児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ製造・提供事件につき一部無罪(東京高裁H29.1.24)になったのに、憮然とする弁護団

 34画像中3画像だけが児童ポルノだという認定は変わらず、罪数評価を訂正しただけです。
 罪数処理が変わって、1部無罪になったので、量刑も見直されました。
 無罪になったのはこの3罪です。
  H24.4.20「聖少女伝説」 購入者B 
  H24.12.1「聖少女伝説」 購入者A 
  H25.3.27「聖少女伝説」 購入者C 

 原判決でも控訴審判決でも「聖少女伝説」は全部児童ポルノでなく、「聖少女伝説2」のうち3画像が児童ポルノという認定になったのですが、こういう時系列のダウンロード販売の場合、「聖少女伝説」の提供行為と、「聖少女伝説2」の提供行為とは別個の行為として、併合罪だとした上で、「聖少女伝説」の提供行為3回について無罪としたものです。
 児童ポルノ提供罪の既遂時期は相手方において利用可能になった時ですが、
1 ダウンロード用サーバーに記録した時点=アップロードした時点だとして実際のダウンロード時期は影響ないとも言えますが、
2 有料ダウンロードなので、パスワードなりDL用URLを教えてもらわないと購入者が利用できないので、その時点で既遂とも言えそうです。

提供罪の公訴事実
当初訴因(起訴状h25.7.30)
H20.10月頃 「聖少女伝説」アップロード
H21.12.14頃 「聖少女伝説2」アップロード
・・・
H24.12.1「聖少女伝説」「聖少女伝説2」 購入者A ダウンロード

変更後の訴因(訴因変更請求H25.9.3)
H20.10月頃 「聖少女伝説」アップロード
H21.12.14頃 「聖少女伝説2」アップロード
・・・
H24.4.20「聖少女伝説」「聖少女伝説2」 購入者B ダウンロード
H24.12.1「聖少女伝説」「聖少女伝説2」 購入者A ダウンロード
H25.3.27「聖少女伝説」「聖少女伝説2」 購入者C ダウンロード

