実関係を確認しようとメールの返信をしたり非難したりするといった行動に出ていないことは前記認定のとおりであり,これらの事実は,仮に本件性交渉が原告の同意なしに行われていたのであれば不自然なものといえる。これに加え,原告と被告は同じ中学校の同級生という関係であって,一時交際していた時期もあったこと,本件性交渉当時,原告は交際相手を有していなかったことからすると,原告の同意の下本件性交渉が行われたとしても不自然であるとまでいうことはできない。
 以上の事実を総合すると,本件性交渉が原告の心身喪失又は抗拒不能状態に乗じた被告による準強姦行為であると認めることはできない。
  (2) これに対し,原告は,本件性交渉が準強姦行為であることに沿う事実として,被告が,本件性交渉当時酔って動けない前後不覚の状態であった原告を送っていくと申し出て,あえて原告と二人きりになったと主張する。
 確かに,自身がa公園から帰宅する際にその場に残った原告の様子について,Bは,原告訴訟代理人の質問に対する回答書(甲7の1)及び証人尋問において「寝ていた」「私が帰るときにはもう応答はなかった」との証言等をしている。また,Cは,同様の回答書(甲7の5)及び証人尋問において「歩ける状態ではなかった」「歩き方はふらふらという感じでした」との証言等をしている。
 しかしながら,原告が本件性交渉当時,相当程度の運動能力及び判断能力を有していたと考えられることは前記説示のとおりである。他方,前記認定事実によれば,原告の友人らが数時間にわたって飲酒していたことは明らかである上,証拠(証人C)によれば,Bはa公園から帰宅する際,相当程度酔っていたと認められる。そして,証拠(甲6から7の5,証人B)によれば,原告の友人らは本件性交渉当日から1年数か月が経過した後になって初めて自身がa公園から帰宅する際にその場に残った原告の様子等を確認しあったことが認められる(この確認の時期について,原告は,陳述書(甲11・3頁)において,DNA検査によってDの父が被告と判明する前と説明しているが,原告の友人らの認識(甲7の1から7の4まで参照)と一人異なることに照らし,原告の上記説明を直ちに採用することはできない。)。これらの諸点に照らし,Bをはじめとする原告の友人らの本件性交渉当日の記憶は,原告の主張に沿ったものに変容している可能性が否定できず,証人Bの上記証言等は直ちに採用することができない。また,証人Cの上記証言等は,原告が一定程度酒に酔っていたことをうかがわせるものの,性交渉に及ばれても何ら気付かないとか抵抗することができないといったほどの心神喪失又は抗拒不能な程度に酩酊していたことを示すものではない。
 したがって,この点の原告の主張は採用することができない。
  (3) 次に,原告は,被告が,本件性交渉後,原告が酔って記憶を無くしていた様子である旨を認める内容の本件メールを送り,また,本件会談においても本件性交渉が準強姦行為であることを認めていることが,本件性交渉が準強姦行為であることを推認させると主張する。
 しかしながら,被告自身,原告が飲酒をしていたことは認識していたのであり,本件メールは,それ自体は性交渉に及んだことを覚えているかという趣旨のものであること,本件会談においては,被告は原告及び原告の父母と対面しており,これらの者に配慮した発言をしている側面があると考えられることに照らせば,本件メールの内容や本件会談における被告の各発言は,原告が酒に酔っていたことを認識しながら被告が本件性交渉に及んだことを示すにとどまり,本件性交渉が準強姦行為であることを直ちに推認させるものではない。
 したがって,この点の原告の主張は採用することができない。
  (4) さらに,原告は,被告は女友達に性行為を求める言動を繰り返すような,性欲を満たす行動にちゅうちょなく出る人物であり,被告は原告に好意を抱いていた一方で,原告は被告に嫌悪感を抱いていたことが,本件性交渉が準強姦行為であることを推認させると主張する。
 しかしながら,被告は,異性に対する関心の高まる青少年期にあったこと,それまで原告やBに対して意に反した身体的接触を求めることはなかったことからすると,原告の主張する被告の言動から直ちに本件性交渉が準強姦行為であると推認するのは,飛躍が過ぎるというべきである。また,原告の主張する被告の言動の具体的内容に加え,そのような言動に及ぶ被告からの交際の申込みに原告が応じたこともあったこと,そもそも学校を休みがちであった原告と野球に勤しんでいた被告との接触がさほど頻繁なものであったとは考えられないことを併せ考慮すると,原告が時には煩わしく思うようなことは別論として,これを超えて被告に強い嫌悪感まで抱いていたとはにわかに考え難い。そして,他にこの点を根拠付ける十分な事情を認めるに足りる証拠はない。
 したがって,この点の原告の主張は採用することができない。
  (5) 以上によれば,本件性交渉は準強姦行為であって,これが原告の権利を侵害する不法行為であることを認めるに足りる証拠はないというべきである。本件性交渉は不法行為とはいえない。
第4 結論
 よって,その余の争点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第25部
 (裁判長裁判官 鈴木尚久 裁判官 鈴木雅久 裁判官 川北功)
 
 
 〈以下省略〉

教員のわいせつ行為につき、行為否認の不合理弁解をしても「他の同種事案と比較して犯行態様が極めて悪質とまではいえない」などとして執行猶予にした事例(名古屋地裁H30.2.28)

 

 報道では7歳とされていました。
 わいせつ行為の定義は争われていません。
 被害者証言の信用性を否定する心理学者の鑑定書が採用されています

裁判年月日 平成30年 3月28日 裁判所名 名古屋地裁 裁判区分 判決
事件名 強制わいせつ被告事件
文献番号 2018WLJPCA03286002
 上記の者に対する強制わいせつ被告事件について,当裁判所は,検察官大野智己及び同笹井卓並びに弁護人(私選)塚田聡子(主任)及び同中谷雄二各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 

主文

 被告人を懲役2年に処する。
 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。
 
 
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は,A(別紙記載。当時○歳)が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,平成28年1月22日午後1時15分頃から同日午後1時30分頃までの間に,愛知県●●●内の小学校(別紙記載)○年○組教室内において,同人に対し,その襟元から着衣の中に右手を差し入れて同人の胸を直接触り,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をしたものである。
 (証拠の標目)
 (弁護人の主張に対する判断)
 被告人及び弁護人は,被告人は判示行為をしておらず無罪であると主張する。
 1 Aの供述
  (1) 掃除の時,教室の先生(被告人。以下同じ。)の机の後ろで,しゃがんでちり取りとほうきで掃除をしていた。机で作業をしている先生に取れたごみを見せると,先生は,座ったままくるっと横を向いて,私の服の首元から右手を入れて,「おっぱい。」と言いながら人さし指でちょんちょんと2回私の左乳首を直接触った。えっと思ってびっくりした。嫌だって言ったり,泣いたりすると,皆寄ってきて恥ずかしくなるから,そのまま掃除を続けた。
  (2) 上記供述は,被害の状況や当時の心境が,特徴的な点も含めて具体的に述べられ,実際に体験した者でないと語れない内容であって,Aから被害状況を聞いたAの母及びカウンセラーCの供述内容ともおおむね整合し,Aの申告内容は一貫している。Aは,被告人に刑務所に行ってほしいとは思わないとも供述しており,被告人に不利な虚偽供述をする動機はない。証人Cは,Aを数回カウンセリングし,Aが話す被害内容が具体的で矛盾点がなく,母に同調する印象もなかったことから,Aの供述が虚言である可能性が極めて低いと思ったと供述する(内容は合理的であるし,立場上,殊更被告人に不利な虚偽供述をする動機はないから,その供述は信用できる。)。
 以上からAの供述は信用できる。
 これに対し,弁護人は,心理学者の鑑定書等に基づき,以下の点を挙げてAの供述は信用できないと主張する。①被告人に触られた胸が左か右かという周辺的な情報を被害の2か月も後に自発的に思い出し,しかも感覚まで覚えているのは不自然であって,警察官等の取調べや母の聞き取りが暗示的・誘導的に作用して記憶が作られた可能性が高い。②Aは胸を触られるのが見えたと述べるが,当時のAの着衣の襟ぐりは狭く,前かがみになっても襟元と身体の間に空間はできない。③被告人が後ろを振り向いて触ったのか,横を向いて触ったのか供述が変遷している。④被害を誰かに言おうと思わなかった理由につき,検察官調べと警察官調べで異なる内容を挙げている。⑤掃除の時間,教室に多くの児童がいる状況で胸を触るのは不可能であるし,仮にそのような行為をすれば,必ず目撃する児童がいるはずだが,誰も見ていない。
 上記鑑定書は,Aやその母の供述調書等を鑑定資料とし,Aの能力や供述聴取の時期・回数・主体から誘導の可能性を指摘し,心理学的観点からAの供述に信用性がないと結論づけたものであるが,鑑定人はAやその母に直接会って話を聞いておらず,鑑定人の上記指摘は具体的根拠に基づくものではない。それに加えて,上記鑑定等に基づく弁護人の主張に対しては,以下の点を指摘することができる。①Aが述べる被告人の言動は特徴的であるから,感覚等を2か月後に覚えていたとしても,特段不自然ではない。Aは,被害を自発的に母に申告しているし,その後のカウンセリングにおいて,被害に対するAの情緒的反応は,母と温度差があり,母に同調して訴えるとか母に心理的操作を受けるということもなく年齢相応であったというのであるから(証人C),Aが母の誘導を受けた可能性は低い。取調べは,Aの申告に基づいて行われているから,警察官等の誘導の可能性も低い。②胸を触られるのが見えたという供述は,Aの当時の着衣の様子からすると疑問が残るが,触った感覚で分かったとも述べており,Aが述べる被害状況は,主に触れられた感覚を訴えるものであることも考慮すると,直ちにAの供述全体の信用性は否定されない。③Aは,教卓のそばで掃除をしていたら,先生がくるっと自分の方を向いて胸を触ったと一貫して述べてそのように再現しており,弁護人が指摘する点は表現の違いにすぎない。④Aは,被害を誰かに言おうと思わなかった理由として複数の理由(先にママに言わなければいけないと思ったから。ほかの子がどう思うか分からないから。先生が好きな子もいるから。)を挙げ,そのいずれもが理由であると述べるところ,これらは併存し得るものであり,捜査段階でそのいずれかを述べたからといって供述の変遷と捉えるのは不適切であるし,その内容からして警察官等の誘導によるものとも考え難い。⑤掃除の時間に多くの児童が教室にいたが,騒然とした教室内でそれぞれ自分が担当する掃除をしていた。Aは教卓のそばでしゃがんでおり,胸を触られたのは極めて短時間の出来事で,Aは声を上げていない。そうすると,他の児童が気付かなかったとしても,不自然ではない。
 以上から,弁護人の主張は採用できない。
 2 被告人の供述
  (1) 教卓で添削をしていると,Aが教卓の後ろから,「ごみがたくさん取れたよ。」などと言ってちり取りを見せてくれた。振り向いてAの顔を見て褒めようとしたが,後ろが狭く,Aがけがをするおそれがあったので,振り向くことができず,頭をなでようと「たくさん取れたね。」などと言ってAの方を見ずに右手を後ろに伸ばすと,指がAの顎の辺りに当たった。この間,Aの方を全く見ていなかった。校長に呼び出されてAの服の中に手を入れて触ったのかと尋ねられた際,絶対にやっていないと答えた。
  (2) 上記供述中,Aの顔を見て褒めようとしながら,その顔を一切見ずに手を後ろに伸ばして頭をなでようとしたというのは,極めて不自然である。また,後ろが狭く,振り向くとAがけがをするおそれがあったからできなかったとも述べるが,Aの方を見ずに手をAがいる後方に伸ばす行為も危険である。
 さらに,被告人がAに触れた状況についての供述は信用できるAの供述に反し,被告人が校長に述べた内容は証人B校長(以下「B校長」という。)の供述(「服の中に手を入れたのか。」,「素肌を触ったのか。」,「胸に届いている可能性があるね。」との問いかけに対して,被告人は全て「はい。」と答えた。)に反する。
 B校長の上記供述は,被告人が述べた内容を同人が否定した部分も含めて詳細に述べられていることや,教頭と二人で被告人の話を聞き,経過を記録するなど慎重に対応していたこと,被告人の監督責任を負う小学校管理者という立場にあったことからすると,被告人に不利な虚偽供述をする動機はないことから,十分信用できる。
 信用できるB校長の供述によれば,被告人は供述を変遷させており,その変遷に合理的理由は認められない。
 以上から,被告人の供述は信用できない。
 3 結論
 信用できるAの供述から,被告人が判示行為をした事実を認定した。
(証拠の標目)
括弧内の甲の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
 証人Aに対する当裁判所の尋問調書
 証人Aの母(別紙記載),同B,同Cの各公判供述
 戸籍全部事項証明書抄本(甲2)
 捜査報告書(甲5,28,29)
 写真撮影報告書(甲6)

