児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

わいせつ画像のメール送信が「頒布罪」なら、サーバーから猥褻画像を受信させる行為は「頒布罪」じゃないのか?

 ということに今井さんは気付いてないようで。
 ダウンロードカフェ事件の札幌高裁判決が効きましたね。児童ポルノ法がメールに対応したのと対照的で、刑法は何も対応してないので。

[001/091] 177 - 衆 - 法務委員会 - 15号
平成23年05月31日
○今井参考人 おはようございます。法政大学大学院法務研究科の今井と申します。
 本日は、貴重な機会を与えていただきまして、大変光栄に存じております。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は、刑法、刑法実体法を専攻する者といたしまして、本法案に賛成する立場から、刑法の改正部分のうち、特にサイバー犯罪関係のものについて意見を述べさせていただきます。
 時間の関係もありますので、主要な点に絞ってお話ししたいと思います。
 次に、わいせつ物頒布等の罪に関する改正について意見を申し上げます。
 今回の法案では、刑法第百七十五条につきまして、幾つかの点で改正を行うこととしているようでありますが、そのうち主要な点について申し上げますと、まず、電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布した者が処罰対象に含まれるというふうになっております。
 今日、わいせつな画像を電子メールやインターネットなどのネットワークで頒布する行為が多々見受けられるわけでございますが、現行の百七十五条は、対象物として有体物であるわいせつ物を想定していると解されますので、そのような行為に本罪、現行の百七十五条を適用し得るかについては、下級審の裁判例でも判断が分かれているところでございます。
 すなわち、平成十二年七月六日の横浜地方裁判所川崎支部判決におきましては、電子メールにわいせつな電磁的記録を添付して不特定多数の者に送信する行為につきましては、このような画像データはインターネットにおけるメールシステムを媒体とするわいせつ図画に該当すると判示して、わいせつ図画販売罪の成立を認めております。
 しかし、同種の行為につきまして本罪の成立を否定したものもありまして、それは例えば、平成二十一年六月十六日の札幌高裁判決であります。ここにおきましては、インターネットを通じて不特定多数の者に有償で提供する目的でわいせつな動画ファイルを自宅のファイルサーバー等に蔵置させたという行為につきまして、有体物でない動画ファイルを販売する目的でファイルサーバー等を所持したということでは、わいせつ図画販売目的所持罪が成立しないということで、本罪の成立を否定しております。
 このように、下級審裁判例の判断は分かれておりますけれども、実質的に考えますと、ネットワークを通じてわいせつ画像を頒布するという行為は、有体物としてのわいせつ物を頒布する行為と違法性の点では同等と言うべきであります。
 したがいまして、今回想定されております改正後の百七十五条第一項後段におきましてこのような行為が処罰の対象に含まれるということは、適切なものだと考えております。
 また、現在の百七十五条後段におきましては「販売の目的」という文言が使われておりますが、今回の法案では「有償で頒布する目的」という文言が使われております。「販売」という文言は、これまで、基本的には有体物を想定してきたものでありますけれども、今回の改正では、ネットワークを利用して電磁的記録という有体物以外の情報を拡散させる行為を処罰対象に含めることとしておりまして、このような行為につき、有体物の場合と同様に「販売」という文言を用いることが適当かという疑問もあったところであります。
 一方で、有体物としてのわいせつ物についても、従来、例えば、有償でレンタルするように、必ずしも所有権の移転を伴わない形でわいせつ物を拡張させる行為もあったところであります。改正後の百七十五条二項におきまして「有償で頒布する目的」と規定されておりますのは、このようなことを踏まえたものであると思われまして、従来の「販売」との文言では捕捉できない行為、有体物の所有権の移転を伴わない行為をも適切に捕捉する改正であると考えております。