刑法学徒と教授の問答のようですね。
裁判所も判断するのが初めてなのに、「失当」だなんて突き落とすような言い方やめてほしいなあ。
他方,原判示第1及び第4の強姦の各犯行は,姦淫行為を内容とするものであり,同第2及び第5の児童買春法7条3項に当たる児童ポルノ製造(以下「3項児童ポルノ製造」という。)の各犯行は,児童に性交に係る姿態等をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写する行為を内容とするものであって,それぞれにおける行為者の動態は社会見解上別個のものであるから,原判示第1と第2,同第4と第5は,それぞれの行為に重なる部分があるとはいえ,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,また,それぞれ別の観点から法益を保護するものであるから,包括して一罪として処罰することで足りるものでもない。
そうすると,原判示第2及び第5の各3項児童ポルノ製造罪を併合罪とした原判決には法令適用に誤りがあるが,本件においては,これを前提として形成された処断刑は,これらを包括一罪とした場合の処断刑と同じであるから,この誤りは判決に影響を及ぼさないというべきである。
これに対し,所論は,強姦の機会に行われるわいせつ行為は強姦罪に吸収されるとするのが判例であるところ,被害児童の裸を撮影する行為はわいせつ行為に他ならないから,撮影行為は,強姦罪に包括して評価されるべきである,という。
しかしながら,強姦の機会に行われたわいせつ行為を強姦罪とは別に強制わいせつ)罪として評価する必要がないのは,強姦行為が強制わいせつ行為の特別の類型であり,かつ,強姦行為の際にそれ以外のわいせつ行為が付随するのが通常であって,強姦罪の構成要件によって評価し尽くされているからである。
3項児童ポルノ製造行為は,わいせつ行為でもあるが,これが強姦の際に行われた場合において,3項児童ポルノ製造罪としての評価を受けるときは,強姦罪と保護法益が異なり,一般法,特別法等の法条競合の関係にもなく,強姦行為に通常付随するものでもないから,強姦罪に吸収されるものではないことはもとより,強姦罪との混合包括一罪とみるべきものでもない。
また,所論は,児童との性交等は,3項児童ポルノ製造行為のうち,児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る姿態をとらせる行為であるから,3項児童ポルノ製造行為の一部であり,撮影行為は,強姦罪の犯罪事実に含まれるから,強姦罪と3項児童ポルノ製造罪とは観念的競合となる,という。
しかしながら,被害児童の裸を撮影する行為は,裸体を他人の視覚にさらすという面において性的自由を侵害し,性的感情を害するわいせつ行為として強姦罪に包括して評価されるものであっても,姦淫行為そのものではない。
加えて,3項児童ポルノ製造における撮影行為は,電磁的記録に係る記録媒体等に描写するという行為を不可欠の要素として伴うものである。
そうすると,被害児童と性交するという点て強姦行為と3項児童ポルノ製造行為とが重なるとはいえ,ビデオカメラで撮影しMiniDVに記録して描写した点において,自然的観察のもとで,その動態が社会的見解上一個のものとの評価を受けるとはいえないから,所論は失当というべきである。
論旨は理由がない。
参考文献
条解刑法第2版p468
新判例コンメンタール刑法5 p118
東京地裁h1.10.31
判例タイムズ729号228頁
まず、本判決は、強制わいせつとこれに接着して強姦が行われた場合は、これを包括して1個の強姦行為と評価すべきであるとしている。
参考となる判例として、岐阜地判昭46・3・11刑月3巻3号432頁がある。
右判決は、強制わいせつに接着して強姦が行われ、強姦は未遂に終わったものの被害者に傷害を負わせたところ、右傷害を発生させた暴行が強姦の犯意発生の前か後か不明な事案につき、強制わいせつと強姦未遂の包括一罪の結果として刑法181条の致傷罪の構成要件に1回該当すると判示している。
右判決につき、木村栄作・警論25巻2号148頁は、強制わいせつ行為と強姦未遂行為とを包括して1個の強姦未遂行為と評価するのが相当であるから、刑法181条の致傷罪というのではなく、同条の強姦致傷罪の一罪が成立すると評釈している。
本件では致傷の結果は生じていないが、強制わいせつと強姦の関係については、本判決も右のような考え方に従ったものと思われる。
いわゆる包括一罪の用語は、判例上かなり広い概念で用いられているが、本判決の場合は、強制わいせつが強姦に吸収されるといういわゆる吸収一罪的な趣旨で用いられたものと理解するのが相当であろう。