児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

数人に対するひそかに製造罪(7条5項)につき、児童ごとに一罪とした事例(東京地裁r5.12.21)

 だいたい、学校の着替え盗撮というのは、「さあ次は体育なので、女子はここで着替えましょう」という言動があれば、姿態をとらせて製造罪です。
 判例タイムズ1432の裁判官の論稿では包括一罪とされています。
 当職が関与した大阪地裁r5.10.17は、姿態をとらせて製造罪への訴因変更を経て包括一罪でした。

東京地方裁判所判決/令和4年(特わ)第396号、令和4年(特わ)第498号、令和4年(合わ)第86号
【判決日付】 令和5年12月21日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
第2 被告人は、B(当時7歳)及びC(当時6歳)が18歳未満の児童であることを知りながら、別表記載のとおり、令和元年9月3日から同月5日までの間、4回にわたり、F小学校の教室内において、ひそかに、B及びCの胸部及び陰部を露出した姿態を被告人が使用する動画撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、その動画データ4点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。

(法令の適用)
1 罰条
  判示第2別表の番号1、3及び4の各所為につき、いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
  判示第2別表の番号2の所為につき、被害者ごとに児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
2 科刑上一罪の処理
  判示第2別表の番号2の各罪につき、刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので、一罪として児童ポルノ製造の罪の刑で処断。なお、犯情が被害者ごとに異ならないのでその一つを選ぶことをしない。)

判例番号】 L07831229
       児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、準強姦未遂被告事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/令和4年(特わ)第396号、令和4年(特わ)第498号、令和4年(合わ)第86号
【判決日付】 令和5年12月21日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数中390日をその刑に算入する。
 東京地方検察庁で保管中のスマートフォン1台(令和5年東地領第2819号符号1)及びUSBメモリ1本(同符号2)を没収する。

       理   由

(罪となるべき事実)
第1 被告人は、A(当時13歳)に対し、Aが小学6年生の頃からその陰部を触り、口淫をさせるなどの性的虐待を繰り返し、Aが被告人を恐れて抗拒不能の状態に陥っていることに乗じて、Aを姦淫しようと考え、平成24年5月1日、埼玉県朝霞市(以下略)において、前記状態であるAの陰部に自己の陰茎を押し当てるなどしてAを姦淫しようとしたが、Aが痛がるなどして陰茎を挿入することができなかったため、その目的を遂げなかった。
第2 被告人は、B(当時7歳)及びC(当時6歳)が18歳未満の児童であることを知りながら、別表記載のとおり、令和元年9月3日から同月5日までの間、4回にわたり、F小学校の教室内において、ひそかに、B及びCの胸部及び陰部を露出した姿態を被告人が使用する動画撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、その動画データ4点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
第3 被告人は、自己の性的好奇心を満たす目的で、令和4年1月17日、さいたま市緑区(以下略)当時の被告人方において、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである動画データ2点及び静止画データ4点を記録したスマートフォン1台(令和5年東地領第2819号符号1)並びに同動画データ9点及び静止画データ3点を記録したUSBメモリ1本(同符号2)を所持した。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
