児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春法が施行される平成11年までは青少年条例で処罰されていたケース

 産経新聞は気付くのが遅すぎです。1999年に児童ポルノ・児童買春法によって条例が骨抜きになりました。
 懲戒するにしても、年齢確認義務もないので、せいぜい、売買春と同等になるはずです。

http://sankei.jp.msn.com/region/news/140303/akt14030321000000-n1.htm
2人とも「18歳未満とは知らなかった」と供述したため、秋田地検は不起訴とした。18歳未満の男女とのみだらな行為を禁じた県青少年健全育成条例は「当該青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない」と規定しているが、国の法律である児童買春・ポルノ禁止法にはその規定がない。
 対償の供与やその約束があった場合は同法が適用されるため、18歳未満と知らなかった場合は処罰できない。同法が施行される平成11年までは青少年条例で処罰されていたケースだった。
 不起訴とはいえ、公務員としての信用失墜行為であることは明らかなため、陸上自衛隊は懲戒処分を行った。県立高講師は校長への報告も行っておらず、県教委が処分に向けて検討している。

 確かに、児童買春というのは、青少年に対する淫行(みだらな行為)に当たりそうです。

http://www1.g-reiki.net/pref_akita/reiki_honbun/au60002741.html
第七章 罰則
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第十四条 何人も、青少年に対しみだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年にわいせつな行為をさせてはならない。
3 何人も、青少年に対し第一項に規定する行為を教え、又は見せてはならない。
第二十七条
1 第十四条第一項又は第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する
5 第十四条又は第十五条の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として第一項又は第二項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

 しかし、H11の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律で、児童買春行為については、青少年条例は無効になっています。なので、現時点では、青少年条例違反となるのは、
   法文上の淫行(みだらな行為)
  +わいせつ行為
  −児童ポルノ・児童買春で禁止する行為
になっています。
 児童買春罪は故意犯なので、過失があっても処罰されません。
 児童買春行為は青少年条例の淫行・わいせつ行為から除外されていますので、「当該青少年の年齢を知らないことを理由として第一項又は第二項の規定による処罰を免れることができない」も適用されません。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html
(条例との関係)
第二条  地方公共団体の条例の規定で、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとする。
2  前項の規定により条例の規定がその効力を失う場合において、当該地方公共団体が条例で別段の定めをしないときは、その失効前にした違反行為の処罰については、その失効後も、なお従前の例による。

検察庁の部内誌では指摘されていた。

島戸純「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」 研修652号(H14.11)
この点については,児童買春等処罰法の解釈として,次の2とおりの考え方があり得るであろう。
第1 の考え方 本法を制定した際,対償の供与又はその約束を伴う性交等を児童買春と定義し, これを伴わない性交等を同法の枠外としたのであるから,対償の供与又ほその約束を伴うものについては,買春行為者に被害児童の年齢についての認識が認められるか否かにかかわらず,法律が制定すべき事項であって,その範囲においては条例の制定権は及ばないことになり,買春行為者に被害児童の年齢についての認識が認められない場合において,条例の淫行処罰規定,年齢の知情性推定規定を適用して処罰することはできない。
第2 の考え方 本法は,対償の供与又はその約束が認められかつ,買春行為者に被害児童の年齢についての認識が認められる場合の部分) にのみ効力が及ぶのであって,本法が処罰の対象としていない行為については,対価性の有無にかかわらず,すべて条例の効力が及ぶ。すなわち,被害児童の年齢についての認識がない場合は,本法の規制が及ばない結果,対償の供与又はその約束を伴う場合であっても,条例による処罰の対象となる。 ・・・・ (第1)の考え方に立つと、検察官が対償の供与又はその約束、及び買春行為者の被害児童の年齢に関する認識についての証拠が不十分であると思料して条例違反で起訴したところ、公判段階において対償の供与又はその約束が明らかとなった場合には、条例の効力は失われており、かつ知惰性の立証もできないことから、本法、本条例のいずれによっても処罰されず、無罪となるという結果になりかねないことになり、これを利用した被告人が対償の供与又はその約束があったとして条例が適用されるべきでないと主張する事態も考えられる。そして、対償の供与又はその約束がなかったと立証するのが極めて困難であることからすると、ひいては、買春行為者の被害児童の年齢に関する認識について証拠が不十分な場合は、本法、本条例のいずれによっても起訴することができないという結果も生じかねない。

 
判例が出ています。

東京高裁平成24年7月17日
(1)原判示第1、第5、第7及び第11の各所為に対して条例を適用した点について
所論は、18歳未満の者との性行為については、国法である児童買春・児童ポルノ等処罰法のみで全国一律に有償の場合のみを規制する趣旨であるとして、同法の施行により条例の淫行処罰規定は当然に失効しかと主張する。
そこで検討すると、児童買春・児童ポルノ等処罰法が、対償を伴う児童との性交等のみを児童買春として処罰することとし、対償を伴わない児童との性交等を規律する明文の規定を置いていないのは、後者につき、いかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であるとは解されず、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解される。
そうすると、青少年に対するみだらな性行為等を禁止し、これに違反した者を処罰することとした条例35条1項、53条のいわゆる淫行処罰規定は、児童買春・児童ポルノ等処罰法の施行によって、児童買春に該当する行為に係る部分についてのみ効力を失ったが、それ以外の部分については、なお効力を有するものと解される(平成11年法律第52号附則2条1項参照)。

提案者の1人である吉川(春)参議院議員は「はみ出す部分については当然残るのであって、それをどうするかについては各地方公共団体の御判断である」と言って、あたかも過失の児童買春行為については自治体の判断として青少年条例の淫行処罰規定と年齢知情条項が適用可能であるかのように答弁したのだが、実務ではそうは運用されていない。

第145国会衆議院法務委員会平成11年05月14日
○木島委員 
では、一点だけ聞きましょうか。この条例と本法との整合性の問題について御答弁願いたい。
○吉川(春)参議院議員 神奈川県条例の三十七条七項は、確かに本法の四条についても年齢の不知は許さない、こういう立場をとったと思います。今度この法案ができましても、確かにこの部分はまだ処罰として条例としては残るわけです。それは県の条例ですので、県の御判断によって、この法律との整合性のために条例の改正という手続をおとりになるのかあるいはそのまま残されるのかは県の判断だと思いますけれども、私は、立法政策として一つの方法であるということは認めたいと思います。
○木島委員 では、もう一点だけちょっと聞かせてください。
本法の附則二条、先ほど同僚委員も指摘しておりましたが、「地方公共団体の条例の規定で、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとする。」と。そこで一点聞きます。この法律が成立して発効すると、せっかくのすばらしい神奈川県条例の三十七条七項、年齢の不知は許さないというこの規定の効力はどうなってしまうのでしょうか。これはつぶされてしまうのでしょうか、生き残るのでしょうか。それだけはちょっと発議者、答弁してください。

○吉川(春)参議院議員 ですから、この法律と重なる部分は効力を失うけれども、それからはみ出す部分については当然残るのであって、それをどうするかについては各地方公共団体の御判断である、この立場でございます