児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童の行為主体性・sextingの裁判例 単独正犯説・児童共犯説

 児童にも製造罪が適用されるというのが出発点。
 最近は児童共犯説。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」p190
Q42
18歳未満の児童が、交際相手に対し、自分の裸体の写真や、その交際相手との性交等の写真を渡した場合にも第7条第1の罪は成立するのですか。
A 他人に児童ポルノを提供する行為については、第7 条第1 項の罪が成立し、これは児童による場合であっても、自己を描写したものであっても、また交際相手に対するものであっても、変わるところがありません

もっとも、第7条第1項の罪が保護しようとする対象は、主として描写される児童の尊厳にあると考えられますから、当該児童ポルノにおいて描写される児童がその交際相手に対して提供したり、交際相手が当該被描写児童に対して提供する場合のように、提供者、被提供者と描写される児童との関係や被描写児童の承諾の経緯、理由等を考察し、当該提供行為について真撃に承諾し、かっその承諾が社会的に見て相当と認められる場合には、違法性が認められない場合もありうると考えられます。

園田寿「いわゆるセクスティングと児童ポルノ単純製造罪一東京高裁平成22年8月2日判決(公刊物未登載)」甲南法務研究No.7
さらに、本判決も認めるように、本罪は、児童に対して「強制的に姿態をとらせるJことを要件としておらず、被害児童が被写体となることに同意していても本罪が成立するのである。すると、セクステイングの場合は、被害児童が自らの自発的判断に基づいて(すなわち、自己答責的に)、3項製造罪における実行行為の一部である「描写」行為を行ったと解さざるをえないことになる。
では、本件の場合はどうか。確かに、本件では、被告人が、グラビアのモデルの仕事であるなどとA子を欺いて錯誤に陥らせてはいるが、そこに強制的契機はなく、しかもA子は13歳という、刑法で性的同意が有効とされる年齢であり、自分が何を行っているのかは十分に理解できていたと考えることができる。つまり、「グラピアのモデルの仕事」と欺かれたA子が、たとえ「児童ポルノ」の定義を知らなかったとしても、被告人が指示する言葉を理解し、その通りの行動を自らとっているのであって、「児童ポルノ」を製造しているという被告人の認識と、その指示に従っているA子の認識内容は一致しているのである。したがって、本件は、被害児童が被告人の指示に従っているものの、A子自身はなお自由意思を失った状態ではなく、自己の自発的な意思で「姿態」をとり、また「描写」行為を行っていると解されるのである。
ただ、A子は自らの姿態を「描写」しているが、この点はどう考えるべきか。本法は、児童の性的搾取ないしは性的虐待からの保護を目的とするものであるが、およそ児童が児童買春罪や児童ポルノ製造罪の主体となることを否定するものではない。18歳未満の者が18歳未満の者に対して買春行為を行ったり、18歳未満の者を被写体として児童ポルノを製造することはありうることである。自分自身を被写体とした児童ポルノの製造に関しては、「(児童に対して)姿態をとらせ(る)」ことを要件としている3項製造罪は考えられないが、それを要件としていない提供目的製造罪の成立は可能である。実際、18歳未満の者が、自らの裸体などをあらかじめ写真などに写して「ストック」し、他人からの求めに応じて、有償でメールの添付ファイルとして送信しているようなケースもある(この場合、それを取得した者は不可罰である)。
ところで、本件のように、被告人の指示に従って児童がシャッターを押し、メールに画像を添付して被告人指定のアドレスに送信した場合、「描写」行為はいつ完了するのか。これについて、「メールに添付した画像が送信された後、被告人が使用するプロパイダー会社のサーバーに受信されて記憶・蔵置された時点で完成すると解する見解があるが、被告人が同じ行為をした場合には、シャッターを押す行為で「描写」行為は完了するのであり、本件のように被告人の指示に従って児童自らがシャッターを押した場合であっても、これは同じことである。
また、児童ポルノがサーバーに記憶・蔵置されれば、昨今、悪意のコンピュータ・ウイルスによって、管理者の気づかないうちにインターネット上に流出する危険性が高まることから、より早い段階で、児童ポルノが電磁的な記録媒体に書き込まれた時点で既遂と解することには合理的な理由が認められるであろう。さらに、このように解さないと、かりに撮影はされたが、送信はきれなかったというケースでは、児童ポルノじたいが法の規制を受けずに社会に存在し続けることにもなるのである

