児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

対償供与約束能力 10~12歳との児童買春事件

 裁判例をみると、10歳で対償供与約束能力を認めるようですが
 性行為の意味を理解しないと、性交等の対価というのも理解できないと思うので、刑法の性的承諾能力(13歳)とは別個に観念できるのでしょうか?
 10歳とか12歳とかに、対償供与約束能力を認めて、性的承諾能力を認めないというのは矛盾です。

 どうせ、6歳児童に「飴ちゃんやるから体触らせて」というのは、不同意わいせつ罪しか立てないわけです。
 この辺は、児童買春罪ではなくて、不同意性交罪(177条3項)のみを検討すればいいと思います。


 児童との約束の解釈については、通常の意思表示と同様で、意思能力の問題とか錯誤とか取消とかがありえるという解釈です。
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阪高裁令和5年2月2日宣告 
 所論は、対償供与約束の存否は、外形から客観的に判断すべきところ、1万円以上を交付する旨の被告人の申し出については、被害児童が断って白紙に戻ったから、両名の間に対償供与の約束は成立していないと主張する。しかしながら、外形から客観的に判断するとの趣旨は、所論がいうように発言内容を分断して個別にその意味を確定することではなく、表示内容と異なる内心などの主観面によって認定が左右されないとの意味で、一般的な意思表示の解釈や認定と同様、外部への表示内容を社会通念に従って合理的に解釈して対償供与約束の成否やその内容を認定することは当然に許容される。本件においては、被告人からの対償供与の申し出に、いったん、被害児童から消極的な返答のメッセージが送られたのは、やりとりの一局面にすぎず、その後もやりとりは途切れずに続いており、これらを含めた一連の経緯からすると、本件性交の時点で対償供与約束があったと客観的に判断できることは前述のとおりである。
 所論は、被害児童において、被告人と会うときには性交までする約束はなかったと供述している(原審甲5)ことを指摘し、対償供与約束が認められるとしても、その対象の範囲は、性交類似行為までで、性交についての対償供与約束は成立していないとも主張するが、本件性交について被告人が被害児童の同意を得た時点で、これが対償供与の下に行われるとの約束が成立したものと認められるのは前記のとおりで、それ以前の時点での約束内容についての証拠関係が上記認定を左右することはなく、この点の主張も採用できない。
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  地裁   H17.9.29 (罪となるべき事実)
 被告人は、平成17年2月26日、東京都渋谷区〈以下省略〉所在のホテル「b」において、A(当時12歳)が18歳未満であることを知りながら、同児童に対し、現金1万円の対償を供与する約束をして、同児童と性交し、もって児童買春をしたものである。
12歳
地裁 四日市 H23.1.7 (犯罪事実)
 被告人は,■(当時12歳,平成■年■月■日生)が18歳に満たない児童であることを知りながら,
第1 平成22年10月12日午前10時46分ころから同日午後1時11分ころまでの間,三重県三重郡<以下略>所在のホテル「a」α号室において,上記児童に対し,現金1万5000円を対償として供与する約束をして上記児童と性交し,児童買春をした。
12歳
名古屋 高裁   H23.5.11 所論は,判示第1の事実に関し,13歳未満の者には性交等を有効に承諾する能力がなく,対償供与の約束は成立し得ないから,本件においても,当時12歳の被害児童との間に対償供与の約束は成立しておらず,したがって児童買春罪は成立しない,という。しかし,法が児童の承諾のあった性交等を処罰することとしているのは,児童が心身ともに未熟であることから,その承諾そのものを問題視して児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護するためであり,法は性交等の承諾を与える児童の能力が完全でないことを当然の前提としているのである。また,刑法176条後段及び177条後段は,性的知識に乏しい年少者を特に保護する趣旨で,13歳未満の者に対しては,同意の有無を問わず,かつ,暴行脅迫を用いないでも強制わいせつ罪,強姦罪が成立することとしているのであり,児童買春罪の成立を認めるに当たって,これらの規定が13歳未満の者について対償供与の約束が成立したとの事実を認める妨げとなるものではない。所論は失当である。 12歳
神戸 地裁 尼崎 H26.7.29 第5 D(当時10歳),B及び家出をしてA方に寝泊まりしていたI(Iは当時の姓。平成10年○月○○日生,当時15歳。以下「I」という。)がそれぞれ18歳未満であることを知りながら,前記各児童に対する性交等の周旋をしたAに対し,あらかじめ現金合計5万円の対償を供与する約束をした上,平成25年10月6日,兵庫県尼崎市(以下略)所在の××東側階段において,
 1 自己の性的好奇心を満たす目的で,Dの陰部を触り,
 2 Iに自己の陰茎を口淫させる性交類似行為をし,
 3 Bに自己の陰茎を口淫させる性交類似行為をし,さらに同所において同人と性交し,
 もって,それぞれ児童買春をした。
10歳
水戸 地裁   H28.9.12 (罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1 A(○年○月○日生,当時11歳)が13歳に満たない児童であることを知りながら,
  1 平成27年10月4日午後2時10分頃から同日午後4時43分頃までの間に,茨城県ひたちなか市〈以下省略〉付近駐車場に駐車中の自動車内において,Aに対し対償としてiPod touch(ポータブルオーディオプレーヤー)1台を供与して,Aに自己の性器を口淫させるなどの性交類似行為をし,もって児童買春をするとともに,13歳未満の女子に対しわいせつな行為をし,
11歳
名古屋 地裁   R1.12.5 (罪となるべき事実)
 被告人は,A(別紙記載。当時12歳)が13歳に満たない児童であることを知りながら,平成31年3月9日午前2時15分頃から同日午前3時13分頃までの間に,愛知県大府市〈以下省略〉aホテル217号室において,Aに対し,約1万3000円相当のチケット代金等の支払を対償として供与する約束をして,Aと性交及び口腔性交をし,もって児童買春をするとともに,13歳未満の者に対し,性交等をしたものである。
12歳
前橋 地裁   R2.4.16 第3 被告人は,■(以下「C」という。当時12歳)が13歳未満の者であること及び18歳に満たない児童であることを知りながら,
1(令和元年12月3日付け起訴状記載の公訴事実第1)
 同児童と性交等をしようと考え,令和元年8月15日午前11時44分頃から同日午後3時33分頃までの間,宇都宮市δ××××番地×g×××号室において,同児童に対し,ホテル代を含めた現金2万円の対償を供与する約束をして,同児童と性交等をし,もって児童買春をするとともに13歳未満の者に対し,性交等をし
12歳

 

高裁判例が混乱しているが、就寝中の児童の着衣を脱がして撮影する行為は、姿態をとらせて製造罪(7条4項)であって、ひそかに製造罪(同条5項)ではないこと

高裁判例が混乱しているが、就寝中の児童の着衣を脱がして撮影する行為は、姿態をとらせて製造罪(7条4項)であって、ひそかに製造罪(同条5項)ではないこと

 坪井検事によれば「ひそかに」とは,「描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」 という意味と解説されているので、寝ている児童の前であからさまにスマホをかざしていると「ひそかに」には該当しません。

 最近、5項製造罪でもいいという高裁判決が出ていますが、「賛同できない」とか「同項の製造に該当するとした原判決の解釈が誤りであるとまで断ずるには足りない」とかで、積極的な理由が付されていません。姿態をとらせて製造罪説は、法文に忠実で、文献と判例を並べただけなので、誤りは絶対無い。

(1)姿態をとらせて製造罪説

阪高裁H28.10.26*1(姫路支部h28.5.20*2)
論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
 しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。

阪高裁r05.1.24*3(奈良地裁R04.7.14*4)
 しかし、同法7条5項の規定する児童ポルノのひそかに製造行為とは、隠しカメラの設置など描写の対象となる児童に知られることがないような態様による盗撮の手段で児童ポルノを製造する行為を指すと解されるが、同項が「前2項に規定するもののほか」と規定していることや同条項の改正経緯に照らせば、児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても,行為者が姿態をとらせた場合には、姿態をとらせ製造罪(同条4項)が成立し、ひそかに製造罪(同条5項)は適用されないと解される。
 したがって、検察官は、本来、上記各事実をいずれも姿態をとらせ製造罪として起訴すべきところを、誤ってひそかに製造罪が成立すると解し、同一機会の各事実と合わせると姿態をとらせたこととなる事実を記載しながら、「ひそかに」との文言を付して公訴事実を構成し、罰条には児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項を上げた起訴状を提出し、原判決もその誤りを看過して、同様の事実認定をした上で、上記のとおりの適条をしたことが明らかである。このような原判決の判断は、判文自体から明らかな理由齟齬とまではいえないにせよ、法令の適用に誤りがある旨の所論の指摘は正しい。 


(2) ひそかに製造罪説

東京高裁r5.3.30*5(東京地裁R04.7.14*6)
その余の事実については、同項の製造に該当するとした原判決の解釈が誤りであるとまで断ずるには足りないし、仮に同条4項による製造と認定すべきであって法令の適用に誤りがあるとしても、同項の製造罪と同条5項の製造罪は、同一法条に定められ、その罪質も法定刑も同じであって、本件において、その要件の差により被告人の防御の機会を奪う事態となっていたとは考え難いし、量刑上も影響を及ぼすものではないことが明らかであるから、その誤りは判決に影響を及ぼさない。

東京高裁r5.6.16*7(立川支部r05.1.20*8)
しかしながら、原審記録によれば、前記各事件は、いずれも、被告人が、各児童に所定の姿態をとらせた上、ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところ、これらについて、訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し、被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず、原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり、同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはない。所論は、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが、同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であれば、そのように解すべき合理的理由はなく、賛同できない。

阪高裁R5.7.27*9(神戸地裁姫路支部R5.3.23*10) 上告中 第三小法廷
   以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。

阪高裁r5.9.28*11(奈良地裁葛城支部R5.3.13*12) 上告中 第三小法廷
   以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。


 坪井検事によれば「ひそかに」とは,「描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」 という意味と解説されているので、寝ている児童の前でスマホをかざしていると「ひそかに」には該当しません。

坪井麻友美「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」H26_捜査研究 第63巻第9号(2014年9月号)

 念頭に置かれるのは、浴室・トイレ盗撮であって、「この要件は,児童を描写する行為の客観的態様についての要件であって,児童の承諾の有無を問題とする要件ではなく,また,当該児童が当該描写を認識しているか否かも問わない。」「描写の対象となる児童に知られることのないような態様」に当たるかどうかは,一般人を基準に判断することとなる。」というのであるから、カメラは児童からみて隠されていなければならない。
 坪井検事はわざわざ「犯人側の態様で判断される」というのである。被害者側の主観・内心は考慮しないというのである。

 だとすると、眠っている被害者の下着を脱がして、触る等して、スマホで撮影する行為は、カメラが露出していて、一般人からみると、「児童に知られるような態様」であるから、「ひそかに=描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」に該当しない。

坪井麻友美「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」(法曹時報66巻11号29頁)
イ要件
(ア) 「ひそかに」「ひそかに」とは,「描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」という意味であり,児童が利用する脱衣所に隠しカメラを設置して盗撮するような場合が典型例である。
この要件は,児童を描写する行為の客観的態様についての要件であって,児童の承諾の有無を問題とする要件ではなく,また,当該児童が当該描写を認識しているか否かも問わない。

(注18)
「描写の対象となる児童に知られることのないような態様」に当たるかどうかは,一般人を基準に判断することとなる。客観的にこのような態様に当たる場合,通常,被写体となる児童は描写されていることを認識・承諾していない場合が多いと考えられるが,たまたま児童が隠しカメラの存在に気付き,盗撮されることを内心認容していた場合や,撮られる間際にカメラの存在に気付いた場合なども盗撮製造罪は成立し得る。
(注19) 「ひそかに」の他法令での用例としては,軽犯罪法の窃視の罪(問、法第1条第23号「正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」)があるところ,同法上の「ひそかに」は,「見られないことの利益を有する者に知られることなく」という意味であり,見られる者の認識(承諾)を問題とする文言と解されている(注釈特別刑法第7巻,風俗・軽犯罪編111頁)。軽犯罪法の窃視の罪の保護法益はプライパシー権であって被害者の承諾があれば法益侵害がないと考えられるのに対し,児童ポルノの盗撮製造罪の保護法益及び処罰の趣旨は上記のとおりであるから,両法における「ひそかに」の文言の意義は異なるものと解される。

 月刊警察には児童側の内心は考慮しないって書いてある。

法務省刑事局付坪井麻友美「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」について月刊警察2014. 10 No.373
第7条第5項の「ひそかに」とは,どのような意昧ですか。
「ひそかに」とは,「描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」という意味であり,児童が利用する脱衣所に隠しカメラを設置して盗撮するような場合が典型例です。
この要件は,児童を描写する行為の客観的態様についての要件であって,児童の承諾の有無を問題とする要件ではなく,また,当該児童が当該描写を認識しているか否かも問いません(たまたま児童が隠しカメラの存在に気付き,盗撮されることを内心認容していた場合や,撮られる間際にカメラの存在に気付いた場合等も,盗撮製造罪は成立し得ます。)。
本項の児童ポルノの製造罪の趣旨は, Q11で述べたとおり,かかる行為が児童の尊厳を害し,児童を性的行為の対象とする風潮が助長され,抽象的一般的な児童の人格権を害するなどの点にあり,その保護法益が児童のプライパシー権そのものではない上,本項が,児童ポルノを製造する行為のうち,盗撮によるものを特に処罰することとした理由が,盗撮が行為態様の点において違法性が高いと考えられたことによるものであるため,盗撮製造罪は,児童の承諾の有無にかかわらず成立するのです。
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裸体を撮影送信させる行為について、高裁レベルでは強要罪説(岡山支部H22.12.15、東京高裁H28.2.19)から、強制わいせつ罪説(大阪高裁R03.7.14)に移りつつあるが、最高裁の判断がない状況。

裸体を撮影送信させる行為について、高裁レベルでは強要罪説(岡山支部H22.12.15、東京高裁H28.2.19)から、強制わいせつ罪説(大阪高裁R03.7.14)に移りつつあるが、最高裁の判断がない状況。

 警察に聞かれましたが、大阪高裁は実刑になっていますが、送信させる型強制わいせつ(リモートわいせつ型)は、量刑が軽めなので、1審と控訴審の未決が多くなっているのと、上告未決が何日もらえるかわからないのとで、上告できていません。

文献番号】 25470943
【文献種別】 判決/広島高等裁判所岡山支部控訴審
【裁判年月日】 平成22年12月15日
【事件番号】 平成22年(う)第100号
【事件名】 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強要被告事件
【審級関係】 第一審 25470942
岡山地方裁判所 平成22年(わ)第146号
平成22年 8月13日 判決
【事案の概要】 被告人が、3名の被害児童に対して乳房等を露出した画像を送信させて児童ポルノを製造し、そのうち1名に対しては、送信させるべく脅迫を加えたという児童ポルノ製造及び強要の事案の控訴審で、前記各公訴事実による起訴は、そもそも実質的に強制わいせつ罪を起訴したものとはいえず、検察官の訴追裁量を適正に行使したものと認められるなどとして、被告人の本件控訴を棄却した事例。
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 上告
【裁判官】 山嵜和信 佐々木亘 石田寿一
【掲載文献】 高等裁判所刑事裁判速報集(平22)号182頁
【参照法令】 刑法223条
刑法45条前段
児童買春法7条
児童買春法2条
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所第一小法廷 昭和58年(あ)第909号
昭和59年 1月27日
最高裁判所第一小法廷 平成19年(あ)第619号
平成21年10月21日
【全文容量】 約16Kバイト(A4印刷:約9枚)


