児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

監護者性交罪につき「本件当日のそのゲームのアクセスログによれば,3日午前8時52分から午前9時10分までの間,ゲーム操作を行っていたことが判明したのに、「平成30年8月3日午前8時30分頃から同日午前10時50分頃までの間に,当時の自宅において,Aと口腔性交及び性交をし」と原審が事実認定したなどと指摘された事例(仙台高裁r01.12.17)

監護者性交罪につき「本件当日のそのゲームのアクセスログによれば,3日午前8時52分から午前9時10分までの間,ゲーム操作を行っていたことが判明したのに、「平成30年8月3日午前8時30分頃から同日午前10時50分頃までの間に,当時の自宅において,Aと口腔性交及び性交をし」と原審が事実認定したなどと指摘された事例(仙台高裁r01.12.17)
 1対1の事件でも、スマホとかpcのアクセスログが残っていればアリバイ立証に使えそうです。

 差し戻し審 福島地裁r03.1.15 懲役6年
https://digital.asahi.com/articles/ASP1K3H5HP1GUGTB015.html
判決は娘の証言が事実と整合しないと認めつつ、その理由は娘が記憶があいまいなまま、証言の重要性を認識せずに供述したためと指摘。「原審を担当した検察官の不十分な訴訟活動」が原因であり、娘が意図的に虚偽の証言をしたわけではないとして、犯行に直接関係する娘の証言の信用性を認めた。

裁判年月日 令和元年12月17日 裁判所名 仙台高裁 裁判区分 判決
事件名 監護者性交等被告事件
 
 上記の者に対する監護者性交等被告事件について,平成31年3月28日福島地方裁判所郡山支部が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官加藤裕出席の上審理し,次のとおり判決する。 

主文

 原判決を破棄する。
 本件を福島地方裁判所に差し戻す。
 
 
理由

 第1 本件控訴の趣意は,弁護人F作成の控訴趣意書及び同補充書に,これに対する答弁は,検察官加藤裕作成の答弁書に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。論旨は,事実誤認の主張である(以下,関係者の呼称は,原判決のそれに従う)。
 第2 原判決と弁護人の主張
  1 原判決の認定事実
 原判決は,罪となるべき事実として,「被告人は,実子であるA(当時16歳)と同居してその寝食の世話をし,その指導・監督をするなどして,同人を現に監護する者であるが,同人が18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交等をしようと考え,平成30年8月3日午前8時30分頃から同日午前10時50分頃までの間に,当時の自宅において,Aと口腔性交及び性交をし,もって同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交等をした」と認定した。
  2 認定した過程の説明
 原判決は,事実認定の補足説明の項において,Aの証言内容を「平成30年8月3日の朝に自宅で目を覚ました後,前日の夜に被告人から「明日の午前中にな」と言われていたので,説教をされるのだと思って居間にいる被告人の下へ行った。すると,被告人から「一緒にお風呂に入るぞ」と言われ,それまでにも説教をされながら胸を触られたり,膣に指を入れられたりしたことがあったので,このときも自分が悪いことをしたことを理解させるために風呂で胸を触ったりするのだと思った。被告人と一緒に風呂に入ると,被告人の性器を洗わせられた上,自分の胸や性器を触れられるなどした。風呂から上がった後に被告人に呼ばれて居間に行くと,「服を脱げ」と言われたので服を脱ぎ,その後,被告人に言われるままに体勢を変えながら,口腔性交と膣性交をした。膣性交の最中,自分の何がいけなかったのかや,これからどうしていくのかを話さないと説教が長引くと思い,これらのことを話した。