児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

監護者性交罪の保護対象が「18歳未満」なのに、不同意性交罪(177条3項)の保護対象が「16歳未満」な訳

監護者性交罪の保護対象が「18歳未満」なのに、不同意性交罪(177条3項)の保護対象が「16歳未満」な訳
 

木村光江「性的自由に対する罪」再考
法曹時報 第76巻01号
4.「性的自由に対する罪という説明」の限界
(1)性交同意年齢一性的判断能力
性交同意年齢とは、同意意の有無を問わずに性犯罪が成立する年齢をいう。
旧法では「13歳未満の者」とされていたが、かねて国連等からは引上げが勧(51)告されており、今回の改正では「16歳未満」へと引き上げられた。
もっとも、単純に16歳未満に引き上げられたわけではなく、被害者が13歳未満の場合には行為者の年齢を問わないが、13歳以上16歳未満の者である場合には、被害者よりも5歳以上年長の行為者に限って処罰対象とされることとされた(177条3項)。
16歳という、刑事未成年(14歳未満)を超えた年齢を設定することにより、例えば15歳同士で恋愛関係にある者の行為も同意の有無にかかわらず処罰対象とされることになってしまうため、これを避ける趣旨で(52)ある。
そこで、改正法では性犯罪の年齢に関する扱いが、3つの段階に分かれることとなった。
まず、①被害者が13歳未満の場合は、|可意の有無や手段の如何、さらに行為者の年齢にかかわらず無条件に不同意性交等罪、不同意わいせつ罪が成立する。
②被害者が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長の者である場合に限り成立する。
面会要求等罪(182条)も16歳未満(53)という年齢制限がある。
そして③18歳未満の場合は、行為者が監護者等である場合に限り、同意の有無や手段を問わずに監護者性交等罪、監護者わいせつ罪が成立する(179条)。
13歳未満と16歳未満とで扱いが異なる理由は、13歳未満の者は、「(1)行為の性的意味を認識する能力」が備わっていないために無条件で成立するのに対し、13歳以上16歳未満の者は「(1)行為の性的意味を認識する能力」は一律にないとすることはできないが、「(2)行為の相手との関係で、その行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手に対処する能力」が十分に備わっているとはいえないためであると説明される。
そして、(2)の能力が十分でない以上、相手との年齢差が大きい場合には、それが対等な関係であるとはいえず、その結果「性的行為に関(54)する自由な意思決定」ができないとされる。
それに対し、監護者性交等罪が18歳未満である理由は何か。
本条の新設は平成29年改正によるが、同改正時の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の事務局説明によれば、18歳未満の者は、監護者に精神的・経済的に依仔しているため、監護者との性交等に応じたとしても、「その意思決定は、そもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して監護者の影響力が作用してなされたものであって、自由な意思決定ということはできない」か(55)らであるとされている。
もし③監護者性交等罪が18歳未満についてのみ成立するのが「自由な意思決定ができない」ことも理由とされるのであれば、令和5年改正において、性交同意年齢を16歳ではなく18歳に引き上げることも不合理ではなかったはずである。
「自山な意思決定」に16歳と18歳とで明確な違いがあるとは考えにくいからである。
やはり、意思決定の違いのみで説明することには、限界がある。
むしろ、性交同意年齢が16歳であるというのは、一応の目安として義務教育課程に属する青少年についてはパターナリズムの観点から無条件に保護するに値すると説明した方が分かりやすい。
明治時代に成立した旧法が13歳未満であったのと比較しても、当時の義務教育が小学校まで(明治40年に義務教育期間が6年に延長され、ほぼ12歳までとなった。
)であったことを考えれば、15歳までは同意や意思決定の問題とは切り離して保護することも十分に理由があるからである。