【事件名等】
事件名児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反
宣告日 平成29年1月24日
【裁判所】東京高等裁判所第10刑事部
【主文】
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金30万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
原審における訴訟費用のうち,2分の1を被告人の負担とする。
本件公訴事実第2(平成25年9月3日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)のうち,児童ポルノである画像データを含むコンピュータグラフィックス集「聖少女伝説」を提供したとする点について,被告人は無罪。
判決理由
・・・
3罪数に関する主張(法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の各論旨)について
(1)本件3画像の製造を一罪とした点
所論は,本件CGの製造は,異なる時間に制作された異なる画像であるところ,児童ポルノの製造は,純粋な個人的法益に対する罪であることなどからすれば,その罪数は,描写された児童の人数と描写の回数で決まるべきものであるから,本件CGの製造は併合罪の関係にある,したがって,起訴されたCGのうち,原判決が児童ポルノに該当しないと判断したCGの製造については,それぞれ無罪の宣告をするべきであるのに,これを一罪として無罪の宣告をしなかった原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるという。
しかし,本件で起訴された児童ポルノ製造の実行行為は,パソコンの編集ソフト等を用いて個々の画像を作成した行為ではな,く被告人が,それらのCGをCG集(聖少女伝説2)として,被告人所有のパソコンに記憶,蔵置した行為であるところ,その行為自体は一個であると評価することができる。児童ポルノ法の目的及び趣旨をどのように理解するかによって,直ちに児童ポルノ製造罪の罪数が決定されるものではない。よって,本件3画像の製造を一罪と評価した原判決の判断に誤りはない。
(2)製造罪と提供罪を併合罪とした点
所論は,児童ポルノの提供目的製造罪と提供罪は,罪名自体からしても,手段目的の関係にあることが明らかであり,牽連犯とすべきであるのに,原判決がこれらの関係を併合罪としたのは誤りである旨主張する。
しかし,児童ポルノ法は,児童の権利保護のため,児童ポルノの提供行為とは別に,製造行為それ自体について,児童の権利を侵害する行為として規制の対象としているのであり,製造された児童ポルノが現実に提供された場合であっても,その製造行為の違法性を,提供罪に包摂して評価するのは相当でなく,両者は社会的に別個の行為として評価されるべきものであるから,これらを併合罪とした原判決の判断に誤りはない。
よって,所論は採用できない。
(3)本件3画像の提供罪を一罪とした点
(ア)所論は,①被告人が「聖少女伝説」をアップロードした時期と,「聖少女伝説2」をアップロードした時期とでは,1年2か月が経過しており,含まれる画像も素材画像の写真の被写体も全く異なっている上,②3名の購入者のダウンロードの時期も1年ほど離れているのであるから,児童ポルノ提供罪については,「聖少女伝説」及び「聖少女伝説2」の各CG集ごと,及び,各購入者ごとに,それぞれ児童ポルノ提供罪が成立し,それらは全て併合罪の関係になるはずである,しかるに,原判決はこれを一罪と評価した上,①原判決が全てのCGについて児童ポルノに該当すると認めなかった「聖少女伝説」の提供については,無罪を言い渡すべきであるのに,これを言い渡さなかった点で,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,②購入者を追加する内容の訴因変更は,併合罪の関係にある以上,許可すべきでないのに,これを許可した原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるという。
(イ)まず,1名に対する児童ポルノの提供を3名に対する提供へと変更する訴因変更を許可した点について検討すると,そもそも,本件における児童ポルノ提供罪は,その構成要件上,不特定又は多数の者に提供することが予定されているから,購入者の追加は,公訴事実の同一性の範囲内であることが明らかであって,この点について訴因変更を許可した原審の訴訟手続に何ら法令違反はない。
(ウ)次に,提供罪の罪数について検討すると,記録によれば,被告人は,平成20年8月頃,CG集である「聖少女伝説」を完成させたこと,被告人は,スに,同CG集の販売を委託し,そのデータを同社に送信して,同月28日以降,同CG集がインターネット上で販売されたこと,被告人は,「聖少女伝説」をアップロードした後,これを見たインターネットサイトの利用者から,他のモデルの画像のリクエストが多数寄せられたことなどから,その要望に応じて,平成21年11月頃,「聖少女伝説」と同様のCG集である「聖少女伝説2」を完成させたこと,被告人は,同CG集についても,「聖少女伝説」と同様に,スに販売を委託したこと,同月27日以降,「聖少女伝説2」がインターネット上で販売されたことが認められる。
これによれば,被告人は,「聖少女伝説」をアップロードした後,新たに犯意を生じて,上記アップロードの約1年3か月後に,「聖少女伝説2」をアップロードしたといえるから,前者の提供行為と後者の提供行為とは,別個の犯意に基づく,社会通念上別個の行為とみるべきであって,併合罪の関係に立つとみるのが相当である。そうすると,両者の関係が一罪に当たるとの前提に立ち,前者の提供行為について,児童ポルノに該当するものがなく,その提供に当たらないとしながら,主文で無罪を言い渡さなかった原判決には,法令の適用に誤りがあり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由がある。
よって,量刑不当の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。
4結論
そこで,刑訴法397条1項,380条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について更に判決する。
原判決が認定した事実に法令を適用すると,被告人の判示第1の行為は,平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童ポルノ法7条5項,同条4項,2条3項3号に,判示第2の行為は,同法7条4項後段,2条3項3号に該当する。そこで,量刑について検討すると,起訴された34点の本件CGのうち,「聖少女伝説」に含まれる18点全てと「聖少女伝説2」に含まれる13点については児童ポルノに該当せず,本件3画像のみがこれに該当すると認められるにとど,前記のとおり,昭和57年ないし昭和59年頃であり,本件3画像は,その当時児童であった女性の裸体を,その約25年ないし27年後にCGにより児童ポルノとして製造されたものであって,本件各行為による児童の具体的な権利侵害は想定されず,本件は,専ら児童を性欲の対象とする風潮を助長し,将来にわたり児童の性的搾取及び性的虐待につながるという点において,違法と評価されるにとどまることなどを考慮すると,違法性の高い悪質な行為とみることはできず,体刑を選択すべき事案には当たらないというべきである。そこで,各所定刑中,いずれも罰金刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法48条2項により,判示第1及び第2の各罪の罰金の多額を合計した金額の範囲内で,被告人を罰金30万円に処し,刑法18条により,その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置することとし,原審における訴訟費用のうち2分の1については,刑訴法181条1項本文を適用して被告人に負担させることとする。本件各公訴事実中,公訴事実第2のうち,「聖少女伝説」を提供したとの点については,前記のとおり,犯罪の証明がないから,同法336条により,無罪を言い渡すこととする。
よって,主文のとおり判決する。
平成29年1月24日
東京高等裁判所第10刑事部