児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

送信型わいせつ行為の裁判例と、わいせつ行為とされた範囲

 「送信させ」までをわいせつ行為とするものが増えてきました。

 高裁レベルでは、「撮影させ」までなら強制わいせつ罪になって、「送信させ」はわいせつ行為には含まれないとされていて、地裁でこの高裁判例を紹介すると、「送信させ」が引っ込んだりします。

東京高裁平成28年2月19日
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
(2)公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。


広島高裁岡山支部H22.12.15
 そして,強制わいせつ罪が個人の性的自由を保護法益とするのに対し,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号に該当する罪(以下「3項製造罪」という。)は,当該児童の人格権を第一次的な保護法益としつつ,抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,両者が一致するものではない。しかも,原判示各事実は,前記のとおり,原判示第1及び第2の各事実については,各被害者に児童ポルノ法2条3項3号所定の姿態をとらせるに際し,脅迫又は暴行によった旨認定していないし,上記各事実と同旨の各公訴事実も同様に脅迫又は暴行によった旨訴因として掲げていない上,原判示各事実及びこれらと同旨の各公訴事実についても,それぞれ,各被害者をして撮影させた画像データを被告人の使用するパーソナルコンピューターに送信させてこれらを受信し,さらに,上記コンピューターに内蔵されたハードディスクに記録して蔵置した各行為を含んでいるところ,上記各行為はいずれも3項製造罪の実行行為(原の事実については強要罪の実行行為の一部でもある。)であって,強制わいせつ罪の構成要件該当事実には含まれない事実である。

 

 

東京 地裁   H18.3.24 撮影送信させ受信して
大分 地裁   H23.5.11 撮影送信させ
東京 地裁   H27.12.15 撮影送信させ
高松 地裁   H28.6.2 撮影送信させ
横浜 地裁   H28.11.10 撮影送信させ
松山 地裁 西条 H29.1.16 撮影送信させ
高松 地裁 丸亀 H29.5.2 撮影させ
岡山 地裁   H29.7.25 撮影送信させ
札幌 地裁   H29.8.15 撮影させ
札幌 地裁   H30.3.8 撮影させ
東京 地裁   H31.1.31 撮影させ
長崎 地裁   R1.9.17 ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。
高松 地裁 丸亀 R2.9.18 撮影させ
熊本 地裁   R3.1.13 撮影させ
京都 地裁   R3.1.21 撮影させ
京都 地裁   R3.2.3 撮影させ
大阪 高裁   R3.7.14 撮影させ
京都 地裁   R3.7.28 撮影させ
大阪 高裁   R4.1.20 撮影させ
千葉 地裁   R4.2.7 同人に胸部陰部を露出した姿態を取らせて
これをaのスマホで撮影させ
もって13未満の者にわいせつ行為した
札幌 地裁 小樽 R4.3.2 自慰行為等+撮影させ
東京 地裁   R4.3.10 撮影させ
京都 地裁   R4.6.10 同人に陰部露出させる姿態とらせてスマホで撮影させもって、13歳未満の物に対して、わいせつな行為をした
東京 地裁   R4.8.19 自慰行為をさせた上、その様子を同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、さらに、その画像等のデータを被告人が使用する携帯電話機に送信させ、
京都 地裁   R4.9.13 同人に陰部露出させる姿態とらせてこれを同人が使用するタブレット端末で撮影させ、
もって、13未満の者に対してわいせつ行為をし
札幌 地裁   R4.9.14 撮影させ
千葉 地裁   R4.11.18 乳房陰部露出して放尿するなどの姿態を取らせてこれをcの使用する携帯電話機で撮影させ、もって13未満の者ににわいせつ行為をした
釧路 地裁   R5.1.6 送信させ
札幌 高裁   R5.1.19 撮影させ
大津 地裁   R5.3.1 手淫させ撮影送信させ
松山 地裁   R5.9.7 撮影送信させ
地裁   R5.8.18 撮影送信させ
大津 地裁   R5.10.26 撮影送信させ
旭川 地裁 稚内 R5.11.10 ビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、Aに陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした
札幌 高裁   R5.3.5 ビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、Aに陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした

 

 児童に対する性犯罪に並行して盗撮行為が行われた場合の児童ポルノ製造罪の罪名について、姿態をとらせて製造罪説に仙台高裁r6.1.23が加わり、高裁判例レベルでは3対3で拮抗しました。

 児童に対する性犯罪に並行して盗撮行為が行われた場合の児童ポルノ製造罪の罪名について、姿態をとらせて製造罪説に仙台高裁r6.1.23が加わり、3対3で拮抗しました。
 仙台高裁の事例は、当初、ひそかに製造罪で起訴され、大阪高裁r5.1.24の影響で姿態をとらせて製造罪に訴因変更され1審判決になったものですが、控訴審でひそかに製造罪が正解じゃないのかという法令適用の誤りが主張されたようです。


(1)姿態をとらせて製造罪説
①大阪高裁H28.10.26*1(姫路支部h28.5.20*2)
②大阪高裁r05.1.24*3(奈良地裁R04.7.14*4)
③仙台高裁r6.1.23(仙台地裁r5.7.20)

仙台高裁r6.1.23
2 訴訟手続の法令違反の論旨について
 所論は、原判示第1の2、第2の3、第3の3及び第7の3について、「ひそかに製造罪」から、「姿態をとらせて製造罪」に訴因及び罰条の変更を求めた検察官の訴因及び罰条の変更請求(以下、この請求を「本件訴因等変更請求」という。)を許可した原審の訴訟手続は、必要性のない誤った訴因変更請求に対し、釈明等を尽くさずにこれを認めた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
 しかし、本件訴因等変更請求は、いずれも同一日時における同一の被害児童らの法所定の姿態についての撮影、記録行為が、「ひそかに、就寝中の被害児童ら」についてこれを行ったのか、「被告人が被害児童らに法所定の姿態をとらせ」てこれを行ったのかを変更するとともに、いずれも罰条を児童ポルノ法7条5項から4項に変更するものであって、基本的事実関係が同一であることは明白である。所論は、上記各事実については、「ひそかに製造罪」のみが成立し、「姿態をとらせて製造罪」は成立しないのであるから、本来訴因変更が必要のない公訴事実及び罰条を変更するものであって誤っているなどと主張するが、刑事訴訟法312条1項によれば、裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因等の変更を許さなければならないのであって、所論が指摘する成立罪名に関する主張の当否にかかわらず、本件訴因等変更請求を許可した原審の訴訟手続に誤りはない。また、所論は、原審裁判所が本件訴因等変更請求について釈明等を尽くさなかったとも主張するが、仮に、証拠上成立しない訴因又は罰条への変更であっても、そのことのみから直ちに原審裁判所が何らかの釈明を求めるべき義務が生じるとはいえない上に、後記法令適用の誤りの論旨についてみるように、本件では、上記各事実については「姿態をとらせて製造罪」のみが成立し、「ひそかに製造罪」は成立しないとの原判決の判断に誤りはないのであるから、なおさらである。
 訴訟手続の法令違反についての論旨は理由がない。
3 法令適用の誤りの論旨について
 所論は、原判決は、〔1〕原判示第1の2、第2の3、第3の3及び第7の3の各事実については、「姿態をとらせて製造罪」ではなく、「ひそかに製造罪」が成立するのに、前者の成立を認めた誤り、及び、〔2〕原判示第1の1と第1の2、第2の1及び第2の2と第2の3、第3の1及び第3の2と第3の3、第7の1及び第7の2と第7の3の各事実は、それぞれ観念的競合として処断すべきであるのに、併合罪として処断した誤りがあり、これらは、判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
(1)所論〔1〕について
 原判示第1の2、第2の3、第3の3及び第7の3の訴因変更後の各事実は、いずれも、公訴事実の記載自体から被告人が各児童にそれぞれの姿態をとらせたことが明らかとなっているということができるところ、「ひそかに製造罪」と「姿態をとらせて製造罪」との関係については、児童ポルノ法7条5項が「前2項に規定するもののほか」と定めていることなどからすれば、撮影の事実を児童が認識していたかどうかにかかわらず、行為者が姿態をとらせた場合には、「姿態をとらせて製造罪」が成立し、「ひそかに製造罪」は適用されないと解するのが相当である(大阪高等裁判所令和4年(う)第758号令和5年1月24日判決参照。なお、所論指摘の裁判例は、具体的な事実関係をもとに一定の法令の適用をした原判決の解釈、判断が誤りであるとまで断ずるには足りないと説示したものに過ぎず、判例違反もない。)。所論は独自の見解であって採用することができない。したがって、上記各事実について「姿態をとらせて製造罪」が成立するとした原判決の判断に誤りはない(なお、記録によれば、原判示第6の別表5番号1(J)及び第8の別表7番号3(U)についても、被告人が被害児童らに声をかけて小便器に誘導した上で小便中の姿態を撮影しており(原審甲102)、「姿態をとらせて製造罪」が成立する可能性もうかがわれるものの、公訴事実の記載自体からそのことが明白な場合ではないのであるから「ひそかに製造罪」として起訴されたこれらの罪について訴因等変更の手続を経ることなく罪となるべき事実を認定した原判決の判断にも誤りはないし、このような場合において、犯情がより悪いとも評価する余地のある「姿態をとらせて製造罪」の成否について裁判所が検察官に対し釈明を求める義務があったともいえない。)。

(2) ひそかに製造罪説
①東京高裁r5.6.16*5(立川支部r05.1.20*6)

東京高裁r5.6.16
しかしながら、原審記録によれば、前記各事件は、いずれも、被告人が、各児童に所定の姿態をとらせた上、ひそかにその姿態を撮影するなどした行為に係るものと認められるところ、これらについて、訴追裁量を有する検察官が同条5項のひそかに所定の児童の姿態を撮影するなどした事実を摘示した上で同条5項の罪により公訴を提起し、被告人及び原審弁護人は事実及び犯罪の成立を争わず、原判決においてその事実が認定されて犯罪の成立が認められたものであり、同条5項の罪の成立を認めた原判決の法令の適用に誤りはない。所論は、同条5項の罪が成立するためには同条4項の罪が成立しない場合であることを要するというが、同条4項の罪が成立しないことが同条5項の罪の成立要件であるとの趣旨であれば、そのように解すべき合理的理由はなく、賛同できない。

②大阪高裁R5.7.27*7 (神戸地裁姫路支部R5.3.23*8)

阪高裁R5.7.27
   以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。

③大阪高裁r5.9.28*9(奈良地裁葛城支部R5.3.13*10)

阪高裁r5.9.28
   以上を踏まえると、本法7条5項において「前二項に規定するもののほか」と規定されているのは、実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく、3項製造罪又は4項製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される。

(3)姿態をとらせて製造罪説かひそかに製造罪説か判然としないもの
東京高裁r5.3.30*11(東京地裁R04.7.14*12)

東京高裁r5.3.30
その余の事実については、同項の製造に該当するとした原判決の解釈が誤りであるとまで断ずるには足りないし、仮に同条4項による製造と認定すべきであって法令の適用に誤りがあるとしても、同項の製造罪と同条5項の製造罪は、同一法条に定められ、その罪質も法定刑も同じであって、本件において、その要件の差により被告人の防御の機会を奪う事態となっていたとは考え難いし、量刑上も影響を及ぼすものではないことが明らかであるから、その誤りは判決に影響を及ぼさない。

小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において、被告人の責任は重いといわざるを得ないが、被告人が反省の弁を述べ、既に児童に関わる仕事からは離れていること、前科のないこと、被告人の罹患するADHDの本件各犯行への影響について否定まではできず、被告人が治療を受け続けると述べていることなどを考慮し、懲役3年、保護観察付きの執行猶予5年間を言い渡した

