児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強姦致傷1罪(全治2週間)で懲役9年(求刑8年)(宇都宮地裁H23.2.3)

 「心の傷は癒えない」というのです。

(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,女子高校生である被害者に対し,自転車に乗っていた同女の身体を押して自転車もろとも路上に転倒させたり,「静かにしろ。声出すな。」などと言うなどの暴行脅迫を加え,無理やり口淫させるなどした上で強姦し,その際,同女に全治約2週間の処女膜損傷の傷害を負わせた強姦致傷の事案である。
2 本件犯行の結果は誠に重大である。
 被害者は本件被害により,全治約2週間を要する処女膜損傷の傷害を負ったものであり,その傷害内容等からすると,全治期間では計り知ることのできない意味があり,肉体的被害は重大である。
 次に,精神的苦痛についてみると,被害者は,性交経験のない15歳の女子高校生であったところ,自転車での帰宅途中,突如として本件被害に遭ったものであり、被害者が受けた恐怖感,屈辱感,喪失感等は非常に大きかったと認められる。被害者は,本件被害後,自転車で通学するのが怖くなって電車やバスで通学するようになったり,車内で知らない男性に近付かれるだけで通学できなくなるほどの苦痛を感じたり,1人でいるのが怖くなって睡眠や入浴を母親とともにするようになったり,被害者としての意見陳述の文面を作成することを示唆されるやコントロールできない恐怖感等で思いも掛けない反応を示すなどしているという。また,現在に至っても,1日1日やっとの思いで生きている,事件前に抱いていた将来の目標や希望まで失ったなどとも述べている。このように,被害者が負った心の傷は余りに深く,被害から約8か月が経過した現在においてもその傷は癒えておらず,癒える見込みも定かでない。本件が,15歳という若年の被害者の将来に与える影響は非常に憂慮される。被害者が受けたこれら被害の点は,量刑上もっとも重視すべき事情である。
 また,被害者の両親は,愛情いっぱいに育ててきた娘が本件被害に遭い,苦しんでいる姿を間近で見るなどして,自ら深い心の傷を負っている。被害者の父親は,娘を守りきれず本当に申し訳ない気持ちでいっぱいであると,母親は,事件のときから時が止まってしまった,悲しみはおさまるどころか,ますます強くなっているなどと,その苦しい心情を法廷で明らかにしている。 
 被害者は,両親に心配や迷惑を掛けて申し訳ないと思っているなどと,両親に対する思いを意見陳述において明らかにしているが,このように,何ら落ち度のない被害者の家族が,それぞれの立場で苦しみを抱える毎日を過ごしていることは見過ごすことができない。
 被害者及び両親ともに,被告人に対する厳しい処罰感情を明らかにしているが,そのような感情を持つのは至極当然のこととして,理解できる。
3 被告人は,本件犯行前夜,人気のない場所で制服を着た女子高校生を見つけたらレイプしたいと思い,細い道をうろつくなどしていた。本件犯行当日も同じように,レイプできそうな女子高校生を目当てにして犯行現場付近の細い道をうろついていたところ,自転車に乗った女子高校生である被害者を見かけるや,先回りをして車を止めて待ち伏せし,車内に積んでおいた目出し帽,ゴム手袋及びローションを出し,目出し帽をかぶり,両手にゴム手袋をはめ,ローションをポケットに入れて,自転車で近付いてきた被害者に対し,判示の暴行脅迫を加えたものである。このような被告人の行動からして,本件が計画的犯行であることは明らかである。
 暴行脅迫の態様は,自転車に乗っていた被害者の身体を両手で押して自転車もろとも路上に転倒させた上,夜間,人気のない暗い場所で,「静かにしろ。声出すな。」などと言い,また,被告人の供述によれば,「殺すぞ。」などと強い口調で言ったというのであり,被害者に強い恐怖を与える悪質なものである。被告人から上記の暴行脅迫を加えられ,声を出したら殺されてしまう,静かにするしかないという気持ちになった被害者の様子を見て,被告人は,レイプをするときには,もっと騒がれるのではないかと思っていたが,案外と簡単におとなしくなるものだと思ったなどと述べ,被害者の顔を観察するなどしながら本件犯行を敢行したものであって,非情というべきである。また,被害者に対し,無理やり口淫させ,乳房を揉むなどの陵辱行為も加えており,被害者の人格を無視した卑劣かつ悪質な犯行である。
