児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被告人と被害児童が絡んでいるのをひそかに製造罪(7条5項)で起訴した事例

 姿態を取らせて製造罪(4項)とひそかに製造罪(5項)の複合形態は、4項製造罪のみになります

起訴事例としては
 神戸地検姫路支部
 神戸地検
 大分地検
 新潟地検
 奈良地裁葛城支部
判決まで行っちゃった事例としては、
 大分地検
 新潟地検
 奈良地裁葛城支部
がありますが、法令適用の誤りです。


 こういう法文なので、

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

他の製造罪の構成要件を満たす場合には、5項製造罪は成立しない。

 坪井検事もそう解説する。
坪井麻友美「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」(法曹時報66巻11号57頁)


 そうなると、検察官は他の製造罪に当たらないという主張・立証をしなければ、5項製造罪は成立しない。
 もしくは、主張責任だけを転換して、被告人・弁護人から他の製造罪にあたるという主張があった場合には、検察官は他の製造罪に当たらないという立証をしなければ、5項製造罪は成立しない。
 姿態をとらせて製造行為をひそかに製造罪で起訴していいという訴追裁量はない。

※ 性交しながら撮影することは「性交する姿態をとらせている」ことであるという判例(札幌高裁H19.3.8)。
 札幌高裁H19.3.8(最決H21.10.21*1の控訴審判決)にその旨の判示がある。
 この理屈は、被害児童が撮影を知らない場合でも変わることがない。

札幌高裁H19.3.8
児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせ」とは,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい,強制を要しないと解されるところ,関係証拠によれば,被告人は,児童と性交等を行っているが,これらの行為は通常当事者双方の言動により行為に至るものであって,本件においても,被告人が警察官に対し,「(ビデオに撮影した)これらの場面はセックスの一連の行為の一場面であります」と述べているように,被告人は,自ら積極的に児童に性交等の行為を行い,あるいは,児童の性交等の行為に応じる言動をしているのであって,この被告人の言動等により児童は性交等の姿態をとるに至ったと認められる。被告人が児童に「姿態をとらせ」たことは明らかである。
なお,所論は,姿態をとらせる行為は,児童ポルノ製造に向けられた行為であるから,その時点において児童ポルノ製造の目的を要するが,被告人には,その時点において児童ポルノ製造の目的がない,という。しかし,被告人は,児童に性交等の姿態をとらせ,それを録画しているのであるから,正に,児童ポルノ製造行為に向けて姿態をとらせたというべきである。所論は採用できない。

 これは正に、「性交などしながらの撮影は「姿態をとらせ」ているのではない」という主張に対する判断であって、判例である。

弁護人弁護士奥村徹の控訴理由
控訴理由第1 事実誤認・法令適用の誤り~性交などしながらの撮影は「姿態をとらせ」ているのではない*2

 本件製造罪をひそかに製造罪とするのはこの判例に違反する。

※  あらかじめ室内にピデオカメラを設置して、わいせつ行為をしているところを盗撮した場合は、ひそかに製造罪ではなく、姿態をとらせて製造罪であるという判例(大阪高裁H28.10.26*3 姫路支部H28.5.20*4)
 5項製造罪の法文は「前二項に規定するもののほか、」とされる。
 盗撮行為であっても、姿態をとらせて製造罪が成立する場合にはひそかに製造罪は成立しないということである。
 判例がある。

阪高裁H28.10.26
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
判決
検察官北英知
弁護人竹内彰(主任),奥村徹(いずれも私選)
原判決神戸地方裁判所姫路支部平成28年5月20日宣告
第10,第12及び第13の各2の事実における法令適用の誤りの主張について。
論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。
所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。
しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。
いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。

強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件 熊本地裁h30.10.26


 強制わいせつ罪(176条後段)と製造が立件されています。撮っちゃうから全部立件されて実刑です。

 わいせつ行為の程度の軽重については、「被告人の肛門に被害児童の手指を挿入させたり,被告人の陰茎を被害児童に触らせたりするというものであるが,肛門の内部や性器との身体的接触を伴う点で,性交等を伴わないわいせつ行為の中では,濃厚な身体的接触により,相手に強い嫌悪感や羞恥心をもよおさせる態様である。各わいせつ行為の態様は,犯行がいずれも比較的短時間で終わっていることを踏まえても,それ自体として悪質であり,被害者を全裸にしたり,その陰部を触るなど弁護人が指摘する事案と比較しても軽微な態様であるとは到底いえない。」とされています。

強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
熊本地方裁判所平成30年10月26日
 被告人を懲役3年に処する。
 未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
       理   由
(罪となるべき事実) -被害者の氏名等は,別表1記載のとおり
第1 被告人は,平成27年10月頃,別表2記載の場所において,被害者が13歳未満であることを知りながら,同人に対し,その手指や陰茎をかたどった性具等を被告人の肛門に挿入させ,さらに,被告人の陰茎を握らせるなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。
第2 被告人は,同年12月頃,同所において,被害者が13歳未満であることを知りながら,同人に対し,その手指や陰茎をかたどった性具を被告人の肛門に挿人させるなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。
第3 被告人は,同月頃から平成28年1月頃までの間に,同所において,被害者が13歳未満であることを知りながら,同人に対し,その手指や陰茎をかたどった性具等を被告人の肛門に挿入させ,さらに,被告人の陰茎を握らせるなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。
第4 被告人は,同年3月頃,同所において,被害者が13歳未満であることを知りながら,同人に対し,その手指や陰茎をかたどった性具等を被告人の肛門に挿入させ,さらに,被告人の陰茎を握らせるなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。
第5 被告人は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,別表3番号1から4のとおり,平成27年10月頃から平成28年3月頃にかけて同表「撮影場所」欄記載の場所において,被害者に同表「撮影内容亅欄記載の姿態をとらせ,これをデジタルカメラで動画撮影した上,いずれもその頃,同表「記録保存場所」欄記載の場所において,同表「保存点数」欄記載の点数の動画データを外付けハードディスクに記録させて保存し,もって,児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
(証拠の標目)(括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号を示す。
判示事実全部について
・ 被告人の公判供述
・ 写真撮影報告書(甲第19号証)
・ 捜査報告書(甲第3号証,同第5号証,同第21号証)
・ 戸籍全部事項証明書(甲第20号証)
判示第3,第4及び第5(別表3番号3及び4)の事実について
・ 被告人の検察官調書(乙第6号証)
判示第1及び判示第5(別表3番号1)の事実について
・ 被告人の警察官調書(乙第4号証)
・ 写真撮影報告書(甲第7号証)
・ 捜査報告書(甲第6号証)
判示第2及び判示第5(別表3番号2)の事実について
・ 被告人の警察官調書(乙第5号証)
・ 写真撮影報告書(甲第9号証)
・ 捜査報告書(甲第8号証)
判示第3及び判示第5(別表3番号3)の事実について
・ 写真撮影報告書(甲第11号証,同第13号証,同第16号証)
・ 捜査報告書(甲第10号証,同第12号証,同第15号証)
判示第4及び判示第5(別表3番号4)の事実について
・ 写真撮影報告書(甲第18号証)
・ 捜査報告書(甲第17号証)
(法令の適用)
罰条
 判示第1から第4の各行為
  いずれも平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段
 判示第5の各行為(別表3番号1から4)
  いずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項2号
刑種の選択
 判示第5(別表3番号1から4) いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理           刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入        刑法21条
(量刑の理由)
 本件は,小学校の教員であった被告人が,担任を務めていた学級の生徒である9歳の被害児童1名に対し,約半年間で4回にわたり,強制わいせつ行為に及び(判示第1から第4),その際の被害児章の姿態をデジタルカメラで動画撮影して児童ポルノを製造した(判示第5)事案である。
 被告人によるわいせつ行為の態様は,いずれも被告人の肛門に被害児童の手指を挿入させたり,被告人の陰茎を被害児童に触らせたりするというものであるが,肛門の内部や性器との身体的接触を伴う点で,性交等を伴わないわいせつ行為の中では,濃厚な身体的接触により,相手に強い嫌悪感や羞恥心をもよおさせる態様である。各わいせつ行為の態様は,犯行がいずれも比較的短時間で終わっていることを踏まえても,それ自体として悪質であり,被害者を全裸にしたり,その陰部を触るなど弁護人が指摘する事案と比較しても軽微な態様であるとは到底いえない。しかも,被告人は,担任教師として,日頃から被害児童の指導に当たり,その健全な成長を促す立場にあった。被告人は,自らの立場を悪用し,性的知識に乏しい被害児童の信頼につけ込んだというほかない。そうすると,被告人には,このような立場にない者と比較してより強い非難が妥当するし,常習性があることも明らかである。
 そして,信頼を寄せた相手から,繰り返しわいせつ行為を受けた被害児童の精神的被害も大きい。本件は,被害児童の健全な成長に深刻な悪影響を及ぼすことが懸念されるし,現に被害児童は,本件後,心身の不調を訴えており,上記懸念が現実のものになっていることもうかがわれる。本件の結果が重いことはいうまでもない。
 以上によると,本件の各強制わいせつは,同種前科など量刑上考慮すべき前科がない者による,13歳未満の者に対する強制わいせつの事案の中では悪質な部類に属するというべきである。また,被告人が,わいせつ行為に及んだ状況を撮影して児童ポルノを製造した点も見逃せない。被告人の刑事責任は重く,本件は,実刑に処すべき事案である。
 一方,本件では,被告人が罪を認めた上,両親の援助も受けて被害弁償を行う旨述べるなどして反省の態度を示していることや,妻がその監督を誓約していることなど被告人のために酌むべき事情も認められるが,いずれも一般情状に過ぎず,量刑に大きな影響を及ぼすものではない。
 したがって,これらの事情を考慮しても,被告人を主文程度の実刑に処することはやむを得ない。
(求刑 懲役3年6月)
  平成30年10月26日
    熊本地方裁判所刑事部
           裁判官  鈴木 悠