小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において、被告人の責任は重いといわざるを得ないが、被告人が反省の弁を述べ、既に児童に関わる仕事からは離れていること、前科のないこと、被告人の罹患するADHDの本件各犯行への影響について否定まではできず、被告人が治療を受け続けると述べていることなどを考慮し、懲役3年、保護観察付きの執行猶予5年間を言い渡した事例(横浜地裁r5.12.6)

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【文献番号】 25596585
【文献種別】 判決/横浜地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 令和 5年12月 6日
【事件名】 強制わいせつ、建造物侵入、栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、窃盗被告事件
【事案の概要】 小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において、被告人の責任は重いといわざるを得ないが、被告人が反省の弁を述べ、既に児童に関わる仕事からは離れていること、前科のないこと、被告人の罹患するADHDの本件各犯行への影響について否定まではできず、被告人が治療を受け続けると述べていることなどを考慮し、懲役3年、保護観察付きの執行猶予5年間を言い渡した事例。
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 小泉満理子
上記の者に対する強制わいせつ、建造物侵入、栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、窃盗被告事件について、当裁判所は、検察官地引彩乃並びに弁護人小松圭介(主任)、奥村徹及び彦坂幸伸出席の上審理し、次のとおり判決する。
       主   文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
その猶予の期間中保護観察に付する。
訴訟費用は被告人の負担とする。

被害者を欺してテレビ会議ソフトを起動させて裸にさせた行為は準強制わいせつ罪(札幌高裁R06.3.5)

 送信させるはわいせつではないという東京高裁h28.2.19を超えました。

札幌高等裁判所令和6年3月5日
(2)当裁判所の判断
上の原判決の判断は、何ら不合理な点はなく、当裁判所も是認することができる。
これに対し、所論は、多岐にわ、たるが、結局、
①原判示第1における被告人の行為は、遠隔地から被害者に対し、その裸体を撮影させるものであるが、被害者に直接接触するものではなく、被告人が被害者と対面するものでもないから、性的侵襲性は低く、更に被害者をして自慰行為等をさせるなどしたものでもないから、「わいせつな行為」とはいえない、
②原判示第2における被告人の行為は、アプリケーションソフトのビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、Aに陰部及び乳房等を露出させる姿態をとらせたというものであるが、被告人が被害者と対面するものではないから、性的侵襲性は低く、更に被害者をして自慰行為等をさせたものでもないから、「わいせつな行為」とはいえないし、被告人の行為は原判決が第1の事実において「わいせつな行為」に当たらないとした画像の送信行為を含むものであるから、その意味でも「わいせつな行為」に当たらない、というものと解される。
①についてみると、原判示第1に係る被告人の行為は、わいせつの意図をもって、身分及び目的を偽り、電話を通じて指示し、被害者の陰部や乳房等という性器や性的意味合いを有する部位を、衣類を脱がせて露出させ、自慰行為ではないとしても、被害者に性器に指を挿入するよう求め、その姿態を撮影させたというものであり、そうした姿態を被害者以外の第三者に知り得る状態に置いたものと評価できるものであるから、被害者の身体を性的に利用する行為として「わいせつな行為」に該当するものというべきである。
また、被告人自身が被害者の身体に接触しておらず、撮影をその場で視認してもいないものの、被害者と固定電話をつないだまま、撮影後に送信された写真を見るなどしつつ、更に撮影する部位や姿態を繰り返し指示して撮影を行わせたともいうのであり、要求行為と撮影との間の時間差はわずかであるし、また、被告人は、被害者に撮影した写真データを送信することをも要求して撮影させており、その撮影させる行為自体に被害者がこの要求に従って写真を送信して被告人がこれを閲覧することになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、所論指摘の事情は「わいせつな行為」であることを否定するようなものではないというべきである。
なお、所論は、本件のような撮影させる行為は、これまで強要罪として処罰されるのが通例であり、(準)強制わいせつ罪として処罰するのは不当であるともいうが、所論が引用する裁判例はいずれも起訴裁量を有する検察官が強要罪として起訴したものを有罪としたもので、(準)強制わいせつ罪の成否が判断の対象となっていたものではないから、準強制わいせつ罪として起訴された本件とは事案を異にし、所論の根拠として引用するのは適切とはいえず、所論は採用できない。
②についてみると、原判示第2に係る被告人の行為は、同様に、わいせつの意図をもって、身分及び目的を偽り、アプリケーションソフトのビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、被害者の陰部や乳房等という性器や性的意味合いを有する部位を、衣類を脱がせて露出させたものであり、被告人において、撮影の現場にいるのと同様に被害者の姿態を即時に認識することが可能であるから、原判示第1の行為よりも直接的に被害者の身体を性的に利用するものといえ、自慰行為等をさせていないとしても、「わいせつな行為」に該当することは明らかである。
なお、所論は、原判決が、撮影させる行為のみならず、原判示第1の事実では「わいせつな行為」に当たらないとした、撮影した動画を送信させる行為をも「わいせつな行為」とした点で不当であるという。
しかしながら、原判決が原判示第1の事実について判示したのは、撮影させる行為のみで「わいせつな行為」として十分であり、送信させる行為(画像共有アプリケーションソフトにアップロードさせる行為)は必ずしも必要不可欠ではないとしたものにすぎず、所論は原判決を正解しないものである。
実質的にみても、被告人は、ビデオ通話機能を通じ、被告人が視聴可能な状態で、被害者に陰部等を露出させる姿態をとらせたものであって、被害者にその姿態を撮影させる行為と送信させる行為とは社会的事実として不可分の1個の行為であるから、原判決が原判示第2で挙示する被告人の行為に送信行為としての側面があるからといって、全体として「わいせつな行為」該当性が否定される謂れはなく、所論は失当である。
その他所論がるる主張する点も含め、所論はいずれも採用できず、法令適用の誤りの論旨は理由がない。

強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】平成28年2月19日
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。

 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,~~,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。

間接正犯構成による性的姿態撮影罪(青森地裁r5.11.17)

間接正犯構成による性的姿態撮影罪(青森地裁r5.11.17)
 じゃあ、児童ポルノ製造も間接正犯構成になるよね。

判例ID】
28313774
【裁判年月日等】
令和5年11月17日/青森地方裁判所刑事部/判決/令和5年(わ)120号
【事件名】
性的姿態等撮影被告事件
【裁判結果】
有罪
【裁判官】
小澤光
【出典】
D1-Law.com判例体系
【重要度】
1

■28313774
青森地方裁判所
令和5年(わ)第120号
令和05年11月17日
本籍 (省略)
住居 (住所略)
無職

平成14年(以下略)生
 上記の者に対する性的姿態等撮影被告事件について、当裁判所は、検察官藤原裕里子及び弁護人(国選)B各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、令和5年7月18日午後3時56分頃から同日午後6時25分頃までの間、(住所略)被告人方において、別紙記載のAに対し、自己が使用する携帯電話機から、アプリケーションソフト「C」のメッセージ機能を利用して、被告人の知り合いである暴力団組員を装い、「おめ、誰とはいわねぇけど、以前付き合ってた彼氏居るよな。」「その男がな、俺らの組合さ入っててな」「んでその男はな、金飛んだ訳よな、その際に保証人をAって名前にした訳よ。」「しらねぇじゃすまねぇはんで、こっち迷惑被ってんよ。大体総額60万ちょいなんよな。とりまどうでもいいけ、払える?」「その人じゃねえはんで、俺ら組合が迷惑してんだ。払えねぇならオメェの家さいくはんでな、●●●」「あとさ、普通にパパちゃんママちゃん頼ると思うけどやめなよ。」「その男からオメェの裸写真もらってるからちくりでもしたらSNS、まぁ学校とか友達さばらまくはんで笑」「どうしても無理なら●●●に頼りな笑」「あと、親含め外部に話したらすぐにバレるからな笑そしたらハメ撮り含め写真ネット上にばら撒く」「まぁ、周りには監視してるやついるはんで笑笑」「●●●に金払わせるのは良いけど、ついでに●●●に裸画像送れ嘘つくなよ。」「●●●からもその画像とスクショ見せてもらうからな。それが無理なら●●●の金受け取りません。自分でどうにかしろ笑」「広い画とかばれるはんで 全身と下の方も送れよ後 オナニーしてるところも送れよ笑 じゃなきゃお金受け取りません」「60万●●●から払ってもらうならついでに潮吹きの動画も送れよ笑」「あー、ここにと、●●●のほうにもな」などと記載したメッセージを送信し、その頃、青森県内のA方にいたAにこれらを閲読させるなどして、Aの身体及び名誉に危害を加える旨告知して脅迫したことにより、同意しない意思を表明することが困難な状態にさせ、同日午後6時25分頃、同所において、Aに、Aの写真撮影機能付き携帯電話機でAの乳房及び陰部等を撮影させた。
(証拠の標目)(括弧内の番号は、証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を示す。)
・ 被告人の公判供述
・ 被告人の検察官調書(乙4、5)、警察官調書(乙2、3)
・ Aの検察官調書(甲2)、警察官調書(甲1)
・ 捜査報告書抄本(甲4)、捜査報告書(甲5、6)
(法令の適用)
罰条 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律附則2条により同法2条1項2号、1号イ(刑法176条1項1号)
刑種の選択 懲役刑を選択
刑の執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(法令の適用に関する補足説明)
1 弁護人は、本件の事実関係は争わないものの、検察官が主張する性的姿態等撮影罪の間接正犯は成立せず、被告人には強要罪が成立するにとどまると主張する。
2(1) 性的姿態等撮影罪は、間接正犯の形式では犯し得ない犯罪ではなく、その点に関する弁護人の主張は前提を欠く。
 (2) 関係証拠によれば、被告人は、Aに裸の写真を撮影させて送信させることを目的として本件犯行を行い、実際に送信された写真2枚を保存していること、Aが「C」の相手方を暴力団員であると認識して、裸の写真等を送信しなければ、Aの家まで押し掛けてきてAやその家族に暴力を振るうかもしれないなどと思っていたことから、裸の写真等を撮影したこと、Aが両親を含む外部の人に相談をしたらAの裸の画像をSNSでばらまかれると認識していたことが認められる。
  弁護人が指摘するとおり、被告人が日頃からAを畏怖させていたとは認められないものの、被告人は暴力団員を装っていたのであるから、Aは「C」のやり取りの段階ではその相手方が被告人であるとは認識しておらず、被告人とAとの従前の関係は、間接正犯の成否に影響しない。その上で、上記の各事情からすれば、Aが、周囲の人たちに相談することもできず、「C」の相手方からの報復等を恐れて自らの裸の写真を撮影せざるを得ない状況に追い込まれていたことが十分に認められるから、被告人が、Aをして自己の意思のとおりの行動をさせたことによりAの性的な部位を撮影し、その際、Aの意思は抑圧されていたと評価することができる。その他、弁護人が指摘する事情を踏まえても、上記の結論は変わらない。
3 そうすると、本件につき、間接正犯構成による性的姿態等撮影罪が成立することは明らかであり、弁護人の主張はいずれも採用することができない。