 (法令の適用)
 罰条 平成29年法律第72号附則2条1項,同法による改正前の刑法176条後段
 刑の全部の執行猶予 刑法25条1項
 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項本文(負担)
 (量刑の理由)
 被告人は,小学校の教師でありながら,他の児童らがいる教室内で,掃除の時間に自己が担任を務める被害者の着衣の中に手を入れて胸を直接触ったもので,犯行態様は大胆で悪質である。被害者は,当時小学校○年生で,被害の内容を正確に把握していたとは言い難いものの,今後の健全な成長に悪影響が生じかねず,結果は重大である。被害者の両親の精神的苦痛は大きく,被告人の処罰を望む心情も当然のこととして理解できる。被告人は,不合理な弁解を述べ,反省や謝罪の態度が認められない。
 以上からすると,被告人の刑事責任は重い。
 もっとも,他の同種事案と比較して犯行態様が極めて悪質とまではいえないことや,被告人に前科前歴がないこと,本件により教師を辞めることになったことなど社会的制裁を受けたことなどからすれば,実刑を相当とする事案とは認められず,刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役2年)
 名古屋地方裁判所刑事第2部
 (裁判官 安福幸江)
 
 
 〈以下省略〉

「鹿児島から和歌山の11歳に、「ライン」を通じて、わいせつな行為を教えた疑い」という「鹿児島県」青少年条例違反被疑事件

 テレホンセックスとか、チャットHという行為です。
 和歌山県と鹿児島県とにまたがる行為なので、両県の青少年条例が適用可能ですが、被害が和歌山県で発生しているので、和歌山県条例を優先すべきです。 
 和歌山県条例と鹿児島県条例は法文も解説も何かを丸写しにしたようにそっくりですが、教える行為の罰則は、鹿児島(1年)の方が重くなっています。
 問題点としては
① 1項のわいせつ行為(懲役2年)との区別が不明確なこと
② わいせつの定義が刑法176と同様とされていて、定義が失われていること。青少年健全育成の見地から独自の定義が求められること
③ わいせつの定義から昭和60年10月23日最高裁判決(福岡県青少年健全育成条例違反事件)がいう真剣交際の場合を除外する必要があること
④ 解説によれば、両条例とも13歳以上への適用を予定しているようで、11歳の場合は、強制わいせつ罪(176条後段)だけが適用されると思われること。
を指摘することができます。

和歌山県青少年健全育成条例の解説
(いん行又はわいせつ行為の禁止)
第26条
1何人も、青少年に対し、いん行又はわいせつ行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を見せ、又はその方法を教えてはならない。

2 「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめたり、その露骨な表現によって性的差恥嫌悪の情を起こさせる行為をいう。
3 「してはならない」とは、青少年を相手として、いん行又はわいせつ行為を行うことを一切禁止するもので、相手方となる青少年の同意、承諾の有無及び対償の授受の有無を問わない。
4 「見せ」とは、自己又は他人のいん行又はわいせつな行為を直接青少年に見せることをいい、映画、テレビ、図書等の媒体を通じて間接的に見せることは含まない。
5 「教え」 とは、いん行又はわいせつ行為の相手方とならないが、当該行為の方法を直接的、具体的に教示することをいい、単なるわい談の一般的な教示は含まない。
例えば、文書、図画、写真、ビデオ等を視聴させる行為等がこれにあたる。
6 現行法上、13歳以上の男女に対する暴行脅迫及び対償を伴わない姦淫(いん行)及びわいせつ行為については何ら規制がないので、この条例により規制しようとするものである。

【罰則】
第2項(見せ又は教示)違反

  • 6月以下の懲役又は30万円以下の罰金

鹿児島県青少年保護育成条例の解説H19
(いん行等の禁止)
第22条
1何人も, 青少年に対していん行又はわいせつ行為をしてはならない。
2 何人も, 青少年に対して前項の行為を教え, 又は見せてはならない。
解説
1 13歳以上の者に対する姦いん,わいせつ行為については,暴行,脅迫を伴わない限り現行法上何らの規制もなく,青少年の保護育成上の盲点となっており,精神的,肉体的に未成熟で感受性が強く,思慮分別の未熟な青少年に対し,いん行若しくはわいせつ行為をし,又はこれらの行為を教えたり,見せたりすることを契機として青少年が堕落し,売春等の一層深刻な事態に発展するケースが多い。
本条は,このような行為から青少年を保護し,希望ある青少年の人生を踏みにじる反社会的,反倫理的な行為を防止してその健全な育成を図るとともに,行為者の社会的責任を追及しようとするものである。
3 「わいせつ行為」とは,いたずらに性欲を刺激し,又は興奮させ,露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対し,性的に選恥嫌悪の情を起こさせ善良な性的道徳観念に反する行為をいい,刑法の「わいせつ」と同意義である。
4 「教える」とは,いん行又はわいせつ行為の棺手方とはならないが,当該行為の方法等を教示することであり,単なるわい談等の一般的,漠然としたものでなく具体的,直接的に教えることである。
5 「見せる」 とは,自己又は他人のいん行又はわいせつ行為を直接青少年に見せることをいい,図書,映画,有線テレビ等の媒体を通して見せることは,本条第2項の規定には該当しない。
6 青少年の性行為に係る関連法令において,
(1) 刑法では,暴行,脅迫等をもってする性行為等については処罰の対象としているが, 13歳以上の者に対し暴行,脅迫等を伴わずいん行又はわいせつ行為を行うことは,処罰の対象とならない
罰則
2 第2項違反(青少年にいん行又はわいせつ行為を教え,又は見せた者)は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

http://www.wakayamashimpo.co.jp/2018/07/20180711_80266.html
ラインで女児にわいせつ教示 20歳の男逮捕
18年07月11日 18時55分[事件・事故]
和歌山県警少年課は10日、鹿児島市星ケ峯の自称飲食店員を鹿児島県青少年保護育成条例違反(淫行等の禁止)容疑で逮捕した。

同課によると、容疑者は4月16日、和歌山県内の小学生女児(当時11)に対し、18歳未満と知りながら、鹿児島市内の自宅のインターネット端末から、女児のタブレット端末に無料通信アプリ「ライン」を通じて、わいせつな行為を教えた疑い。
容疑者が自身のラインのアカウントを動画サイトに載せ、女児が連絡して2人は知り合った。女児が周囲の友人に被害を伝えたことから事件が発覚した。宮園容疑者は容疑を認めているという。
・・・・
http://www.tv-wakayama.co.jp/news/detail.php?id=49277
わいせつな行為教示した容疑で逮捕
2018-07-10(火) 18:57
インターネットを通じて知り合った県内在住の小学生の女の子に、わいせつな行為を教示したとして、鹿児島市の自称飲食店員の男が、今日、鹿児島県の青少年保護育成条例違反の疑いで県警少年課に逮捕されました。
逮捕されたのは鹿児島県鹿児島市の自称飲食店店員、容疑者20歳です。
警察の調べによりますと容疑者は、今年4月16日、インターネットを通じて知り合った県内在住の小学生の女の子に鹿児島市の自宅から無料通話アプリを使ってわいせつな行為を教示した疑いです。容疑者は、去年冬頃から、女の子と無料通アプリでのやり取りを行っていたということです。警察の調べに対し宮園容疑者は「間違いありません」と容疑を認めています。

「(自撮り)法律の件ですが、法改正の動向などがないか情報を集めたところ、国へそういった行為に関して法律で規制ができないのかといった要望があったと聞いておりますが、法改正の動きがなかなかみられないという中で、東京都で2月に、その後兵庫県が続いて条例を施行したといった状況であると認識しております。」福島県青少年健全育成審議会


