児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

大津地裁判決:児童ポルノ有罪でも「解雇無効」(大津地裁H25.3.5)

 逮捕報道では被疑者は実名・会社名は匿名だったんですが、民事裁判の報道では、元被疑者は匿名・会社名は実名になってしまい、この時点で会社名が明らかになってしまいました。
 罰金相当の児童ポルノ公然陳列が「軽微な犯罪行為」だという主張が通ったようです。
  1/26逮捕
  2/4略式命令
  3/3懲戒解雇
ということだと、略式起訴の記録を検討したわけでもなく、破廉恥罪で逮捕されて実名報道されたからよく考えないで解雇したんでしょうね。

 代理人を捜して判決書を頂けたらと思います。

http://mainichi.jp/select/news/m20130306k0000e040182000c.html
毎日新聞 2013年03月06日 14時47分
 軽微な犯罪行為で会社を懲戒解雇されたのは解雇権の乱用だとして、滋賀県野洲市内の40代男性が製作所(京都府長岡京市)を相手取り、雇用契約上の地位確認と解雇後の月37万円の賃金支払いなどを求めた訴訟の判決が5日、大津地裁であり、宮本博文裁判官は、解雇は無効として雇用契約上の地位を認め、同社に未払い賃金の支払いを命じた。
 判決によると、同社員だった男性は11年1月26日、ファイル共有ソフトを使って児童のわいせつ動画をインターネット上に公開したとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(公然陳列)とわいせつ図画公然陳列容疑で群馬県警に逮捕された。翌月4日、前橋簡裁が罰金50万円の略式命令を出した。同社は同年3月3日、男性を解雇した。
 判決は男性の行為について「直接襲ったり撮影したりはせず、会社の名誉などに損害が生じるとは考えにくい」と指摘。「懲戒解雇の合理的理由を欠いて社会通念上認められない」として、解雇権の乱用と認定した。

有罪社員の解雇不当 わいせつ動画公開 製作所に判決
2013.03.07 中日新聞
 【滋賀県】わいせつ動画をネットで閲覧できるようにしたとして児童売春・ポルノ禁止法違反などで有罪判決を受けたことを理由に解雇したのは不当だとして、野洲市の男性が製作所(京都府長岡京市)を相手に地位確認などを求めた訴訟の判決が五日、大津地裁であり、男性側の主張を認める判決を言い渡した。同社は即日控訴した。
 宮本博文裁判官は「原告の犯行は社会的非難を免れないもの」とした上で、強制わいせつなどの直接的な侵害性行為ではないとして、解雇権の乱用と指摘。「原告と被告との関係が明らかになって名誉や信用、企業秩序に具体的な損害が生じるとは考えにくい」との判断を示し、男性の社員としての地位確認と未払い給与の支払いを会社側に命じた。


追記
 代理人には断られましたが、判例dbには収録されました。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20130727#1374750143

地位確認等請求事件
津地方裁判所
平成25年03月05日
主文

事実及び理由
第3 当裁判所の判断
 1 証拠(甲3、乙2ないし9、17、18、20、25、26、証人B、同C、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
  (1) 本件非違行為の経緯
  ア 原告は、約10年前から自宅に設置した自己のパソコン内に複数のファイル共有ソフトをインストールし、インターネットを経由して画像ファイルや音楽ファイルなどをダウンロードしており、職業柄もあって、ファイル共有ソフトを含むコンピューターソフトウェアやインターネットに関する知識は通常人よりもあり、本件非違行為に先立ち、「eMule」をインストールし、使用できるように設定したときも、「eMule」の共有フォルダの特性である、incomingフォルダ1つでダウンフォルダ(別のユーザーの共有フォルダから入手したファイルがダウンロードされ保存されるフォルダ)とアップフォルダ(別のユーザーの要求に応じて保存データが自動的にアップロードされるフォルダ)を兼ねること、すなわち「eMule」で入手したファイルは、そのままでは他のユーザーのために自動的にアップロードされる仕組みであることを知っていたが、ファイル欲しさから、「eMule」をインストールし、使用できるように設定した。
  イ 原告は、8年くらい前から、児童ポルノをいくつもダウンロードし、ファイルの内容を確認しており、そのことは、共有フォルダがアップロードフォルダという認識はなかった旨故意を否定する内容の供述をしていた平成23年1月26日の時点においても警察官に対し認めていた。