アスリート盗撮罪についての法制審議会の議論

法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会
第5回会議 議事録
○長谷川幹事
もう一点は、撮影の対象です。スポーツ選手のユニフォームなどが問題となってくるのですが、衣服に覆われているということでこの犯罪の対象から一律除外されるということはないようにというか、それも検討に残しておきたいと思っています。下着が明確に入ったら、それはそれでいいのですが、ユニフォームなどについても、これは、例えばスポーツジャーナリストの写真はどうだとか、そういう区別の難しさはあるのですが、実際に撮影されたものが、見る者をしてやはり性的な羞恥心を覚えさせるような形で、着衣の上からでも撮影されているようなものについては、犯罪化の検討は論点として残しておいていただきたいと思います。
○井田部会長 それは、スポーツ選手が競技しているところを撮影する行為をすべて処罰すべきだということではないですよね。どういう場合に処罰すべきだということなのでしょうか。
○長谷川幹事 撮影行為と撮影の成果物、なかなか切り離すのが難しいかもしれないですけれども、撮影された者がスポーツをしているところを普通に撮影しているものと評価されないもの、例えば、殊更に、胸の谷間のところを強調して撮影しているだとか、見ている人が性的な羞恥心を覚えたりするようなものについては対象とすると、そういうものを撮影したことが構成要件としてなっていく形を考えています。
○橋爪委員 一点質問させていただきたいのですが、具体的にどのような処罰規定を設けるべきという御提案でしょうか。
○長谷川幹事 処罰規定というのは、法定刑などでしょうか。
○橋爪委員 むしろ具体的な構成要件の内容です。スポーツ選手の臀部や胸部などをアップにする写真を撮影する行為を対象にされていると思いますが、具体的にどのような行為態様を規定した上で、どのような構成要件を設けるべきとお考えかについて、お伺いさせてください。
○長谷川幹事 ほかの要件についてまだ分からないのですけれども、着衣の有無にかかわらず、人の性的な部位、臀部とか、そこの定め方は少し置いておきますが、そういったものを強調又は露出するような方法で、かつ、人に羞恥心をもたらすような画像とか、何かそのような、すみません、まだ練れていないですが。わいせつ物頒布罪の判例の定義とか、いろいろな定義を参考にして持ってきたらと思うのですが、そういう二つの要素を構成要件にした形を考えています。
○橋爪委員 今の点に関連しまして、私も意見を申し上げたいと思います。長谷川幹事がおっしゃったとおり、スポーツ選手の臀部とか胸部をアップにしたような画像がネットには拡散しており、そして、このような画像の公開・拡散によって、被害者の方が強い羞恥心や不快感を抱くことは当然でありまして、このような被害を極めて深刻に受け止める必要があると考えております。ただ、既に今日も議論がございましたけれども、性的な姿態の撮影を処罰する根拠は、やはり性器や臀部、胸部などの性的な部位あるいは下着など、本来は衣服の下に隠されており外部から視認不可能な部位を撮影し、かつ、その画像を固定化する点にあるように思われます。
したがいまして、この問題につきましても、性的な部位や下着など、本来は外部から視認不可能な部位が写り込んでいる場合と、水着やユニフォームなど外部から視認可能な部位のみの撮影であり、性的部位や下着が写り込んでいない場合とに分けて検討する必要があるように思われます。このうち前者の類型、すなわち、性的な部位や下着が撮影されている場合については、被害者の性的自由の侵害が明らかでありますので、これは処罰対象に含めるべきです。例えば、赤外線を用いた撮影装置を利用して水着やユニフォームを透視して性的部位や下着を撮影する行為は、当然に可罰性があると思われます。また、特殊な装置を用いていなくても、例えば、ユニフォームがずれる、透ける等したことにより、性的部位や下着が写り込んでいる場合についても、撮影者に故意がある場合には同様に処罰可能であると思われます。
これに対して後者の類型、すなわち、性的部位や下着が写り込んでいない場合には、性的部位を撮影したことを処罰の根拠にはできませんので、先ほど御提案がありましたように、別の観点から処罰の根拠を見いだす必要がございます。先ほど長谷川幹事からは、撮影行為に際して臀部や胸部を過度に強調する撮影行為を処罰対象とする旨の御提案がございました。
もっとも、仮にこのような規定を設ける場合には、具体的にどの程度まで強調すれば構成要件に該当するかに関して明確な判断基準を設ける必要があると思いますが、この点を法文上明確に規定することは極めて困難であるように思われます。また、仮にこのような規定を設けた場合でも、その場合には、性能の高いカメラを用いて通常の撮影行為を行った後、特定の部位だけを拡大する行為が横行するだけですので、このような罰則は実効性という観点からも疑問が生じます。
さらに、別の規定ぶりとしましては、行為者の目的に着目した上で、性的な目的に基づく撮影行為を処罰対象にすることも考えられます。しかし、撮影行為が通常の態様で行われた場合に、性的な意図、目的を撮影段階で認定することは極めて困難であるように思われ、このような規定形式も実効性に疑問が生じます。また、客観的には通常の撮影行為として認められているものが、本人の目的だけを根拠として可罰的な行為に転ずるというのは、理論的にも正当化し難いように思われます。
さらに考えますと、撮影者の行為態様が、例えば、被害者を羞恥させ困惑させるものであるとして、撮影行為の態様に着目した処罰規定を設ける可能性もあるのかもしれません。実際、このような観点から盗撮行為を条例違反で処罰している事例も散見されます。しかし、こういった事案は、行為者が被害者に執拗に付きまとったり、至近距離から撮影しようとするなど、行為態様の異常性を重視した判断である点が重要です。したがいまして、たとえ胸部や臀部をアップにしていても、撮影の外見や行為態様自体が一般の撮影者と変わりない場合については、撮影態様に着目した処罰も困難であろうと思われます。
このように、いろいろ考えてまいりましたけれども、性的部位や下着が写り込んでいない撮影行為については、処罰対象を明確に限定した上で、かつ実効性がある罰則を設けることは困難であるように思われます。このことは、性的部位や下着が写り込んでいない撮影については、実はその後の画像の加工行為や公開などを含めて法益侵害性が顕在化するにもかかわらず、これを撮影行為だけを切り取って処罰することの困難性に起因するものと思われます。既に性犯罪に関する刑事法検討会でも申し上げたところですが、これらの行為につきましては、まずは撮影場所や撮影方法に関する規制の強化、さらに、性的に加工された画像のアップロードに関する規制等を検討した上で、被害の可及的防止を図ることが先決ではないかと考える次第です。
○長谷川幹事 いろいろな問題点を御指摘いただき、私もまた考えたいと思います。最後の方におっしゃっていただいた、撮影行為と切り離して、加工やアップロードの時点で規制することの検討ということは、大いに進めていただきたいと思います。

p29
○井田部会長
さらに、スポーツ選手、アスリートに対する撮影について、それを処罰対象にすべきだという御意見もありましたけれども、これは犯罪を構成する行為を明確に切り分けることは難しいのではないか、また、実効的な罰則にならないのではないかということが指摘され、他方で、着衣の上からであっても、例えば透視機能のある撮影機器を用いて撮影する場合には、当然これは撮影の処罰範囲に含まれる行為になるのではないかといった御指摘がありました。また、アダルトビデオへの出演強要を処罰対象とすべきではないかという意見がありました。
これについては、別途検討している強制性交等罪、それから、撮影罪の要件を検討するときに併せて議論することがよいのではないかという御指摘がありました。言い換えると、アスリートの撮影の問題とアダルトビデオの出演強要の問題は、別途の特有の問題、あるいはそれについての特有の規定を設けるような問題としてではなくて、この撮影罪の規定ぶりの問題、処罰範囲の問題、あるいは、そもそも強制性交等罪、強制わいせつ罪の要件を考える際に併せて検討すべきだということで恐らく合意が得られたのではないかと思われました。
以上、まとめさせていただいたような御意見・御指摘を含む本日の議論を踏まえて、事務当局において更なる議論のたたき台を作っていただき、二巡目の議論では、それを基に更に議論を深めるということにしたいと思います。そういうことでよろしいでしょうか。
(一同異議なし)

法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会
第7回会議 議事録
○井田部会長 大変有益な問題提起だと思います。一つは、フィギュアスケートの選手が、あるいはもうちょっと一般化すると、海水浴場などで、水着姿を撮影するような行為について、どの範囲であればいわば許容限度にとどまり、どの範囲から撮影罪の対象になってくるのかの線引きの問題ですかね。もう一つは、二次提供についてどう考えるかということですが、どうでしょうか。
○橋爪委員 前半について、一言、私の理解を申し上げます。
撮影罪の処罰根拠とは、性的姿態等、すなわち一般に外部からは見られないもの、つまり、下着姿であるとか、あるいは性的部位のように、一般には外部からは見られないように衣服で覆われているものが撮影されることに伴う法益侵害に求められると思われます。そのような意味で、例えば、水着やスポーツのユニフォームなどは、外部から見られないものとはいえませんので、配布資料19の「1(1)対象」の「①」から「③」には該当せず、今回の原案では処罰対象からは除かれていると理解いたしました。
○浅沼幹事 今、橋爪委員から御発言がありましたけれども、たたき台を作成した事務当局としましても、この案としては、そのような水着姿やユニフォーム姿は、処罰すべき撮影対象には含まれていないという案として作成しています。その上で、それが適当かどうかは御議論いただきたいという趣旨でございます。
○齋藤委員 水着などもそうなのですけれども、性的な部位だと思われるところ、衣服に覆われているけれども、そこを特に強調して撮った場合みたいなことを想像したのですけれども、それは、この中には入っていないという理解でよろしかったでしょうか。
○橋爪委員 以前の部会で発言した記憶がございますが、確かにアスリートの性的な部分を強調した撮影行為が横行しており、大きな問題であると認識しております。ただ、仮に性的に強調した撮影行為を処罰するとしても、例えば、精巧なカメラを使うと、普通の撮影行為でも後から加工などをして一部だけを強調することもできます。そうすると、性的に強調した撮影行為というものを、そもそも構成要件上、処罰対象を明確に規定できるかという問題もありますし、また、性的な部分を強調した撮影行為、あるいは性的な目的の撮影行為を処罰対象にするとしても、それを実効的に処罰することは困難ではないかとも思われまして、深刻な問題ではありますが、今回の撮影罪をめぐる議論では、一応分けて考えた方がいいだろうと考えている次第です。

・・・・・・
○今井委員
他方で、このような撮影行為やこれによって生じた画像の提供行為と比べると、当罰性を下回るものではないか、あるいは、処罰すべきかどうかについて意見が分かれる、そういった外延的といいますか、撮影行為とやや距離感があるような提供等、拡散行為について、どこまでを処罰対象とするかということは、保護法益を侵害する危険性の程度を、具体的に慎重に検討して決定すべき問題だと思います。例えば、先ほども、スポーツ選手がユニフォームを着ていて、そして、その一部にフォーカスし、クローズアップするというような行為でありますとか、部会長もおっしゃっておりましたけれども、水着を着るのが当然の海水浴場でありますとかプール等で、水着の一部について焦点を当てているような行為、多々そういうことが生じていると思いますけれども、そういったことが、この部会で、ほぼ合意されつつある法益との関係で、その侵害の程度があるやなしやという点から、そうした行為を処罰対象に取り込むかを検討すべきものだと思います。
保護法益を自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られない性的自由あるいは性的自己決定権とした場合には、今のように衣服を着けた状態の性的な部位が、画像上拡大されるなどして強調されたことによって、どの程度保護法益の侵害が生じているといえるだろうかということ、あるいは、具体的にどの程度まで強調すれば、ここで想定しています罰則の構成要件に該当するのか、そこに明確な線引きができるかという観点から、改めて慎重に検討すべきであると思います。そして、こうした加工行為、クローズアップするような行為が、保護法益の侵害を生じさせるとはいえないのだとしますと、その提供行為についても、やはり保護法益の侵害がより遠くなりますので、処罰するのは難しいのではないかと私は思いますが、また、皆さんと慎重に検討すべきだと思います。

