児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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青少年条例における「わいせつ」の定義

 長崎県条例を見ていると、h31の解説書から、わいせつの説明が変わっていました。

 大阪高裁h23.6.28は公開されていないので、時々警察から問い合わせがありますが、神戸地検で閲覧可能です。

 青少年わいせつ罪に、真剣交際が除外されるという判示を狙った控訴理由でした。
「すなわち,もともと,わいせつ行為とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいう」として刑法の定義を引用していますが、大法廷h29.11.29以後は通用しないでしょう。新たな定義づけをする必要があります。

長崎県少年保護育成条例の解説h21
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第16条
1何人も、少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、少年に前項の行為を教え、又は見せてはならない。
[ 要旨]
本条は、心身ともに未成熟な少年の健全な育成を図るため、みだらな性行為、わいせつな行為等を禁止したものである。
[ 解説]
1 少年に対して、みだらな性行為又はわいせつな行為をし、あるいは、これらの行為を教え又は見せることは、心身ともに未成熟な少年を性的に堕落させその人格形成に悪影響を与えることが明らかである。
しかし、これらの行為は刑法の強姦罪、強制わいせつ罪にあたる場合のほかは処罰することができない。
また、刑法においても、1 3歳未満の婦女を姦いんした場合は強姦罪が、また、それに対してわいせつな行為をした場合は強制わいせつ罪が成立するが、1 3歳以上の者に対しては、暴行、脅迫、心神喪失、抗拒不能等を伴い、かつ、告訴があった場合のほかは処罰されない。
このため、本条において、これらの行為を規制し、少年の健全育成を図ろうとするものである。
( 参考)
児童福祉法……児童(18歳未満の者)にいん行させた者は処罰されるが、その相手となった者は処罰されない。
売春防止法……売春の勧誘、周旋等をした者は処罰されるが、その相手となった者は処罰されない。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律……児童(18歳
未満の者)買春した者、児童買春を周旋・勧誘した者は処罰される。
2 「前項の行為」とは、「みだらな性行為文はわいせつな行為」のことをさす。
3 「みだらな性行為」とは、健全な常識がある一般社会人からみて、結婚を前提としない、欲望を満たすことのためにのみ行う不純とされる性行為をいう。(東京高裁判決昭和39年4月22日)
4 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的に差恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。(東京高裁判決昭和39年4月22日)

長崎県少年保護育成条例の解説h31
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第16条
1何人も、少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2何人も、少年に前項の行為を教え、又は見せてはならない。
[要旨]
本条は、心身ともに未成熟な少年の健全な育成を図るため、少年に対するみだらな性行為、わいせつな行為等を禁止し、刑法その他関係法令では規制することができない反社会的な性行為等から少年を保護しようとする規定である。
[解説]
1 「みだらな性行為」とは、広く少年に対する性行為一般をいうものと解すべきものではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為(最高裁判決昭和60年10月23日)をいう。
なお、性交に類する行為とは、実質的にみて、性交と同視し得る態様における性的な行為をいい、例えば、異性間の性交とその態様を同じくする状況下における性交を模して行われる手淫、口淫(尺八)、肛淫、触淫(素股)等である。
2 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的に差恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。(東京高裁判決昭和39年4月22日)
具体的には、「陰部に対する弄び、押し当て」、「乳房に対する弄び」、「接吻」、「裸にしての写真撮影」などがあげられるが、「みだらな性行為」と同様に、当該行為が少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段により行うものであること、又は、少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないようなものであることを要する。(大阪高裁判決平成23年6月28日参照)

 大阪高裁h23.6.28は公開されていないので、時々警察から問い合わせがありますが、神戸地検で閲覧可能です。
 青少年わいせつ罪に、真剣交際が除外されるという判示を狙った控訴理由でした。
「すなわち,もともと,わいせつ行為とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいう」として刑法の定義を引用していますが、大法廷h29.11.29以後は通用しないでしょう。新たな定義づけをする必要があります。

阪高裁平成23年6月28日宣告 
                  判    決
 上記の者に対する青少年愛護条例(昭和38年兵庫県条例17号)違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成22年12月16日神戸地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官谷口照夫出席の上審理し,次のとおり判決する。
                  主    文
                本件控訴を棄却する。
                  理    由
 控訴理由は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書,控訴趣意補充書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。

(2)当裁判所の判断
 ア 控訴趣意第1について
 しかし,わいせつな行為を処罰の対象とする本条例が憲法31条に違反しないものであることは,昭和60年最高裁判決の趣旨に徴して明らかである。すなわち,もともと,わいせつ行為とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものであり,その内容が不明確であるとはいえない。また,本条例にいう「わいせつな行為」についても,あらゆる性的行為がこれに含まれるものと解すべきではない。本条例は,何人も,青少年に対し,みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない(本条例21条1項)と定めているが,ここにいう「わいせつな行為」についても,本条例が青少年の健全な育成を図り,これを阻害するおそれのある行為から青少年を保護することを目的とする(本条例1条)ことからみて,性的な行為のすべてを禁止する趣旨とは考えられない。この点は,昭和60年最高裁判決がいわゆる淫行条例(福岡県青少年保護育成条例)に定める淫行について加えたのと同様の限定を付して解釈されるべきである。そうすると,弁護人がいうような結婚を前提とする真摯な合意に基づくものであるような場合までこれに当たるとはいえない。以上のとおり,上記条項が犯罪構成要件として不明確であるとはいえず,憲法31条に違反するものでないことが明らかである。

 そこで、令和になってから、青少年条例のわいせつの定義を聞いたことがありますが、定義も示せないまま「本件行為が本条例16条1項の「猥せつの行為」に該当することは,一般的な社会通念に照らせば明らかであるといえる。」とされました。陰茎に陰茎を押し当てる行為は、わいせつに決まってるから、定義を示す必要もないというのです。

高松高裁令和3年3月2日宣告
判決
上記の者に対する香川県青少年保護育成条例違反被告事件について,令和2年9月29日高松地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官河原将一並びに主任弁護人奥村徹及び弁護人園田寿(いずれも私選)出席の上審理し,次のとおり判決する。
第3法令適用の誤りの論旨について
1論旨は,
①本条例16条1項の「狼せつ」の定義が明らかでなく,かつ,処罰の範囲が広汎に過ぎるため,同項は刑罰法令の明確性を欠いて,憲法31条に違反して無効であるのに,原判決が同項を適用している点,
において,原判決には,それぞれ判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
2論旨①について
原判決は,論旨と同旨の原審弁護人の主張に対し,行為そのものが持つ性的性質から「猥せつ」に該当するか否かを判断することが可能であり,本件行為は「猥せつ」な行為に該当するとして,原審弁護人の主張を排斥した。
原判決の説示は正当であり,当裁判所も是認することができる。
補足すると,「猥せつ」という言葉はある程度評価的な概念を含むものではあるものの,一般的な言葉として社会に通用しているものであるから,青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止してその健全な保護育成を図るという本条例の目的を踏まえて一般的な社会通念に照らしてみれば,どのような行為がいかなる場合に違法なわいせつ行為に該当するのかを判断することができるというべきである。
そして,本件行為が本条例16条1項の「猥せつの行為」に該当することは,一般的な社会通念に照らせば明らかであるといえる。
そうすると,本条例16条1項が不明確かつ処罰の範囲が広過ぎて憲法31条に違反するとはいえず,原判決が本件行為に本条例16条1項を適用したことに誤りはなく,理由の不備もない。

令和3年3月2日
高松高等裁判所第1部
裁判長裁判官杉山愼治
裁判官安達拓
裁判官井草健太