児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

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強制わいせつ致傷無罪判決(千葉地裁r03.7.15)

 わいせつの定義もないのに「わいせつ行為とはいえない」と認定しています。

千葉地方裁判所
令和3年7月15日刑事第1部判決
       判   決
に対する,強制わいせつ致傷(変更後の訴因 同)
各被告事件について,当裁判所は,
検察官 大山輝幸 西山桃子
被告人A弁護人 夏井翔平(主任) 坂口靖
被告人B弁護人 小竹広子(主任) 海渡雄一
被告人C弁護人 竹花俊徳(主任) 大谷悠
各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
被告人3名はいずれも無罪。
       理   由

【秘匿されている被害者関連情報については,別紙秘匿情報一覧のとおり】
第1 本件公訴事実
 本件公訴事実は,「被告人3名は,D(秘匿名,当時21歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,共謀の上,令和2年8月9日午後11時27分頃から同日午後11時36分頃までの間,千葉県茂原市内の同人方敷地内において,同人に対し,被告人Aが背後からDの左脇に左手を通して着衣の上から同人の左胸をなで回し【わいせつ行為〔1〕】,被告人BがDの顔を両手で押さえ付けてキスしようとし【わいせつ行為〔2〕】,更にわいせつな行為をするため,同所から上記D方北東側の隣家先路上までの間,被告人A及び同BがDの腕をそれぞれ抱きかかえて同人を後ろ向きに引きずるなどして移動させるなどし【引きずり行為】,その際,逃げようとしたDを前記路上及び同人方敷地内において転倒させて右手及び両膝等を地面に打ち付けさせ【転倒〔1〕,同〔2〕】,よって同人に全治約10日間を要する右手・右足・左膝擦過傷等の傷害を負わせた。」というものである(【】内は当裁判所の付けた略称である。)。
第2 本件の争点等
 各弁護人は,各わいせつ行為,引きずり行為,各転倒はいずれも存在せず,被告人らがDへの強制わいせつ行為を共謀した事実もないから,被告人3名はいずれも無罪である旨を主張しており,本件の争点は,事件性及び共謀の有無である。
 当裁判所は,D証言によって事件性を認めるには合理的な疑いが残り,共謀の有無を検討するまでもなく,被告人3名はいずれも無罪と判断した。

第5 D証言の信用性について
1 D証言の外部的事情に関する検討
(1)Dの属性等
 弁護人らが指摘するとおり,Dには,事実ではない話をする傾向が認められる。すなわち,関係者らとのメッセージのやりとりをみると,本件の約2週間前には,Aから保育士として就職したのかと尋ねられ,実際には全く異なる仕事をしているのにこれを肯定し,更に保育園の保護者に見られるのが嫌で自宅から離れた場所の保育園に就職したなどと書き送ったり(弁16-26~41),実際には,アウディ(ドイツ車のブランド名)に乗っていたわけでもないのに,Bに対し,「私のアウディで事故ろう」とメッセージを送ってドライブに誘ったり(弁16-80),本件前には,Aからの通話に応じられない理由として、そのような事実はないのに,精神的に参っている女友達から話を聞いている最中であるかのように振る舞ったり(弁16-140,186~188,222),本件後には,Eに対し,家を出たのは隣人から迷惑だといって呼ばれたからであると事実とは異なる説明をしたり(弁16-271,274)している。これらのメッセージの内容はいずれも,D自身が,事実とは異なることを認めているが,Dは,事実と異なるメッセージを送った理由について問い質されても,特に動揺したり,恥じ入ったりする様子はみられず,分からない,説明が面倒だからなどと,さも当然のごとく答えている。これらの証言態度から,Dが事実と異なる話をすることに関し,心理的抵抗感の少ない人物であることがみてとれる。