スカート内下着撮影を試みたが短パンをはいていた場合は、性的姿態撮影罪の未遂(2条3項)か

 スカート内撮影の場合は、下着が見えてなかったら「性的姿態等」がないので、未遂にもならないでしょう。
 更衣室盗撮・トイレ盗撮であれば、カメラを仕掛ければ、そのうち下着姿になる可能性があるが、公共の場所で行きずりのスカート内盗撮の場合だと、その機会には下着にならない。

 撮影罪の保護法益については、自己の性的姿態を他の機会に他人に見られないという意味での性的自己決定権と説明されますが、下着ではない短パンをはいている場合には、自己の性的姿態を他の機会に他人に見られないという意味での性的自己決定権が侵害される危険はないので、法益侵害の危険性がありません。
 法務省の逐条説明では未遂の事例として「結果として撮影に至らなかった行為の中には、例えば、撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し向けてシャッターを押したが、露光不足で撮影に失敗した場合など、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから」という例が挙げられていますが、シャッター押しても、露光十分でも、下着が写らないので、法益侵害の危険性がありません。
 浅沼検事の言葉を借りれば 「本条第1項各号に掲げる撮影行為をしようとしたものの、結果として撮影に至らなかった行為だが、法益侵害の危険性を創出するもの」とは言えないということです。
 迷惑条例の卑わい行為を検討すべきでしょう。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和五年法律第六十七号)
(性的姿態等撮影)
第二条
1 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
2 前項の罪の未遂は、罰する。

浅沼雄介検事「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」警察学論集77巻1号
3 第2 項
本項は、本条第1項各号に掲げる撮影行為をしようとしたものの、結果として撮影に至らなかった行為の中には、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから、未遂犯を処罰するものである。

法務省逐条解説
○第2条(性的姿態等撮影)
【説明】
1 趣旨
本条は、人の意思に反して性的な姿態を撮影する行為がなされれば、当該性的な姿態が記録されて固定化されるため、性的な姿態が当該姿態をとった時以外の機会に他人に見られる危険が生じ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じる危険があることから、これを処罰するものである。
2 撮影対象
本条の罪の撮影対象については、撮影された場合に自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での性的自由・性的自己決定権が侵害されるものとして「性的姿態等、すなわち、、」
○人の性的な部位性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部臀部又は胸部や、人が身に着けている下着のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
○わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
としている。
他方、性的姿態等のうち、撮影対象者が、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れる状況にあることを認識しながら自ら露出し又はとっているものについては、
○衣服を着けるなどしていれば見られないにもかかわらず、あえて自ら露出し又はとったものである以上、当該撮影対象者が、保護法益を放棄している場合があると考えられること
○性的姿態等が不特定又は多数の者の目に触れる状況であることを認識しながら自ら露出し又はとっている者が、撮影行為までも許容する意思なのか、その場で見られることだけしか許容しない意思なのかは、外形的・客観的に区別が困難であり、撮影対象者の内心で区別するほかないが、そのような内心のみで犯罪の成否が分かれることとすると、処罰の外延が不明確になると考えられることから、一律に撮影対象から除外することとしている(注1 。

・・・
4 第2項
本項は、結果として撮影に至らなかった行為の中には、例えば、撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し向けてシャッターを押したが、露光不足で撮影に失敗した場合など、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから、性的姿態等撮影罪の未遂犯を処罰することとするものである。

https://news.yahoo.co.jp/articles/7730257bd1b1498207bd9e8894b12610537cd0f3?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20240119&ctg=loc&bt=tw_up
スカート内をスマホで盗撮するも「ズボンと一体」で未遂に 会社員の男(56)を現行犯逮捕 広島
1/19(金) 17:38配信
広島駅の構内で女性のスカートの中にスマートフォンを差し入れて下半身を撮影しようとしたとして、男(56)が警察に現行犯逮捕されました。
性的姿態等撮影未遂の疑いで逮捕されたのは、広島市南区に住む会社員の男(56)です。
警察によりますと、男は18日午後0時半ごろ、JR広島駅構内の上りエスカレーターで、専門学校生の女性(21)のスカート内にスマートフォンを差し入れ、下半身を動画で撮影しようとした疑いがもたれています。しかし女性は、スカートとズボンが一体となった着衣を履いていたため、未遂に終わったということです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/91db1a015899cdf9d7f28f18083917c426b8505f?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20240225&ctg=loc&bt=tw_up
スマホで20代女性のスカート内を撮影 女性は“短パン” 警察は“性的姿態等撮影未遂”の現行犯で32歳無職の男を逮捕
2/25(日) 14:08配信
 男は2月24日午後7時20分ごろ、札幌市営地下鉄東豊線さっぽろ駅で、駅構内のエスカレーターを利用していた20代女性のスカートの中をスマホで撮影しようとした性的姿態等撮影未遂の現行犯で逮捕されました。
 警察によりますと、異変に気付いた女性が駅職員に相談し、事件が発覚しました。
 男は女性のスカートの中を撮影しましたが、女性が「短パン」をはいていたため、法律的には「性的姿態」とならず、未遂にとどまるということです。


法制審議会ではフィギュアスケートの衣装の下着性が議論されています。

法制審議会
刑事法(性犯罪関係)部会
第7回会議 議事録
p40
○木村委員 条文の細かいことではなくて恐縮なのですけれども、以前の部会でも申し上げましたけれども、特に盗撮行為については、広く条例で規定が設けられていることを考えれば、都道府県の区別なく、法律で統一的に規制するという時期に来ているのではないかと思いますので、それは是非入れていただければと思います。
なお、お示しいただいた配布資料19の中の「撮影する行為」という文言について、きちんと理解できているかどうかよく分からないのですけれども、どこまで含まれるのかというのは、議論する余地があるのかなと思います。条例では、例えば、県によっては機器の設置まで含むというような規定もあるようです。特に赤外線カメラ等を準備して機器を設置すれば、十分当罰性はあると思いますので、未遂罪を作るかどうかという議論と関係しますけれども、未遂のような行為も処罰できるような対応は必要なのかなと思います。
○佐藤(拓)幹事 今の木村委員の発言と重なるところもあるかと思うのですけれども、私は、配布資料19の1枚目の検討課題の、先ほどの御発言で二つ目の丸以降のところでの御意見がありましたけれども、まず一つ目の丸のところに関係して発言させていただきたいと思います。
保護法益に関してですけれども、当部会の第5回会議で議論しましたように、撮影罪の保護法益については、自己の性的姿態を他の機会に他人に見られないという意味での性的自己決定権とすることが考えられますところ、保護法益をこのように捉えることを前提に、撮影としてどのような行為を捕捉すべきかを確認しておきたいと思います。
性的な姿態の視覚的情報が記録・固定化されることによって、性的な姿態を他の機会に他人に見られる危険性が創出される一方で、性的な姿態を単に撮影機器のファインダーを通して見るだけの場合や、撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し入れるだけの場合、その視覚的情報は記録・固定化されませんので、先ほど述べたような意味での保護法益の侵害というものは、まだ発生していません。したがって、撮影とは保護法益の侵害が生じ得る映像の記録・固定化を伴う行為を意味し、記録・固定化を伴わない行為は撮影行為そのものには当たらないと考えるのが適当だと思われます。
もっとも、木村委員がおっしゃいましたように、結果としてこのような意味での撮影に至らない行為の中でも、例えば、撮影する目的で撮影機器をスカートの中に差し向けてシャッターを押したけれども、何らかの事情で撮影に失敗したと、記録としては残らなかったという場合などは、法益侵害が発生しなかったのは偶然にすぎず、当罰的であるように思われます。そこで、例えば、撮影罪の未遂罪ですとか、条例のように差し向けるとか機器の設置を独立の構成要件とするとか、そういったことも検討すべきではないかと考えます。
○井田部会長 保護法益について、性的自由・性的自己決定権と解すべきだとした上で、撮影というのは映像の記録・固定化という、正に保護法益の侵害が生じ得る、そういう行為を意味すると解すべきだという御意見でした。また、それとの関係で、もし未遂の可罰性を検討するのであれば、それは別途検討する必要があるということで、単にファインダーでのぞいてみるというだけでは、撮影には当たらないという御意見と理解しました。

p41
橋爪委員
ただ今の御意見に関連しまして、飽くまでも本罪が性的自由又は性的自己決定権に対する犯罪であるという観点から、撮影対象をめぐる問題について、三点意見を申し上げたいと思います。
第一点ですが、配布資料19の1枚目の枠内の「(1)対象」の「②下着」の意義です。ここでは、下着姿が性的姿態と評価できることが前提となっていると思われますので、当然ではありますが、こういう下着というのは、性的部位をカバーする目的で、被害者が現に身に着けていることが必要であると思われます。つまり、洗濯物としてベランダに干してある下着を撮影しても、本罪を構成しないということを確認しておきたいと思います。 また、私自身、そこら辺は非常に疎いのですけれども、下着と申しましても、最近ではどこまでが下着といえるか、その外延が明確ではないような気がします。ここでも飽くまでも性的な姿態の撮影と評価できる実質があることに意味がありますので、下着という概念につきましても、例えば、通常衣服で覆われているものであって、また、性的な部位をカバーするために用いられているものというような形で、何らかの限定を付すことが必要であるような印象を持ちました。

p45
齋藤委員
二点教えていただきたいなと思っているのですけれども、例えば、フィギュアスケートなどで、足を上げているときに下半身のところを強調して撮るような写真をたくさん撮っている人たちというのは、「ひそかに」でもなく、対象が、そもそもフィギュアスケートの衣装は「下着」でもないので、それはこうしたところに当たるのかということが一つと、もう一つ、配布資料19の2枚目の「2」の提供行為に関して、これは、撮影した人が誰かに提供して、その提供された人が更にまた誰かに提供した場合も、処罰の対象となる提供に当たるのかということです。そして、やはり特定・少数が除かれてしまうと、そういう写真や動画を共有する特定・少数のグループ内で共有した場合が除かれてしまうというのは、問題ではないかと思いました。
○井田部会長
大変有益な問題提起だと思います。一つは、フィギュアスケートの選手が、あるいはもうちょっと一般化すると、海水浴場などで、水着姿を撮影するような行為について、どの範囲であればいわば許容限度にとどまり、どの範囲から撮影罪の対象になってくるのかの線引きの問題ですかね。もう一つは、二次提供についてどう考えるかということですが、どうでしょうか。
○橋爪委員 前半について、一言、私の理解を申し上げます。
撮影罪の処罰根拠とは、性的姿態等、すなわち一般に外部からは見られないもの、つまり、下着姿であるとか、あるいは性的部位のように、一般には外部からは見られないように衣服で覆われているものが撮影されることに伴う法益侵害に求められると思われます。そのような意味で、例えば、水着やスポーツのユニフォームなどは、外部から見られないものとはいえませんので、配布資料19の「1(1)対象」の「①」から「③」には該当せず、今回の原案では処罰対象からは除かれていると理解いたしました。
○浅沼幹事 今、橋爪委員から御発言がありましたけれども、たたき台を作成した事務当局としましても、この案としては、そのような水着姿やユニフォーム姿は、処罰すべき撮影対象には含まれていないという案として作成しています。その上で、それが適当かどうかは御議論いただきたいという趣旨でございます。
○齋藤委員 水着などもそうなのですけれども、性的な部位だと思われるところ、衣服に覆われているけれども、そこを特に強調して撮った場合みたいなことを想像したのですけれども、それは、この中には入っていないという理解でよろしかったでしょうか。
○橋爪委員 以前の部会で発言した記憶がございますが、確かにアスリートの性的な部分を強調した撮影行為が横行しており、大きな問題であると認識しております。ただ、仮に性的に 強調した撮影行為を処罰するとしても、例えば、精巧なカメラを使うと、普通の撮影行為でも後から加工などをして一部だけを強調することもできます。そうすると、性的に強調した撮影行為というものを、そもそも構成要件上、処罰対象を明確に規定できるかという問題もありますし、また、性的な部分を強調した撮影行為、あるいは性的な目的の撮影行為を処罰対象にするとしても、それを実効的に処罰することは困難ではないかとも思われまして、深刻な問題ではありますが、今回の撮影罪をめぐる議論では、一応分けて考えた方がいいだろうと考えている次第です

