児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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真剣交際(青少年条例)と不同意性交罪・不同意わいせつ罪

https://news.yahoo.co.jp/articles/7b2402841efe5cd8117880141c00641f5c1f9473
不同意性交等と不同意わいせつの疑いで書類送検されたのは、福岡県警第2機動隊に所属する22歳の男性巡査です。
男性巡査は、今年4月26日深夜から翌27日の未明にかけ当時、交際関係にあった女子中学生が16歳未満であり、5歳以上年齢が若いことを知りながら性交やわいせつ行為をした疑いが持たれています。
今年4月28日に県内の飲食店で男性巡査と女子中学生たちが食事していたのを警察官が目撃したことから事件が発覚しました。
男性巡査と女子中学生は今年1月にスマートフォンのオンラインゲームで知り合い、今年4月から交際関係にあったということです。
事情聴取に対し、男性巡査は、「交際関係にあり、年齢差があることは認識していたが、性的な欲求を抑えることができなかった」と容疑を認めているということです。
福岡県警は、27日付けで男性巡査を懲戒免職処分にした上で「職員の指導・教養を徹底し、再発防止に努める」とコメントしています。


 18歳未満との性行為については、従前、

「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、
①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)

という判例があって、それで運用されてきたのだが、不同意性交罪・不同意わいせつ罪にはそういう文言はない。
 佐伯先生は、「未熟に乗じて」的な実質的要件を入れて、5歳差以上の真剣交際など対等な関係の場合を除外しようとされたのだが、採用されなかった。
 しかし、青少年条例の法文もも「淫行」「わいせつ」とされているのを、判例で限定した経緯があるので、不同意性交・不同意わいせつについても、対等な関係は除外する方向で判例で限定される可能性がある。
 捜査段階で主張すれば、起訴判断にも影響は有るだろう。

