児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」について

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政令131号(令和元年10月22日)
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令和元年10月22日(特別号外 第15号)

www.moj.go.jp
政令第131号
令和元年10月22日
復権
内閣は、恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第九条の規定に基づき、この政令を制定する。
一個又は二個以上の裁判により罰金に処せられた者で、その全部の執行を終わり、又は執行の免除を得た日から令和元年十月二十二日(以下「基準日」という。)の前日までに三年以上を経過したものは、基準日において、その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し、又は停止されている資格を回復する。ただし、他に禁錮以上の刑に処せられているときは、この限りでない。
附則
この政令は、公布の日から施行する
・・・


即位の礼に当たり行う特別恩赦基準
(趣旨)
即位の礼が行われるに当たり,内閣は,この基準により刑の執行の免除及び復権を行うこととする。
(対象)
2 この基準による刑の執行の免除又は復権は,令和元年10月22日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対して行う。
ただし,第5項第2号に規定する者については,その定めるところによる。
(出願又は上申)
3(1) この基準による刑の執行の免除又は復権は,本人の出願を待って行うものとし,本人は,基準日から令和2年1月21日までに検察官又は保護観察所の長(恩赦法施行規則(昭和22年司法省令第78号)の定めるところにより刑の執行の免除又は復権の上申の権限を有する検察官又は保護観察所の長をいう。
以下同じ。)に対して出願をするものとする。
(2) 検察官又は保護観察所の長は,前号の出願があった場合には,令和2年4月21日までに中央更生保護審査会に対して上申をするものとする。
(3) 第5項第2号の規定による復権の場合は,前2号の規定にかかわらず,それぞれ,第1号の出願は令和2年4月21日までに,前号の上申は令和2年7月21日までにすることができる。
(4) 第1号及び第2号の規定は,この基準による刑の執行の免除又は復権について,検察官又は保護観察所の長が必要あると認める場合に職権により上申をすることを妨げるものではない。
この場合においては,上申をする期限は,前2号に定めるところによる。
刑の執行の免除の基準)
刑の執行の免除は,基準日の前日までに刑に処せられた者のうち,懲役,禁錮又は罰金に処せられ,病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止され,かつ,なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情,刑の執行の免除を必要とする事情等を考慮して,特に刑の執行の免除をすることが相当であると認められるものについて行う。
復権の基準)
5(1) 復権は,1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ,基準日の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者(他に禁錮以上の刑に処せられている者を除く。)のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについて行う。
(2) 前号に規定する者のほか,基準日の前日までに1個又は2個以上の略式命令の送達,即決裁判の宣告又は判決の宣告を受け,令和2年1月21日までにその裁判に係る罪の全部について罰金に処せられ,基準日から令和2年1月21日までにその全部につき執行を終わり又は執行の免除を得た者のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについても復権を行うことができる。
(犯罪被害者等の心情の配慮)
6 前2項の規定の適用に当たっては,犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)に基づき犯罪被害者等の視点に立った施策が推進されていることに鑑み,本人がした犯罪行為により被害を受けた者及びその遺族の心情に配慮するものとする。
(その他)
7 この基準に当たらない者であっても,刑の執行の免除又は復権を行うことが相当であるものには,常時恩赦を行うことを考慮するものとする

刑事政策学における恩赦の解説を添えておきます

川出敏裕刑事政策p265
(2)仮釈放と保護観察を連動させることの妥当性
現行法では、仮釈放された場合には必ず保護観察が付くことになっているが、その必要がない場合も考えられる。また、保護観察に付した場合でも、途中でその必要性がなくなる場合もありえよう。特に、残刑期間が長い場合は、現行法上、恩赦以外にこれを打ち切る方法がなく、問題が一層顕著に現れている。
この点について、改正刑法草案は、仮釈放後、すでに刑の執行を受けた期間と同一の期間が経過したとき、無期刑については10年を経過したときは、刑の執行を終了したものとするとしているほか(85条1項、2項)、保護観察の付かない仮釈放(83条2]JI但し著)、保護観察の仮解除(89"及び解除(90条)という制度を定めている。これに対し、更生保護法では、仮釈放中の保護観察を必要的なものとする制度を維持したうえで、その解除や仮解除は認めなかったが、地方委員会が、特別遵守事項を設定しないことや(更生52条2項)、設定した場合でもこれを取り消すこと(53条2項)を認めている。
これにより、従来の制度に比べていくぶん柔軟な運用が可能となった。

森本ほか刑事政策講義 第3版p111
第六節資格制限と復権
(1)資格制限
資格制限とは犯罪者の社会生活上の地位や権利を剥奪ないし制限することをいう。わが国の場合、刑罰に付随する制裁として各種特別法に定められており、その数は、法律数で四百余、制限される資格の名称では約千に達する。
資格制限の沿草
資格制限は沿革的には名誉刑の一形態とされる。名誉刑制度は、古くは公衆の面前において犯罪者に恥辱を与える恥辱刑と犯罪者の社会生活上の権利や身分を剥奪する権利剥奪刑を含んでいた。
しかし、時代の進展につれて名誉心を害するだけの刑罰は衰退し、権利剥奪の形態が主刑もしくは附加刑として生き残り、さらにそれが刑罰そのものでなく、刑罰に付随する制裁措置として制度化されるようになった。わが国においても明治時代の旧刑法では、資格制限が附加刑として定められていたが、現行刑法の制定に際して特別法上の制裁措置に変更されて今日に至っている。