「誘拐して自宅に連れ込んだ後,入浴を促し,入浴のために裸となったAを,そのまま風呂場から連れ出し,鎖付きの首輪を付けて,ガムテープで後ろ手に両手首を縛って,口淫をさせるとともに性交に及び,膣内に射精し,その際の状況を撮影した」などした未成年者誘拐,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,北海道青少年健全育成条例違反,児童福祉法違反被告事件の控訴事件(札幌高裁H30.11.4)

 奥村がブログで紹介した判例を使ったような主張です。
 「その際その姿態を撮影し,動画データを記録させて保存した児童ポルノの製造の行為」というのは、4項製造罪で「姿態をとらせ」記載されてないんじゃないですか。理由不備ですけど。それは主張してないのかなあ。奥村に聞いてくれれば判例提供したのに。

未成年者誘拐,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,北海道青少年健全育成条例違反,児童福祉法違反被告事件
札幌高等裁判所平成30年11月14日
       主   文
 本件控訴を棄却する。
       理   由
 本件控訴の趣意は,弁護人加藤正佳(主任)及び同高嶋智共同作成の控訴趣意書及び「答弁書に対する反論書」に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官藏重有紀作成の答弁書に記載のとおりである。論旨は,法令適用の誤り,事実誤認,理由齟齬,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の主張である。
 第1 法令適用の誤りについて
 論旨は,「児童に淫行をさせる行為」を禁止した児童福祉法34条1項6号は,処罰範囲が広範に過ぎる上,「させる行為」の内容が不明確であるから,憲法31条に違反するのに,原判決は原判示第6の事実について,児童福祉法34条1項6号を適用しているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,児童福祉法36条1項6号にいう「淫行」とは,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいい,「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいう(最高裁判所昭和40年4月30日第二小法廷決定裁判集刑事155号595頁,同裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定刑集70巻5号369頁参照)のであって,同号の処罰範囲が広範に過ぎるとも,構成要件が不明確ともいえない。論旨は理由がない。
 第2 事実誤認及び法令適用の誤りについて
 1 原判決は,罪となるべき事実第6において,以下の事実を認定している。すなわち,被告人はTwitter(以下「ツイッター」という。)上で家出をしたいと書き込んでいた被害者Aに対し,家出をして被告人の下に来るように誘惑し,平成29年11月16日午後7時44分頃,Aと合流して被告人方へ連れ去り,その頃から同月20日までの間,Aを被告人方に寝泊まりさせて自分の支配下に置いていたが,その立場を利用し,Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,①同月16日午後9時過ぎ頃と②同月17日午後5時過ぎ頃に,いずれも,被告人方で,Aに自分を相手に性交及び口淫をさせ,もって児童に淫行をさせる行為をした,というのである。
 これに対し,論旨は,「児童に淫行をさせる行為」をしたというためには,行為者と児童との間に,児童の全人格の形成に関わる一定の依存関係がなければならないと解されるが,原判決は被告人とAとの間にこのような依存関係がないのに,「淫行をさせる行為」をしたと認定して児童福祉法34条1項6号を適用しているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがある,というのである。
 2 しかしながら,「児童に淫行をさせる行為」とは,前記のとおり,淫行(すなわち,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為)を児童がなすことを,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして助長し促進する行為をいうのであって,児童の心身の健全育成という児童福祉法の趣旨に照らせば,所論が主張するような依存関係がなければ「児童に淫行をさせる行為」をしたとはいえないと限定して解釈するのは相当ではない。所論は独自の見解を主張したものといわざるを得ず,採用できない。
 そして,「児童に淫行をさせる行為」に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定刑集70巻5号369頁参照)。これを前提に,本件について検討すると,以下のとおりである。
 (1) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
 ア 当時34歳の被告人は。好みに合った女子児童を自宅に監禁して,ペットのように飼育,調教し,思うがまま性交等をして,奴隷のように支配したいとの願望を有していた。そこで,家出や自殺願望のある児童であれば簡単に自宅に連れ込めると考えて,ソーシャルネットワーキングサービスのツイッター上でそのような投稿をしているAを見付け,Aとの間でツイッター上でのやり取りを始めた。そして,女子児童を入れるための犬用のケージと拘束具をあらかじめ購入し,飼育成長を記録するためとして,室内にビデオカメラを設置するなどの準備を行った。
 イ Aは,当時13歳の中学生であったが,保護者との折り合いが悪いため,強い家出願望を有していた。しかし,所持金が3万円ほどしかなく,家出して被告人と合流した後は,被告人方に寝泊まりして生活を被告人に頼らざるを得ない状況にあった。Aは,性交の経験がなく,被告人と性交しなければならなくなるのが嫌であり被告人に犯されないか心配しているとか,自宅にいるくらいなら毎日口淫させられることも頑張るが,性交することは困るなどと伝えて,被告人の意図を確認しようとした。これに対し,被告人は,自分の意図を隠し,性交渉を持つつもりはない旨返答して,原判示第5の事実のとおり,Aの誘拐に及んだ。
 ウ 被告人は,平成29年11月16日,Aを誘拐して自宅に連れ込んだ後,入浴を促し,入浴のために裸となったAを,そのまま風呂場から連れ出し,鎖付きの首輪を付けて,ガムテープで後ろ手に両手首を縛って,口淫をさせるとともに性交に及び,膣内に射精し,その際の状況を撮影した(原判示第6の1及び第7の1の事実)。
 エ 被告人は,翌17日,Aの陰毛などの体毛を剃った上,やはり鎖付きの首輪を付けたまま,口淫をさせるとともに性交に及び,膣内に射精し,その際の状況を撮影した(原判示第6の2及び第7の2の事実)。被告人は,Aが首輪を外そうとすると,「Aを飼うために買った。」「悪いことをしたらケージに入れるからね。」などと言い,Aを5日間にわたり寝泊まりさせ,その後も複数回性交等に及んだ。
 (2) このように,被告人は,被告人に対して好意を抱いているわけでもなく,被告人との間で性交等をしたくないと考えていたAに対し,自分の倒錯した性的欲望を満たすだけのために性交等に及んでいる。これが,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあるものであることは明らかであり,Aの性交等は,「淫行」に該当するといえる。
 また,13歳という年齢や,強い家出願望を有するなどのAの状況からすれば,Aに自分の性行動に関する適切な判断能力がなかったことは明らかである。そして,被告人のAに対する性的行為は,被告人宅に寝泊まりして生活を被告人に頼らざるを得ないAの状況を利用したものである上,特に,原判示第6の1の事実の性交等については,特異な嗜好に基づく強力かつ直接的な態様のものであって,性交経験を有さず,被告人との性交を嫌がっていたAが自律的意思に基づいて応じたとはおよそ考えられないものであった。原判示第6の2の事実の性交等についても,Aが被告人を頼らざるを得ないことなど,その他の状況が変わっていないことや,原判示第6の1の事実の性交等が一旦行われた後のものであることや,それ自体陰毛を剃るなどの特異な嗜好に基づく行為がされていることなどからすれば,Aが自律的意思に基づいて応じたとはおよそ考えられない。以上によれば,本件は,判断能力に乏しい児童を狙って,これを自己の影響下に置き,その影響力を行使して,自己の倒錯した性的欲求を満足させようと計画した被告人が,実際に,その計画に従って,性交等を望んでいなかった児童を自分の影響下に置き,強い影響力を及ぼして,淫行を助長,促進した事案と評価できるのであって,被告人が,Aに「淫行をさせる行為をした」といえることは明らかである。
 したがって,被告人が「児童に淫行をさせる行為」をしたと認定した原判決は相当である。
 (3)ア これに対し,所論は,Aが被告人とのツイッター上のやり取りの中で,家出先で口淫することについては容認していたことや,小学6年生時に自分の裸の画像を見知らぬ者に送信したことがあるなど,不健全な性行動に親和的な生活を送っていたといえるから,被告人の行為が,Aに事実上の影響力を及ぼしてAが淫行をなすことを助長し促進する行為に当たるとはいえない旨主張する。
 しかし,13歳というAの年齢や心身の状態等に照らせば,Aが自分の性行動に関する十分な判断力を有していたとは認められない。前記の淫行に至る動機・経緯や当時のAの状況,被告人とAの関係,淫行に向けて及ぼした影響力の程度や態様等によれば,被告人がAに事実上の影響力を及ぼしてAが淫行をなすことを助長し促進させる行為を行っていたことは明らかである。
 イ 所論は,原判決が認定した最初の淫行は,被告人がAと合流してわずか1時間17分後にされたものであるから,Aが被告人に依存するといった関係性が生じていたとはいえないと主張する。
 しかし,上記のとおり,Aは13歳で,十分な判断力を備えておらず,強い家出願望を有していた。被告人は,このようなAを,安心させて家出をさせ,自宅に連れ込み,Aを被告人に頼らざるを得ない状況の下に置いた上で,前記のとおり;淫行に向けて直接的かつ強力な態様で影響力を及ぼしているのであるから,最初の淫行の時点でも,既にAに事実上の影響力を及ぼして,Aが淫行をなすことを助長し促進させる行為を行っていたといえる。
 (4) 所論の指摘するその他の点を検討しても,原判決に所論のような事実の誤認又は法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
 第3 理由齟齬について
 論旨は,原判決は「罪数に対する判断」の「3 未成年者誘拐罪,児童ポルノ製造罪及び児童福祉法違反の罪の関係について」の項で,「未成年者誘拐罪は,わいせつ目的がないことを前提とする」としながら,「量刑の理由」の項で,「性交等の相手にしようなどと考えて各犯行に及んだ」などとして,わいせつ目的があったことを前提に量刑判断をしており,理由に食い違いがある,というのである。
 しかし,原判決の「罪数に対する判断」の項の上記説示が未成年者誘拐罪の構成要件を説明したにすぎないものであるのに対し,「量刑の理由」の項の上記説示は,被告人が未成年者誘拐に及んだ動機を説明したものであって,両者は趣旨を異にしているから,理由に食い違いはない。論旨は理由がない。
 第4 訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りについて
 論旨は,Aに対する未成年者誘拐の事実(原判示第5の事実),児童に淫行をさせる行為をした事実(同第6の事実)及び児童ポルノを製造した事実(同第7の事実)については,検察官に釈明をするか,訴因変更を促すなどして,未成年者誘拐の事実をわいせつ目的誘拐と認定した上で,かすがい理論により,上記三つの罪を科刑上一罪として処理すべきであったのに,原判決はそのような釈明等をせずに,未成年者誘拐と認定して,いずれも併合罪の関係にあるとしているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,検察官が未成年者誘拐として起訴したのに対し,原裁判所が,より法定刑の重いわいせつ目的誘拐に訴因変更するよう促さなかったからといって,これが訴訟手続の法令違反になるとは,およそ考えられない。未成年者誘拐罪の事実を認定した原判決の判断に誤りがあるとはいえない(なお,仮に,論旨が主張するように,誘拐の事実と児童に淫行をさせる行為をした事実と児童ポルノを製造した事実とが科刑上一罪になるという見解に立つとしても,処断刑の下限が重くなり,被告人に不利になるだけで,考慮すべき量刑事情に違いがあるわけではないから,明らかに判決に影響を及ぼすとはいえない。)。論旨は理由がない。
 第5 法令適用の誤りについて
 論旨は,当時18歳に満たない被害者Bや被害者Cに対し,それぞれ,性交又は性交類似行為をして淫行した北海道青少年健全育成条例違反の行為(原判示第1及び第3の事実)と,その際その姿態を撮影し,動画データを記録させて保存した児童ポルノの製造の行為(原判示第2及び第4の事実)は,被告人の1個の行為が2個の罪名に触れる観念的競合として1罪となるのに,原判決は併合罪の関係にあるとしており,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,被害児童と性交又は性交類似行為をして撮影し,これをもって児童ポルノを製造した場合,被告人の上記条例に触れる行為と児童ポルノ法7条4項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえない。また,両行為の性質等に鑑みると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである(児童福祉法の児童に淫行をさせる罪と児童ポルノ製造罪との罪数に係る最高裁判所平成21年10月21日第一小法廷決定刑集63巻8号1070頁を参照。なお,仮に,条例違反の行為と児童ポルノ製造の行為とが観念的競合の関係にあり,これを併合罪の関係にあると解することが誤りであるとの立場に立ったとしても,処断刑の範囲や考慮すべき量刑事情に差異を生じさせるものではないから,明らかに判決に影響を及ぼすとはいえない。)。論旨は理由がない。
 第6 量刑不当について
 論旨は,被告人を懲役4年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である,というのである。
 そこで検討すると,本件は,被告人が①(ア)当時15歳の児童であるBと3回にわたり性交して淫行をし(条例違反。原判示第1の事実),(イ)その際,Bの姿態を撮影して児童ポルノを製造し(同第2の事実),②(ア)当時16歳(3回目の行為時は17歳)の児童であるCと3回にわたり性交又は性交類似行為をして淫行をし(条例違反。同第3の事実),(イ)その際,Cの姿態を撮影して児童ポルノを製造し(同第4の事実),③(ア)当時13歳のAを誘拐した(未成年者誘拐。同第5の事実)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反。同第6の事実),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した(同第7の事実)という事案である。原判決は,以下の諸事情を考慮して,量刑を行っている。すなわち,被告人は,家出願望のあったAを誘拐し,5日間にわたり被告人方に寝泊まりさせて,複数回性交等に及び,その姿態を撮影した。この一連の犯行は,保護すべき児童を性的に弄んだ卑劣かつ悪質な犯行であり,Aに与えた悪影響は大きい。B及びCに対する各犯行も,出会い系サイトで知り合った後,複数回性交等をし,その姿態を撮影して児童ポルノを製造したものであって,児童らに与えた悪影響は大きい。被告人には厳しい非難が向けられるべきである。他方で,Aに対し100万円とその遅延損害金を供託し,Aとその母に謝罪したことや,反省の態度を示し,性嗜好障害を治療する意向を有していること,親族が監督をする意向を表したこと,同種の前科がないことなどの被告人に有利な事情も認められるので,これらの事情も考慮し,懲役4年に処するのが相当である,というのである。この量刑判断は相当であり,是認できる。
 これに対し,所論は,以下のとおり主張する。すなわち,①Aが被告人方に寝泊まりをしていたのは5日間にすぎないこと,被告人方は,Aが独力で帰宅できる範囲内にあったこと,本件で問題とされたAに対する性交等は2回にすぎないこと,被告人は,100万円及びその遅延損害金をAに対する関係で供託しているとと,同種前科がないこと,反省し,性嗜好障害の治療を受け,再犯をしない旨誓っていることなどの事情からすると,原判決の量刑は,同種の事案と比較して,重きに失する。②原判決後,被告人が,A及びその親族との間で和解を成立させ,これに基づき上記供託金のほか200万円を支払ったこと,B及びCに対するしょく罪の趣旨で,合計40万円を法律援護基金に寄附したこと,性嗜好障害の通院治療を継続する必要性が認められること,反省を深めたことを考慮すべきである,というのである。
 しかし,①については,原判決も所論指摘の事情を考慮して量刑判断を行っている。被告人がB及びCに対する条例違反及び児童ポルノ製造にも及んでおり,複数の児童に対して同種の行為を常習的に繰り返した点をも踏まえると,原判決の量刑判断が,同種事案と比較して,重過ぎて不当とはいえない。②については,確かに,当審における事実取調べの結果,Aは親権者である母らと共に,刑事損害賠償命令を申し立てて,被告人に対して損害賠償の請求をしていたところ(その請求額は,証拠上明らかではない。この刑事損害賠償命令申立事件は,原裁判官が担当している。),原判決後の審尋期日において,被告人がAらに対し供託金101万8493円に加えて200万円を支払う旨の和解が成立し,被告人はこれを履行した事実が認められる。また,被告人がB及びCに対するしょく罪の趣旨で,原判決後に合計40万円寄附した事実も認められる。しかし,Aは被告人に対して刑事損害賠償命令を申し立てていたのであるから,原審の段階で,原判決後に,適当な賠償額で,被告人のAに対する賠償命令が出されるか,あるいは,和解が成立するかが,見込まれていたといえる。また,被告人の伯母であるDの原審証言や被告人の公判供述によれば,被告人がB及びCに対する賠償の趣旨でしょく罪金を支払うことを検討していたことや,被告人には賠償金を支払う資力はないが,伯母や両親の助力で賠償金を用意したことが認められる。そうすると,被告人にとって,Aに対する適当な賠償額で賠償金を支払うことや,B及びCに対するしょく罪の趣旨で寄附をすることは,原審の段階で実現可能であったといえるし,原判決も,原判決後にこれらのことが実現され得る可能性も一定程度踏まえて量刑判断をしたものと思料される。さらに,本件各犯行は児童らの心身の健全な成長や発達を害した犯行であり,各児童,特にAの心身に与えた影響の大きさ等の本件の犯情や各罪の保護法益を考慮すると,原判決後に金銭賠償された事実を量刑上大きく評価することはできない。以上によれば,所論指摘の各事情が認められるとしても,原判決を破棄しなければ明らかに正義に反するとまでは認められない。所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。
 第7 よって,刑事訴訟法396条により,主文のとおり判決する。
  平成30年10月29日
    札幌高等裁判所刑事部
        裁判長裁判官  登石郁朗
           裁判官  瀧岡俊文
           裁判官  深野英一