 威迫困惑とか対償供与の約束とかなしに、頼んで裸写真を送ってもらうと国法の姿態をとらせて製造罪になるというのが実務なんだが、そんなのは福島県に言わせれば「社会通念上反倫理的と認められない要求行為」らしいね。なのに条例違反は不成立で国法で処罰される。
 国法と矛盾するような条例をなんで作るかなあ?国法でやれないかなあ。

福島県青少年健全育成条例の一部改正(「児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止」の新設)の考え方について
(1)禁止規定
第26条の2
何人も、青少年に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(1)青少年に拒まれたにもかかわらず、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ(以下「児童ポルノ」という。)又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。次号において同じ。)の提供を行うように求める行為。
(2) 青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は青少年に対し対償を供与し、若しくはその供与の約束をする方法により、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求める行為。
解説
社会通念上反倫理的と認められない要求行為まで規制することなく、社会通念上反倫理的と認められる「不当な手段」での要求行為を規制対照とした
・・
(2)罰則規定
条例の罰則
第34条第4項次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。.
第12号第26条の2の規定に違反した
免貴織定
第36条
この条例の罰則規定は、青少年には適用しない
・・・
(4)被害者年齢の知情性
第34条第6項
第24条から第24条の3まで又は第25条第2項の規定に違反した者は、当該行為の相手が青少年であることを知らないことを理由として第1項から第4項までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない

解説
要求した相手を直接確認できないインターネット上のやりとりの中で行われることが想定されるので、相手が青少年だと認識できるような事実が全くない場合には適用できない。

平成30年度第1回福島県青少年健全育成審議会(全体会)議事録1
開催日時平成30年6月5日(火)13時30分~14時55分
○議案福島県青少年健全育成条例及び同施行規則の一部改正について(諮問)議長
・それでは、議案に入らせていただきます。
福島県青少年健全育成条例及び同施行規則の一部改正」について、知事からの諮問となりますので、審議をお願いします。
事務局から説明をお願いします。
事務局(佐藤主任主査)
<資料(6ページから36ページ)により説明>議長
・ただ今、事務局から、「福島県青少年健全育成条例及び同施行規則の一部改正」について説明がありました。
皆様の御意見はいかがでしょうか。
若月ちよ委員
・説明ありがとうございました。
東京都と兵庫県しか決まっていないものを福島県でということで、子どもたちの被害状況や資料などを見せていただいて、必要なことなのだなと思い、積極的に取り組んで、このように改正されることについては賛成です。
賛成だという意見の上で、もう一つ考えなくてはならない視点があるのではないかと思ったことが、大人側を規制していくということですが、被害を受ける子どもたちの側に立ったときに、法律で罰則を決めていくだけで良いのだろうかということが、私が思うところです。
なぜかと言うと、こういう状況の被害者になっている子どもたちには、どういう背景があるのだろうかと考えたときに、いろいろな背景があるのだと思います。
背景があるから仕方がないではなく、こうした子どもたちが、被害を受けないためにはどうしたら良いかを教えていく必要があるのではないかと思います。
「嫌だ」ときちんと言えれば、罰則の対象になるという説明でしたが、自分で「嫌だ」と言える力を子どもたちは本来持っているはずですが、いろいろな状況の中で「嫌だ」と言えないまま従ってしまったり、本当は望まないのに相手の愛情に応えようとして、そういった行為に及んでしまうこともあるのかと思います。
なので、自撮りを送ったら、どうなるかは分からないけれども、今、相手に望まれて答えることが自分を認めてもらえることに繋がったりだとか、自己肯定感が低い子どもたち、自分が愛されていないんじゃないかと思っている子どもたちが、いろいろな大人の罠に引っかかりやすいということです。
だとしたら、子どもたち側に「嫌だ」と言える、本来持っている力を如何に子どもたち自身に回復させていくかが、必要だと思います。
条例のなかに、それを組み込むことができるかは分かりませんが、県として罰則だけではなく、子どもたちの力を育んでいくという視点も入ると、良いのではないかと感じたところでした。
私はCAPという、子どもへの暴力防止の活動もさせていただいております。
子どもたちが本来持っている力を使うことで、自分の身を守るためには、何ができるか、大人たちが子どもたちを守っていくためにはどうしたら良いのかを伝えていくプログラムです。
その中の事例として、ある姉妹がいて、姉の方が父親から性被害を受けていましたが、妹の方は受けていませんでした。
なぜかというと、妹は父親から性被害を受けそうになったときに、「嫌だ」と言えたからです。
その一言で、被害を受けずに済んでいるということがあるので、やはり被害を受けそうになったときに、自分で「嫌だ」と言って良いんだという、子ども側の人権に立ったときに、大人が子どもを守るという視点だけでなく、子どもが自らを守る力を育ててあげられるような福島県になったら良いなと思いました。
CAPのチラシも、小学校の保護者向けに配布するものを持ってまいりましたので、後ほど見ていただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
議長
・ありがとうございました。
子どもの立場から、子どもも「嫌だ」という力を付けていくという取り組みも必要だという御意見だったと思いますが、関連するような御意見をお持ちの方はいらっしゃいませんか。
加藤勇治委員
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止の部分で、オレオレ詐欺などと同じように、ぐ犯少年や不良行為を犯した青少年が帰る場所が無くなり、暴力団関係者のところに行ってしまい、命令されて同年代の未成年者へ児童ポルノ等の写真の提供を求めてしまったとき、命令した大人に対して、どういった取り締まりが可能なのでしょうか。
事務局(佐藤主任主査)・
条例の趣旨から、青少年は違反になりますけれども、罰則はないということは先ほどの説明のとおりでありますが、例えば青少年が被疑者の場合、大人から指示を受けて、被害者に対して要求したといった場合につきましては、事件の個別的判断にはなりますが、指示した者の共犯が成立するか否かというところであります。
例えば、明確に「あいつの裸の画像を要求しろ」といった指示の客観的な証拠を収集できれば、事件として大人を取り締まることは可能と考えます。
加藤勇治委員
・ありがとうございます。
議長
・また、先ほどの若月委員からの御意見に関連したことでも、その他の観点からでも御意見がありましたらお願いします。
田中哲也委員
・私は、高等学校生活指導協議会を務めておりますが、このような児童ポルノやSNSの問題だとかは、実は裸の写真などは、高校でなく、中学校の段階で非常に多いという状況になっております。
高校生になると自分で「嫌だ」とはっきりと言える状況になっていますが、中学生がスマホを持ったところで、被害にあっているということがあります。
・また、高校生がグーグルから引っ張ってきた局部の写っている画像を流してしまったというケースでは、そもそもフィルタリングがかけられていないという問題もありますが、よく調べてみると高校に入学する前の中学生のころの事件でありました。
小学校5、6年生から、そういった事件もあるようです。
わいせつやポルノ関係は、高校生では若干少ないかなと考えております。
議長
・ありがとうございました。
そうすると、未成年でも、さらに低年齢の方が深刻である可能性があるということでしょうね。
ほかにはいかがでしょうか。
鈴木登三雄委員
・意見というか、質問ですが、2点あります。
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止に関してですが、極めて改正の趣旨は真っ当で適正なものだと思うのですが、故に何故、児童ポルノ等規制法の方で規制されていないのか、規制されようとする動きが有るのか、無いのかお聞かせいただきたい。
また、全国でも東京と兵庫の1都1県ということでしたが、他の都道府県でも動きがあるのでしょうか。
・あと、もう一点がインターネット利用環境の整備に関してですが、先ほどの説明にもありましたが、周知を図ることが重要でありますので、業者をはじめとして、広く県民に対して、フィルタリングに関する改正内容を知っていただくことが大事なことで、広報、周知の方法については検討中だということでしたが、具体的にどういった広報、県民理解の促進に向けて、考えがあるのか御質問いたします。
事務局(髙木課長)
・ただ今、鈴木委員から御質問のありました法律の件ですが、法改正の動向などがないか情報を集めたところ、国へそういった行為に関して法律で規制ができないのかといった要望があったと聞いておりますが、法改正の動きがなかなかみられないという中で、東京都で2月に、その後兵庫県が続いて条例を施行したといった状況であると認識しております。
なお、今回の自画撮り防止、フィルタリング関連の他県の動きでありますが、自画撮り防止に関しては、東京都、兵庫県が先行しておりますが、福島県でもこのような形で御審議いただいている中で、今のところの状況でありますと、京都府愛媛県、福岡県、大分県といったところが、検討を行っていると伺っているところでございます。
また、フィルタリングにつきましては、国の法律に基づいてということでありますので、3月末の段階で、31都道府県で条例の改正が行われると聞いております。
それ以外にも、本県のようにフィルタリングに関して条例の改正を検討されているところがあると聞いております。
・次に、周知の関係でありますが、今後条例改正を議会に提出させていただいて、スムーズにいった場合、最速で9月議会に提出できるかどうかといったところでありますが、想定では来年の4月からの施行を予定しておりまして、その間に周知活動に努めていきたいと考えてございます。
その周知活動の主な方法といたしましては、条例を改正した後、市町村に状況を御理解いただくとともに、教育委員会にも働きかけを行いまして、条例改正の内容について、子どもたちがそういったことについて学んでもらうことと、パンフレットやリーフレット等を作成し、学校を通して生徒児童、最終的に保護者に見ていただくような周知活動をしていかなければならないと考えております。
また県内には、県警の相談窓口や青少年会館にある青少年総合相談センター、市町村を含めていろいろな相談窓口がございますので、例えばそういった窓口で適切な対応ができるようにお願いをしていくということで考えてございます。
・また、先ほど若月委員からお話のありました、子どもたちをどのようにして守っていくかの部分につきましては、生徒さん、児童さん本人が自ら考える力をつけていただくことが大事だと考えてございます。
特に、インターネットやスマホといったところにつきましては、昨年の11月にふくしま高校生スマホサミットということで、県内全ての高校を対象といたしまして、ビックパレットでスマホの適正利用について「いい写真、それは載せてもいい写真」ですとか、高校生自ら考えていただき、その結果をパンフレットやポスターにして県立高校だけでなく中学校、小学校にも周知を図ったところでございます。
そういったところをさらに深めていくことと、また県民総ぐるみ運動として7月に街頭啓発活動で県が先頭に立って、子どもさんたち、保護者たちに、チラシなどを配布したり、市町村の社会を明るくする運動などを通して、今後条例が改正になった暁には、そういったところで周知等を進めてまいりたい考えでございます。
議長
・そのほか、いかがでしょうか。
鈴木雅文委員
・今ほどの鈴木委員の質問や課長さんにお答えいただいた内容と重複する部分もありますが、とかく、このような条例による規制となってきたときに、企業を巻き込むということになった場合、どうしても企業の論理、社会の論理といった部分がでてきます。
条例だからといった部分で、バッサリと切り捨てるのではなく、企業側にも社員がいて、それなりの考えがあるということを理解して、どういう状況で今回の条例が改正され、如何に重要なことであるかを、丁寧に根気よく説明していっていただければと思います。
・また、課長さんからお話がありましたが、広く県民に周知徹底を図っていっていただきたいと思う次第であります。
議長
・いろいろな観点から、いろいろな御意見がありましたが、子どもを取り巻く環境、学校、地域で連携してやっていくしかないですよね。
子どもには、自身で判断できない未成熟さがあるわけですから、大人が判断をよくしていかなければならないというところが、まずあるのかなと思います。
今回、条例の一部改正ということですので、広く県民に周知することはもちろんですが、子どもたちにも知らせて一緒に取り組んでいくことに繋がっていけば良いと思います。
・そろそろ、御意見はよろしいでしょうか。
・それでは、事務局からの説明のとおり、福島県青少年健全育成条例及び同施行規則を一部改正することが適当であると答申することに御異議はございませんか。
<異議なし>議長
・御異議がないようですので、事務局からの説明のとおり福島県健全育成条例及び同施行規則を一部改正することを適当とする。
そのように決定させていただきます。
・次に知事への答申書の作成及び答申につきましては、会長の私に一任していただくことにして、よろしいですか。
<異議なし>議長
・それでは、知事への答申書の作成及び答申につきましては、御一任いただきましたので、委員の皆様には、後日、その写しを送付させていただきます。