 このような属性をDが有していることは,被害内容と直接関係するものではないものの,証言の信用性について,慎重な検討を要する事情があるといわざるを得ない。 
(2)虚偽供述の動機
 検察官は,Dと被告人3名は,元同級生である地元の友人同士として,本件に至るまでは良好な関係を維持していたのであって,そのような関係の相手から性犯罪の被害を受けた事実を申告することは,一般的に大きな心理的負担を伴うから,地元の知人・友人のことを警察に申告するということ自体,その後の地域社会の中での関係を考えれば,ためらうのが普通で,相当な覚悟がなければできない,そのような負担を抱え込んでまで嘘の被害申告をしても何の得にもならない,と主張している。一般的な心理的負担に関しては,そのとおりである。
 しかしながら,Dは若年で社会経験に乏しく,当初EやD母に被害を告げた時点で,被告人3名が逮捕されて裁判員裁判にかけられるといった大事件になることまで予見できていたかは疑問がある。軽い気持ちで被害の話をEや母にしたところ,周囲が騒ぎ出し,引くに引けなくなることはあり得ることである。本件でも,Dは当初,自分から積極的に警察に申告しようとはしたわけではなく,両親やEの勧めにより,母に交番まで同伴されて被害申告している。
 一方で,事件があったとされる時間の前後に,Dは,Eと通話やメッセージのやり取りをしていたが,被告人3名がD宅前に来ていることや外に出て会うことは知らせていなかった。ところが,Fらと出会った際,上半身裸のAに肩を抱かれて歩いている姿をFに目撃され,何をやっているのかと呆れた様子で質問されれば,FがそのことをEに告げるのではないかとDが心配になったことは想像に難くない(Bによれば,D自身も,Bが別の女性と遊んでいるのを見たなどとBの交際相手に告げていたという。Cも似た経験をしている。)。Dが事件直後に,それまで疎遠だったFに急にコンタクトを取っている(弁16-427~)のもそれと符合する。Dは,当時,Eに頼んで交際を了承してもらってから1か月も経っておらず,Eとの信頼関係が盤石とは言い難い状況であったことから,自分が望んでそのような事態になったのではないとEに弁解しておきたいという気持ちが生じたとしても無理はない。本件直後,DがEに対し,「ねえ!怒った!?」「誤解される前にちゃんと自分の口から言いたかった」(弁16-321,322)とメッセージを送っていることは上記見方に符合する。その結果,Dは,そのような事態になったことについて,自分に責任はなく,被害者なのだということを強調したい余り,また,Eから心配されたい,気をひきたいという気持ちから,被告人らからされた行為を脚色して,被害を申告した可能性も否定できない。D証言によっても,DがAから肩を抱き寄せられたことはあるが,抱きしめられた事実はないのに,「泣きそ」「抱きしめられるし死にたい」(弁16-289,290)とのメッセージをDがEに送っていることは,上記見方に符合する。
 さらに,被告人3名の供述どおりだとしても,被告人らが深夜,上半身裸でD方を訪問し,Aは酒に酔った勢いでいきなりDの肩を抱くなどしたというのであって,Dが被告人3名から軽く扱われていると感じて,ショックを受けたり不快に思ったりした可能性もある。Dは,Fから,Cが「Dでてこねえし あいつだりい」とDの悪口を言っていると聞かされ,怒りを感じたことも認めている。これらの事情は,Dの虚偽供述に対する心理的抵抗をかなり下げた可能性がある。
 このようにDには虚偽供述の動機になり得る事情が複数想定されるから,検察官のように,うその被害申告をしても何の得にもならないなどということはできないのであり,Dの証言については,より慎重な検討が必要である。
2 D証言自体に関する検討
(1)証言内容の具体性・一貫性