検証に基づく必要な処分として携帯電話機を修理し、画像データを確認することができる

 頻出問題
 警察の見解

KOSUZO 試験に出る事例集 SA&論文試験対策 2016年
第35問
X署A警部補は、無理矢理女性を姦淫してその状況を携帯電話機で撮影した甲を、強姦罪で通常逮捕し、捜索差押許可状に基づき、犯行時に使用した携帯電話機を自宅で差し押さえた。しかし、同電話機は故障しており、保存された撮影画像をディスプレイに表示して内容を確認するには、部品交換を伴う修理を行う必要があるほか、修理を実施すればデータが消滅するおそれがあることも判明した。この場合、A髻部補は、どのような手続で画像を確認すべきか。なお、甲は、本件犯行を否認し、携帯電話機の修理にも同意していない。

以上より
検証に基づく必要な処分として甲所有の携帯電話機を修理した上、保存されている画像データを確認すべきである

KOSUZO 試験に出る事例集 SA&論文試験対策 2018年
第34問
X署A警部補は、女性にわいせつなことをし、その状況を携帯電話機で撮影した甲を、強制わいせつ罪で通常逮捕し、犯行時に使用した携帯電話機を差し押さえた。しかし、逮捕時に甲が携帯電話機を壁に投げ付けたため、携帯電話機は故障
しており、保存された撮影画像をディスプレイに表示して内容を認するには、部品交換を伴う修理を行う必要があるほか、修理を実施すればデータが消滅するおそれがあることも判明した。この場合、A警部補は、どのような手続で画像を確認することができるか。
なお、甲は、本件犯行を否認し、携帯電話機の修理にも同意していない。