 性的姿態撮影罪の未遂について論じてるのは、永井論文くらいだ

永井善之「性的姿態等撮影罪」新設の意義と課題 -不同意わいせつ罪との関係など
言語: ja
出版者:
公開日: 2023-10-31
キーワード (Ja):
キーワード (En):
作成者: NAGAI Yoshiyuki
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所属:
メタデータ
URL https://doi.org/10.24517/0002000055

三 性的姿態等撮影罪の新設による課題
 以上のような撮影罪の新設に伴い、次のような諸点についての確認や検討が必要となるように思われる。
 1 未 遂
 すでにみたように、撮影罪についてはその未遂も処罰されることから、同罪の実行の着手時期の如何が重要となる。この点まず、盗撮類型については、前述のように現在の大半の条例において撮影の前段階ながら可罰的とされている撮影機器の(差し)向けや設置という行為との対比において考えると53)、同機器を被写体に向ける時点では着手が認められようが、それを設置するのみでも足りるかは具体的な事案によると考えられ、予備に止まる場合もありえよう。
 また、不同意類型及び誤信類型については、これらの類型では、撮影行為が、不同意意思の形成等が困難な状態又は行為の性質等に係る誤信がある状態にさせて行われる場合と、それらのような状態に乗じて行われる場合の2つの類型があるところ54)、特に前者の類型についての実行の着手時期の確認を要しよう。この点については、同じく性的自由を侵害する罪としてその未遂も処罰され、性的行為が人を一定の状態させて行われる場合とそのような状態に乗じてなされる場合とを同様に処罰する、準強制わいせつ罪・準強制性交等罪(刑法等改正法案による改正前の刑法178条)とパラレルに解されえようところ、これらの罪において、性的行為が人を一定の状態にさせて行われる場合には当該状態にさせる行為の開始が実行の着手時期であると解されている55)。撮影罪における不同意類型及び誤信類型においても、撮影が人を所定の状態にさせて行われる場合には、その行為が同意なき撮影を可能にする手段としての違法性を帯びる行為であって同類型の同罪の実行行為の一部であると解されるから、そのような状態にさせる行為を撮影の意思をもって開始した時点が実行の着手時期となると解されえよう。

53)撮影罪(特に盗撮類型)の未遂の可罰化は、前述のように現在は大半の条例において撮影以前の段階の行為も処罰されていることに対応したものであろう(法制審刑事法部会第7回会議・前掲注43)40頁以下[木村光江委員、佐藤(拓)幹事]参照)。
54)このような行為態様の類型化は、刑法等改正法案による改正後の不同意わいせつ罪、不同意性交等罪についても同様である。
55)浅田和茂『刑法各論』(成文堂、 2020年)128頁、井田良『講義刑法学・各論(第2 版)』(有斐閣、2020年)129頁等参照。

嘉門優「性的姿態の撮影等罪の新設」刑事法ジャーナル78号
p52
また、本法では、「人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分(2条1項1号イ)」も対象となる。本条の表現から、「下着」自体が有する性的な性質が問題にされるのではなく、性的部位をカバーする目的で、被害者が現に身に着けている状態の「下着」、すなわち、人の「下着姿」が性的姿態と評価できることが前提となっている。
しかし、同様の規定を有するドイツで批判されているように、「下着」にも多様なものがあり、判断が難しい場合も存在する。たとえば、スカートの下のレギンスやタイツ、ズボンの下の股引やステテコ、カッターシャツやブラウスの下のTシャツなどが問題になりうる。

p55
五対象性的姿態等
本法2条1項1号の「性的姿態等」のうち、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの」を「対象性的姿態等」と称し、一定の限定が設けられている。これは、たとえば、路上など、人が通常衣服を身に着けているような場所において、不特定又は多数人の目に触れることを認識しながら、あえて性的姿態を露出している場合や、不特定多数の人が通る道であることを知りながら、わざと裸で寝ている人を撮影した場合を除外する意図だとされる(40)。このような場合は、被撮影者自ら保護法益を放棄していると考えられるとの理解が示された(41)。
ドイツ刑法184条kにもほぼ同様の趣旨で、撮影対象の身体領域は「視線から保護されている限り」、つまり、被害者が着用している衣服によって視線から遮られていることを要件とする文言が規定されている。ただし、この要件に対し、たとえば、丈の長さが非常に短いミニスカートの裾から見えた下着を撮影したという場合に、被撮影者はふさわしい衣服を身につけるべきだったという主張が行為者側に認められるのかどうかが問題となるとの指摘があり、日本法でも同様の問題が生じると思われる。


青少年条例の「下着」

東京都青少年の健全な育成に関する条例の解説 令和元年8月
「下着」とは、上着の下に着る衣服で、特に、直接肌に着ける衣類をいい、かつ通常公衆の場所でそれのみを見せることのないものをいう。例えば、ショーツ、ブラジャー、パンティストッキングなどであり、靴下は含まない。

被写体児童自身には自身に対する性的搾取の契機を欠くため、児童ポルノ関連犯罪の主体ではない~仲道祐樹「児童ポルノ法の判例と理論的課題:自画撮りの問題をめぐって」警察学論集76巻12号

被写体児童自身には自身に対する性的搾取の契機を欠くため、児童ポルノ関連犯罪の主体ではない~仲道祐樹「児童ポルノ法の判例と理論的課題:自画撮りの問題をめぐって」警察学論集76巻12号

 法文上は児童も主体に含まれるのですが、Instagramなどで、児童が自発的に撮影済み画像を売っている場合でも児童には製造罪・提供罪は成立しないそうです。自撮りによるい供給は止まりそうにありません。

仲道祐樹「児童ポルノ法の判例と理論的課題:自画撮りの問題をめぐって」警察学論集76巻12号
以上をまとめると次の通りである。まず、自画撮り送信による姿態をとらせ製造罪は、描写および製造の点について、間接正犯としての構造を有する。刑法総論における間接正犯の一般理論からでは、背後者の正犯性を肯定することは困難であるが、姿態をとらせ製造罪の構成要件の特徴から、「姿態をとらせ」という要件を充足するような働きかけが存在する場合には、それが、児童ポルノ該当影像を送信しろという指示の性質、自画撮り行為自体の特性および児童の性的判断能力の未熟さとが相まって、被写体児童の行為が存在したとしても、これを背後者の行為と同視できるため、このような解釈から間接正犯としての姿態をとらせ製造罪を認めることが可能である。もっとも、このような解釈による場合、「姿態をとらせ」に該当する事実として、行為者からの働きかけの存在を示すことが必要となる。
次に、被写体児童自身による提供目的製造罪や公然陳列(目的製造)罪、提供罪については、児童ポルノ法の趣旨である、児童の性的搾取・性的虐待からの保護という観点から、被写体児童自身には自身に対する性的搾取の契機を欠くため、児童ポルノ関連犯罪の主体ではないという帰結が導かれる。

この見解が裁判所で通用するかは未知です。
未公開判例として児童を共犯にするものがあります。

広島高裁平成26年5月1日
1 控訴趣意中,事実誤認の主張について
エ 以上の次第であるから,原判示第1及び第3の各犯罪事実を認定した原判決には,被告人に,児童■■■が18歳に満たない児童であることに関する認識があったと認めた点を含め,事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない(なお,被告人の当審公判供述の趣旨等にも鑑み,職権で判断を加えると,原判決が認定,摘示した原判示第3の事実の内容は,前記(1)で摘示したとおりである。要するに,原判決は,児童■■■の原判示の姿態を撮影して,その画像データを被告人の携帯電話機に送信し,その携帯電話機の記録媒体に蔵置させるに至らせるという,児童ポルノ製造の犯罪の主要な実行行為に当たるものを行ったのは児童■■■自身であるという事実を摘示しているが,児童■■■が共同正犯に当たるとは明示しておらず,被告人に関する法令の適用を示すに当たっても,刑法60条を特に摘示していない。他方,原判決は,本件について間接正犯の関係が成立するという事実を示しているものでもなく,本件の関係証拠に照らしても,間接正犯の成立をうかがわせる事実関係があるとは認め難い。しかし,原判決は,罪となるべき事実として,児童■■■が上記の実行行為を自ら行ったという事実は摘示し,これらの行為は,被告人が,自らの意思を実現するため,児童■■■との意思の連絡の下,児童■■■に行わせたものであるという趣旨と解される事実関係を摘示しているものと理解することが可能であるし,かつ,そうした事実関係を前提に犯情評価等を行っていると見ることができることなどに照らすと,原判決が,被告人と■■■との共謀の存在を明示せず,法令の適用に刑法60条を挙示していないことが,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認ないし法令適用の誤りに当たるとは,いまだいい難いと考えられる。)。

わいせつ電磁的記録記録媒体陳列被告事件及び被告人両名に対する性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律(以下「AV出演被害防止・救済法」という。)違反被告事件(東京地裁r5.9.14)

 職業選択の自由を主張されたようです。

東京地方裁判所令和4年刑(わ)第2969号、令和5年特(わ)第204号
令和5年9月14日刑事第16部判決

       判   決

法人の名称 合同会社
代表者の氏名 b
職業 会社役員 b 昭和47年○○月○日生
 被告人bに対するわいせつ電磁的記録記録媒体陳列被告事件及び被告人両名に対する性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律(以下「AV出演被害防止・救済法」という。)違反被告事件について、当裁判所は、検察官倉田詩野並びに被告人両名につき私選弁護人鈴木健太(主任)、同柴田圭太、同萩原裕樹及び同豊田大将各出席の上審理し、次のとおり判決する。


       主   文

被告人bを懲役2年及び罰金150万円に、被告人合同会社aを罰金30万円に処する。被告人bにおいてその罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人bに対し、この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
被告人bから金876万3449円を追徴する。


