児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

所定目的で密輸入しようとした児童ポルノが保税地域で検挙されたときは何法の何罪か?

 児童ポルノ輸入罪は「既遂」、関税法輸入罪は「未遂」という結論は、常識で見ておかしいよ。
 児童ポルノはデータとなって、保税地域から上空でも海上でもでも流出しますからね。その点は、児童ポルノ法に任せてほしい。

  児童ポルノ輸入罪が既遂となるとき、法条競合(補充関係・特別関係)により関税法は適用されないから関税法輸入未遂罪は成立しない。

関税法第百九条  
2  関税定率法第二十一条第一項第七号 から第九号 までに掲げる貨物を輸入した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
3  前二項の罪を犯す目的をもつてその予備をした者又はこれらの項の犯罪の実行に着手してこれを遂げない者についても、これらの項の例による。

関税定率法
(輸入禁制品)
第二十一条  次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
八  児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項(定義)に規定する児童ポルノをいう。)

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

2 関税法の補充性
 輸入罪の既遂時期については、関税法違反の場合は関税線突破時、児童ポルノ法違反の場合は、日本国の領域に入った時であり、保税地域で検挙された場合には、関税法違反は輸入未遂、児童ポルノ法については、輸入既遂となる。
森山真弓 よくわかる児童買春、児童ポルノ禁止法p60
 最高裁H7.4.13の考え方によれば、関税法が輸入禁制品として、児童ポルノを挙げているのは、所持を規制していない児童ポルノ法の補充のためである。

最高裁判所第1小法廷平成7年4月13日*1
 三 我が国の刑法一七五条がわいせつ表物の単なる所持を処罰の対象としていないことにかんがみると、その輸入規制を最小限度のものにとどめ、単なる所持を目的とする輸入を規制の対象から除外することも考えられなくはない。しかしながら、わいせっ表現物がいかなる目的で輸入されるかはたやすく識別され難いだけではなく、流入したわいせっ表現物を頒布、販売の過程に置くことは容易であるから、わいせつ表現物の流入、伝播により我が国内における健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、その輸入の目的のいかんにかかわらず、その流入を一般的に、いわば水際で阻止することもやむを得ないというべきであり、このことは、前記大法廷判決の説示するところである。そして、右のように行政上の規制に必要性と合理性が認められる以上、その実効性を確保するために、右の規制に違反した者に対して、それが単なる所持を目的とするか否かにかかわりなく、一律に刑罰をもって臨むことが、憲法一三条、三一条に違反しないことは、右大法廷例の趣旨に徴し明らかであるというべきである。

 確かにわいせつ図画の場合は、輸入も輸出も刑法では処罰されないから補充的に関税法で水際規制することも合理性がある。
 しかし、児童ポルノについては、輸出入を含めて流通に関する行為が厳格に処罰されているのであって、関税法によって補充的に規制する必要は乏しい。
 児童ポルノについては、児童ポルノ罪の保護法益関税法違反罪のそれも全く同一であって、関税法違反(児童ポルノ輸入)特有の保護法益は存在しない。
 特に本件のように児童ポルノ輸入罪が既遂となる場合には、児童ポルノ輸入罪で処罰すればよく、補充的存在である関税法違反、しかも未遂罪(「輸入既遂」なのに「未遂罪」なのだという)で処罰する必要はない。

 さらに、児童ポルノ輸入罪の既遂時期が関税法違反よりも早いのは、関税法違反が未遂の場合でも児童ポルノ輸入罪として処罰しようという立法者の意思と解すべきである。

 また、児童ポルノ罪が成立する場合には、児童ポルノ法の被害者保護などに手厚い諸規定*2が適用されるのであって、児童ポルノ法を優先して適用するほうが立法者の意思に合う。

第9条(児童の年齢の知情)
児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。
第10条(国民の国外犯)
第四条から第六条まで、第七条第一項から第五項まで並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。
第11条(両罰規定)
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第五条から第七条までの罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
第12条(捜査及び公判における配慮等)
第四条から第八条までの罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、児童の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、職務関係者に対し、児童の人権、特性等に関する理解を深めるための訓練及び啓発を行うよう努めるものとする。
第13条(記事等の掲載等の禁止)
第四条から第八条までの罪に係る事件に係る児童については、その氏名、年齢、職業、就学する学校の名称、住居、容貌等により当該児童が当該事件に係る者であることを推知することができるような記事若しくは写真又は放送番組を、新聞紙その他の出版物に掲載し、又は放送してはならない。
第14条(教育、啓発及び調査研究)
国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの提供等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの提供等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。
第15条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2 関係行政機関は、前項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
第16条(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
第17条(国際協力の推進)
国は、第四条から第八条までの罪に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。


 従って、法条競合(補充)によって児童ポルノ輸入罪が既遂となる場合に、関税法の輸入禁制品輸入未遂罪は適用されない。