検証に基づく必要な処分として携帯電話機を修理し、画像データを確認することができる

PCSC協定の実施に関する法律で情報提供される対象について、国内法における罪名は決まってない

 「重大な犯罪を防止し,及びこれと戦う上での協力の強化に関する日本国政府アメリカ合衆国政府との間の協定」「重大な犯罪を防止し,及びこれと戦う上での協力の強化に関する日本国政府アメリカ合衆国政府との間の協定の実施に関する法律」についての相談があったので、調べてみました。
 警察庁にも問い合わせたんですが、日本法の罪名は決まってないようです。
 強制性交・強制わいせつ罪。児童ポルノ・児童買春は入るんでしょうが。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2014pdf/20140501035.pdf
具体的には、1)テロリズム又はテロリズムに関連する犯罪、2)拷問、3)殺人、傷害致死又は重過失致死、4)重大な傷害を加える意図をもって行う暴行又はそのような傷害をもたらす暴行、5)恐喝、6)贈収賄又は腐敗行為、7)横領、8)重罪に当たる盗取、9)住居侵入、10)偽証又は偽証教唆、11)人の取引又は密入国、12)児童の性的搾取又は児童ポルノに関連する犯罪、13)麻薬、マリファナその他の規制物質の不正な取引、頒布又は頒布を意図した所持、14)火器、弾薬、爆発物その他の武器の不正な取引又は火器に関連する犯罪、15)詐欺又は欺もう的行為を行う犯罪、16)税に関連する犯罪、17)犯罪収益の洗浄、18)通貨の偽造、19)コンピュータ犯罪、20)知的財産に係る犯罪又は製品の偽造若しくは違法な複製、21)身元関係事項の盗取又は情報のプライバシーの侵害、22)環境に係る犯罪、23)外国人の許可されていない入国・居住又は不適正な入国の助長、24)人の器官又は組織の不正な取引、25略取、誘拐、不法な拘束又は人質をとる行為、26)強盗、27)文化的な物品の不正な取引、28)偽造(行政官庁の文書(例えば、旅券及び旅行証明書)又は支払い手段の偽造を含む)、29)生物学的物質、科学的物質、核物質、放射性物質の不正な取引・使用又はこれらの不法な所持、30)盗取・偽造された物品又は盗取された若しくは不正な文書・支払手段の取引、31)強姦その他の重大な性的暴行、32)放火、33)航空機・船舶の不法な奪取又は公海における海賊行為、34)妨害行為、という犯罪等の 34 類型が附属書Ⅰにおいて規定されている。

[155/159] 186 - 参 - 内閣委員会 - 17号 平成26年05月27日
山本太郎君 新党と名のりながら独りぼっちの山本太郎です。新党ひとりひとり、山本太郎です。よろしくお願いします。
 重大な犯罪を防止し、及びこれと戦う、コンバットする上での協力の強化に関する日本国政府アメリカ合衆国政府との間の協定と、PCSC協定の実施に関する法律案について御質問いたします。
 私は、このPCSC協定、日米指紋照合、情報提供システム協定は、何かこれ、同じ臭いがするものがあったなと思うんですよね。それ思い出したんですけれども、去年大変な問題となりました、多くの国民の反対の意思を押し切って成立してしまった、現在も多くの議論がある、そして私自身これは廃止するべきだと思っております特定秘密保護法と何か似ているところがあるんじゃないかなと思いました。行政機関が市民、国民のコントロールの利かないところで、市民、国民の自由と人権を侵害する協定、法律になるんじゃないかなと心配しております。
 日本弁護士連合会、日弁連ですね、この協定と法案の問題点を大きく分けて六つ挙げられておられます。第一に、日米捜査共助条約の運用状況から見て制度新設の必要性に疑問があること、第二に、自動照会システムであるため自動照会の要件を確認する仕組みとなっておらず、照会の濫用をチェックすることができないこと、第三に、対象犯罪が広範に過ぎると考えられること、第四に、対象となる指紋情報等の範囲が広過ぎること、第五に、提供された指紋情報等が本来の利用目的以外の目的で利用される可能性があること、第六に、提供される情報が将来拡大されるおそれがあること、以上の問題点が克服、解決されない限り本協定の締結は承認されるべきではないと、本実施法案は成立させるべきではないと日本弁護士連合会の意見書には書いてあります。僕もこれを読んだときに、ああ、同じ意見だなと思いました。
 そこで、まず外務省に質問したいと思います。
 この協定、法案は、重大な犯罪(特にテロリズム)を防止し、及びこれと戦うためのものということなんですけれども、この重大な犯罪(特にテロリズム)の中に特定秘密保護法違反、含まれていますか

○政府参考人(河野章君) お答え申し上げます。
 この協定におきまして重大な犯罪というのを定義付けておるわけでございますけれども、それは二つのカテゴリーございますが、一つには、死刑、無期又は長期三年以上の拘禁刑に当たる犯罪、それと、もう一つのカテゴリーが長期三年未満一年超の拘禁刑に当たる犯罪であって附属書Ⅰに掲げる犯罪の類型に該当するものと、こういうふうに書いてあります。
 特定秘密保護法におきましては、特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏らしたときは、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処するなど、それ以外にも罰則規定はございますけれども、そういった罰則規定を置いておるものというふうに承知しております。
 このように、協定に定めます重大な犯罪の定義、長期三年以上の拘禁刑に当たる違反行為につきましては、この協定におきまして重大な犯罪に該当することになります。
 いずれにしましても、具体的な事案によりまして特定秘密保護法の違反に当たるのかどうか、またいかなる罰則が適用されることになるのかというのは、個別の事案に応じてしかるべく判断されていくことになるというふうに考えております。

山本太郎君 協定第一条、定義では、重大な犯罪とは、死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされている犯罪を構成する行為であってこの協定の不可分の一部を成す附属書Ⅰに規定されるもの、この附属書Ⅰには、犯罪又はこれらの犯罪の未遂、共謀、幇助、教唆若しくは予備と書いてあり、さらに、及び死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑に処することとされている犯罪を構成するその他の行為と書いてあります。随分幅が広いなあって感じてしまうのは、これ、僕だけなんですかね。
 現在の日本の法律でこれらに該当する犯罪、幾つあるんでしょうか。法律の条文の数で答えていただけますか。

○政府参考人(河野章君) お答え申し上げます。
 この協定に規定します重大な犯罪というのは、今委員から御指摘ありました長期三年以上というのと、それから長期一年から三年ということに分かれておりますけれども、附属書Ⅰにおきまして、その長期一年から三年につきましては三十四の類型というものを掲げてございます。
 この三十四の類型という書き方になっておりますのは、それはアメリカにおける規定の仕方と日本における規定の仕方、法律の規定の仕方というのが必ずしも一致していないことから、あるいはアメリカにおきましては州と連邦においても違うと。そのような事情もあって逐一、一対一でその法律と対応させるということは極めて煩雑といいますか、非常に膨大な作業になるということもありまして、この犯罪の類型という格好で掲げたものでございます。
 この三十四の犯罪類型というのは我が国の法令における罪名と一対一に対応しているものではございません。この犯罪類型に該当する具体的な事案というのが我が国の法令においていかなる罪名に該当することになるのかというのは、それぞれの個々別々の具体的な事実関係を踏まえて個々の事案ごとに判断されることになるということになります。
 具体的な事案を離れまして、一般論として附属書Ⅰの犯罪類型が我が国においてどのような犯罪に該当するのかとか、あるいは該当する犯罪の数について包括的にお答えをすることは、申し訳ございませんが、困難でございます。

山本太郎君 条文の数は答えられないという一言で終わるような話だったと思うんですけれども、随分と丁寧に御説明ありがとうございました。
 とにかく、一年以上、三十四の犯罪の類型。一年以上というところ、三十四の類型と、そしてそれ以外にも三年以上という部分をくくりにしてざっくり切っているだけだと、その一つ一つの犯罪、どういうものに当たるのかということはまだ一度も数えたことがないんだという話ですよね。
 それでは、条文の数とその法律の条文の一覧表というのを資料請求したいんですけれども、提出していただけますか。

○委員長(水岡俊一君) 河野参事官、質問に答えてください。


○政府参考人(河野章君) 申し訳ございません。
 ただいま申し上げましたとおり、この類型として書いております犯罪につきまして、逐一該当する国内の犯罪というのは何であるかという条文を特定するというのはちょっと困難でございますので、今御指摘いただきましたその一覧表というものを作ることはちょっと困難かと思います。

山本太郎君 まあ面倒くさいということだけなんだと思うんですけれども、そうですか、残念ですね、本当にね。
 協定の附属書なんですけれども、Ⅰには三十四の犯罪類型、先ほどから言っております、というのが示されているんですけれども、日本の法律でどういう犯罪になるのかというのがよく分からないものありますよね。例えば、二番目にある拷問であったり、十九番にあるコンピューター犯罪であったり、三十四番目にある妨害行為、サボタージュ、これ日本ではそれぞれどんな犯罪に当たるのかという部分を説明していただきたいんです。手短にお願いします。

○政府参考人(河野章君) お答え申し上げます。
 全般的な前提は先ほど申し上げておりますので繰り返しませんけれども、今御指摘ありました拷問ということにつきましては、あえて一般論として申し上げれば、傷害罪、刑法で申し上げれば第二百四条、あるいは暴行罪、刑法第二百八条などが該当するのではないかというふうに思われます。それから、コンピューター犯罪につきましては、不正指令電磁的記録作成罪、これは刑法第百六十八条の二でございます。あるいは、不正指令電磁的記録取得罪、刑法第百六十八条の三などがこれに該当し得るだろうというふうに考えております。それから、妨害行為、サボタージュでございますが、これにつきましては建造物損壊罪、刑法第二百六十条、あるいは器物損壊罪、刑法第二百六十一条等に該当する可能性があるというふうに考えております。
 ただ、いずれにしましても、個別具体的な事実関係を踏まえて、個々の事案ごとに該当、何であるかというのを判断することになると考えております。