       理   由

(罪となるべき事実)
第1 被告人b(以下「被告人b」という。)は、インターネット上の動画販売サイトを利用して、不特定多数のインターネット利用者にわいせつな電磁的記録である動画ファイルを公然と陳列しようと考え、別表記載のとおり、平成28年9月30日頃から令和4年9月19日頃までの間、29回にわたり、東京都品川区α×丁目××番×号c×××号室の当時の被告人方において、男女の性交場面等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である動画ファイル29点を、インターネットに接続したパーソナルコンピューターを用いて、「d,Inc.」が管理するサーバーコンピューターにそれぞれ記録、保存させた上、令和4年10月20日までの間、不特定多数のインターネット利用者が、被告人が設定した代金を支払うことにより前記各動画の閲覧が可能な状態を設定し、もってわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した。
第2 被告人合同会社a(以下「被告会社」という。)は、千葉県市川市β×番××号e××××号室に本店を置き、性行為映像制作物等の映像制作等を業とするもの、被告人bは、被告会社の代表社員として被告会社の業務全般を統括するものであるが、被告人bは、被告会社の業務に関し、
1 令和4年9月1日、横浜市γ区δ××××番地「f店」×××号室において、
(1)別紙秘匿目録記載のA(以下「A」という。)との間で性行為映像制作物への出演契約を締結しようとするに際し、あらかじめ、同人に対し、法令で定める事項を記載し又は記録した説明書面等を交付し又は提供しなかった
(2)Aとの間で性行為映像制作物への出演契約を締結した際、速やかに、同人に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し又は提供しなかった
2 令和4年9月19日、川崎市ε区ζ×丁目×番×号「g店」×××号室において、
(1)別紙秘匿目録記載のB(以下「B」という。)との間で性行為映像制作物への出演契約を締結しようとするに際し、あらかじめ、同人に対し、法令で定める事項を記載し又は記録した説明書面等を交付し又は提供しなかった
(2)Bとの間で性行為映像制作物への出演契約を締結した際,速やかに、同人に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し又は提供しなかった
3 令和4年9月23日、東京都品川区α×丁目××番×号c△△△号室において、
(1)別紙秘匿目録記載のC(以下「C」という。)との間で性行為映像制作物への出演契約を締結しようとするに際し、あらかじめ、同人に対し、法令で定める事項を記載し又は記録した説明書面等を交付し又は提供しなかった
(2)Cとの間で性行為映像制作物への出演契約を締結した際、速やかに、同人に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し又は提供しなかった。
(証拠の標目)
(法令の適用)
被告人bについて
罰条
判示第1の行為
包括して刑法175条1項前段
判示第2の1(1)、第2の2(1)及び第2の3(1)の各行為
いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条1号、5条1項
判示第2の1(2)、第2の2(2)及び第2の3(2)の各行為
いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条2号、6条
刑種の選択
判示第1の罪について
懲役刑及び罰金刑を選択
判示第2の1(1)ないし第2の3(2)の各罪について
いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
併合罪の処理
懲役刑について
刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
罰金刑について
刑法45条前段、48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計)
労役場留置
刑法18条(金1万円を1日に換算)
刑の全部執行猶予
懲役刑について
刑法25条1項
追徴
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律16条1項本文、13条1項1号(判示第1の罪に係る犯罪収益のうち、主文掲記の追徴額は没収することができない。)
被告会社について
罰条
判示第2の1(1)、第2の2(1)及び第2の3(1)の各行為
いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条1号、5条1項
判示第2の1(2)、第2の2(2)及び第2の3(2)の各行為
いずれもAV出演被害防止・救済法22条1項2号、21条2号、6条
併合罪の処理
刑法45条前段、48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計)
(法令の適用に関する補足説明)
第1 争点等
 弁護人は、判示第2の各事実(以下「本件各事実」という。)に関し、AV出演被害防止・救済法(以下「本法」という。なお、本法の規定を引用する場合には、「法」と略称する。)5条1項、6条、21条1号、同条2号、22条1項2号の各規定(以下、法5条1項を「本件説明義務規定」、法6条を「本件契約書等交付義務規定」といい、両者及びそれらの違反に対する罰則規定である法21条1号、同条2号及び22条1項2号を併せて「本件各規定」という。)は、憲法22条1項に違反して違憲無効ないし本件各事実に適用する限りで違憲無効であるため、本件各事実について被告人b及び被告会社は無罪である旨主張する。
 当裁判所は、本件各規定は、憲法22条1項に違反するものではなく、本件各事実への適用においても違憲とはいえず、本件各事実について被告人b及び被告会社はいずれも有罪であると判断したので、以下その理由を補足して説明する。
第2 本法の規定等
1 本法は、性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることに鑑み、性行為映像制作物への出演契約に関し、その締結の前後を通じて出演者の性に関する自己決定権を保障し、併せてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護するため、制作公表者が、出演契約を締結し、性行為映像制作物の制作公表を行うにあたって守るべき各種の規律を定めている。
2 すなわち、制作公表者が出演者との間で出演契約を締結しようとするときは、出演契約書等の案を示して出演契約事項を説明し、また、法5条1項各号所定の事由について、説明書面等を交付等して説明しなければならず(法5条1項)、出演契約を締結した場合には、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載等された出演契約書等を交付等しなければならない(法6条)。また、性行為映像制作物の撮影は、出演契約書等の交付等又は説明書面等の交付等のいずれか遅い日から一月を経過した後でなければ、行ってはならず(法7条1項)、性行為映像制作物の公表までの間には、出演者に対し、当該出演者の出演に係る映像であって公表を行うものを確認する機会を与えなければならない(法8条)。さらに、性行為映像制作物の公表は、その撮影が終了した日から四月を経過した後でなければ行ってはならない(法9条)。そして、制作公表者が法5条1項、6条の規定に違反したときは、出演者は出演契約を取り消すことができ(法11条)、法7条1項、8条、9条の規定の違反があった場合には、出演契約を無催告で解除することができる(法12条)上、性行為映像制作物の公表が行われてから一年を経過するまでは、出演者は、出演契約の任意解除等ができるものとされている(法13条1項)。
 その上で、制作公表者が、法5条1項に違反し、説明書面等を交付等しなかった場合には、六月以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされ(法21条1号)、法6条に違反して、出演契約書等を交付等しなかった場合にも、同様に処罰される(法21条2号)。なお、上記各罰則についての両罰規定として法22条1項2号が定められている。
第3 本件各規定の合憲性
1 憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているところ、職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その同項適合性を一律に論じることはできず、その適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合、上記のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ、その合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得る(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。
2 本件説明義務規定は、制作公表者に対し、出演契約の締結に当たって、あらかじめ、出演者に対し、出演契約事項だけでなく、本法による出演契約の規制内容等(法5条1項1号)、撮影された映像により出演者が特定される可能性があること(同項3号)、出演契約に関する相談機関の名称及び連絡先(同項4号)等を記載等した書面等を交付等して説明することを義務付けている。これは、性行為映像制作物への出演が、出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害を生ぜしめるおそれがあることから、出演者が契約の内容や効果を十分に理解した上で契約締結の判断をできるようにし、また、説明書面等を交付等することで、契約締結後も、前記相談機関を含む第三者への相談等も含め、性行為映像制作物への出演について熟慮する機会を与えることで、出演者の性に関する自己決定権を保障する趣旨と解される。
 本件契約書等交付義務規定についても、前記性行為映像制作物への出演に伴うリスクの内容及び性質に鑑み、出演契約締結後に、出演者が契約の内容を確認できるようにするとともに、出演契約書等を見せながら前記相談機関を含む第三者に相談すること等も含め、性行為映像制作物への出演について熟慮する機会を与えることによって、出演者の性に関する自己決定権を保障する趣旨と解される。
 以上によれば、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定の上記各目的が、公共の福祉に合致することは明らかである。
3(1)そこでまず、本件説明義務規定についてみると、その説明の対象となる事項(以下「説明事項」という。)は、出演契約事項のほか、出演契約締結を判断するに際し重要な事項であると認められ、出演契約の性質及び内容等に照らせば、前記目的のために、所定の事項を記載等した書面等を交付等して説明させることに合理性があることは明らかであり、説明事項の内容に照らせば、書面等を準備することも含め、説明それ自体の負担は限定的なものである。また、本件説明義務規定に違反して出演契約が締結された場合には、性行為映像制作物への出演が出演者の意に沿わないものとなりかねず、出演者に重大な被害を与える危険性があること等に照らせば、本法所定の罰則をもってその実効性を担保していることにも相応の必要性、合理性が認められる。
(2)次に、本件契約書等交付義務規定についてみると、前記目的に照らし、所定の事項を記載した契約書等を交付させることに合理性があることは明らかであり、その負担も、本件のような規定がない場合であっても、契約の締結に伴って通常生じ得るものにすぎない。また、契約書等の交付がなかった場合には、契約の内容を十分確認することができず、性行為映像制作物への出演が出演者の意に沿わないものとなるおそれがあり、出演者に前記のとおり重大な被害を生ぜしめるおそれがあること等に照らせば、本法所定の罰則をもってその実効性を担保していることにも相応の必要性、合理性が認められる。
4(1)ア 以上の各点に関し、弁護人は、法7条1項、9条及び13条の各規定に沿って性行為映像制作物の制作公表を行った場合に生じる制作公表者や出演者等に対する影響の大きさや、法7条1項及び9条によれば、本法施行日から5か月間は、性行為映像制作物の公表ができなくなり、その間、実質的に収入を得る機会がなくなること、同施行に伴い、従前、性行為映像制作物の制作公表やそれへの出演によって稼得していた人々の中に収入の減少等により経済的な不利益を被った者がいること等を指摘し、法7条1項、9条及び13条が、許可制と同様に職業の選択の自由そのものに対する強力な制限である旨主張し、職業の自由に対するより緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によってはその目的を十分に達成することができないと認められるか否かを審査すべきであると主張しているものと解される。
イ しかしながら、まず、本件でその憲法適合性が問題となっているのは本件各規定であって、弁護人が指摘する法7条1項、9条及び13条が直接問題となる訳ではない。
 その上で、弁護人の前記主張にも鑑み、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定において、説明事項とされ、また、出演契約の内容を規律するものとされている法7条1項、9条及び13条の各規定の内容も踏まえて検討すると、まず、法7条1項、9条及び13条の各規定により、性行為映像制作物を制作公表するにあたって事前の届出や許可等が課されていたり、制作公表を行う主体が法的に制限されたりしているものではない。さらに、前記各規定の内容を具体的に検討すると、法7条1項及び9条に関していえば、性行為映像制作物の内容やそれによる事業活動それ自体を全面的に規制するものではなく、本件各規定と同様、出演者の性に関する自己決定権を保障するという観点から、性行為映像制作物の制作公表のプロセスに対して一定の規制を課したものにとどまるところ、撮影や公表までに経過が必要とされる期間も、前述した性行為映像制作物の出演に伴うリスクの内容及び性質並びに制作公表に要する期間等に照らして合理的な限度といい得る。また、法7条1項及び9条の各規定によって、本法施行後、最低5か月間は、同施行後に締結した出演契約に基づく性行為映像制作物が公表できないとしても、それは、上記のようなプロセスに対する規制を定めたことに伴うもので、その間職業の自由に対する制限の程度が強くなるというものではなく、また、その間においても、性行為映像制作物の制作公表に向けた新たな出演契約の締結や、法施行前に締結された出演契約に係る性行為映像制作物の制作公表の事業活動が制限されるものではなかったこと(法附則2条)等からすると、前記各規定によって、出演者を含め、収入を得る機会が実質的に奪われていたともいい難い。さらに、法13条に関しても、出演者の性に関する自己決定権を保障し、出演者の心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護するために、前述した性行為映像制作物への出演に係るリスクの内容及び性質等を考慮して定められた一定の期間に限って出演者に任意解除権を認めたものにとどまる。そして、法7条1項、9条及び13条のいずれの規定についても、それに違反して性行為映像制作物の制作公表を行うことが罰則の適用対象になっている訳でもない。
 このように、法7条1項、9条及び13条の各規定による制約の内容を具体的にみても、制作公表者はもとより、出演者その他の性行為映像制作物の制作公表に関係する主体も含め、職業選択の自由そのものに対する強力な制限になっているということはできず、したがって、これら各規定に関連し、説明義務や契約書等の交付義務を課すにすぎない本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定についても、職業選択の自由そのものに対する制限を加えるものとはいえない。
 以上によれば、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定は、職業活動の内容及び態様に対する制限にとどまるもので、その制限の程度も大きいということもできず、弁護人の前記アの主張はいずれも採用できない。
(2)なお、弁護人は、本法による規制が定められたことにより、公布から5か月間は職業選択の自由が失われていたといえ、同施行後5か月以内に起訴された本件各事実に適用する限りで違憲である旨を主張するが、前記4(1)イのとおり、同施行後5か月以内であっても被告人の職業選択の自由が実質的にも失われていたとはいえないから、弁護人の主張は、採用することができない。
5 以上によれば、本件説明義務規定及び本件契約書等交付義務規定を定め、それに違反した者を処罰するとの規制に必要性、合理性があるとした立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできず、本件各規定はいずれも憲法22条1項に違反するものということはできず、本件各事実への適用において違憲となるものではない。
(量刑の理由)
 本件は、被告人bが、インターネット上の動画販売サイトを利用して、わいせつな電磁的記録である動画ファイルを公然と陳列し(わいせつ電磁的記録記録媒体陳列、判示第1)、また、被告会社代表者である被告人bが、被告会社の性行為映像制作物の制作公表の業務に関し、3名の女性に対し、それぞれ、出演契約を締結しようとするに際し、あらかじめ説明書面等を交付・提供せず、また、出演契約を締結した際、速やかに、出演契約書等を交付・提供しなかった(本法違反、判示第2)という各事案である。
 わいせつ電磁的記録記録媒体陳列についてみると、約6年間にわたって、29本の動画を動画販売サイトにアップロードしており、健全な性風俗を害した程度は大きい。販売して利益を得ることを目的に継続的に行った犯行で、現に約1800万円もの販売額をあげるなどしており、職業的な犯行といえる。本法違反についても、面倒であるなどの動機から及んだもので、短絡的で身勝手な犯行といわざるを得ない。このような犯情に照らして、被告人b及び被告会社の刑事責任は軽視できない。
 もっとも、被告人bは、判示の各事実をいずれも認めて反省の態度を示しており、被告人bの妻も、被告人bと同居して監督する旨述べていること、被告人bには前科前歴もないこと等の事情も認められる。
 そこで、被告人b及び被告会社に対しては、それぞれ主文の刑を科した上で、被告人bに対する懲役刑について、その執行を猶予することが相当であると判断した。
(求刑 被告人bに対し、懲役2年及び罰金150万円並びに主文同旨の追徴、被告会社に対し、罰金30万円)
令和5年9月19日
東京地方裁判所刑事第16部
裁判長裁判官 安永健次 裁判官 花田隆光 裁判官 足立洋平

