児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

東京地方検察庁検事伊東真依「裁判員裁判対象の性犯罪事件において被害者保護が問題となった事例」捜査研究738号

 性犯罪の裁判員事件なんてやめようよ。結局、起訴率は落ちるわ、被害者は嫌がるわでいいとこなしじゃん。

しかしながら, Aの各事件における供述状況が判明した時点で,被害者に,現在のAの供述状況から裁判員裁判において証人として証言しなければならない可能性が高いことを伝えるとほとんどの被害者が告訴を維持することに躊躇した。
イ 裁判員裁判における被害者保護制度の問題点
被害者らの不安は, Aに個人情報が知られることに対する不安,傍聴人に自分が被害に遭ったことが知られるのではないかという不安,裁判員に個人情報を知られることや,裁判員に知人が選ばれるかもしれないことに対する不安など,その要因は様々であった。
これらの不安のうち, Aへの個人情報の流出については,証拠の提出・開示にあたり,起訴状に記載された事項以外の個人情報にマスキング措置を施すことなどの対処が可能であり(刑事訴訟法299条の3参照),傍聴人に対する不安については,被害者特定事項に関する秘匿制度や,証人尋問における被害者保護制度が定められているなど,ある程度法制度が整備されている。
しかし,裁判員に個人情報を知られることや,裁判員に知人が選ばれるかもしれない不安に対する法制度については,いまだ十分整備されているとは言い難い。
現状においては,裁判員に個人情報を知られることに対する不安については,提出証拠について,マスキング等の措置によって個人情報を必要最低限のものにするよう配慮していることや,裁判員には守秘義務が課されており,守秘義務に反した場合には刑事罰が定められていることなどを説明することになるが,氏名という重要な個人情報が秘匿できない以上,被害者の不安を払拭することは容易ではない。
また,裁判員に知人が選ばれるかもしれないという不安については,
制度上完全に排斥することは困難である。本件被害者の中には,大学生や大病院勤務の看護師などもおり,このような被害者は,閉じ大学の学生や勤務先の病院に通院している患者といった,名前は知らないが会ったことのある知人が多いこともあって,特にこの点に対する不安が大きかった。
本件においては,幸い,最終的には被害者らの理解を得ることができ.全ての事件を裁判対象事件である強姦致傷として起訴することができたが,かかる問題は,犯人が裁判員裁判対象事件である強姦致傷などの事件と裁判員裁判非対象事件である強姦などの事件を敢行している場合なと併合審理の可否が問題となる事案においてより顕在化するものと思われる。