予めカメラを仕掛けておいて、児童にシャワーを浴びるように仕向けて撮影する行為は、ひそかに製造罪ではなく姿態をとらせて製造罪である(札幌地裁r02.5.22)
盗撮なんだけど、ひそかに製造罪ではない。
第七条(児童ポルノ所持、提供等)
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
令和02年05月22日
札幌地方裁判所
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、●●●(以下「本件施設」という。)の●●●管理責任者をしていたところ、
第1 令和元年6月20日午後5時20分頃から同日午後6時頃までの間に、本件施設において、その利用者である●●●(当時16歳、以下「A」という。)が18歳に満たない児童であることを知りながら、Aに対してシャワーを浴びるよう申し向け、本件施設事務所南側敷地内に所在する仮設シャワー室に向けて設置した動画撮影機能付きカメラを用いて、Aにその衣服を脱がせ、乳房及び陰部等を露出させ、その姿態を撮影し、その動画データを同カメラに装着した電磁的記録媒体に記録して保存した上、同日午後9時9分頃、本件施設事務所において、パーソナルコンピュータを使用して同動画データを編集して作成した動画データをSDHCカードに記録して保存し、もって衣服等の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造し、
第2
(争点に対する判断)
第1 児童ポルノ製造(判示第1)の事実について
1 弁護人は、被告人の供述に依拠し、Aが撮影された動画データを保存して児童ポルノを製造したことは争わないが、Aを撮影したことについてはその故意がないとして、事実の一部を争っている。
2 関係各証拠によれば、本件撮影に係る経過として、以下の事実が争い無く認められる。
(1) 被告人は、本件日時以前に、本件施設事務所南側所在の仮設シャワー室(以下、「シャワー室」という。)前におかれた棚に、シャワー室内に向けて、動画撮影機能付きのビデオカメラ(以下「本件カメラ」という。)を設置したが、そのことを本件施設の他の職員には周知していなかった(被告人供述、甲1、7、8)。
(2) Aは、被告人からシャワーを浴びるように勧められたことから、令和元年6月20日午後5時20分頃から午後6時頃までの間に、シャワー室でシャワーを浴びた(被告人供述、A供述)。
(3) 被告人は、Aがシャワーを浴び終わった後、直ちに本件カメラを回収したが、そのことをAらには話さなかった(被告人供述)。
(4) 被告人は、同日午後9時頃、他の職員が帰宅した後に、本件カメラに記録されていた動画データの内容を本件施設のパーソナルコンピュータで確認し、そのデータに編集を加えた上、被告人が私的に使用していたSDHCカードに保存した(被告人供述、甲5)。
(5) 保存されていた動画データには、Aが衣服を脱いでシャワーを浴び、その後に体をふいて衣服を身に着ける様子が撮影されており、直立しているAの膝から胸の下付近までや立ちながら上半身を曲げているAの全身が映っていて、概ねAの下腹部付近が画像の中心にあった(甲5)。
3 以上から認められる本件カメラの設置場所、被告人がシャワーを浴びるように勧めた後に本件カメラでAの姿が撮影されていること、実際に撮影された動画の内容、被告人がその日のうちに本件カメラを回収して撮影された動画データを編集・保存したこと、被告人が本件カメラの設置、回収及び動画データ確認の事実を他の職員やAに全く伝えていないことからすると、被告人が当初からAの裸体を撮影することを考えて一連の行動をとったと考えるのが最も合理的である。
4 この点、被告人は、本件カメラを設置したのは、ネズミが出るという話を聞いたので、ネズミが出るかどうかを確認するためである、本件の四、五日前に、本件カメラを動体検知モードに設定して設置していたところ、そのことを忘れたままAにシャワーを浴びるよう言ってしまったなどと供述する。
しかし、仮設とはいえシャワー室としても利用される可能性のある場所に、他の職員にも知らせずにカメラを設置するというのは、本件施設の管理責任者としてネズミの有無を確認するという行動としては何とも不自然である。しかも、本件カメラに記録された動画には、まさにAの裸が映っていたのであり、その画角や内容をみると、たまたまシャワー室を利用したAが映りこんだというよりも、そこを利用する者を撮影するために設置していたといえるような画角であり、ネズミが走る可能性のある地面に焦点が当たっているものではない。被告人は設置の際に映り方を確認することはしなかったと供述するが、わざわざカメラを設置してまでネズミの有無を確認しようとする者の行動として合理的ではない。
また、証拠(甲11、12)によれば、本件カメラについては、被告人が説明する操作方法など様々な方法で撮影を実施しても、動体検知モードと認められる状態で撮影されることはなく、連続して撮影することが可能な時間は約4時間にとどまることが認められ、本件の四、五日前に動体検知モードにして本件カメラを設定した旨の被告人の供述は客観的証拠とも整合しない。
したがって、上記の被告人の供述は信用できない。
5 以上からすれば、被告人は、自分が設置した本件カメラにAの裸体が映ることを認識してAにシャワーを浴びさせたと推認できるから、Aを撮影したことに故意はないとする弁護人の主張は採用できない。
刑事第2部
(裁判長裁判官 中川正隆 裁判官 田中大地 裁判官向井志穂は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 中川正隆)