また、監護者性交等罪が18歳未満であるのは、「意思決定」というよりも、事務局がまさに指摘するように、「生活全般にわたって自己を監督し保護し(56)ている監護者に、精神的・経済的に依存して」いるからである。
そのような依存関係にある者からの性被害は「性的虐待」であり、子どもの人格を破壊する行為であって、|可意や手段の如何にかかわらず当罰性が極めて高い。
性交同意年齢一般を16歳未満に引き上げた令和5年改正でも、監護者性交等罪の対象を18歳未満から16歳未満へと引き下げる変更をしなかったが、監護者(57)による性的虐待を重視する観点からは十分な理由がある。
そこでは、青少年としての保護が重要であって、性的自己決定の有無に決定的な意味があるわけではない。
一般論として被害者の意思決定が重要であることは否めないが、構成要件における年齢の書き分けは、意思決定の問題だけでは説明が困難であるし、その必要もない。
また、性交|可意年齢に関しては、たとえ5歳以上の差がない場合であっても(例えば14歳と18歳)、8号の「地位に基づく影響力」を用いて、不同意の意思の形成、表明、全うを困難な状態にさせた場合には、不(58)同意性交等罪が成立する。
年齢差だけではなく、さらに「不,両}意意思の形成、表明、全う」を判断しなければ処罰の可否が定まらないのであるとすれば、そもそも「5歳以上年長」という年齢差規定を設ける必要があったのかも問題となる。
保護法益を「自由な意思決定の存否」に固執し、それを実際の判断に持ち込むことは、解釈を不必要に複雑にするおそれがある。
また、面会要求等罪(182条)について16歳未満とされた理由も、「自由な(59)意思決定の前提となる能力に欠ける」ためとされている。
同条は、16歳未満の者に対し、わいせつ目的での面会要求行為(,項、,年以下の拘禁刑又は50万円以卜の罰金)、及びその結果、実際に面会をする行為(2項、2年以下の(60)拘禁刑又は100万円以下の罰金)を規定する。
いわゆるグルーミング行為の一部を処罰対象とするものである。
しかし、特にSNS等を通じて呼び出され一般論として被害者の意思決定が重要であることは否めないが、構成要件における年齢の書き分けは、意思決定の問題だけでは説明が困難であるし、その必要もない。
また、性交|可意年齢に関しては、たとえ5歳以上の差がない場合であっても(例えば14歳と18歳)、8号の「地位に基づく影響力」を用いて、不同意の意思の形成、表明、全うを困難な状態にさせた場合には、不(58)同意性交等罪が成立する。
年齢差だけではなく、さらに「不,両}意意思の形成、表明、全う」を判断しなければ処罰の可否が定まらないのであるとすれば、そもそも「5歳以上年長」という年齢差規定を設ける必要があったのかも問題となる。
保護法益を「自由な意思決定の存否」に固執し、それを実際の判断に持ち込むことは、解釈を不必要に複雑にするおそれがある。
また、面会要求等罪(182条)について16歳未満とされた理由も、「自由な(59)意思決定の前提となる能力に欠ける」ためとされている。
同条は、16歳未満の者に対し、わいせつ目的での面会要求行為(1項、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)、及びその結果、実際に面会をする行為(2項、2年以下の(60)拘禁刑又は100万円以下の罰金)を規定する。
いわゆるグルーミング行為の一部を処罰対象とするものである。
しかし、特にSNS等を通じて呼び出された場合の被害の重大性からみれば、「自由な意思決定が欠ける」か否かによ(61)り年齢に制限をかけることは適切とはいえない。
SNSでの行動範囲が拡大し、性的被害に遭う危険性は中学生よりも高校生の方が高いともいえ(図2(62)参照)、改めて18歳未満の未成年一般を面会要求等罪の保護の対象とする余地もあろう。
今回の法改正により、性交|可意年齢が引き上げられたこと自体は適切であったといえるが、上記のような親子関係そのものや、パターナリズムといった視点も加味し、より青少年保護の観点を取り入れることも今後の課題として検討すべきである。
このように、刑法に青少年保護の観点を入れる主張に対しては、18歳未満を一律に保護の対象とする条例と、より重い処罰を想定する刑法とは異なるという議論もあり得る。
しかし、特に青少年のインターネットを通じた性被害は成人以上に重大であり、条例のような相対的に軽い刑罰だけに委ねられる領域ではないであろう。