 処罰されないという学説

児童買春等処罰法の運用と課題−木村光江)刑事法入門第2版
(4)売春防止法との関係買春の相手方児童は,本法との関係では被害者となるものの,売春防止法上の罪の行為者になるとともあり得る.例えば18 歳未満の女子が勧誘行為をした場合,理論的には売春防止法上の勧鶴の罪{同法5条)に該当する.ただし,国会審議では,本法における児童はあくまで被害者であり,売春防止法等による補導の対象とならないよう,配慮が必要であることが強調された。
たしかに本法では.買春行為や児童ポルノの製造等に当たり当然関係者として存在する児童につき処罰規定を設けていない.ここには,児童を本法で処罰することはないという立法趣旨が示されている.従って必要的共犯の理論から,相手方児童や児童ポルノの被害児童がこれらの罪の幇助犯や教唆犯,さらには共同正犯として処罰されることはない.しかし.必要的共犯の理論は,当該法規以外の法規により処罰することまで排除するものではないから,売春防止法での処罰の余地はある。被害児童といっても,年齢や環境も含め現実には相当の差があると考えられる{アジア諸国の児童とわが国の児童とでは.置かれた状況がかなり異なるであろう)。児童に対する処罰の可否は,当該児童がどのような関与をしたかにより,具体的事例ごとに判断せざるを得ない.

 

sextingの公訴事実例
A(15)が18歳に満たない児童であることを知りながら,5月8日,同児童に乳房を露出した姿態をとらせ,これを同児童のカメラ機能付き携帯電話機で撮影させた上,その画像データを被告人の携帯電話機に電子メール添付ファイルとして送信させ,同日,被告人方において,同画像データを同携帯電話機で受信し,記‘億させて蔵置し,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって’性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した

第1 児童共犯説の裁判例
1 児童ポルノビデオのモデルとして雇用された事例

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050710#1120963683
名古屋高裁金沢支部H17.6.9
所論は,本件においては,被害児童が児童ポルノ製造に積極的に関与しており,共犯者であるのに,撮影者である被告人のみを処罰するのは不公平であり,憲法14条に違反するとする。
しかし,本条の立法趣旨が,他人に提供する目的のない児童ポルノの製造でも,児童に児童ポルノに該当する姿態をとらせ,これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については,当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず,かつ,流通の危険性を創出する点でも非難に値するというものであることからすると,児童は基本的には被害者と考えるべきである。そして,記録を検討しても,本件の被害児童が共犯者に当たるとすべきほどの事情は窺えず,