第1 判示第1の事実について、被告人は、Aの陰部に自己の陰茎を押し当てるなどしたこと、Aが小学6年生の頃からAの陰部を触り、口淫をさせるなどの行為を繰り返していたことは間違いないが、Aが抗拒不能の状態に陥っていたことはない旨陳述し、これを受けて、弁護人は、Aが事件当時抗拒不能の状態に陥っていたこと及びそれに対する被告人の故意はいずれも認められない旨主張する。しかしながら、当裁判所は、弁護人が争っている前記各事実がいずれも認められると判断したので、その理由を説明する。
第2 Aが抗拒不能の状態に陥っていたことについて
 1 関係各証拠によれば、以下の事実が明らかに認められる。
  (1)被告人は、小学校教諭であり、平成19年4月、Aが通っていた小学校へ赴任し、平成21年4月から平成23年3月までの間、小学5年生ないし6年生であったAの在籍するクラスの担任を務めた。
  (2)被告人は、遅くとも、Aが小学6年生であった平成22年頃から、小学校の教室内に他の児童らがいない状況でAと繰り返しキスをするようになった。同年7月には、小学校の宿泊行事の際、被告人が使用する客室内でAを全裸にさせてその陰部を手指で弄び、同年12月には、小学校の教室内でAに口淫をさせ、それぞれその様子を動画撮影した。
  (3)平成23年4月、Aは中学校に入学したが、その後も、被告人とAはLINE等で連絡を取り合っていた。Aが中学1年生の時、被告人はAの弟であるEの在籍するクラスの担任になった。
  (4)被告人は、同年8月18日、勤務する小学校を訪れたAに対し、教室内でその陰部を手指で弄び、その様子を動画撮影した。さらに、被告人は、少なくとも同年9月28日、同年12月9日、平成24年1月10日、同年5月1日(本件当日)及び同年8月5日の5回にわたり、その都度友人から本件事件現場である友人方居室を借りて、同所において、Aに口淫をさせたり陰部や乳房を手指で弄んだりする性的行為を行い、その様子を動画撮影した。本件当日、被告人は、Aの陰部や乳房を手指で弄び、キスをし、Aの陰部に自己の陰茎を押し当てたが、Aが痛がるなどしたため、陰茎を挿入するには至らなかった。
 2 Aの供述の要旨
   Aは、公判廷において、大要、以下のとおり供述した。
   中学1年の後半辺りから、被告人に連れられて電車で本件事件現場である被告人の友人方に行くようになった。同所には5回以上行ったが、毎回、手淫、口淫をさせられ、被告人が男性器を自分の陰部に押し付けて挿入しようとした。被告人は、それらの様子を撮影することがあったが、撮影していいかと聞かれたことはなかった。
   中学校の授業等を通じて、それまで自分がされてきた行為の意味をよく理解するようになっていたこともあり、被告人からこれらの性的行為をされることはすごく嫌だったが、もし拒絶すれば、被告人にそれまでに撮影された動画等をばらまかれたり、弟のEがクラスの担任である被告人から成績を下げられるなどの理不尽な扱いを受けたりするのではないかと思い、拒絶することはできなかった。被告人に性的行為をされる際に、被告人の手をはたく、指示を聞き入れないなどの抵抗をしたことはあるが、それが功を奏して性的行為をしないで済んだことはなかった。本件当日の時点では、被告人のことが怖かったのと、それまでずっと性的行為をさせられていたので、抵抗することを諦めていた。
 3 Aの供述の信用性
  (1)まず、被告人の友人方で撮影された一連の動画との整合性を検討する。
    平成23年9月28日の動画では、被告人がAに口淫等をさせる様子が写されており、被告人は、Aがその手で被告人の手を払い、上着を羽織るなどして複数回阻止しているにも関わらず、「怒ってる顔しないでよ」などと言ってAの乳房を触る行為を繰り返している。
    平成23年12月9日の動画では、Aの乳房を弄ぶ被告人に対し、Aが「顔写しちゃだめ」などと言って首を振っている。これに対し、被告人は、「Aかどうかわかんない」と言ってAの顔の撮影を続けている。