  本件非違行為に係る動画ファイルは、少女の裸体や陰部を撮影し、少女に性交類似行為をさせているものであり、平成12年に大阪府警察が製造者を摘発し、モデルが製造(平成10年ころ)当時13歳であることが確認されているものであって、児童ポルノかつわいせつ図画であることが明らかなものであったが、原告は、同動画ファイルをダウンロードして入手した際、内容確認を行い、児童ポルノであることを確認した上で、少女の顔が比較的綺麗であったことから、気に入ったデータとして、フォルダ名を変更した上で、incomingフォルダに保存した。
  ウ 原告は、インターネット利用開始後、転送データ量(ファイル共有ソフトでアップロードしていたデータ量)が多く、プロバイダ会社から警告を受けたり通信制限をかけられたりしていた。
  エ 原告は、逮捕当時、自己のパソコンにインストールしていたファイル交換ソフト6個のうち、ウィニー、シェア、パーフェクトダーク及びBitcometを起動させており、警察官に現認されていた。
  オ 原告は、逮捕当初は、逮捕の被疑事実は、過失によるものであるという趣旨の供述をしていたが、その後、警察官及び検察官に対し、前記アないしウの事実を認め、同被疑事実を故意によるものとして認める供述をしている。
  カ 本件犯行は、原告の逮捕日の翌日である平成23年1月27日、毎日新聞群馬版、群馬新聞中毛・西毛版及び毎日新聞インターネットニュースで実名報道されたが、被告の社名が記載されたものはなかった。なお、原告に関するインターネット記事を、グーグル社の提供する検索エンジンに原告の氏名を入力して検索したところ、その上位には、本件犯行に関する記事やそれを引用したサイト数件と、ある特許について、発明者として原告の氏名が被告の名称とともに掲載された記事1件が出るという結果が得られた。
  (2) 本件処分の経緯
  ア Bは、平成23年2月7日、被告野洲事業所において、原告と面談して聞き取りを行った。原告は、本件非違行為につき、
  (ア) 児童ポルノを10年ぐらい前からファイル共有ソフトを使って集め、公開していたと話している旨報道されているが、実際は、ファイル共有ソフトは確かに10年前から使っていたが、児童ポルノを収集したのは1〜3年前くらいのみである。
  (イ) 公開は意図したものではなく過失であり、結果として公開していた時期は1ないし2年前の約1年間で、不定期である。
  (ウ) 「eMule」や「ウィニー」など6種類のファイル共有ソフトを利用していた旨報道されており、確かに6種類のファイル共有ソフトをインストールはしていたが、使っていたのはシェアとBitcometの2つであり、「eMule」はBitcometに添付されていた。
  (エ) パソコンには児童とみられる画像約3000点が保存されていたらしい旨報道されているが、既に削除済みなので正確な数は不明だが、おそらく100〜200点程度である。
  旨、毎日新聞のインターネットニュースをプリントアウトしたものに書き込みながら説明した。
  イ 被告は、本件第1処分に係る通知書を、処分当日である平成23年3月3日に原告に交付した。原告は、同通知書を受領した際は、特段強い異議は唱えず、「懲戒通知受領書および誓約書」(乙2)及び「退職願」(乙3)を提出した。
  ウ 原告は、前記イの後、被告に対し、労働組合経由で、釈明と事情説明の機会を設けてもらいたい旨申し入れ、平成23年3月7日、被告の管理部長及びBが、労働組合関係者立会いの上で、原告と面談した。原告は、その席で、以下の記載を含む嘆願書を提出し、懲戒処分の見直しを嘆願した。
  (ア) 「私は自分のPCの児童ポルノを含むフォルダが公然陳列、つまり不特定多数が閲覧できる状態になっていたことを全く知りませんでした。また、私自身に児童ポルノを公然陳列する意図は全くありませんでした。」
  (イ) 「その点で、今回の事件は過失によるものであり、警察・検察においても終始過失を主張しました。」
  (ウ) 「しかし、過失犯では成立しない本罪状を最終的には認めました。それは、取り調べにおいて「故意性を否定するなら勾留期間延長・起訴公判」と言われ続け、私は心身ともに限界であり訴訟に耐えられる状態ではなく、また被写体の児童に本当に申し訳ないことをしてしまった、という反省の気持ちがあったからです。」
  被告の管理部長及びBは、平成23年3月16日、原告と面談し、懲戒解雇処分は変更しない旨を告げた。
  エ 原告は、被告訴訟代理人から本件犯行に係る刑事記録の提出を求められたが、それには応じず、平成23年9月5日、下記の記載を含む経緯報告書(甲3の別紙はその写し)を作成し、被告に提出した。
  (ア) 「私はファイルを他人と共有する意図はありませんでしたので、「ファイル“ダウンロード”ソフト」のつもりで使っていました。」
  (イ) 「児童ポルノが公開状態になっていたのは、次の3つの事情が重なったことに起因するものです。
  〈1〉 eMuleと他のファイル共有ソフトの仕組みの違いを混同していたこと
  〈2〉 児童ポルノを所持していたこと
  〈3〉 〈1〉を混同したまま、eMuleの使用を一時的に再開したこと」