 Dは,被告人らから受けた暴行及びわいせつ行為や2度の転倒について,その都度相応に具体的な説明をするものの,その内容は証言の中でも一貫しておらず,結局のところ被害態様があいまいであると言わざるを得ない。また,捜査段階でも多くの点で変遷があったことがうかがわれる。
 この点につき,検察官は,暴行やわいせつ行為があったという部分は一貫しており,細部や出来事の順番については記憶の混同,聞き方や表現の差異等によって変遷が生じてもおかしくないのであるから,D証言の核心部分についての信用性は損なわれない旨主張する。しかし,既に述べたように,D証言と被告人3名の各供述の違いが,背中に回した手の位置,顔と顔の距離など微妙なものであるときに,暴行やわいせつ行為があったという以外に明確で一貫している部分がないということは,軽微な問題とはいえない。以下,詳述する。
ア 各わいせつ行為の状況
(ア)被害の場所
 まず,D証言では,各わいせつ行為のタイミングや場所が特定できない。具体的には,検察官からの主尋問の際は,玄関を出た後被告人らとやりとりがあり,敷地外に出る直前に胸を触られるなどした,道路と敷地のぎりぎりの場所だったので,捜査段階では敷地外の路上と説明していた,というものであったのが,裁判所からの補充尋問では,玄関ポーチ上で胸を触られたかのような説明をしたり,胸を触られるなどした場所やタイミングは分からないと言ったりし,結局,検察官からの再々主尋問に対し,場所は混ざっていて分からない,玄関と敷地外のどちらに近いかも分からないと述べるに至った。さらに,Dの捜査段階における供述には,胸を揉まれるなどした場所について,自宅から離れた路上とするものから,自宅敷地内とするものまで混在しているというのであるから,Dの被害を受けた場所に関する記憶が不確かであることが一層うかがわれる。
(イ)被害時の態勢
 また,Dは,胸を触られた態勢について,最初に,D母と共に,交番で被害申告した際は,後ろから覆いかぶさるようにして触られたと述べていたようであるが(D母証言,Dは否認),弁護人から,その後の届出受理報告書で,Aに背後から両脇下から抱きかかえられ,左胸を触られたと述べていたのではないかと問われると,した記憶はないが警察官が勝手に作ったはずはないと答え,公判では,腰の後ろから回された手で左胸を揉まれた,と証言している。そのときにBがどこにいたかの供述もあいまいである。捜査段階では,自身の左側にいて,自分の左腕をつかまれていたと述べ,その旨の再現写真が撮られており,公判でもAの弁護人に対しては,そのように証言したが,その後,裁判所から改めて問われるとBは自分の右斜め前にいて,「大丈夫,こっちおいで」と言われたと述べる。
(ウ)被害態様
 胸の触り方についても,捜査段階では左胸をなで回された,と述べて,公訴事実もそのように記載されていたのに,公判では,最初は,手を動かしながら,揉むという動きがあった,数回揉まれたと証言し,食い違いを指摘されると,揉むも撫でまわすも同じだと,主張した。胸を触られた時間についても,捜査段階では20~30秒と述べていたのに,公判では5~10秒に短縮された。
(エ)まとめ
 結局,D証言は,最も重要なわいせつ行為の詳細について,被害に遭った場所,そのときの態勢や触り方が全く一義的に定まらない。
イ CのA及びBに対する発言を聞いた状況
 Dは,CがA及びBに,「抑えればいける」などと言ったのは,Aから胸を揉まれ,Bからキスされそうになった後,路上を引っ張られていた場面である,それを聞いて本気で抵抗したので転倒したと証言する。しかし,被害申告当初は,CがAとBが抑えればいけると言った後,Aから胸を揉まれ,Bにキスされそうになったと供述していたというのであるから,この点にも変遷が見られる。
ウ 引きずり行為及び転倒〔1〕の状況
