「前科を消してくれ」とか「いつ消えますか」という質問も多いので、抜粋しておきます
「前科」という用語は、元来法令用語ではなく、通俗的に使用されているにすぎないものであるから、その意味は必ずしも明確ではないが、ここでいう『前科」とは、前に罪を犯して有罪の確定裁判を受けた事実をいい、その刑が、死刑、懲役、禁鏑、罰金、拘留、科料であった場合はもとより、刑の免除【刑法第三六条、第一ニ七条、第一七O条等)または刑の執行免除【刑法第五条但書を指し、同法第三一条および思赦法第八条の場合を除く。〉が言い渡された場合も含むものである。
前科の及ぼす臨時響
このような前科を有する者が、とかく世間から冷い態度で差別待遇され、前科があるという理由で、就職・婚制や、子弟の入学が妨げられるなど、有形・無形の不利益を受ける事例は少なくないのであって、このような傾向が古くから社会の一部に存在することは否定できないところである。
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前科抹消の意義
しかしながら、前科を有する者に対する前述のような不利益な取扱いが、必要以上に継続されるとすれば、その者が更生して社会に復帰することを著しく困難にし、ひいては再犯の予防を目的とする刑事政策の観点からも好ましくない弊害をもたらすことになる。とくに、前述の一定の資格等の前科による制限については、適当な時期にこれを緩和することが本人の更生保護の見地から必要であろう。
この役割を果たしているものとして、第一に、恩赦制度がある。
これには、大赦、特赦および復権がある。大赦は、一般的に、特赦は、個別的に、有罪の言渡しの効力を失わしめる効果を有し、復権は有罪の言渡し宏受けたことによって一定の資格を喪失し、または停止されていた者に対して、その資格を回復せしめる効果を有する
とされている。
第二に、刑法第三四条ノニ(昭和二二年法律第一二四号による刑法の一部を改正する法律により追加きれた。)による刑の消滅がある
いわゆる「前科抹消制度」とは、広い意味においては、大赦、特赦により、あるいは刑法第三四条ノ二により有罪の言渡しの効力を消滅させ、もともと前科が存在しなかったと同様の効果を生ぜしめる制度を指すものである(恩赦による復権は、前述のように一定の資格を回復せしめる効果を有するのみで、有罪の言渡しの効力には影響がないから、ここじいう前科抹消の中には含まれない。)。なお、刑法第二七条は、刑の執行猶予の言渡しを受けた者が、その執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、その刑の言渡しは効力を失うとしているから、これも一種の「前科抹消制度」といえるであろう。したがって、これらの場合には、いずれも刑の言渡しが失効した効果として、前科によって生じた資格制限が将来に向って自動的に消滅する。もっとも、前述の前科抹消は、すでに生じた法律効果に影響を及ぼすものではないから、たとえば、法令において、禁鍋以上の刑に処せられたことを欠格事由と定めている場合、禁鋼以上の刑に処せられた欠格事由にあたるものとして失職した者は、実刑の執行を終えた後、罰金以上の刑に処せられることなく十年を経過するか、あるいは執行猪予期間が経過すれば、前述の規定によって新たにその織につくことが可能となるが、それによって自動的にもとの地位を回復することになるわけではない。
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犯罪人名簿から前科事実を抹消
さて、前科の抹消手続は、犯罪人名簿から前科の療実の登録を抹消することであり、具体的には前科の存在を察知することができないように、当該記載部分を塗りつぶすべきものと恩われる。けだし、前科抹消が完全な形で行なわれないとすれば、刑法の規定による前科抹消の趣旨が十分生かされず、また、万一すでに消滅した前科の事実が何かの事情によって明らかになるような事態にでもなれば本人の更生意欲に大きな障害を与える結果にもなりかねないと考えられるからである。
以上のように、前科抹消制度は、刑余者の更生保護を図るため大きな貢献をなしつつあるものと考えられるが、前述のように前科に伴う影響の事実上の弊害を除去するためには、過去の一事実を永久の汚点とするようなこれまでの前科に対する観念が是正され、本人の更生意欲を阻害することのないよう社会一般の一そうの協力が望まれるのである。