盗撮犯人が複製した場合は、ひそかに製造罪。盗撮してない者が盗撮画像を複製するのはひそかに製造罪には当たらない(名古屋高裁h31.3.4)

 7条5項の製造罪って複製も含むようです。
 児童ポルノ写真集とかビデオでこっそり複製するのも含むように読めますが、そうではない・盗撮で撮影した者が自ら複製する場合に限るという判例ができました。理由はわかりません。
 単純複製は適法だというのが共通認識なので、単純複製は処罰しないという解釈のようです。この法文をどう読めばそう読めるのかがわかりません。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第七条(児童ポルノ所持、提供等)
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

判例番号】 L07420140
       児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
【事件番号】 名古屋高等裁判所判決/平成30年(う)第383号
【判決日付】 平成31年3月4日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載


名古屋高裁h31.3.4
 (4) 弁護人は被告人方での外付けハードディスクへの保存につき「ひそかに」児童の姿態を「描写」したといえないから児童ポルノ製造罪は不成立というけれども,ひそかに同法2条3項3号の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に描写した(温泉施設の盗撮がこれに当たること明らか)者が当該電磁的記録を別の記録媒体に保存させて(被告人方での外付けハードディスクへの保存がこれに当たること明らか)児童ポルノを製造する行為は同法7条5項に当たる。

(罪となるべき事実)
 被告人は, 共謀の上,平成31年4月23日,大阪府大阪市西天満温泉」北側森林内において,同施設で入浴中の氏名不詳の女児2名がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,同児童らの全裸の姿態を,望遠レンズを取り付けたビデオカメラで動画撮影し,その電磁的記録である動画データを同ビデオカメラの記録媒体等に記録した上,
同年4月29日,被告人方において,同人が前記動画データを前記記録媒体等からパーソナルコンピュータを介して外付けハードディスクに記録して保存し,もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した

自称20歳(実は16歳)に対する児童買春事件で、当初否認を自白に持ち込む方法

 
 こういう取調流行ってるんでしょうかね。

 15歳を超えると外形的には児童にも見えるし、18歳以上にも見えるので、被害者は逮捕時の弁解録取とか勾留質問では

16歳と言われると16歳にも見えますが
サイト上では「18歳以上」「20~22」となっていたので
20歳くらいだと思っていました

と供述しますよね。
 これだと児童の未必的故意が取れないので、

今から思えば16歳にも見えました

と切り出した調書を取ります。
 
 そうすると

16歳と言われると16歳にも見えますが
サイト上では「18歳以上」「20~22」となっていたので
20歳くらいだと思っていました

今から思えば16歳にも見えました

という変遷について、理由を説明させられますよね。
 児童は始終「20歳」と言ってるので、見かけしかないわけですが、被疑者は、必死で考えて

幼児体型だった。頭でっかちだった
肌つやが幼かった
乳房が小さかった・陰部は未発達だった

と嘘の理由を供述します。

 16歳が18歳と比較して

幼児体型だった。頭でっかちだった
肌つやが幼かった
乳房が小さかった・陰部は未発達だった

ということはないですよ。その16歳はほぼそのまま18歳になるから。

ダウンロード販売目的で、被告人が自宅で所持しているポータブルHDD内のわいせつ画像については、わいせつ電磁的記録有償頒布保管罪ではなく、わいせつ物有償頒布目的所持罪が成立するとした名古屋高裁h31.3.4(所持罪のみ説)の上告事件が、保管罪説を採る山口厚判事の第一小法廷に係属した。

 刑法の通説としては、犯人の手元にあるhddの場合は、わいせつ物所持罪とわいせつ電磁的記録記録媒体保管罪が成立するというのですが、名古屋高裁は所持罪だけだというのです。

http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2019/01/14/000000
2 「所持」「保管」(刑法175条2項)の一般的な説明
 一般的には物の場合は「所持」、電磁的記録の場合は「保管」と説明されているようである。
①条解刑法
②杉山徳明・吉田雅之「『情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律』について」警察学論集 第64巻10号
③「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」について(上) 法曹時報64-04 H24

の続報

 山口判事の論文でも、刑法の通説通り、電磁的記録の場合は「保管罪」と説明されているので、「どうするねん」って、上告理由で指摘する予定。

山口 厚サイバー犯罪条約に関連した刑法改正案 Law & technology : L & T (26) 2005.1 p.4~11
ジュリスト1257号 15頁 2003年12月1日発行 サイバー犯罪に対する実体法的対応 山口厚東京大学教授
山口厚「サイバー犯罪の現状と課題」現代刑事法 2004.1
さらに,わいせつな電磁的記録を頒布の客体としたことから,従来の販売目的所持罪の客体を電磁的記録にまで拡張している(有償頒布目的でのわいせつな電磁的記録の保管)。これは,電磁的記録を頒布の客体とする以上,当然の改正であるといえよう。

児童ポルノ提供で保護観察とか不処分とか(家裁岡崎支部)

 警察に止めてもらうのが一番強力ですよね。

少女裸画像 拡散疑い 2中学生 書類送検=中部・続報注意
2019.02.06 読売新聞
 女子中学生の裸の画像を無料通話アプリ「LINE(ライン)」で同級生に拡散させたとして、愛知県警は5日、県内の中学2年の男女2人(ともに14歳)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供)の疑いで名古屋地検に書類送検した。画像は県内の中学4校の2~3年生計53人に拡散したという。

 発表によると、2人は昨年6~9月、中学2年の女子生徒(13)の裸の画像1枚をそれぞれの同級生計6人に送信した疑い。2人のうち、少年は女子生徒と同じ中学の生徒で、少女は別の中学に通う女子生徒の友人だった。

 女子生徒は同年5月上旬、同じ中学の先輩の男子生徒に「誰にも見せないから」と何度も頼まれ、スマートフォンで自身の裸の上半身を撮影して送った。

 数日後、画像の存在をうわさで知った少女が女子生徒のスマホを無断で調べて画像を見つけ出し、自分のスマホで撮影の上、同級生に送信したという。少年は拡散された画像を入手し、さらに同級生に送った。少女は調べに「面白半分で拡散させた」と供述しているという。画像は県警や学校が生徒らに削除させた。女子生徒は県警に「画像の送信を断れば、学校で悪口を言われ仲間外れになると考えた」と話しているという。

 [続報]

 2019年4月6日付中部朝刊34面

 =裸画像拡散事件 少年を不処分に 少女は保護観察処分=中部

 女子中学生の裸の画像を無料通話アプリ「LINE(ライン)」で同級生に拡散させたとして、2月に県内の中学2年の男女2人(いずれも当時14歳)が児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供)の疑いで書類送検された事件で、名古屋家裁岡崎支部は少女について4日付で保護観察処分とし、少年は5日付で刑事裁判の無罪に相当する不処分とした。

 県警は、昨年6~9月に中学2年の女子生徒(当時13歳)の裸の画像1枚をそれぞれの同級生計6人に送信したとして2人を書類送検し、名古屋地検岡崎支部が家裁送致していた。

読売新聞社

児童買春行為で児童と知らなかった場合に、児童買春罪も青少年条例違反罪も成立しないという文献 

 「新捜査書類全集 捜査書類書式例 第4巻取調」にもありました。

栗原「児童買春の罪と青少年保設育成条例の関係について」研修644号107頁,
島戸純「児章買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保設等に関する法律」研修653号105頁
山川「いわゆる児童買春等処罰法と青少年保護育成条例の関係について」研修635号

藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版
淫行規制条例と児童買春罪との関係(補訂)
① 法律と条例とが同一とみられる事項を規定している場合について、最高裁判所は、「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみではなく、それぞれの趣旨、日的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する図の法令と条例が併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する日的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同ーの目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨でなく、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との聞に何らの矛盾抵触はなく、条例が図の法令に違反する問題は生じえないのである (最大判昭50.9.10 刑集29.8.489) としているが、両者の聞に矛盾抵触が生じた場合、法律の規定が優先され、条例の規定が無効となる
② ところで、児童買春・ポルノ法の児童買春罪と淫行規制条例とを比較すると、少なくとも対償の供与又はその約束がなされて性交等に及んだ行為を処罰するという部分に限っては、その趣旨、目的、内容及び効果において完全に重複するものと考えられ、かかる部分に|期する条例の規定は効力を有しないこととなる。児童買春・ポルノ法附則第2 条第1 項も、地方公共団体の条例の規定で、同法で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、同法の施行と同時にその効力を失う旨定めているが、これは、前記の趣旨を確認的に規定したものであると考えられる
③ そして、児童買春・ポルノ法は、「児童買春」について、児童等に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせること)としているのに対し、淫行規制条例は、児童に対する「淫行」、「みだらな性行為」等を処罰対象としている。
したがって、淫行規制条例の「淫行」、[みだらな性行為」が児童買春・ポルノ法の「性交等」よりも広い場合には、同法の「性交等」 よりも広い部分について、児童買春・ポルノ法がいかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であるとは解されないから、条例の効力を認めることになると考えられる。
① なお、この場合、児童買春・ポルノ法上、児童買春罪については年齢の知情性に関する推定規定がないから、行為者に被害児童の年齢についての認識を欠いた場合に、児童買春罪による処罰ができないとしても、淫行規制条例による処罰ができないか問題となる
両者の規制が重なる部分については、児童買春・ポルノ法が児童買春罪について年齢の知情性に関する推定規定をあえて設けず、故意犯処罰の原則を貫いている以上、この法律の判断が優先されるべきであり、淫行規制規定による処罰はできないものと考えられる