被告人は避妊具を付けていなかったが,途中で「もういい」と言って膣から性器を抜いた。被害に遭った時間は,今ははっきり覚えていないが,以前,午前8時30分頃と述べていたのであれば,今の記憶とも矛盾はしない」と要約した上で,その信用性について,「Aが本件被害を申告するまでの経過を見ると,Aは,本件前日,高校の部活動仲間のBに対し,LINEで,被告人から説教を受けるときに胸を揉まれるなどの性的被害に遭っていることを相談するメッセージを送信した。本件直後に,友人Cに対し,LINEで「ついにね」「やりましたよね」「おやと」「フェラもしましたさ」「なまですよ」とのメッセージを送信し,Cからの「中出し?」との返信に対し,「出してないね」「途中でやめました」「処女がおやってゆうね」「おわったよね」「いやもう男子が無理な希ガス」「彼氏なんて一生いらないわ」とのメッセージを送信した。本件後,部活動に行くと,部室にいたBを外に呼び出した。泣き出してしばらく話をすることができなかったが,「お父さんに入れられた」「服を脱げなどと言われ,これは教育の一環だなどと性的暴力をされた」などと告白した。本件当日夜,Bに対し,LINEで「家に入ったやん その時のこと蘇るやん まじでおかしくなるよね」「気持ち悪すぎて」とのメッセージを送信した。本件の2週間後に警察署を訪れて被害を申告し,その後,母親に被害を打ち明けた。以上のような本件被害申告の経過に照らすと,Aが意図的に虚偽の被害申告をしたのだとすると,それに先立って友人に被害を告白したのは,本件被害に思い悩む様子を装うことで申告内容の信用性を高めようとしたものと考えるほかない。しかし,16歳で高校生のAが,一人で複数の友人を巻き込みながら,そこまで周到な準備を重ねて虚偽の被害申告をしたと考えるのは非現実的で無理がある。Aが実際に申告したとおりの被害に遭って思い悩んでいたからこそ,被害申告に先立って複数の友人に相談したと考える方が自然で合理的である。Aが全て計算の上で意図的に虚偽の被害申告をしたのであれば,警察に行くようにというBの助言は好都合で,直ちに警察に被害申告することをためらう理由は全くないはずである。Aは,周りに迷惑をかけたくなかったし,卒業まで我慢すればいいと思ったので,すぐに警察には行かなかったが,最終的にこれ以上我慢できないと思って警察に行ったと述べて,被害申告が本件の2週間後になった理由を合理的に説明した。実の父親と性交等をしたことを友人等に知られれば自分の名誉等が大きく損なわれ,平穏な社会生活を送るのに支障が出る可能性が高い上,一家の生計の柱である被告人が刑事処分を受けることで自分の生活や進路選択にも重大な影響が生じかねないなど,A自身の不利益が余りに大きいことからも,虚偽の被害申告の可能性は考えにくい。関係証拠によれば,本件前夜にAと被告人が自宅で顔を合わせる機会がなかったと認められるから,本件前夜に被告人から「明日の午前中にな」と言われたというAの証言は,事実と異なる可能性がある。しかし,Aは,本件以前にも被告人から説教を受けた際にわいせつな行為をされたことがあったというのであって,被告人の前記発言があった場面や日時を勘違いしているなどの可能性が想定できる。Aが事実と異なる証言をしているからといって,本件被害を受けたとのAの証言の核心部分の信用性が揺らぐとはいえない。本件当時,Aの兄Dが在宅し自室にいた。Aは,迷惑をかけるという思いや恥ずかしさから助けを求めることができなかったという。Aの当時の心理状況に照らして納得できる。被告人は,これまでにDの在宅中に居間で妻と性行為をしてもDに気付かれたことがなかった。Dは,在宅時には,用事がない限り自室で過ごすことがほとんどであり,本件当時は,午前10時頃から午前11時頃に起床していた。被告人が,Dが在宅しているのを認識しながら,Aと性交等をしたとしても不自然とまではいえない。以上からすると,Aが意図的に虚偽の被害を述べている疑いはないといえるのであって,原判示の被害を受けたとのAの証言は信用できる。」と説示し,Aの証言に依拠して前記犯罪事実を認定した。