 弁護人は,被告人が被害者を妊娠させては可哀想と思って膣外射精したことを,被告人が,わずかながら,良心を保っていたことの現れとして主張する。しかしながら,仮に弁護人が主張するとおりであったとしても,結果の重大性や行為態様の悪質さからすれば量刑上考慮に値しない事情である。
4 被告人が本件犯行に及んだのは,つまるところ,自己の性欲をみたすためであって,このような動機に酌むべき点は全くない。
 弁護人は,本件犯行当時,職場での人間関係,交際していた女性との別れ,経済的行き詰まりから抱え込んでいたストレスが,被告人の正常心を失わせ,空想の世界にあった強姦願望が表に出てきてしまった旨主張する。
 しかしながら,そのようなストレスがあったとしても,強姦願望といったものについては抑制が効くのが通常であり,またそうでなければならないのであって,そもそも本件犯行は,被告人が自認するとおり,女性を性欲のはけ口として見るという被告人の歪んだ女性観に基づくものというべきで,そこに何ら同情の余地はない。
5 被告人は,犯行後,被害者の名前や学校名を聞いた上,被害者の家を知っているなどと言って口止め工作をしており,被害者はそのために事件後もおびえる生活を送っているのであって,犯行後の行動も悪質である。
6 本件犯行が前記のような被告人の歪んだ女性観に基づくものであり,また,被告人が,平成22年2月ころ,制服を着た女子高校生の体に触ろうとしてその自転車の前に立ちふさがったが,大声を出されたため逃げたという事件を起こしながら,その約3か月後に本件犯行に及んでいることをも併せ考えると,被告人に前科がないことを考慮しても,再犯のおそれは高いというべきである。
7 被告人は,事実を認め,どんな刑にも服するなどと述べ,被害者らに対する謝罪の言葉を述べている。しかしながら,被害者に宛てた手紙(ただし,受け取りは拒否されている。)では,被害者に対し,カウンセリングを受けることを勧めるなど,被害者に苦しみを与えた張本人が書くとはおよそ思われない自己中心的な内容を記載しており,被害者やその両親の気持ちに真に思いを至らせた謝罪とは到底いえないものである。このように,被告人は,本件犯行が被害者やその両親に与えた影響の大きさを理解していないというほかない。また,犯行に至った原因や女性観を含め,自分自身と十分に向き合っているとは認められず,その反省は深まっていない。
8 一方,被告人の父親が示談金を準備し,これまで150万円の弁償の申入れをしていること,父親が情状証人として出廷し,社会復帰後の被告人の監督を約束したことは,被告人のために酌むべき事情として指摘できる。
 しかしながら,具体的な監督態勢が必ずしも明らかでないなど,父親による監督の実効性にはいささか不安が残るといわなければならない。
9 そこで被告人の具体的刑量について検討するに,本件犯行結果が単なる傷害の治療期間では計ることのできない重大なものであることは十分に斟酌されるべきであり,その他計画的犯行であること,犯行態様が卑劣かつ悪質であること,動機や経緯に酌むべき点が全くないこと,犯行後の行動も悪質であること,再犯のおそれは高く,反省も深まっていないことなどの諸事情を考慮すると,懲役8年という検察官の求刑は軽きに失するといわなければならず,被告人の真の更生を図る観点からも,被告人に対しては,主文の刑を科するのを相当と認めたものである。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役8年)
平成23年2月3日
宇都宮地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 佐藤正信 裁判官 崇島誠二 裁判官 長峰志織