    平成24年1月10日の動画では、被告人がAの陰部を弄ぶなどする様子が写されている。Aは、不機嫌な表情で顔を背け、乳房や陰部に触れる被告人の手を複数回払い、腕で阻止し、被告人が顔を近づけると「やだ」と言って離れるなどしており、体を触らせ、横になるよう求める被告人の指示に従っていなかったが、被告人は、「触らせて」「言うこと聞いてくれ」「泣かしたくねえし」「理解して」「横になって」などと執ように言って、結局、横になったAの陰部を弄ぶなどしている。また、被告人がAの乳房や陰部を弄び、Aの陰部に陰茎を接着させるなどしている間、Aは服や手で顔を覆って隠していたが、被告人は服や手を外して、Aの顔を撮影した。さらに、Aが目を閉じて顔をしかめたり、手で顔を覆ったりしているにも関わらず、被告人は、引き続きAに口淫等をさせ、Aは「上に乗って」という被告人の指示に従って口淫をしている。
    本件当日である平成24年5月1日の動画では、Aは、被告人が陰部や乳房を弄ぶことに対しては目立った抵抗を示していないが、顔を撮影されることに対しては、手や布団で顔を覆い、「やだ」と言っている。被告人は、布団を取り除くなどしてAの顔の撮影を繰り返した上、目をつむって顔をしかめ首を横に振るAに対し、舌を出させてキスするなどしている。
    これらの動画より、本件以前に、Aが被告人との性的行為や動画撮影を嫌がり、抵抗するような態度や発言をしているにもかかわらず、被告人がそれを無視して性的行為及び動画撮影を繰り返し、Aは、被告人の指示に従わざるを得ない様子が見てとれる。とりわけ、平成24年1月10日の動画では、明確に抵抗する様子や指示に従わない様子を見せるAに対し、被告人は、「泣かしたくねえし」などと、指示に従わなければAを泣かせるような仕打ちをすることを示唆する発言をして、結局性的行為をするに至っている。一方、本件当日には、Aは性的行為に対して目立った抵抗を示していないが、前記各動画によって認められる従前の経緯からすれば、Aが、抵抗しても結局受け入れられず、性的行為をさせられてしまう無力感や、被告人の意図に反した言動をすれば、ひどいことをされるかもしれないという恐怖感から、抵抗を諦める気持ちになることは無理もないことである。平成24年1月10日から本件当日までの間に被告人とAの関係が大きく変化したことをうかがわせる事情が見当たらないことも踏まえると、本件当時、被告人が怖く、それまで性的行為をさせされていたので抵抗を諦めたというAの供述は、前記一連の動画とよく整合している。なお、本件当日の動画には、Aが被告人と一見和やかに雑談をする様子も写っているが、これについてAは、被告人が自分を触っているのを感じないように、気を紛らわせようとしたからであると述べており、その説明は、性的行為に応じなければその場を逃れることができない状況に置かれた者の心情を迫真性をもって述べるものであるから、Aの供述が一連の動画とよく整合しているとの評価は変わらない。
  (2)次に、Aの供述の内容の自然性、合理性について検討する。
    本件当時、Aは、13歳であり、被告人とは、被告人が当時36歳で、1年余り前まで小学校でAの担任教諭をしていたという関係にあった。このようなAの年齢及び被告人との関係に照らせば、Aが性的行為についての自由な意思決定を妨げる特別な事情もないのに、被告人から陰部に陰茎を押し当てられるというわいせつ性の高い性的行為に応じるということは考え難い。Aは、そのような事情として、被告人のことが怖く、繰り返し性的行為をさせられていたので、抵抗することを諦めていたことを挙げるが、その内容は、極めて自然である。
    Aは、性的行為を拒絶できなかった理由の一つとして、それまでに撮影された動画等を拡散されることを恐れていた旨供述するところ、被告人が、本件に先立ち、Aの面前でAとの性的行為の様子を複数回動画撮影していたことは客観的証拠から認められ、そのような状況において、動画等が拡散されることを恐れるという心理は極めて自然なものといえる。現に、Aは、平成23年12月9日及び本件当日の動画において、被告人に顔を撮影されることを嫌がる発言や行動をしており、これは動画の拡散等により自己のプライバシーや名誉が害される事態を危惧したものと考えられるし、被告人はこのようなAの発言等にもかかわらず撮影行為を継続しているのであるから、本件当時、被告人に動画等を拡散されることを危惧して被告人の要求に応じざるを得ないと考えたというAの供述は合理的である。