2 交際関係にあって強要も対価もない場合には児童が共犯になるとするもの

某地裁h24
罪となるべき事実
被告人はa17が児童であることを知りながら、同女と共謀の上 平成25年12月8日午後11時40分ころ、大阪市北区西天満所在の同女方において、同女に上半身裸で乳房を露出した姿態をとらせた上 同女において 同女の携帯電話機のカメラ機能を利用して静止画像として自ら撮影して、平成25年12月8日午後11時46分ころその画像データを被告人が使用する携帯電話機にあてて電子メールの添付ファイルとしてそれそれ送信してそのころ 東京都千代田区の被告人方において 同画像データを 同携帯電話機に受信してこれを記憶させて蔵置して もって 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものをとらせ これを視覚により認識する事ができる方法により電磁的記録にかかる記憶媒体に描写し、当該児童にかかる児童ポルノを製造した
主位的訴因について
主位的訴因にかかる公訴事実においては被告人が単独で児童ポルノを製造したとされており この点 検察官は被告人が自らの携帯電話機に画像データが添付されたメールを受信してそのデータを保存した行為が児童ポルノ製造の実行行為であると主張する
しかし 当裁判所は証拠上 被告人が製造行為を行ったとはみとめず 従って単独正犯としての被告人の罪責を問うことはできないと判断して 予備的訴因(児童との共同正犯)に基づき有罪と認定した
その理由は次の通りである
 本件のメールの受信については関係証拠によっても被告人がその受信のさいに事故の携帯電話機を用いて何らかの具体的操作を行ったことを示唆する証拠はない 昨今の携帯電話機のメール機能ではサーバーから自動的に個々の携帯電話機にメールデータが保存される設定となっているのが通常であり(これは公知の事実である) 被告人の携帯電話機も同様であったとうかがわれること(甲5)、からすれば 被害児童が当該画像データを添付したメールを被告人の携帯電話器宛に送信したことにより その後 被告人において特段の操作を行うことなく サーバーを介して自動的に同携帯電話機かそのデータを受信し、メールに添付された画像データごと同携帯電話機に保存されたものと推認される
このように メールの受信が自動的に行われ 被告人の側で受信するメールを選別したり 受信するかどうかを決定することができない状態であったこを踏まえれば このような方法で行われるメールの受信(厳密にはメールデータの携帯電話への保存)をもって 被告人による製造行為ととらえることは困難というほかない
 以上の通り 被告人が児童ポルノの製造の実行行為を行ったとは認められず 主位的訴因については犯罪の成立を認めることができないと判断した(なお 付言すると 当時16歳という被害児童の年齢や 被告人は要求の際に欺罔脅迫等の手段を用いて織らず、被害児童が被告人の要求に応じた主たる理由は被告人への好意にあったことなどすれば 本件については証拠上 間接正犯の成立も認めることができない)。
併合罪(重い第1の罪に加重)
国選弁護人

3 強要がない場合に児童が共犯になる場合があるとするもの

広島高裁H26
要するに,原判決は,Aの原判示の姿態を撮影して,その画像データを被告人の携帯電話機に送信し,その携帯電話機の記録媒体に蔵置させるに至らせるという,児童ポルノ製造の犯罪の主要な実行行為に当たるものを行ったのはA自身であるという事実を摘示しているが,Aが共同正犯に当たるとは明示しておらず,被告人に関する法令の適用を示すに当たっても,刑法60条を特に摘示していない。
他方,原判決は,本件について間接正犯の関係が成立するという事実を示しているものでもなく,本件の関係証拠に照らしても,間接正犯の成立をうかがわせる事実関係があるとは認め難い。
しかし,原判決は,罪となるべき事実として,Aが上記の実行行為を自ら行ったという事実は摘示し,これらの行為は,被告人が,自らの意思を実現するため,Aとの意思の連絡の下,Aに行わせたものであるという趣旨と解される事実関係を摘示しているものと理解することが可能であるし,かつ,そうした事実関係を前提に犯情評価等を行っていると見ることができることなどに照らすと,原判決が,被告人とAとの共謀の存在を明示せず,法令の適用に刑法60条を挙示していないことが,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認ないし法令適用の誤りに当たるとは,いまだいい難いと考えられる。