  3 論旨は,「原判決は,公訴事実記載の日時場所で被告人から性交等をされたとのAの証言を信用することができるとして,上記事実を認定したが,Aは意図的に虚偽の被害を述べている疑いがあり,その証言を信用することができないのであって,その他に公訴事実を立証する証拠はないのであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある」というのである。
 第3 本件前夜に被告人から「明日の午前中にな」と言われたとの証言について
  1 所論は,「本件被害は,Aが本件前夜に被告人から「明日の午前中にな」と言われたことが契機となり,本件当日朝,目が覚めた後に居間にいる被告人の下に行ったことから始まっている。「明日の午前中にな」という発言がなければ,本件当日朝,Aが被告人の下へ行く必要はないことになる。本件前夜に,Aが被告人と顔を合わせる機会がなかったという事実は,Aの証言の核心部分の信用性を揺るがす」と主張する。
  2 前夜に被告人から翌日を指定されたことの意味
 Aは,原審において,「8月2日の夜,自宅で,被告人から「明日の午前中にな」と言われ,怒られるのだろうと思った。8月3日の朝,自室で午前8時過ぎに目を覚まし,居間の布団で寝ている被告人のところに行った。被告人から風呂に入ると言われて風呂に入った後,居間に戻って,本件被害を受けた」と供述した。
 Aの証言によれば,本件被害に遭ったのは,8月3日の朝,目が覚めてすぐに被告人のいる居間に行ったからであり,それは前日の8月2日の夜,被告人から「明日の午前中にな」と言われていたため,これに従って居間に行ったというのであるから,その被告人の発言は,被害者が本件被害に遭うに至った原因をなすものとして極めて重要な事実である。
 8月2日の夜の発言を聞いたという事実が存在しないとすると,8月3日の朝の本件被害の事実の存在が疑わしいものになるという関係にある。
  3 原審における主張と立証
   (1) 検察官は,公判前整理手続において,「被告人は,8月2日の夜,Aに「3日の午前中にな」と言った」ことを証明予定事実(平成30年10月19日付け)として掲げた。8月2日夜の被告人及びAの所在についての証拠としては,検察官は,甲4報告書(Aの所在(タイムライン))と甲20報告書(被告人の職場の出退勤)の証拠調べを請求しており,弁護人は一部同意し,裁判所は同意部分を採用した。検察官は,第1回公判期日における冒頭陳述では,8月2日の発言に言及せず,被告人が3日午前6時50分に夜勤の仕事を終えて帰宅し,午前8時過ぎにAに「一緒に風呂に入るぞ」と言って,犯行に及んだことを掲げた。
 弁護人は,第1回公判期日における冒頭陳述では,8月1日の夜と2日の夜,被告人にはAと会話をする機会がなく,犯行の端緒となる「3日の午前中にな」という発言が存在しないことを掲げた。
 第1回公判期日で,上記の甲4,20を含む書証が取り調べられ,引き続いてAとBの証人尋問がなされた。第2回公判期日で被告人質問が行われ,第3回公判期日で結審した。
 論告において,検察官は,8月2日の夜に「明日の午前中にな」と被告人に言われたというAの証言が信用できるとしつつ,甲4,20によれば,2日の夜に直接接触していないことがうかがわれるが,Aは,本件以前にも,被告人から説教を受けた際に胸を触られるなどの被害に遭っており,その際の出来事と混同したり,言われた日時を勘違いしたりしたとしても不自然ではない。仮に,前夜に言われていなかったとしても,本件当日にAが被告人と接触しなかったことになるものではなく,Aの証言の信用性を失わせるものではないと述べた。
 弁護人は,2日の夜,「3日の午前中にな」と言われたとの証言は,甲4,20の証拠から判明した「2日の夜には被告人とAとが自宅で顔を合わせる機会がなかった」との事実に整合せず,虚偽の証言であると述べた。
   (2) 甲4によれば,8月2日にAが帰宅したのは午後8時頃であった。甲20によれば,被告人が自宅を出たのは午後8時11分からさかのぼる数十分前ということになる。したがって,2日の夜,被告人とAが接触する機会はなかった。
