児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

着衣の上から乳房ももうとする行為について「着衣の上からではあるが、ある程度の時間継続して被害者の胸を触ろうとしたものであるから、性的な意味合いが強いものといえ、刑法176条にいう「わいせつな行為」に該当すると認められ」るとした事例(さいたま地裁r03.11.24)

 わいせつ行為の理由付けが変わっています

さいたま地方裁判所
令和03年11月24日
 上記の者に対する強制わいせつ未遂被告事件について、当裁判所は、検察官若林大樹及び久能裕斗並びに弁護人楠洋一郎(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
理由
(犯罪事実)
 被告人は、徒歩で通行中の女性に強いてわいせつな行為をしようと考え、令和2年7月6日午前2時13分頃、埼玉県B市内の路上(別紙1記載)において、A(別紙2記載。当時23歳)に対し、背後からその口を左手で塞いだが、着衣の上から同人の胸を右手で触ろうとしたところ、同人に抵抗されたため、その目的を遂げなかった。
(証拠の標目)
(補足説明)
1 被告人は、1人で路上を歩いている被害者の背後からその口を左手で塞いでその胸を触ろうとしたことは認めるが、公訴事実中の「強制わいせつ行為をしようと考え」という部分はその意味が分からないので否認する(第1回公判調書、第2回公判の被告人供述調書2-8)、被害者の胸を服の上から一瞬触れるような、タッチするような触り方をしようと思っただけである(同調書1-3、4)などと供述し、弁護人は、被告人には被害者の胸を着衣の上から一瞬触ってすぐに逃走する意図しかなく、強制わいせつの故意はないので、埼玉県迷惑行為防止条例違反が成立するにとどまる旨主張する。
2 関係証拠によると、被告人は、判示日時頃、1人で路上を歩いていた被害者に対し、その胸を触ろうとして、その背後からいきなり被害者の口をマスクの上から左手で塞いだことが認められ、当事者間にも争いはない。
  そして、被害者は上半身に半袖のTシャツを着用した状態であり、同人が歩いていた道路は、その片側が小学校校庭で、街灯が少なく、薄暗い上、人通りや交通量はまばらであること、そのような場所で、被告人は、被害者の胸を触るために、その背後からいきなり被害者の口を手で塞いでいることなどが認められ、このような犯行態様等の具体的状況を総合すると、被告人は、ある程度の時間継続して胸を触ろうとしたものと推認することができる。
  この点について、被告人は、被害者の胸を服の上から一瞬だけ触って逃走するつもりだった旨供述する。しかし、一瞬だけ触るというのであれば、触ると同時に逃走すれば足りるのであって、そのためにわざわざ被害者の口を塞ぐまでの必要はない。しかも、被告人は、あらかじめ履いていたサンダルを脱ぎ、手提げかばんを路上に置いた上で、本件犯行に及んでいるが、被害者の胸を一瞬触るというだけであれば、あえて貴重品の入った手提げかばんを路上に放置して行うまでの合理的な理由は見出し難い。
  以上のとおりであるから、被告人は、ある程度の時間継続して胸を触ろうとしたと認められ、一瞬だけ触って逃走しようとするつもりだったなどという被告人の供述を信用することはできない。
  したがって、被告人が行おうとした行為は、着衣の上からではあるが、ある程度の時間継続して被害者の胸を触ろうとしたものであるから、性的な意味合いが強いものといえ、刑法176条にいう「わいせつな行為」に該当すると認められ、被告人に強制わいせつの故意も認められる。
  弁護人は、被告人には着衣の上から一瞬触ってすぐに逃走する意図しかなかったことを前提に、周囲の状況、貴重品を含む私物を現場近くに置いていること、実際にも一瞬で現場を離脱していることから、被告人に強制わいせつ罪の故意がない旨主張するが、被告人の供述が信用できないのは前述のとおりであり、その他弁護人が指摘する点を検討しても前記判断を左右しない。
3 以上からすると、被告人が被害者の背後からいきなりその口を手で塞いだ行為が刑法176条にいう暴行に該当するのは明らかであるので、被告人に強制わいせつ未遂罪が成立する。