管轄違の主張で家裁を恫喝したような乱暴な弁護人主張ですが、「被告人は,中学校の教員として勤務していた者であるが,平成16年1月25日から平成17年5月29日までの間前後20回にわたり,当時の被告人方ほかにおいて,犯行開始当時に被告人が勤務する中学校に生徒として在籍していた被害児童(被害当時14から15歳)が満18歳に満たないことを知りながら,同児童をして,被告人を相手に性交させ,又は性交類似行為をさせ,もって,児童に淫行をさせる行為をするとともに,上記20回の淫行の機会のうちの13回において,同児童をして,性交等に係る姿態をとらせ,これをデジタルビデオカメラで撮影して,それら姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるミニデジタルビデオカセットに描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した」というのが執行猶予になりましたので、結果的に被告人に有利な結果となっています。
児童淫行罪(性交・性交類似行為)と製造罪とは、カメラを陰部に挿入するような性交類似行為を除けば実行行為は重なりません。
強制わいせつ罪・青少年条例違反(わいせつ)との関係では、古来、撮影行為=媒体記録行為自体が「わいせつ行為」になりますので、ほとんど重なります。
Ⅳ平成20年改正で少年法37条は削除され,本件で争点となった管轄問題は今後は生じないことになったが,本決定は,児童淫行罪のほか,他の性犯罪(例えば,児童買春・児童ポルノ等処罰法上の児童買春罪,刑法上の強姦罪,強制わいせつ罪,条例における淫行罪等)と児童ポルノ製造罪との罪数関係を考えるにつき,好個の先例としての意義があり,本決定の示した,観念的競合における「一個の行為」の判断基準,すなわち,各行為の重なり合いをひとつの判断要素に置きつつも,各行為の通常性,随伴性,各行為の性質等をも考盧するとした「自然的観察・社会的見解」の具体的適用内容を明らかにしている点でも,有用な先例ということができる。もっとも,前者に関して付言すれば,これらの罪数判断は必ずしも厳格な「法理」ではないとした場合には,事案によっては,例えば児童淫行行為と児童ポルノ製造行為が開始時期終了時期において重なっており,自然的観察・社会的見解上「一個の行為」と見られるような事例においては,両者の関係を観念的競合と解する余地もあろう。本決定の射程は,本件罪数判断を「事例判例」ではなく「法理」と見るか否か,法理にどの程度の拘束力を認めるかにかかっている(前掲⑫最決平成18.2.20に関する,上田哲「判解」最判解刑事篇平成18年度119頁参照)。私見によれば,罪数判断は個々の具体的事案を基礎に行うべきであり,例外を許さない「法理」と解するべきではないと思われる(只木誠「罪数論・競合論・明示機能・量刑規範」安廣文夫編著・裁判員裁判時代の刑事裁判463頁参照)。なお,本決定には,論じるに値するその他の論点も少なくない。弁護人による不利益主張の可否(本件同様これを許したものとして,㉔最決平成21・7・7刑集63巻6号507頁など),かすがい現象の扱い,本件で執行猶予がつかなかった場合の併合の不利益の問題,などがこれである(三浦・後掲最判解470頁参照)。
*本決定の解説・評釈として,菅原暁・捜査研究60巻6号78頁,園田寿・甲南法務研究6号21頁,豊田兼彦・法セ661号131頁,三浦透・ジユリ1454号81頁三浦透・最判解刑事篇平成21年度463頁がある。