第2 単独正犯説の裁判例
1 訴因にない強要を持ち出して、間接正犯とするもの

阪高裁H19.12.4
(2) 所論は,次に,原判示第 3の児童ポルノ製造罪について,当時 13歳の被害児童自身が,携帯電話の内蔵カメラで自分の裸体を撮影し,その画像をメール送信したものであるから,被告人に本罪の間接正犯は成立しないのに,被害児童を道具とする間接正犯とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,関係証拠によれば,被害児童は,被告人との間で,自慰行為に関するメールのやりとりをしていることを,被告人から親に電話をするなどして告げ口されるのを恐れる余り,被告人の命じるままにするほかないと考えて,原判示第 3記載の画像を送信したものであることが認められるのであって,そのような本件の犯行態様に加えて,被害児童の性別,年齢等諸般の事情に照らすと,被害児童は意思を抑圧されていたと認めるのが相当であり,本件を被告人の単独犯行であるとした原判決に何らの法令適用の誤りもない。
 なお,所論は,間接正犯とする場合には, 13歳の被害児童が完全に道具となったことを判示しなければならないのに,「同女をして・・・電子メールで送信させて」と判示したにとどまる原判決には理由不備の違法がある,というが,前述のとおり,原判決の「罪となるべき事実」には,本件犯罪に該当する被告人の行為が具体的に特定明示されており,かつ,「法令の適用」の項における記載とも相まって,それが被告人単独による犯行であることが疑問の余地なく示されているといえるから,原判決に理由不備の違法があるなどということはできない。

2 訴因にない欺罔を持ち出して間接正犯とするもの

東京高等裁判所h22.8.2 植村裁判長
第3 理由不備・訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りの各論旨について
1
(1)所論(控訴趣意第2部・控訴理由第1)は,原判決は,被告人が他人を用いて犯罪を実現した事実を認定したが,その場合,間接正犯か共犯(教唆犯・共同正犯)のいずれかの法的構成によることとなるのに,それを判示していないから,理由不備又は訴訟手続の法令違反がある旨主張する。
 しかし,原判決は,対象児童の行為を介するなどして犯した被告人の単独犯行を認定・判示していると容易に看取できるものであるから,所論は,その前提において失当である。
・・・
4(1)
?所論(控訴趣意第2部・控訴理由第4,控訴趣意補充書)は,原判決の認定事実を前提としても,被害児童(ただし,訴追を求めるまでの趣旨ではない。)と被告人とは本罪の共同正犯であるのに,被告人の単独正犯と認定した原判決には法令適用の誤りがある旨を,
?また,所論(控訴趣意第2部・控訴5理由第5)は,被害児童は法7条1項の児童ポルノ提供罪と同条2項の同製造罪の正犯又は本罪の正犯であり,被告人はその教唆犯であるが,本罪の個人的法益を重視して被害児童白身が撮影する場合には被害児童の自損行為であって正犯とならないから,共犯の従属性に従うと,教唆犯である被告人も処罰されないはずであるのに,被告人を単独正犯と認定した原判決には法令適用の誤りがある旨を,それぞれ主張する。
(2)しかし,本件では,被害児童の行為が被告人によって利用された部分があるとしても,それは,「姿態をとらせ」といった構成要件に沿うものである。また,前記原判示の罪となるべき事実中,被告人が被害児童の姿態を電磁的記録媒体に描写する過程で被害児童による撮影や送信という行為が介在しているのも、犯罪構成要件である「描写」の手段・方法を原判決がより具体的に説示したことによるものであると解され(答弁書2頁も同趣旨の指摘をする。),しかも,被害児童がそのような行為をしたのは,後記のとおり,児童ポルノの製造という真意を秘した被告人が,甘言を弄して判断能力の未熟な被害児童を錯誤に陥れたためであるから,被告人が本罪の単独正犯であることに疑問が生じることにはならない。そうすると,被害児童に,法7条1項の児童ポルノ提供罪,同条2項の同製造罪及び本罪が成立するとの所論は,訴因外の事実を独自に主張することに帰し,失当である。
5
(1)所論(控訴趣意第2部・控訴理由第6)は,原判決は,被害児童の意思が抑圧されていない場合に,被害児童を利用した間接正犯としている点で,法令適用の誤りがある旨主張する。
しかし,間接正犯の成立を被利用者の意思が抑圧された湯合に限るという所論は,独自の見解や立論による主張であって,採用の限りでなく,原判決の事実認定が不当となるものではない。