教員・児童ポルノDVD5枚所持→罰金30万円→停職1月依願退職

 サイト摘発のときに、弁護士に相談して破棄して捜査している警察に相談した教員は捜索も取調も起訴も罰金もなく、今も教員です。

中学・高校、3男性教諭処分 児童ポルノDVD所持・交通事故 /岐阜県
2018.07.11 朝日新聞
 県教育委員会は10日、児童ポルノのDVDを所持したとして、多治見市立小泉中の男性教諭(56)を停職1カ月の懲戒処分とし、発表した。県教委の調べに、「以前から若い子が出ているDVDに興味があった」と話しているという。教諭は同日、退職届を提出し、受理された。
 県教委によると、教諭は2016年6月ごろ~17年3月、動画販売サイトから児童ポルノのDVD5枚を入手し、所持していた。今年6月、多治見区検が児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で略式起訴し、多治見簡裁が罰金30万円の略式命令を出した。
・・・
児童ポルノ所持 男性教諭を停職=岐阜
2018.07.11 読売新聞
 県教育委員会は10日、児童ポルノを所持したとして、多治見市立小泉中学校の男性教諭(56)を停職1か月の懲戒処分にした。男性教諭は同日付で退職した。
 発表によると、男性教諭は2016年6月頃から17年3月までに、インターネットの動画販売サイトで児童ポルノのDVD5枚を購入するなどした。先月25日に児童買春・児童ポルノ禁止法違反で多治見区検に略式起訴され、多治見簡裁から罰金30万円の略式命令を受けたという。
読売新聞社

保釈中に犯した事件で逮捕されたときは、任意的な保釈の取消を検討する。

 保釈保証金の意味が無いので、上申して、職権で保釈を取り消してもらって、保釈保証金を取り戻すことがあります。
 そんな条文はないのでできないという弁護士もいますが、
保釈を取り消すのにはどうしたらいいのか? - 弁護士ドットコム
実務上は行われています。

保釈 理論と実務(2013年 法律文化社)p121
しかしその後.実務裁判官から積極説に立つ見解が相次いで現われ.積極説がむしろ有力となった。
その理由付けは. I法96条は,強制的な保釈取消事由を定めたものと解し,被告人からの任意の申し出に基づく保釈取消しを禁じる趣旨を包含するものでないと解する。こう解しても保釈取消後の身体拘束はもともと勾留の効力による拘束であって法律上の根拠に欠けるものでないし権利保釈が認められるべき事案であっても,被告人が保釈請求をせずにいることももとより自由であることにかんがみると,この解釈は現行法の保釈制度全般の趣旨に添うものである)とするところにある。昭52年7月の東京高裁管内判事合同会議においても取消しを認めてよいのではないかという意見が強かったとしている(刑裁資料221号)。
積極説をとる判例として.鳥取地裁米子支決平5.10.26判時1482-161がある。
・・・
15◎被告人が保釈の取消しを希望し、取消しに相当の理由がある場合、裁判所は、本条一項所定の事由がなくても職権で保釈の取消しができる。被告人は破門された暴力団関係者から数百万円の借金があり、債権者から厳しい催促や暴力団関係者から被告人の居所の問い合わせがなされるなど被告人が生命身体に危険を感じる事態等の場合はこれに当たる。(鳥取地米子支決平5・10・26判時1482-161)
「模範六法 2014」 (C)2014 Sanseido Co.,Ltd.

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/431303/
長男を再逮捕 女児の体触った疑い
2018年07月09日 11時47分
 小学生の女児の体を触ったとして、警視庁捜査1課は9日、強制わいせつの疑いで、長男で住所不定、容疑者を再逮捕した。
 再逮捕容疑は5月13日午後1時10分ごろ、東京都練馬区の路上で、友人らと遊んでいた小学生の女児の胸をつかんだ疑い。「犯行の状況は覚えていないが、逮捕されたのであれば私だと思う」と供述している。防犯カメラの画像から浮上した。
 捜査1課によると、別のわいせつ事件で公判中だった4月下旬に保釈された後、練馬区で小学生の女児の胸を触ったとして、6月に強制わいせつ容疑で逮捕。7月に東京都迷惑防止条例違反の罪で起訴された。

行為者の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件でないとした事例(判例変更)最大判平29.11.29警察実務重要裁判例h30版

 捜査については従前通り。

刑集71巻9号467頁
刑法176条
解説
本判決は,昭和45年判例を明示的に変更したものであるが,以前から下級審においては,性的意図を必要としないとの判断をしたと考えられる裁判例が見受けられる状況にあった。本判決は,性的な被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映して平成l6年刑法改正や平成29年刑法改正が行われたことなどに触れた上,今日的観点から,強制わいせつ罪の成立範囲を画そうとしたものであり,実務上参考になるところが多い。
もっとも,本判決が,昭和45年判例を変更したことにより,犯人の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではなくなったといえども,本判決は,わいせつ行為には,行為の性的性質が明確で,直ちにわいせつ行為と評価できるような行為だけではなく,行為の性質からは直ちに性的な意味があるか評価し難く,行為が行われた際の具体的事情等の諸般の事情をも総合考盧して性的意味合いの強さを判断する必要があるものも存在していることを明示している。そして,本判決は,その中には,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考盧すべき場合もあるとしているところであって,今後においても, この種事案の捜査において,犯人の性的意図, 目的等について十分捜査を尽くす必要があることに留意すべきである。

石飛勝幸「刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考盧すべき場合はあり得るが,行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではないとした事例>>刑集71巻9号467頁」警察公論2018/8

 大法廷h29.11.29の問題点は性的意図不要としつつわいせつの定義を示さなかった点ですね。

(3) 「性的性質が明確」な行為について
ところで,本判例は,上記のとおり,本件における行為については「性的性質が明確」であるとしているが,そのほか, どのような行為が「性的性質が明確」といえるかについては必ずしも明らかにしていない。
この点,判決文において, 「強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で」とされていることからすれば,姦淫(性交)に類似するような行為,例えば,肛門性交や口腔性交(「刑法の一部を改正する法律」[平成29年法律第72号])に「連なる行為」についても, 「性的性質が明確」といえるものとも思われる。

しかしながら,具体的にどのような行為が「強姦罪に連なる行為」等として「性的性質が明確」といえるか否かについては,必ずしも本判例からは判然とせず,事例の集積を待つほかないものと考えられる。
(4)今後の捜査への影響
このように,本判例は,強制わいせつ罪の成立について,性的意図を一律に要件とすることを否定したものと考えられる点で意義があるが,捜査機関としては, 「わいせつな行為」に当たるか否かの判断において,行為者の主観面を考慮すべき場合があり得ることをも示唆されたことに留意する必要がある。
そして, どのような場合に行為者の主観面を考慮するかについての判断基準は必ずしも明らかではなく,個々の事案における具体的事情に応じて判断されることになると思われる。
したがって,今後の強制わいせつ事件の捜査においても,引き続き,行為者の動機や目的,性的嗜好等といった主観面に関する証拠を収集する必要があり, また,行為者と被害者との関係,具体的な行為態様,周囲の客観的状況,被害者の精神的ダメージ,被害者が抱いた性的差恥心などの事情についても,十分な捜査が求められる場合があるものと考えられる。
⑤おわりに
性犯罪に関しては,近年の実情等に鑑みて,事案の実態に即した対処を可能とするために,強姦罪の構成要件を改め,法定刑を引き上げて強制性交等罪とするとともに,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設し,さらに,強姦罪等を親告罪とする規定を削除することなどを内容とする法改正がなされるなど変動期にある。
これに対応するため,改正法を含めた関係法令を十分に理解し厳正に運用することが不可欠であるが,本判例は改正前の強制わいせつ罪についてのものであるものの,改正後の強制わいせつ罪においてもその解釈の参考となり得るものと思われる。

8/26の名誉毀損、1/14 11:51~のリベンジポルノ陳列罪、1/14 09:53~~のリベンジポルノ陳列罪を併合罪とした事例(実刑 秋田地裁h30.3.28)

