最決H21.7.7は包括一罪か併合罪かという選択で、併合罪にしたようですが、牽連犯というのもあり得るところです。
2 提供目的製造罪と提供罪
牽連犯の要件である抽象的牽連性と具体的牽連性を満たすから牽連犯である。
条解刑法第2版p198条解刑法第2版P197
3) 犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れる場合(牽連犯)
牽連犯が科刑上一罪とされる根拠は,社会的事実の一体性が認められることにある。
もっとも,行為の一個性が要件となっている観念的競合と異なり, 目的・手段又は原因・結果という関連性があるにすぎないから,一体性の程度はやや弱く, しかも,関連性の程度にはさまざまな段階がある。さらに,これを認めた場合には,一事不再理効の関係で不当な結果が生じる可能性もある。そのため,判例・実務においても,社会通念上類型的に一体と評価できるような場合に限って成立が認められている。
(ア)犯罪の手段若しくは結果である行為数個の行為が手段・目的又は原因・結果の関係(牽連性)にある場合をいう。このような牽連性には,主観的牽連性と客観的牽連性があり得るが,客観的牽連性のみが牽連犯の要件であるとする客観説が判例通説である(最判昭24・7・12集3-8-1237. 最大判昭24・12.21集3-12-2048)。
例えば,最判昭57・3・16集36-3-260は,他人の住居の庭先に侵入して住居内をひそかにのぞき見た場合における住居侵入罪と軽犯罪法1条23号の罪が牽連犯の関係にあるとする理由として,「数罪問に罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となる関係があり, しかも具体的に犯人がかかる関係においてその数罪を実行した場合には,右数罪は牽連犯として刑法54条1項後段により科刑上の一罪として取り扱われるべきもの」としているが,後段の文言は,必ずしも主観的な牽連意思を意味するものではなく,客観的牽連性のうち具体的牽連性(単に抽象的な牽連性があるだけでは足りない)を意味するものと解される。「数罪間に罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となる関係」すなわち抽象的掌連性があり,「しかも具体的に犯人がかかる関係においてその数罪を実行した場合」. すなわち具体的牽連性があることを必要とする趣旨である。
抽象的牽連性が認められる類型としては構成要件自体が手段・目的又は原因・結果の関係を予定している場合や.罪質上,当該犯罪だけでは究極の犯罪目的が実現せず,それを手段として他の犯罪に発展することが予定されている場合などがある。その例としては,住居侵入罪と放火罪・強姦罪・殺人罪・傷害罪・逮捕監禁罪等,文書偽造罪と偽造文書行使罪と詐欺罪偽証罪と詐欺罪,わいせつ目的誘拐罪と強制わいせつ罪等が挙げられる。なお逮捕監禁罪と恐喝罪について,最判平17・4・14集59-3-283は,従来の大審院判例を変更し「犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものとは認められず,牽連犯の関係にはないと解するのが相当」としている。
3 牽連犯とする裁判例
裁判例を挙げる
奈良地裁H18.1.13
さいたま地裁熊谷支部H18.2.9
富山地裁高岡支部H19.4.11
さいたま地方裁判所川越支部H20.3.11
東京高裁H20.8.13
牽連犯としたさいたま地裁川越支部判決の法令適用を東京高裁が追認している。さいたま地方裁判所川越支部H20.3.11
◇科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段・後段,10条(判示第3の児童ポルノ提供とわいせつ図画販売,児童ポルノ提供目的所持とわいせつ図画販売目的所持は,それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,判示第2の児童ポルノ製造と判示第3の児童ポルノ提供・わいせつ図画販売,児童ポルノ提供目的所持・わいせつ図画販売目的所持との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重い児童ポルノ提供目的所持の罪の刑で処断)東京高等裁判所H20.8.13
6 法令適用の誤りについての職権による指摘
原判決には,(1)原判示第2の事実について,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項前段,4項前段を適用すべきところを,同法7条5項前段しか適用しなかった点,(2)原判示第3の事実中,児童ポルノ提供及び児童ポルノ提供目的所持について,7条5項前段、4項前段を適用すべきところを,同法7条5項前段,4項後段を適用した点,(3)原判示第2と原判示第3の罪を牽連犯とした上で,原判示第3の児童ポルノ提供目的所持の罪の刑で処断するとしたにもかかわらず,原判示第2の刑種の選択をした点,(4)主文で没収を言い渡したにもかかわらず,その根拠法条を摘示しなかった点で,法令適用の誤りがあるが,これらはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかな誤りとはいえない。4 児童ポルノ法には刑法8条にいう「特別の規定」がないこと。