《全 文》

【文献番号】25470943

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,強要被告事件
広島高等裁判所岡山支部平成22年(う)第100号
平成22年12月15日第1部判決

       判   決

■■■■

 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反,強要被告事件について,平成22年8月13日岡地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官見越正秋出席の上審理し,次のとおり判決する。


       主   文

本件控訴を棄却する。


       理   由

第1 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第2 訴訟手続の法令違反の控訴趣意について
1 論旨は,次のとおりである。
(1)原判決は,(罪となるべき事実)として,被告人が,■(当時15歳。以下「被害者B」という。)が18歳未満の児童であることを知りながら,原判決別表1記載のとおり,平成21年7月11日,11回にわたり,同児童に乳房等を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させた上,その画像データ11点を被告人が使用するパーソナルコンピューターに電子メール添付ファイルとして送信させ,被告人方において,これらを上記コンピューターで受信し,そこに内蔵された電磁的記録媒体であるハードディスクに記録して蔵置し,もって,児童ポルノを製造し(原判示第1),■(当時13歳。以下「被害者C」という。)が18歳未満の児童であることを知りながら,原判決別表2記載のとおり,同年8月13日,6回にわたり,同児童に前同様の姿態等をとらせてこれを撮影させた上,その画像データ6点を前同様に送信させ,被告人方において,これらを,前同様に受信し,上記ハードディスクに記録して蔵置し,もって児童ポルノを製造し(同第2),■(当時16歳。以下「被害者A」という。)が18歳未満の児童であることを知りながら,同年9月1日,被告人方において,同児童に対し,上記コンピューターを使用し,インターネット上のチャットにより,「君のIP情報ぬいたんだけどばらまいてもいい?」,「とりあえず写真送ってもらおうか」,「Tシャツ脱いで,胸のところはだけてとって」などと種々申し向けて脅迫し,同児童をしてこれに応じなければ同児童の自由等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨怖がらせ,原判決別表3記載のとおり,6回にわたり,同児童に前同様の姿態等をとらせてこれを撮影させた上,その画像データ6点を前同様に送信させ,被告人方において,これらを前同様に受信し,上記ハードディスクに記録して蔵置し,もって同児童に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した(同第3)との事実を認定判示し,被告人を懲役2年6月,執行猶予3年間に処した。
(2)しかしながら,原判決には,次のとおり,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある。
ア 原審裁判所が,平成22年6月28日,原審弁護人が刑訴法40条に基づき裁判所の訴訟記録の閲覧を求めたのに対し,被害者特定事項秘匿申出書部分の閲覧を拒否し、原審弁護人が後日謄写申請をしたのに対し,上記申出書の申出人の氏名・住所の謄写を許さなかったため,早期の被害者A及びCに対する慰謝の措置が妨げられた(控訴理由第1)。
イ 本件各公訴事実は,いずれも実質的に強制わいせつ罪であり,告訴のないまま起訴ないし一部起訴されたものであって,公訴棄却とすべきであったにもかかわらず,原判決が実体判断をしたものである(控訴理由第4)。 
2 そこで,原審記録を調査し検討する。
(1)前記控訴理由第1について
ア 原審記録によれば以下の事実が認定できる。
(ア)平成22年3月19日,岡山地方検察庁検察官は,岡山地方裁判所に対し,被害者A本人からの被害者特定事項の秘匿の申出があった旨通知したが,同通知には連絡先として同人の住所が記載されていた。
(イ)同年6月18日,同検察官は,同裁判所に対し,被害者Bの法定代理人母及び被害者Cの法定代理人母から,それぞれ被害者特定事項の秘匿の申出があった旨通知したが,これら各通知には,それぞれ申出人の氏名と共に連絡先として各申出人の住所地が記載されていた。
(ウ)原審弁護人は,同年5月3日付け保釈請求を行ったころまでには,被害者Aとの示談交渉を始めており,また,同年6月15日ころまでには,検察事務官を通じ,示談交渉のため,被害者B及び同Cの各母の氏名及び携帯電話番号を把握していた。
(エ)同年7月7日,原審弁護人は,原審裁判所に対し,申請人欄に,原審弁護人の氏名,所属弁護士会及び申請資格を,閲覧謄写人氏名欄に,原審弁護人以外の者の氏名を各記載し,謄写対象として,被害者特定事項秘匿の申出の通知書を含めて謄写を求める内容の,刑事事件記録等閲覧・謄写票を提出した。これに対し,原審裁判所は,被害者特定事項の秘匿申出通知について,連絡先及び法定代理人氏名の記載を除いた部分の謄写を許可した。
(オ)なお,原審記録上,平成22年6月28日の原審弁護人による記録等の閲覧申請にかかる書類は存在しない。
イ そこで判断するに,まず,前記認定事実によれば,原審弁護人が,平成22年6月28日,原審裁判所に対し,所論主張の閲覧申請をしたとは認められない。当時,原審弁護人が,原審裁判所に在庁し,所論主張の閲覧の可否を打診し,原審裁判所が拒否的回答をしていたとしても,上記のとおり閲覧申請をしたとは認められない以上,これらをもって訴訟手続の法令違反になるとは認められない。
 次に,刑訴規則31条によれば,弁護人は,裁判長の許可を受けて,自己の使用人その他の者に訴訟に関する書類等の閲覧又は謄写をさせることができるとされているから,その許否は,裁判長の合理的裁量にゆだねられていると解される。そして,前記認定事実によれば,原審弁護人が,平成22年7月7日付けの刑事事件記録等閲覧・謄写票の閲覧謄写人氏名欄に,原審弁護人以外の者の氏名を記載していることが明らかであるから,原審弁護人が刑訴規則31条所定の許可申請をしたと解するほかなく,原審裁判所がその謄写を制限した部分は,被害者特定事項の秘匿申出通知3通のうち,被害者Aの連絡先,同B及び同Cの保護者氏名及びその連絡先の記載部分のみに止まる上,原審弁護人において,既に被害者Aとの示談交渉を始め,同B及び同Cの各母の氏名及び携帯電話番号を把握していたという事実に照らせば,原審裁判所の上記謄写制限が合理的裁量を逸脱したとは認められず,結局,これをもって訴訟手続の法令違反になるとは認められない。
 所論は,上記謄写制限がなければ,被害者A及び同Cに対し早期の慰謝の措置が可能であった旨主張しており,上記裁量を逸脱した旨の主張とも解される。しかし,被害者特定事項の秘匿の申出があらかじめ検察官に対してされた場合の,検察官から裁判所に対する通知について,刑訴規則196条の2において,やむを得ない事情があるときを除き書面によることとされている趣旨が手続を明確にする点にある上,同書面の記載事項については,法令上規定がなく,上記趣旨にかんがみ,刑訴法290条の2第1項所定の申出人から被害者特定事項の秘匿の申出があった旨記載されていれば足り,その余の記載は,その後の申出人に対する通知などの便宜のためになされるものにすぎないと解されるのであり,その記載された事項について被告人の防御の観点から弁護人に開示されることが法律上当然に予定されているわけではないのであるから,所論主張の利益は事実上のものというべきであって,上記裁量の逸脱を基礎付ける事情とは認められない。
(2)前記控訴理由第4について
ア まず,検察官は,現行法上,広範な訴追裁量権を有しており,立証の難易等諸般の事情を考慮して訴因を設定することができるのであるから,公訴提起に当たり設定した訴因中にたまたま告訴の得られていない親告罪に該当する事実の全部又は一部が含まれている場合であっても,検察官において,殊更に親告罪の趣旨を没却する意図を有するなどの特段の事情があるときに限り,同公訴提起が上記裁量を逸脱したものと解する余地があるに止まるというべきである。
 そして,強制わいせつ罪が個人の性的自由を保護法益とするのに対し,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号に該当する罪(以下「3項製造罪」という。)は,当該児童の人格権を第一次的な保護法益としつつ,抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,両者が一致するものではない。しかも,原判示各事実は,前記のとおり,原判示第1及び第2の各事実については,各被害者に児童ポルノ法2条3項3号所定の姿態をとらせるに際し,脅迫又は暴行によった旨認定していないし,上記各事実と同旨の各公訴事実も同様に脅迫又は暴行によった旨訴因として掲げていない上,原判示各事実及びこれらと同旨の各公訴事実についても,それぞれ,各被害者をして撮影させた画像データを被告人の使用するパーソナルコンピューターに送信させてこれらを受信し,さらに,上記コンピューターに内蔵されたハードディスクに記録して蔵置した各行為を含んでいるところ,上記各行為はいずれも3項製造罪の実行行為(原判示第3の事実については強要罪の実行行為の一部でもある。)であって,強制わいせつ罪の構成要件該当事実には含まれない事実である。
 したがって,被害児童の告訴の有無にかかわらず,3項製造罪で訴因を設定することが,検察官が殊更に親告罪の趣旨を没却する意図を有することの徴表と見る余地はないし,その訴因中に告訴の得られていない強制わいせつ罪に該当する事実の全部又は一部が含まれているとしても,それだけで検察官に上記意図があるとも解されない。また,原判示第3の事実と同様の訴因について,強要罪の訴因中に告訴の得られていない強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実が含まれている(このことは後記第3において後述する。)点についても,「人に義務のないことを行わせ」たとの構成要件に該当する事実は,3項製造罪の構成要件に該当する事実でもあって,実質的には,3項製造罪による訴因に,人に義務のないことを行わせる手段としての脅迫行為が加わったにすぎないのであるから,そのことをもって検察官が上記意図を有することの徴表と解することはできない。
 そうすると,原判示各事実と同旨の各公訴事実による起訴は,そもそも実質的に強制わいせつ罪を起訴したものとはいえず,検察官の訴追裁量を適正に行使したものと認められる。
イ したがって,上記各起訴に対し,原判決が実体判断をしたことが訴訟手続の法令違反であるとは認められない。
(3)その他,所論が縷々主張する点を逐一検討しても,原審の訴訟手続に法令違反があるとは認められず,論旨は理由がない。
第3 法令適用の誤りの控訴趣意について
1 論旨は,次のとおりである。
(1)原判決は,前記のとおり,原判示第3の事実を認定判示した上,同事実について,児童ポルノ製造の点が3項製造罪に,強要の点が刑法223条1項にそれぞれ該当し,両者は観念的競合であるとして科刑上一罪の処理をするに当たり,上記児童ポルノ製造罪の刑で処断することとし,刑種の選択をしなかった。
(2)しかしながら,原判決には,次のとおり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。
ア 原判示第3の事実及びこれと同旨の訴因に掲げられた公訴事実は,それだけでも強制わいせつ罪に該当するから,法条競合により強要罪は成立しない(控訴理由第3)。
イ 仮に,強要罪と3項製造罪が成立するとしても,強要罪と3項製造罪は牽連犯ないし混合的包括一罪となる(控訴理由第5)。
ウ 強要罪と3項製造罪の法定刑を比較すると,強要罪の方が刑が重く,そうでなくとも犯情が重いから強要罪の刑で処断すべきであり,また,3項製造罪の刑で処断するとするのであれば刑種の選択をすべきである(控訴理由第2)。
2 そこで,原審記録を調査し検討する。
(1)前記控訴理由第3について
 そもそも訴因制度を採用した現行法の下では,裁判所としては,訴因の制約の下において,訴因に表れた事実について犯罪の成否を判断すれば足り,これにより実体的真実との乖離が甚だしく,これを放置することが正義感情に反すると思われる特段の事情のある場合に,釈明,訴因変更の勧告,訴因変更命令等の措置を取るべきは別として,そのような例外的な場合に該当しない限り,訴因外の事実をも(罪となるべき事実)として認定し別罪の成否を審理・判断する義務はないというべきである(最高裁判所昭和58年(あ)第909号同59年1月27日第1小法廷決定・刑集38巻1号136頁参照)。
 ところで,原判示第3の事実は,被告人が,当時16歳の被害者Aを脅迫し,同人に乳房及び陰部を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させたなどの,強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実を包含しているが,強制わいせつ罪の成立には犯人が性的意図を有していることが必要であるところ,原判示第3の事実に,被告人が上記性的意図を有している事実が明示されてはいない。
 また,原判示第3の事実にかかる起訴状には,原判示第3の事実と同旨の公訴事実が記載され,その罰条として,3項製造罪のほか,「強要 刑法223条」と記載されているのみであるから,検察官において,上記性的意図を有していることも含めて訴因を設定する意思があったとは認められず,原判決が,被告人が上記性的意図を有していることも含めた訴因であることを前提に原判示第3の事実を認定したとも認められない。なお,所論は,原判決が上記性的意図を認定している旨も指摘するが,原判決は,(量刑の理由)欄において被告人に性的欲望を満たすためという動機があった旨説示しているにすぎず,(罪となるべき事実)として性的意図の存在を認定したものではないから,原判決の上記説示が上記結論を左右するものではない。
 そうすると,原判示第3の事実だけでも強制わいせつ罪が成立するとは解されず,所論は前提を欠いており,原判示第3の事実中,強要の点に刑法223条を適用して強要罪の成立を認めた原判決に法令適用の誤りがあるとは認められない。
 なお,所論は,法条競合という実体法上の問題であるから,訴訟法上の問題は無関係であり,強制わいせつ罪を構成する事実が認定された場合には強要罪は成立しない旨も主張するが,独自の見解といわざるを得ない上,原審記録を精査しても上記特段の事情があるとは認められないから,所論は失当である。所論引用の大審院判例及び高裁判例は,いずれも訴因制度が採用される以前の旧法下の事案であるか,訴因として恐喝未遂罪と強要罪が設定されている事案又は強要罪として掲げられた訴因中に恐喝罪若しくは逮捕罪に該当する事実がすべて掲げられている事案であって,本件はその射程外の事案である。
(2)前記控訴理由第5,第2について
 原判決が,原判示第3の事実を認定判示した上,児童ポルノ製造の点が3項製造罪に該当し,強要の点が強要罪に該当するが観念的競合であるとして科刑上一罪の処理をするに当たり,犯情の重い3項製造罪の刑で処断する適条をしたことは所論が指摘するとおりである。
 そこで検討するに,強要罪は,脅迫し又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせる行為をしたことを構成要件とし,3項製造罪は,児童に児童ポルノ法2条3項3号に掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録にかかる記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童にかかる児童ポルノを製造したことを構成要件とするものであって,被害児童に衣服の全部又は一部を着けない姿態をとらせて撮影し,その画像データを送信させてハードディスクに記録して蔵置することをもって児童ポルノを製造した場合に,強要罪に該当する行為と3項製造罪に該当する行為とは,一部重なる点があるものの,3項製造罪において,上記のとおり姿態をとらせる際,脅迫又は暴行によることが要件となるものとは解されず,また,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるので,両罪は,観念的競合の関係にはなく,また,上記説示に照らせば,両罪は,通常手段結果の関係にあるともいえないから,牽連犯の関係にもないというべきである。
 また,強要罪は個人の行動の自由を保護法益とし,3項製造罪は,当該児童の人格権とともに抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,保護法益の一個性ないし同一性も認められないことをも考慮すれば,両罪は,混合的包括一罪ともいえず,最高裁判所平成19年(あ)第619号同21年10月21日第1小法廷決定・刑集63巻8号1070頁の趣旨に徴し,刑法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。
 そうすると,控訴理由第2の点について判断するまでもなく,両罪を観念的競合として処断刑を導いた原判決には法令適用の誤りがあるといわざるを得ない。
 しかし,正しい法令を適用して得られる処断刑のうち,懲役刑の範囲は同一であり,被害者Aにかかる3項製造罪について罰金刑を選択した場合にのみ,300万円以下の罰金を併科した処断刑が導かれることとなるが,被害者Aにかかる3項製造罪の犯情に照らすと,上記選択がなされるとは考え難く,結局,異なった量刑になる蓋然性があるとはいえず,上記法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすものとは認められない。
 したがって,原判決の適条について,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとは認められない。
(3)その他,所論が縷々主張する点を逐一検討しても,原判決に,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとは認められず,論旨は理由がない。
第4 量刑不当の控訴趣意について
 論旨は,要するに,被告人を懲役2年6月,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,さらに減軽するべきであるというのである。
 そこで,原審記録を調査し検討すると,本件は,前記のとおりの事案であるが,被告人は,インターネット上のチャット等の匿名性を利用し,被告人とチャット等で通信してくる不特定多数の女性を狙い,実際に被告人と通信してきた被害児童らの未熟さにつけ込み,卑猥な姿態等の写真を撮影させメールで被告人宛に送らせるなどしたもので,殊に被害者Aにかかる事実については,言葉巧みに被害児童に脅迫文言を申し向けて,上記写真撮影やメールによる送付を行わせており,いずれも計画性が高く狡猾かつ卑劣な犯行である。被害児童らは,本件各犯行により困惑させられ,多大な嫌悪感や不安感に苛まれ,精神的苦痛を味わわされた。被害児童らはもとよりその保護者も含め厳しい処罰感情を示すのも当然である。しかも,被告人は,同種行為を多数回繰り返していることが認められ,常習性もうかがわれる。もとより性的欲求を満たすためという理由は身勝手であるし,被告人が過去に女性から受けた仕打ちに起因する女性一般に対する怨恨の情に基づくものであるとしても,いわば逆恨みというほかなく,動機に酌むべき点はない。これらの諸事情に照らすと,本件の犯情は悪質であり,被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。
 そうすると,被告人が事実をいずれも認め,反省の態度を示していること,被害児童の1名に対し50万円を支払っていること(なお,前記のとおり,原審裁判所の前記謄写制限が慰謝の措置の妨げになったという事実は何ら認められない。),これまで前科はないこと,本件により家宅捜索を受けたのを契機として勤務先を退職したこと,母が被告人を監督する旨述べていること,その他所論が指摘する被告人のために斟酌し得る事情を十分考慮しても,被告人を懲役2年6月に処し,3年間の執行猶予を付した原判決の量刑は,刑期及び執行猶予期間のいずれにおいてもやむを得ないものであり,これが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
第5 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成22年12月15日
広島高等裁判所岡山支部第1部
裁判長裁判官 山嵜和信 裁判官 佐々木亘 裁判官 石田寿一