   (3) Aの原審供述で,2日の夜に関する部分は次のとおりである。
 ア 検察官「3日の朝,目が覚めた後はどこに行きました」
 A 「居間の布団で寝ているお父さんのところに行きました」
 検察官「どうしてお父さんのところに行ったのかな」
 A 「前の日の夜に,「明日の午前中にな」って言われていたので,行きました」
 検察官「2日の夜にお父さんから「明日の午前中にな」って言われたとき,次の日の午前中に何があるのかなって思った」
 A 「お父さんに怒られるんだなって思いました」
 イ 弁護人「8月2日の夜ですが,あなたが帰宅したのは午後8時頃ということで間違いないですか」
 A 「覚えてないです」
 弁護人「お父さんから言われた「明日の午前中にな」という発言がなければ,あなたは3日の午前中にお父さんに謝りに行く必要はないですよね」
 A 「はい」
 ウ 裁判官「8月2日の夜に,お父さんから「明日の午前中にな」と言われたのは,どこで言われたか覚えていますか」
 A 「覚えてないです」
 裁判官「直接会って顔を合わせて言われたのか,それともほかの方法だったのか,覚えていますか」
 A 「直接会って言われました」
 裁判官「その場所が自宅だったのか,それ以外の場所だったのか,覚えていますか」
 A 「自宅だったと思います」
   (4) 以上によれば,Aが公判で「2日の夜に「明日の午前中にな」と言われた」と供述したのは,真実ではないことを供述したことになる。
  4 別の機会に聞いたこととの混同・勘違いについて
   (1) 検察官は,論告で,「Aは以前にもわいせつ被害に遭っており,その際の出来事と混同したり,言われた日時を勘違いしたりした可能性がある。この点で,Aの供述が真実でないとしても,3日朝に本件被害を受けたとのAの供述の信用性には影響しない」と主張した。
 原判決も,これを採り,Aが事実と異なる供述をした原因について,「本件以前にも説教を受けた際にわいせつな行為があったことからすると,被告人の「明日の午前中にな」との発言があった場面や日時を勘違いしている可能性が想定できる」とした上で,「この点で事実と異なる供述をしたからといって,本件について,意図的に虚偽の被害を述べているとの疑いを直ちに生じさせるものではない。この点の不整合をもって,本件被害のA供述の核心部分の信用性は揺らがない」とした。
   (2) 検察官や原判決がいう「発言を聞いた場面や日時の勘違い」というのは,8月2日より前に「夜,Aが被告人から「明日の午前中にな」と言われた(これに従って翌朝,被告人のところに行くと何らかのことをされることになる)」という事実があり,そのときの記憶と本件の記憶とが混同して,上記の公判供述として表現されたことを意味する。
   (3) 原審の審理では,証拠調手続に入る前の段階で,弁護人の指摘により,2日の夜の発言の存否・接触の機会の存否の点が争点化されていた。書証の取調べ(甲4,20)によって,2日夜に被告人とAとの接触の機会がないことが明らかになっていた。Aの証人尋問において,検察官が「3日の朝,どうして行ったのか」を質問したところ,Aが「前の日の夜,被告人から「明日の午前中にな」と言われた」と答えたにもかかわらず,甲4を用いるなどして,その記憶の真偽を確認することをせず,かえってその応答を前提にして尋問を続けた。弁護人は,2日夜の接触の機会がないことを意識した反対尋問を行い,裁判所の補充尋問でもその点の確認をしている。しかし,いずれの立場からも,他の機会との混同や勘違いではないかとの視点からの質問はない。
  5 被害申告後のAの供述
   (1) 当審では,原審でAの供述がなされるに至った経緯について,供述経過として,8月17日聴取(捜査復命書),8月24・29日取調べ(8月29日付け検察官調書)の結果を取り調べた。
 ア 8月17日の警察への被害申告時の供述内容
