特別刑法の罪というのは、問題となる行為・重要な法益を侵害する行為をピンポイントに処罰していこうという趣旨に理解されるので、細かく刻んで併合罪というのが、正解だと思います。
奥村がそういうということは、実務は必ずしもそうではないわけです。
奥村が一罪といえば裁判所は併合罪、奥村が併合罪といえば裁判所は一罪といいます。奥村が集めてきた併合罪説の裁判例ですら、高裁・高検から「見あたらない」と言われます。
ある特別刑法の罪を一罪にしたいときは、奥村弁護士に併合罪といわせればいいだけです。簡単なことです。理由なんか要りません。
(併合罪説)は弁護人独自の見解であって、採用できない
って言えばいいんです。だから、併合罪の主張が被告人の利益に反することはありません。
名古屋高裁H18.5.30
そこで,児童ポルノの外国からの輸出罪の既遂時期について検討する。
性交又は性交類似行為に係る児童ポルノを製造,提供するなどの行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けこのような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノ処罰法7条もこれらの行為を処罰しているところ,そのうち同条6項は,外国の児童が児童ポルノの描写の対象とされて性的に搾取されている実情があることなどにかんがみ,これに対する国際的な対処が必要であることから,日本国民が同条4項に掲げる行為の目的で児童ポルノを外国に輸入する行為及び外国から輸出する行為をも処罰の対象にしたものと解される。そして,外国からの輸出罪の場合,同条4項に掲げる行為の目的をもって児童ポルノを他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた船舶,航空機等の輸送機関にこれを積載ないし搭載させれば,現代の輸送機関の発達等にもかんがみると,児童ポルノが他の国において流通し,ひいてはこれに描写された児童の性的搾取が重ねられるという危険が現実化したものということができる。これに加えて,輸出という概念の日常的な用法や,輸出罪を処罰する各種法令においても積載ないし搭載の時点で既遂に達していると解されていることなどにも照らすと,児童ポルノの外国からの輸出罪は,輸送機関が輸出国の領域を出るのを待つまでもなく,上記のような輸送機関へ積載ないし搭載した時点で既遂に達すると解するのが相当である。
(略)
12控訴理由第12,第13(原判示第1,第2につき,法令適用の誤り【児童ポルノ輸出罪,関税法の輸入未遂罪の罪数】)
所論は,(1)原判示第1の6回の児童ポルノの外国からの輸出は包括一罪であり,(2)児童ポルノの外国からの輸出罪と関税法の輸入未遂罪とは観念的競合の関係にあり,結局,原判示事実全体が一罪となるから,児童ポルノの外国からの輸出罪6罪及び関税法の輸入未遂罪6罪の併合罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
しかしながら,(1)原判示第1の6回の児童ポルノの外国からの輸出は,これらの行為が同一機会に同一意思をもってなされたものとは認められないから,それぞれ各別に児童ポルノの外国からの輸出罪が成立し,また,(2)児童ポルノの外国からの輸出罪は,前記のとおり,対象物を他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた航空機等の輸送機関にその対象物を積載ないし搭載したときをもって既遂に達すると解されるのに対し,関税法の輸入罪は,外国から本邦に到着した貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては,保税地域を経て本邦に)引き取ったときをもって既遂に達するのであって,児童ポルノの外国からの輸出罪が既遂に達した後,児童ポルノを本邦に引き取るまでの部分は児童ポルノの外国からの輸出罪の実行行為とは重ならないから,児童ポルノの外国からの輸出罪と関税法の輸入未遂罪は一個の行為とはいえず,所論のいう国際スピード郵便(EMS)発送ラベルが複写式になっていて通関手続に必要な書類はそのラベルへの記入で完成することなどを前提にしても,両罪は観念的競合ではなく,併合罪の関係に立つというべきであるから,これらの点につき原判決には法令適用の誤りはない。所論は独自の見解であり,理由がない。
東京高裁平成15年6月4日
2罪数関係の誤りをいう論旨について(控訴理由第8,第11,第13,第14)
所論は,①児童ポルノ罪は,個人的法益に対する罪であるから,被害児童毎に包括して一罪が成立し,製造・所持は販売を目的としているから,製造罪,所持罪,販売罪は牽違犯であり,これらはわいせつ図画販売罪・わいせつ図画販売目的所持罪と観念的競合になり,結局,一罪となるが,原判決は,併合罪処理をしており,罪数判断を誤っている(控訴理由第8),などという。
・・・・
まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この立法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。
大阪高裁h18.2.2不正アクセス禁止法
(5)所論は,不正アクセス罪の罪数は,アクセス管理者の数を基準として判断されるべきであるから,不正アクセス罪相互の関係を併合罪としたのは誤りである,という。
しかしながら,不正アクセス罪は,アクセス制御機能に対する社会的信頼を侵害する行為を処罰するものであるところ,他人の識別符号等を特定電子計算機に入力してアクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にする度に不正アクセス罪の構成要件は充足され,かつ,上記侵害行為があったといえるから,不正アクセス罪は,この状態を作出する行為ごとに成立するものと解され,たとえ同一のアクセス管理者が付加したアクセス制御機能を侵害する行為が複数あっても,不正アクセスをすることについての行為者の動機,目的の同一性,意思の継続,日時の近接等によって1個の罪が成立するにすぎないものと解すべき場合を除いて,それぞれの行為ごとに別罪が成立し,併合罪の関係に立つものと解するのが相当である。