法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第9回会議 議事録
○佐伯委員 私は、前回改正の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会では、性交同意年齢の引上げについて、児童福祉法や条例の罰則などの存在を理由に、消極的な意見を申し上げました。
しかし、今回の部会において、皆様の御意見・御議論を伺い、13歳以上であっても、一定の年齢以下の者については、先ほどから御指摘がありますように、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、あるいは性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力が十分でないということから、そのような若年者を保護するために刑法に新たな規定を設けることに賛成したいと思うようになっています。
その上で、どのような規定にするのが望ましいのかということについて、現在のところは、第1回会議の外国の法制度に関する配布資料6で紹介されました、ドイツ刑法182条3項のような規定、具体的には、同項は、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行い、その際に、行為者に対する被害者の性的自己決定能力の欠如を利用した場合に処罰すると規定しておりますけれども、このような規定の仕方が、基本的には適切ではないかと思うに至っております。
この規定のように、年齢差を、行為者と被害者の年齢で定めるのか、それとも、端的に年齢差として規定するのか、あるいは、その年齢や年齢差を何歳にするのか、先ほどから、3歳あるいは5歳というような御意見が出ておりますが、それらの点については、更に検討が必要だと思いますけれども、基本的に、年齢差と被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用の両方を要件とすることが、望ましいのではないかということです。
まず、年齢差要件を設ける理由については、若年者の判断能力、特に対処能力は、相手や状況に左右されるものであって、一定の年齢差がある場合には、先ほど来、小西委員が御指摘になっておられますように、対処能力に欠けると考えることができること、そして、これも小西委員が御指摘になられた点ですけれども、法律の安定的な適用を確保するためには、被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用を徴表する要件を規定し、一定の場合は、原則として犯罪が成立するということを示すのが、望ましいと思われるからです。
次に、年齢差要件とともに、利用要件を設ける、この点が、小西委員と意見を異にする点なのですけれども、その理由というのは、年齢差要件だけで処罰範囲を適切に画することができるかについて、私は危惧を感じるからです。
例えば、先ほども御指摘がありましたけれども、年少者が年長者に対して暴行・脅迫を用いて性交等を行ったという場合は、年長者は被害者ですので、処罰されるべきではないということについては、恐らく異論はないのではないかと思います。
そのような場合は、違法性阻却等で処罰範囲から除外できるのかもしれませんが、やはり構成要件の段階で除外することが望ましいと思います。
さらに、一定の年齢差がある場合、飽くまで例えばですけれども、ドイツ刑法の規定のように、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行った場合には一律に処罰する規定とすることについては、最高裁判例との関係も気になります。
御案内のように、最高裁昭和60年10月23日大法廷判決は、18歳未満の者との淫行を禁止・処罰する福岡県青少年保護育成条例について、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰の対象とすることは処罰の範囲が広きに失すると判示しています。
今回問題となっている一定の年齢未満、例えば、16歳未満の者との性的行為等の処罰について、この判例がそのまま当てはまるわけではありませんが、真摯な合意に基づく性的関係は処罰すべきではないというのが、この判例の基本的な考え方だとすると、私は、その考え方は尊重されるべきだと思います。
一定の年齢差がある場合は、そのような真摯な合意に基づくものではないというのが通常でしょうし、その年齢差が更に大きくなれば、真摯な合意に基づくものとは到底いえないと判断されることになると思います。
しかし、一定の年齢差を少し超えただけで、常に真摯な合意に基づくものでないといえるのか、例えば、21歳の者と15歳の者との間には、真摯な合意に基づく性的関係はあり得ないと言い切ってよいのかについては、私はちゅうちょを覚えるところです。
この最高裁判例が、法定刑が懲役2年以下又は10万円以下の罰金である条例の規定に関するものであるのに対して、現在議論されているのは、法定刑が、性交等の場合は5年以上の有期懲役の罪であることも、考慮に入れられるべきだろうと思います。
○佐伯委員 特に、年齢差をどうするかというところは、大きいのかなと感じております。
○長谷川幹事 三点質問をさせていただきたいと思います。
先ほど昭和60年の最高裁判例について御紹介いただいて、判決理由の中で、18歳未満に対する淫行の処罰について、結婚を前提とするような真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰対象とすると、処罰範囲が広汎になりすぎるという趣旨の判示部分を引用されたのですが、一点目は、女性の婚姻適齢が18歳に引き上げられたこととの関係で、今、この判決理由の判示はどのように整理されるのかということをお聞きしたいと思います。
それから、佐伯委員も、対象年齢を引き上げる根拠として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力に言及されつつ、真摯な恋愛、そういった一定程度本気の恋愛は処罰すべきではないのではないかという考えが背景にある御意見としてお聞きしたのですが、私は、先ほど言ったように、「②」の能力が不十分であることは、相手が誰であろうと、本気の恋愛であろうと、変わらないのではないかと思っておりまして、そこはどうお考えなのでしょうか。
それから、実質的要件について、これは、「」という言葉を使うのか、ほかの言葉を使うのか、まだ定まっていないところではあるのですけれども、こういった要件によって、年齢差があっても、一定の処罰すべきでないものを処罰対象から排除しようというお考えだと思うのですが、こういった要件があることによって、本来処罰すべきものが、行為者の認識や行為の立証の問題から処罰できなくなってしまう危険を多分にはらんでいるという点について、どうお考えなのかということを教えてください。
○佐伯委員 まず、最高裁判例が出たときと現在では、婚姻適齢が変わっているというのは、正に御指摘のとおりで、先ほども申し上げましたけれども、この最高裁判例が、そのまま直接、今議論している問題に当てはまるとは、私も思っておりません。
ただ、最高裁判例の基礎にある考え方からは、年齢差要件を設けても、その年齢差を少し超えるような場合に、常に処罰に値するといえるのかというと、やはり処罰すべきでない事例があるのではないかという発想に立つものです。
そして、これは先ほど御質問のあった立証の問題とも関連するのですけれども、刑罰を科すかどうかという問題ですので、少しでも処罰すべきでないものが入るおそれがあるのであれば、本来処罰すべきものが多少漏れたとしても、利用要件を設けることによって、言わば安全弁のようなものを残すべきではないかと思っている次第です。
○佐伯委員 私の理解が不十分なのかもしれないのですが、もちろん、例えば、22歳と15歳であれば完全に対等とはいえないでしょうし、知識にも格差があると思います。
しかし、そういう力の格差や、知識の格差に配慮しながら、例えば、避妊をきちんとする、あるいは、そういう格差を補う努力、真摯という言葉が適切かは分かりませんが、私の考える真摯というのは、単なる主観の問題ではなくて、具体的にどういうことを行っているのかという客観的な問題だろうと思うのですけれども、様々な配慮を行って、性的な関係を持っているという場合に、これを、強制性交等罪や強制わいせつ罪と同じように処罰するというのは、私にはやや行き過ぎのように思えまして、やはりそういう場合を除外できる要件を設けておくのが適切ではないか、それを実務の運用に任せてしまうというのは適切ではないのではないかと思っております。