とかく児童ポルノ・児童買春の判決はお粗末なんですよ。これでたくさん刑務所に入っています。
金沢支部なんかだと「前提性犯罪が一緒に起訴されてるからわかるじゃろ」と言われます。
志田さんが名古屋にいる間に製造とか強制わいせつ罪とかでたくさん判例つくっちゃえ。
westlaw
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
津地方検察庁四日市支部で保管中のMiniDV1本(同支部平成22年領第335号符号2)及びマイクロSDカード1枚(同領号符号18)を没収する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人加藤寛崇作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官工藤恭裕作成の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,原判示第1の事実に関する事実誤認及び法令適用の誤り,同第2の事実に関する不法な公訴受理,理由不備,理由のくいちがい,訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤り並びに量刑不当の主張である。
そこで,原審記録を調査して検討する。
1 控訴趣意中原判示第2の事実に関する不法な公訴受理及び理由不備の論旨等について
論旨は,原判示第2の事実に関し,起訴状の公訴事実第2には,被告人が児童との性交場面等を撮影して保存したと記載されているのみで,被告人が児童に性交に係る「姿態をとらせ」とは記載されておらず,起訴状に記載された事実が罪となるべき事実を包含していない(刑訴法339条1項2号)にもかかわらず,原審は公訴棄却の決定をせず不法に公訴を受理した,また,原判決の犯罪事実第2にも,児童に性交に係る「姿態をとらせ」との摘示がないから,理由不備の違法がある,というのである。
まず,不法な公訴受理の点等について検討すると,確かに,起訴状の公訴事実第2には,「児童との性交場面等をデジタルビデオカメラで撮影してMiniDVに保存するとともに,携帯電話で撮影してマイクロSDカードに保存し」と記載されているにとどまり,児童に性交に係る「姿態をとらせ」と明記されていない。しかしながら,上記の記載は,被告人が対償の供与の約束をして被害児童と性交した旨の公訴事実第1の記載に続くものである上,起訴状には公訴事実第2の罰条として児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「法」という。)7条3項,1項,2条3項1号が記載されていることからすると,被告人の言動によって被害児童が性交に係る姿態をとったことを理解することができる。したがって,起訴状に記載された事実が罪となるべき事実を包含していないとはいえず,原審が不法に公訴を受理したとはいえない。なお,公訴事実第2について,訴因が特定されていないともいえないから,公訴棄却の判決をしなかった原審の訴訟手続に法令の違反はない。
次に,理由不備の点について検討すると,法7条3項は児童に法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせる行為を構成要件として規定しており,この行為は児童ポルノ製造行為と他の不可罰的な行為とを画する重要な要素となるものであるから,児童ポルノ製造罪については,これを罪となるべき事実として摘示する必要があるというべきである。これを本件についてみると,原判決の犯罪事実第2は,被告人は,被害児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,「上記児童との性交場面等をデジタルビデオカメラで撮影してMiniDVに保存するとともに,携帯電話で撮影してマイクロSDカードに保存し,上記児童に係る児童ポルノを製造した」というものであるが,これをもって児童に性交に係る姿態をとらせる行為を摘示したものとみることはできない。そうすると,原判決には,原判示第2の事実に関し,罪となるべき事実の記載に理由の不備があるといわざるを得ず,論旨は理由がある。そして,原判決は,原判示第1の児童買春罪と上記の児童ポルノ製造罪とが刑法45条前段の併合罪の関係にあるとして,1個の刑を科しているものであるから,結局,その余の控訴趣意について判断するまでもなく,全部破棄を免れない。
2 破棄自判
よって,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当裁判所において更に判決する。
(罪となるべき事実)
原判決の犯罪事実第2を「上記日時場所において,上記児童をして,同児童を相手方とする性交に係る姿態をとらせ,これをデジタルビデオカメラで撮影して,その姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるMiniDV(津地方検察庁四日市支部平成22年領第335号符号2)に描写するとともに,携帯電話機に内蔵されたビデオカメラで撮影して,その姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるマイクロSDカード(同領号符号18)に描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した。」と改めるほかは,原判決の犯罪事実に記載のとおりである。
(証拠の標目)
原判決が証拠の項に挙示するものと同一である。
(法令の適用)
判示の各事実について,原判決と同一の法令(併合罪の処理まで)を適用し,その処断刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,津地方検察庁四日市支部で保管中のMiniDV1本(同支部平成22年領第335号符号2)及びマイクロSDカード1枚(同領号符号18)は,判示第2の犯罪行為を組成した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれらを没収し,原審における訴訟費用は,刑訴法181条1項本文によりこれを被告人に負担させることとする。
(弁護人の主張に対する判断)
所論に鑑み,弁護人が控訴趣意として主張するもののうち主な点について,以下に判断を示すこととする。
まず,所論は,児童買春の処罰規定は「対償」という文言が不明確であり,「対償」の内容が何ら限定されておらず,不当に広範な処罰をするものであるから憲法31条に反し,また,真摯な男女の関係にある者の間で性交等に及ぶ前に贈り物をしたり又はその約束をしたりする場合にも処罰されることとなり,性的自由に対する不合理な制約に他ならないから憲法13条,24条にも反する,という。しかし,法が規定する「対償」とは,児童が性交等をすることに対する反対給付としての経済的利益をいうものと解されるところ,その内容は何ら不明確ではなく,したがって不当に広範な処罰をするものともいえず,また,被告人は専ら自らの性的欲望を満足させる目的で判示第1の児童買春の行為に及んだものであり,このような事実に児童買春の処罰規定を適用する限りにおいて,これが性的自由に対する不合理な制約とならないことも明らかであって,所論はいずれも採用する余地のないものである。
次に,所論は,判示第1の事実に関し,13歳未満の者には性交等を有効に承諾する能力がなく,対償供与の約束は成立し得ないから,本件においても,当時12歳の被害児童との間に対償供与の約束は成立しておらず,したがって児童買春罪は成立しない,という。しかし,法が児童の承諾のあった性交等を処罰することとしているのは,児童が心身ともに未熟であることから,その承諾そのものを問題視して児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護するためであり,法は性交等の承諾を与える児童の能力が完全でないことを当然の前提としているのである。また,刑法176条後段及び177条後段は,性的知識に乏しい年少者を特に保護する趣旨で,13歳未満の者に対しては,同意の有無を問わず,かつ,暴行脅迫を用いないでも強制わいせつ罪,強姦罪が成立することとしているのであり,児童買春罪の成立を認めるに当たって,これらの規定が13歳未満の者について対償供与の約束が成立したとの事実を認める妨げとなるものではない。所論は失当である。
(量刑の理由)
(原審における求刑 懲役1年6月)
(裁判長裁判官 志田洋 裁判官 鈴木芳胤 裁判官 今井理)