3 強要も欺罔もなく、児童が撮影販売していた事例につき被害者は正犯にならないとするもの

阪高裁H21.12.3 古川裁判長
 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び同補充書2通に各記載のとおりであるから,これらを引用する。
第1 控訴趣意中,理由不備ないし訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,原判決は,被告人が他人を利用して犯罪を実現した事実を認定しているが,その場合,間接正犯(本件のように是非分別能力を有する者を道具としたときは,その者が完全に道具と化していた旨の判示も必要である。)か共犯(共同正犯,教唆犯)のいずれかの法的構成によることになるにもかかわらず,この点について判示していないから,原判決には理由不備の違法ないし刑訴法335条に反する訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかしながら,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,単に「法」という。)7条3項は,児童に法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写するごとにより,児童ポルノを製造する行為について,これを処罰するものとしているところ,原判決は,被告人を本罪の共同正犯や教唆犯ではなく,単独犯と認定していることが明らかであるから,その罪となるべき事実には,法が規定する構成要件に該当する具体的な事実を記載することをもって足りるというべきである。
 そうすると,原判決には,この点に関する特定明示に欠けるところはなく,所論が指摘するような理由不備ないし訴訟手続の法令違反はない。また,間接正犯についていう点も,本件児童ポルノ製造罪の主体,すなわち正犯は被告人であって,「児童ポルノの姿態をとらせ」ることは製造の手段にすぎず,また,その写真を撮影,送信させたという事実は製造の方法であるから,この点についても原判決に所論が指摘するような理由不備ないし訴訟手続の法令違反はない。
 論旨は理由がない。

第3 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について
 論旨は,本件については,?県青少年健全育成条例23条2項の「わいせつな行為を教える」,又は同条1項の「わいせつな行為をし」に該当する条例違反の罪が成立するにすぎないのに,法7条3項の児童ポルノ製造罪の成立を認め,?(ア)被告人に,被害児童が正犯である法7条1項(提供罪)及び同条2項(提供目的製造罪)の教唆犯が成立し,同条3項の児童ポルノ製造罪に該当しないのに,同罪の正犯とし,(イ)仮に(ア)が認められないとしても,被害児童と被告人とは同条3項の児童ポルノ製造罪の共同正犯であるのに,被告人の単独犯とし,さらに,(ウ)被害児童の正犯性が否定されるとしても,被告人は教唆犯であるから共犯の従属性により不処罰であるのに,被告人を処罰した原判決には判決に影響することが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,?については,関係証拠によれば,原判示の犯罪事実を優に認めることができるから,本件について法7条3項の児童ポルノ製造罪が成立することは明らかである。
?については,同条各項の規定は,平成16年法律第106号による改正前の法に規定がなかったものであるが,旧法施行後の状況等にかんがみ,児童の権利の擁護を一層促進するため新たに犯罪化され,処罰の範囲が拡大されたものであるところ,対象となる行為は,いずれも法2条3項各号に掲げる児童の姿態を描写した児童ポルノを前提とするもので,当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取・性的虐待行為にほかならず,しかも,不特定多数の者に対する提供(法7条4項)及びその目的での製造等(同条5項)の罪ではもとよりその流通が予定され,特定少数の者に対する提供(同条1項)及びその目的での製造等(同条2項)の罪では流通の危険性が大きく,他人に提供する目的を伴わない製造罪(同条3項)にあっては描写された児童の人権を直接侵害する行為であり,流通性は小さいものの,その危険性を創出するものであるから,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長するごとになるため,児童を性的搾取・性的虐待の被害から擁護することを意図して上記各行為を処罰するものとしたのであって,当該児童は,原則的に,その被害者と位置付けられているというべきである。
そうすると,被告人が,携帯電話の下着売買募集のサイトで知り合った被害児童に対し,携帯電話のメールで,被害児童のポルノ画像を買い取る旨執ように働き掛けた上,指示して姿態をとらせた被害児童のポルノ画像を撮影・送信させて,自己の記録媒体に保存させたという本件について,(ア)の点は,被害児童が児童ポルノの提供(同条1項)及びその目的での製造(同条2項)の罪の正犯で,被告人はその教唆犯にすぎないとする点で,(イ)の点は,被害児童と被告人が他人に提供する目的を伴わない児童ポルノ製造罪(同条3項)の共同正犯であるとする点で、(ウ)の点は,被告人が教唆犯にすぎないという点で,いずれも誤っており,所論はいずれも採用することができない独自の見解というほかない。
 その他,所論が主張するところを検討しても,原判決には所論が指摘するような法令適用の誤りがあるとはいえない。