新捜査書類全集 捜査書類書式例 第4巻取調
p106
都道府県の制定するいわゆる青少年保護育成条例によっても処罰可能であるから,相互の処罰の関係が問題となる。
特 に,児童買春法4条の罪の成立には買春者において被害児童が18歳未満で あることの認識が必要であるのに対して(同法9条が4条をわざわざ除外してい る。) ,青少年保護育成条例の淫行処罰規定では,被害児童が1 8歳未満であることを知らないことを理由として処罰|を免れることはできない旨の知情性推定規定を設けているため,被疑者に18歳未満であることを知らなかった旨弁解している場合に, 児撞買春罪の適用は困難であるとしても,
青少年保護育成条例違反として処罰することができるかという問題がある。児童買春処罰法附則2条1項が「「地方公共団体の条例の規定で,この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当認行為に係る部分については,この法律の施行と同時に,その効力を失うものどする」と規定していることからすれば,児章買春法が規定する対償の供与又ぱその供仔の約束をした上で行う買春(淫行)行為に関しては,青少年保護育成条例の淫行処罰規定の適用は排除されてれるが,対償の供与又はその約束を要件としない単なる淫行を処罰する部分については青少年保護育成条例のみが適用されると解すべきであろう(栗原「児童買春の罪と青少年保設育成条例の関係について」研修644号107頁,島戸純「児章買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保設等に関する法律」研修653号105頁)。

児童ポルノ摘発 大阪府警で最多」
 アリスクラブのDVDの単純所持罪が、全国協働捜査方式で、何十件も降ってきたので、増えただけだと分析しています。

https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20190320/0013653.html?fbclid=IwAR18AyjnniMDlgzDNYWdnDaYfvXfwey-PA5blWIE3im5Zq7aRR1SGsRF5rQ
児童ポルノ摘発 大阪府警で最多
03月20日 06時35分

去年、大阪府警が摘発した児童ポルノに関する事件は160件と過去最多になりました。

去年1年間に大阪府警が摘発した児童ポルノに関する事件は160件と、おととしに比べて39件増え、統計を取り始めた平成12年以降で最も多くなりました。
被害にあった子どもの数は120人で、このうち、相手に脅されて自分の裸の画像を送ってしまう「自画撮り」の被害にあった子どもが35人に上りました。
「自画撮り」の被害にあった子どものうち中学生が21人と、6割を占めたほか、小学生も3人が被害にあいました。
被害にあった子どものほとんどは、SNSで知り合った相手に対して画像を送っていて、警察は▼教育委員会などと連携して子どもに自分の画像を送らないよう呼びかけるほか、▼保護者に対して、子どものスマートフォンの利用方法について注意するよう呼びかけています。

強制性交等、わいせつ略取、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件(名古屋地裁h30.12.17)

 判示第2わいせつ略取と判示第3製造罪との間にも牽連犯認める余地があるし、第3の製造罪は包括一罪じゃないかな。

■28270027
名古屋地方裁判所
平成30年(わ)第1136号/平成30年(わ)第1280号
平成30年12月17日
本籍 (省略)
住居 (住所略)
職業 無職
Y1
平成8年(以下略)生(以下「被告人Y1」という。)
本籍 (省略)
住居 愛知県(以下略)
職業 無職
Y2
平成8年(以下略)生(以下「被告人Y2」という。)
被告人Y1に対する強制性交等、わいせつ略取、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、被告人Y2に対する強制性交等、わいせつ略取各被告事件について、当裁判所は、検察官小林修、同後藤拓志、被告人Y1の弁護人(国選)森戸尉之、被告人Y2の弁護人(私選)松本昌悦各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人Y1を懲役8年6月に処する。
被告人Y2を懲役8年に処する。
被告人両名に対し、未決勾留日数中各80日を、それぞれその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人両名は、共謀の上、自転車で通行中のA(別紙記載)と強制的に性交等をしようと考え、平成30年5月29日午後9時10分頃から同日午後9時50分頃までの間、愛知県(以下略)内の桃畑東側歩道上(別紙記載)において、同人(当時20歳)に対し、被告人Y1が、擦れ違いざまにAの首に腕を巻き付けて同人を自転車から引き降ろし、被告人Y2が、さらにAの足を持って、被告人両名が、Aを前記桃畑内に連れ込み、引き続き、同所において、同人に対し、被告人Y1が、仰向けにさせたAの口を手で押さえるなどし、被告人Y2が、「次うるさくしたら、いつでも殺せるから。」などと言い、Aの首に腕を巻き付けてその首を絞めるなどの暴行脅迫を加え、その反抗を抑圧した上、被告人Y1がAと口腔性交をし、被告人Y2がAと性交をし

第2 被告人両名は、共謀の上、自転車で通行中のB(別紙記載)と強制的に性交等をしようと考え、同年6月29日午後10時20分頃、同県(以下略)内の路上(別紙記載)において、自転車に乗っていた同人(当時17歳)に対し、被告人Y2が、Bの後方からその口を手で塞ぎながら同人を自転車から引き降ろした上、同人の上半身に腕を回して引っ張るなどして、同所付近に停車中の被告人Y1が運転席に乗車する自動車(登録番号(省略))の後部座席にBを押し込むなどの暴行を加え、被告人Y1が、同所から同車を発進させ、同市内の駐車場(別紙記載)まで同車を走行させてBを連れ去り、もってわいせつ目的で同人を略取し、さらに、その頃から同日午後11時30分頃までの間に、前記一連の暴行等により畏怖して反抗抑圧状態にある同人に対し、被告人Y1が、同所に駐車中の同車内において、Bと口腔性交及び性交をし、引き続き、被告人Y2が、Bを抱きかかえて同車から同所に駐車中の自動車(登録番号(省略))に乗り換えさせ、同車内において、同人と性交をし
第3 被告人Y1は、Bが18歳未満の者であることを知りながら
 1 同日午後10時32分頃から同日午後10時39分頃までの間、前記駐車場に駐車中の自動車(登録番号(省略))内において、Bに被告人Y1の陰茎を口淫させる姿態及びBに被告人Y1を相手として性交させる姿態等をとらせ、これを被告人Y1の撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、同月30日午前零時44分頃から同日午前1時30分頃までの間に、(住所略)C(省略)号被告人Y1方において、その動画データをアプリケーションソフト「D」を使用して、被告人Y1が所有する別の携帯電話機の内蔵記憶装置に記録させて保存し、
 2 同月29日午後10時39分頃から同日午後11時30分頃までの間に、前記駐車場に駐車中の自動車(登録番号(省略))内において、Bに被告人Y2を相手として性交させる姿態をとらせ、これを被告人Y1の撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、同月30日午前零時44分頃、前記被告人Y1方において、その動画データをアプリケーションソフト「E」を使用して、被告人Y1が所有する別の携帯電話機の内蔵記憶装置に記録させて保存し
 もってそれぞれ児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
たものである。
(証拠の標目) 括弧内の甲乙の番号は検察官請求証拠番号を示す。
(法令の適用)
○ 被告人Y1について
1 罰条
 判示第1について 刑法60条、177条前段
 判示第2のうち
  わいせつ略取の点について 刑法60条、225条
  強制性交等の点について 刑法60条、177条前段
 判示第3について 包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項1号
2 科刑上一罪の処理
 判示第2について 刑法54条1項後段、10条(重い強制性交等罪の刑で処断)
3 刑種の選択
 判示第3の罪について 懲役刑を選択
4 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
5 未決勾留日数の算入 刑法21条
6 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
○ 被告人Y2について
1 罰条
 判示第1について 刑法60条、177条前段
 判示第2のうち
  わいせつ略取の点について 刑法60条、225条
  強制性交等の点について 刑法60条、177条前段
2 科刑上一罪の処理
 判示第2について 刑法54条1項後段、10条(重い強制性交等罪の刑で処断)
3 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
4 未決勾留日数の算入 刑法21条
5 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は、幼なじみである被告人両名が、いわゆるナンパ目的で女性に声をかけては体を触って逃げるなどの行為を繰り返すうち、女性と強制的に性交等をしようなどと考え、夜間、一人で通行中の女性を物色して判示第1の犯行に及び、その犯行が発覚しないとみるや、わずか約1か月後に別の被害者に対して判示第2の犯行に及ぶなどしたもので、強制性交等の事案の中でも特に悪質な部類に入る。
 判示第1の犯行では、自転車で走行中の被害者を引き降ろし、激しく抵抗する被害者の首を絞めるなど強度の暴行を加え、「いつでも殺せる」などと強烈な言葉で脅迫した上で、こもごも口淫、姦淫に及んだ。判示第2の犯行でも、自転車で走行中の被害者を引き降ろし、車内に押し込んで連れ去り、1時間余りにわたって順次口淫、姦淫した。いずれの犯行も、性欲の赴くまま被害者の人格を無視してその身体を弄び、口内ないし膣内に射精しており、犯行態様は卑劣で悪質極まりない。被告人両名が各犯行において果たした役割、責任の重さに軽重はない。
 さらに、被告人Y1は、判示第2の犯行の際、口止め目的で動画を撮影して判示第3の犯行に及び、犯行後は、被害者の携帯電話に性交を求めるようなメッセージを送っており、犯行後の情状も悪い。
 各被害者の身体的、精神的苦痛は甚大であり、被告人両名に対する処罰感情が厳しいのも当然である。
 以上の諸事情からすれば、被告人両名は、若年で前科前歴がなく更生の余地が大きいこと、各公訴事実を認め、被害者に対する謝罪と反省の弁を述べていること、被告人Y1の母親及び被告人Y2の父親がそれぞれ出廷して監督を誓約していること、被告人Y1が被害者の一人に対して謝罪文を送付し、被告人Y2が20万円を贖罪寄付したことなどを考慮しても、被告人両名の刑責は重く、主文の刑を科すのが相当であると判断した。
(求刑 被告人Y1に対し懲役10年、被告人Y2に対し懲役9年)
刑事第2部
 (裁判長裁判官 齋藤千恵 裁判官 近藤和久 裁判官 鈴木真理子)

