16歳未満の者に裸体の送信を求めた場合の、送信要求罪と不同意わいせつ罪の罪数処理
最近の高裁判例では、撮って送るように求めると、撮影させた時点で不同意わいせつ罪(176条3項)になり、わいせつ行為そのものになります。他方、送信させる行為はわいせつ行為ではないとされます。そのうち、送信させる行為もわいせつ行為になる傾向です。
法務省の解説では、送信要求行為は、不同意わいせつ罪の予備的行為で、不同意わいせつ罪とは観念的競合になったり、牽連犯にうなったり、併合罪になったりするそうです。
(十六歳未満の者に対する面会要求等)
第百八十二条
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。
「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律について」法曹時報76巻01号
イ 本条第3項の罪に当たる行為が行われ、これに基づいて被害者に性的な姿態をとらせてその映像を送信させた行為が不同意わいせつ罪に該当する場合、同項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする不同意わいせつ罪の予備罪としてではなく、性的保護状態を保護法益とするものとして設けるものであり、保護法益が同一とはいえず、二つの法益侵害が存することから、同項の罪と不同意意わいせつ罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合には観念的競合となるが(注17)(注18)、そのように評価されない限り、同項の罪と不同意わいせつ罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪(注19)を実行したのであれば、牽連犯になると考えられる。p127
(注18) 本条第3項の罪の実行行為は、16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように「要求する行為」であり、その結果として行われる不同意わいせつ罪の実行行為は、16歳未満の者に対して「性的な姿態をとらせてその映像を送信させる行為」であるから、前者の行為と後者の行為は同一ではないものの、「姿態をとらせて送信させる」行為には、それを要求する行為が内在的に含まれる(前提になっている)と考えるとすると、両罪の実行行為は、要求する行為の限度で重なり合う関係にあることになる。
そして、このように行為の一部のみが重なり合うにとどまる場合であっても、例えば、
○行為者が16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように要求し、16歳未満の者が直ちにこれに応じたため、要求する行為とわいせつ行為がほぼ同時的に行われるような事例
○行為者が16歳未満の者に対して性的な姿態をとってその映像を送信するように要求し、16歳未満の者がこれに応じようとするなどして、不同意わいせつ罪の実行に着手したとは認められるものの、結果的に既遂にまでは至らなかった事例では、これらの行為が刑法第54条の「一個の行為」と評価され、観念的競合と評価される余地もあり得ると考えられる。
(注19) なお、例えば、本条第3項の罪に当たる行為が行われ、これに基づいて被害者に性的な姿態をとらせてその映像を送信させた後、同被害者に対し、同映像を脅迫等の手段として用いてわいせつな行為が行われた場合であって、同項の罪とその後のわいせつな行為の間に手段・結果の関係が認められないときには、併合罪となると考えられる。