 参考

[004/004] 145 - 衆 - 法務委員会 - 11号
平成11年05月12日
○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。
 発議者の皆さん、本当に御苦労さまでございます。私自身も皆さんと一緒にこの法律作成過程に携わった一人として、日本が世界のポルノの発祥地だなんて言われないように、そしてまた、今の日本の子供たちを性的搾取から守るため、本当に立派な法律をきっちりつくるということが大事だと思っております。そんな立場から質問をさせていただきます。
 しかし、この法案は、基本的には刑罰法をつくるというわけでありますから、やはり二つの側面からきちっと審議するということが非常に大事だと思います。
 第一の側面というのは、何といっても脱法行為を許さない、法律の実効性をきっちり高める、そういう側面からこの法律は大丈夫だろうかという視点と、もう一つは、逆の立場でありますが、捜査当局、取り締まり当局の濫用によって、被害者であるべき子供がセカンドレイプのような、逆に加害者として扱われてしまったり、十八歳未満の子供たち、男性の中学生、高校生が逆に加害者として不当な捜査を受けるようなことがあってはならぬ、その歯どめをどうきちっとつくるかという、やはりこれは相反する立場なんです。そういう二つの側面から、児童買春、児童ポルノについて質疑が必要だと思いますので、基本的には賛成なんですが、そんな立場から、時間の許す限り幾つか質問をしてみたいと思います。
 最初に、児童買春の問題であります。
 もう同僚委員からいろいろ聞かれておりますから、重複すること全部はしょりまして、私が一番心配しているのが、この法律が成立した後、十八歳未満の子供たち同士、中学生同士、高校生同士の男女の性的交際が、果たして性交、性交類似行為、わいせつ行為として――当然対償の供与というのが必要なんですが、それはあり得ると思うんですね。お金にしろ、利益供与にしろ、チョコレートにしろ、あると思うんです。そういう子供たち同士のこのような性的行動が果たしてこの法律によって児童買春としての適用を受けないという保証があるのだろうか、その問題であります。
 法案の第二条の児童買春の定義、それから第四条の児童買春の基本法文、そこからだとどうもなかなか読み取ることはできないのですが、まず発議者は、その私の質問あるいは心配に対して、どうお答えになるのか。


○円参議院議員 木島委員の御質問にお答えさせていただきます。
 先生のおっしゃるとおり、子供たちを性的搾取する、性的虐待するというような行為はあってはならないことですし、また、その子供たちが犯罪者のような形で取り締まられるようなことがないようにすることがこの法律の目的でございます。そこで私どもは、児童買春という、買春という言葉はまだ皆さんに余りなじみがないかもしれませんけれども、売春でもなく、売買春でもなく、買う春と書きまして買春というような形で今回の法律をつくらせていただいたところでございます。
 先生のおっしゃる子供たち同士の性的交際が適用除外となる保証はあるかという御質問でございますけれども、児童が真摯に交際している場合は、児童と性交等をしていても、そのことについて、反対給付を提供しているとは言いがたいことが多いと思います。それで、対償の供与の要件に該当しない限り児童買春には当たらないと私どもは思っておりますが、交際の間にプレゼントを渡すとか、そういったことももちろんあるかと思います。それが対償の供与になるかどうか、これはそのプレゼントが経済的に見てどれくらいの価値があるかなども総合的に勘案して、対償であると認められる場合に限り児童買春に当たるのかもしれませんが、多分先生の御質問の趣旨の、子供たち同士が恋愛関係にあってという場合には児童買春に当たらないと思われます。