    また、Aは、弟のEが被告人から理不尽な扱いを受けることを恐れたという点も性的行為を拒絶できなかった理由の一つであると供述するところ、被告人は、担任教諭としてEを教育、指導するに当たり、Eを不利益に扱うことが可能な立場にあったと認められる。Aは、中学校に入学した後に被告人から会うことを要求された際、Eの成績を操作することができると言われたことがある旨供述するのに対し、被告人はそのような発言をした事実を否定するが、少なくとも、この頃、Aと被告人がEに関する会話をすることがあったことは被告人自身も認めているところである。被告人がAに対して具体的にEの成績を操作できると発言したかどうかはともかく、上記のような状況、経緯からすれば、Aにおいて、被告人の要求に応じなければEが被告人から理不尽な扱いを受けるおそれがあると考えるのは自然なことである。
  (3)さらに、Aが被害を打ち明けた経緯について検討する。
    内容に照らして信用できる証人Eの公判供述によれば、Aは、被告人による性的行為を長い間誰にも言えずにいたが、被告人の逮捕を知る前の令和3年9月、交際相手との性的行為を怖く感じているという悩みを弟のEに相談した際、怖く感じている原因として被告人による性的行為を打ち明けたものと認められる。このような事実経過は、性被害を受けた者が長期間経過後に被害を打ち明けた経緯として自然であり、被告人による性的行為がAの意思に反するものであったこと及びAが被告人の逮捕に乗じて虚偽の事実を作出したのではないことを示している。
  (4)以上の検討によれば、Aの供述は、本件から公判までに10年以上が経過していることからすれば、細部において記憶の減退等により不正確な部分がある可能性は否定できないものの、少なくとも、本件当時被告人による性的行為を拒絶できなかったという根幹部分は、その理由や被害を打ち明けた経緯を含めて極めて自然で合理的である上、一連の動画によって認められる客観的事実とも整合しており、高い信用性が認められる。
 4 Aが抗拒不能の状態に陥っていたこと
   前記のとおり信用できるAの供述によれば、Aは、小学6年生の頃から被告人により陰部を触られ、口淫をさせられるなどの性的虐待を繰り返し受けてきたことや、性的行為を拒絶すれば、動画等を拡散されたり、弟が理不尽な扱いを受けたりするのではないかと被告人を恐れていたことから、本件当時、抵抗することを諦める気持ちになっており、そのために被告人による性的行為を拒絶できなかったものと認められる。加えて、本件当時、Aが13歳と性的行為に関する判断能力が不十分であった上、被告人が1年余り前まで小学校でAの担任教諭であったこと、被告人は身長173センチメートル、体重100キログラム以上であったのに対し、Aは身長130から145センチメートル、体重は30から40キログラム台であり、両者の体格の差が大きかったこと、本件事件現場である被告人の友人方は、被告人がAを電車に乗せて連れて行った場所で、Aが性的行為に応じなければ同所から事実上帰れない状況にあったことなどを併せ考えると、本件当時、Aは、被告人による性的行為を拒絶できない抗拒不能の状態に陥っていたものと認められる。
 5 被告人の供述及び弁護人の主張
   これに対し、被告人は、公判廷において、Aが小学6年の6月頃に、Aから好きと言われたことをきっかけにAと交際しており、キスや口淫等の性的行為をしていた、Aが中学生になって、本件事件現場である友人方を借りて会うようになり、長期休暇の課題に取り組んだり、性的関係を持ったりした、Aが中学1年の1月頃、Aがテーマパークに行く約束を土壇場ですっぽかしたことから、その後Aに会った際に「今日は一杯してあげるね」と言われた、本件当日は、Aからゴールデンウィークの課題を手伝ってほしいと言われ、課題が一段落した後に性的行為をした、Aに嫌われたくなかったので、Aの拒否することはしなかったなどと供述し、弁護人は、被告人はAが許容する範囲で性的行為をしていたから、Aが被告人を恐れて抗拒不能の状態にあったとはいえないなどと主張する。