書 誌》
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【文献番号】 25545074
【文献種別】 判決/東京高等裁判所控訴審
【裁判年月日】 平成28年 2月19日
【事件番号】 平成27年(う)第1766号
【事件名】 強要、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事案の概要】 強要、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の控訴審において、弁護人の控訴趣意は、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り及び量刑不当の主張であるところ、原判決の認定した事実には、被害者に対し、その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ、同女をして、その乳房、性器等を撮影させるという、強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの、その成立に必要な性的意図は含まれておらず、さらに、撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという、それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており、強要罪に該当する事実とみるほかないものであるなどとして、法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張を失当とするなどとして、控訴を棄却した事例。
【判示事項】 〔東京高等裁判所(刑事)判決時報
強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
判例タイムズ判例タイムズ社)〕
強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 上告(後棄却)
【裁判官】 藤井敏明 福士利博 山田裕文
【掲載文献】 判例タイムズ1432号134頁
東京高等裁判所(刑事)判決時報67巻1~12号1頁
【参照法令】 刑法45条前段
刑法54条
刑法223条
児童買春法7条(平成26年法律9号改正前)
【備考】 第一審 平成27年8月25日新潟地方裁判所高田支部判決平成27年(わ)第35号
【全文容量】 約7Kバイト(A4印刷:約4枚)
文献番号】25545074

強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
東京高等裁判所平成27年(う)第1766号
平成28年2月19日第5刑事部判決


       主   文

本件控訴を棄却する。


       理   由

 弁護人奥村徹の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り及び量刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,というものである。
1 法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それだけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもかかわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わいせつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであるのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものであると解される。
(1)強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,〔1〕被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,〔2〕原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,〔3〕被害者をして撮影させた乳房、性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,〔1〕については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。 
 また,〔2〕については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,〔3〕については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
(2)公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
(3)小括
 以上の次第で,法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反をいう論旨には,理由がない。
2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
3 量刑不当の主張について
 論旨は,被告人を懲役2年,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,執行猶予を付した罰金刑か,より軽い懲役刑(執行猶予付き)とされるべきである,というのである。
 そこで検討すると,本件は,前示のとおりの強要罪,3項製造罪の事案であるが,原判決は,未成熟な被害者を利用した犯行動機に特段の酌量の余地がないこと,製造に係る児童ポルノ画像数が11点と多いこと,脅迫の手口が卑劣で悪質なことなどを指摘し,一方で,被告人に前科がなく,反省の弁を述べていることなどの有利な事情をも踏まえて,前示の刑を量定したものである。
 原判決の上記量刑判断は,当裁判所も相当として支持することができる。
 弁護人は,強烈な脅迫文言はないこと,被害者1名に対する1回の事案であること,被告人が原判決後に反省を深めたことなどを考慮すべきである旨主張するが,これらは原判決が前提としているか,原判決の量刑を左右しないものである。
 また,弁護人は,類似事例の量刑を指摘して原判決の量刑を論難するが,個別事情が様々な事案を指摘するもので本件に不適切である。
 量刑不当をいう論旨は,理由がない。
4 結論
 よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井敏明 裁判官 福士利博 裁判官 山田裕文)

《書 誌》
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【文献番号】 25593923
【文献種別】 判決/大阪高等裁判所控訴審
【裁判年月日】 令和 3年 7月14日
【事件番号】 令和3年(う)第287号
【事件名】 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事案の概要】 被告人が、被害者が13歳未満であることを知りながら、〔1〕遠隔地にいた同人に対し、ダイレクトメッセージ機能を使用して、その陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、被害者にそのような姿態をとらせていわゆる自撮りをさせた上、〔2〕その画像データをダイレクトメッセージ機能を使用して被告人のスマートフォンに送信させて、アプリケーションソフト運営法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させたという事案の控訴審において、刑法176条の「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、当該行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当であるとして、強制わいせつ罪の成立を認め、被告人の控訴を棄却した事例。
【判示事項】 〔高等裁判所刑事裁判速報集〕
被告人が、アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、その裸体をいわゆる自撮りした画像を被告人に送信するよう要求し、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせ、自撮りさせた行為(以下「本件行為」という。)の「わいせつな行為」(刑法176条)該当性が争われた事案について(なお、被害者は自撮り後、引き続き、被告人に画像を送信し被告人に閲覧させているが、送信・閲覧行為は強制わいせつ罪として起訴されていない。)、平成29年11月29日最高裁大法廷判決の判断基準を適用し、本件は行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの、一定の性的性質を備えていて、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであることに加え、本件行為の行われた際の具体的状況等をも考慮すると、性的な意味合いが相当強いものといえるから、「わいせつな行為」に当たるとして、強制わいせつ罪の成立を認めた事例
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 確定
【掲載文献】 高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号403頁
【参照法令】 刑法176条
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所大法廷 平成28年(あ)第1731号
平成29年11月29日
【全文容量】 約7Kバイト(A4印刷:約5枚)

【文献番号】25593923

強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
大阪高等裁判所令和3年(う)第287号
令和3年7月14日第6刑事部判決

TKC編注:当文献は,高等裁判所刑事裁判速報集からの収録となります。正本からの収録ではございません。)

控訴申立人 被告人

       判 決 要 旨

第1 事案の概要
1 罪となるべき事実(要旨)
 被告人は、被害者が13歳未満であることを知りながら、〔1〕遠隔地にいた同人に対し、ダイレクトメッセージ機能を使用して、その陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、その頃、被害者にそのような姿態をとらせていわゆる自撮りをさせた上、〔2〕その画像データをダイレクトメッセージ機能を使用して被告人のスマートフォンに送信させて、アプリケーションソフト運営法人が管理するサーバコンピュータ内に記憶・蔵置させた。
2 訴訟経過
 検察官は、〔1〕行為(本件行為)を強制わいせつ罪、〔1〕及び〔2〕行為を児童ポルノ製造罪として、別個の訴因で(併合罪として)起訴した。
 弁護人は、本件行為につき、被害者に裸体を自撮りさせただけでは,遠隔地にいる被告人が見ることはできず、性的侵襲は弱いので、「わいせつな行為」に該当しないか、該当するとしても強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる旨主張したが、原判決は、本件行為につき強制わいせつ罪の成立を認め、罪数につき、児童ポルノ製造罪と観念的競合の関係にあると判断した。
 これに対し、被告人が控訴し、原審同様強制わいせつ罪の成立を争ったが、控訴審判決はこれを排斥し、控訴を棄却した。 
第2 控訴審判示
1 刑法176条の「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、当該行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当である(最大判平29・11・29・刑集71巻9号467ページ参照。)。
2 これを踏まえて検討すると、本件行為は、当時9歳の女子児童である被害者に対してその陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、被害者にそのような姿態をとらせてそれを撮影させたというものであり、撮影させた部位のうち、陰部(性器自体は写っていないものの、その周辺部である。)は性的要素が強く、乳房も性を象徴する典型的な部位である。また、衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は、裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって、単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし、続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も、自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を、さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり、それによって性的侵害性が強まるといえるから、「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる。
 本件では、被告人は遠隔地から被害者に指示しているから、直接被害者の姿態を目にしていないという点で、面前で行う場合と比べて被害者の性的自由を侵害する程度が小さいとはいえるものの、被害者に陰部等を露出した姿態をとらせ、これを撮影させた行為は、被害者に一定の性的行為を行わせ、かつ、その内容を第三者が知り得る状態に置く行為であり、被害者の身体を性的に利用する行為といえる。本件は、行為そのものから直ちに「わいせつな行為」とまで評価できないものの、一定の性的性質を備えていて、「わいせつな行為」に当たり得るものというべきである。なお、本件行為には被害者に撮影させた画像データを被告人に送信させたことや被告人が受信した画像データを閲覧したことは含まれていないが、被害者に陰部等を露出させた姿態をとらせてそれを撮影させたことによって、被告人を含む他人がその画像を見ることがあり得る状態に置かれており、性的侵害性は大きいといえるし、被告人は被害者に対して撮影した画像データを被告人に送信することも要求して撮影させており、被害者がこの要求に従って画像データを送信して被告人がこれを見ることになる具体的な危険性も認められるから、撮影させた画像データを被告人に送信させたこと等が含まれていないことが、「わいせつな行為」該当性を否定する事情とはならない。
3 さらに、本件の具体的状況等についてみると、被告人は当時53歳の中年男性、被害者は当時9歳(小学3年生)であり、動画配信アプリケーションを通じて知合い、ダイレクトメッセージ機能を使用してやり取りをしていた関係にすぎず、直接の面識はなく、本件行為は、被告人と被害者が性行為をしているかのようなメッセージのやり取りをしている状況においてなされたものである(例えば、被告人は、被害者に対し、陰部等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に、「マンジル、白いの出てくるからね」「おちんちんを、なめてごらん」「ぬれたおちんちんをまんこにこするね」というメッセージを、乳房等を露出した姿態の画像データを送信させた直後に「もみながらなめるね」「おちんちんもこすってるぞ」といったメッセージを送信している。)。また、被告人にはかねてから年少の女児を対象とする性的嗜好があった。このような本件行為が行われた際の具体的状況等をも考慮すると、本件行為は性的な意味合いが相当強いものといえるから、「わいせつな行為」に当たるといえる。
4 原判決は、被害者への身体的接触がなく、被告人が撮影時に被害者にとらせた姿態を見ていないという本件行為の特徴を指摘して本件行為そのものが持つ性的性質は不明確であるともいえるとした上で、撮影の対象となった部位が性を象徴する典型的な部位等であること、被告人と被害者の関係性や各属性、本件に至る経緯や本件の前後に被告人が送信したメッセージの内容、被告人が自己の性欲を満たす目的を有していたことなどを考慮すると、撮影時に被告人が被害者の姿態を見ていなかったことを踏まえても、本件行為の性的な意味合いの程度は相当に強いといえるから、「わいせつな行為」に当たると判断した。原判決は、身体的接触がなく、被害者の姿態を直接見ていない本件行為に「わいせつな行為」該当性を認め得るほど強い性的意味合いがあることについて、本件行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度それ自体を判定し、それに着目した説明が十分なされているか疑問があるが、おおむね前述したところと同趣旨の判断をしているものと解され、その結論に誤りはない。
参考事項
1 前記最高裁判決で示された判断基準を、本件のような非接触型・非対面型わいせつ事案に当てはめて強制わいせつ罪の成立を認めた高裁判決はまれであり、その詳細な理由付けを含め、先例としての価値は大きい。
2 前記最高裁判決が「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分踏まえる」としたことの趣旨につき、同判例解説(214ページ)では、次のような判断の順序を示したものと説明されている。すなわち、
(1)行為そのものに、性的性質が有り、かつ、その性的性質の程度が強いために、直ちに「わいせつな行為」に該当すると判断できる行為か
(2)行為そのものに備わる性的性質が無いか、あっても極めて希薄であるために、およそ刑法176条による非難に値する程度に達しえないものとして、直ちに「わいせつな行為」に該当しないと判断できる行為か
をまず判断し、次に、
(3)行為そのものが持つ性的性質が不明確であるために、行為の外形だけでは「わいせつな行為」該当性の判断がつかない類型においては、行為そのものが持つ性的性質の程度を踏まえた上で、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮する
というものである。
 また、前記最高裁判決のいう「当該行為が行われた際の具体的状況等」として考慮すべき判断要素として、前記判例解説(218ページ以下)では、以下の事情が挙げられている。
(1)行為者と被害者の関係性
(2)行為者及び被害者の各属性等(それぞれの性別・年齢・性的指向・文化的背景〔コミュニケーション手段に関する習慣等〕・宗教的背景等)
(3)行為に及ぶまでの経緯、行為者及び被害者の各言動、行為が行われた時間、場所、周囲の状況等
(4)行為に及んだ目的を含む行為者の主観的事情(外部的徴表として現れているもの)
 本控訴審判決は、同判例解説と同様の視点で当てはめがなされている。
3 訴因には「わいせつな行為」の概略しか記載しないが、行為の行われた具体的状況等をも加味して「わいせつな行為」該当性を評価すべき事案においては、「わいせつな行為」であることを基礎づける具体的事実を冒頭陳述で指摘する必要があるとともに、論告で、その具体的事実の評価について丁寧に論じる必要がある(前記判例解説226ページ参照)。
1 非接触型のわいせつ行為(例えば、脅迫により畏怖した被害者に自慰行為をさせて自撮りさせ、その画像を遠隔地にいる被告人に送信させる事案)を強要罪で起訴する例が見られることについて、(被告人に画像を送信しなくても)強制わいせつ罪が成立するのではないかとの指摘がなされていた(橋爪隆「非接触型のわいせつ行為について」研修860号)が、本件はこれを肯定した高裁判決として参考になる。