  (ウ) 「私はアップロード専用フォルダを空にしていました(正確には、アップロード専用フォルダ自体を作らなかった)ので、何らかのファイルを意図的にアップロードする、つまり不特定多数に公開するということはありません。」「ただし、キャッシュフォルダには自分に不要なピースも溜まるので、専用の削除ツールで極力削除していましたし、特に完全キャッシュ(ピースが揃ったキャッシュ)は削除ツールで自動削除していました。」
  (3) 同種事例における他の懲戒事例の状況
  ア 被告において、平成13年以降、性的非違行為を理由とする懲戒解雇・諭旨退職事案は6件(7名)存在するが、いずれも、強制わいせつ、児童買春、淫行、セクハラなど直接の侵襲行為の事案であったり、撮影など直接的な侵害性のある行為の事案であった。
  イ 本件の証拠(乙17、18)上、被告の従業員以外の懲戒事例で、性的非違行為を理由とする懲戒事例(学生に対する大学の懲戒処分とみられるものを除く。)は合計208件あり、うち懲戒解雇・免職となったものは138件あるが、懲戒解雇・免職事案の内訳は、〈1〉職責との関係(特に教職員については、職務上教え導かなければならない相手を性的対象としたことになり、職務への自己否定性が強いことになる。)で厳しい規律が要請される立場にある法務・検察職員や警察職員、教職員であったものが2件、〈2〉強姦、強制わいせつ、児童買春、淫行など直接の侵襲行為であったり、撮影など直接的な侵害性のある行為であったものが28件、上記〈1〉及び〈2〉の両者に該当するものが107件であり、上記〈1〉及び〈2〉のいずれにも該当しない事案で懲戒解雇・免職となったのは1件のみ(市役所職員の児童ポルノ公然陳列事案である。乙17の5)であった。
 2 本件処分の解雇権濫用該当性について
  (1) 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とされる(労働契約法15条参照)。
  (2) これを本件についてみるに、本件犯行は、児童に対する性的侵害(直接的でないものを含む。)の総合的防止の観点から問題となっている児童ポルノの公然陳列事案であり、社会的非難を免れないものであるが、反面、本件犯行は、原告の私生活上の非行であって被告の事業に直接関連するものではないし、内容的にも、強姦、強制わいせつ、児童買春、淫行など直接の侵襲行為であったり、撮影など直接的な侵害性のある行為だったりするものではないし、原告の被告における地位は単なる従業員である上、本件犯行についての報道には、被告の社名を含むものはなく、インターネット検索の結果からみても、原告と被告との関係が明らかになって、そのことにより被告の名誉や信用等、企業秩序に具体的な損害が生じるとは考えにくく、また、現に損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。そして、他の懲戒事例と比較しても、本件犯行と同種事案において懲戒解雇がなされたものは、200件以上もの懲戒事案の中で1件のみであり、〈1〉職責との関係で厳しい規律が要請される立場にあったか、〈2〉強姦、強制わいせつ、児童買春、淫行など直接の侵襲行為であったり、撮影など直接的な侵害性のある行為であったりした場合でなければ解雇まではしないのが基本的な方向性であるといえる。
  以上によれば、本件第1処分は、懲戒解雇として客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、その権利を濫用したものとして無効というべきである。
  (3) 次に、本件第2処分の根拠とされた虚偽陳述(前記第2、1(7)アないしコ)についてみるに、前記第3、1(2)に判示したところに照らせば、原告は、被告に対し、前記第2、1(7)アないしコの虚偽陳述をいずれも行ったと認められる。
  そして、前記第3、1(1)イに判示したとおり、原告は、過失を主張して本件犯行を否認していた段階から、(本件犯行の)約8年前から児童ポルノを収集していたことを認めていたのであるから、前記第2、1(7)アの陳述は、事実に反するものであったものと認められる。また、前記第3、1(1)エに判示したところに照らせば、前記第2、1(7)エの陳述は、警察官によって現認された事実に反するものであったと認められる。さらに、前記第3、1(1)アないしオに判示したところを総合すると、原告は、ファイル共有に参加しダウンロードしたいファイルを獲得する実質的代償等の目的で、恒常的に、児童ポルノたるファイルを含む好事家好みのファイルを多数アップロード(自らはアップロードのための積極的操作をしない場合を含む。)していて、本件犯行は故意によるものであったと推認するのが相当であり、前記第2、1(7)のその余の陳述も、事実に反するものであったと推認できる。
