児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「13歳の青少年が18歳に満たない青少年又は児童であることを知りながら, 自己の性欲を満たすため,前記青少年の肛門に被告人の陰茎を挿入する」行為は、みだらな性行為(淫行・いん行)か、わいせつな行為か?

 こういう公訴事実で出てきますが、「肛門に被告人の陰茎を挿入するなど」の行為は性交類似行為ですから、通常は「みだらな性行為(淫行・いん行)」として起訴されます。それを間違って「わいせつな行為」として起訴した場合は、どうなるかという問題。

公訴事実
被告人は,平成24年5月28日,兵庫県姫路市において,A(当時13歳)が18歳に満たない青少年又は児童であることを知りながら,自己の性欲を満たすため,Aの肛門に被告人の陰茎を挿入するなどし,もって,青少年に対し,わいせつな行為をした。

青少年条例
(みだらな性行為等の禁止)
第21条 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。

 共犯事件だったので大阪高裁が相次いで判断していますが、性交類似行為をわいせつ行為として起訴することも許されるという判断になっています。

阪高裁平成23年12月21日
(2)原判示第3の1,同第4の1,同第5の1に共通の主張論旨は,本条例21条1項は,「みだらな性行為又はわいせつな行為」と並列的に定めているから,「みだらな性行為」にも「わいせつな行為」にも該当するわいせつ行為はないもの。」と解され,また,口淫や肛門への陰茎挿入といった性交類似行為については,刑法上のわいせつ行為に該当するものではあるが,同条1項との関係では「みだらな性行為」に含まれると解すべきところ,原判決は,上記各事実について,口淫等の性交類似行為を認定しているのに,法令適用としては,「もって,青少年にわいせつな行為をし」たと,「わいせつな行為」に当たるとしたもので,同条1項の解釈適用を誤っているから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし,弁護人の主張を前提としても,その誤りは,同一条文同一項内の構成要件的評価の相違であって,罪質,法定刑も同一であるから、これが判決に影響を及ぼすことがないのは明らかである。
そこで,更に検討すると,本条例21条1項の「みだらな性行為」は,上記(1)の判例で問題とされた条例の定めにある「淫行」と同義であると解され,上記(1)の判例にあるように,児童福祉法34条1項6号にある「淫行」の解釈と同様に,性交行為に加え,口淫等性交類似行為を含むものと解するのが相当である。
しかし,このような「みだらな性行為」とは別に,選択的に「わいせつ行為」が構成要件として挙げられているからといって,これが「みだらな性行為」の対象行為を全く含まないと即断することはできない。
そして本条項の「わいせつな行為」については,刑法上で解釈されているわいせつ概念と異なる内容と解する合理的な根拠も特に見いだせないのであるから,「いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為」を指すと解するのが相当である。
そうすると,そのような「わいせつ行為」に当たるとの評価が可能である本件性交類似行為については,これを本条項の「わいせっな行為」に当たるとして法適用することに誤りはないというべきである。

阪高裁平成23年6月28日
 控訴理由は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書,控訴趣意補充書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第1 控訴理由中,理由そごの主張(控訴趣意第4)について
 その要旨は,原判決第1の事実を青少年愛護条例(昭和38年兵庫県条例17号。以下「本条例」という。)21条1項にいう「わいせつな行為」と認定しながら,法令の適用においては同項にいう「みだらな性行為」に該当する性交類似行為と認定した原判決には,理由にくいちがいがある,というものである。
 しかし,原判決は,法令の適用において,原判決第1の行為を「みだらな性行為」に該当すると判断しているものではないから,原判決に弁護人がいうような理由のくいちがいはない。
 理由そごをいう控訴理由は認められない。

・・・
 イ 控訴趣意第2について
 性交及び性交類似行為は,本条例21条1項にいう「みだらな性行為」にも「わいせつな行為」にも該当することは明らかである。昭和60年最高裁判決において,「みだらな性行為」が同判決の示す限定解釈をした性交及び性交類似行為をいうと判示され,同項において,これと「わいせつな行為」とが選択的な関係にあることを表す「又は」の文言で結びつけられているからといって,性交及び性交類似行為が「わいせつな行為」から除外されることにはならない。
そして,原判決は,わいせつな行為があらゆる性的行為を含むものではないことに関し,特に説示するところはないものの,本件犯行は,その経緯,態様等に照らし,被告人及び共犯者が被害者を単に自己の同性愛的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交類似行為の事案であり,わいせつな行為に当たることが明らかである。そうすると,原判決が,弁護人の主張するような限定解釈をする旨を明示していないからといって,限定解釈していないとはいえず,弁護人がいうような憲法違反の判断とはいえない。
1 わいせつな行為に該当しない原判決第1の行為に本条例を適用した法令適用の誤りの主張(控訴趣意第3)について
 その要旨は,原判決第1の行為は,本条例21条1項の「わいせつな行為」に該当しないのに,これに該当するとした原判決には,法令の解釈を誤った結果,法令適用の誤りをおかしたものであって,その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というものである。
 しかし,原判決第1の行為は,上記のとおり,被告人及び共犯者が被害者を単に自己の同性愛的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交類似行為であるから,本条例21条1項にいう「わいせつな行為」に該当することは明らかである。