マッサージ師が施術として乳房や陰部ないしその付近を触った行為が正当な施術行為であった可能性が否定できず、「わいせつな行為」があったと認めることはできないから、無罪であると判断した事例(松江地裁r5.1.25)

裁判年月日 令和 5年 1月25日 裁判所名 松江地裁 
事件番号 令3(わ)81号
 上記の者に対する準強制わいせつ被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤壇及び弁護人丸山創(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。 
 

主文

 被告人は無罪。
 
 
理由

第1 公訴事実の概要並びに争点及び判断の骨子等について
 1 公訴事実の概要
 被告人は、松江市〈以下省略〉において「a整骨院」(以下「本件整骨院」という。)の名称でマッサージ業等を営んでいたものであるが、施術を装って女性客にわいせつな行為をしようと考え、令和3年5月6日、同所において、別紙記載の女性客(以下「A」という。)に対し、Aが抗拒不能の状態にあることに乗じ、施術用のベッドにうつ伏せに横たわっていたAのショーツの中に手指を差し入れてその陰部を触り、さらに、同ベッドに横向きに横たわっていたAのブラトップの中に手指を差し入れてその乳房を触るなどし、もってわいせつな行為をしたものである。
 2 争点及び判断の骨子
 本件においては、被告人が、判示の日時頃に、本件整骨院において、Aに対し施術をしたことは証拠上も明らかであるが、被告人は、Aの陰部付近及び乳房に触れたことについては認めているものの、あくまで施術の過程で意図せずに触れたものである旨供述し、これに沿って、弁護人は、被告人のしたマッサージ(厳密には「マッサージ」の範ちゅうに属さない施術もあるようだが、本判決では便宜上そのようにいう。)は、「わいせつな行為」(刑法178条1項)には該当しない、あるいは、被告人には故意がない、正当業務行為(刑法35条)であるなどと主張する。そこで、当裁判所は、検察官請求に係る証人としてAを2度にわたって取り調べた他(以下、「A供述」というときはその2回を併せたものを指す。)、あん摩マッサージ指圧等の専門家証人2名を取り調べたのに加え、弁護人請求に係る、本件時のマッサージの状況の被告人による再現動画や、本件整骨院で被告人による施術を受けていた別の女性客(以下「B」という。氏名は別紙のとおり。)を取り調べ、併せて数次にわたる被告人質問を実施するなどした。これらの審理の結果、当裁判所は、乳房や陰部ないしその付近を触られたなどとするAの公判供述は基本的に信用できるが、A供述を前提としても、被告人によるAに対する一連の行為は正当な施術行為であった可能性が否定できず、「わいせつな行為」があったと認めることはできないから、被告人は無罪であると判断した。
第2 当裁判所の判断
 1 前提事実
 関係各証拠によれば、次の事実を認定することができる。
  (1) 被告人の経歴等(甲13、14、乙1)
 被告人は、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師及び柔道整復師の資格を取得し、長年にわたってマッサージ業に従事していたものであり、平成26年10月に本件整骨院を開設して経営すると共に、自ら客らに施術をしていた。
  (2) Aの通院歴等(甲3、A供述)
 Aは、令和元年8月後半頃から、右側の座骨と恥骨の境目付近が痛むようになり、医院や整骨院を受診するなどしたが症状が改善しなかったため、令和元年12月20日から、知人の紹介で本件整骨院に通うようになった。Aは、本件整骨院に通うようになってからその痛みが改善し、被告人の腕が良いと感じていたこともあって、新型コロナウイルスの流行による影響で一時通院を中断した時期があったものの、令和3年2月25日から通院を再開し(以下、年の記載のない日付はいずれも令和3年のものである。)、本件(5月6日)後の5月12日まで継続的に通っていた。上記中断後、最後の通院までの通院頻度は、概ね1週間に1度程度であった。
  (3) 本件整骨院における施術時の状況等(甲7、12)
 本件整骨院では、施術を受ける者は専用の施術着に着替えることになっていた。施術着は、上衣はノースリーブ、下衣は半ズボンであり、上衣の前面には乳房の下辺りまで下げることができるファスナーがついており、背面はマジックテープで閉じる仕様となっていた。下衣の左右側面には腰の辺りまで上げることができるファスナーがついていた。
 本件時、Aは、上はブラトップと呼ばれるタンクトップの裏側に乳房を収めるカップのついた下着、下は一般的な下着(ショーツ)を着用し、その上に施術着を着用して専用のベッドの上で施術を受けた。
  (4) 被害届提出に至る経緯等(A供述)
 Aは、本件当日(5月6日)も通院したが、以前から、被告人による施術の過程で、陰部や乳房を触られることがあったと感じ不審に思っていたところ、本件当日の施術中にも陰部や乳房を触られたと感じ、自身、性的な被害に遭っているのではないかと考え始めた。そうした中、Aは、5月9日、性暴力に関する新聞記事を見て自身が受けている施術に疑問を深め、インターネットで「整体 性被害」と検索して調べるなどした結果、被告人による施術はわいせつ行為であったとの疑いを強め、5月10日に被告人にLINEでメッセージを送り、「プライベートゾーン」への施術はやめて欲しい旨を伝え、被告人がこれを了承した。そして、5月12日にも被告人による施術を受けたが、その際は性器等への接触はなかったものの、普段は50分ないし1時間の施術がその半分くらいの時間で終わってしまい、今までの施術は何だったのかという思いになった。そして、5月17日、県の性暴力被害者支援センター(以下、単に「センター」という。)に電話相談したところ、警察への相談を提案され、5月19日以降、警察へ相談し、被害届を提出するに至った。
 2 本件施術内容の認定
  (1) 当事者の主張の概要
   ア A供述の概要
 Aの当公判廷における2回にわたる供述の概要は次のようなものである。すなわち、被告人は、専用ベッドでうつ伏せに寝かせられていたAの左側に立ち、左手でAの股関節の外側を指圧しながら、右手の親指以外の先端を、ショーツの股部分からショーツの中に入れて、股関節の外側を左手で指圧する動きと同じリズムで、陰核、小陰唇、膣の入口、肛門の辺りなどを指先で突くような感じで直接触ってきた。閉じている小陰唇をこじ開けるように、ひだの間に指を入れて押し広げる感じでも触られ、膣に指を入れるように(実際には入っていない。)、膣の入口を突く前後の動きも感じた。これらの行為は約1分間にわたって行われた。被告人は、同様に、Aの反対側に立って、反対側の股関節の外側を右手で指圧する際にも、左手の親指以外の指の先端を使って、Aの陰部を突くように直接触ってきた(以下、かかる一連の行為を「行為①」と呼ぶことがある。)。
 被告人は、次に、Aを施術室のベッドに体の右側を下にして横向きで寝かせた際、手で直接左の乳房を触ってきた。その際、被告人は、右手をAの背中辺りに当て、左手の平をブラトップの裾からカップの中に入れAの左の乳房にべったりと触れた状態で、左手の指で肋骨や肋間を下から上に押すように約1分間触ってきた。被告人の手の平と指の腹はAの乳首にも当たっていた。被告人は、Aが体の左側を下にして横向きに寝た状態の際にも、同様に、Aの右の乳房や乳首を直接触ってきた(以下、かかる一連の行為を「行為②」と呼ぶことがある。)。
 その後、被告人は、Aをベッドの上に仰向けに寝かせ、ショーツのウエスト部分から中に手を入れ、腹部の子宮や陰毛の辺りを直接触ってきたし(以下、かかる一連の行為を「行為③」と呼ぶことがある。)、更にその後、Aをベッドの上に仰向けで寝かせ、腹部にバイターと呼ぶ電動マッサージ器を当ててきたが、同マッサージ器を、鼠径部や陰核の辺りにも当ててきた(以下、かかる一連の行為を「行為④」と呼ぶことがある。)。
   イ 被告人の供述の概要
 被告人は、上記行為①ないし④について、これらと対応すると思われる施術内容について、概ね次のとおり供述しており、これは被告人がAとは別の女性をモデルにして本件施術の流れを再現した動画(弁1、2)とも合致するものである。すなわち、行為①について、被告人は、Aの左側に立ち、左手でAの左側の腰の痛い部分を触り、痛みがある箇所を確認しつつ、右手で痛みの反応点を探していた。その際、反応点がある筋肉に触れて引っかけて、手前に1回引いて戻すように、Aの仙骨、尾骨、座骨の辺りで中指と薬指を動かしていた。右手はショーツの中に入っているので、一瞬、陰核や膣の入口、肛門の辺りなどに触れることがあるが、どの指が触れたのかは覚えていない。小陰唇のひだの間に指をこじ開けて入れるような動きはしていないと思う。Aの右側に立った際に左手で反応点を探すこともしたが、左手がAの陰部に触れたかは覚えていない。
 行為②について、被告人は、まず、Aの体の右側を下にして、次に左側を下にして、それぞれ横向きに寝かせ、ブラトップの裾から手を差し入れて手のひらを密着させる感じで肋骨や肋間を揺らすように触った。乳房や乳首に手が触れたかについてははっきりと覚えていないが、ブラトップのカップ内まで手を入れる必要はないため、触っていないと思っている。
 行為③について、被告人は、Aの腹部を全体的に触って、内臓の状態、腹部の硬さ、便の詰まりの有無などを確認し、行為④について、被告人は、バイターと呼ばれるマッサージ器を、腹部や足等に当てた。
  (2) 信用性の判断
 Aと被告人の供述内容は、性器や乳房への接触の程度等については異なるものの、これらに接触した(少なくともその可能性がある)ことや、その時間が、1時間程の一連の施術の中での比較的短い時間(A供述によっても数分程度)であったという限度では両者は一致している(以下、この接触を「本件接触行為」という。)。また、施術の流れや個々の施術の態様についても、両者に大きな食い違いはない。すなわち、行為①について、Aは被告人の手の動きについて陰部やその周辺を突くような感じであったと供述するが、被告人は、中指と薬指で反応点がある筋肉に触れて引っかけて、手前に1回引いて戻すというものであったと供述しており、表現の仕方は違うものの、手の動きに関する供述は概ね一致しているといえるし、行為②については、乳房付近を触っていた時間や乳首を触ったかといった点以外は両者の供述に大きな差異はなく、行為③④についても、手や機械の動かし方についての両者の供述は概ね一致しているといえる。Aと被告人で供述に食い違いがあるのは、主に、被告人が、Aの小陰唇のひだの間に指を入れて押し広げるように触れたり、膣に指を入れるようにしてその入口を突くように前後に動かしたりし、これらの行為を約1分間にわたって続けていたとか(行為①)、左右交互に、手の平をAのブラトップの裾からカップの中に入れ、Aの乳房にべったりと触れた状態で、左手の指で肋骨や肋間を下から上に押すように約1分間触った(行為②)などとする、触れた箇所やその際の時間といった点であり、これらの点についてA供述のみに依拠してそのような事実を認定できるのか、A供述にそこまでの高度の信用性を認め得るのかについて検討する必要がある。
   ア 供述の信用性を肯定する方向に作用する事情
 本件に現れたすべての事情を精査しても、Aが被告人を陥れるような動機は全く見当たらないし、当公判廷においても、羞恥心に耐え、口にするのが憚られるような自身にとって不名誉な供述をしている。Aがあえて嘘の供述をしていると疑うべき事情は一切認められない。
 また、Aは、本件整骨院で受けた施術の内容を、スマートフォンのメモ機能を使って日付毎に分けて記録していたところ(甲18)、一般論として、こういったメモが、実際に経験した日と近接した日に作成されていれば、こういったメモの存在自体が供述の信用性を高める事情といえよう。そこで、その記録の本件当日(5月6日)の欄をみると、「そこに指入れられるのはどうしてもイヤだ」とか「下のプライベートゾーンはイヤだ」、あるいは「胸もガッツリ触られる」といった、大筋でAの公判供述に沿う記載がなされている(なお、このメモの記載には後述のような問題点もある。)。
 この記載自体はやや抽象的であり、「そこに指入れられる」とは、例えばショーツの中に指を入れられる、という意味とも取れるし、触れる態様や触られた時間等についても記載されていないから、その記載から直ちにAの公判供述どおりの本件接触行為があったことがすべて裏付けられているとまではいえないものの、大筋でA供述を支えるものといえる。
   イ 供述の信用性に疑問を生じさせる方向に作用する事情
 A供述によると、Aは、特に通院を再開した2月25日以降、しばしば陰部や乳房を触られ、被告人にこれらの部位に触れられることには抵抗があると言ったがやめてもらえなかったというのである。Aが、複数回にわたり、陰部や乳房を触られる施術に対し、不快感や恥辱感を抱いていたことは前記のメモ(甲18)によっても一部裏付けられており、そのこと自体には疑いはない。
 ところで、Aが本件整骨院に行き始め、通院を続けるにつれて被告人の行為がだんだんとエスカレートしてきたとか、本件当日に陰部等に触る程度が特別に著しいものであったとはA自身も述べていない。そうすると、Aの述べるような本件接触行為と同等の性器等への接触が本件以前にも繰り返されていたことになる。しかし、Aが、本件整骨院への通院を辞め、別のマッサージ師等を探すことはいつでも可能であり、それを妨げる事情があったとはうかがわれない。Aは当時60歳に近い年齢で、能力的に問題があるとはうかがわれず、週に1回ほど本件整骨院に通っていたにすぎないし、本件整骨院への通院を辞めないよう、被告人から何らかの精神的な支配を受けていたといった事情は一切うかがわない(監護者性交等の事案などでは、被害者が加害者から何らかの精神的支配を受け、心理的に他に助けを求めることができなかったケースも少なからずみられるが、本件では全く事情が異なる。)。にもかかわらず、Aは通院を再開した2月25日から週に1回程度、殊に本件があった翌週の5月12日にも本件整骨院への通院を続けているのである。Aが述べるような本件接触の態様、特に小陰唇のひだの間に指を入れて押し広げるように触れられていたなどとする接触は、相当強度のものといえるが、こういった接触をされ続けながら、自身が性被害を受けているのかどうかも判断がつかないまま、我慢して被告人の施術を受け続けていた、というのは違和感を拭い去れない。結局、被告人による性器等への接触は、Aが、不快感、恥辱感を我慢してでも本件整骨院への通院を継続して良いと感じる程度のものであったといわざるを得ず、実際にAが受けていた接触は、Aが述べるものよりも軽度のものであったと考えなければ、通院を続けていた理由を合理的に説明することができない可能性がある。