 Dは,A及びBに引っぱられて転倒した,両名に両腕を捕まれて起き上がらされた後,短時間後ろ向きに引きずられたと証言するが,どのような体勢を経て後ろ向きになり,その後また前を向くことになったのか,そのとき,A及びBは手を放したのか,手をつかまれたままだったのか等,具体的なイメージを持つことが困難である。しかも,Dは,被害申告当初は,後ろ向きに引っ張られ又は引きずられたとの供述をしていなかったが,検察官による取調べの際には,後ろ向きに引きずられているときにFらと出会ったので,Fの姿は見えなかったと供述していたというのであって,供述の変遷が顕著である。F,H,Gのうち,出会ったときにDが後ろ向きであったと証言している者はいないことに鑑みると,他の証拠との不整合を指摘されて供述内容を変更したのではないかという疑いも払拭できない。
エ 転倒〔2〕の状況
 Dは,転倒〔2〕について,合流後,自宅建物に戻る際に,玄関ポーチ前の階段で転倒した,そのことは実況見分時に警察官に説明していたという。しかし,仮にDが2回転倒しているとなれば,傷害は1回目と2回目のどちらの際にできたものなのか,仮に特定できないとすれば,2回目の転倒時まで犯行が継続していると評価できるのか等,捜査機関としては詰めなければならない問題が多数あるから,Dが2回目の転倒について供述したのに,漫然と聞き流して証拠化しないという対応は考え難い。しかし,検察官が提出した証拠中に,当初からそのような説明をしていたことを裏付けるものはない(捜査段階の供述調書や実況見分調書にはその旨の供述又は説明がない。)。転倒〔2〕に関する証拠が作成されたのは,いずれも令和3年3月以降である。以上からすれば,Dが2回目の転倒について,いつ供述を始めたのか,疑問が残る。
オ まとめ
 以上のとおり,Dの証言は,被害態様や出来事の順序について,あいまいな部分や合理的に説明できない変遷が多く,具体性や一貫性を欠く。被害場所や被害態様も,受けた暴行やわいせつ行為の核心部分を構成し,変遷も著しいものであって,単なる質問の仕方や表現の違いとか,時間経過による記憶の後退に伴う自然な変遷とは質的に異なるものである。このことは,D証言の信用性に大きな疑問を抱かせる。
(2)客観的事実や他の証拠との整合性・自然性
ア Dの行動経過との整合性
 検察官は,D証言について,Fら4名との合流をきっかけにDが自宅建物に戻り,家の中に閉じこもったとの経緯と整合し,これを合理的に説明できる,という。
 確かに,Dの行動経過は,被害の存在とも整合するが,被害がなければ説明できないわけではない。例えば,Dが上半身裸のAからいきなり肩を組まれたことなどの被告人3名の言動に不快感を感じたり,Aの下心を感じ取り,わいせつ行為が目的だったのではないかと感じて,怒ったことが理由であった可能性がある。また,最初は行く気もなかったが,被告人3名が熱心に誘うので,バーベキューにちょっと顔を出そうかとようやく思い始めたところで,Fらが来てバーベキューは終了したことを知り,白けた気持ちになって出かけるのをやめた可能性もある。また,FらにAに肩を抱かれて歩いている様子を見られたことから,被告人らと遊びに行くとEに伝わるのではないかと心配になった可能性や,Fらと出会った頃に,Eから「ごめんね,Dちゃんがなにもかも1番好きだよ」(弁16-264)というメッセージが送られてきたために,Eに黙って被告人らの誘いに応じて出かけたことを後悔して帰宅を決意した可能性も考えられる。このように,Dの行動経過については,被害がなくても,様々な仮説が成り立ちうるのであり,検察官の主張は採用できない。
イ 傷害の存在
 検察官は,Dが実際にけがをした事実と整合しており,被害が真実でなければ,Dがなぜこのときこのようなけがをしたのか説明できないと主張する。
 しかし,D自身,傷害が転倒〔1〕と〔2〕のどちらによるものなのか分からないと述べている。転倒〔2〕はD自らのつまずきによるものであることに鑑みると,傷害の存在自体から被告人らの暴行を推認するには無理がある。
