児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

監護者性交未遂の場面をひそかに製造罪で起訴したが、姿態をとらせて製造罪が認定された事例(名古屋地裁r5.6.23)

監護者性交未遂の場面をひそかに製造罪で起訴したが、姿態をとらせて製造罪が認定された事例(名古屋地裁r5.6.23)
 性交しながら撮影するのは「性交する姿態とらせて」と評価する高裁判例が幾つかあります・

判例番号】 L07850705
       監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、監護者性交等未遂、準強制性交等被告事件
【事件番号】 名古屋地方裁判所判決/令和3年(わ)第1298号、令和3年(わ)第1680号、令和3年(わ)第1853号、令和3年(わ)第2151号
【判決日付】 令和5年6月23日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載


第3 【令和3年10月25日付け起訴状記載の公訴事実第1】
 実子である前記A(当時15歳)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護する者であるが、同人が18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交等をしようと考え、令和元年12月7日午後4時26分頃、愛知県内において、同人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、同人の陰部に自己の陰茎を押し当てるなどして前記Aと性交しようとしたが、その陰茎を同人の膣内に挿入することができなかったため、その目的を遂げず、
第4 【令和3年10月25日付け起訴状記載の公訴事実第2(令和5年6月14日付け訴因等変更請求書記載の予備的訴因)】
 前記Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記第3の日時頃、前記第3の場所において、同人に対し、被告人が自己の陰茎を前記Aの陰部に押し当てる姿態をとらせ、これを被告人が使用する動画機能付き携帯電話機で動画撮影し、その頃、愛知県内において、その動画データ17点をパーソナルコンピュータを介して電磁的記録媒体であるハードディスク(同号符号6)に記録させて保存し、もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し、

・・・・・・・・・・・・・
第3 判示第3及び第4の事実(Aを被害者とする監護者性交等未遂及び児童ポルノ製造の各事実)について
 1 関係証拠によれば、令和3年8月25日に、被告人のものとしてBから任意提出を受けたノートパソコンに内蔵されたハードディスクから、男性が、女性の陰部に自身の陰茎を押し当てている様子が撮影された動画データ17点(以下、この項において「本件データ」という。)が発見されたこと、本件データは、いずれも1点あたり1秒ないし3秒程度のものであり、判示第3及び第4の事件当日である令和元年(2019年)12月7日午後4時26分から27分にかけて連続して撮影されたものであることが認められる(甲27)。
 2(1)そこで、検察官が主張するとおり、上記動画データに映っている被写体がA及び被告人と認められるか、についてみる。
 Aは、本件データの一部(甲27[ファイル名IMG_9555の各画像])を見た上で、その画像に映っている女性の左太もも内側にある茶色く変色したあざが自分のものと同じであるから、この画像に映っているのは自分である、また、自分は被告人以外の男性から陰茎を自身の陰部に押し当てる行為をされたことはないので、この動画データに映っている男性は被告人であると供述している。
 (2)ア そこで、上記A供述の信用性について検討する。本件データの被写体の女性は、その下半身に光沢のある水色の衣服を身に着けている(C供述、甲27、甲122)ところ、上記ハードディスク内からは、本件データのほかに、Aが、(a)判示第3及び第4事件の2日前、試着室で上記衣服と矛盾しない色のスカートを着用した画像(甲27[ファイル名IMG_9540の画像])や、(b)同事件翌日、光沢や色味が上記衣服とよく似たスカートを上半身裸で着用した画像(甲27[ファイル名IMG_9576の画像])が発見されている。また、Aの左太もも内側には、A自身が供述するとおり、色味や形状において上記被写体と矛盾しない変色部分が存在している(甲27[ファイル名IMG_9528の画像])。このように、事件に近接した時点で被写体と類似した特徴を有するAの写真が本件動画データと同一媒体に保存されていたという事実関係のみを見ても、本件データの被写体がAであることは相当程度推認されるのであって、Aの上記供述はこれらの事実関係によって強く裏付けられている。
 イ これに対し、弁護人は、被写体の女性のあざやスカートがAのものと同一であるとはいえない以上、被写体の女性がAではない疑いが残ると主張するが、上記のとおり同一媒体に保存されていたAの写真の存在を考慮していない点で不合理であり、採用できない。
 3 したがって、本件データの被写体はA及び被告人と認められるから、これにA供述を併せれば、被告人が、判示第3記載のとおり、Aに対し、自身の陰茎をAの陰部に押し当てるなどして同人と性交しようとしたが、挿入できなかったことが間違いなく認められる。
 4 そして、このような本件データの内容のほか、それらのデータが、いずれも被告人が使用していたと認められるパソコンのハードディスクから発見されていることからすれば、判示第4記載(予備的訴因)のとおり、被告人は、自己の陰茎をAの陰部に押し当てる姿態をとらせ、これを自ら動画撮影した上で、パソコンを介してそのハードディスクに記録させて保存することにより、児童ポルノを製造したものと認められる。なお、検察官は、主位的には、被告人が「ひそかに」上記姿態を動画撮影した旨主張するが、検察官の主張を検討しても、被告人がAを撮影した客観的な態様は、それ自体、Aに知られることのないようなものであったとは認め難いから、主位的訴因は認定できないと判断した。
 以上の次第で、判示第3及び第4の各事実を認定したものである。
検察官の求刑:懲役15年及び主文同旨の各没収)
  令和5年6月26日
    名古屋地方裁判所刑事第5部
        裁判長裁判官  大村陽一
           裁判官  遠藤圭一郎
           裁判官  田中彩友美