 また、本件を警察に申告した経緯については上記認定のとおりであるが、自身が性被害を受けているのかどうか、判断がつかない状態で、性被害に関する新聞記事を見て意を決して公的機関に相談し、その勧めで警察に申告するに至ったという経緯自体は、(本件接触行為の程度がA自身の述べるほどの強度のものでないという前提であれば)特段、不自然とは思われない。ただ、本件があったとされる5月6日から、警察に申告した5月19日頃まで2週間ほどの期間があるところ、Aは、センターに相談するまでは被告人を警察に訴えるといった明確な意図があったとは思われず、自身の被害についていわば半信半疑であったところを、センターでそれが性的被害であると賛同され、意を強くして警察に申告したものとうかがわれる。このことは、5月10日に被告人にプライベートゾーンに触れる施術を止めるようメッセージを送り、実際に被告人がそのような施術を止めたのに、同日以前の被害を申告していることからもうかがわれる。また、Aは、センターに相談する前、5月11日に前記のメモ(甲18)に、記載が落ちていた日の分を書き加えたことを自認している。
 Aは、訴える以上、証拠をきちんと整えておかなければならないといった思いを強め、センターでの賛同を得て、被告人が施術にかこつけて陰部や乳房を触っていたとの認識を固め、被告人に対する怒りや嫌悪感を募らせていたことがうかがわれる。さらに、Aは本件までに何度も同様の施術を受け、性器等に接触されたことがあり、センターや警察に相談する前に、それまでの被害を振り返って上記メモ(甲18)の追加記載をしたというのであるから、他の回(例えば、Aにとって印象に残っているであろう最も酷い接触を受けた回等)との記憶の混同を生じている可能性もある。
 そうすると、Aが無意識的にせよ、実際よりも本件接触行為について被告人に不利な方向で記憶の変容等を生じていた可能性が完全には払拭できないから、これらの事情は、A供述の信用性に疑問を生じさせ得る事情といえる。
   ウ まとめ
 以上検討したところからすれば、本件接触行為についてのA供述については、基本的に信用性が認められ、被告人が触ったかどうか覚えていないなどと曖昧に述べている点も含め、性器等に触れる接触があったという限度では十分にそのような事実を認定できる。他方、その供述については、前記で検討したような信用性に疑問を生じさせる事情もないではないし、もとより、触られていたのは約1分間などという時間に関する供述については、A自身、時計を見ていたわけではなく、多分に感覚的なものであって、そのまま鵜呑みにできるものではない。これらの事情をも踏まえて考えると、被告人とAの各供述が概ね一致する行為③④は、そのような事実があったと認定できるが、行為①②については、A供述のみによってAの述べるような激しい接触行為があったと認定することは慎重であるべきであって、一連の施術の中で、わいせつ行為と評価するに足り得る程度の、性器や乳房等に触れる接触があったという限度での事実を認定することが相当である。
 3 「わいせつな行為」該当性について
  (1) 施術内容について
 上記のとおり、Aは座骨と恥骨の境目辺りが痛むなどして本件整骨院に通い始めたというのであるから、陰部やその周辺を施術の対象とすること自体はむしろ当然といえ、不自然なことはない。そして、こういった陰部や乳房の周辺、あるいは性器や乳房に触れるような施術が、一律、法的に禁止されているとは解されず、施術として正当なものであれば、犯罪を構成するとはいえない。
 その施術について、被告人は、行為①については、動かしている手の中指と薬指を經穴も意識しつつ反応点がある筋肉に触れて引っかけて、被告人の手前に1回引いて戻す「腱引き」と呼ばれる技法による施術を行っていた、行為②については、Aの肋骨がとても固く、肋骨の動きを良くするために、「筋膜リリース」という技法によって肋骨をほぐした、肋骨の間には經穴もあり、そこを触る意味もあった、などと述べているところ、「腱引き」、「筋膜リリース」については専門家証人として取り調べたマッサージ学校の教員(証人C)や、自身もあん摩マッサージ等の治療院を開業している島根県鍼灸マッサージ師会の代表理事(証人D)も承知しており、「腱引き」に関する書籍等もあり(弁5等)、「筋膜リリース」はマッサージ師会の代表自らも取り入れているというのであるから、実在の技法であると認められる。そして、被告人がAにした施術がこれらの技法によらないものであると断定できる事情はない。もちろん、こういった技法に則っているからといって、被告人のした施術が直ちにわいせつ行為でないといえるものではないが、その施術が正当なものであることを推知させる一事情とはいい得る。
 また、被告人は、行為③のようにAの陰部や乳房といった性的意味合いの強い部位を、着衣の上からではなく直接、素手で触っているが、被告人は、被施術者の痛みの有無等を確認するためにその必要があったといい、マッサージ学校の教員も、その方がより細かい反応を確認、把握することができると述べているから、これが施術として不自然で、あり得ないなどとはいえない。行為④のバイターによる施術もこれが必要でないとする根拠は見いだせない。そして、これまで検討してきたとおり、本件接触行為は、Aが被告人から施術を受ける中で発生しているものである。その施術にマッサージとしての効果があったことは、A自身、効果があったからこそ我慢して本件整骨院に通っていたと述べており、専門家証人も、2名とも、その施術に効果があること自体は否定していない。
  (2) 施術内容について事前に明示的な了解を取っていなかったことについて
 マッサージ師が、女性の乳房や性器ないしその付近に触れる施術をすることについて、上記専門家証人2名は異口同音にそのような施術はあり得ないとの見解を述べているが、両名とも、マッサージ等の手法はマッサージ師ごとに個人のやり方があることは認めた上、前記のように、被告人の施術について効果があることは否定していない。その各供述全体をみると、証人両名が「あり得ない」というのは、その施術をする際に、被施術者の了解も得ずにすることが問題であるというものと解される。すなわち、陰部や乳房の周辺に対する施術は、性的な意味合いが強く、被施術者である女性に不快感を与えたり、場合によってはわいせつ行為として訴えられる危険性をも有するものであるから、これらの部位の周辺に対する施術に注意を要することは業界内でも周知されており、効果が認められるとしても施術を行わないケースもあるが、あえて施術する場合には、事前に施術の内容やその効果等を十分に説明し、被施術者の了解を取った上で行うべきである、という趣旨であり、本件では、被施術者であるAの了解を得ずに施術したことを問題視するものと思われる。
 確かに、本件において、被告人が、本件起訴に係る施術を行う前に、Aから性器等に接触することにつき、少なくとも明示的に了解を得ていないことは明らかである。上記専門家証人2名のいうとおり、被施術者となる女性の心情への配慮のため、あるいは施術者が訴えられるリスク等を考えるなら、施術をするたびに、事前に、今回の施術では性器等への接触がある旨を説明し、明示的に了解を得ておく(場合によっては同意書のようなものを徴する。)のが妥当であることに疑いはない。こういったことはマッサージ学校の教員が述べるように、マッサージ業界内に止まらず、社会の常識であるといえる。
 しかし、被告人がAにしたマッサージの施術のように、何回も繰り返し同様の施術をする場合に、毎回、そういった説明等をしなければならないというのはやや現実的ではなく、初回に詳しい説明をすれば、2回目、3回目と回を重ねるごとに説明を省略することも許されると考えられ、必ずしも毎回、事前説明の上で明示的な了解を得ていなくとも、事実上、了解を得たとみるべき場合もあり得るといえる。
 こういった観点からみてみると、Aが、内心、性器等に触れられる施術について全く納得していなかったことは明らかであるが、客観的には、必ずしもそのような認定評価が困難な面がある。
 すなわち、Aはこれまでの被告人による施術において、性器等に触れられる施術があった際、被告人に対し、そのような施術が本当に必要なのかと問い質したことがあり、通院再開後の3月5日や3月9日にも施術中にやめてくれと言ったというのであるが、A自身、自分の年齢でそのようなことを言うと自意識過剰と思われるのが嫌であり、言い出しづらかったなどとも述べているから、詰問するような強い口調ではなかったとうかがわれる。このことは、5月10日に、Aから、比較的強い論調で、被告人に対し、そういった施術をやめて欲しいとのメッセージを送った後、5月12日の施術の際には、実際にそういう施術をしなかったこととも合致するところである。
 そして、Aは、そのようなことを言うたびに、被告人から、施術として、その効果を上げるために必要であるなどと言われ、これに反論することもなく、上記5月10日まで、効果がなくてもいいからそういった施術を止めるよう、強く申し入れることもないまま、漫然と本件整骨院へ通い続けていたのである。
 こういった経緯をみると、Aの内心はともかく、客観的には、Aは、施術効果のために、性器等に触れられる施術もしぶしぶながら了解していたとみることは十分に可能であり、少なくとも、被告人において、Aがそういった施術を了解しているのだと認識していたとしても、それが不自然、不合理であるとも認め難い。
  (3) A以外の女性客に対する施術について
 弁護人側証人のBは、Aと同じように、本件整骨院に継続的に通い、被告人による施術を受けていたものであるが、被告人による施術の再現動画(弁1、2)を視聴して、自身が受けた施術の流れと変わるところはないとし、B自身も陰部付近や着用していた下着の上から性器を触れられることもあったが、B自身は、最初の頃に、リンパを流すために必要な施術であるなどといった説明を受け、被告人がわざとその辺りを触っているようにも思えなかったので、特に気にすることはなかったなどと供述している。また、検察官によると、A以外に被告人の施術を受けた女性9名(Bを含む。)から事情聴取したところ、全員が胸や陰部付近を触られたと述べ、うち2名(B他1名)は、必要な治療であったとの認識だが、残る7名は嫌であったと述べているという(第8回公判期日における検察官の釈明)。
 これらのことから、被告人は、Aに限らず、女性の被施術者に対し、同じように胸や陰部を触る施術をしていたことがうかがわれるが、その評価としては二通りあり得るかと思われる。その一つは、被告人が、わいせつな意図をもって、女性であれば誰彼かまわずに施術に名を借りてわいせつな行為をしていたという見方であり、もう一つは、被告人が、自身のやり方による施術として、どの女性に対しても、いわば機械的にそのような施術をしていたという見方である。
 ところで、被告人は、長年にわたってマッサージ等の施術をしてきたものであり、本件整骨院では、定期的に施術を受けに訪れる者が常時50名ほどいて、年代的には現役世代(60歳以下をいうと思われる。)の者が多く、その半数は女性であるといい、これまで相当多数の女性に胸や陰部を触る施術をしていたとうかがわれるが、被告人によれば、本件以前に、施術がわいせつ行為であると訴えられたことはないといい、検察官においても、過去にも本件同様の例があったことは全く指摘されていない。相当多数の女性に対し、性器等に触れるような施術をしながら、特に訴えられたこともないというのは、そのような施術に効果があり、それが必要であるという被告人の説明がそれなりに説得的であったとか、Bの言うように、わざと性器等を触っているようには感じなかった者が多かったからであると思料される。そうすると、前者の見方によるのはやや難があるといわざるを得ず、後者のように、被告人が、自身のやり方による施術としてそのような施術をしていた可能性が否定できず、これも施術が正当なものであることをうかがわせる一事情であるといえる。
 なお、男性に陰部等を触れられるのは、正当な施術であれば気に留めないという、Bのような者もいようが、女性であれば、仮に正当な施術であったとしても、羞恥心や恥辱感を覚えるのが当然ともいえ、現に検察官は9人中7人の女性が嫌であったと述べていたというのである。それは要するに個人の受け止め方の問題にすぎず、そういった意味ではAが羞恥心や恥辱感を感じ、自身がわいせつ被害に遭っていると思ったというのも特に不自然、不合理なこととは考えられない。ただ、逆に、女性が、羞恥心や恥辱感を感じたからといって、直ちにわいせつ行為がなされたとの認定の根拠とすることはできないともいい得るであろう。
 4 結論
 以上検討したところを総合すると、本件においては、被告人のした施術が正当なものであった可能性が少なからず認められ、公訴事実に掲げられた行為が「わいせつな行為」に該当すると認めるに足りるだけの立証がなされたとは認め難い。
 マッサージ師会の代表が述べるように、被告人らの世代のマッサージ師には、女性の心情に対する配慮を欠く施術をする者が少なからずいたというが、被告人自身もそういったやり方を改めず、そのためAに必要以上に不愉快な思いをさせた側面があることは否定できない。被告人は、そういったやり方が今日では通用しないことを自覚し、女性の心情に対する配慮を欠いた施術をしていたことについては猛省すべきであると思われるが、そういった配慮を欠くからといって、その施術が、犯罪行為として処罰の対象になるとまではいえない。
 以上の次第であり、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条後段により、被告人に対し無罪の言渡しをする。
 (求刑―懲役2年6月)
 松江地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 畑口泰成 裁判官 三島琢 裁判官 藤本拓大)<<

