児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被害者を脅迫して、姦淫・わいせつ行為するという強要罪(告訴無し)の訴因の問題点

 強姦罪の頁に、親告罪の全部起訴になるから、ダメだって書いてありますけど。

条解刑法p512
他の罪による起訴の可否
176条から178条までの罪とそれらの未遂罪は親告罪であるから,告訴なしにこれらの罪を起訴できないのは明らかである。したがって,例えば,脅迫を手段とする強姦の事案につき,強姦の告訴がないため,脅迫して義務なき姦淫行為に応じさせたという強要罪で起訴するというように,強姦罪を構成する事実をすべて含む形で起訴することも許されない(注釈(2)I 558,大コンメ2版(9)89)

コンメンタール刑法第三版第9巻 (亀山=河村博〕
.強姦罪がー罪であることは異論がないところであるが,一罪であるということの意味は,暴行罪・脅迫罪の構成要件に該当する暴行・脅迫行為が消滅してしまうということではなく,強姦罪を適用して処断する場合にはこれに包括されて評価されるという,いわゆる吸収関係にあることをいうものである.したがって,強姦罪が適用されない場合には,暴行・脅迫行為について独立して評価することが原則的に可能であるといわざるを得ず,他の罪に吸収される関係にある行為を切り離して起訴すること自体は,実務上通常行われ,是認されているところであって,一罪であるということがただちに起訴の障害になるとはいえない.
最後に残るのは,親告罪の告訴の不存在の効果をどの範囲にまで認めるべきかという問題であるが,ここでも,ー罪かどうかということは基準となり得ない.姦淫の手段としての暴行・脅迫が強姦罪と不可分の一体をなすものであるといってみても,それは,強姦罪が適用される限りにおいてそのようにいえるにすぎない.もともと行為の罪数は,審判の対象とされた事実についての認定結果を前提として論じられるものであり,罪数を決定するために審判の対象とされていない事実の存否の認定を裁判所に強いるのは,本末転倒であって,現行の刑事訴訟手続の基本的な考え方に反することになろう〔常習ー罪と確定判決の一事不再理効の及ぶ範囲についての最判平15・10・7集57巻9号1002頁参照).
犯罪事実の認定のためではなく,訴訟条件にかかる事実の認定のためで、あるといってみても,前掲大法廷判決の多数意見が指摘するように,かえって強姦を親告罪とした趣旨を没却することになる.このことは,検察官が強姦の手段とは直接の関係のない暴行であると認定し,あるいは姦淫そのものは嫌疑不十分であると判断して,暴行のみを起訴した場合(このような起訴が許されることにつき,最判昭29・3・30裁判集〔刑事93号1003頁参照),裁判所が職権で,あるいは被告人側の抗弁によって姦淫の事実の有無を審理しなければならないとした場合を想定すれは明らかであろう.
したがって,結局,告訴の不存在の効果が及ぶのは,強姦罪等の構成要件の全部が事実上審判の対象となっている場合,例えば,特別法である強姦につき告訴がないのに,その一般法である強要罪で起訴した場合等に限られよう〔団藤・注釈(2)のII [高田558頁,条解刑法479頁参照.なお,暴行のみの起訴を認めなかった事例として東京地判昭38・12・21下集5巻11~ 12号1184頁がある).

団藤・注釈(2)のⅡ 高田558頁
特別関係が認められるときは一般法の適用は排除されるのであるが,何らかの理由によって特別法を適用して処罰できない場合にー般法の効果がどのような範囲で認められるかについては問題がある。
第1に,訴訟条件の欠如により特別法による処罰が不可能だからという理由で一般法による処罰は禁じられるものと解すべきである。たとえば,強姦罪に該当する事実につき告訴がない場合に強要罪によって処罰することは許されない。

