児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強姦罪等の量刑理由(大阪地裁H22.4.19)

 撮影行為を伴っています。

(量刑の理由)
 本件は,被告人が,1年2か月余りの間に,大阪市内,大阪府柏原市内及び神戸市内で,住居侵入・強姦致傷・窃盗(第1事件),住居侵入・強姦・窃盗(第2事件),強姦・強盗・強盗未遂(第3事件),住居侵入・強姦未遂(第4事件)各1件,住居侵入・強姦3件(第5,第10及び第11事件),住居侵入・強盗強姦4件(第6,第8,第12及び第13事件),住居侵入・強姦・強盗2件(第7及び第9事件)の合計13件の犯行を重ねたという事案である。
 被告人は,嫌がる女性を無理矢理姦淫するという,いわゆるレイプもののアダルトビデオに刺激され,仕事によるストレスを発散するとともに,自己の性欲や金銭欲を満足させるため,全く面識のない,18歳から27歳までの若い女性に対し,その人格等を著しく踏みにじる凶悪な犯罪を多数回繰り返したものであり,その動機は身勝手この上なく,酌量の余地は全くない。
本件各犯行の主な手口は,夜間1人歩きをしている若い女性の後をつけるなどしたうえ,女性の自宅マンションのエレベーター内や女性方居室内などに入り込むなどして,女性と2人きりとなった状況を利用し,女性に折りたたみ式ナイフを突き付け,顔に一生残る傷を付けると言うなどして脅迫したり,素手で暴行を加えたりして,女性を抵抗できなくさせて,強姦や強盗に及び,さらに,被害申告をさせないようにするために女性を強姦する様子などをデジタルカメラで撮影し,口止めをして立ち去るという,凶器等の道具を用いた周到かつ卑劣なものであり,極めて悪質である。その結果,最も刑罰の重い強盗強姦を含む事件4件,これに次いで重い強姦致傷を含む事件1件のほか,強姦と強盗(未遂を含む。)の両罪を含み,被害者からすると,強盗強姦と同様の著しい苦痛を被ったと考えられる事件5件などの,合計13件もの犯罪被害が発生し,12人の女性が強姦され、そのうち1名は傷害まで負わされたうえ,5人の女性が,合計約8万円の現金や鍵などの物品を奪われるなどし,容易に癒すことができない肉体的・精神的苦痛を被らされた。また,被害女性らは,被害に遭う過程において,1人暮らしの自宅内など,他人の助けを期待できない状況下で,いきなり刃物を突き付けて脅迫されたり,強度の暴行を加えられるなどして,著しい恐怖感や絶望感を味わわされた。いずれの被害者も,被告人に対する峻烈な処罰感情を表しており,そのうち6名の被害者は書面により,3名の被害者は公判に出廷して,「できれば死刑にしてほしいところですが,無期懲役,できるだけ苦しむ方法の処罰を望みたいです。」等と述べるなど,悲痛な心情を吐露している。さらに,本件各犯行の重大性,悪質性,連続性などに照らすと,地域社会に及ぼした衝撃の大きさも見過ごせない。
 以上に加えて,多数の同種事件を敢行しているため,個々の事件に関する記憶があいまいになっている可能性を考慮しても,なお,被告人は,公判で,種々の不合理な弁解を重ねているといわざるを得ず,特に法定刑が重い4件の強盗強姦を全て否認し,その各罪の成立を妨げる供述をしていることもあわせ考えると,被告人が,自己の行動等を省み,被害者らが心身に受けた深刻な打撃等に思いを致し,真に本件各犯行を反省する気持ちになっているとは認め難い。したがって,被告人の刑事責任は極めて重い。 
 他方で,被告人には,〔1〕強姦1件(第4事件)及び強盗2件(第8及び第13事件)が未遂に終わり,強姦未遂については,被告人が自らの意思で中止したものであること,〔2〕第1事件の被害者の負った傷害が,重篤なものでなかったこと,〔3〕本件各犯行の一部は認め,その余の各犯行についても犯罪事実の一部は認めて,被告人なりの反省の弁を述べていること,〔4〕現時点で,自分の預貯金等の中から,被害者9名に対し,合計911万円余り(1人あたり100万円ないし105万円)の被害弁償をしていること,〔5〕前科前歴がないこと,〔6〕本件当時は熱心に仕事をしており,職場の元上司が被告人の働き振りを評価したうえ,有期懲役刑を望む旨の嘆願書を提出していること,〔7〕実母や元の交際相手が公判に出廷し,それぞれの立場から今後も被告人を支えていきたいと述べていることなどの,被告人のために酌むべき事情も認められる。もっとも,被告人は,第4事件の強姦行為を中止した後にも,被害者に対し,性交類似の行為を続けているのであるから,結局被告人による強姦の中止が被害者に対する性的自由の侵害の程度を著しく軽減したとはいい難い。また,被告人は,すべての被害者らに対し被害弁償を試みているが,いまだ4名の被害者に対する弁償を終えていないし,その金額も,被害の深刻さや,多くの被害者が引越しを余儀なくされ,転居費用等で多額の出費をしていること等に照らすと,決して十分とはいえない。さらに,被告人に前科前歴がなく,仕事熱心であった点も,被告人が,約1年2か月以上にわたり,主として仕事の帰りに,会社の車を足代わりにして犯行に及んだことに照らすと,被告人の刑事責任を大きく軽減させるとはいえない。
 そうすると,本件は,前記のとおり,被告人が,まことに身勝手な動機で,卑劣な手口により,強盗強姦等4件を始めとする13件もの同種犯行を重ねた事案であり,その犯情は極めて悪く,被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても,被告人に対しては,上限30年の有期懲役刑ではなく,無期懲役刑をもって臨むのが相当であると判断した。
(求刑無期懲役
平成22年4月19日
大阪地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官 細井正弘 裁判官 秋田志保 裁判官 池上弘