   しかし、平成23年9月28日の動画で撮影されたAの様子は、性的部位を触る被告人の手を何度も払っており、性的接触を拒絶する意思が明らかであるし、平成23年12月9日の動画では、Aは顔を撮影されることについて、明確に「だめ」と拒絶しているにもかかわらず、被告人は性的行為やAの顔の撮影行為を続けており、被告人が、Aの許容する範囲内で性的行為等をしていたとは到底認められない。平成24年1月10日の動画では、「やだ」と発言して性的接触を明確に拒絶するAに対し、被告人が「泣かしたくねえし」などと言って性的行為を強行しており、Aから「今日はいっぱいしてあげるね」と言われた、Aの拒否することはしなかったとの被告人の供述と矛盾する。これらの本件以前の動画の様子に照らすと、平成24年5月1日の動画において、Aが性的行為について目立った抵抗を示していないことについて、被告人がAの嫌がることをしなかったとか、Aが性的行為の許容範囲を決定していたと考えることは到底できないのであって、上記の被告人の公判供述は信用できず、弁護人の上記主張は採用できない。弁護人は、被告人との関係におけるAの言動の表面的な部分を捉えて、Aが被告人による性的行為を拒絶できた旨主張するが、性的虐待を誰にも相談できずに一人で耐え続けていたというAが置かれた状況や、そのような過酷な状況で逃避の言動をせざるを得なかったというAの心情を正解しない主張というほかない。ほかに弁護人がるる主張する点についても、いずれも被告人が撮影した動画及び信用できるAの供述に反し、採用できない。
第3 Aが抗拒不能の状態に陥っていたことに対する被告人の故意について
   前記のとおり、Aは、本件当時、被告人による性的行為を拒絶できない抗拒不能の状態に陥っていたものと認められるところ、被告人は、Aの抵抗を排して性的行為や動画の撮影を繰り返したこと、Aが動画の拡散やEの不利益を危惧していることといった、抗拒不能を基礎づける事情をすべて認識していたと認められるから、それらの事情によってAが抗拒不能の状態に陥っていたことも認識していたと認められ、その状態に対する被告人の故意が認められる。
(法令の適用)
1 罰条
  判示第1の所為につき、平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法179条、178条2項、177条
  判示第2別表の番号1、3及び4の各所為につき、いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
  判示第2別表の番号2の所為につき、被害者ごとに児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
  判示第3の所為につき、包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項3号
2 科刑上一罪の処理
  判示第2別表の番号2の各罪につき、刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので、一罪として児童ポルノ製造の罪の刑で処断。なお、犯情が被害者ごとに異ならないのでその一つを選ぶことをしない。)
3 刑種の選択
  判示第2及び第3の各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択
4 併合罪の処理
  刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
5 未決勾留日数の算入
  刑法21条
6 没収
  刑法19条1項1号、2項本文(スマートフォン1台(令和5年東地領第2819号符号1)及びUSBメモリ1本(同符号2)は、いずれも判示第3の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しない物であるから、これらを没収)
7 訴訟費用の処理
  刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
 本件は、小学校の教諭であった被告人による、元教え子のAに対する準強姦未遂1件、女子児童2名に係る児童ポルノ製造4件及び女子児童4名に係る児童ポルノ所持1件からなる事案である。
~~
 以上の事情を考慮して、本件準強姦未遂が、その法定刑が引き上げられる前の犯行であることを踏まえつつ、同種事案の量刑傾向を参照し、主文掲記の刑を量定した。
(求刑 懲役10年及び主文同旨の没収)
  令和5年12月21日
    東京地方裁判所刑事第1部
        裁判長裁判官  今井 理
           裁判官  水越壮夫
           裁判官  竹内瑞希