児童に対する性犯罪に並行して盗撮行為が行われた場合の児童ポルノ製造罪の罪名について、姿態をとらせて製造罪説に仙台高裁r6.1.23が加わり、3対3で拮抗しました。
仙台高裁の事例は、当初、ひそかに製造罪で起訴され、大阪高裁r5.1.24の影響で姿態をとらせて製造罪に訴因変更され1審判決になったものですが、控訴審でひそかに製造罪が正解じゃないのかという法令適用の誤りが主張されたようです。
(1)姿態をとらせて製造罪説
①大阪高裁H28.10.26*1(姫路支部h28.5.20*2)
②大阪高裁r05.1.24*3(奈良地裁R04.7.14*4)
③仙台高裁r6.1.23(仙台地裁r5.7.20)
仙台高裁r6.1.23
2 訴訟手続の法令違反の論旨について
所論は、原判示第1の2、第2の3、第3の3及び第7の3について、「ひそかに製造罪」から、「姿態をとらせて製造罪」に訴因及び罰条の変更を求めた検察官の訴因及び罰条の変更請求(以下、この請求を「本件訴因等変更請求」という。)を許可した原審の訴訟手続は、必要性のない誤った訴因変更請求に対し、釈明等を尽くさずにこれを認めた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
しかし、本件訴因等変更請求は、いずれも同一日時における同一の被害児童らの法所定の姿態についての撮影、記録行為が、「ひそかに、就寝中の被害児童ら」についてこれを行ったのか、「被告人が被害児童らに法所定の姿態をとらせ」てこれを行ったのかを変更するとともに、いずれも罰条を児童ポルノ法7条5項から4項に変更するものであって、基本的事実関係が同一であることは明白である。所論は、上記各事実については、「ひそかに製造罪」のみが成立し、「姿態をとらせて製造罪」は成立しないのであるから、本来訴因変更が必要のない公訴事実及び罰条を変更するものであって誤っているなどと主張するが、刑事訴訟法312条1項によれば、裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因等の変更を許さなければならないのであって、所論が指摘する成立罪名に関する主張の当否にかかわらず、本件訴因等変更請求を許可した原審の訴訟手続に誤りはない。また、所論は、原審裁判所が本件訴因等変更請求について釈明等を尽くさなかったとも主張するが、仮に、証拠上成立しない訴因又は罰条への変更であっても、そのことのみから直ちに原審裁判所が何らかの釈明を求めるべき義務が生じるとはいえない上に、後記法令適用の誤りの論旨についてみるように、本件では、上記各事実については「姿態をとらせて製造罪」のみが成立し、「ひそかに製造罪」は成立しないとの原判決の判断に誤りはないのであるから、なおさらである。
訴訟手続の法令違反についての論旨は理由がない。
3 法令適用の誤りの論旨について
所論は、原判決は、〔1〕原判示第1の2、第2の3、第3の3及び第7の3の各事実については、「姿態をとらせて製造罪」ではなく、「ひそかに製造罪」が成立するのに、前者の成立を認めた誤り、及び、〔2〕原判示第1の1と第1の2、第2の1及び第2の2と第2の3、第3の1及び第3の2と第3の3、第7の1及び第7の2と第7の3の各事実は、それぞれ観念的競合として処断すべきであるのに、併合罪として処断した誤りがあり、これらは、判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
(1)所論〔1〕について
原判示第1の2、第2の3、第3の3及び第7の3の訴因変更後の各事実は、いずれも、公訴事実の記載自体から被告人が各児童にそれぞれの姿態をとらせたことが明らかとなっているということができるところ、「ひそかに製造罪」と「姿態をとらせて製造罪」との関係については、児童ポルノ法7条5項が「前2項に規定するもののほか」と定めていることなどからすれば、撮影の事実を児童が認識していたかどうかにかかわらず、行為者が姿態をとらせた場合には、「姿態をとらせて製造罪」が成立し、「ひそかに製造罪」は適用されないと解するのが相当である(大阪高等裁判所令和4年(う)第758号令和5年1月24日判決参照。なお、所論指摘の裁判例は、具体的な事実関係をもとに一定の法令の適用をした原判決の解釈、判断が誤りであるとまで断ずるには足りないと説示したものに過ぎず、判例違反もない。)。所論は独自の見解であって採用することができない。したがって、上記各事実について「姿態をとらせて製造罪」が成立するとした原判決の判断に誤りはない(なお、記録によれば、原判示第6の別表5番号1(J)及び第8の別表7番号3(U)についても、被告人が被害児童らに声をかけて小便器に誘導した上で小便中の姿態を撮影しており(原審甲102)、「姿態をとらせて製造罪」が成立する可能性もうかがわれるものの、公訴事実の記載自体からそのことが明白な場合ではないのであるから「ひそかに製造罪」として起訴されたこれらの罪について訴因等変更の手続を経ることなく罪となるべき事実を認定した原判決の判断にも誤りはないし、このような場合において、犯情がより悪いとも評価する余地のある「姿態をとらせて製造罪」の成否について裁判所が検察官に対し釈明を求める義務があったともいえない。)。
(2) ひそかに製造罪説
①東京高裁r5.6.16*5(立川支部r05.1.20*6)
東京高裁r5.6.16
しかしながら、原審記録によれば、前記各事件は、いずれも、被告人が、各児童に所定の姿態をとらせた上、ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところ、これらについて、訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し、被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず、原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり、同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはない。所論は、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが、同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であれば、そのように解すべき合理的理由はなく、賛同できない。
②大阪高裁R5.7.27*7 (神戸地裁姫路支部R5.3.23*8)
大阪高裁R5.7.27
以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。
③大阪高裁r5.9.28*9(奈良地裁葛城支部R5.3.13*10)
大阪高裁r5.9.28
以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。
(3)姿態をとらせて製造罪説かひそかに製造罪説か判然としないもの
東京高裁r5.3.30*11(東京地裁R04.7.14*12)
東京高裁r5.3.30
その余の事実については、同項の製造に該当するとした原判決の解釈が誤りであるとまで断ずるには足りないし、仮に同条4項による製造と認定すべきであって法令の適用に誤りがあるとしても、同項の製造罪と同条5項の製造罪は、同一法条に定められ、その罪質も法定刑も同じであって、本件において、その要件の差により被告人の防御の機会を奪う事態となっていたとは考え難いし、量刑上も影響を及ぼすものではないことが明らかであるから、その誤りは判決に影響を及ぼさない。