 まず,診断書に記載された傷害のうち,Dの腕,すね,膝付近に擦過傷等があることはDの傷を写した写真(甲37,8月11日撮影)によって,裏付けられており,そのとおりの傷害があったと認められ,これらは,Dの語る負傷状況と整合する。しかし,この程度の傷害は被害がなければ説明できないものとはいえない。
 次に,左膝から内股に伸びる線状の傷(甲37別紙1の1枚目)については,Dが述べる被害態様からはどのようにしてできた傷であるか発生機序が不明であり,動物による引っ掻き傷に見えなくもない。少なくとも路上で転んだ転倒〔1〕とは整合せず,転倒〔2〕で階段の角で擦ったとすれば整合しなくもない程度といえる。
 さらに,診断書上は,右足関節捻挫があるとされているが,写真を見る限り,Dの右足首の辺りには全く腫れが見当たらない。また,被害後に,Dが足を引きずっていたとか,痛そうにしていたとか,歩行に障害がある様子があったと証言している者は皆無である。擦過傷であればともかく,足首を捻挫しながらそのようなことがありうるのか,本当に他覚症状があったのか疑問がないとはいえない。
 このように見ると,Dの傷害内容については,一部は整合しても,一部は受傷機序と傷害が整合するといえるか疑問があるものもあり,D証言と完全に一致しているとはいえないのであり,被害がなければ傷害の存在を説明できないとは言い難い。
ウ Dが自宅建物を出た理由等
 Dは,本件当日,被告人らとともに遊びに行くつもりはなく,自宅建物から出たのはAが隣人に迷惑をかけていることを知って注意するためであり,母にもその旨伝えて家を出たと証言しているが,この点も他の証拠と合致しない。
(ア)隣人からの電話
 Dは,Aに注意をしようとした理由として,当初は,事件前に隣人から迷惑している旨の電話をもらったかのように話していたが,実際には,8月10日の朝に隣人から迷惑を受けたと母への電話があったので,それを同月9日の事件前の出来事と勘違いしていたと証言する。しかし,信用できるD母の証言によれば,Dから被害申告を受けた後,D母の方から,同月10日午後9時半頃に隣人に謝罪の電話をかけたというのであって,同月9日又は同月10日の朝にD又は母が隣人から電話をもらった事実はない。にもかかわらず,Dは,既に事件直後からEに対し,「隣の人に呼ばれたのね」「迷惑ですって」(弁16-271,274)というメッセージを送っており,明らかに事実でない報告をしている。Dがこのとき知っていた情報は,Cから送られた「Aねえさんち間違えて隣の家の車に寄りかかっててお兄さんにDさんちとなりですって言われたらしい笑」(同248)(Aが隣家の車をDの車と勘違いして寄りかかっていたところ,隣家からD宅は隣である旨指摘された)とのメッセージのみである。これをもって,隣人から苦情電話があったから外に出て注意する必要があったというのは,飛躍がある。
(イ)DがA,Cに送ったメッセージ
 Dは,最初からAの誘いは断っていた,電話ではっきりと断っていたのに,Aが来たという。しかし,Dは,8月9日午後10時48分頃から同日午後11時26分頃にかけて,被告人3名から,Dに対し,「もうついてる」(A,弁16-218),「いまそといるよ?」(C,同230),「早く来て笑」(C,同250),「俺ら3人だけ前いるけど来れなそうだったら戻るよ!」(B,同255)などのメッセージを受信すると,Aに対しては,「11時になったら出る」(同217)と,C及びBに対しても,「でます!」(同257)などとメッセージを送信し,反応がないと「きいてんのかよ」(同259)と送信し,Cに「まってるよ!」(同260)と言わせている。これらのメッセージについて,Dは,被告人らが自宅の前に本当にいるのかを確認するためのものだった旨一貫して証言する。しかしながら,被告人らが自宅前にいるかを知りたければ,D宅1階の居間の窓から自宅前の路上を見ることで確認することができる(現に,D母は,8月9日の深夜に上半身裸の男性2名が家の前の路上にいるところを居間の窓から目撃した旨供述している。)のであり,居場所を知るためにこれらを送ったというのは不自然である。