児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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非接触型わいせつ行為の文献

接触型わいせつ行為の文献
薄井論文に引用されているとこ

薄井真由子「強制わいせつ罪における「性的意図」」植村立郎「刑事事実認定重要判決50選_上_《第3版》」
3「わいせつな行為」該当性の判断について
(1)本判決の分析
 本判決は,あくまで性的意図の要否について判断したものであって,性的意図を強制わいせつ罪の成立要件でないとしたことに関連して,行為者の主観的事情が「わいせつな行為」該当性の判断要素の一つとなることがあり得るとしたにすぎない。したがって,本判決は,刑法176条の「わいせつな行為」の定義を直接判示するものではない。もっとも,その判示内容からすると,「わいせつな行為」該当性についても,次のとおりの判断枠組みを示しているとみることができる。
 ア 判断基準
 第1に,判断基準として,「いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪の一般的な受け止め方を考盧しつつ客観的に判断されるべき」であるとする。これは,一般人からみて刑法176条の「性的な被害」と評価できるかという観点の検討を求めているものと考えられる 5)。強制わいせつ罪のわいせつ概念については,「性的性質を有する一定の重大な侵襲」と定義する見解が示されている 6) が,本判決もこの見解に親和的と解される 7)。
 イ 具体的判断方法
 第2に,具体的判断方法としては,まず,①行為そのものが持つ性的性質が明確で,直ちにわいせつな行為と評価できる行為と,②当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為があるとした。そして,②の行為については,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,○アその行為に性的な意味があるといえるか否かや,○イその性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断するものとした。その上で,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があるというのである。
 したがって,「わいせつな行為」該当性の判断に当たっては,まず,「行為そのものが持つ性的性質」を検討することになる。
(2)行為そのものが持つ性的性質の判断について 8)
 上記(1)イ①行為そのものが持つ性的性質が明確で,直ちにわいせつな行為と評価できる場合とはどのような行為であろうか。
 本判決で問題となった「被害者に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触るなど」の行為が,①の場合に当たることは異論のないところである(なお,平成29年改正により刑法177条の強姦罪は強制性交等罪となり,同罪の処罰対象となる性交等に膣性交のほか口腔性交・肛門性交が含まれるようになったため,現在ではそもそも陰茎を口にくわえさせる行為は176条ではなく177条による処罰対象となっている。)が,①の場合に当たる行為について,部位と態様の2つの側面から検討することとしたい 9)。

6)佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」法時88・11・60。この見解は,①刑法176条の保護法益が個人の性的自己決定権であること,一方,②「被害者の性的羞恥心を害する行為」「被害者の性的自由を害する行為」との定義では幼児など性的羞恥心・判断力を持たない者に対する保護が及ばないかのような誤った印象を与えうること,③同条の法定刑は比較的高く,迷惑防止条例における「卑猥な行為」などがより軽く処罰されている以上,ある程度の重大性が必要であることを理由とする。
8) 佐藤・前掲注6)63以下では,ドイツの議論を参考とし,刑法176条の「わいせつな行為」の判断に当たっては,全事情を評価し,その評価の基準は一般人の通常の感覚に求められるとする。そして,全事情の中でも,①関係する部位,②接触の有無・方法,③継続性,④強度,⑤性的意図,⑥その他の状況といった要素が重視される。最も重要なのは①②であり,③④は行為者と被害者の身体が接触するような行為態様において①②に準じる重要性を有するのに対して,⑤⑥の要素は①~④による判断を補う程度の重要性しか有していないとしており,参考となる。
 なお,①関係する部位については,関係する部位に性的要素が強いほど,重大な性的性質は認められやすくなること,同じ性器であっても,被害者側の性器が関係している場合と行為者側の性器が関係している場合とでは,被害者側に関係する方が性的自己決定権侵害の程度が高く,重大といえること,性器や性を象徴する部位以外の部位では,性器等と

9)嘉門優「日本におけるハラスメントの法規制―セクハラに対する処罰のあり方について」刑ジャ60・27では,裁判例を分析すると,強制わいせつ罪におけるわいせつ行為として理解されるものは,大きく分けて接触型・非接触型があり,さらに部位,態様等により8類型に分類することができるとしている。