監護者性交罪の保護対象が「18歳未満」なのに、不同意性交罪(177条3項)の保護対象が「16歳未満」な訳

監護者性交罪の保護対象が「18歳未満」なのに、不同意性交罪(177条3項)の保護対象が「16歳未満」な訳
 

木村光江「性的自由に対する罪」再考
法曹時報 第76巻01号
4.「性的自由に対する罪という説明」の限界
(1)性交同意年齢一性的判断能力
性交同意年齢とは、同意意の有無を問わずに性犯罪が成立する年齢をいう。
旧法では「13歳未満の者」とされていたが、かねて国連等からは引上げが勧(51)告されており、今回の改正では「16歳未満」へと引き上げられた。
もっとも、単純に16歳未満に引き上げられたわけではなく、被害者が13歳未満の場合には行為者の年齢を問わないが、13歳以上16歳未満の者である場合には、被害者よりも5歳以上年長の行為者に限って処罰対象とされることとされた(177条3項)。
16歳という、刑事未成年(14歳未満)を超えた年齢を設定することにより、例えば15歳同士で恋愛関係にある者の行為も同意の有無にかかわらず処罰対象とされることになってしまうため、これを避ける趣旨で(52)ある。
そこで、改正法では性犯罪の年齢に関する扱いが、3つの段階に分かれることとなった。
まず、①被害者が13歳未満の場合は、|可意の有無や手段の如何、さらに行為者の年齢にかかわらず無条件に不同意性交等罪、不同意わいせつ罪が成立する。
②被害者が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長の者である場合に限り成立する。
面会要求等罪(182条)も16歳未満(53)という年齢制限がある。
そして③18歳未満の場合は、行為者が監護者等である場合に限り、同意の有無や手段を問わずに監護者性交等罪、監護者わいせつ罪が成立する(179条)。
13歳未満と16歳未満とで扱いが異なる理由は、13歳未満の者は、「(1)行為の性的意味を認識する能力」が備わっていないために無条件で成立するのに対し、13歳以上16歳未満の者は「(1)行為の性的意味を認識する能力」は一律にないとすることはできないが、「(2)行為の相手との関係で、その行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手に対処する能力」が十分に備わっているとはいえないためであると説明される。
そして、(2)の能力が十分でない以上、相手との年齢差が大きい場合には、それが対等な関係であるとはいえず、その結果「性的行為に関(54)する自由な意思決定」ができないとされる。
それに対し、監護者性交等罪が18歳未満である理由は何か。
本条の新設は平成29年改正によるが、同改正時の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の事務局説明によれば、18歳未満の者は、監護者に精神的・経済的に依仔しているため、監護者との性交等に応じたとしても、「その意思決定は、そもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して監護者の影響力が作用してなされたものであって、自由な意思決定ということはできない」か(55)らであるとされている。
もし③監護者性交等罪が18歳未満についてのみ成立するのが「自由な意思決定ができない」ことも理由とされるのであれば、令和5年改正において、性交同意年齢を16歳ではなく18歳に引き上げることも不合理ではなかったはずである。
「自山な意思決定」に16歳と18歳とで明確な違いがあるとは考えにくいからである。
やはり、意思決定の違いのみで説明することには、限界がある。
むしろ、性交同意年齢が16歳であるというのは、一応の目安として義務教育課程に属する青少年についてはパターナリズムの観点から無条件に保護するに値すると説明した方が分かりやすい。
明治時代に成立した旧法が13歳未満であったのと比較しても、当時の義務教育が小学校まで(明治40年に義務教育期間が6年に延長され、ほぼ12歳までとなった。
)であったことを考えれば、15歳までは同意や意思決定の問題とは切り離して保護することも十分に理由があるからである。
また、監護者性交等罪が18歳未満であるのは、「意思決定」というよりも、事務局がまさに指摘するように、「生活全般にわたって自己を監督し保護し(56)ている監護者に、精神的・経済的に依存して」いるからである。
そのような依存関係にある者からの性被害は「性的虐待」であり、子どもの人格を破壊する行為であって、|可意や手段の如何にかかわらず当罰性が極めて高い。
性交同意年齢一般を16歳未満に引き上げた令和5年改正でも、監護者性交等罪の対象を18歳未満から16歳未満へと引き下げる変更をしなかったが、監護者(57)による性的虐待を重視する観点からは十分な理由がある。
そこでは、青少年としての保護が重要であって、性的自己決定の有無に決定的な意味があるわけではない。
一般論として被害者の意思決定が重要であることは否めないが、構成要件における年齢の書き分けは、意思決定の問題だけでは説明が困難であるし、その必要もない。
また、性交|可意年齢に関しては、たとえ5歳以上の差がない場合であっても(例えば14歳と18歳)、8号の「地位に基づく影響力」を用いて、不同意の意思の形成、表明、全うを困難な状態にさせた場合には、不(58)同意性交等罪が成立する。
年齢差だけではなく、さらに「不,両}意意思の形成、表明、全う」を判断しなければ処罰の可否が定まらないのであるとすれば、そもそも「5歳以上年長」という年齢差規定を設ける必要があったのかも問題となる。
保護法益を「自由な意思決定の存否」に固執し、それを実際の判断に持ち込むことは、解釈を不必要に複雑にするおそれがある。
また、面会要求等罪(182条)について16歳未満とされた理由も、「自由な(59)意思決定の前提となる能力に欠ける」ためとされている。
同条は、16歳未満の者に対し、わいせつ目的での面会要求行為(,項、,年以下の拘禁刑又は50万円以卜の罰金)、及びその結果、実際に面会をする行為(2項、2年以下の(60)拘禁刑又は100万円以下の罰金)を規定する。
いわゆるグルーミング行為の一部を処罰対象とするものである。
しかし、特にSNS等を通じて呼び出され一般論として被害者の意思決定が重要であることは否めないが、構成要件における年齢の書き分けは、意思決定の問題だけでは説明が困難であるし、その必要もない。
また、性交|可意年齢に関しては、たとえ5歳以上の差がない場合であっても(例えば14歳と18歳)、8号の「地位に基づく影響力」を用いて、不同意の意思の形成、表明、全うを困難な状態にさせた場合には、不(58)同意性交等罪が成立する。
年齢差だけではなく、さらに「不,両}意意思の形成、表明、全う」を判断しなければ処罰の可否が定まらないのであるとすれば、そもそも「5歳以上年長」という年齢差規定を設ける必要があったのかも問題となる。
保護法益を「自由な意思決定の存否」に固執し、それを実際の判断に持ち込むことは、解釈を不必要に複雑にするおそれがある。
また、面会要求等罪(182条)について16歳未満とされた理由も、「自由な(59)意思決定の前提となる能力に欠ける」ためとされている。
同条は、16歳未満の者に対し、わいせつ目的での面会要求行為(1項、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)、及びその結果、実際に面会をする行為(2項、2年以下の(60)拘禁刑又は100万円以下の罰金)を規定する。
いわゆるグルーミング行為の一部を処罰対象とするものである。
しかし、特にSNS等を通じて呼び出された場合の被害の重大性からみれば、「自由な意思決定が欠ける」か否かによ(61)り年齢に制限をかけることは適切とはいえない。
SNSでの行動範囲が拡大し、性的被害に遭う危険性は中学生よりも高校生の方が高いともいえ(図2(62)参照)、改めて18歳未満の未成年一般を面会要求等罪の保護の対象とする余地もあろう。
今回の法改正により、性交|可意年齢が引き上げられたこと自体は適切であったといえるが、上記のような親子関係そのものや、パターナリズムといった視点も加味し、より青少年保護の観点を取り入れることも今後の課題として検討すべきである。
このように、刑法に青少年保護の観点を入れる主張に対しては、18歳未満を一律に保護の対象とする条例と、より重い処罰を想定する刑法とは異なるという議論もあり得る。
しかし、特に青少年のインターネットを通じた性被害は成人以上に重大であり、条例のような相対的に軽い刑罰だけに委ねられる領域ではないであろう。

性的意図はないことなどから「わいせつな行為」には当たらないと主張された事例(福島地裁r5.12.12)

性的意図はないことなどから「わいせつな行為」には当たらないと主張された事例(福島地裁r5.12.12)

大法廷h29.11.29が引用されています。

福島地方裁判所令和5年(わ)第36号
令和5年12月12日刑事部判決

       判   決

会社員 a 平成4年○○月○日生
会社員 b 平成5年○○月○○日生
会社員 c 平成6年○月○○日生
 上記3名に対する各強制わいせつ被告事件について、当裁判所は、検察官門倉良則及び同永澤靖識並びに私選弁護人齊藤好明(被告人3名につきいずれも主任)各出席の上審理し、次のとおり判決する。


       主   文

被告人3名をそれぞれ懲役2年に処する。
被告人3名に対し、この裁判が確定した日から4年間それぞれその刑の執行を猶予する。
訴訟費用のうち、証人dに支給した分はその3分の1ずつを被告人3名の負担とし、証人e及び同fに支給した分はその2分の1ずつを被告人a及び同bの負担とし、証人g及び同hに支給した分はその2分の1ずつを被告人a及び同cの負担とする。


       理   由
第4 被告人aの行為の「わいせつな行為」該当性
1 弁護人は、被告人aが、自己の陰部を被害者の陰部付近に着衣の上から接触させていないことを前提として、その余の行為に性的意図はないことなどから「わいせつな行為」には当たらないと主張するので、以下この点について検討する。
2 強制わいせつ罪における「わいせつな行為」該当性は、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らして、その行為の性的な意味の有無や性的意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すべきである(最高裁平成29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照)。
3 被告人aの行為は、ベッドに仰向けになった女性の股の間で男性が腰を前後に振るというものであるところ、これ自体、性行為を容易に連想させるものであって、社会通念に照らして、性的な意味合いが強い行為であることは明らかである。そして、職場の宴会の場において、被告人aが、個人のその場の判断で、職場の同僚に過ぎない被害者に覆い被さり、被害者の股を開かせた上で腰を前後に振って、被告人aの陰部と被害者の陰部付近が接触したという具体的な状況を踏まえてみても、被告人aの行為の性的な意味合いが弱まることはあり得ない。仮に、被告人a自身は、笑いを取るために行ったことで性的意図がなかったとしても、そのような主観的事情は、本件においては、「わいせつな行為」に当たるか否かの判断に影響を及ぼすものではない。
 よって、被告人aの行為は、「わいせつな行為」に当たるものであり、弁護人の主張は採用できない。
第5 結論
 以上によれば、その他弁護人の主張を踏まえて検討しても、各被告人の行為が、それぞれ強制わいせつ罪の構成要件に該当することは明らかであり、被告人3名それぞれに判示のとおり強制わいせつ罪が成立する。
(法令の適用)
1 構成要件及び法定刑を示す規定
 被告人3名の各判示所為はいずれも令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条前段に該当する。
2 宣告刑の決定
 所定刑期の範囲内で被告人3名をそれぞれ懲役2年に処する。
3 刑の執行猶予
 被告人3名に対し、それぞれ情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
4 訴訟費用
 訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項本文により、証人dに支給した分はその3分の1ずつを被告人3名の負担とし、証人e及び同fに支給した分はその2分の1ずつを被告人a及び同bの負担とし、証人g及び同hに支給した分はその2分の1ずつを被告人a及び同cの負担とする。
(量刑の理由)
1 被告人3名の各行為態様は、仰向けに倒した被害者の身体に覆い被さり、手で股を開かせたり、同人の両手首を強い力で押さえつけたり、上半身を密着させたりするなどして被害者を抵抗困難な体勢にさせた上、被害者の足の間で腰を前後に振り、各被告人の陰部と被害者の陰部付近を着衣越しに接触させたというものであり、前記のとおり、各行為の性的な意味合いは強い。

 青少年淫行+製造につき、500万円で示談した事例(大津地裁r05.11.16)

 青少年条例違反(淫行)というのは具体的な権利侵害はないとされています。
 量刑理由にも「同種事案の量刑傾向を踏まえると、本件については執行猶予を付すことが相当である」とあるように、量刑相場としては、示談できなくても執行猶予はつきますよね

津地方裁判所令和5年11月16日
主文
被告人を懲役2年に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の全部の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
 起訴状記載の公訴事実と同一であるから、これを引用する(なお、この判決においては、公訴事実第1から第3の被害児童をA、同第4及び第5の被害児童をBと、それぞれ表記する。)。

(法令の適用)
罰条 第1、第4 滋賀県青少年の健全育成に関する条例27条1項、24条1項
  第2 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ処罰法」という。)7条4項、2項、2条3項1号
  第3、第5 児童ポルノ処罰法7条4項、2項、2条3項3号
刑種の選択 いずれも懲役刑
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い第2の罪の刑に加重)
刑の全部執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
 本件は、中学校の教員であった被告人が、元教え子である当時16歳の青少年2名と性交したという青少年に対するいん行2件と、その様子を動画撮影するなどしたという児童ポルノ製造3件の事案である。
 被告人は、被害者らの好意や被告人に嫌われたくないなどという心情に付け込んで、直接ないしビデオ通話等を通じた性的行為に応じるよう言葉巧みにあおり、同様の行為を繰り返す中、本件各犯行に及んでいる。本件は常習的犯行の一環である上、各犯行の内容は、被害者らの心情に意を払わず、自らの性欲を満たすための道具のように扱うもので、被告人が中学校の教員として、青少年の健全な成長を促すべき立場にあったことを踏まえると、とりわけ強い非難に値する。本件により、被害者らの健全な成長に悪影響が生じることが懸念され、その保護者らが被告人に対する厳しい処罰を望むのは当然である。
 他方で、被告人が被害者のうち1名に対し500万円を支払って示談を成立させたこと、事実を認めていること、自らの認識や行動の誤りを自覚して改善するため、専門機関において認知行動療法を受けていること、被告人の父が監督を約束していること、これまで前科前歴がないことなどの事情も認められ、これらの事情に加え、同種事案の量刑傾向を踏まえると、本件については執行猶予を付すことが相当であると判断し、主文のとおり刑を定めた。
(求刑 懲役2年)

「スカートとズボンが一体となった着衣」は「人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」に該当しないから、撮影に成功しても性的姿態撮影罪にならないし、撮影に失敗しても性的姿態撮影未遂罪にもならない。

「スカートとズボンが一体となった着衣」は「人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」に該当しないから、撮影に成功しても性的姿態撮影罪にならないし、撮影に失敗しても性的姿態撮影未遂罪にもならない。

 こんな服かな
https://www.google.com/search?q=%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%A8%E3%82%BA%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%81%8C%E4%B8%80%E4%BD%93&tbm=isch&ved=2ahUKEwjnl-Cj3-mDAxWBUPUHHYj2ALcQ2-cCegQIABAA&oq=%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%A8%E3%82%BA%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%81%8C%E4%B8%80%E4%BD%93&gs_lcp=CgNpbWcQAzIECCMQJ1DoC1joC2CvDmgAcAB4AIABWogBsQGSAQEymAEAoAEBqgELZ3dzLXdpei1pbWfAAQE&sclient=img&ei=JJKqZef1KIGh1e8PiO2DuAs&bih=423&biw=1024&rlz=1C1JCYX_jaJP1075JP1075


 せいぜい迷惑条例の卑わい行為(撮影準備行為)だろう。
 ズボンはいてる人は、外見上「人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」が見えていないから、スカート部分内を撮影しても、性的姿態撮影罪(既遂)にはならない。カメラを向けたとしても性的姿態撮影罪(未遂)にはならない。不能犯で説明してもいい。

https://news.yahoo.co.jp/articles/7730257bd1b1498207bd9e8894b12610537cd0f3?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20240119&ctg=loc&bt=tw_up
警察によりますと、男は18日午後0時半ごろ、JR広島駅構内の上りエスカレーターで、専門学校生の女性(21)のスカート内にスマートフォンを差し入れ、下半身を動画で撮影しようとした疑いがもたれています。しかし女性は、スカートとズボンが一体となった着衣を履いていたため、未遂に終わったということです。

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/police/kensu.html#:~:text=%E6%80%A7%E7%9A%84%E5%A7%BF%E6%85%8B%E7%AD%89%E6%92%AE%E5%BD%B1,%EF%BC%8856%EF%BC%89%E3%82%92%E7%8F%BE%E8%A1%8C%E7%8A%AF%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%80%82
性的姿態等撮影未遂(広島南署)
 1月18日、広島市南区松原町のJR広島駅構内で、被害者のスカート内に撮影機能付きスマートフォンを差し入れ、下半身を撮影しようとしたが、スカートとズボンが一体の着衣を履いていたため未遂に終わったとして男(56)を現行犯逮捕。

令和五年法律第六十七号
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
第二条 
1次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
2 前項の罪の未遂は、罰する。

【逐条説明】性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案逐条説明
2 撮影対象
本条の罪の撮影対象については、撮影された場合に自己の性的な姿態を他の機
会に他人に見られるかどうかという意味での性的自由・性的自己決定権が侵害さ
れるものとして「性的姿態等、すなわち、、」
○人の性的な部位性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部臀部又は胸部や、人が身に着けている下着のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
○わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
としている。
他方、性的姿態等のうち、撮影対象者が、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れる状況にあることを認識しながら自ら露出し又はとっているものについては、
○衣服を着けるなどしていれば見られないにもかかわらず、あえて自ら露出し又はとったものである以上、当該撮影対象者が、保護法益を放棄している場合があると考えられること
○性的姿態等が不特定又は多数の者の目に触れる状況であることを認識しながら自ら露出し又はとっている者が、撮影行為までも許容する意思なのか、その場で見られることだけしか許容しない意思なのかは、外形的・客観的に区別が困難であり、撮影対象者の内心で区別するほかないが、そのような内心のみで犯罪の成否が分かれることとすると、処罰の外延が不明確になると考えられること
から、一律に撮影対象から除外することとしている(注1 。
・・・
2項
本項は、結果として撮影に至らなかった行為の中には、例えば、撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し向けてシャッターを押したが、露光不足で撮影に失敗した場合など、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから、性的姿態等撮影罪の未遂犯を処罰することとするものである。

