神元隆賢〈刑事判例研究〉16歳の被害者に対し、事実上の養父が自己の立場を利用して性交した事案につ監護者性交等罪に児童福祉法違反が吸収され法条競合となるとした事例札幌地裁小樽支部平成29年12月13日判決(事件番号不明・監護者性交等、児童福祉法違反被告事件) (判例集未登載)
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堀田さつき検事「監護者性交等罪と,児童福祉法における自己を相手方として淫行をさせる行為とが,法条競合の関係にあり,監護者性交等罪のみが成立するとされた事案(平成29年12月13日札幌地裁小樽支部判決(確定))」研修843号
両方併せると判決が再現できます。
検察官は、監護者性交罪と児童淫行罪の観念的競合として、控訴事実第1と第2を起訴して、児童淫行罪は包括一罪になるけど、監護者性交が伴う場合には、かすがい現象は生じず、併合罪になると主張しています。ややこしいこと言わずに、児童淫行罪起訴しなきゃいいじゃん。
法条競合もおかしいなあ。児童淫行罪の保護法益と監護者性交罪の保護法益は違うから、重い監護者性交罪で評価され尽くしてない。全く同じ罪であれば、監護者性交罪の立法事実はなかったことになる。児童淫行罪の法定刑を引き上げれば済んだ。
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【事実の概要】
被告人は、平成21年頃から、内縁の妻(以下「被害者の母親」)及びその娘(当時小学二年生、以下「被害者」)らの居宅に同居し、被害者らの生活費を相当程度負担し、被害者の身の回りの世話をし、被害者の母親に代わって被害者の話を聞くなどして被害者を精神的に支え、時には被害者に対して生活上の指導をするなどして、事実上の養父として被害者を現に監護していたところ、平成26年頃から被害者に対し性的虐待を繰り返した末、平成29年7月17日午後九時頃、上記居宅において、被害者(当時一六歳)を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と性交等をし(以下「第一行為」)、
同月20日午前五時頃にも同様に性交等をした(以下「第二行為」)
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2 罪数について
(1)検察官の主張
ア 監護者性交罪と児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)の構成要件及び保護法益は異なるから ある行為が監護者性交罪と児童淫行罪のそれぞれの構成要件を充足する場合には両罪が成立し観念的競合となる
本件では第1行為及び第2行為のいずれについてもそれぞれ監護者性交と児童淫行罪が成立して両者は観念的競合となる
イ 第1項の監護者性交と第2行為の監護者性交との罪数を検討すると、監護者性交の保護法益である個別の性交等についての性的自由ないし性的自己決定権は、性交等の都度侵害される性質者であること、本件では両行為の間に2日間もの間隔があり、その間被告人及びひがいしゃは勤務先や学校に出かけるなどしていたことなどに照らせば、第2行為の監護者性交罪は、第1行為の監護者性交罪とは別個の犯意に基づく別個の法益侵害であるから、両者は二個の行為であり両者は併合罪となる
ウ 第1行為にかかる児童淫行罪と第2行為に掛かる児童淫行罪は、同一の児童に対し, 同一の支配関係を利用して, 同一の意思の下に行ったものであるから,包括一罪となる
ところで、監護者性交等罪及び児童福祉法違反は観念的競合の関係なるが(上記ア)、次の通り、児童福祉法違反を「かすがい」として第1,第2行為全体が科刑上一罪となることはない。
すなわち、
そもそも「かすがい理論」には,新たな犯罪が加わるのに処断刑が下がるという逆転現象が生じ,一事不再理効の範囲が不当に拡張されるという不合理があり、この不合理は,格段に重い罪数罪(監護者性交等罪)が比較的軽い罪(児童福祉法違反)をかすがいとして科刑上一罪とされることにより,その不合理が極めて顕著なものとなるところ、本来併合罪である二件の監護者性交を法定刑の格段に低い児童福祉法違反をかすがいとして科刑上一罪とすればまさに上記不合理をもたらすことになる。よって本件では第1行為全体と第2行為全体はかすがい理論により科刑上一罪となることはなく併合罪になるというべきである