嘉門優「日本におけるハラスメントの法規制―セクハラに対する処罰のあり方について」刑事法ジャーナル60号p27
また、性的侵害性判断においては、接触が基本的な要素であるため、非接触型(G・H類型)については(19,基本的にはその性的侵害性は低いという位置づけになり、それを補うために強制という要素が強く要求されることになる。つまり、被害者は、目をつぶるなどして「見ない」という形で被害を避けることもできると考えられるため、この類型の性的侵襲の重大性を根拠づけるために、裁判例において、被害者が見ることを「強いられた」ということがより強く要求されてきたのである20)
以上のように、強制わいせつ罪の判断においても、判例上、柔軟な解釈によって非接触型を含めてかなりの範囲の性的嫌がらせを捕捉することが可能となっているものの、その判断において一定の重大な性的侵害性が要求されてきたと分析しうる。そのため、被害者の性的部位を服の上から触るような場合や、オフィスで、ポルノ写真を部下である被害者に見せるといった環境型のセクハラの場合については、原則、強制わいせつ罪の対象とはならないということになる。

佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」法律時報第88巻第11号P60
(2)我が国における判断方法
(a)基本的視点
ドイツの議論を参考にすると、176条の「わいせつな行為」の判断にあたっては、全事情を評価の基礎とし、その評価の基準は一般人の通常の感覚に求められうる。
確かに一般人の通常感覚は基準足りえないとの批判もありえよう。
しかし、性的か否かは、科学的に検証可能な概念ではなく、その評価は社会通念に依存するのであるから、この基準が妥当というべきである。
そして、176条の「わいせつな行為」、すなわち、性的性質を有する一定の重大な侵襲に該当するかを判断する際には、①客観的にみて、行為がわずかでも性的性質を帯びていることが必須である。
およそ性的でない行為は176条には含まれ得ない。
さらに、②性的性質を有するすべての行為がわいせつなのではなく、その行為に法定刑にふさわしい一定の重大性が必要である。
(b) 具体的指針
それでは、全事情の中でもいかなる要素が、わいせつ性判断の際にとりわけ重視されるべきであろうか。
これまでの我が国の裁判例及びドイツの議論を参考にすれば、
(i)関係する部位、
(ii)接触の有無.方法、
(iii)継続性、
(iv)強度、
(v)性的意図、
(ⅵ)その他の状況
が挙げられるように思われる。
(i) 関係する部位は、最も重要な考慮要素であろう")。
たとえばドイツでは性器はタブーゾーンと呼ばれ、この部位が行為に関係していれば重大な性的性質は容易に認められる。
また性器以外の性を象徴する部位(胸、緯部)も、重大な性的性質が認められやすいとされる。
我が国でも、このような関係する部位による区別はすでに行われている。
関係する部位に性的要素が強いほど、重大な性的性質は認められやすくなり、弱いほど、それを補う別の要素が必要になるとの基準は、我が国の社会通念においても十分認められるだろう。
そして同じ性器であっても、被害者側の性器が関係している場合と行為者側の性器が関係している場合とでは、被害者側に関係する方が性的自己決定権侵害の程度が高く、重大といえよう。
また、性器や性を象徴する部位(性器等)以外の部位では、性器等との距離が重要となる。
太ももの付け根部分と足首とでは太ももの方が性器に近く、性的要素が強いというべきである。
他方で、性的部位とまではいえないものの、我が国におけるキスに対する社会通念に鑑みると、唇、口腔、舌にも性的要素は強く認められうるであろう。
なお、男性・児童の胸や臂部は女性のそれと同視できない(36)との理解は、少なくとも176条においてはもはや通用しないであろう。
セクシャル.マイノリティーの保護、そしてペドフィリアからの児童の保護に鑑みて、それらも性的要素の強い部位と解されるべきである(37)。(ⅱ)接触の有無・方法に関しては、原則として、物理的接触があるほど侵襲の程度は高くなろう。
また同じ接触であっても、被害者の肌と行為者の肌が触れ合うほど、重大な侵襄性が認められる。
このような基準は、実際我が国の刑事実務においても用いられているように思われる。
たとえば、臂部を着衣の上から触った場合は迷惑防止条例上の罪になるが、着衣の中に手を入れて触った場合は強制わいせつ罪であるというような区別である(38)。
それに加えて、道具を用いた行為は、その道具の性質も考慮されるべきである。
服の上からの接触であっても性具を用いた場合は、その他の道具を用いた場合よりも重大な性的性質を認めやすい39)。
性具はまさに性を象徴する道具だからである。