浅沼雄介検事「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」〔警察学論集第77巻第1号〕
ア「性的姿態等」の定義における各文言の意義等
(ア)本項第1号から第3号までの「人」とは、犯人以外の者をいう。
(イ)本項第1号イの「性的な部位」は、衣服で覆われていないものを前提とする。
もっとも、着衣の上から撮影する行為であっても、例えば、透視機能のある撮影機器を用いて着衣を透過させて「性的な部位」を撮影した場合には、衣服で覆われていない「性的な部位」を撮影するものであるから、その態様・方法として、「ひそかに」撮影するなどといった本項各号所定の要件を満たすときは、処罰対象となり得る。
(ウ)本項第1号イの「下着」とは、いわゆるショーツ、トランクス、ブリーフ、ブラジャーなどを指す。
「下着」には、様々な形態のものがあり得るが、本条においては、撮影された場合に保護法益が侵害されるといえるものに限定する観点から、「通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるもの」で、「現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」に限ることとされた。
なお、下着のうち性的な部位を「間接に覆っている」部分も「性的姿態等」に含めることとされたのは、例えば、冬期に重ね履きしている下着など、性的な部位を間接的に覆う下着も撮影行為の客体に含める趣旨である。

撮影・送信させる強制わいせつ罪・不同意わいせつ罪における「わいせつ行為」とされる範囲

 強要罪の高裁判例では、
  広島高裁岡山支部H22.12.15(岡山地裁H22.8.13)
    東京高裁H27.12.22(新潟地裁高田支部H27.8.25)

が送信させる行為はわいせつ行為ではないとされる。

 強制わいせつ罪の高裁判例(大阪、大阪、札幌)でも「撮影させ」までが「わいせつ行為」とされています。
 送信させる行為まで起訴されることが多く、弁護人が指摘しないと「送信させる」までわいせつ行為とされます。

 裁判例を概観すると、「撮影させ」は性的意味合いが強くそれだけで「わいせつ」と評価されますが、「送信させ」は性的意味合いが弱く、自慰行為させるなどとの合わせ技で可罰性を帯びて「わいせつ」と評価されているように見受けられます。

 

東京 地裁   H18.3.24 撮影送信させ受信して
大分 地裁   H23.5.11 撮影送信させ
東京 地裁   H27.12.15 撮影送信させ
高松 地裁   H28.6.2 撮影送信させ
横浜 地裁   H28.11.10 撮影送信させ
松山 地裁 西条 H29.1.16 撮影送信させ
高松 地裁 丸亀 H29.5.2 撮影させ
岡山 地裁   H29.7.25 撮影送信させ
札幌 地裁   H29.8.15 撮影させ
札幌 地裁   H30.3.8 撮影させ
東京 地裁   H31.1.31 撮影させ
長崎 地裁   R1.9.17 ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。
高松 地裁 丸亀 R2.9.18 撮影させ
熊本 地裁   R3.1.13 撮影させ
京都 地裁   R3.1.21 撮影させ
京都 地裁   R3.2.3 撮影させ
大阪 高裁   R3.7.14 撮影させ
京都 地裁   R3.7.28 撮影させ
大阪 高裁   R4.1.20 撮影させ
千葉 地裁   R4.2.7 同人に胸部陰部を露出した姿態を取らせて
これをaのスマホで撮影させ
もって13未満の者にわいせつ行為した
札幌 地裁 小樽 R4.3.2 自慰行為等+撮影させ
東京 地裁   R4.3.10 撮影させ
京都 地裁   R4.6.10 同人に陰部露出させる姿態とらせてスマホで撮影させもって、13歳未満の物に対して、わいせつな行為をした
東京 地裁   R4.8.19 自慰行為をさせた上、その様子を同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、さらに、その画像等のデータを被告人が使用する携帯電話機に送信させ、
京都 地裁   R4.9.13 同人に陰部露出させる姿態とらせてこれを同人が使用するタブレット端末で撮影させ、
もってr、13未満の者に対してわいせつ行為をし
札幌 地裁   R4.9.14 撮影させ
千葉 地裁   R4.11.18 乳房陰部露出して放尿するなどの姿態を取らせてこれをcの使用する携帯電話機で撮影させ、もって13未満の者ににわいせつ行為をした
釧路 地裁   R5.1.6 送信させ
札幌 高裁   R5.1.19 撮影させ
大津 地裁   R5.3.1 陰茎を手淫させるとともに、その状況をスマホの動画撮影機能で撮影させた上、その動画を被告人が使用するスマホに送信させ、
地裁   R5.8.18 静止画を送信するよう要求し、同年7月24日頃から同年8月10日午前8時13分頃までの間、同県内のA方等において、同人に前記要求に応じた姿態をとらせ、81回にわたり、これを同人に撮影機能付き携帯電話機で撮影させて、その頃、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信させ
 もって、Aの抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした。
旭川 地裁 稚内 R5.11.10 B方において、同人に陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、その姿態をスマートフォンで撮影させ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした


ビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、Aに陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした

 

中学生が、ふんどし姿で乱舞しながら無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る画像は、「正当な理由」がなければ、「対象性的姿態等」(2条1項4号)だけど、16歳以上の場合は、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているもの」だから「対象性的姿態等」に該当しない(2条1項1号)

 中学生が、ふんどし姿で乱舞しながら無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る画像は、「正当な理由」がなければ、「対象性的姿態等」(2条1項4号)だけど、16歳以上の場合は、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているもの」だから「対象性的姿態等」に該当しない(2条1項1号)。

https://article.auone.jp/detail/1/2/2/101_2_r_20240111_1704939142069375
地元の中学生から34歳までの男性が、ふんどし姿で乱舞しながら無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る勇壮な祭りだ。

 ふんどしが下着だとすると、「人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」だから、無条件で「性的姿態等」ですね。法務省の説明では祭礼の上半身裸くらいであれば「正当理由あり」となりそうですが
 児童ポルノ法でいえば、2条3項3号(衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの)で、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」が要件になる。

(性的姿態等撮影)
第二条
1 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
2 前項の罪の未遂は、罰する。

 法務省の説明では、上半身裸であれば、正当理由とされる可能性があるようです。

法務省逐条説明
(4) 16歳未満の者を対象とする撮影行為(第4号)
刑法第176条第1項においては、16歳未満の者は、性的行為を行うかどうかについて有効に自由な意思決定をする能力が備わっているとはいえないことに着目し、
○ 13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者
○ 13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者がわいせつな行為をした者
について強制わいせつ罪が成立することとしている。
自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での撮影対象者の性的自由・性的自己決定権を保護法益とする性的姿態等撮影罪についても、16歳未満の者には、性的な姿態の撮影行為に応じるかどうかについて有効に自由な意思決定をする能力が備わっているとはいえないと考えられ、こうした者を対象とする撮影行為は、その者の自由な意思決定に基づくものとはいえず、保護法益を侵害すると考えられる。
そこで、本号においては、「16歳未満の者」を対象とする撮影行為を処罰することとしている。
なお、例えば、親が子供の成長の記録として、寝ている子供や水遊びをしている子供の上半身裸の姿を撮影する行為などが典型的に想定されるところであり、そのような行為が処罰対象とならないことを明示する必要があると考えられることから、「正当な理由がない」ことを要することとしている。

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html#Q4-2
Q4  性的姿態等撮影罪で処罰されないこととなる「正当な理由」とは、どのようなものですか。

A4 性的姿態等撮影罪においては、A3で述べたとおり、
 ○ ひそかに撮影する行為
 ○ 16歳未満の者に対する撮影行為
について、「正当な理由がないのに」そのような撮影行為をしたことが要件とされています。
 性的姿態等をひそかに撮影する行為について「正当な理由」がある場合としては、例えば、
 ○ 医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療行為上のルールに従って撮影する場合
などが考えられます。
 16歳未満の者に対する撮影行為について「正当な理由」がある場合としては、例えば、
 ○ 親が、子どもの成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で、水遊びをしている子どもの姿を撮影する場合
 ○ 地域の行事として開催される子ども相撲の大会において、上半身裸で行われる相撲の取組を撮影する場合
などが考えられます。

18歳未満の児童を対象としたいわゆる乱交パーティー等を主催する中で被害児童らを複数の顧客に繰り返し引き合わせるなどしており職業的犯行といえること、5名の児童に対する合計8回に渡る児童買春の周旋、2名の児童に対する多数の児童ポルノの製造に及ぶと共に3名の児童に対して自ら児童買春した事例(京都地裁r05.7.13)

18歳未満の児童を対象としたいわゆる乱交パーティー等を主催する中で被害児童らを複数の顧客に繰り返し引き合わせるなどしており職業的犯行といえること、5名の児童に対する合計8回に渡る児童買春の周旋、2名の児童に対する多数の児童ポルノの製造に及ぶと共に3名の児童に対して自ら児童買春した事例(京都地裁r05.7.13)
 児童買春周旋罪は引き合わせれば既遂。
 提供目的製造罪は、数回行われても児童ごとに一罪となっています。

京都地方裁判所
令和05年07月13日
主文
被告人を懲役2年及び罰金200万円に処する。
未決勾留日数中60日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは、1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は
第1 別紙記載の被害児童A及び別紙記載の被害児童Bが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年6月4日午前11時02分頃から午後0時34分頃までの間に、F市G区(以下略)H201号室において、被害児童A及びBに対し、それぞれ現金1万円の対償を供与する約束をして、被害児童A及びBと性交し(令和4年12月28日付け起訴状記載の公訴事実第1)、
第2 業として
 1 被害児童A及び被害児童Bが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年6月4日午後0時34分頃から午後0時39分頃までの間に、F市G区(以下略)H201号室において、I、J、K、L、M及びNから被害児童A及びBと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童A及びBをI、J、K、L、M及びNに引き合わせ、
 2 別紙記載の被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年7月1日午後1時41分頃から午後3時50分頃までの間に、F市O区(以下略)Q417号室において、L及びNから被害児童Cと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童CをL及びNに引き合わせ、
 3 別紙記載の被害児童Dが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年8月12日午後3時12分頃から午後5時12分頃までの間に、R市S区(以下略)Tにおいて、Mから被害児童Dと性交等をさせることの対償として現金約5万円を受ける約束の下、被害児童DをMに引き合わせ、
 4 被害児童C及び被害児童Dが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年8月15日午後3時09分頃から午後6時45頃までの間に、F市aa区(以下略)abビル403号において、ac、ad、J、K及びNから被害児童C及びDと性交等をさせることの対償として現金を受ける約束等の下、被害児童C及びDをac、ad、J、K及びNに引き合わせ、
 5 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年8月19日午後4時頃から午後7時頃までの間に、Q417号室において、ae、J、N及びMから被害児童Cと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童Cをae、J、N及びMに引き合わせ、
 6 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年9月4日午後2時11分頃から午後3時27分頃までの間に、Q内において、J及びNから被害児童Cと性交等をさせることの対償としてそれぞれ現金3万円を受ける約束の下、被害児童CをJ及びNに引き合わせ、
 7 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年9月21日午後2時24分頃から午後2時42分頃までの間に、Q301号室において、adから被害児童Cと性交等をさせることの対償として現金約2万4500円を受け、被害児童Cをadに引き合わせ、
 8 別紙記載の被害児童Eが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年9月24日午後7時30分頃から午後8時30分頃までの間に、R市af区(以下略)ag105号において、adから被害児童Eと性交等をさせることの対償として現金2万円を受け、被害児童Eをadに引き合わせ(令和5年5月1日付け訴因変更請求書により変更後の令和4年11月22日付け起訴状記載の公訴事実及び令和4年12月28日付け起訴状記載の公訴事実第2)、
第3 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年6月6日午前9時26分頃から午前11時27分頃までの間に、F市ah区(以下略)ai502号室において、被害児童Cに対し、現金2万円の対償を供与する約束をして、被害児童Cと性交し(令和5年2月20日付け起訴状記載の公訴事実第1)、
第4 被害児童Cが18歳に満たない児童であることを知りながら、他人に提供する目的で、別表1記載のとおり、令和4年6月6日午前10時05分頃から8月19日午後6時26分頃までの間に、ai502号室ほか2か所において、被害児童Cの性器が露出した姿態等を被告人が使用するスマートフォン2台で撮影し、その静止画データ12点及び動画データ8点をスマートフォン2台の内臓記録装置に記録させて保存し(令和5年2月20日付け起訴状記載の公訴事実第2)、
第5 被害児童Dが18歳に満たない児童であることを知りながら、他人に提供する目的で、別表2記載のとおり、令和4年8月16日午後1時57分頃から午後5時48分頃までの間に、abビル403号において、被害児童Dの乳房が露出した姿態等を被告人が使用するスマートフォン2台で撮影し、その静止画データ5点及び動画データ1点をスマートフォン2台の内臓記録装置に記録させて保存し(令和5年2月28日付け起訴状記載の公訴事実)
たものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
 第1、第3の各行為 いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条、2条2項1号
 第2の行為 同法5条2項、2条2項2号
 第4、第5の各行為 いずれも同法7条3項前段、2項前段、2条3項1号、2号、3号
刑種の選択
 第1、第3ないし第5の各罪につき いずれも懲役刑を選択
併合罪加重 懲役刑につき刑法45条前段、47条本文、10条(重い第2の罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
労役場留置 刑法18条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 被告人は、18歳未満の児童を対象としたいわゆる乱交パーティー等を主催する中で被害児童らを複数の顧客に繰り返し引き合わせるなどしており職業的犯行といえること、5名の児童に対する合計8回に渡る児童買春の周旋、2名の児童に対する多数の児童ポルノの製造に及ぶと共に3名の児童に対して自ら児童買春にも及んでおり、被害児童の数や頻度等からして性的搾取の程度が相当に大きいこと、被害児童らの心身の健全な成長に深刻な悪影響を与えると懸念されること等からすると、その刑事責任は軽くない。
 そうすると、各事実を認めて反省の態度を示していること、古い罰金前科以外に前科がないこと、父親が今後の監督を誓っていること、10万円の贖罪寄付をしたこと、二度と法を犯すようなことはしないと述べていること等の被告人に有利な事情を考慮しても、その被害の大きさ等からすると刑の執行を猶予するのは相当ではなく、主文の実刑はやむをえない。
(求刑 懲役4年及び罰金200万円)
第3刑事部
 (裁判官 村川主和)

常習性とは行為者の属性と捉えるべきであるから、行為者が当該地方公共団体の区域外であっても、罰則をもって禁止されている違法な行為を繰り返していたという事実があれば、行為者にこの種違法な行為を繰り返す習癖、すなわち常習性を認めることができる。(名古屋地豊橋支判令和5年8月25日)

常習性とは行為者の属性と捉えるべきであるから、行為者が当該地方公共団体の区域外であっても、罰則をもって禁止されている違法な行為を繰り返していたという事実があれば、行為者にこの種違法な行為を繰り返す習癖、すなわち常習性を認めることができる。(名古屋地豊橋支判令和5年8月25日)
 じゃあA県での卑わい行為とB県での卑わい行為を常習一罪にしてもよさそうですね。東京高裁h17はどうする

