児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「「わいせつな行為」とは、徒に性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的蓋恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう」大塚ら基本刑法Ⅱ各論

 保護法益を前提とすると、わいせつ=性的自由(性的蕾恥心を抱くような性的事項についての自己決定の自由)を害する行為になって、性欲要件は含まないはずですが。

大塚ら基本刑法Ⅱ各論
p70
強制わいせつ罪等の保護法益は、通説によれば、性的自由(性的蕾恥心を抱くような性的事項についての自己決定の自由)である。

p72
cわいせつな行為
「わいせつな行為」とは、徒に性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的蓋恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう(下線。)。例えば、無理やりキスしたり、陰部に手を触れたり、裸にして写真を撮ったりすることである。
本罪のわいせつは、個人の性的自由との関係が重要なので、性的風俗との関係が問題になる公然わいせつ罪におけるわいせつよりも広い概念である。例えば、公然わいせつ罪との関係では、不特定または多数人がその様子を見てどのように感じるかが重要なので、現代においては「相手方の意思に反して人前でキスすること」がわいせつだとはされないであろうが、強制わいせつ罪との関係では、相手方がどのように感じるかが重要なので、「相手方の意思に反して人前でキスすること」はわいせつであるとして強制わいせつ罪が成立するのである(東京高判昭32・l ・22判時103号28頁)。


p73
さらに、本罪の成立のために、主観的違法要素としてわいせつ傾向(性的意図)が必要かについては、争いがある。性的意図なく、例えば報復目的で相手の性的差恥心を害する行為をした場合、必要説は、暴行罪や強要罪にはなりえても強制わいせつ罪にはならないとする。例えば、産婦人科医の治療行為によって患者の女性は性的差恥心を害されることがあるかもしれないが、産婦人科医が性的意図なく治療の意図で治療行為をしたのであれば強制わいせつ罪の構成要件該当性を認めるべきではない。このように治療行為との区別をするため、強制わいせつ罪成立には主観的違法要素として「性的意図」が必要であると考えるのである。この説からは、【事例2】のXには、強制わいせつ罪は成立せず、強要罪が成立することになる。これに対して、不要説は、被害者の性的自由・性的差恥心は行為者の性的意図の有無と関わりなく害されうるのであるから、被害者の性的自由が害された以上は強制わいせつ罪が成立するとする。この説からは、【事例2】のXには、強制わいせつ罪が成立することになる。
判例はかつて必要説に立っていた。報復目的で23歳の女性を裸にして写真撮影したという事案において、強制わいせつ罪が成立するためには「犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要」するとして、強制わいせつ罪の成立を否定していたのである(最判昭45・1 ・29刑集24巻1号1頁く百14,講18、プ104>)。しかし、近年、判例変更が行われ、不要説に立つことが明らかになった。【事例2】のような事案において、最高裁は、強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするにあたっては、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべきであって、行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は、その正当性を支える実質的な根拠を見出すことが難しいとして、Xに児童ポルノ製造罪以外に、強制わいせつ罪の成立を認めた(最大判平29.11 ・29裁判所Web。ただし、事案により性的意図を考盧すべき場合がありうることまでは否定していない)。

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