○木島委員 子供たち同士、もう高校生や中学生ですと、当然性的自己決定権はありますし、恋愛感情も生まれてまいります。真摯な男女間の交際というのはあり得ることだし、現にあると思うんです。そういう場合でも利益の供与ということはあり得ると思うんです。
 今の御答弁ですと、対償の供与またはその供与の約束というその概念から、真摯な子供たち同士の恋愛の結果としての性的行為、性交あるいはわいせつ行為、類似行為は対象にならないと解釈できるという答弁でありますが、私はまだそこは大いに心配なところであります。
 なぜ私はこれを言うかといいますと、実は福岡県青少年保護育成条例事件という有名な事件がありまして、最高裁の昭和六十年十月二十三日の判決があるからであります。
 ちょっと御紹介しますが、これは二十六歳の被告人の男性が十六歳の少女とホテルの客室で性交した行為が福岡県青少年保護育成条例で禁じているいわゆる淫行に該当するとした判決であります。何が争われたかというと、中心問題は刑罰法規の不明確性と広範性、非常に不明確だということで幅が広い、これが憲法三十一条の規定などに反するのではないかという上告理由が退けられた判決であります。
 そこで最高裁判決は言っているんです。
 「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。
 最高裁判所の判決の中に、またこういう言葉もあるんですが、「「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、」中略しますが、「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなって、その解釈は広きに失することが明らか」である。
 要するに、そういう広い概念で淫行という言葉をとらえたら、それは憲法上問題だということを言った上で、最高裁判決は淫行という概念について二つの面から絞りをかけたんですね。一つは、不当な手段による場合、二つ目には、男性の方でしょうか、性的満足のための対象としてのみ扱う場合という二つの絞りを淫行という解釈に持ち込んで、それによって辛うじて淫行は憲法違反にならないという判断をしたわけであります。大変画期的で有名な判決なんです。
 そういう青少年保護条例の淫行の解釈から辛うじて合憲にしたんですが、そんな観点からこの法案を振り返って児童買春の定義を見たときに、大丈夫だろうかな。真摯な交際か真摯でない交際かを、対償の供与の概念で区別することはちょっと法的には無理なのじゃないかなというふうに私は思うんですが、いかがでしょうか、率直に。
○大森参議院議員 これは先生、二条、児童買春の定義がこれでは不十分ではないか、青少年に不当な扱いになるのではないか、こういう御質問と理解してよろしいでしょうか。
 もちろん、今先生がおっしゃった福岡の青少年保護育成条例につきましては、先生がおっしゃったとおり、淫行につきまして、性交または性交類似行為という限定解釈を加えた上で憲法三十一条に反しないとしたものであります。それから、青少年保護育成上、ほかにも青少年の性的自由を侵害するおそれがある、運用には慎重な配慮が必要であるとしているような判例もございます。
 こういうことも考えまして、これは売春防止法にもたしか同じような規定があると思いますが、性的自由ということを配慮した規定だと思います。この点につきまして、「適用上の注意」として、我々は第三条で、「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」ということで、表現の自由の部分のみならず、やはりこういう性的自由というものを慎重に考慮しなくてはいけないということです。
 それから、この法案では、「対償を供与し、」としてありますから、要するに対償によりまして、これらの行為が反対給付になることと、それによって性交とかがなされることでありますので、通常のおつき合いをしているような場合ですと、いろいろな、先ほど円委員が枝野委員の質問にお答えになりましたけれども、それは本当に性行為等の反対給付と言えるかどうかという、個々の判断になると思います。
 それで、通常、ふだんおつき合いがある場合でしたら、その反対給付として抽出できない場合もあると思いますので、具体的な事案に即しましては、そこの構成要件の該当性の判断を的確にしていけば、さほど不当な結論にはならないというふうに考えております。