 反復継続しているから混合的包括一罪と主張してみて下さい。

■28261888
秋田地方裁判所
平成30年03月28日
 上記の者に対する名誉毀損、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官橋詰悠佑及び国選弁護人石田英憲各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 ●●●(以下「被害者」という。)の名誉を毀損しようと考え、平成29年8月26日午前11時5分頃、A市内又はその周辺において、携帯電話機を使用し、インターネットを介して、不特定多数の者が閲覧可能なインターネットサイト「B」内の「●●●市雑談」と題する掲示板の「●●●」と題するスレッド上に「●●●ヤリマンBBA」と掲載し、不特定多数の者が閲覧可能な状態にさせ、もって公然と事実を摘示し、被害者の名誉を毀損した
第2 A市内又はその周辺において、自己の携帯電話機を使用し、インターネットを介して、
 1 平成30年1月14日午前11時51分頃から同月15日午前9時53分頃までの間、被害者の氏名等が掲載された画像データとともに、同人の顔、陰部、胸部等が撮影された画像データ1点を、「C.Inc」社が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータに送信して記憶・蔵置させ、不特定多数のインターネット利用者が同データを閲覧することが可能な状態を設定し、もって第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位が露出され、かつ、性欲を興奮させ又は刺激する画像を記録した私事性的画像記録物を公然と陳列した
 2 同日午前9時53分頃から同月16日午前8時頃までの間、同人の氏名等が掲載された画像データとともに、同人の性交類似行為に係る姿態を撮影した動画データ3点を、同社が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータに送信して記憶・蔵置させ、不特定多数のインターネット利用者が同データを閲覧することが可能な状態を設定し、もって第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、性交類似行為に係る人の姿態が撮影された画像を記録した私事性的画像記録物を公然と陳列した
ものである。
(法令の適用)
 罰条
  判示第1の所為 刑法230条1項
  判示第2の1の所為 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条2項、2条1項3号
  判示第2の2の所為 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条2項、2条1項1号
 刑種選択 いずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第2の2の罪の刑に法定加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
(求刑 懲役2年)
刑事部
 (裁判官 三浦隆昭)

 トイレ盗撮行為につき、ひそかに製造罪は被害児童1名1罪として、建造物侵入罪とひそかに製造罪とを牽連犯とした事例(奈良地裁h30.5.1)

 長時間カメラ作動されているうちに2名撮影されたのを観念的競合にしています。
「犯情の軽重については、各児童ポルノ製造が各建造物侵入より重いものの、各児童ポルノ製造間の犯情の軽重に差異はないので、児童ポルノ製造の罪の刑で処断」とされています。
 牽連関係がないと主張すれば、牽連犯の判例ができそうです。

■28262725
奈良地方裁判所平成30年05月01日
理由
(罪となるべき事実)
 当裁判所の認定した罪となるべき事実第1は平成30年2月23日付け起訴状に記載された公訴事実と、罪となるべき事実第2は同年3月6日付け起訴状に記載された公訴事実と、罪となるべき事実第3及び第4は同月28日付け起訴状に記載された公訴事実第1及び第2と、それぞれ同一であるから、これらを引用する。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
 判示第1及び第3の各所為のうち
  建造物侵入の点 いずれも刑法130条前段
  児童ポルノ製造の点 いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
 判示第2の所為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
 判示第4の所為のうち
  各建造物侵入の点 いずれも刑法130条前段
  各児童ポルノ製造の点 いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
科刑上一罪の処理
 判示第1及び第3の各罪 いずれも刑法54条1項後段、10条(1罪として犯情の重い各児童ポルノ製造の罪の刑で処断)
 判示第4の罪 いずれも刑法54条1項前段、後段、10条(平成29年9月4日の建造物侵入と同日撮影した動画の児童ポルノ製造との間、同月5日の建造物侵入と同日撮影した動画の児童ポルノ製造との間には、それぞれ手段結果の関係があり、各動画の児童ポルノ製造は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、結局以上を1罪とし、犯情の軽重については、各児童ポルノ製造が各建造物侵入より重いものの、各児童ポルノ製造間の犯情の軽重に差異はないので、児童ポルノ製造の罪の刑で処断)
刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の軽重を決することができないので、1罪として児童ポルノ製造の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
(求刑 懲役2年)
刑事部
 (裁判官 重田純子)
起訴状
平成30年2月23日
公訴事実
(判示第1) 被告人は、平成30年2月14日午前7時39分頃、G市立A小学校校長Bが看守するG市ab丁目c番d号同小学校e階南館女子トイレ内に、用便中の女児の姿態を盗撮する目的で、その出入口から侵入し、同トイレ内の掃除用具入れに録画状態にしたビデオカメラを設置し、同日午後1時27分頃、同所において、C(当時12歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、ひそかに、同児童の用便中の姿態を前記ビデオカメラで動画撮影し、その動画データを同カメラに挿入したマイクロSDカードに記録させて保存し、もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造したものである。
起訴状
起訴状
平成30年3月6日
公訴事実
(判示第2) 被告人は、平成29年9月7日午前8時10分頃から同日午前8時13分頃までの間、G市ab丁目c番d号G市立A小学校f階g年h組教室内において、着替え中のD(当時9歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、ひそかに、同児童の胸部が露出した姿態をあらかじめ録画状態にして設置していたビデオカメラで動画撮影し、同日午後8時43分頃、G市jk丁目l番m号被告人方において、その動画データをパーソナルコンピューターに記録させて保存し、もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造したものである。
起訴状
平成30年3月28日
公訴事実
 被告人は
(判示第3)第1 平成29年7月20日午前7時頃から同日午前7時40分頃までの間に、G市立A小学校校長Bが看守するG市ab丁目c番d号同小学校j階南館女子トイレ内に、用便中の女児の姿態を盗撮する目的で、その出入口から侵入し、同トイレ内に録画状態にしたビデオカメラを設置し、同日午前8時14分頃から同日午前8時24分頃までの間及び同日午前8時34分頃から同日午前8時44分頃までの間、同所において、氏名不詳の女児2名がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら、ひそかに、同児童らの用便中の姿態を前記ビデオカメラで動画撮影し、同日午後10時59分頃、G市jk丁目l番m号被告人方において、その動画データをパーソナルコンピューターに記録させて保存し、もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造した
(判示第4)第2 同年9月4日午前7時頃から同日午前7時40分頃までの間に、前記Bが看守する前記女子トイレ内に、用便中の女児の姿態を盗撮する目的で、その出入口から侵入し、同トイレ内に録画状態にしたビデオカメラを設置し、同日午前11時9分頃から同日午前11時19分頃までの間、同所において、氏名不詳の女児が18歳に満たない児童であることを知りながら、ひそかに、同児童の用便中の姿態を前記ビデオカメラで動画撮影し、さらに、同月5日午前7時頃から同日午前7時40分頃までの間に、前記Bが看守する前記女子トイレ内に、用便中の女児の姿態を盗撮する目的で、その出入口から侵入し、同トイレ内に録画状態にしたビデオカメラを設置し、同日午前9時16分頃から同日午前9時26分頃までの間、同所において、氏名不詳の女児が18歳に満たない児童であることを知りながら、ひそかに、同児童の用便中の姿態を前記ビデオカメラで動画撮影し、同日頃、前記被告人方において、同動画データ2点をパーソナルコンピューターに記録させて保存し、もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造した
ものである。

 福島県青少年健全育成条例及び同施行規則の一部改正(案)について皆さんからの意見を募集します。

 福島県だと「求められて困った」段階の立法事実は少ないと思われます。
 パブコメも付かないと思います。

福島県青少年健全育成条例及び同施行規則の一部改正(案)について皆さんからの意見を募集します。
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21055a/zyourei.html
2 意見募集の内容
福島県青少年健全育成条例及び同施行規則の一部改正(案)」について
3 応募資格
・ 県内に住所がある個人
・ 県内に事業所を有する法人その他の団体
・ 県内の学校や事業所等に通学・通勤されている方
東日本大震災原子力災害により県外に避難されている方

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/277599.pdf
福島県青少年健全育成条例及び同施行規則の一部改正(案)」について
(2) 児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止
青少年自身に係る児童ポルノ(※3)やその電磁的記録その他の記録を提供するように当該青少年に対し、不当な手段(※4)で求める行為を禁止するとともに、罰則(30万円以下の罰金)を規定します。
(※3)児童ポルノ(「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」第2条に規定する児童ポルノの定義)
写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿
態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
(※4)不当な手段
・ 拒まれたにも関わらず要求する。
・ 威迫し、欺き、又は困惑させて要求する。
・ 対償を供与し、又はその供与の約束をして要求する。

京都府迷惑防止条例の盗撮行為は「公共の場所」に限定されるとか解説する弁護士

 よく条例の法文を読むと、「公共の場所」には限定されていません。
 h26改正で、条例3条2項が加わって「公衆の目に触れるような場所において」に拡張されています。
 京都府警の内部資料では「公衆の目に触れるような場所」とは①学校、塾の教室②事業所の事務室③貸切バス④ジャンボタクシーとされています。
 条例3条3項では「公衆が通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」が加わっています
私的空間の規制が外されたのは、京都地検の見解が理由とされています
「場所的制限を撤廃した盗撮行為の規制について。。。私的空間で様々な立法事実となるような事案が発生していることは理解でき、また、処罰すべき事案であることも理解できる。しかし、国の法律である軽犯罪法が、私的空間を含む、通常着衣をつけないでいるような場所における裸の盗撮を規制していることから、私的空間に及ぶ規制は、個人的法益の侵害を認めないという軽犯罪法の範疇であるといえ、私的空間に対する規制は、憲法で法律の範囲内で定めることができるとされている条例の限界を超えている。
現行粂例は、場所を公共の場所、公共の乗物に限定していることで、公衆が迷惑する、被害者がより一層差恥させられるという理由から、条例で規制できるという説明がつくのであり、同様の理由付けができるのは準公共空間の範囲までである。」