  しかし、前記第2、1(7)アないしコの虚偽陳述は、いずれも、懲戒処分に先立つ弁明聴取や、懲戒処分に対する撤回要請等における、懲戒処分対象行為に係る弁明としてなされたものであるところ、制裁措置である懲戒処分に係る弁明行為については、制裁を受ける者の防御権を考慮する必要があることも考慮すると、証拠隠滅や偽証教唆、その他防御権の行使として許容できない行為を含まない、単なる否認や過少申告は、それ自体としては懲戒処分の根拠とならず、懲戒処分対象行為に係る反省の状況資料として情状面で考慮し得るにとどまると解するのが相当であるから、前記第2、1(7)アないしコの虚偽陳述は、前記第2、1(4)イ(イ)に該当しないというべきである。そして、前記第2、1(7)アないしコの虚偽陳述のうち同クないしコの陳述については、被告から客観的資料たる捜査記録の提出を求められたのに対し、それには応じないで被告に送付しているという経緯はあるものの、防御権の行使として許容できない行為とまではいえないし、その他、前記第2、1(7)アないしコの虚偽陳述において、防御権の行使として許容できない行為が含まれていたことはうかがわれない。
  したがって、本件第2処分も、本件第1処分と同様に考察するべきことに帰するから、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、解雇権を濫用したものとして無効となる。
  (4) この点、被告は、性的非違行為に係る懲戒処分の事例が多くみられることや、企業のコンプライアンスの要請を強調するが、本件の関係各証拠によっても、性的非違行為を理由に懲戒解雇・免職がなされた事例は、強姦、強制わいせつ、児童買春、淫行など直接の侵襲行為であったり、撮影など直接的な侵害性のある行為であったものがほとんどを占めており、二次的侵害や直接侵害の誘因という観点から問題とされる本件犯行とは明らかに質的に異なるものといわざるを得ないし、企業のコンプライアンスの要請から直ちに従業員に対する厳罰主義が要請されるわけではなく、とりわけ従業員の私生活上の非行に対して厳罰主義をとることは、企業の対従業員関係のコンプライアンス(プライバシー尊重等)の観点からは難しいものがあるから、いずれも採用することができない。
  (5) 
 3 結論
  以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を、仮執行宣言につき同法259条1項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
民事部
 (裁判官 宮本博文)

控訴審判決も公開されました。

地位確認等請求控訴事件
大阪高等裁判所平成25年9月24日
       主   文

 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
   主文同旨
第2 事案の概要
 1(1) 本件は,控訴人に雇用されていたが,控訴人から平成23年3月3日付けで懲戒解雇処分(以下「本件第1処分」という。)を受けた被控訴人が,控訴人に対し,本件第1処分は解雇権を濫用したものであって無効である旨主張して,雇用契約上の地位の確認を求めるとともに,雇用契約に基づき,本件第1処分による解雇日の属する月である平成23年3月分から提訴日の属する月の前月である同年10月分までの,解雇時の基本給月額37万2500円に基づく確定未払賃金合計298万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同年12月7日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払並びに提訴日の属する月である同年11月分から本判決確定日までの間,各支払期日(毎月25日)限り,月額37万2500円の賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
    なお,控訴人は,予備的に,平成24年10月16日付けで懲戒解雇処分(以下「本件第2処分」といい,本件第1処分と合わせて「本件処分」という。)をしており,被控訴人は,本件第2処分も解雇権を濫用したものであって無効である旨主張している。
  (2) 原審が,被控訴人の請求を全部認容したところ,控訴人が控訴した。
 2 前提事実については,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」第2の1及び2に記載されたとおりであるから,同部分を引用する。
  (1) 2頁19行目の「雇用し,」の後に「野洲事業所において,」を,20行目の「業務」の後に「(生産技術部門の制御系エンジニアとして生産設備設計・開発及び要素技術開発の業務等)」を,それぞれ挿入する。
  (2) 3頁25行目の「原告は,」の後に「平成22年7月12日から同月24日までの間,自宅の」を挿入し,同行に「わいせつ動画」とあるのを「わいせつ動画データ」に改め,26行目に「閲覧」とあるのを「再生閲覧」に改め,同行に「児童売春」とあるのを「児童買春」に改める。
  (3) 4頁12行目の「原告を懲戒解雇し,」の前に「本件第1処分が無効とされた場合に備え,予備的に,」を挿入する。
 3 争点
   本件処分の解雇権濫用性が争点である。
 (被控訴人の主張)