(ⅲ)継続性も重要である。
短期間一回きり触るより、執勧に触った方が重大であるのは自明であろう.。
(iv)強度もまた重要である。
胸を手の甲でさっと触るより、掌でしっかり握った方が重大であるといえよう。
なお、性器を切り落とすような場合は、侵襲性は極度に重大ではあるが、社会通念上、性的と評価されないため、176条のわいせつ該当性は否定されうるだろう。
(v)性的意図については、最高裁判例において必須とされている‘皿)。
しかし、そもそも伝統的わいせつ概念では性的意図が要件になるものであるのに対し、本稿のように被害者の性的自己決定権を重視する定義においては、行為者の性的意図を必須の要素として求める理由がない。
176条の成立において行為者の内面における性的な堕落は重要ではないのである。
性的意図以外の要素に基づいて既に重大な性的性質が認められている場合、性的意図の欠如はわいせつな行為を否定する根拠になりえない。
嫌がらせ目的にせよ、戯れにせよ、幼児の陰部に物を挿入した場合42)には、重大な性的性質が認められるから、行為態様から性的意図を推認せずとも、176条のわいせつな行為は肯定されるというべきである.43)。
一方、性的意図は必須ではないとしても、一つの考慮要素にはなりえよう4''。
例えば、児童を抱きしめて体を撫でる行為であっても、性的意図なく愛情から撫でる場合と、性的意図をもって撫でる場合とでは、重大な性的性質が異なるというべきである。
性的性質の弱い行為であっても、性的意図があることにより、わいせつな行為として認められるようになるのである。
本稿のように、性的意図をわいせつな行為の-考慮要素とすれば、①治療行為や②フェティシズム行為において、性的意図がどのような影響を与えるかが問題になろう。
①我が国の裁判例においては、治療行為についても性的意図を重視する傾向にあるように思われる45)。
しかし、治療行為は社会通念上、およそ性的性質を有さないであろう。
同じ陰部に指を挿入する行為であっても、婦人科医が診察行為としてそれを行う場合はもはや社会的評価が異なるといえる。
さもなければ、客観的に全く正当な治療行為46)をおこなった医師に犯罪が成立しうることになるだろう。
確かに、仮に行為者の性的意図が被害者に明らかになれば、被害者の董恥心が著しく害されることになるだろうが.47)、内心に性的意図が|隠れていることだけを理由として、客観的に正当な治療行為を処罰することは不当であろう.48)。
②性的意図だけで処罰できないという点では、フェティシズム行為も同様であろう。
たとえば、女性が嘔吐する姿に性的興奮を覚える者が、女性の口に指を入れて嘔吐させる行為(49)は、社会通念上ほとんど性的性質を有さない行為であるため、単に行為者に性的意図があったことを理由に、176条で処罰すべきではないだろう50)。
(vi) その他の状況として、行為時のひわいな言動が行為の性的性質を高めうることについては我が国の社会通念上、認められるであろう51)。
その他の状況に関係して、ドイツでは、暴行.脅迫の強度が重大性の判断に影響を与えるかが争われている52)。
例えば、同じく着衣の上から幼児の胸部を数回なでる行為でも、満員電車で身動きできない状況を利用する場合と、被害者を力ずくで壁に押さえつけるなど強度の暴行を行った場合では、強制わいせつ罪の成否の判断が分かれうるかという議論である。
暴行・脅迫の強度は行為の性的性質とは無関係であるが、我が国の実務には、暴行の強度を強制わいせつを認める要素に取り込んでいるように見える裁判例も存在する53)。
確かに、暴行・脅迫は行為の性的性質に関係しておらず、重大性の判断とは無関係なように思われる。
しかし、そもそも性的性質に一定の重大性を求めたのは、法定刑に見合った侵害レベルを求めるためであった。
だとすれば性的性質の程度が弱くとも、強度の暴行・脅迫かそれを補うことも例外的にありうるように思われる54)。
ただし、その際には、暴行・脅迫が性的性質に影響を与えない以上、問題となる行為に-.定程度を超えた性的性質が最初から備わっていなければならないであろう。
また、性的性質は弱くとも、付随する行為の侵襲性の強度によって一定の重大性を補うという考え方は、行為が密室で行われるような場合にも妥当するように思われる。
密室による心理的圧迫は侵婆性を高めるからである55)
以上が、わいせつの判断要素である。
これらの中で最も重要なのは(i)(ii)であろう。
(iii)(iv)は、行為者と被害者の身体が接触するような行為態様において(i)(ii)に準じる重要性を有する。
これに対して、(v)(、Ii)の要素は、(i)~(iv)による判断を補う程度の重要性しか有していないといえよう。