 この見解によれば、盗撮行為について軽犯罪法が適用される場合には、条例は適用されないことになります。
 警視庁と東京地検もそういう見解のようです
okumuraosaka.hatenadiary.jp


h26改正前
第1条及び第2条省略
(卑わいな行為の禁止)
第3条何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人を著しくしゅう恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、次に掲げる卑わいな行為をしてはならない。
(1)みだりに、他人の身体の一部に触ること(着衣の上から触ることを含む。)。
(2)みだりに、物を用いて他人の身体に性的な感触を与えようとすること。
(3)みだりに、他人に、その意に反して人の性的,好奇心をそそる姿態をとらせること。
(4)みだりに、着衣で覆われている他人の下着又は身体の一部(次号において「下着等」という。)をのぞき見し、若しくは撮影し、又はこれらの行為をしようとして他人の着衣の中をのぞき込み、若しくは着衣の中が見える位置に鏡、写真機等を差し出し、置く等をすること。
(5)みだりに、写真機等を使用して透視する方法により、着衣で覆われている他人の下着等の映像を見、又は撮影すること。
(6)みだりに、他人に、異性の下着を着用した姿等の性的な感情を刺激する姿態又は性的な行為を見せること。
(7)みだりに、他人に、人の性的好奇心をそそる行為を要求する言葉その他の性的な感情を刺激する言葉を発すること

h26改正後
http://www.pref.kyoto.jp/reiki/reiki_honbun/aa30013881.html
(卑わいな行為の禁止)
第3条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人を著しく羞恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、次に掲げる卑わいな行為をしてはならない。
(1) みだりに、他人の身体の一部に触ること(着衣の上から触ることを含む。)。
(2) みだりに、物を用いて他人の身体に性的な感触を与えようとすること。
(3) みだりに、他人に、その意に反して人の性的好奇心をそそる姿態をとらせること。
(4) みだりに、着衣で覆われている他人の下着又は身体の一部(以下「下着等」という。)をのぞき見すること。
(5) みだりに、前号に掲げる行為をしようとして他人の着衣の中をのぞき込み、又は着衣の中が見える位置に鏡等を差し出し、置く等をすること。
(6) みだりに、写真機等を使用して透視する方法により、着衣で覆われている他人の下着等の映像を見ること。
(7) みだりに、他人に、異性の下着を着用した姿等の性的な感情を刺激する姿態又は性的な行為を見せること。
(8) みだりに、他人に、人の性的好奇心をそそる行為を要求する言葉その他の性的な感情を刺激する言葉を発すること。
2 何人も、公共の場所、公共の乗物その他の公衆の目に触れるような場所において、前項に規定する方法で、次に掲げる卑わいな行為をしてはならない。
(1) みだりに、着衣で覆われている他人の下着等を撮影すること。
(2) みだりに、前号に掲げる行為をしようとして他人の着衣の中をのぞき込み、又は着衣の中が見える位置に写真機その他の撮影する機能を有する機器を差し出し、置く等をすること。
(3) みだりに、写真機等を使用して透視する方法により、着衣で覆われている他人の下着等の映像を撮影すること。
3 何人も、みだりに、公衆便所、公衆浴場、公衆が利用することができる更衣室その他の公衆が通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態にある他人の姿態を撮影してはならない。
(平22条例12・平26条例27・一部改正)

https://www.bengo4.com/c_1009/c_1197/n_8140/
鳥貴族によると、盗撮のあったのは、京都市内の店舗だったということだ。今回のケースはどうだろうか。

「一方で、京都府迷惑防止条例は、改正前の都条例とほとんど同じ内容となっています。つまり、住居や更衣室などは『公共の場所』といえないことから、今回のケースについて、府条例は適用されません。

スマホの普及によって、盗撮も増えている事情もあり、都条例は、住居など範囲が拡大されました。もし仮に、京都府も、東京都と同じように改正されていたら、条例違反で逮捕されていたかもしれません」

靴下を脱がせて足の裏をなめる行為は強制わいせつ罪(176条後段)にあたるかの判断方法

 いま、わいせつ行為の定義がない(最高裁大法廷h29.11.29)のでこれが強制わいせつ罪(176条後段)に該当するかの判断方法が難儀です。

https://this.kiji.is/387079651536913505
逮捕容疑は3月4日午後3時半ごろ、静岡県西部の幼稚園に侵入し、敷地内で遊んでいた女児(8)の靴下を脱がせて足の裏をなめた疑い。

「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」という高裁判例がたくさんあって、最高裁判例はありません。
金沢支部S36.5.2 
東京高裁h13.9.18 
東京高裁h22.3.1
 従前であれば、

靴下を脱がせて足の裏をなめる行為は「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」だからわいせつ行為だ

とか

靴下を脱がせて足の裏をなめる行為は「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とは言いがたいからだからわいせつ行為にはあたらない

という理由付けで、わいせつ性を判断していました。

ところで、大法廷h29.11.29は、性的意図不要だというので、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ」という性的意図を含む点で「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」定義は使えなくなりました。

 最近では、性的自由侵害行為とする判例(大阪高裁H28.10.27 東京高裁h26.2.13)があります。

靴下を脱がせて足の裏をなめる行為は「性的自由を害する」からわいせつ行為だ

とか

靴下を脱がせて足の裏をなめる行為は「性的自由を害する」とは言いがたいからだからわいせつ行為にはあたらない

という理由付けで、わいせつ性を判断することになります。
 大阪高裁H28.10.27は大法廷h29.11.29の原判決で、最高裁はこの定義も採用しませんでした。

 そこで、最近の裁判例は混乱していて。
「わいせつ=一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反して行うこと」(東京高裁h30.1.30)と言ってみたり「その態様から見て性的性質を有するものであることは明確であり,可罰的なわいせつ行為(広島地裁h30.5.18)と言ってみたりです。、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ・・」という定義も消え、性的自由侵害という定義も消えています。
 とすると、「わいせつの定義は■■■■■■■■■■■■■■■■であって、靴下を脱がせて足の裏をなめる行為はは■■■■■■■■■■■■■■■■なので、わいせつだ」
「わいせつの定義は■■■■■■■■■■■■■■■■であって、靴下を脱がせて足の裏をなめる行為はは■■■■■■■■■■■■■■■■ではないので、わいせつではない」という論法では判断できませんよね。

 現在、すべての強制わいせつ罪。青少年条例(わいせつ行為)について、こういう状況になっています。

 馬渡判事の論文を読んで下さい。

馬渡香津子強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
最高裁平成29年ll月29日大法廷判決
ジュリスト 2018年4月号(No.1517)
2.定義
(1)判例,学説の状況
 強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」の定義を明らかにした最高裁判例はない。
 他方,「わいせつ」という用語は,刑法174条(公然わいせつ),175条(わいせつ物頒布罪等)にも使用されており,最一小判昭和26・5・10刑集5巻6号1026頁は,刑法175条所定のわいせつ文書に該当するかという点に関し,「徒に性慾を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反するものと認められる」との理由でわいせつ文書該当性を認めているところ(最大判昭和32・3・13刑集ll巻3号997頁〔チャタレー事件〕も,同条の解釈を示すに際して,その定義を採用している),名古屋高金沢支判昭和36・5・2下刑集3巻5=6号399頁が,強制わいせつ罪の「わいせつ」についても,これらの判例と同内容を判示したことから,多くの学説において,これが刑法176条のわいせつの定義を示したものとして引用されるようになった(大塚ほか編・前掲67頁等)。これに対し,学説の中には,刑法174条,175条にいう「わいせつ」と刑法176条の「わいせつ」とでは,保護法益を異にする以上,同一に解すべきではないとして,別の定義を試みているものも多くある(例えば,「姦淫以外の性的な行為」平野龍一・刑法概説〔第4版)180頁,「性的な意味を有する行為,すなわち,本人の性的差恥心の対象となるような行為」山口厚・刑法各論〔第2版]106頁,「被害者の性的自由を侵害するに足りる行為」高橋則夫・刑法各論〔第2版〕124頁,「性的性質を有する一定の重大な侵襲」佐藤・前掲62頁等)。
(2)検討
 そもそも,「わいせつな行為」という言葉は,一般常識的な言葉として通用していて,一般的な社会通念に照らせば,ある程度のイメージを具体的に持てる言葉といえる。そして,「わいせつな行為」を過不足なく別の言葉でわかりやすく表現することには困難を伴うだけでなく,別の言葉で定義づけた場合に,かえって誤解を生じさせるなどして解釈上の混乱を招きかねないおそれもある。また,「わいせつな行為」を定義したからといって,それによって,「わいせつな行為」に該当するか否かを直ちに判断できるものでもなく,結局,個々の事例の積み重ねを通じて判断されていくべき事柄といえ,これまでも実務上,多くの事例判断が積み重ねられ,それらの集積から,ある程度の外延がうかがわれるところでもある(具体的事例については,大塚ほか編・前掲67頁以下等参照)。
 そうであるとすると,いわゆる規範的構成要件である「わいせつな行為」該当性を安定的に解釈していくためには,これをどのように定義づけるかよりも,どのような判断要素をどのような判断基準で考慮していくべきなのかという判断方法こそが重要であると考えられる。
 本判決が,「わいせつな行為」の定義そのものには言及していないのは,このようなことが考えられたためと思われる。もっとも,本判決は,その判示内容からすれば,上記名古屋高金沢支判の示した定義を採用していないし,原判決の示す「性的自由を侵害する行為」という定義も採用していないことは明らかと思われる(なお,実務上,「わいせつな行為」該当性を判断する具体的場面においては,従来の判例・裁判例で示されてきた事例判断の積み重ねを踏まえて,「わいせつな行為」の外延をさぐりつつ判断していかなければならないこと自体は,本判決も当然の前提としているものと思われる)。

迷惑条例の盗撮行為と、窃視罪の関係~「警視庁では,条例制定の際,主管課と東京地検で協議し,説例の事案では,迷惑防止条例を適用しないと取り決めた。」という話

 罰則審査とか検察協議ということでしょうね。

地域警察官のための軽微犯罪の措置要領(2010年 立花書房)P190
Q2 甲は, A女が入っている公衆便所の上部の隙間から,カメラを差し出して同女の写真を撮影したが, A女が空間に差し出された手とカメラに驚き悲鳴をあげて騒ぎ出したため,甲は,駆けつけた一般人に取り押さえられた。
・・・
カメラによって密かに写真撮影をすることは,軽犯罪法1条23号(窃視の罪)にいう「のぞき見る」に当たるので軽犯罪法違反となる。
事例の行為が,迷惑防止条例(卑わいな行為《粗暴な行為》の禁止)に違反するか否かについて検討してみると,用便中の女性がいる便所内をのぞく行為は,「卑わいな行為」となる。ただし,条例を制定するに当たり,既に他の法令に規定されている事項について,重ねて規定を設けることができないという原則があることから,この条例の制定に当たっても,他の法令の間隙を縫って規制がなされており,既に他の法令で規制されている事項については,条例の規制が及ばないこととされているので,明らかに軽犯罪法に違反する本間の行為には,条例を適用することはできない(※警視庁では,条例制定の際,主管課と東京地検で協議し,説例の事案では,迷惑防止条例を適用しないと取り決めた。他府県でも同じような取り決めがあり,その内容も県によって違い,迷惑防止条例を適用する県もあるので注意を要する。)。
なお,その行為が軽犯罪法違反の構成要件を満たさない場合で,人を著しく蓋恥させ,又は不安を覚えさせるような卑わいな行為であれば,迷惑防止条例違反となる。