16歳未満の者に裸体画像の送信を求めて送信させてしまった場合の、送信要求罪と不同意わいせつ罪の罪数処理

16歳未満の者に裸体の送信を求めた場合の、送信要求罪と不同意わいせつ罪の罪数処理
 最近の高裁判例では、撮って送るように求めると、撮影させた時点で不同意わいせつ罪(176条3項)になり、わいせつ行為そのものになります。他方、送信させる行為はわいせつ行為ではないとされます。そのうち、送信させる行為もわいせつ行為になる傾向です。
 法務省の解説では、送信要求行為は、不同意わいせつ罪の予備的行為で、不同意わいせつ罪とは観念的競合になったり、牽連犯にうなったり、併合罪になったりするそうです。

(十六歳未満の者に対する面会要求等)
第百八十二条 
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律について」法曹時報76巻01号
イ 本条第3項の罪に当たる行為が行われ、これに基づいて被害者に性的な姿態をとらせてその映像を送信させた行為が不同意わいせつ罪に該当する場合、同項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする不同意わいせつ罪の予備罪としてではなく、性的保護状態を保護法益とするものとして設けるものであり、保護法益が同一とはいえず、二つの法益侵害が存することから、同項の罪と不同意意わいせつ罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合には観念的競合となるが(注17)(注18)、そのように評価されない限り、同項の罪と不同意わいせつ罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪(注19)を実行したのであれば、牽連犯になると考えられる。

p127
(注18) 本条第3項の罪の実行行為は、16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように「要求する行為」であり、その結果として行われる不同意わいせつ罪の実行行為は、16歳未満の者に対して「性的な姿態をとらせてその映像を送信させる行為」であるから、前者の行為と後者の行為は同一ではないものの、「姿態をとらせて送信させる」行為には、それを要求する行為が内在的に含まれる(前提になっている)と考えるとすると、両罪の実行行為は、要求する行為の限度で重なり合う関係にあることになる。
そして、このように行為の一部のみが重なり合うにとどまる場合であっても、例えば、
○行為者が16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように要求し、16歳未満の者が直ちにこれに応じたため、要求する行為とわいせつ行為がほぼ同時的に行われるような事例
○行為者が16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように要求し、16歳未満の者がこれに応じようとするなどして、不同意わいせつ罪の実行に着手したとは認められるものの、結果的に既遂にまでは至らなかった事例では、これらの行為が刑法第54条の「一個の行為」と評価され、観念的競合と評価される余地もあり得ると考えられる。
(注19) なお、例えば、本条第3項の罪に当たる行為が行われ、これに基づいて被害者に性的な姿態をとらせてその映像を送信させた後、同被害者に対し、同映像を脅迫等の手段として用いてわいせつな行為が行われた場合であって、同項の罪とその後のわいせつな行為の間に手段・結果の関係が認められないときには、併合罪となると考えられる。

アルバムコレクションの相談対応・取材について

相談や取材申込みが相次いだので再掲しておきます。
https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2021/08/04/104519
単純所持罪では検挙事例がありますが、端緒はわかりません。
削除して刑事処分を逃れ、警察相談で捜索を勘弁してもらうくらいしかできません。

相談事案はおおまかには
①知らないでダウンロードしたら、児童ポルノ的画像が混じっていた
②違法画像を期待してダウンロードしたら、児童ポルノだった
③アップロードした
に分類されます。




日本語のサイトがあったようですが、管理者の国籍とか、どの国の警察が捜査しているのかという点については、知りません。

管理者の責任については、総務省がまとめています
https://www.soumu.go.jp/main_content/000097100.pdf
ちょっと古い。

最新のは
東京高裁判決日不明 管理者の単独犯構成
になります。

管理者については、winnyの最決を前提にして、違法画像がやりとりされている認識が問題になると思います。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=81846
弁護士に相談して上記の判例を取り寄せてもらって下さい。

少年による児童ポルノ製造行為による観護措置(小倉支部r5.10.16)

少年による児童ポルノ製造行為による観護措置(小倉支部r5.10.16)

裁判年月日 令和 5年10月16日 裁判所名 福岡家裁小倉支部 裁判区分 決定
事件番号 令5(少ロ)2号
文献番号 2023WLJPCA10166002
上記少年に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反保護事件について、令和5年10月6日、福岡家庭裁判所小倉支部裁判官がした観護措置決定に対し、同月14日、付添人から適法な異議の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。 
主文
 本件異議の申立てを棄却する。
理由
 1 本件異議申立ての内容は、観護措置決定に対する異議申立書記載のとおりである。
 2 本件は、少年が、共通の友人を通じて女児(当時12歳)が家出していることを知り、性交渉を期待して宿泊場所として自宅を提供した上、女児が18歳に満たない児童であることを知りながら、①共犯者と共謀の上、女児の胸部を露わにさせるなどの姿態をとらせ、これを少年のスマートフォンで動画撮影して保存し、②女児に陰茎を口淫させるなどの姿態をとらせ、これを少年のスマートフォンで動画撮影して保存し、児童ポルノを製造したというものである。
 一件記録から認められる本件事案の内容・性質、少年の供述状況等によれば、少年が常習性を含む重要な情状事実について、友人に働きかけるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由が認められる。また、少年が家族と同居する自宅において本件各非行に及んでいることや少年の非行歴等に照らせば、逃亡すると疑うに足りる相当な理由も認められる。
 そして、本件非行の内容や経緯に照らすと、少年の非行性は軽視できるものではなく、少年の両親が身元引受や監督を誓約していること等の付添人の主張する事情を踏まえても、今後の適切な調査及び審判のためには、少年を少年鑑別所に収容した上で心身鑑別を行う必要があると認められる。
 3 以上によれば、少年を少年鑑別所に送致した原決定は正当であり、本件異議の申立てには理由がないから、少年法17条の2第4項、33条1項を適用して、主文のとおり決定する。
 福岡家庭裁判所小倉支部
 (裁判長裁判官 竹尾信道 裁判官 松浦絵美 裁判官 町田哲哉)

性的画像要求罪(182条3項)が適用された事例は、結局、撮影送信させているので、要求罪は撮影させた不同意わいせつ罪に吸収されるんじゃないか。

 
 青少年条例の児童ポルノ要求行為の場合と同様、要求行為が発覚するのは、撮影・送信してしまってからになるので、要求されただけで被害申告されることはないので、常に撮影させた不同意わいせつ罪を伴うことになります。

 牽連犯というより、観念的競合か吸収関係だと思います。撮影送信させるのを強要罪とした高裁判例では、全部併合罪とされていました。

 なお、撮影させる行為をわいせつ行為を評価するのは、奥村説です
  強要被告事件
  広島高裁岡山支部H22.12.15*1(岡山地裁H22.8.13)
  東京高裁H27.12.22*2(新潟地裁高田支部H27.8.25)
では独自の見解とされましたが、
  大阪高裁r03.7.14*3(京都地裁R3.2.3*4)
  大阪高裁r04.1.20*5 京都地裁r03.7.28*6
  札幌高裁r5.1.19*7(札幌地裁R04.9.14*8 )
で採用されました。

刑法第百八十二条 
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案
【逐条説明】
注3)遠隔型の処罰規定については、対面型の処罰規定とは異なり、加重処罰規定を設けることとしていないところ、これは、次の理由による。
すなわち、本条第3項の要求行為の対象は、前記4のとおり、現在の実務において強制いせつ罪の成立を認めた裁判例を踏まえて規定しており、要求行為の対象となる行為が実現した場合には、強制わいせつ罪が成立すると考えられる。
その上で、要求行為からその対象となる行為が実現するまで、すなわち、強制わいせつ罪が成立するに至るまでの過程において、一般的・類型的に同罪に至る危険性が高まり、加重処罰の対象とするに足りる新たな当罰性を有する行為があり得るかについては、
〇行為者からの要求を直ちに承諾して、そのまま要求された行為に及ぶ場合も、相当程度あり得ることを踏まえると、要求行為後の行為について、加重処罰の対象とするに足りるものを明確に捕捉することは困難である
と考えられる。
そのため、遠隔型の処罰規定については、加重処罰規定を設けることとはしていない
・・・

本条第3項の罪に当たる行為が行われた後に、強制わいせつ罪に当たる行為が行われ
た場合、
〇本条第3項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする強制わいせつ罪の予備罪としてではなく、16歳未満の者が性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態という性的保護状態を保護法益とする趣旨で設けるものである
ことから、本条第3項の罪と強制わいせつ罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、社会的見解上の行為が一個と評価される場合には、観念的競合となる一方、一個の行為と評価されない場合には、本条第3項の罪と強制わいせつ罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪を実行したのであれば、牽連犯になると考えられる。