   次のとおり,本件第1処分は,形式的には就業規則79条6号の懲戒解雇事由に該当するが,実質的には懲戒解雇不相当な非違行為である本件非違行為に対してしたものであり,解雇権を濫用したものであって無効であり,また,本件第2処分は,就業規則上の懲戒解雇事由には該当しないし,解雇権を濫用したものであって無効である。
  (1) 本件第1処分について
    本件非違行為は,控訴人の業務上における行為でも控訴人の事業に直接関連するものでもなく,全くの私生活上の非行である。そして,かかる私生活上の非行については,就業規則上の懲戒解雇事由に該当しても,企業の名誉,信用,体面の毀損や企業秩序維持に影響を及ぼすなどの例外的な場合に限り懲戒解雇の処分をなし得るものというべきである。
    被控訴人は,公然陳列をする強い動機や積極的故意に基づいて本件犯行をしたものではない。刑事処分も,略式手続による罰金50万円にとどまるものであった。控訴人の名誉,信用及び体面についてみても,控訴人は電子部品の製造販売業者であって一般消費者と直接取引する事業者ではないし,被控訴人は技術職の平社員であって,企業の顔となる側面は小さい。本件非違行為の報道状況も,勤務地の滋賀県ではなく群馬県で新聞の地方版に掲載され,インターネットニュースにも群馬県の地方ニュースとして掲載された程度であり,控訴人の社名は記載されておらず,実際問題として,本件非違行為によって控訴人に具体的な不都合がもたらされた形跡はない。本件犯行は,女性や児童に対する直接的な侵襲行為ではなく,職場に女性がいたり児童の親たる者がいたりするからといって,懲戒解雇をもって臨むべき企業秩序維持への影響は考えられない。なお,本件訴訟の原判決が報道されたのは,控訴人が無効な懲戒解雇をしたからであって,被控訴人が本件犯行をしたからではないし,事後的な事情を遡及して,本件処分の考慮事項にすべきでもない。
    他の事例との均衡をみても本件第1処分は重過ぎる。また,控訴人の退職金規定で,懲戒処分により解雇されたときは原則として退職金は支給されないと定めていることからすれば,控訴人における懲戒解雇処分は,労働者の解雇時までの勤続の功を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為があったときに限って適用されることを想定した制度であると考えられる。
    また,手続的にも,被控訴人に弁明の機会を十分に与えてしたものとはいえない。
  (2) 本件第2処分について
    本件非違行為とは別の事由と本件非違行為とを合わせて処分事由とする場合も,本件非違行為が懲戒事由とならない以上,別の事由それ自体で処分相当性を備えなければならない。
    就業規則の趣旨からすれば,「偽りの行為」とは故意に行ったものに限られるべきところ,控訴人主張の行為はいずれもそうではないし,控訴人は,被控訴人の釈明を重要視しないで処分を決めていたものであって,実害もなかったのであるから,処分相当性はない。
 (控訴人の主張)
   本件処分は,次のとおり,反社会的で悪質・破廉恥な行為である本件犯行に係る本件非違行為等に対してした相当なものであり,解雇権を濫用したものではない。
  (1) 本件第1処分について
    本件非違行為は,就業規則79条6号の懲戒解雇事由に当たる。
    そして,本件犯行は,児童ポルノに係るものであるところ,児童ポルノは,児童を性的に搾取し,存在や存続自体が児童を傷付けるものであるとして,国際的にも指弾されているものである。そして,そのようなものを公開する行為は,被害児童を身の置き所のない状態に陥らせ,立ち直りを困難にするばかりか,絶望による自殺などに至らせる行為であり,卑劣かつ悪質な行為であって,時として一次的侵害よりも大きく被害児童の心に傷を負わせるものである。本件犯行の対象となった児童ポルノは,13歳の少女が母親の同棲相手の男性らから激しい性的虐待を受けている光景を撮影した動画であって,最悪な内容のものの一つであり,被控訴人は,その内容を認識した上で,保存し,公開していたものと推認できる。また,児童ポルノの公然陳列は,法定刑において,痴漢,盗撮,児童買春よりも重い刑罰が定められている。
    控訴人は,世界的に事業展開している会社であり,3万5000人の従業員総数のうち1万3000人もの外国籍従業員を抱えるものであって,国際的に指弾されている行為をする従業員を抱えることは,企業姿勢としてできないことであるし,国際的な評判にも関わることである。