被告人が強姦及び強制わいせつの犯行の様子を隠し撮りした各デジタルビデオカセットが刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に当たるとされた事例(最決h30.6.26)

 児童ポルノ製造の関係では高裁レベルで1号説・3号説で分かれていますが、
 撮影行為はわいせつ行為として起訴されてない場合が2号になるとされました。
 

 1審では「これらの隠し撮りが被告人の当該性犯罪と並行して行われ,その意味で密接に関連しているといえるだけでなく,結局それらの映像が無罪の証明につながるものでなかったとはいえ,被告人としては,Eら4名に対する各犯行状況を撮影して録画するに当たり,自らに有利な証拠を作出し得るという認識を持ち,そのような利用価値を見出していたといえるのであり,そのような撮影行為によって客観的に記録した当該映像を確保できること自体が,被告人の上記各犯行を心理的に容易にし,その実行に積極的に作用するものであったと評価できる。したがって,本件各デジタルビデオカセットについては,被告人のEら4名に対する各犯行を促進したものといえ,刑法19条1項2号所定の「犯罪行為の用に供した物」に当たる。」とされていて、強引に2号にもって行かれた感じです。
 控訴審で「原審弁護人は,E側に対し,裁判になれば,証拠として提出しないといけないから,自分の裸や性行為がされているところが映っても,メリットがないのだから,告訴を取り下げなさいというような話をしていたようだという趣旨の供述をしていることに照らすと,被告人のいう利用客との間でトラブルになった場合に備えての防御とは,単に自己に有利な証拠として援用するために手元に置いておくことにとどまらず,被害者が被害を訴えた場合には,被害者に対して前記映像を所持していることを告げることにより,被害者の名誉やプライバシーが侵害される可能性があることを知らしめて,捜査機関への被害申告や告訴を断念させ,あるいは告訴を取り下げさせるための交渉材料として用いることも含む趣旨と認められる。」と認定されています。
 上告審では上記の事実認定を前提にして「被告人がこのような隠し撮りをしたのは,被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて,捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ,刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる。以上の事実関係によれば,本件デジタルビデオカセットは,刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に該当し,これを没収することができると解するのが相当である。 」となっています

条解刑法
供用物件
犯罪行為の用に供した物とは犯罪行為の不可欠な要素となっている物ではないが,犯罪行為のために使用された物をいう。
殺人行為に用いられた銃と弾丸,賭博に用いられた用具(大判明44・2・16録17-83).文書偽造に用いられた偽造印章(大判昭7・7・20集ll-lll3)など,犯罪の実行行為に直接使用されたものが供用物件に当たることは明らかであるが,実行行為の着手前又は実行行為の終了直後に,実行行為や逃走を容易にするなど,犯罪の成果を確保する目的でなされた行為において使用された物も当該行為が実行行為と密接な関連性がある限り,犯罪行為の用に供した物ということができる。例えば,窃盗事犯において,住居に侵入するために使用された平角鉄棒も,窃盗の手段としてその用に供した物としてこれを没収することができる(最判昭25・9・14集4-9-1646)。また,鶏を窃取した後に,これを運搬しやすいようにするため切出し又はナイフでその首を切った場合には,窃盗の結果を確保するための用に供したものとして,これらを没収することができる(東京高判昭28・6・18高集6ー7-848)。なお.下級審の裁判例の中には,単に結果から見て犯行に役立つたというだけでは十分でなく,犯人が犯行の用に供する積極的意思を持って直接犯行の用に供したことが必要であると解していると恩われるものもあるが(名古屋高判昭30・7・14高集86 805),当該物件が客観的に犯罪の手段として用いられ,かつ,犯人がそのことを認識している限り,犯行供用物件に当たると解してよいであろう(大コンメ2版)。

裁判年月日 平成27年12月 1日 裁判所名 宮崎地裁 裁判区分 判決
事件名 強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件
裁判結果 有罪(懲役11年(求刑 懲役13年)) 文献番号 2015WLJPCA12016002
上記の者に対する頭書被告事件について,当裁判所は,検察官若杉朗仁,私選弁護人谷口渉(主任),同金丸祥子,同渡邊紘光各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人を懲役11年に処する。
 未決勾留日数中370日をその刑に算入する。
 押収してあるデジタルビデオカセット原本4本(平成27年押第7号符号1ないし4)を没収する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。
理由

 【罪となるべき事実】
 被告人は,平成21年2月頃,宮崎市〈以下省略〉の住居地の1階部分にアロマサロン「a店」(以下「本件店舗」という。)を開業した上,地元の情報誌に営業時間を午前10時から翌午前2時までなどとする内容の記事を掲載しながら,その利用客らに対し,自らも施術者としてアロマオイルを用いたマッサージ等のサービスを提供してきた者であるが,
第1(平成26年2月17日付け起訴状記載の公訴事実(第28号事件)関係)
 かねてから本件店舗で被告人からアロマに関する指導を受けるなどしていたA(以下「A」という。)の協力を得て,平成22年4月17日午後11時頃から,本件店舗において,その宣伝用としてAが被告人を相手にマッサージを行う様子をビデオカメラで撮影するなどの作業を行ったところ,翌18日午前0時頃,その作業を終えたA(当時27歳)が帰宅の準備を始めようとするや,劣情を催した被告人がAを強いて姦淫しようと考え,Aに対し,同所において,手に持ったガムテープ片をいきなりAの口に近づけて貼り付けようとした上,嫌がるAを強引にソファ上に押し倒してその身体に覆いかぶさり,手でその口を塞ぎ,その陰部に手指を差し入れるなどの暴行を加え,その抵抗を著しく困難にさせてAを強いて姦淫しようとしたが,Aが大声を上げて助けを求めるなどしたため,その目的を遂げず(以下「A事件」ともいう。),
第2(平成26年7月2日付け起訴状記載の公訴事実(第140号事件)関係)
 平成24年6月21日午後9時頃に客としてマッサージを受けに来店したB(当時37歳。以下「B」という。)を本件店舗のマッサージルーム(以下「本件施術室」という。)に招き入れるなどした上,被告人の指示により,全裸にさせたBをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともにアイマスクを着用させ,更にBに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Bの様子を隠し撮りしてデジタルビデオカセット(平成27年押第7号符号4)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃から同日午後11時30分頃までの間に,Bに対するマッサージを行うなどしたところ,Bがこのような状態になっているのに乗じ,マッサージを装って強いてわいせつな行為をしようと考え,その際,本件施術室において,上記のような状態のBに対し,露わにしたBの乳房を直接もんだり,その乳首を触ったりして,もって強いてわいせつな行為をし(以下「B事件」ともいう。),
第3(平成26年6月2日付け起訴状記載の公訴事実第1(第115号事件)関係)
 平成25年11月24日正午頃に被告人の知人として無料でマッサージを受けに来店したC(当時44歳。以下「C」という。)を本件施術室に招き入れるなどした上,被告人の指示により,上半身を裸にさせたCをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともに,当該施術の途中からアイマスクを着用させ,更にCに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Cの様子を隠し撮りしてデジタルビデオカセット(同号符号2)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃から同日午後2時30分頃までの間に,Cに対するマッサージを行うなどしたところ,Cがこのような状態になっているのに乗じ,マッサージを装って強いてわいせつな行為をしようと考え,その際,本件施術室において,上記のような状態のCに対し,Cの唇に接ぷんし,露わにしたその乳房を直接もんだり,その乳首を触ったりして,もって強いてわいせつな行為をし(以下「C事件」ともいう。),
第4(平成26年6月2日付け起訴状記載の公訴事実第2(第115号事件)関係)
 平成25年11月26日午後9時頃に客としてマッサージを受けに来店したD(当時25歳。以下「D」という。)を本件施術室に招き入れるなどした上,被告人の指示により,全裸にさせたDをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともにアイマスクを着用させ,更にDに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Dの様子を隠し取りしてデジタルビデオカセット(同号符号3)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃から同日午後11時50分頃までの間に,Dに対するマッサージを行うなどしたところ,Dがこのような状態になっているのに乗じ,マッサージを装って強いてわいせつな行為をしようと考え,その際,本件施術室において,上記のような状態のDに対し,露わにしたDの乳房を直接もんだり,その乳首を触ったりして,もって強いてわいせつな行為をし(以下「D事件」ともいう。),
第5(平成26年6月2日付け起訴状記載の公訴事実(第114号事件)関係)
 平成25年12月15日午後10時頃に客としてマッサージを受けに来店したE(当時27歳。以下「E」という。)を本件施術室に招き入れるなどした上,被告人の指示により,全裸にさせたEをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともにアイマスクを着用させ,更にEに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Eの様子を隠し撮りしてデジタルビデオカセット(同号符号1)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃からEに対するマッサージを行うなどしたところ,Eがこのような状態になっているのに乗じ,Eを強いて姦淫しようと考え,翌16日午前1時40分頃,本件施術室において,上記のような状態のEに対し,Eの陰部に手指を差し入れて弄ぶなどするとともに,その両膝に自己の体を押し当てるなどしてEの両足を押し広げ,その身体に覆いかぶさるなどの暴行を加えて,その抵抗を著しく困難にした上,強いてEを姦淫した(以下「E事件」ともいう。)。
 【証拠の標目】
 【事実認定の補足説明】
 【法令の適用】
 罰条
 判示第1の行為 刑法179条,177条前段
 判示第2ないし第4の各行為 いずれも刑法176条前段
 判示第5の行為 刑法177条前段
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第5の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 没収 刑法19条1項2号,2項本文
 訴訟費用の負担 刑訴法181条1項本文
 【争点に対する判断(没収の可否)】
 当裁判所は,デジタルビデオカセット原本4点(以下「本件各デジタルビデオカセット」という。)が犯行供用物件に当たり,没収するのが相当であると判断したが,弁護人はこれを争っているので,以下,このように判断した理由を説明する。
 1 関係各証拠によれば,当該判断の前提として,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,本件施術室においてEら4名の女性に対する判示第2ないし第5の各犯行に及ぶに当たり,アイマスクの着用に応じさせたEらに無断で,自らビデオカメラを操作して各犯行状況等の隠し撮りを行い,本件各デジタルビデオカセットに録画した。なお,この隠し撮りの間に,被告人はビデオカメラの位置や向きを動かすなどして,Eらの胸部等を大きく映し出すようにしていた。
  (2) このようにして上記各犯行状況等が録画された本件各デジタルビデオカセットは,被告人の所有物として,被告人によってその貼付に係る紙面上にそれぞれ当該女性の氏名や撮影年月日等が記入され,特定できるようにして保管されていた。
  (3) もっとも,被告人は,E事件の翌日である平成25年12月17日午後2時21分にE事件の容疑で逮捕されるに当たり,詳細は明らかでないものの,本件各デジタルビデオカセットをいずれも本件店舗以外の場所に移し,捜査機関からの押収を免れていた。
  (4) そして,本件各デジタルビデオカセットのうち,Eに関するものについては,被告人が暴行脅迫を加えていないことが明らかになるなどと考え,主任弁護人を通じ,捜査機関に任意提出された。他方,その余については,Eの場合と異なり,捜査機関に明かされなかったが,起訴後のCら3名の証人尋問終了後に,主任弁護人から,検察官への証拠開示を経て証拠請求されるに至った。なお,これらの映像については,機器の制約等のため,捜査機関による複製物が公判廷で取り調べられた。
  (5) なお,被告人は,このような隠し撮りを行った理由につき,後に当該女性らとの間でトラブルになった場合に備えて防御のために撮影したものであり,以上の映像の内容は,自らの無罪を証明するとともに,女性らが虚偽の供述をしていることを示すものであるなどと供述している。
 2 そこで,以上の事実等を踏まえて判断すると,本件各デジタルビデオカセットは,被告人が当該性犯罪と並行して意図的にこれを録画したものであることが明らかである。このような録画を行った被告人の意図については,自己の性的興奮を高めることなど,検察官が主張するような事情も,可能性としてはあり得るけれども,少なくとも前記のような被告人の供述を含めて検討すると,被告人としては,本件各犯行に及ぶとともに,その撮影に及んだ当初から,被害者らとの間で後に紛争が生じた場合に,本件各デジタルビデオカセットをその内容が自らにとって有利になる限度で証拠として利用することを想定していたと認めることができ,このことは,前記1の事実関係によっても裏付けられているといえる。
 そして,このような被告人による隠し撮りは,Eら4名に対する実行行為そのものを構成するものでなく,もとより被告人がこうした隠し撮りを行ったことをもって訴追されたわけでもない。しかしながら,これらの隠し撮りが被告人の当該性犯罪と並行して行われ,その意味で密接に関連しているといえるだけでなく,結局それらの映像が無罪の証明につながるものでなかったとはいえ,被告人としては,Eら4名に対する各犯行状況を撮影して録画するに当たり,自らに有利な証拠を作出し得るという認識を持ち,そのような利用価値を見出していたといえるのであり,そのような撮影行為によって客観的に記録した当該映像を確保できること自体が,被告人の上記各犯行を心理的に容易にし,その実行に積極的に作用するものであったと評価できる。したがって,本件各デジタルビデオカセットについては,被告人のEら4名に対する各犯行を促進したものといえ,刑法19条1項2号所定の「犯罪行為の用に供した物」に当たる。
 (求刑 懲役13年,デジタルビデオカセット4本の没収)
 平成27年12月11日
 宮崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 瀧岡俊文 裁判官 島田尚人 裁判官 廣瀬智彦)