資格制限に対する批判
近年資格制限制度に対する批判の声もみられる。資格制限の種類が多すぎることや制限される種類の間で必ずしもバランスがとれていないことなどのほか、犯罪前歴者の社会復帰にとって有害であることが指摘されている点である。そして、現行の資格制限規定を全面的に洗い直し、職務遂行と犯罪が密接な関係にある場合もしくは一定の重大犯罪の場合に限定すべきであるとか、一律自動的な制限でなく再犯の危険が認められる場合の個別的な制限にとどめるべきであるといった提案が行われている。
(2)復権
資格制限がいつまでも続くのは、犯罪者の人権と社会復帰の両面から好ましいことではない。そこで、失われた資格の回復すなわち復権の制度が要請される。復権は、通常、①法律上の復権、②裁判上の復権、③恩赦による復権の三種類に分けられる。
・・・
裁判上の復権と恩赦による復権
これらは法律上の復権と異なり、犯罪前歴者の行状に応じて個別に資格の回復を認めるもので、司法機関の審査による場合と行政機関の判断による場合がある。裁判上の復権は戦前の改正刑法仮案において採用されたことがあるが、現行制度の上では存在しない。これについては、裁判手続を経ることによって前科が世間に知られる可能性を防ぐ工夫が必要とされる。
恩赦による復権恩赦法の規定に基づいて実施されているものである。これは審査を担当する中央更生保護審査会の審査能力による制約があるので、取り扱われる数はきわめて不十分とされる。また、法律上の復権と異なり、刑の言渡し自体を失効させるものでなく、ただ将来に向かって資格を回復させるだけである(第四章第三節参照)。
前科の抹消
前科という言葉は法令上のものではなく、一種の社会的用語である。その用例として、①犯罪により刑に処せられた場合のすべてを指すとき、②自由刑に処せられて刑務所に収容されたことをいうとき、
③市区町村役場の犯罪人名簿に登録される範囲のものをいうとき、などがある。③の場合は懲役・禁鋼と罰金(現在は道路交通法違反を除く)を含んでいる。
犯罪人名簿は選挙資格の確認などの必要上備えつけられているものであるが、犯罪前歴者のプライバシー保護の徹底に留意しておく必要がある。犯罪前歴者の不安を解消するには、刑の言渡しの失効や恩赦による復権がなされたときは、前科の登録を完全に抹消することがのぞましい。しかし、現在は前科抹消を義務づける法規定の欠如、刑の言渡しの失効通知事務の過重負担などにより、恩赦による資格の回復(大赦・特赦・復権など)を除いて必ずしもスムーズに抹消されていないようである。

p164
恩赦の機能については、思赦制度審議会の最終の意見書(一九四八年二月)によれば、次のものがあげられる。①法の画一的な運用から生じる実際的な弊害の除去、②事情の変更による裁判の事後変更、③誤判の救済、④犯行後の犯人の行状等に基づく刑事政策的な裁判の変更または資格の回復(「新訂更生保護」参照)。
しかし、思赦は、行政府の特権によって司法機関の判断を修正するものであり、政治的に濫用される危険性をもっていることも否定できない。それゆえ、思赦は慎重かつ適正に運用されるべきであり、他の処遇形態によることができないときに限つてのみ恩赦が用いられるべきである(恩赦の謙抑性・補充性)。また従来「思赦は保護観察の総仕上げである」といわれてきた。恩赦の運用にあたっては、保護観察との連携を常に念頭におかねばならない。