裁判年月日 平成17年 7月 7日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(う)619号
事件名 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)違反、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違反被告事件
 2005WLJPCA07070006
判決理由
 本件控訴の趣意は,弁護人作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
 論旨は,要するに,被告人が,原判示第1の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)違反の罪及び原判示第2の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違反の罪といずれも常習一罪の関係にあるその後に犯した公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(愛知県条例)違反の罪について略式命令を受け,それが確定しているから,原判示各条例違反の罪は刑訴法337条1号にいう確定判決を経たときに帰するのに,被告人を免訴することなく有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかし,地方公共団体に認められた自治立法権条例制定権)の趣旨等に照らすと,地域を異にする別個の地方公共団体(埼玉県,東京都及び愛知県)の条例に違反する各罪を常習一罪として問う余地はないというべきであり,被告人を有罪とした原判決に訴訟手続の法令違反があるとはいえない。

愛知県迷惑行為防止条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、静岡県迷惑行為等防止条例違反被告事件
名古屋地豊橋支判令和5年8月25日D1-Law.com判例体系〔28312832〕
■28312832
名古屋地方裁判所豊橋支部
令和05年08月25日
理由
(罪となるべき事実)
第1 令和5年7月10日付け訴因変更請求書記載の事実(同事実中1記載の事実を第1の1、同2記載の事実を第1の2とする。)を引用する。
第2 同日付け起訴状記載の公訴事実を引用する。
(事実認定の補足説明)
 弁護人は、判示第2の事実について、要するに、静岡県内での盗撮の事実が1回のみであるから、静岡県迷惑行為等防止条例における常習盗撮罪は成立しない旨主張する。
 この点、常習性とは行為者の属性と捉えるべきであるから、行為者が当該地方公共団体の区域外であっても、罰則をもって禁止されている違法な行為を繰り返していたという事実があれば、行為者にこの種違法な行為を繰り返す習癖、すなわち常習性を認めることができる。
 本件についてみるに、判示第1によれば、被告人は、令和2年11月から令和5年3月までの間、合計14回にわたって、愛知県迷惑行為防止条例により罰則をもって禁止されている盗撮行為を繰り返していたのであるから、被告人にはこの種違法な行為を繰り返す習癖があるものといえる。弁護人の主張は、行為者の属性としてとらえるべき常習性の概念に、別次元の問題である条例の効力の場所的な限界を混同して議論するものであって、失当である。
 よって、静岡県内において盗撮目的で写真機等を設置し、映像に記録したという事実も、被告人の常習性が発露したものということができるから、判示第2のとおり認定した。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
 判示第1の所為のうち
  常習として盗撮した点(1及び2の事実)
  愛知県迷惑行為防止条例15条2項、2条の2第3項1号
  児童ポルノ製造(2の事実)
  児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、同条2項、2条3項3号
 判示第2の所為 包括して静岡県迷惑行為等防止条例12条2項、1項1号、3条2項(常習盗撮の点は、同条例12条2項、1項1号、3条2項、映像記録の点は同条例12条3項、1項1号、3条2項に該当するところ、これらの行為については包括一罪として常習盗撮の罪が成立すると判断した。)
科刑上一罪の処理
 判示第1の事実 刑法54条1項前段、10条(2の児童ポルノ製造と1及び2の常習盗撮の罪のうち2の盗撮の部分とはそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、結局1及び2の罪を一罪として刑及び犯情の重い児童ポルノ製造の罪の刑で処断する。)
刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)
執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項本文(負担)

自撮りで自分の陰部画像を送信する行為は、 性的姿態等影像送信罪か

 これは法文から「人の」というのは「他人の」を意味しますので、 自分の陰部画像を撮影しても性的姿態等に該当しません。
 自分の陰部画像送信は、わいせつ電磁的記録頒布罪とか、児童ポルノ提供(提供目的製造)が検討されます。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和五年法律第六十七号)
(性的姿態等撮影)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分

法務省逐条説明
第2章前説
【説明】
第2条から第6条までの各罪は、人の意思に反して性的な姿態を撮影したり、これにより生成された性的な姿態の記録を提供するといった行為がなされれば、当該記録の存在・流通等により、性的な姿態が当該姿態をとった時以外の機会に他人に見られる危険が生じ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じる危険があることから、それらの行為を処罰するものであり、その保護法益は、
〇自己の性的な姿態を他の機会(すなわち、当該姿態をとった時以外の他の機会)に他人に見られるかどうか
という意味での被害者の性的自由・性的自己決定権である

https://legal.coconala.com/lawyer/bbses#/68236
弁護士
2024年1月8日 16:47
東京都
送信行為を求めていたツイートを読んだことが「正当な理由」に該当しなければ、性的姿態等影像送信罪に該当するかと思います。

児童に裸体画像を送信させる行為は、「わいせつ行為」ではない。(広島高裁岡山支部H22.12.15 東京高裁H27.12.22)

児童に裸体画像を送信させる行為は、「わいせつ行為」ではない。(広島高裁岡山支部H22.12.15 東京高裁H27.12.22)
 送信させる行為は、児童ポルノ製造罪で取り込むしかありません。
 弁護人はこういう高裁判例で切り込めばちょっと軽くなるでしょう。

東京高裁H27.12.22
(1)強要罪が成立しないとの主張について
記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。

札幌高裁令和5年1月19日
第4 法令適用の誤りの論旨について
 1 所論は、①被告人が遠隔地にいるAに裸体を撮影させた行為は、性的侵
襲が弱く、それだけでは被告人は全く性的興奮を得られないから、性的意味合
いは皆無か、極めて薄く、わいせつな行為に該当しない、あるいは、強制わい
せつ未遂罪が成立するにとどまる、②原判決は、罪数処理の記載で、被告人
が、Aに撮影させた動画データを被告人に送信させて、保存・記録させ、被告
人がその動画を見たことまでわいせつ行為と評価しているが、これらはわいせ
つ行為にならないし、Aに撮影させた行為までであればわいせつ行為となり得
るとしても、Aに動画データを送信記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点
を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなる、③接触を伴う強制わ
いせつ罪においては、犯人が被害者の面前にいることが前提とされているか
ら、非接触の強制わいせつ罪においても、犯人が規範的にみて被害者の目の前
にいるといえなければ、わいせつな行為に当たらないと解されるところ、本件
では、要求行為に遅れて撮影行為がされており、規範的にみて被告人がAの目
の前にいるとはいえず、わいせつな行為に当たらない、④本件は、Aを利用し
た間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないとこ
ろ、Aは道具化しておらず、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は
成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪が成立するにとどまる、⑤原判決は本件
の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としているが、両罪は包括
一罪である、などと指摘して、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令適用の誤りがある旨主張する。
 2 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、
これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味
合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用で
きる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人
や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動
画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる
行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧す
ることになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性
は大きく、また、本件が、当時○○歳の男性である被告人が、SNSを通じて知
り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にす
ぎない当時13歳未満の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッ
セージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされ
たものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるか
ら、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立する
と判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画デー
タ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・
保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認めら
れず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含
めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自
の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのよう
な趣旨を判示したものとは解されない。)。
 ③については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わ
いせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の
面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、
その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人
や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の
性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
 ④については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある
場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するとこ
ろ、本件において被告人が当時8歳のAに対して行った行為がわいせつな行為
に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具性が
要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。
 ⑤については、本件において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを
撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は、Aに陰部等を露出した姿態
をとらせてこれを撮影させた上、その動画データを被告人のスマートフォン
送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させるという児童ポルノ製造
罪に当たる行為に包摂されていること、被告人は当初から撮影後に動画データ
を送信することも要求しており、撮影から送信、保存・記録までがほぼ同時刻
に行われていること、一般に本件のような態様のわいせつ行為は、撮影された
画像の内容を行為者等が知り得る状態に置くことを意図して行われるものと考
えられることも踏まえると、両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で
社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競
合とした原判決に誤りがあるとはいえない(なお、所論指摘の裁判例は、いず
れも本件とは事案を異にするものである。)。

https://www.sanspo.com/article/20231228-4FMPDTIFWRLP5CKPDD5IUDTRGA/
10代の男子生徒に自身の性的な画像を送信させたとして、東京地検は28日、不同意わいせつと映像送信要求などの罪で容疑者を起訴した
・・・
地検によると起訴内容は、今月2日、交流サイト(SNS)を通じて、同校の男子生徒にわいせつ画像を送るよう求め、携帯電話で撮影、送信させたとしている。

児童に児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせた上,ひそかにその姿態を撮影するなどした行為と同法7条5項の罪の成否 東京高裁r5.6.16

 理屈としては4項が正解だと思います。間違って5項製造罪にしちゃったときにごまかせるかという問題。大阪高裁r5で原審がエライ怒られてしまいまして。

  大阪高裁H28.10.26 4項説 控訴審弁護人は奥村。
  大阪高裁r5.1.24 4項説 控訴審弁護人は奥村。
  東京高裁r5.3.30 5項説 控訴審弁護人は奥村。
  東京高裁r5.6.16 5項説
  大阪高裁r5.7.27 5項説 上告中
  大阪高裁R5.9.28 5項説 控訴審弁護人は奥村。上告中

 寝ている児童をスマホを構えて撮影するのは「ひそかに」とは言えないと思いますが。

強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件令和 5年 6月16日 裁判所名 東京高裁
事件名 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2023WLJPCA06169002
主文

理由
 1 本件は、被告人が、当時7歳から12歳までの20名を超える児童に対し、わいせつな行為を行い、その状況を撮影するなどして児童ポルノを製造した事案である。
 弁護人米村哲生の控訴趣意は、法令適用の誤り、理由齟齬及び量刑不当の主張である。
 2 法令適用の誤り及び理由齟齬の論旨は、原判決が認定した犯罪事実のうち、「ひそかに、被告人が被害者の陰茎を手で触るなどの姿態を動画撮影する」などした行為(原判示第2の2、4、5、21)及び「ひそかに、被告人が被害者の陰茎を手で触るなどの姿態をとらせ、これを動画撮影する」などした行為(原判示第2の7、9、11、13、15)については、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項の罪が成立するから、同条5項の罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤り又は理由齟齬があるというのである。すなわち、同条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要すると解すべきであるところ、被告人は、前記各事件において、被害者らに所定の姿態をとらせて撮影するなどしたものであり、いずれについても同条4項の罪が成立するから、同条5項の罪は成立しないというのである。
 しかしながら、原審記録によれば、前記各事件は、いずれも、被告人が、各児童に所定の姿態をとらせた上、ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところ、これらについて、訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し、被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず、原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり、同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはない。所論は、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが、同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であれば、そのように解すべき合理的理由はなく、賛同できない。
 なお、検察官は、原判示第2の7、9、11、13、15の各事件について、同条5項の罪により公訴提起しつつ、ひそかに所定の姿態を動画撮影するなどした事実のほか、被告人が児童にその姿態をとらせた事実を公訴事実に記載し、原判決も、同条5項の罪の成立を認めた上で、公訴事実と同一の事実を認定・記載したものである。検察官の公訴提起が同条5項の罪によるものであることは明白であり、被告人が所定の姿態をとらせた旨の記載は、余事記載に当たるが、その記載は裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのあるものとはいえないし、その記載によって被告人の防御に支障を生じさせるものともいえないから、公訴提起の手続に違法があるとはいえない。また、原判決の被告人が所定の姿態をとらせた旨の認定・記載は、同条5項の罪の犯罪事実の記載としては不必要かつ不適切というべきであるが、同条5項の罪の犯罪事実は漏れなく認定・記載されており、法令の適用の記載からも同条5項の罪の成立を認めたことが明らかであるから、原判決に理由齟齬の違法があるとはいえない。
 法令適用の誤り及び理由齟齬の論旨は理由がない。
 4 よって、刑訴法396条、181条1項ただし書、刑法21条により、主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第5刑事部
 (裁判長裁判官 伊藤雅人 裁判官 島戸純 裁判官 江見健一) 

p108 判例タイムズNo.1514 2024.1
児童に児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせた上,ひそかにその姿態を撮影するなどした行為と同法7条5項の罪の成否
東京高裁r5.6.16
しかしながら, 原審記録によれば前記各事件はいずれも被告人が各児章に所定の姿態をとらせた上ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところこれらについて訴追裁醤を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり同条5項の罪の成立を詔めた原判決の法令の適用に誤りはない所論は同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが,同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であればそのように解すべき合理的理由はなく, 賛同できない。


[解説]
l 事案の概要
本件は,被告人が, 20名を超える13歳未満の児童に対し,強いてわいせつな行為を27件した上,そのうち19件に際して,児童の姿態を動画撮影するなどして児童ポルノを製造した事案である。
本件の児童ポルノ製造の公訴事実は, ① 10件は,児童に,被告人が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児菫買春処罰法」という。)所定の姿態をとらせ,これを動画撮影するなどしたというもの, ②4件は,ひそかに, 所定の児童の姿態を動画撮影するなどしたというもの, ③5件は,ひそかに,被告人が児童に所定の姿態をとらせ,これを動画撮影するなどしたというものであり, ①は児童買春処罰法7条4項の罪により, ②及び③は同条5項の罪により公訴が提起された。
第1審判決は,公訴事実どおりの事実を認定し,各罪の成立を認めた。
②及び③ における証拠によって認定できる具体的事実関係は,いずれも,就寝中の児童に対し,被告人が児童の陰部を露出させる姿態をとらせて動画撮影したというものであり,就寝中の児童を撮影したことが「ひそかに」撮影したものとされたものである。
2 控訴趣意及び本判決の判断
(1) 弁護人の控訴趣意は, ②及び③について,児童買春処罰法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており,同項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要すると解すべきであり,本件各事件においては被告人が児童らに所定の姿態をとらせて撮影するなどしたものであって, 同条4項の罪が成立するから,同条5項の罪は成立せず,同条5項の罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤り又は理由鮒船があるというものである。
(2) 本判決は, 訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し,被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず, 原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり, 同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはないとした上, 「同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要する」という所論について,それが同条4項令5.1.24判夕1512号136頁(同条5項の罪を認めた原判決を破棄し,訴因変更の上,同条4項の罪の成立を誇めた。),大阪高判令5.7.27 (公刊物未登載。本件と同様の事案について, 本件控訴趣意と同旨の控訴趣意を排斥して, 同条5項の罪を認めた原判決を維持した。)がある。
4 児童買春処罰法7条4項の罪に該当する事実の記載がある場合について本件のうち③ の公訴事実は,「ひそかに,被告人が児童に所定の姿態をとらせ, これを動画撮影するなどした」というものであり,同条5項の事実のみならず同条4項の事実を含んでいることから,本判決は,その公訴提起及び公訴事実どおりの犯罪事実を認定した原判決について付言している。
すなわち,本判決は,起訴状の記載から本件公訴提起が同条5項の罪によるものであることは明白であり,被告人が姿態をとらせた旨の事実の記載は,裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある(刑事訴訟法256条6項)ものとはいえないし,その記載によって被告人の防御に支障を生じさせるものでもないとして,公訴提起の手続に違法があるとはいえないとした。
そして, 原判決が姿態をとらせた旨の事実を認定し,犯罪事実として記載したことについては,児童買春処罰法7条5項の罪の記載としては不必要かつ不適切としながらも, 同条5項に該当する事実が認定・記載されていることや,その法令の適用の記載から同条5項の罪の成立を認めたことが明らかであるとして,こうした余事記載によっても原判決に理由麒甑の違法があるとはいえないとした。
5 本判決の意義等本件は,以上述べた点について最高裁判例はなく,理論的に意義が認認められ, 実務的にも参照価値が大きいと考えられる。