裁判年月日 平成29年 2月23日 裁判所名 福岡高裁宮崎支部 裁判区分 判決
事件名 強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件
裁判結果 控訴棄却 文献番号 2017WLJPCA02236009

上記の者に対する強姦未遂,強姦,強制わいせつ被告事件について,平成27年12月1日宮崎地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官内田武志出席の上審理し,次のとおり判決する。
 

主文

 本件控訴を棄却する。
 当審における未決勾留日数中380日を原判決の刑に算入する。
 
 
理由

 本件控訴の趣意は,主任弁護人前田裕司,弁護人谷口渉及び同金丸祥子作成の控訴趣意書,控訴趣意書補充書,同(2)及び同(3)並びに被告人作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官内田武志作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。
第3 法令適用の誤りの主張について
 2 本件各デジタルビデオカセットの没収について
 論旨は,本件各デジタルビデオカセットが被告人の原判示犯行を心理的に容易にし,その実行に積極的に作用するものであることを理由に原判示犯行を促進したものとして刑法19条1項2号所定の「犯罪行為の用に供した物」に該当するとして没収した原判決は,同条項の解釈適用を誤っている,というのである。
 そこで検討すると,本件各デジタルビデオカセットは,被告人が,原判示第2ないし第4の各わいせつ行為並びに原判示第5の強姦行為をそれぞれ隠し撮りしたものであるところ,犯人がこのような映像を撮影して所持していることは,性犯罪の被害者に対し強い精神的苦痛を与える行為といえるから,犯人が,性犯罪の被害者に対し,このような映像を所持していることを告げ,警察に通報したり告訴したりした場合にはこのような映像が公開されることになる旨告げることによって,映像の流出を恐れた被害者が,犯人の要求に従い,通報や告訴を断念する可能性があるといえる。関係証拠によれば,被告人は,ビデオ撮影の目的について,後に利用客との間でトラブルになった場合に備えて防御のために撮影したものである旨説明しているところ,本件ビデオ映像(E)について,Eは,被告人の原審弁護人から連絡があり,本件ビデオ映像(E)に係る本件デジタルビデオカセットの映像を法廷で流されたくなかったら示談金ゼロで告訴の取下げをしろと要求された旨供述しており,被告人も,仮に示談が成立したのであれば被告人の手元にビデオ映像が残るのはEにとってかわいそうだから処分するということで納得したが,示談交渉が決裂しているので今はそのつもりはない,原審弁護人は,E側に対し,裁判になれば,証拠として提出しないといけないから,自分の裸や性行為がされているところが映っても,メリットがないのだから,告訴を取り下げなさいというような話をしていたようだという趣旨の供述をしていることに照らすと,被告人のいう利用客との間でトラブルになった場合に備えての防御とは,単に自己に有利な証拠として援用するために手元に置いておくことにとどまらず,被害者が被害を訴えた場合には,被害者に対して前記映像を所持していることを告げることにより,被害者の名誉やプライバシーが侵害される可能性があることを知らしめて,捜査機関への被害申告や告訴を断念させ,あるいは告訴を取り下げさせるための交渉材料として用いることも含む趣旨と認められる。そうすると,原判示第2ないし第5の各犯行時に隠し撮りをして,各実行行為終了後に各被害者にそのことを知らせて捜査機関による身柄拘束を含む捜査や刑事訴追を免れようとする行為は,各犯行による性的満足という犯罪の成果を確保し享受するためになされた行為であるとともに,捜査や刑事訴追を免れる手段を確保することによって犯罪の実行行為を心理的に容易にするためのものといえるから,本件各実行行為と密接に関連する行為といえる。以上のとおり,本件各デジタルビデオカセットは,このような実行行為と密接に関連する行為の用に供し,あるいは供しようとした物と認められるから,刑法19条1項2号所定の犯行供用物件に該当する。原判決の認定判断は上記説示に沿う限度で相当である。
 所論は,本件各デジタルビデオカセットが犯行供用物件に該当するためには,撮影者に犯罪を実行しているという違法性の認識が必要である,という。しかし,犯行供用物件該当性を検討する上で,行為者の主観的要件としては,行為者において,当該犯罪行為に該当する事実を認識し,実行行為ないしこれと密接に関連する行為に利用する目的を有していれば足り,当該犯罪行為が違法であることまで認識している必要はないというべきである。被告人が,原判示第2ないし第5の各犯行時に隠し撮りをして,各実行行為終了後に各被害者に対してそのことを知らせて捜査機関による身柄拘束を含む捜査や刑事訴追を免れようとする目的を有していたと認められることは,前記のとおりであるから,本件各デジタルビデオカセットについて,被告人が実行行為と密接に関連する行為に利用する目的を有していたと認められることは明らかであり,所論は失当である。
 所論は,違法性の認識を有している人物であれば,犯行を促進し容易にするためにわざわざ犯行を立証する証拠を残しておくはずがないから,ビデオ撮影は,むしろ犯行を抑制する方向に働くのが一般的であり,決して犯行を容易にするものではない,という。しかし,本件各デジタルビデオカセットは,使い方によっては犯行を立証する証拠として被告人に不利に用いられる可能性があるとはいえるが,他方で,前記のとおり,各被害者に対して本件各デジタルビデオカセットの存在を告げて,被害者の名誉やプライバシーが侵害される可能性があることを知らしめることにより,被害申告の断念や告訴の取下げ等を要求するのに用いることもできるのだから,その存在を明らかにするか否かも含めて自由に決めることができる立場にある被告人にとって,犯行を促進し容易にする側面を有するものであることは明らかである。
 本件各デジタルビデオカセットにつき,刑法19条1項2号所定の犯行供用物件に該当することを理由に同条項を適用してこれらを没収した原判決の法令の適用に誤りはない。論旨は理由がない。
第4 結論
 よって,刑訴法396条,刑法21条により,主文のとおり判決する。
 平成29年3月2日
 福岡高等裁判所宮崎支部
 (裁判長裁判官 根本渉 裁判官 渡邉一昭 裁判官 諸井明仁

裁判年月日 平成30年 6月26日 裁判所名 最高裁第一小法廷 裁判区分 決定
事件名 強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2018WLJPCA06269002
本件上告を棄却する。
 当審における未決勾留日数中360日を本刑に算入する。 
 
理由

 弁護人前田裕司,同谷口渉及び同金丸祥子並びに被告人本人の各上告趣意は,いずれも事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み,職権で判断する。
 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,被告人は,本件強姦1件及び強制わいせつ3件の犯行の様子を被害者に気付かれないように撮影しデジタルビデオカセット4本(以下「本件デジタルビデオカセット」という。)に録画したところ,被告人がこのような隠し撮りをしたのは,被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて,捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ,刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる。以上の事実関係によれば,本件デジタルビデオカセットは,刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に該当し,これを没収することができると解するのが相当である。
 したがって,刑法19条1項2号,2項本文により,本件デジタルビデオカセットを没収する旨の言渡しをした第1審判決を是認した原判断は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 小池裕 裁判官 池上政幸 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚 裁判官 深山卓也)