    私生活上の非行であっても,使用者を含めて情報が掘り起こされて流布され,使用者に対しても社会的な非難の目が向けられることは珍しくないし,性犯罪については私生活上のものであっても懲戒解雇処分がされることは珍しいものではない。本件で被控訴人は実名報道されており,インターネットが発達した昨今においては,実名報道によって,従業員や取引先等に逮捕された事実が明らかになり,そのような者が職場復帰することによる動揺や,同じ職場で働きたくないという気持ち,そのような者を職場復帰させた会社に対する反発が生じるのであって,企業秩序に具体的な影響を及ぼしている。高い企業倫理を有すべき立場にある大企業の従業員が,このような性犯罪を犯したこと自体が,企業の社会的評価に重大な悪影響を及ぼし,企業秩序に著しい損害を与えるものと客観的に評価できる事実である。また,控訴人の野洲事業所は,滋賀県野洲市において巨大な存在感を有するところ,被控訴人の住所が報道されることにより,地元では,控訴人従業員の非行であることは容易に知られるのであり,地域住民から非難を受けることは免れ難い。また,現に,本件訴訟の原判決が報道されたことにより,控訴人の従業員が児童ポルノの罪を犯したことが社会的に周知され,控訴人の社会的評価は低下した。
    さらに,刑事記録に照らせば,本件犯行は,故意に基づく常習的犯行というべきであるが,被控訴人は,あくまで過失によるものであると申述したり,常習性に関して過少申述したりしており,反省は全く認められない。
    なお,控訴人は,被控訴人に弁明の機会を与えた上,慎重に検討した上で解雇を決定しており,その後,被控訴人の要請を受け,再度,社内で検討した上,懲戒解雇処分を見直さない旨を通知しているから,本件第1処分は手続的にも適正になされている。
  (2) 本件第2処分について
    被控訴人の原判決「事実及び理由」第2の1(7)アないしコ記載の各陳述は,いずれも,刑事記録に照らして明らかな虚偽申告であるところ,その内容は,甚だしい自己保身,自己弁護でしかない。しかも,それは,本件非違行為に関する控訴人の判断を誤らせる目的で,被控訴人から聴取する以外に控訴人が情報を入手し判断する術がない状況下でなされたものであり,控訴人に重大な不利益をもたらす可能性のある行為であるから,結果いかんにかかわらず,到底許容できないものであり,就業規則79条9号の懲戒処分事由に該当する。
第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
   当裁判所が,判断の前提として認定する事実は,次の(1)のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第3の1に記載されたとおりであるから,同部分を引用する。
   また,これに加えて,証拠(乙19,21,22,26,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,次の(2)の事実が認められる。
  (1) 原判決の補正
   ア 8頁21行目の「性交類似行為」の後に「等(具体的には,少女が屋外において陰部を露出する場面,少女の陰部のアップ画面,男性が少女の陰部を舐めたり弄んだりする場面,屋内において少女が男性に口淫する場面,少女の口の中に射精する場面)」を挿入し,22行目に「13歳であること」とあるのを「13歳であり,少女の母親の内縁の夫が撮影に関わっていること」に改め,23行目の「わいせつ図画」の前に「男女の陰部を露骨に撮影した無修正の」を挿入する。
   イ 9頁13行目の「実名報道」の後に「(実名のほか,住所を滋賀県野洲市(以下略),職業を会社員と記載され,年齢も記載された。)」を挿入する。
   ウ 10頁9行目末尾の後に「また,被控訴人は,Bから罪名等を記入するように言われ,白紙の紙に,略式命令の主文と罪名・罰条を記載して,Bに渡した。」を挿入し,11頁3行目の「Bは,」の後に「再度社内で検討した上,」を挿入する。
   エ 12頁12行目末尾の後に,「もっとも,これら208件のうち,私企業における懲戒処分例は,7件(NHKを含む。うち6件はメディア関係)だけであるし,本件犯行と似通った児童ポルノ事案としては,上記市役所職員の児童ポルノ公然陳列事案のほかは,勤務時間中に,児童ポルノ画像1枚をインターネットのサイトに送信した区役所職員が停職3月の懲戒処分を受けた例(乙17の1),児童ポルノをメールなどで複数の人に配布した東京法務局の職員が懲戒免職になった例(乙18),ホームページに児童の裸などの写真を掲載した教職員が懲戒免職になった例(乙18)が認められるだけである。」を挿入する。
  (2) 付加して認定する事実
   ア 控訴人は,資本金の額が約693億円で,株式上場をしている大手電子部品製造業者であり,関連企業を含めると従業員の総数は約3万5000人に上る。そのうち約1万3000人が外国籍であり,海外拠点だけでなく,被控訴人が勤務していた野洲事業所を含めた国内拠点や研究施設においても,留学生等の受入れを進めている。控訴人の売上げの約85%が欧米など海外に対するものであり,海外の取引先からは,控訴人において児童労働が行われていないことの宣誓を求められるなど,CSR(企業の社会的責任)を強く求められる状況にある。
     滋賀県野洲市の人口は約5万人であるが,控訴人の野洲事業所には約3000人の従業員が勤めており,同市において大きな存在感を持っている。