 「8月3日の数日前の夜中,私が自分の部屋で寝ていたら,お父さんが私に覆いかぶさるようにしてきたことで目を覚ました。いつものように説教されているのだと思った。お父さんは,私の胸を触ったり,自分の指を私の口の中に入れたりしてきた。お父さんは,私の体を触り終わって部屋を出て行くときに,「8月3日の午前中にな」と言ってきた。私は,その日にまた説教されるのだろうなと思った。お父さんは,そのとき「明日にな」とか,「明後日にな」という言い方ではなく,「8月3日にな」という言い方で言ってきた」
 イ 8月24日及び同月29日の検察官の取調べ時の供述内容
 「私は,8月3日の前の夜か,前の前の夜,つまり,8月1日か2日の夜に,お父さんから「3日の午前中にな」と言われた。私はそれを聞いて,私がまた何かやっちゃったんだ,8月3日にお父さんからいつものように怒られるんだと思った」
   (2) なお,甲4と20は9月3日に作成されており,ほどなくして検察官に送付され,検察官は2日の夜に接触の機会がないことを把握していたものと考えられる。
   (3) このように,Aの供述とこれに関連する証拠を得ていたのに,検察官が,証明予定事実記載書面で,発言を聞いたのを2日の夜に限定した理由はよく分からない。また,検察官はこれらの捜査段階の供述内容を把握していながら,Aの「2日の夜に発言を聞いた」との供述について,記憶の真偽を確認するための質問などはしていない。
 これらの捜査段階の供述と,公判供述とを比べると,内容が変化しつつ,発言を聞いた日が限定されていくのであって,時間の経過による記憶の減退として説明することは困難である。
  6 小括
 以上のとおり,この点に関してのAの公判供述の真偽を確認するために必要な審理を行うべきであったが,原審ではそれが尽くされていない。
 第4 本件当日午前8時30分頃から被害を受けたとの証言について
  1 所論は,「Aは,本件当日午前8時30分頃から被告人との性交等が始まったと証言した。しかし,被告人のスマホには,午前9時にゲームをしていたことを示す履歴が残っており,午前9時10分にも何らかの操作をした履歴が残っていた。これによれば,被告人は,Aと性交等を始めたものの,その途中で一時中断してゲームに興じるなどした後に性交等を再開したことになり,余りに不自然である。Aもそのようなことがあった旨を証言していない。本件被害を受けたとのAの証言は信用できない」と主張する。
  2 原審における主張と立証
 検察官は,証明予定事実記載書面に,「被告人は,3日午前6時50分夜勤を終え,帰宅した。午前8時過ぎ,謝罪してきたAに「一緒に風呂に入るぞ」と言い,犯行をした」と記載した(この点は,第1回公判期日での冒頭陳述でも同旨の主張をした)。
 弁護人は,予定主張記載書面に,「Aは,3日午前8時30分頃に帰宅し,朝食を作って食べ,テレビを見たり,携帯ゲームをした後,午前10時頃に就寝した」と記載した。
 前記の甲20によれば,被告人が夜勤を終えて職場を退勤したのが,午前6時50分であった。
 被告人は,被告人質問で,「職場を出たのが午前7時過ぎで,○○のゲームをしながら帰ってきたので,帰宅に約1時間30分かかり,午前8時30分過ぎに自宅に到着した。朝食を作り,居間で朝食を食べながら録画してあったビデオを見て,午前10時過ぎに寝た。Aとは顔を合わせていない」と供述した。
 弁護人は,弁論で,「当日午前8時4分出勤のために家を出たAの母が,被告人と顔を合わせていないことから,被告人が帰宅したのは午前8時4分以降である」とし,「Aが寝ている被告人のところに行ったというのは,被告人が帰宅後直ちに就寝したことになり,つじつまが合わない」と主張した。
  3 Aの原審供述で,3日朝,被告人のところに行った時刻に関する部分
   ア 検察官「3日の朝,目が覚めた後はどこに行きました」
 A 「居間の布団で寝ているお父さんのところに行きました」
 検察官「お父さんから膣に性器を入れられたりしたのは何時頃だったか」
 A 「記憶が曖昧で,はっきりは覚えてないです」
 検察官「私(検察官)に前に話してくれたときは,午前8時30分くらいだったと思うと話してくれた。今の記憶と矛盾するかな,しないかな」
 A 「してないです」