どうしてもメッセージを通じて,被告人らが自宅の前にいるかどうか知りたいのであれば,端的に自宅の前にいるかどうかを尋ねるメッセージを送るのが自然である。「11時になったらでる」(同217)というDの説明に整合しないメッセージが,消していないのにいつの間にかDの携帯電話から消えていたというDの説明も不可解である。さらに言えば,仮に被告人3名に帰ってほしいのであれば,その前から電話ではっきりと断っていたというのであるから,家の前に被告人らがいるか確認するまでもなく,メッセージで帰宅を促すことも可能なはずである。
 むしろ,「まって」,「でます!」などというメッセージは,常識的には,まもなく自宅から出るので待っていてほしいという趣旨と解され,実際,Dが,同日午後10時47分頃から同日午後11時25分頃まで,Eと通話していた(弁16-215,258)ことも,Eとの通話が終わり次第,外出するつもりだったことをうかがわせる。
 Dの説明は,いかにも苦しい。
(ウ)外出する際のD母に対する説明
 また,信用できるD母の証言によれば,Dは,友達が来ているので外に行ってくると言って外出したというのであり,この点でもD証言は他の証拠と整合しない。
(エ)腕などを触られた後で再び自宅建物から出たこと
 Dは,最初に外出した直後に被告人らを注意したとも述べているが,仮に注意を終えたのであれば,犬を置いてから再び外出する必要もない。Dの言うとおり,外に出るなり腕などを無理やり触られている状況だとすれば,被告人3名を敷地外に出すために一人で外に出たという説明はいかにも不自然である。
(オ)まとめ
 DがAらを注意し,帰宅を促すために外出したという供述は,客観証拠や他の様々な証拠に合致せず,信用できない。Dの外出目的は,本件被害の有無と直結するものではないが,DがEから「なにをいいたかった!?」(弁16-324)と問われて,「出たのは謝りに行った事と帰ってきた事」(同330~332)と答えるなど,DのEに対する説明の核心部分と推測されることに照らすと,外出中に起きたとされる出来事についてもそれに合わせて話が変えられたのではないかという疑いに通じるものがある。
エ Fら4名と出会ったときの状況
 本件被害があったとされる時間は,被告人3名とDの4名しか居合わせなかったが,その直後にFら4名と合流した状況については,3名の証言が得られており,Dの供述がこれらと整合的なのかは重要である。
 このときの状況について,F,G及びHは,三者三様の証言をしており,そのいずれかが特に他の証言よりも信用できるとはいえないものの,三者の証言が一致している点は信用性が高いと考えられる(例えば,Fのみが,Dが大声で嫌がっていた旨証言したが,Fは後にD及びEと三者で何度も事件の話をしており,記憶が混同している可能性があって採用できない。)。そして,三者が一致しているのは,Fらが被告人3名及びDと出会ったとき,AがDの体に触れていたが,BとCはDに触れていなかったこと,DはFらの方を向いていたこと,そのときDがけがを負っていたとか何か被害に遭っている最中であるといった様子はなかったこと,その後もDが自宅に戻る際に異常を感じた者はいなかったことである。
 Fらと出会った場面に関するD証言は,1回目の転倒の後,両腕をA及びBにつかまれた状態で無理やり引っ張られていたときにFらと出会い,Fから声を掛けられたことでBは手を離したというものであるが,Dが証言する状況を前提とすると,二人がかりでDを引きずっていたというのであるから,Fらの印象に残るはずであり,Fらのうち誰もBがDの腕をつかんでいるところを目撃していないことと符合しない。
オ 被害後の被告人らへの対応