前野育三「刑事政策論〔改訂版〕」 p234
(二)憲法上の地位の変化恩赦は、洋の東西を問わず、「君主の仁慈」として行われてきた。
明治憲法下での恩赦はまさにそのようなものであった。
一九四七年施行の日本国憲法は、従来天皇の大権に属していた思赦を内閣の権限とし(七三条七号)、天皇は認証するのみとなった(七条六号)。
七三条においても七条においても「恩赦」という語は用いられず、「大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権」という語が用いられている。
もはや「君主の仁慈」でなくなったので、「恩赦」という語がふさわしくないと考えられたのであろう。
このように恩赦の憲法上の地位は大いに変化したといえる。
しかし恩赦法の規定は、旧憲法下の恩赦令とほとんど変わっていない。
ここに現在の恩赦制度の基本的な問題がある。
日本国憲法によって、思赦の憲法上の地位に変化が生じた機会に、新しい憲法にふさわしい恩赦のあり方を検討するために、内閣に思赦制度審議会が設けられ(一九四七年一〇月一日)、同審議会は翌年六月三O日に最終意見書およぴ勧告書を内閣に提出している。
この最終意見書に挙げられた恩赦の存在意義は、寸法の画一性に基く具体的不妥当の矯正」、「他の方法を以てしては救い得ない誤判の救済ヘ「事情の変更による裁判の事後変更へ「有罪の言渡を受けた者の事後の行状等に基くいわゆる刑事政策的な裁判の変更もしくは資格回復」の四点である。
この基準から見ると、公職選挙法違反や政治資金規制法違反の政治家救済のための恩赦の運用は、日本国憲法下の恩赦として予定されていないものと言わなければならない。
さらに、「事情の変更による裁判の事後変更」(たとえば、戦前・戦中の悪法によって処罰された人の救済)を考慮しなければならない激動の時代を遠く過ぎ去った今日では、政令思赦の存在自体に疑問が提起されるに至っている。
日ロ政令思赦と特別基準恩赦国家の慶祝時や皇室の慶弔時に行われる政令思赦(大赦令、減刑令、復権令)から漏れたケlスで、恩赦に適するものを、二疋の基準に従って個別的に拾い出して行われるのが特別基準恩赦である。
これは慶弔時恩赦である点において政令恩赦と共通しており、同じく個別恩赦とはいっても、常時恩赦とは異質のものである。
慶弔時恩赦の政治的性質を見る際にも、政令恩赦だけを見ていたのでは、その本質が十分に見えてこないことが多い。
現に即位の礼恩赦に際しては、大赦は行われず、昭和天皇崩御思赦の大赦には公職選挙法違反者は含まれていないが、どちらの場合にも、特別基準恩赦によって政治家の救済が行われているのである。
特別基準思赦の基準として挙げられる「社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている者」という表現によって、政治家救済に焦点を合わせた恩赦が行われているのである。
日本国憲法下の思赦でありながら、政治的利用が顕著になったのは、国際連合加盟思赦(一九五六年一二月一九日施行)以来であるということができるであろう。
一九四五年一O月一七日施行の第二次大戦終局恩赦から一九五二年四月二八日施行の平和条約発行思赦に至る各思赦は、主として、敗戦、新憲法の発布、占領状態の終結という急激な社会情勢の変化およぴそれに伴う法令の改廃に対応したものであり、合理性を認めることができよう(田中開「戦後における恩赦の運用とその問題点」ジュリスト九三四号五五頁)。
それに対し、国際連合加盟恩赦では、公職選挙法違反、政治資金規制法違反を主体とした大赦が行われ、公職選挙法違反だけで大赦対象者の九九・九%近く、実数で七万人近くを占めた。
これに対しては、世論の強い反発があったので、その後は、選挙違反を対象とした大赦は行われていない。
しかし、一九五九年四月一O日施行の皇太子殿下(明仁親王)御結婚恩赦以降の各恩赦事例では、大赦に代わって復権令による復権や、特別基準思赦としての特例や復権によって、相当多数の公職選挙法違反者が公民権を回復している。
昭和天皇崩御恩赦(一九八九年二月二四日施行)では、特赦を原としそれから漏れた者を特別減刑や特別復権で救済するという形式ではなく、思赦の種別ごとに要件を定めて行われた。
政令恩赦として、大赦には公職選挙法違反は含まれず、復権が大量に行われた。
即位の礼恩赦(一九九O年一一月一二日施行)では大赦が行われず、他の点では崩御恩赦と基本的に同じである。
国連加盟思赦に典型的に見られた政治性に対する世論の批判を避けたものであろう。
世論は思赦の形を変えたわけである。
しかし、具体的な形式は変化するが、復権によって実際に利益を受けるのは公職選挙法違反者など政治家である点は変わらず、政治的恩赦としての基本性格に変化はない。
世論の力を評価しながらも、この点を見落としてはならない。
なお、道路交通法違反で罰金を科される者が多いために、復権令による復権の対象に罰金が包摂される場合、適用人員が彪大な数に達する。
しかし道路交通法違反の罰金は事実上、犯罪人名簿に登載されていないので、復権の必要のない者である。
この場合、復権は何の利益も与えず、まったく形式にすぎない。
(帥常時思赦これら政令思赦や特別基準恩赦とひと味違った役割を演じているのが常時恩赦である。
個別恩赦の種類には特赦、減刑刑の執行の免除復権の四種類があるが、常時恩赦として行われるのは刑の執行の免除復権である。
刑の執行の免除は、仮釈放後の保護観察期間を短縮するために用いられており、復権は、前科のあることが社会的活動の障害や精神的負担になっている三号観察(仮釈放後の保護観察)終了者に対し、精神的負担を除去して社会復帰を促進しようとするために用いられている。
とくに無期刑については、仮釈放後の保護観察は終身続けられるので、思赦(通常は刑の執行の免除)による以外には、それを打ち切ることができない。
刑の執行の免除によって保護観察が短縮された例や、復権の行われた例を見ると、社会生活上の障害を除去するだけでなく、精神的にも大きな励みになっていることが報告されている(「更正保謎」誌上に多数の事例報告あり)。