   イ 弁護人「供述調書では,午前8時過ぎに目が覚めたと供述しているが,その点間違いないですか」
   ウ A 「今は記憶が曖昧で,よく覚えてないです」
 検察官「3日の朝,時計を見ながら何時に起きたか確認してた」
 A 「したと思います」
 検察官「その点は,警察に行った時点ではっきり覚えていたかな」
 A 「・・・・」
 以上のとおり,検察官は,Aが時刻についてはっきり覚えていないと供述したのに対し,供述調書の記載を引用し,午前8時30分頃に誘導する質問をして肯定の答えを得た。再主尋問で,時刻について時計を見て確認したかという質問をして,「したと思う」との答えを得た。これは,被害に遭ったのが午前8時30分頃という記憶が正確なものであることを支える事情である。
  4 被告人のスマホ操作
 当日朝,被告人は,スマホで△△というゲームをやっていた。本件当日のそのゲームのアクセスログによれば,3日午前8時52分から午前9時10分までの間,ゲーム操作を行っていたことが判明した(平成30年10月1日付け株式会社aの回答書。郡山北警察署10月4日受理)。Aの証人尋問の時点で,検察官はこのことを当然把握していたはずである。
  5 検討
   (1) Aの供述する被害の態様は,「被告人が先に風呂に入る。Aも風呂に入る。性器を洗わせられたりする。被告人が風呂から出る。Aはドライヤーで髪を乾かす。被告人に呼ばれる。体勢を3回ほど変えながら,本件被害を受ける」というものである。
   (2) 被害に至るまでの経過で20分以上はかかっていると思われるし,被害自体も20分以上継続しているものと考えられる。犯行を終えてすぐにスマホゲームを始めたとしても,午前8時52分ということは考えにくい。そうすると,午前8時過ぎに被告人のところに行き,風呂に入った後,午前8時30分に被害が始まったという供述自体が,不合理なものである疑いが生じる。
   (3) 検察官は,「当日朝の時刻や時間についてのAの供述は,記憶や感覚に基づくものである。当日Aが家を出たのは午前10時50分なので(タイムラインによれば午前10時48分),その頃までには犯行が終わっていたというだけで,犯行が継続した時間は明らかではない。実際には,被告人のゲーム操作が終わった後の午前9時10分頃から犯行が始まったとしても不自然ではない」と主張する。
 しかし,その場合であっても,Aが体験したという供述を前提にする限り,風呂に入るという事実経過が存在したと考えざるを得ない。そうすると,犯行開始は午前9時30分頃になるはずであって,これはAの供述とかなりかけ離れた時間帯になる。
   (4) ちなみに,前記のAの検察官調書(8月29日付け)には,「3日は,午前8時過ぎに起きて,風呂に10~15分入り,5分くらい髪を乾かした。性交等の被害に遭ったのは午前8時半頃からだったと思う」との記載がある。前記の証人尋問における検察官や弁護人の質問は,この記載を踏まえたものであると考えられる。
  6 小括
 Aの記憶による午前8時30分から被害を受け始めたとの供述は,被告人のスマホ操作の事実との関係で,説明が困難になるのであって,その真偽を確認するための審理が必要であったが,これも尽くされていない。
 第5 結論
 以上によれば,その余の所論について判断するまでもなく,原判決は,Aの供述の信用性を判断するための重要な事情に関し審理を尽くさないまま,その信用性を認めて原判示の事実を認定したが,このような原判決には事実の誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,破棄を免れない。そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,原裁判所において更に審理を尽くさせるため,同法400条本文により,本件を福島地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。
 仙台高等裁判所第1刑事部
 (裁判長裁判官 秋山敬 裁判官 中島真一郎 裁判官 井筒径子