「CD-Rを顧客に販売するに当たり,警察の摘発に備えて,顧客から注文を受ける前にはCD-Rに同データファイルをコピーしないようにしていた行為について、わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪のみならず,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪の成立も考えられる」司法研修所検察教官 古賀由紀子「わいせつ物頒布等」捜査研究820号

 検察教官は「保管罪」も成立するといいますが、
 名古屋高裁H31.3.4によれば、わいせつ電磁的記録媒体の有償頒布所持罪であって、保管罪は成立しないことになります。

名古屋高裁H31.3.4
 2 判示第2
 (1) 同事実(被告人弁護人も争わない)は児童ポルノ禁止法7条7項,刑法175条2項の「所持」罪該当(検察官はこれらの「保管」罪該当をいうけれども,被告人は電磁的記録に係る記録媒体を所持したから「所持」該当。「保管」不該当。訴因変更不要)

設問
例3 日本在住の丙は, 男女の性交場面を露骨に撮影した動画のデータファイルを自己のパソコンのハードディスクに記録・保存し,ハードディスクから同データファイルをCD-Rにコピーして, CD-Rを顧客に販売するに当たり,警察の摘発に備えて,顧客から注文を受ける前にはCD-Rに同データファイルをコピーしないようにしていた。丙は, 同データファイルを記録・保存したハードディスク自体については販売するつもりはなかった。
設問のポイント
事例3では,丙は, わいせつなデータを記録.保存したハードディスク自体については有償で頒布する目的がないことから,刑法175条2項のわいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪が成立するのかが問題となる。
解答
わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪とわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪一有償頒布目的の意義
「有償で頒布する目的」とは,有償でわいせつな電磁的記録媒体等を頒布する目的をいい,平成23年の改正前の刑法に規定されていた「販売の目的」を含む。
また,日本国内において有償で頒布する目的をいい,外国において有償で頒布する目的は含まれない(最判昭52.12.22刑集31-7-1176)。
わいせつ電磁的記録媒体という有体物については「所持」,わいせつ電磁的記録という無体物には「保管」の概念が当てられている。
刑法175条2項は,「有償で頒布する目的」で,わいせつな電磁的記録媒体等を所持し,又はわいせつな電磁的記録その他の記録を保管した者と規定しているのみで,所持の対象物と頒布する対象物との一致や,保管の対象となる記録と頒布する記録との一致が条文上要求されているわけではないことから,わいせつな電磁的記録を保存した元の記録媒体から,その電磁的記録を別の媒体にコピーして販売する目的であったとしても,コピー元の電磁的記録記録媒体自体について,「有償で頒布する目的」で所持したものと認められる(最決平18.5.16刑集60-5-413参照)。
なお,インターネット上のレンタルサーバーコンピュータに,有償で頒布する目的でわいせつな電磁的記録を記憶・蔵置させた場合,前記3-1(1)に記載のとおり、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪が成立する。
事例3においては,わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪のみならず,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪の成立も考えられるが,有体物であるわいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪が成立する場合には,同罪で処罰すれば足りるであろう。

傷害、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件の量刑理由(田辺支部h30.11.29)

 D1-LAW罪となるべき事実が省略されているので、量刑理由だけ聞かされても意味ないですよね。
 性的意図の立証のために児童ポルノ所持罪も起訴されているような感じです。

■28265236
和歌山地方裁判所田辺支部
平成30年11月29日
私選弁護人 村上有司(主任)
榎哲郎

主文
被告人を懲役2年6月に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 平成30年1月31日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
第2 平成30年2月20日付け起訴状記載の公訴事実のとおりであるから、これを引用する。
(証拠)
(法令の適用)
 罰条
  判示第1の行為につき
  刑法204条
  判示第2の行為につき
  児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項3号
 刑種の選択
  判示第1、第2の各罪について、いずれも懲役刑
 併合罪の処理
  刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
 執行猶予
  刑法25条1項
 保護観察
  刑法25条の2第1項前段
(量刑の理由)
 1 犯行に至る経緯
  被告人が小学5年生のときに両親が離婚し、被告人は、親権者となった母親に監護養育されるようになったが、母親は仕事のために不在がちであった。母親は、5年前から甲状腺がんを患っている。父親は、被告人住所地とは離れた山間地で飲食店を経営しており、被告人とは、たまに会う程度の交流はあった。
  被告人は、平成29年4月に、市役所に非常勤職員として採用された。同年秋には正職員となるための採用試験を受けたが、不合格となった。再度の受験を志した被告人は、予備校に通うことを上司から勧められたので、父親にその費用の援助を申し込んだが、金銭的余裕がないとして断られた。
  被告人は、他人と話をするのが苦手である。
 2 本件各犯行及び関連事件
  (1) 判示第2の犯行(以下「児童ポルノ事犯」という。)
  被告人は、平成28年春ころから、十歳台前半くらいの女児が裸になって性器を見せたり自身の性器を触ったりしている動画(以下「児童ポルノ」という。)をインターネット経由で入手し、自らのパソコンにダウンロードして、自宅でハードディスクに保管するようになった。児童ポルノ事犯は、その一環である。
  被告人は、これらの動画をダウンロードするまでには、通常のウェブサイトへのアクセスと異なり、専用のアプリを使って暗号のような文字を入力する必要がある等手が込んでいたことから、児童ポルノにかかわることが合法ではないらしいとの漠然とした認識は有していた。
  (2) 関連事件
  被告人は、平成28年6月30日、児童公園で遊んでいた小学生の女児を公園内のトイレの個室に誘い込み、内部から鍵をかけたが、程なくして鍵を開けて女児を外に出した。
  (3) 判示第1の犯行(以下「スプレー事犯」という。)
  被告人は、犯行当日、有給休暇を取得して、B市へ、次いでC市へ行った。その帰路、カーナビの目的地を、自宅へ向かう道筋から外れた山間部にある犯行現場付近の大字に設定し、その案内に従って走行した。
  被害女児は、その大字の中では比較的建物が多い集落にある小学校から、山間部の奥にある自宅へ、徒歩で帰宅する途中であった。被告人は、小学校の近くで、車を運転しながら、被害女児が三叉路を山間部の奥の方へ向けて曲がるのを見かけた。その約3分後、集落付近で車を転回させるなどした後、自宅へ向かって人気のない道筋を歩いている被害女児を追い越し、路肩に駐車した。自動車に積んでいた催涙スプレー(以下「本件スプレー」という。)を持って、被害女児に歩み寄った。被害女児に声をかけ、これに応じて被告人の方に顔を向けた被害女児の顔面をめがけて、催涙スプレーを噴射した。
  この催涙スプレーは高濃度の唐辛子成分を含有し、眼及び皮膚に強い刺激を与えるものであった。被害女児は、突然催涙スプレーを噴射され、その痛みに泣きながら歩き出し、近くの建物で働いていた大人に助けを求めた。被害女児には、両頬が赤く変色する等の症状が生じた。
  被害女児の痛みは数日で収まり、皮膚の変色も次第に消えて、特段の後遺症は残らなかった。しかし、事件前はひとりで就寝できていたのに保護者と同じ布団で寝ることをせがんだり、一人でいることを極端に嫌がったりするようになった。
 3 スプレー事犯の動機ないし目的について
  (1) 被告人の供述の変遷
  ア 被告人は、平成29年12月20日にスプレー事犯を被疑事実として逮捕された。
  逮捕直後の取調べでは、「女の子が飛び出してきた。注意しようとしたが、無視したので腹が立ち催涙スプレーをかけた。」と供述した。
  しかし、同日中に、「催涙スプレーをかけて女の子の目が眩んだ隙に胸や体を触ろうと考え、女の子の顔に催涙スプレーをかけました」と供述し、同旨の自供書を作成した。
  イ 被告人は、強制わいせつ致傷の罪名で検察官送致され、同月22日に勾留された。後に、勾留期限は平成30年1月10日まで延長された。
  この勾留期間中の平成29年12月30日の取調べでは、スプレー事犯の動機について、「女の子が片足を軸にしてクルクルと体を回転させているのが見えました。私は、そのクルクルと体を回している女の子の姿を見て無性に腹が立ってきました。」「女の子の行動に腹が立ったので催涙スプレーをかけてやろうと考えました。」と供述した。
  また、同日、催涙スプレーについて、護身用に購入していたものであり、その威力を試してみたいという思いもあって被害女児に向けて使用した旨供述した。
  ウ 被告人は、スプレー事犯による勾留の延長後の期限である平成30年1月10日、スプレー事犯については処分保留のまま、関連事件につき、未成年者誘拐・監禁の罪名で逮捕され、同月12日に勾留された。後に、勾留期限は同月31日まで延長された。
  この勾留期間中の同月24日、被告人は、スプレー事犯につき、司法巡査Dに対し、「女の子に催涙スプレーをかけた本当の目的は、女の子の体を触ったり、服を脱がして裸を見たかった」、「わいせつなことをする為の手段として、予め催涙スプレーを用意していました。今回、私は催涙スプレーを使って目をくらませ、女の子を私の車に乗せようと思っていました。そして、車内で女の子の身体を触ったり、服を脱がして裸を見たいという思いがありました。」等と供述した。
  また、動機ないし目的についての供述を変えた理由については、「前の取り調べで、……女の子の写真を見せて貰った時、女の子の顔や手が真っ赤に腫れている姿を見た」、「その女の子の姿が頭から離れませんでした。悪いことをした、申し訳ないことをしたとずっと考えるようになりました」、「女の子のことを考えると、罪悪感で嘘を突き通す(原文ママ)ことに疲れました」等と供述した。
  エ 同月31日、被告人は、スプレー事犯につき起訴され、関連事件については不起訴となった。
  オ 当公判廷における被告人の供述内容は、上記イの内容とおおむね同一である。
  (2) スプレー事犯の動機ないし目的について、わいせつ行為が目的であった(以下「わいせつ目的」という。)旨の検察官の主張と、被害女児に対する腹立ちの動機及び催涙スプレーの試用の目的によるものであった(以下「非わいせつ動機・目的」という。)旨の弁護人の主張が対立している。
  よって検討するに、以下の理由によれば、スプレー事犯はわいせつ目的で行われたと理解する方が自然である、ということはできる。
  ア 被告人は、児童ポルノ事犯及び関連事件も起こしている。被告人は、当公判廷において、児童ポルノ事犯はこれらの動画に「珍しさ」があったからであり、関連事件は女児と話をしたかったからである旨供述し、これらの事件についても性的欲求との関連を否定するが、児童ポルノ事犯、関連事件及びスプレー事犯という一連の行為を総合的に観察すれば、共通の背景として女児に対する性的欲求が存在したとの推認に傾く。
  イ 非わいせつ動機・目的をいう被告人の供述は、逮捕直後の平成29年12月20日の取調べにおける「女の子が飛び出してきた。注意しようとしたが、無視したので腹が立ち催涙スプレーをかけた。」という供述と、同月30日の取調べ及び本件公判廷における「クルクルと体を回している女の子の姿を見て無性に腹が立ってきました。」という供述とで、大きく食い違っている。
  ウ ドライブレコーダーの解析結果等によれば、被告人は、集落内の三叉路を山間部の奥へ向けて歩く被害女児の姿を見た後、その三叉路を一旦直進通過したのに、車をUターンさせてその三叉路まで戻り、被害女児が歩いて行ったのと同じ方向へ曲がっている。この行動は、三叉路で被害女児を見た時点で、被害女児に対して何らかの行動を仕掛けようとする意図があった、という推論と結び付く。
  被告人の上記平成29年12月30日の供述においても、「クルクルと体を回している」被害女児を見たのは、被告人が車で三叉路を曲がってしばらく走った後であるから、被告人の供述する非わいせつ動機・目的では、三叉路を曲がって被害女児と同方向へ向かったという被告人の行動を説明できない。
  (3) もっとも、わいせつ目的、非わいせつ動機・目的のいずれが、スプレー事犯の犯情として、より悪質であるのかは、一概に決められない(非わいせつ動機・目的でスプレー事犯に及んだことの背景について、弁護人は、職場で意に沿わない異動があったこと、父親から予備校の費用援助を断られたこと等からくるストレスや苛立ちがあった旨主張し、被告人もその旨供述するが、その程度の背景のもとで、「クルクルと体を回している女の子の姿を見て」腹を立て、無抵抗の弱者である女児に対してスプレー事犯のごとき犯罪行為にまで及んだのであれば、被告人はきわめて危険な粗暴犯としての犯罪性向を有することになる。)。したがって、スプレー事犯がわいせつ目的であったか非わいせつ動機・目的であったかは、本件の量刑には必ずしも影響しない事情といえる。
  そして、わいせつ目的であれ、非わいせつ動機・目的であれ、いずれも被告人の内心に係る事柄であって、両者が併存することも有り得る。そもそも、被告人自身がスプレー事犯の当時の自己の内心を的確に把握できていたとは限らないし、当時の自己の内心について、捜査官の取調べや公判廷での質問に対して的確に供述できるとも限らない。
  そうすると、スプレー事犯の動機ないし目的は、被告人の矯正及び更生をより効果的なものにするため、心理学的な知見を踏まえつつ分析・判断されるべきものであって、本判決において事実認定の対象とするにはなじまない。
  (4) なお、弁護人は、平成29年12月24日に被告人がわいせつ目的を認める供述をしたのは、捜査官から、関連事件を不起訴にすることとの取引を持ち掛けられたためである旨主張するが、証人Dの公判供述に照らして、弁護人の主張は採用することができない。同供述によれば、関連事件について被告人がわいせつ目的を認める供述をしたので、同証人がスプレー事犯についても何度か尋ねたところ、被告人は、最初は黙っていたが、数日経って「今更ですけど、話を変えてもいいんですか」と言ってわいせつ目的を認める供述を始めたというのであり、これはこれで自然な流れである。同証人が関連事件の不起訴との取引を持ち掛けたという弁護人の主張には、その裏付けとなり得る証拠は被告人の公判供述以外に存在せず、一つの憶測にとどまると言わざるを得ない。
 4 量刑事情について
  スプレー事犯の犯行態様は非常に危険で悪質であり、実際に生じた被害結果も重大である。また、児童ポルノ事犯は、児童ポルノの製造や提供を助長しかねない犯行であって強い非難に値する。
  他方、被告人のために酌むべき事情として、前科前歴はないこと、児童ポルノの所持を始めた時点では未成年であったこと、本件各犯行時も成年に達したばかりであったこと、本件各犯行が広く報道された上に市役所からは懲戒解雇される等して大きな社会的制裁を受けたことが挙げられる。
  なお、示談等については、被告人及びその両親が被害女児の父親と一度面談し、謝罪するとともに示談の申入れもしたが、話合いには応じてもらえず、その後進展していない。被告人及びその両親には、損害賠償の資力は現段階では乏しいが、その義務は認識している。
  これらの事情を総合考慮して、主文のとおり、被告人を懲役刑に処してその刑事責任を明らかにした上、その執行を猶予するのが相当である。
  また、その執行猶予の期間中、被告人を保護観察に付するのを相当と認める。スプレー事犯がわいせつ目的であったのならばもちろんのこと、非わいせつ動機・目的に基づくものであったとしても、被告人には矯正すべき重大な犯罪性向があったといえることは上記のとおりであるから、保護観察下で、自らカウンセリングを受けるなどしてその矯正に努めるべきである。
(求刑 懲役2年6月)
 (裁判官 上田卓哉)