○木島委員 実はこの法は親告罪にしていないんですね。被害者の告発を要件にしていないというのが強姦や強制わいせつと決定的に違うところで、私もそれに賛成なんです。それだけに、親告なしに警察が関与できるということですから、心配はきちっと法的に封じ込めておくことがやはり大事だと思うのです。
 私は、一番心配なところなので、全国のいろいろな青少年保護育成条例を調べてみましたら、たまたま当衆議院に設置された衆議院の青少年問題に関する特別委員会の調査室がつくった資料の中の東京都青少年健全育成条例を見ましたら、やはりそれは歯どめがかかっているんですね、東京都条例は。
 十八歳未満の青少年の淫行について法で規制しているんですが、第十八条の二というところで、「何人も、青少年に対し、金品、職務、役務その他財産上の利益を対償として供与し、又は供与することを約束して性交又は性交類似行為を行つてはならない。」これは本法と同じなんです。しかし、その東京都条例の大変すばらしいと思ったのは、第三十条というところに、「この条例に違反した者が青少年であるときは、この条例の罰則は、当該青少年の違反行為については、これを適用しない。」と除外しているんですね。
 ですから、加害者たる男の子が十八歳以下の場合には、この東京都条例の淫行の処罰規定は除外するという、これを入れているのですね。神奈川県条例なんか見ましたら、これは入っていません。これは、歯どめをかけたのじゃないかと私は思うのですね。
 だから、確かに、十八歳以下の子供たち同士の性交または性交類似行為の中にも、私は率直に言ってほとんどが真摯な恋愛感情から発する性交だと思うのですが、中には、それはやはり法で規制しなければいけないような、この法律が処罰を求めているような類型の性交または性交類似行為もあるかもしれませんが、できたら、十八歳未満の子供たち同士の性交、性交類似行為等だけは処罰から外してやった方がいいのではなかろうかなと思います。
 私もこの法案づくりに参画した一人として、そういう発言は余りしなかったので申しわけないのですが、東京都条例なんかにはそういう歯どめがかかっているのを考えますと、やはりそういう点を考えてもいいのじゃないかなと今思っているのですが、これは率直な御意見を聞かせてください。どなたか、だれでもいいですから。
○堂本参議院議員 私も同じようなことを大変危惧しております。
 私は、東京都条例、随分勉強したつもりなんですが、今度の法律の中でそこのところきちっと書き込まなかったということを今指摘されて、三年後の見直しのときに検討すべき事項としてぜひ考えるべきではないかというふうに思います。

○大森参議院議員 答弁者の間で意見が違っているじゃないかと言われると困るのですが、実は意見が合わなかったのでこういう規定がなかったということもございます。
 それから、今木島先生がおっしゃるのは、十八歳未満の児童の真摯な交際までも侵害したのではないかということですが、これは先ほど申しましたように、この二条の児童買春の定義、これを厳格に解釈していけば、物のやりとりによって性行為をするかどうか、こういう行為が決められること自体を真摯でないことも示しておりまして、ここの対償供与、それからその因果関係があって性交という、この構成要件の中で、真摯な交際というものは除外されるものと考えております。
 それからもう一つ、例えば十八歳未満、児童については罰則は科さないというふうな規定を設けるべきではないかということですけれども、実は、この児童を十六歳未満とすべきか十八歳未満とすべきか、こういうこともございました。それから、十八歳未満、例えば十七歳、十八歳に近い年齢もありますが、幅があるわけですね。
 そして、児童の性的搾取及び性的虐待から児童を守るということにつきましては、やはり児童自身もそういう行為をしないように学ばなくてはいけないと思っておりますし、そういう児童を性的虐待とか性的搾取の対象としないような健全な社会の建設につきましては、やはり十八歳未満の児童にも、年長の児童となりますけれども、学んでいただかなくてはいけないし、協力していただかねばならないというふうに考えております。
 いずれにしましても、一応これでスタートいたしまして、三年後の見直しのときに、運用上不当な結論が出るようであれば、そのときに再検討させていただくことになると思います。
○木島委員 今、答弁の中から、発議者の皆さん方は一致して、やはり十八歳未満の子供同士の真摯な恋愛感情とその結果としての性交等についてはこの法は罰則を求めていないという意見であるとお聞きいたしまして、私も大賛成であります。そのようにこの法案が運用されることを、まず私も期待をしたい。