【事件番号】 東京地方裁判所判決
【掲載誌】  下級裁判所刑事裁判例集5巻11〜12号1184頁
(一部公訴棄却の理由)
 検察官は、被告人が、
一、判示第二の別紙犯罪一覧表(二)の2のとおり(G方)に侵入した後、「同所において、同人の妻(H子)(当時二六年)の口に布を押し込むなどの暴行を加えた。」との事実および
二、同一覧(二)の3のとおり(I)方に侵入した後、「同所において、同人の妻(J子)(当時二九年)の口に手を突込むなどの暴行を加えた。」との事実についても、公訴を提起している。そして、被告人の当公判廷(第五回)における供述、第一回第二回公判調書中被告人の供述記載部分、被告人の司法警察員に対す昭和三七年一〇月一日付供述調書、(H子)、(J子)の司法警察員に対する各供述調書を総合すると、右各暴行の事実を認めるに十分である。
 しかし、右各証拠によると、右一の暴行は、(H子)を強いて姦淫したその手段として行なわれたものであり、右二の暴行は、(J子)に強いてわいせつの行為をしたその手段として行なわれたものであることが明らかで、前者は強姦罪に、後者は強制わいせつ罪にそれぞれ該当するものといわなければならない。そして、強姦罪および強制わいせつ罪は、いずれも親告罪である(刑法第一八〇条第一項)のに、右各罪について告訴がなされたことについては、その証明がない。
 ところで、告訴がないのに、強姦罪または強制わいせつ罪の構成部分である単純暴行(同法第二〇八条)の事実のみを訴因として、公訴を提起することができるであらうか。この問題の解明のかぎは、右各罪を親告罪とした趣旨をどこまで貫くのが妥当であるかということにあるものと考える。
 さて強姦罪または強制わいせつ罪を構成する事実の一部分が非親告罪である暴行罪に該当するものとして、この暴行の事実について審理判決をすることになると、被告人の刑事責任の量と質を確定するため、その暴行の動機・目的・態様・結果など行為の個性を明らかにせざるを得ないことなる。そのために、右暴行と不可分の関係にある被告人の強姦または強制わいせつの意思ないし行為を、したがつて被害者のこれら被害の事実をも、公判廷において究明し、これを判決において公表することになるのが通常である。そうなると、強姦罪または強制わいせつ罪の被害者の意思、感情、名誉などを尊重してこれを親告罪とした法の趣旨をほとんど没却することになつて、明らかに不当であるといわなければならない。このことは、刑法第一〇八条第一項が強姦罪や強制わいせつ罪の未遂罪、すなわち、強姦または強制わいせつの意図をもつて暴行または脅迫をしただけの場合をも、親告罪としていることに照らしても明らかであるといえよう。
 もつとも、刑法は、強盗強姦、強姦、強姦致死傷、共同強制わいせつ致死傷などの罪は、これを非親告罪としており、また強姦罪などと科刑上一罪の関係にある非親告罪については告訴がなくても適法に公訴を提起することができるものと解釈されていて、一見右の解釈と矛盾しているのではないかと思われないでもない。しかし、前者は、その犯罪が被害法益の重要性や犯人の悪性の強さなどから、被害者の意思、感情、名誉などの尊重よりも優越した処罰の必要性をもつためであり、後者の非親告罪は、本来強姦罪などの構成部分ではなく、強姦などの被害者の告訴の対象に含まれていない事実であるうえに、強姦などの事実との結びつきがうすいため、その審判によつては被害者の名誉などをそこなう程度が少く、反面これをも訴追できなくては不当に犯人を利することになることによるものと解すべきであるから、矛盾はない。したがつて、法の趣旨とするところは、かような例外の要請に乏しい強姦罪または強制わいせつ罪の構成部分である単純暴行の事実のみについて公訴を提起する場合にも、告訴を必要とするものと解するのが相当である。
 検察官は、暴行罪の訴因に対し、これが強姦罪ないし強制わいせつ罪の一部か否かにまで立ち入つて審理するのは、かえつて親告罪の趣旨に反し違法であると主張している。しかし、訴因が暴行罪であつても、これについて公訴の提起がある以上、これと公訴事実の同一性がある強姦などの点にも公訴の効力が及ぶのであるから、この点を審理しうることは当然で(もとより、強姦罪などに訴因を変更することもできる。)、むしろ、かような結果をもたらす公訴の提起が親告罪の趣旨に反するというべきである。もつとも、検察官の主張によると、審理をしてみない以上、それが親告罪である強姦罪などの一部か否かがわからないのであるから、結局親告罪であると否とを問わず、審理の対象を訴因に限定するという趣旨であるかもしないが、このような見解にはにわかに賛成できない。
 以上のとおりであつて、本件公訴事実中前記二個の暴行罪についての公訴は、不適法で無効であるが、右各暴行罪は、判示第二の別紙犯罪一覧表(二)の2および3の住居侵入罪とそれぞれ手段結果の関係にあるから、特に主文において公訴棄却の言渡をしない。