露天風呂を望遠で児童5名を盗撮したひそかに製造罪について、単純一罪とした原判決の法令適用を訂正して、製造罪5罪が成立して観念的競合になる・[認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらずした事例(名古屋高裁H31.3.4)

 
 実刑危険がある事件なので、こういうとこも間違えが無いようにいろいろ論難しています。
 [認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらずという判断も出てきました

名古屋高裁平成31年3月4日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに’児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)違反,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
主文
原判決を破棄する。
理由
(補足説明)
1判示第1(1)原判決は「罪となるべき事実」第1として要旨共犯者と共謀の上平成31年3月12日温泉施設北側森林内で同温泉施設で入浴中の女児5名が18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,同児童らの全裸の姿態を望遠レンズを取り付けたビデオカメラで動画撮影し,その電磁的記録である動画データを同ビデオ~カメラの記録媒体等に記録した上,同年5月1日被告人方で同人が前記動画データを前記記録媒体等からパーソナルコンピュータを介して外付けハードディスクに記録して保存し,もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造したとの事実(公訴事実同旨)を認定判示
(2)弁護人は被害児童(5名)ごとに犯罪が成立するのに1罪1罪特定できず訴因不特定というけれども,被害児童らの姿態撮影と記載されており,訴因特定に欠けない。
13歳未満の者の裸体撮影は強制わいせつに当たり公訴事実からは罪名特定できず訴因不特定というけれども,公訴事実,罪名及び罰条から強制わいせつ事実を起訴していないこと明らか(本件[認識不可能な遠方からの盗撮]は強制わいせつに当たらず弁護人の主張は前提においても失当)(3)弁護人は被告人ら撮影の大部分は老若女性で児童は一部であり公衆浴場での女児の入浴という普通の情景であって児童ポルノに当たらないというけれども,女児と,見られる客が現れると即座に照準を定め,その後乳房や陰部を中心にズームアップして撮影されていることからすれば,殊更に児童の性的な部位が露出強調され性欲を興奮させ刺激するものたること明らか。児童ポルノ禁止法2条3項3号に当たる。
(4)弁護人は被告人方での外付けハードディスクへの保存につき「ひそかに」児童の姿態を「描写」したといえないから児童ポルノ製造罪は不成立というけれども,ひそかに同法2条3項3号の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に描写した(温泉施設の盗撮がこれに当たること明らか)者が当該電磁的記録を別の記録媒体に保存させて(被告人方での外付けハードディスクへの保存がこれに当たること明らか)児童ポルノを製造する行為は同法7条5項に当たる。
(5)弁護人は児童ポルノ提供目的があった(同法7条3項該当)から同条5項罪~は成立しないというけれども,訴因罪以外の罪の成立を主張して訴因罪の成否を争一うもので,訴因制度の趣旨に反し許されない(その他種々いうけれども,後記「法令の適用」に係る罪数主張以外理由なきこと明らか)。
(法令の適用)
1罰条
(1)判示第1各児童ごとに刑法60条,児童ポルノ禁止法7条5項,2項,2条3項3号(原判決は単純[又は包括]1罪。訂正)
(2)判示第2のうち児童ポルノ所持の点は同法7条7項前段,6項,2条3項3号。
わいせつ物所持の点は刑法175条2項
2科刑上1罪の処理‘
(判示第1,第2につき)
いずれも刑法54条1項前段,10条(判示第1は1個の行為が5個の罪名に触れる場合。1罪として犯情の最も重い甲39添付資料1-1の女児に係る罪の刑で処断。

原判決
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 分離前相被告人Nと共謀の上,平成31年3月12日北側森林内において,同施設で入浴中の氏名不詳の女児5名がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,同児童らの全裸の姿態を,望遠レンズを取り付けたビデオカメラで動画撮影し,その電磁的記録である動画データを同ビデオカメラの記録媒体等に記録した上,同年4月1日,被告人方において,同人が前記動画データを前記記録媒体等からパーソナルコンピュータを介して外付けハードディスクに記録して保存し,もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した
(法令の適用)
罰条
 判示第1の事実につき 刑法60条,児童ポルノ法7条5項,2項,2条3項3号