 Dは,被害を受けて自宅に逃げ帰ったという時間帯の後に,Cに対して「マミー怒ってるからまって」(弁16-298)と書き送ったり,Aから出てこないのかと聞かれて「でたよ!?」(同403)と返信したりしている。上記文面は,一般的には相手を引き留める趣旨で送られたものと読める内容であり,被害直後に被害者が加害者に対して送るメッセージ内容としては不自然である。Dは,上記メッセージについて,被告人らがもう帰ったかどうか確認する趣旨だったと説明するが,自宅を出る前のメッセージと同様に,そのような説明も不合理と評価せざるを得ない。
 なお,Dは,翌10日午後1時24分頃になってから,Cに対し,「勝手に私は友達だと思っていたからあの状況で助けてくれると思ったけど普通に『Bが抑えれば大丈夫だよ』とか『抱きかかえればいける』とか言ってるの見て正直なんかもうどうでもよくなって」(弁16-562)などと,AやBから助けず,かえって唆すような言動を取った上,謝罪もないことを責めるメッセージを送り,Cが「迷惑かけてごめん辛い思いさせてごめんなさいでも笑ってたから大丈夫なのかなって思っちゃった自分いた」(同566),「さすがにAのやつはやりすぎてたから」「やりすぎだよって言ったよ」(同567)と返信したが,更に怒りのメッセージを送った(同568,571,573)。これらのやり取りは,一見,被害があったことを前提としたやり取りにも見えるが,被告人らの供述によっても,Aが嫌がるDの肩を抱いたり,BがDの顔を持ち上げるなどの不適切な行動はあったことから,それを前提としたやり取りと解する余地がある。また,これらのメッセージがやり取りされた頃には,DはFからCがDの悪口を言っていたなどと聞き,Cに対する反感を既に持っていた時期である。Dが外出した理由も,「隣の家から電話きて」とDの作った話が前提となっている。よって,被害がなければ説明できないやり取りとはいえない。
3 まとめ
 以上の検討結果を総合すれば、D証言については,その属性や虚偽供述の動機となり得る事情の存在を踏まえ,具体的かつ慎重に信用性を検討する必要があるところ,本件被害における暴行及びわいせつ行為の核心部分について具体性・一貫性を欠き,また,被害前後の出来事に関する部分を含め,客観的事実や他の証拠と整合しない。したがって,D証言と符合する傷害結果が生じているとの検察官が指摘する事情を踏まえて検討しても,公訴事実記載のわいせつ行為の被害を受け,被告人らから後ろ向きに引きずられるなどしたために2度転倒して傷害を負った旨のD証言の信用性には疑問が残るといわざるを得ない。
・・・
第7 被告人らの行為の擬律判断
 以上のとおり,Dの本件公訴事実に係る証言の信用性には疑問があり,一方で被告人3名の弁解は概ね信用することができる。
 そして,信用できる被告人らの供述によれば,〔1〕AがDの肩を抱くなどしたこと,〔2〕BがDの両頬を持った状態で約30~40cmの距離で顔を覗き込んだこと,〔3〕AがDの肩を抱きながら移動し,BもDが歩き出すまで手を引いたという事実が認められる。しかし,Aの〔1〕〔3〕行為は,馴れ馴れしくDの意思を尊重しない不適切な行動ではあるが,強制わいせつ罪のわいせつ行為とはいえない。Bの〔2〕行為も,具体的状況やBの言動に照らし,キスしようとして行った行為であるとは認められず,〔3〕行為も含め,強制わいせつ罪を構成する暴行及びわいせつ行為とはいえない。そして,わいせつ行為や暴行があったとは認められない以上,被告人3名及びDがFら4名と出会った後,Dが自宅に戻った際に,仮にAがDの手を持ったまま同行したとしても,これが強制わいせつ罪を構成する行為とはいえないし,仮にDが玄関先で転倒し,その結果けがをしたとしても,強制わいせつ致傷罪の傷害結果には当たらない。
第8 結論
 よって,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人3名に対し,いずれも無罪の言渡しをする。
(検察官の求刑)被告人3名につき,各懲役3年
令和3年7月20日
千葉地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 岡部豪 裁判官 宮崎桃子 裁判官 野村詩穂