   イ 控訴人では,「企業倫理規範・行動指針」を定め,従業員向けの冊子(乙19)を作成しており,平成19年4月に改訂された上記指針には,「私たち(控訴人,そのグループ会社並びにそれぞれの役員及び従業員)が,社会の一員であることを認識し,高い倫理観を保持し,社会における責任を自覚し行動します。」などと記載されている。また,控訴人は,そのホームページにおいて,人権の尊重などの「CSRへの取り組み」を公表しており,その中で,「人権に対する従業員の意識を高めるために,階層別教育の中で人権教育を実施しています。なお,海外も含めたすべての事業所・工場において,児童労働・強制労働は一切ありません。」などと記載している。
   ウ 児童ポルノについては,インターネットを通して被害が拡大し,深刻化していることが指摘されている。また,欧米などでは,単純所持の禁止など,日本より厳しい規制が行われている。
 2 本件第1処分の解雇権濫用該当性について
  (1) 本件非違行為が,控訴人の就業規則79条6号の懲戒解雇事由に該当することは,当事者間に争いがない。
    もっとも,使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は無効とされる(労働契約法15条参照)。
    また,職務遂行と直接関係のない従業員の私生活上の非行を理由として懲戒することも可能であり,そのために必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが,当該行為の性質,情状のほか,会社の事業の種類・態様・規模,経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して,上記非行により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければ,懲戒をすることはできないと解される(最判昭和49年3月15日第二小法廷判決・民集28巻2号265頁参照)。
  (2) これを本件についてみるに,本件非違行為は,被控訴人の私生活上の非行であって,控訴人の事業に直接関連するものではないし,これによって,控訴人の名誉・信用や企業秩序等に現に具体的な損害や不利益が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
    しかしながら,本件犯行は,児童に対する性的侵害の総合的防止の観点から問題となっている児童ポルノで,かつわいせつ図画でもある動画データの公然陳列事案であり,児童ポルノに対する社会的非難が高まっていることは,児ポ法が平成11年に施行され,平成16年には同法につき法定刑の引上げ等を内容とする改正がされたこと(公知の事実)からも優に認められるところであり,インターネットを通して児童ポルノの被害が拡大し,深刻化していることを考えても,被控訴人の行為は,破廉恥かつ悪質なものであって,社会的に厳しい非難を免れないものである。そして,従業員がこのような行為をすることが,客観的にみて,その雇用先の会社に対する名誉・信用その他の社会的評価の低下や毀損につながるおそれがあることは明らかである。
    この点,確かに,本件犯行は,強姦,強制わいせつ,児童買春,淫行など被害児童への直接の侵襲行為であったり,自ら撮影したなど直接的な侵害性のある行為だったりするものではない。しかし,被控訴人は,13歳の児童に対する極めて悪質な性交類似行為等を撮影した動画データを,その内容を確認した上で,共有状態となるフォルダに保存し,約12日間にわたり,同じファイル共有ソフトを利用する不特定多数のインターネット利用者に対し再生閲覧が可能な状態にしたものであり,撮影された児童に与える被害が軽微であるとは到底いえないものである。本件犯行に係る児童ポルノの公然陳列罪の法定刑は,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれの併科であり(児ポ法7条4項),被控訴人は,これと観念的競合の関係にあるわいせつ図画陳列罪(刑法175条)も犯したものであるが,法定刑が5年以下の懲役又は300万円以下の罰金である児童買春(児ポ法4条)と比べても,その法定刑は軽くないし,実際に被控訴人に科せられた刑罰についても,平成22〜23年頃に児童買春で同様に罰金50万円に処せられた例が複数あると認められ(乙17の3・4),児童買春事案より軽い訳でもない。これらからすれば,客観的にみて,本件犯行が,児童買春事案に比べて,特に犯情が軽いとか,社会的非難の度合いが低いと評価することはできない。
    なお,被控訴人は,本件犯行が故意によるものであることを認めつつ,公然陳列をする強い動機や積極的故意に基づいて本件犯行をしたものではない旨主張する。しかし,被控訴人は,共有状態になることを知りながら,上記動画データを保存していたものであり,被控訴人自身,別のユーザーの共有フォルダから上記動画データを入手したものであること(乙20の6)を考えると,その動機・目的において,特に酌むべき点があるとはいえない。