牽連犯は刑法第1編54条に根拠があり、提供目的製造罪と提供罪とが「犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるとき」に当たることも明白である。
しかも、児童ポルノ法には刑法8条にいう「特別の規定」がない。刑法
第8条(他の法令の罪に対する適用)
この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。従って、両罪が牽連犯となることは明かである。
5 まとめ
提供目的製造罪と1項提供罪は牽連犯である。
しかるに原判決は、上記の製造罪2罪、提供罪を併合罪としており、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売,わいせつ図画販売目的所持,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 平成20年(あ)第1703号
【判決日付】 平成21年7月7日
【出 典】 判例タイムズ1311号87頁
3 次に,児童ポルノの提供行為とその提供目的所持行為とが併合罪であるのか,包括一罪であるのかが問題となる。この点に関する最高裁の判例はなく,下級審においては,これまで,わいせつ図画と同様に包括一罪となるとするものと併合罪とするものがあり,高裁においても両方の判断例が存在したが(包括一罪とするのは福岡高那覇支判平17.3.1〔公刊物未登載〕,併合罪とするのは東京高判平15.6.4高刑速〔平15〕83頁,刑集60巻5号446頁,大阪高判平20.4.17刑集62巻10号2845頁),近時は併合罪説が有力であったようである。包括一罪とする説は,児童ポルノ法7条の罪をわいせつ図画罪と同様のものと考えているものと思われる。すなわち,平成16年に改正される前の同条の体裁は,わいせつ図画罪の条文とほぼ同様のものであり,各構成要件に該当する行為は,その性質上,いずれも反復・継続する行為を予想させるものともいえるからである。児童ポルノ法制定当時からの解説書(園田寿『解説児童買春・児童ポルノ処罰法』)においても,そのような包括一罪との解釈が示されていた。一方,併合罪とする説は,児童ポルノ法の被害法益の違いから,わいせつ図画罪とは同様に考えられないとするものである。すなわち,児童ポルノ法は,同法1条に明記されているとおり,当該児童の権利保護をも目的としているところ(平成16年の児童ポルノ法1条の改正により,児童の権利保護の面がより強調されている。島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」ジュリ1274号61頁参照),児童ポルノは,その提供によって初めて当該児童の権利が侵害されるのではなく,提供に至らない製造,所持等も,それ自体において当該児童の性的権利を侵害する行為であり,製造,所持等された児童ポルノが現実に提供された場合,製造,所持段階の児童ヘの侵害が吸収される関係にもないから,これらを提供に包括して評価するのは相当でないとするのである。なお,児童ポルノについても提供目的のある製造,所持等のみが処罰の対象となっており,単純な製造,所持等が処罰されないが,これは,単純な製造,所持等については刑事処罰をするほどその違法性が高いとはいえないと判断されただけと解される。
本決定は,児童の権利を擁護しようとする児童ポルノ法の立法趣旨を根拠に,併合罪説をとることを明示した。下級審においては,必ずしも訴訟上の争点にならなかった場合も含めて,包括一罪として処理されていた例が少なくなかったようであるが,今後は併合罪として処理されることになろう。
ところで,本決定は,児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪とが併合罪の関係にあることのみを判示しており,複数の提供行為や所持行為を行った場合,提供又は所持としてはそれぞれ一罪になるのか,各行為ごとに併合罪になるのかについては触れていない。少なくとも児童ポルノ法7条4項の提供罪については,「不特定又は多数の者」への提供が構成要件になっているのであるから,多数回の提供行為も一罪と考えるのが素直ではあろうが,いかなる解釈をとるのか,今後の判断に委ねられたものと考えられる。
4 さらに,児童ポルノの提供と所持との関係が併合罪であるとすると,児童ポルノでありかつわいせつ図画である物について提供(販売)行為と所持行為とがなされたときの罪数関係が問題になる。これまでの下級審裁判例における取り扱いは必ずしも統一されていなかったようである。
考え方としては,原判決が示したとおり,「わいせつ図画罪は同一の意思による場合は包括一罪である」とするのが通説判例であること,児童ポルノかつわいせつ図画に係る提供(販売)行為及び所持行為を,それぞれについてみれば,自然的社会的に1個の行為が別の視点からみて児童ポルノ罪とわいせつ図画罪に該当するというものであるから,これが観念的競合の関係にあることを考えあわせれば,いわゆるかすがい理論が適用される一場面として全体が一罪となるとするのが素直な解釈である。本判決も,この論理によって全体が一罪となるとの判断を示している。かすがい理論については批判もあるところであるが,本決定は,本件の児童ポルノ罪とわいせつ図画罪が,その対象物の性質の見方によって異なる犯罪と評価されるという事案の性質に照らして,本判決のような結論を採用したものと思われる。
1 いずれも,実務上必ずしも確定した扱いがなされていなかった点についての最高裁としての判断であり,今後の参考になるものと思われる。