四国中央の教諭逮捕 少年に性的暴行容疑
2024.01.27 愛媛新聞
 交流サイト(SNS)で知り合った少年に自身の性的画像を送信させ、わいせつな行為をしたなどとして松山西署は26日、不同意性交等や映像送信要求などの疑いで四国中央市の市立小学校教諭A容疑者(30)を逮捕した。署と市教育委員会は、勤務先の学校名を明らかにしていない。
 容疑は2023年10月24日、県内の少年が16歳未満と知りながら、わいせつな画像を撮影、送信させて自身の携帯電話に保存し、同月29日には県内のホテルで性的暴行を加えた疑い。
・・・
映像送信要求:中学生に映像要求 運動部指導者逮捕 容疑で熊本東署 /熊本
2024.01.24 毎日新聞社
 熊本東署は22日、指導していた熊本市の公立中の運動部に所属する生徒に、スマートフォンを通じ自慰行為を見せるよう要求したとして、映像送信要求などの疑いで、容疑者(28)を逮捕した。
 逮捕容疑は、2023年9月3日午後7~8時ごろ、被害者が16歳未満で5歳以上年齢が離れていることを知りながら、交流サイト(SNS)を通じてわいせつな動画を送信して閲覧させ、それを用いてビデオ通話アプリを使い、自慰行為を見せるよう要求したとしている。
・・・
男子中学生への不同意わいせつ容疑で逮捕
2024.01.16 中日新聞
 【埼玉県】秩父署は15日、不同意わいせつと映像送信要求などの疑いで、容疑者(20)を逮捕したと発表した。署によると、「間違いない」と容疑を認めている。
 逮捕容疑では、昨年9月3日、県内に住む知人の10代の男子中学生に性的な部位の画像を撮影させ、自身に送らせたとされる。署によると、容疑者は昨年の春、秩父郡市の地域行事で中学生と知り合い、連絡先を交換。中学生の携帯に画像を要求するメッセージを送ったという。
・・・
性的映像送信要求 容疑で30歳再逮捕=宮城
2023.12.13 読売新聞
 泉署は12日、容疑者(30)を不同意わいせつと性的映像送信要求、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の容疑で再逮捕した。性的な画像や動画を送るよう求める「性的映像送信要求罪」は7月の刑法改正で新設された。同署によると、同容疑での逮捕は県内初。
 発表によると、容疑者は9月10日午後11時30分頃、県内に住む10歳代の少女に性的な映像を撮影させ、その映像を送るよう要求し、スマートフォンに送信させて保存した疑い。同署は認否を明らかにしていない。

「16歳未満であることを知りながら去年8月ごろ、この少女にわいせつな行為をさせました。そしてその映像をSNSのメッセージ機能を利用して自分の携帯電話に送信させた」という不同意わいせつの被疑事実

 判例では、「送信させる」はわいせつ行為とされません。
 裁判例では、自慰行為させるが伴う場合に送信行為がわいせつと評価されることが多いようです。

阪高裁r03.7.14*1(京都地裁R3.2.3*2)判決速報
 2 なお,前記(3)は,Aに対し,前記ダイレクトメッセージ機能を使用して,その陰部,乳房等を露出した姿態をとって撮影して被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,Aにそのような姿態をとらせてそれを撮影させたという強制わいせつの事実(令和2年8月27日付け起訴状記載の公訴事実第1)と,同要求をし,Aにそのような姿態をとらせてそれを撮影させた上,その画像データ2点を被告人のスマートフォンに送信させて前記サーバコンピュータ内に記憶・蔵置させたという児童ポルノ製造の事実(同公訴事実第2。原審第3回公判期日において令和3年1月18日付け訴因変更請求書のとおり訴因変更許可決定)として別個の訴因で起訴され,検察官は併合罪の関係にあると主張したが,原判決が観念的競合の関係にあると判断したものである。

阪高裁r04.1.20*3 京都地裁r03.7.28*4
 (3) 所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,被害者に撮影させ,記録させ,送信させて,被告人が受信するまでしていれば,わいせつな行為と評価される余地はあるが,撮影させた行為だけではわいせつな行為に当たらないし,被告人の性的意図を考慮すると強制わいせつ未遂罪にとどまると主張する。
 しかし,被告人が被害者を脅迫して,要求どおり裸の写真を撮影させた行為が強制わいせつの既遂に当たることは,上記のとおり明らかである。被害者の意思に反して乳房等を露出する姿態をとらせ,これを撮影させるだけで十分な法益侵害性が認められるから,現実に画像データを送信させる行為は,強制わいせつ罪の成立を認める上で不可欠の要素とはいえない。異なる評価をいう所論は採用できない。

 札幌高裁r5.1.19*5(札幌地裁R04.9.14*6 )
 強制わいせつ罪(176条後段)の事案で、「撮影させた」までが強制わいせつ罪(176条後段)で起訴され、撮影させた点までをわいせつ行為とした。

 これまでの高裁判例は、「撮影させ」がわいせつ行為として起訴され、1審が「撮影させ」をわいせつ行為と認定して、控訴審でもそれが確認されたものである。その際、強要罪判例が参考にされている。

強要被告事件
広島高裁岡山支部H22.12.15*7(岡山地裁H22.8.13)
東京高裁H27.12.22*8(新潟地裁高田支部H27.8.25)
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a775e368046ad7e1b54b66d8d570d06abac63839
県内在住の少女が16歳未満であることを知りながら去年8月ごろ、この少女にわいせつな行為をさせました。そしてその映像をSNSのメッセージ機能を利用して自分の携帯電話に送信させた疑いが持たれています。

「送信させ」をわいせつ行為とした上で準強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としたもの(大津地裁r5.10.26 確定)

 「送信させ」をわいせつ行為とした上で準強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としたもの(大津地裁r5.10.26 確定)

 判示第1は、当初起訴状は、児童ポルノ製造罪のみで、訴因変更で、準強制わいせつ罪が追加されたものです。
 公訴事実の同一性がないという高裁判例が山ほどあるので、控訴して訴因変更の違法を主張すべきでした。
 さらには、「送信させた」はわいせつ行為ではないという高裁判例も幾つかあるので、そう主張すべきでした。

 大津地検で当初起訴状6/5と訴因変更請求書6/26を閲覧して確認しました。
 強制わいせつ罪と製造罪は多くの高裁判例併合罪とされているので、訴因変更許可は違法です。自然確定ですが、控訴していれば、準強制わいせつ罪が落ちますので、宣告刑はかなり下がります。準強制わいせつ罪を追起訴してきたら、観念的競合の判例を当てれば、かなり未決がもらえたでしょう。

第1〔訴因変更後の令和5年6月5日付け起訴状記載の公訴事実関係〕
  A(氏名は別紙記載のとおり。以下「A」という。当時13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年7月22日頃から同年8月12日頃までの間、東京都内又はその周辺において、複数の架空人を装い、Aに対し、SNSアプリケーションを用いて多数のメッセージを送信して、Aの写真が人身売買の情報を掲載するインターネット上のサイトに掲載されており、Aが人身売買を逃れるには、架空人の要求に従う必要がある旨申し向け、Aにその旨誤信及び畏怖させ、その要求を拒絶することができない抗拒不能の状態にあることに乗じてAにわいせつな行為をしようと考え、同日、東京都内又はその周辺において、Aに対し、乳房及び性器を露出した姿態を撮影し、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信するよう要求し、同日、滋賀県内のA方において、Aに乳房及び性器を露出させる姿態をとらせ、これをA使用の撮影機能付き携帯電話機で撮影させた上、同画像データ2点を、アプリケーションソフト「B」を使用して同携帯電話機から被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、同データ2点をそれぞれB株式会社が管理する日本国内設置の電磁的記録媒体であるサーバコンピューター内に記録して保存し、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに、衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、

判例ID】
28313641
【裁判年月日等】
令和5年10月26日/大津地方裁判所刑事部/判決/令和5年(わ)253号/令和5年(わ)287号
【事件名】
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因:準強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反)、準強制性交等被告事件
【裁判結果】
有罪
【裁判官】
谷口真紀 西脇真由子 山口美和
【出典】
D1-Law.com判例体系
【重要度】
1

■28313641
津地方裁判所
令和5年(わ)第253号/令和5年(わ)第287号
令和05年10月26日
被告人 Y
年齢 昭和53年(以下略)生
本籍 (省略)
住居 (住所略)
職業 無職
検察官 花田咲季
弁護人 松尾博美(国選)

主文
被告人を懲役8年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1〔訴因変更後の令和5年6月5日付け起訴状記載の公訴事実関係〕
  A(氏名は別紙記載のとおり。以下「A」という。当時13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、令和4年7月22日頃から同年8月12日頃までの間、東京都内又はその周辺において、複数の架空人を装い、Aに対し、SNSアプリケーションを用いて多数のメッセージを送信して、Aの写真が人身売買の情報を掲載するインターネット上のサイトに掲載されており、Aが人身売買を逃れるには、架空人の要求に従う必要がある旨申し向け、Aにその旨誤信及び畏怖させ、その要求を拒絶することができない抗拒不能の状態にあることに乗じてAにわいせつな行為をしようと考え、同日、東京都内又はその周辺において、Aに対し、乳房及び性器を露出した姿態を撮影し、被告人が使用する携帯電話機に同静止画を送信するよう要求し、同日、滋賀県内のA方において、Aに乳房及び性器を露出させる姿態をとらせ、これをA使用の撮影機能付き携帯電話機で撮影させた上、同画像データ2点を、アプリケーションソフト「B」を使用して同携帯電話機から被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、同データ2点をそれぞれB株式会社が管理する日本国内設置の電磁的記録媒体であるサーバコンピューター内に記録して保存し、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに、衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
第2〔令和5年6月26日付け起訴状記載の公訴事実(第1ないし第3)関係〕
 1 令和4年7月22日頃から同年8月7日頃までの間、東京都内又はその周辺において複数の架空人を装い、A(当時13歳)に対し、SNSアプリケーションを用いて多数のメッセージを送信して、Aの写真が人身売買の情報を掲載するインターネット上のサイトに掲載されており、Aが人身売買を逃れるには、架空人の要求に従う必要がある旨申し向け、Aにその旨誤信及び畏怖させ、その要求を拒絶することができない抗拒不能の状態にさせた上で被告人と性交することを要求し、同日午前7時6分頃から同日午後4時20分頃までの間に、滋賀県C市内又はその周辺に駐車中の自動車内において、Aと口腔性交及び性交をし、
 2 Aが前記抗拒不能の状態にあることに乗じてさらに性交等しようと考え、同年10月9日午前6時54分頃から同日午後7時2分頃までの間に、同県D市内又はその周辺に駐車中の自動車内において、Aと口腔性交及び性交をし、同県E市(以下略)から同県D市内に至る間を走行中の自動車内において、Aと口腔性交をし、さらに、同県内の道路上に駐車中の自動車内において、Aと口腔性交し、
 3 Aが前記抗拒不能の状態にあることに乗じてさらに性交等しようと考え、同年12月4日午前7時6分頃から同日午後4時28分頃までの間に、同県D市内又はその周辺に駐車中の自動車内において、Aと口腔性交及び性交をし、
 もってそれぞれ人の抗拒不能に乗じて性交等をし
たものである。
(証拠の標目)括弧内の符号番号は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を示す。
(法令の適用)
罰条
 判示第1の所為のうち
  準強制わいせつの点 令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法178条1項、176条前段
  児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
 判示第2の1ないし3(第2の2は包括して)の各所為
  いずれも令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法178条2項、177条前段
科刑上一罪の処理
 判示第1の罪 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、重い準強制わいせつ罪の刑で処断)
累犯加重
 判示の各罪 いずれも刑法56条1項、57条(前記の前科があるので再犯の加重(ただし、判示第2の1ないし3の各罪の刑については同法14条2項の制限内))
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第2の3の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定の加重)
未決勾留日数算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
刑事部
 (裁判長裁判官 谷口真紀 裁判官 西脇真由子 裁判官 山口美和)