    また,確かに,本件犯行の報道に控訴人の社名を含むものはない。しかし,まず,地方版とはいえ被控訴人の実名を伴う報道が複数されたことは,本件犯行に一定の社会的な関心があることを示す事実といえる。また,被控訴人の氏名によるインターネット検索の結果からすれば,本件犯行に関する記事などとともに,被控訴人の氏名が控訴人の名称とともに掲載された記事が出てくるのであり,報道に記載された被控訴人の住所が滋賀県野洲市であり,職業が会社員とされ,同市に控訴人の事業所があることからすると,本件犯行をした被控訴人が控訴人の従業員であると推測することは可能といえる(ただし,本件訴訟の原判決が報道されたことによる影響を考慮するのは相当ではない。)。
    さらに,控訴人は,従業員らに対し,高い倫理観の保持や社会における責任を自覚して行動することを企業倫理規範・行動指針として示し,また,児童ポルノに対し日本より厳しい立場を取っている国を含む海外の取引先も多く,そこから企業の社会的責任(CSR)を強く求められるような状況にあり,自身のホームページにおいても,人権の尊重などのCSRへの取組を公表しているが,本件非違行為は,企業活動に伴うものではないものの,そのような控訴人の経営方針とは相容れないものであるといえるし,その事業の態様からしても,本件非違行為が控訴人の社会的評価に悪影響を及ぼすおそれは大きいといえる。
    このような点を総合的に考えると,控訴人が大企業であり,被控訴人の地位が単なる従業員(エンジニア)であることなどを考慮しても,本件非違行為は,客観的にみて,控訴人に対する社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると評価されるものと認められるというべきである。
    また,児童ポルノ公然陳列罪で罰金30万円に処せられた市役所職員が懲戒免職になった事例はあり(乙17の5),本件で証拠上認められる他の懲戒事例(乙17の1ないし9,18)を検討しても,本件非違行為に懲戒解雇処分を科すことが,それらとの比較において,不相当に重いと評価することはできない。控訴人における懲戒事例との比較についても,児童買春事案につき懲戒解雇や諭旨退職に処した事例があると認められ(乙26,証人A),また,本件と同種の事案でより軽い懲戒処分に止まった例が存するとは認められないから,同様である。
    さらに,被控訴人は,控訴人に対し,平成23年2月7日の聞き取りの際の記事への書込み(乙8)や同年3月7日に提出した嘆願書(乙9)において,本件犯行の約8年前から児童ポルノを収集していたのに,1〜3年前くらいのみであると記載し(乙8),また,それ以前の警察での取調べにより少なくとも法律上の故意があることは理解していた(被控訴人本人7頁)のに,過失である旨の記載をする(乙8,9)など,本件非違行為の犯情に関する部分につき,不正確ないし事実と異なる説明をしており,その反省の態度にも疑問がある。
    なお,控訴人の退職金規定(甲5の20条)では,懲戒処分により解雇されたときは,原則として退職金を支給しないと定められているが,他方で,2年以上勤務した者には自己都合退職の場合の退職金額の50%を限度として退職金を支給することがあるとも規定されており,解釈上も,退職金の賃金後払的性格等に照らし,懲戒解雇処分における退職金不支給の定めがあっても,一定額の退職金を請求できる場合があると解されるから,上記退職金規定の存在をもって,懲戒解雇ができる場合を特に制限的に解すべきであるとはいえない。
    これらによれば,被控訴人が過去に懲戒処分を受けたことがないこと(被控訴人本人)などをさらに考慮しても,本件第1処分は,懲戒解雇として客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められるから,控訴人がその権利を濫用したものとはいえない。
  (3) 被控訴人は,本件第1処分が,手続的に,弁明の機会を十分に与えてしたものとはいえないとも主張する。
    しかしながら,前記認定のとおり,控訴人は,本件第1処分に先立ち,被控訴人と面談し,被控訴人から,本件犯行の記事に書込みをしてもらうなどしながら本件非違行為についての説明を受け,本件第1処分後に,被控訴人が懲戒処分の見直しを求め,その言い分を記載した嘆願書を提出したのに対しても,再度の検討をしたと認められるから,弁明の機会は十分に与えていると評価できる。
    したがって,本件第1処分に手続的な瑕疵があるとはいえない。
  (4) よって,本件第1処分は有効であり,これにより,被控訴人は,控訴人との間における雇用契約上の地位を失ったことになる。
 3 結論
   以上によれば,被控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,これと異なる原判決を取り消し,被控訴人の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
    大阪高等裁判所第8民事部
        裁判長裁判官  小松一雄
           裁判官  遠藤曜子
           裁判官  横路朋生